暗緑色の木々が犇めく林の中で、まるでぱちりとスイッチが入ったように、絵梨佳は目を覚ました。
「……あれ? どうして、私……?」
木々に遮られた空は暗く。弱くなった月明かりが自身を照らしている。
見下ろした自分の服装はピンク色のパジャマ姿。裸足の足が生い茂る草を踏みしだいていた。
(「これじゃまるで、夢遊病みたい……)」
最近知った言葉を口にする。五年生なのに……との呟きと共に。
場所は判る。学校の近くの雑木林。時間はおそらく4時か5時と言ったところか。東の空が少し白染む直前の頃合いはしかし、絵梨佳の様な小学生が出歩いて良い時間ではない。
「帰ろう」
絵梨佳は呟き、踵を返す。――途端、その瞳が驚愕で見開かれた。
女がいた。年齢は20歳ぐらいと思われた。清楚な程シンプルな青い服を纏い、結い上げた髪が場違いに綺麗な人、との感想を抱かせる。
だが、目を見張るのは彼女の周囲を覆う草花だ。
(「白詰草?」)
まるで彼女を覆い隠すように、無数の白い花と緑の三つ葉が咲き乱れている。
「誰?」
その言葉に返答はなかった。代わりに、女性の手にした白詰草の花冠が絵梨佳の頭に乗せられる。
(「……泣いてる?」)
女性の頬を際限なく伝う涙に、何処か痛いのだろうかと絵梨佳が手を伸ばしたその瞬間。
ぱちりと彼女の意識が途切れる。
涙に濡れた女性の顔。それが、斉藤・絵梨佳の見た、最期の光景だった。
「静岡県富士宮市の市街地に攻性植物が現れる予知を見たわ」
ヘリポートに集ったケルベロス達に、リーシャ・レヴィアタン(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0068)が淡々とした口調で告げる。滲み出る感情は、怒りを抑えているかのようでもあった。
「攻性植物はグラビティ・チェインを求め、雑木林から出てくるようなの。みんなにはそれが市街地に入る前に撃退して欲しい」
とは言え、相手はデウスエクス。中でも謎に包まれた攻性植物だ。皆が全力を尽くせば倒せない相手ではないが油断出来る相手ではないだろう。
それに気になる事もある、とリーシャは言葉を続ける。
「市街地に現れる攻性植物は、中に人が囚われている。でも」
次の言葉は絞り出すように紡がれた。――その人を助け出す事は出来ない、と。
「今までの攻性植物とは違うようなの。助ける未来は見えない。だから……攻性植物ごと倒すしかない。だから、――殺して」
それはどれ程ケルベロス達へ負担になるだろうか。それでも、攻性植物を放置しておけば、それ以上の犠牲者を生んでしまう。それだけは避ける必要がある。
「囚われた子は近隣で数日前から行方不明になっている子と特徴が一致している。だから、多分、同一人物だと思う」
小学生の好奇心からか、雑木林に入ったところを運悪く攻性植物に囚われてしまったのだろう。運が悪かった。その一言で片付ける事も出来る案件だ。だが。
「……気になるわ」
調査の必要があるかも知れないとの呟きは、独白に近かった。
「攻性植物の主な攻撃方法は蔓状の触手によるものね。後は花から光線を撃ってきたり、自己回復したりするわ」
見た目は白詰草――クローバーなので、それに見合ったグラビティを使用する様だ。
「目的はグラビティ・チェインの奪取のようだから、逃亡はしないわ。ただ、みんなが倒されちゃうと……」
一般人の犠牲は避けられないだろう。
「もしかしたら他に目的があるかもしれない。未来予知では犠牲者の一部を生きたまま雑木林に連れ去る光景も見えたから……」
とは言え、皆が市街地に入るまでに撃退すればそのような悲劇は起きないのだ。まずはそれに尽力する必要があるだろう。
「もしかしたら裏で糸を引いている『何者か』がいるかもしれない。発見は不可能だけど、警戒活動を続けていれば、足取りを掴む事が出来るかも知れないわ」
