ブレザーvs学ランの戦い

作者:鬼騎

「弱っちいなぁ。ま、これでお前らは俺らの傘下ってことで」
 髪をオールッバックにした長ラン姿の男子が、地面に転がったブレザー姿の男子を足蹴にしている。
「ブレザーにネクタイ? 良い子ぶった格好してよぉ。良い様だぜぇ」
 へへへ、と数人の男子が薄ら笑いを浮かべている。
 都会からは少し離れた土地。広い空き地で、学ランとブレザーが指定制服の高校生同士が抗争を繰り広げた後の光景。
 抗争と言っても、学ラン側の高校生がパイプやバットを使った一方的な暴力行為だ。
「おい、追加のカモが来たぜ」
 一台のバイクでやって来た1人の生徒。地面に転がっている高校生と同じブレザーの制服姿にヘルメットを被っているが、そこに降り立ったのはスカートをはいた女子生徒だ。
 学ランの高校生達は得物をもってゆっくりと近づいて行く。たった1人で来た女子。力でねじ伏せ、好き放題できると思ったのだろう。どいつもこいつも口元がだらしなくにやけきっていた。
 しかし現実はそう甘くは無い。女子の周囲に学ランの生徒達が集まって来たタイミングで、植物の蔓が多数伸び、絡み付き、そのまま無慈悲に絞め殺したのだった。


「皆さんにお集り頂き光栄っす!」
 黒瀬・ダンテは笑顔で、勢い良く直角に頭を下げる。その行動から滲み出る下っ端感。黙っていればイケメン、美形の分類なだけに、比例して大きく感じられるようだ。
「今回の事件はかすみがうら市で起こるっす。すでにご存知の方もいるかも知れませんが、ここ最近若者グループ同士の抗争事件がこの地域で多発してるっす」
 ただの抗争なら放っておけばいい。だがケルベロス達が呼ばれたという事はその抗争にデウスエクスが絡んでいるからだろう。グラビティの力がなければどんなに強い人でも奴らには太刀打ちできない。
「今回のデウスエクスは攻性植物っす。高校の生徒会長さんがその果実を体内に取り入れ、このままでは殺人事件に発展してしまうっす」
 ここ最近自校の生徒と、他校の生徒が争う事件が多発していた。普通なら不良同士の抗争として片付けられるような問題だが、超がつくほどまじめだった生徒会長は自身の非力を嘆き、禁断の果実に手を出してしまったそうだ。
「この生徒会長さんはスカートの中から植物の蔓を伸ばして戦うっす。毒をもつ捕食形態。捕縛をさせる蔓触手形態。破壊光線で燃やしてくる光花形態の3パターンっす。どれも1人ずつ真っ向勝負そのものっすが、近距離も遠距離も臨機応変に対応してくる上に、命中・回避を重視する位置取りで戦ってくるっす」
 スカートの中から蔓が伸びてくるが、何故かスカートが破損したりめくれ上がったりはしないんっす。と何故か悔しそうにダンテは語る。
 現地への到着タイミングはブレザーの生徒達がのされた後。生徒会長が到着する前のタイミングに空き地へと入ってもらいたいと説明する。
「長ランを着た不良グループがいるっすが、どう対応しようが問題ないので対応方法は皆さんにお任せっす。あ、ブレザーの制服の生徒だけは空き地の端っこに寄せて、攻撃に巻き込まれないようにしてもらえれば」
 幸い致命傷な生徒はいない。生徒会長は自校の生徒以外は敵と判断し、ケルベロス達にも襲いかかってくる。説得などには一切耳を貸さないだろう。ただし超まじめなためか、不利になろうが逃げたり隠れたりはしないとの事。
「生徒会長さんは攻性植物と完全に融合してるっす。なので撃破すればそのまま死んでしまうっすが、放っておく訳にもいかないっす」
 高校生という若さで終わる人生。禁断の果実にそれだけの価値はあったのだろうか。
「皆さん、説明は以上っす。よろしくするっす」
 ダンテは最後に、再び直角に頭を下げた。


参加者
四之宮・柚木(無知故の幸福・e00389)
楠・竜胆(ローズバンク・e00808)
早鞍・青純(全力少年・e01138)
相馬・竜人(掟守・e01889)
ディーン・ブラフォード(バッドムーン・e04866)
西村・正夫(週刊中年凡夫・e05577)
ミスティアン・マクローリン(レプリカントの鎧装騎兵・e05683)
鳴神・命(気弱な特服娘・e07144)