そしてリーシャはケルベロス達を送り出す。辛い戦いを打ち消そうと、いつもの言葉で。
「さぁ、いってらっしゃい。……頑張ってね」
参加者 | |
---|---|
珠弥・久繁(病葉の刃・e00614) |
柵・緋雨(デスメタル忍者・e03119) |
神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623) |
アルルカン・ハーレクイン(道化騎士・e07000) |
相摸・一(刺突・e14086) |
御影・有理(書院管理人・e14635) |
近藤・美琴(想い人・e18027) |
月島・彩希(未熟な拳士・e30745) |
●花言葉の名は『幸福』
季節はすっかりと秋に転じてしまった。残暑冷めやらぬ九月は終わりを告げ、気がつけばすっかりと寒さを感じる程の気候となってしまっている。
そんな秋の早朝の頃合い。西富士宮駅に程近い雑木林を前に、柵・緋雨(デスメタル忍者・e03119)は重い溜息を吐く。
彼の背を向けた先では、身延線を走る鈍行が重い音を響かせていた。既に人々の営みが始まる午前六時。ヘリオライダーの予知した時刻である。
彼女の予知したデウスエクスの出現迄に、幾許の余地もない。そんな中、戦闘以外の事に意識を割くのは、自殺行為だと判っている。それでも。
(「『安心してくれ、今助けるからな』は言えないのか」)
それが口惜しい。敵を倒しても倒せなくても辛い未来しか待っていない。その事実に歯噛みしてしまう。
だが。
「それでも、これ以上の犠牲者を出すわけには……」
悲痛な表情と共に絞り出された御影・有理(書院管理人・e14635)の言葉に、同じ想いを抱く神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)と月島・彩希(未熟な拳士・e30745)はやはり同じ表情で頷く。
これから現れるデウスエクス――攻性植物を倒しに彼らはやって来た。それは同時に、攻性植物に寄生された宿主を殺す事を意味していた。
本来ならば大事の前の小事と割り切るべき事。だが、それは。
「願わくば苦しませずに」
それが自分達に出来るせめてもの行いと、アルルカン・ハーレクイン(道化騎士・e07000)の呟きは秋の早朝に溶けて行く、
そして、かさりと音が響いた。
それは、攻性植物の到来を告げる音。続けて目に飛び込んできた白と緑の輝きは、朝日を受けた白詰草が放つものだった。
「――絵梨佳さん」
近藤・美琴(想い人・e18027)がはっと息を飲む。
彼女が口にしたのは攻性植物に寄生された少女の名前だった。ピンク色のパジャマを纏った少女は、自身の身体を無数の白詰草に包みながら、ゆるりと歩を進める。
やがて足を止めたその先で。
「おはよう。お兄ちゃん、お姉ちゃん」
人懐っこそうな、だが、何処か壊れた笑みを、ケルベロス達に向けていた。
●白詰草の視るもの
斉藤・絵梨佳。静岡県富士宮市在中。同市内の小学校に通う十歳の少女。
それが白詰草の攻性植物に囚われた少女のパーソナリティだった。
そして。
「ごめんね、斉藤さん。……いや、斉藤ちゃんかな? 俺は今からキミを殺す」
悲愴とも言うべき表情で、珠弥・久繁(病葉の刃・e00614)は彼女の名前と決意を口にする。それがケルベロスとしての役目だと言う想いと共に口にした言葉はしかし、
「変なの。お兄さんが何を言っているか判らないわ」
花冠を被った少女はクスクスと笑ってそれを否定する。
「そうか。お前はもう、人間ではないのだな」
相摸・一(刺突・e14086)が浮かべた表情は、その結論を出した自分を呪うように、歪められていた。