■リプレイ

●我が上の星は見えぬ
「てめぇら、楽しそうな事してんな」
 白い特攻服に木刀を携えた鳴神・命(気弱な特服娘・e07144)は強烈な気を放ちながら、空き地へと正面きって侵入していく。パニックテレパスによってか、つい先ほどまでブレザーの学生をいたぶって楽しんでいた学ラン達が互いに視線を送りながら右往左往している。パニックでどうしていいものか自己判断ができなくなったのだ。
 その後ろから隠密気流を纏い、堂々と学ラン達に近づいたのはディーン・ブラフォード(バッドムーン・e04866)だ。
「まったく、こちらが命張ってデウスエクスを倒している横でお山の大将ごっことは頭の中が平和な連中だ」
 などと言いながら武器をもっている者を手加減攻撃という名のヤクザキックで膝をつかせる。長ランを着てようがオールバックな髪型だろうが、ケルベロス相手では身体能力やもっているスキルが違い、子供をあしらうようなものかもしれない。
 2人と一緒に相馬・竜人(掟守・e01889)も、学ラン達をまとめ、空き地隅のほうへと押し込んで行く。もちろん手段は選ばず暴れられたら手荒に対応しつつだが。
 学ラン達を隅に追い立てている間に、四之宮・柚木(無知故の幸福・e00389)はブレザーの学生を学ランとは反対側の隅へと誘導、避難を行う。
 早鞍・青純(全力少年・e01138)も怪我の酷い人に肩を貸したかったが、いかんせん齢14の少年。
「ゴメン、もう少し俺が背高かったらっ……!」
 くっ、と悔しそうにしつつ、結局背負う形で移動させた。
 生徒会長を抑える予定だった楠・竜胆(ローズバンク・e00808)や西村・正夫(週刊中年凡夫・e05577)も手があいていたので避難を手伝い、学ラン、ブレザーともに空き地の隅へと移動を完了。ミスティアン・マクローリン(レプリカントの鎧装騎兵・e05683)がキープアウトテープを貼り、生徒会長を迎え撃つためのステージ確保は完了した。
 丁度空き地の準備が整った頃、バイクの音が近づき、生徒会長と思われる女子生徒が空き地へと到着した。その身なりは完璧に優等生。皺のない制服に綺麗に磨かれたバイク、ちゃんとヘルメットも着用し、バイクから降りる所作も優雅だった。
「うちの生徒達になんてことを。許しません……」

●仏頼んで地獄へ落ちる
「本当は戦いたくないんだけど、デウスエクスをのさばらせては、ね……」
 ミスティアンは生徒会長のヘルメット目がけ、破鎧衝を繰り出す。ヘルメット越しのため、あまり大きなダメージではないものの、その攻撃でヘルメットの一部が欠け、顔が露出する。
 長い黒髪で隠しているから分かりにくいが、顔の側面に攻性植物が見える。
 それは外からの寄生なのか、中から破り出て来たものなのか分からない。だがそれは、既に人ならざる者へと変化してしまっているという証だった。
 命は特攻服をたなびかせ、生徒会長へと走り寄りスターゲイザーを繰り出しす。それに続いて同じくスターゲイザーを繰り出しながら、竜人はきつい口調で生徒会長を問いただす。
「教えてやるよ。そうなった以上テメェは人の敵だ。お前が護ろうとした奴らの敵だ。知らなかったとは言わせねえぜ?」
 生徒会長の口元は未だヘルメットで隠れて見えないが、体はわなわなと震えている。
「真面目ってのは美徳だと思うんですがね」
 うら若き娘を救えないのはやるせないが、仕方なし。優しく、真面目な生徒会長だった子に、自分たちが出来る事。それは唯一、止めてあげる事だ。そう心に誓い、手加減は一切しない。正夫は正面から殴りつけ、強烈な一撃をお見舞いした。
「許さない……許さない!」
 震わせていた体、……性格に言えばスカートの中から、攻性植物の触手が勢いよく躍り出た。触手は手近にいたミスティアンへと襲いかかり、それはまるでハエトリグサのような形状で喰らい付き、毒を注ぎ込んだ。その攻撃は素早く、的確だ。
「んん! やっぱスカートの中見えないんだ!」
 お年頃な青純はちょっぴり期待してたりもしたが現実は甘くなかった。学ランよりはブレザーが好き、でも応援団長(女子)が学ラン着るのは浪漫。
 そんな割と関係ない事を思いつつも、青純は自身に分身の術をかける。
「生徒会長殿にも色々と葛藤があったのやも知れぬが、事此処に至ってはもはや問答は不要だな……今ここに武士集いて戦に挑む。照覧あれ!」
 柚木が華麗に舞うと、前線に立つ者達に不思議と力が湧いてくる。
 続いてディーンと竜胆も前線に立つ者達へあらゆる攻撃に耐えられるよう耐性を付与。
 事前の情報からも敵は素早く、面倒そうな攻撃が多いと分かっていたため、まずは守りを固める寸法をケルベロス達はとったのだ。