殺すと言われて平然としているそれは既に少女ではない。寄生した攻性植物がどれ程彼女を侵食しているか判らないが、もはや助ける手段は無いと痛感してしまう。
それは、この場にいる誰もが同じだった。
「貴方がどんな娘だったか、判らないけど」
全ての感情を吐き出すように、ふぅと美琴が息を吐く。続いて奥歯を噛みしめたのは、誰の為か。少しでも気を抜けば、彼女から目を逸らしそうだった。それ程までに、今、自分達を襲う現実は受け止め難かった。
「今の貴方を私は否定する」
紡がれた言葉は淡々と。敢えて感情を込めない言葉は、彼女の心を表すかのようだった。
そして、それが皮切りとなった。
白詰草が束ねられた触手が牙を剥く。それが狙ったのは、奇しくも、妖精弓を身構えた緋雨だった。――まるで、自身との因縁を知るかのように。
「エスポワール!」
美琴の言葉に応じ、ウイングキャットのエスポワールが間に割って入る。触手による殴打を受け止めた彼は穏和な表情に苦痛を覗かせた。
「貴方を助けたかった」
鈴の煌めきを纏った蹴りは泣きそうな表情と共に。
それを遮ろうと鎌首を擡げる無数の白詰草をぶちぶちと切り裂きながら、その蹴りは絵梨佳の細い脚に叩き付けられる。パジャマのズボンと共に、脚に裂傷が走った。
血は吹き出さなかった。代わりに傷口から吹き出たのは白詰草の蔓。無数に伸びたそれは、まるで傷口を縫い止めるように編まれ、塞いで行く。
「――?!」
その光景に、鈴は息を飲む。攻性植物と言う変容は、絵梨佳と言う少女を全て変えてしまっているように思えた。
悲痛な表情で顔を背ける鈴とは対照的に、絵梨佳の顔は笑っていた。
「お姉ちゃん? どうしたの?」
無邪気とも言える問いかけは、横合いから放たれた有理の蹴りによって遮られる。
流星の煌めきを伴う蹴りは、鈴同様、ぶちぶちと白詰草の蔓を千切りながら、絵梨佳の身体を横薙ぎに吹き飛ばした。
「……もう、喋らないで」
張り裂けそうな胸を押さえながら、その想いを口にする。
絵梨佳の声は、表情は、有理の中に存在する古傷を刺激する。まるでじゅくじゅくと膿み出すかのように、彼女の胸に痛みを覚えさせていた。
吹き飛ばされた後、ボクスドラゴンのリムによる息吹の追撃を受けた絵梨佳は首を傾げ、疑問の表情を浮かべる。――どうして? そのようは、そう問いかけるかのようだった。
そこにアルルカンの惨殺ナイフが強襲した。
「形なき声だけが、其の花を露に濡らす」
姿無き歌声と共に放たれる彼の無数の剣舞はまるで、絵梨佳を白詰草の檻から解放せんと、繰り出される。切り裂かれる白い花や緑の三つ葉は宙に舞い、彼の生み出す花弁の幻影と共に、空気の中に消えて行った。
「俺がこれから救わなければいけない数に、君の命を足そう」
久繁の投げ付けたウイルスカプセルは、絵梨佳の身体に接触すると同時に砕け、その小さな身体を侵食して行く。
「ずっと、私の、そばにいて」
異物を排する為か、白詰草が絵梨佳の身体の上で蠢く。その触手を切り裂く美琴の惨殺ナイフからは、慟哭が響いていた。
それは地獄の亡者が奏でる悲鳴。
それは仲間を求める彼らの喚び声。
足を止める絵梨佳の身体を三度、蹴りが襲う。
一による電光石火の蹴りは、その小柄な身体を宙に投げ出していた。
「裏で糸を引いている奴は必ず……潰す」
だから一分一秒でも早く、安らかな眠りを迎えて欲しい。その願いはしかし、向けられた指先から放たれる光線の一撃に遮られる。
頬を削った熱線の跡は、だが、そこに奔る痛みなど感じないかのように乱暴に拭われた。
自身の受けている痛みよりももっと強い痛みを受けている者がいる。そう言わんとするかのような態度に、慌てた表情を浮かべたのは癒し手を引き受けた彩希だった。サーヴァントのアカツキに絵梨佳の牽制を任せ、一に駆け寄った彼女は、彼に治癒のグラビティを施す。
「無茶は駄目だよ!」
気持ちは分かるけど! と思わず零れた、咎めるような言葉に、一は判ったと苦笑を漏らす。
「――白詰草」
一方で氷の螺旋を放ちながら、緋雨は呻く。
心に蘇る情景は、草原。そして悲しげな顔。喪失感。
地面を抉る氷の一撃を軽いステップで躱した絵梨佳は再度、視線を緋雨に向ける。
「――」
紡がれた言葉は誰の耳にも届かず。
ただ、少女はにぃ、と笑顔を浮かべた。
●少女の終焉に
白詰草の鞭が迸る。仲間を庇い、打ち付けられた美琴の唇から、かはりと呼気が零れた。
負った傷はすぐさま、彩希と鈴のサーヴァント、リュガによるヒールで塞がれる。その隙に紡がれる仲間達の攻撃が、絵梨佳を次第に追い詰めて行っていた。
皆で力を合わせれば倒せない敵でもない。
ヘリオライダーの言葉に誤りはなかった。
ただ。
絵梨佳に傷を負わせる度、彼らの心は削れて行く。
これは、そんな戦いだったのだ。
(「……本当は」)
鈴の頬に涙が伝う。絵梨佳の身体に走る痛々しい傷跡は、自分達が着けたもの。それらを目の当たりにして、浮かぶ感情は、後悔と悲哀だった。
本当は、絵梨佳を助けたかった。せめても、彼女を無傷で帰したかった。
だが。それは叶わない。
攻性植物が彼女に寄生した瞬間に前者の希望は潰え、ケルベロスと対峙した時、後者の希望すら潰えたのだ。
「私達にもっと、力があれば……」
ぎりっと彩希が歯噛みする。彼女を傷つける事無く彼女を殺す。無茶な注文は、相応の技量に支えらなければ叶わない夢だ。そして、侵略者であり神とまで呼ばれるデウスエクスは、そこまで都合がいい存在ではなかった。
せめて、と思う。
彼女に施される回復のあり方が、まだ違ったものであれば。
考えても仕方ない事と首を振って思考から追い出そうとするものの、その気持ちは彩希の中で燻ってしまう。
絵梨佳が自身に施す回復は治癒ではなかったのだ。
それは、いわゆる補修。傷口を塞ぐのは、白詰草の蔓群。破れたぬいぐるみを糸で縫いつけるような乱暴な処置は、宿主の損壊を最小限に抑える事しか考えていないようでもあった。
その彼女の目前で、銀色の刃が一閃する。
一のガントレットから伸びた刃は絵梨佳の肘から先を斬り飛ばし、続けざまに有理によって召喚された幻影の炎が、その腕を焼き尽くした。
四肢が失われれば動きが止まる。二人の期待はしかし。
失われた腕をきょとんとした表情で見つめる絵梨佳によって否定された。
「不便、だよね」
傷口から早送りのように生えた蔓草が、まるで緑色の手のように形作る。所々白い花が見えるそれは、五本の指を備えた、まさしく腕だった。
「痛みは感じない、って事か?」
身体中を走る裂傷に気に掛けた風もなく、腕が斬り飛ばされても即座に補う。その様を見せつけられたアルルカンの独白に対して、意外な返答があった。
「ああ。そう。これが痛いって……。痛いってこういう感じなのね」
「――?!」
久繁が息を飲んだのは、その言葉で気付いてしまったからだ。目の前のそれが紡ぐ、少女を模した喋り方は今までも、何処か違和感を覚えるものだった。そして、先の一言が決定的だった。
――植物は痛みを感じない。
ならば、目の前の彼女はもはや。
「お前は、斉藤ちゃんじゃない」
手の中で光が弾ける。その言葉はむしろ、彼にとっての救いではなかった。人としての最期を彼女に迎えさせたい。その思いは今し方、あっさりと否定されたのだ。
「斉藤ちゃん。キミの未来はもう守れないけれど、それでも」
過剰供給され、弾ける電力が絵梨佳の身体に流れて行く。レプリカントの身体から生み出された雷にも匹敵する電力は絵梨佳の身体を駆け抜け、内側から焼き尽くして行く。
許して欲しいと言うつもりはない。だから、自分のエゴのままに謝罪の言葉を口にする。
「ごめん」と。