●四面楚歌
「あぶない!」
 竜人と竜胆は素早く生徒会長と仲間の間へと体を滑り込ませ、攻撃を肩代わりする。竜胆はその勢いのまま、やや命中が劣るものの、見事ライトニングボルトをお返しとばかりに生徒会長へお見舞いした。
 鞭のようにしなり、攻撃を与えようとしていくる触手をミスティアンがマルチプルミサイルではたき落とす。
 ミスティアンは攻撃を与えながらも、生徒会長へと質問する。
「攻性植物の果実をどこで手に入れたんだい?」
「答える訳が無い」
 生徒会長は一言、それを答えとした。元来の真面目な性格だ。力を与えてくれた者が居たとしても、死んでも口は割らないだろう。
「一人で全部解決しねえと気が済まねえんだよぁ、頭のいいお嬢様はよ」
 竜人は仲間を庇った傷を癒そうと、降魔真拳を繰り出す。
 数撃やり取りをして分かったのだ。彼女は確かに素早く、そして的確な攻撃を仕掛けてくる。
 ただし、所詮はたった1人、守りを堅め、連携をとるケルベロス達の敵ではないのだと。それもそうだ。彼女は一般人の不良達を懲らしめたかっただけで、世界を敵にしたかった訳ではなかったはずだ。
 それに真面目で、生徒会長になれるほどの人望があった少女は、本来誰かを傷つけたりする事を平気でできるような人物だったのだろうか?
 なるべく急所を狙ってくる容赦ない攻撃を見るに、彼女の人格や道徳は、既に失われてしまっているのかもしれない。
「悪いが、貴女を止めます。貴女が人外に堕ちる前に。人を殺めてしまう前に」
 四方からケルベロスの攻撃を受け、動きが鈍りつつある生徒会長へと、命は宣言する。同情は感じてる。ただし、人を捨ててしまってはダメだ。人が人であるからこそ、悩みや葛藤に意味があり、それが人生というものだから。
「女の人を攻撃するのって申し訳ないんだけど……でも、このままで良い訳ない!」
 青純はブラックスライムを展開し、生徒会長をブラックスライムで包み込む。
 視界を奪われた生徒会長はもがく。
 なにもケルベロスは正義の味方って訳ではない。デウスエクスを狩る猟犬だ。しかし、他人を守るために人ではない者へと堕ちた少女。複雑な心境だが、だからこそ、ディーンは全力で攻撃を叩き込む。
「花よ散れ、鳥よ堕ちろ。我は風の如く切り裂き、そして遂には月をも穿たん!」
 誰かと重荷を分かち合えたら、独りで背負おうとしなければ。柚木もそう思わずにはいられなかった。
「せめて、覚えていよう。貴女の覚悟を」
 禁縄禁縛呪を放ち、ようやくブラックスライムから抜け出そうとしていた生徒会長を、半透明の御業が鷲掴みにし、一時の動きを制限する。
「真面目過ぎたんですね、もういいんですよ。お休みなさい」
 正夫は上着を脱ぎ捨て、眼鏡をシャツの胸ポケットにしまうと、生徒会長の正面から、まっすぐ、ただまっすぐに拳を突き出した。磨崖撃と名付けたパンチを繰り出し、フィニッシュを決めた。

●死生命あり
「元はといえば、発端の行動はあなたたちだってこと、わかった?」
 ミスティアンはキープアウトテープを剥がしながら、学ラン達に説教を始める。
「お前らは遊びだったのかもしれないがな……」
「さて、ちょっとお前らは俺ともお話、しようじゃないか」
 命やディーンは生徒会長の思いを無駄にしないためにも、不良共にきついお灸をすえるべく学ラン達の目の前に立ちはだかった。
 放っておいてもこの参上を見た後では、同じように不良行為や暴力行為に戻らないかもしれない。しかし、これが初めての悪事ではなかっただろう。過去の清算という意味も含めて、ここはしっかりと思い知らせておこうと思ったのだ。
 柚木は学ラン達に対してやり過ぎないかと仲間の行動を気にしつつ、ブレザーの生徒達の回復を担った。命に別状はないが、心身がともに疲れているのだ。誰かが寄り添う必要がある。
 青純もブレザーの生徒達の手当を担当した。
「すごいなぁ、長ランとかオールバックの不良とかって漫画の中だけだと思ってたけど、やっぱ世間は広いなあ。学ラン王とか目指してるのかなあのおにーさんたち!」
 その会話内容には傷心だった生徒達も和まされた。時には無邪気な話題も大事だろう。
 竜胆達は生徒会長が居た筈の場所を見やる。そこにはヘルメットと、いかにも年頃の女性が持っていそうな小さいポーチだけが残された。
「こんな禁断の果実に手を出さなければ、まだ何か出来ただろうに……」
 救えない命。残された遺品を見て、その場に立ち尽くす。これしか残らなかったのだ。骨や服すら消滅してしまった。人である事を手放した結末。
「遺体は残らなかったのですか……。せめて、これらだけでも親御さんに届けましょう」
 正夫は身なりを整えながら、生徒会長の遺品を回収する。本人も辛かっただろう。苦しかっただろう。だが残された者達はこれから先、辛い日々が待っている。だからこそ、遺品を届け、この理不尽な結末をぶつけられる相手になろうと思った。
「……これだから頭のおよろしいお嬢様は」
 こんなクソ真面目な生徒会長が居たら、自分の立ち位置も違ってたのかもな、などと竜人は過去を振り返った。

作者:鬼騎 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年10月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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