「ああ。痛いわ。痛いわ、お兄ちゃん。……痛いって、こんな感じ?」
体内で何かが焦げたのだろうか。黒煙を吐いた絵梨佳は感情の籠もらない声を発する。
それは、二人の少女を爆発させるのに充分だった。
「それ以上――」
怒りは竜の身体を纏って顕現する。励起した有理の魔術回路から発せられた幻影は彼女の身体を包み込み、祖先の身体を自身に投影する。
「彼女を汚すな!」
魂からの咆哮であった。振るわれる闇色の爪は無数の白詰草ごと絵梨佳の身体を切り裂き、散らして行く。
「生命に愛を、不死者に裁きを! 絵梨佳ちゃんの体から出ていけっ! デウスエクスっ!!」
鈴から放たれた審判の矢は死という裁きをデウスエクスに下す。衝撃と共に貫かれた胸を見下ろした絵梨佳は、やはりきょとんとした表情を浮かべた後、先程と同じ台詞を口にする。
「痛い」
「だよね」
彩希の肯定は柔らかく響く。
向けた青色の眼差しはあくまで優しく。
(「痛いという意味を理解していなくても。それは、きっと」)
言葉は攻性植物からではなく、きっと、ここにはいない彼女が上げた悲鳴だと思った。
そう、ここに絵梨佳と言う少女はいない。幾度となく確かめたその事実だけが、本心から悲しかった。
「幸福は、ここにはないよ。せめて、向こうに」
紡いだ言葉は、白詰草の花言葉。その文言と共に、右脚が電光石火の如く振り上げられる。
彩希の渾身の力に吹き飛ばされた少女は、自身が歩んできた雑木林を塞ぐ木の幹に叩き付けられ。
そして、はらりとほどけるように、その小さな亡骸は光の粒子へと転じて行くのだった。
●白詰草の思い出
「……斉藤・絵梨佳ちゃんは、ここで、死んだ」
手を合わせる遺体は無く。それ故、身だしなみを整える事も出来ない。
残酷な言葉を紡いだ久繁は、自身の発したそれに唇を噛む。
手がかりになればと、行った断末魔の瞳が映した光景は、彩希による蹴打。寄生され、違う何かに作り替えられた彼女だが、死を迎えたのはあの瞬間だったと、痛感してしまう。同時に、寄生型と言う意味合いもまた。
それ故に誓う。こんな事をした奴を許しておけない。絶対に殺してやる、と。
彼の視線の先にいる仲間達は、誰もが目を伏せていた。鈴や有理、美琴や彩希がせめてもと、捧げる黙祷は、沈痛な面持ちで行われている。
「……手がかりはなし、か」
亡骸同様、光の粒子へと転じて行った花冠を握りしめながら、口惜しげに一が呟く。消えゆく花冠を、それでも強く握りしめる様は、少しでも事件の残滓をその手に残そうとするかのようでもあった。
「何故、彼女が狙われたのだろう?」
残された手がかりは無いに等しい。それでも、次の事件を防ぐ事が彼女の弔いになると、アルルカンは思考を巡らせる。
子供だから襲われたのか。少女だから襲われたのか。それとも。
それはケルベロスとしての勘に過ぎなかった。だからこそ思う。これで終わった筈はない、と。
「……緋雨?」
「……いや、何でもない」
彼の声に応じた緋雨は頭を振ると、再度、同じ言葉を紡ぐ。「ああ。何でもないんだ」と。
戦いの最中に思い出した彼女の顔。
何故かいつも落ち込み、困ったような表情を浮かべた彼女。
白詰草に彩られた思い出は、いつの間にかセピア色に染まった彩りに変えられた、その筈なのに。
(「今になって、何故……」)
そんな事を思い出したのか。
浮かべた疑問に、答えが返ってくる事は無かった。
作者:秋月きり |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年10月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 8
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