摩耶山のふもとに現れた攻性植物

作者:沙羅衝

 山から流れ出てくる川は、その切れ目を落ち、滝となり、また流れている。
 時刻は真夜中。水蒸気のおかげで、その辺りは周りよりも少し涼しく感じられる。
 ここは古くから滝行が行われている所であり、一本の筋は束ねられた太い糸のように、上から下へと落ちる。
 小さな流れではあるが、水面に打ち付けられ、水が粉となってしぶきへと形を変える。
 その横に一つの塊があった。
 塊は月の光を受け、少しだけ姿を見せた。頭に白と薄紫色の帽子のようなものを被った、人の姿をしていた。
 そこへ、一人の若い女性が暗闇から現れる。
 女性は、山道を通ってきたという事を微塵も感じさせない雰囲気で、ゆっくり、ゆらゆらとその人の姿をした者に近づいていく。
 人の姿をした者は、左手の少し濃い紫の花弁を、その女性に近づけ、ふふ、と笑った。

 数時間後、一つの大きな植物の塊が登山道を下り、街へと入っていくのだった。

「ローカストの動きも、まだバタバタしとるとこなんやけど、ちょっと事件が発生するみたいや」
 宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)が集まったケルベロスを前に、話を始めていた。
「神戸市の摩耶山の登山口のひとつから、攻性植物が現れて、グラビティ・チェインを求めて、そのままふもとの市街地を襲撃しようとしている事がわかったんよ。攻性植物が市街地に入る前に、撃退して欲しいっちゅうのが、依頼や」
 成る程、と頷くケルベロス達。絹に続きを促す。
「でな、この事件を起こす攻性植物なんやけど、実は中に人間が囚われているちゅう情報でな、何者かの配下になってしもてるらしく、説得での救出は不可能みたいや。
 どうやら、この囚われている人は、最近この辺りで行方不明になっている、矢島・美紀さんっていう二十歳の女性らしいわ。まあ、登山してて運悪く捕まってしもたんやろうけど、詳細は不明や」
 その言葉に、少し考えるそぶりをするケルベロス達。
「まあ兎に角、この攻性植物を撃破する事が重要や。
 市街地に入る前、登山口である青谷道っていう細い坂道を下ってくるから、その下にある『摩耶橋』っちゅう、少し開けた橋で迎え撃つのがええやろな。
 攻撃方法は捕まえて自分の毒を打ち込んでくる事がメインみたいやな。遠距離では破壊光線もあるし、傷ついたらヒールもする。気を抜いたらあかんで!」
 絹がええかな、とケルベロス達を見渡すと、心強い返事が帰ってきた。
「今回の矢島さんは残念やけど、もう、救出する事はできへんらしいわ。彼女を攻性植物にしたヤツが、原因かもしれんねんけど、詳しい事はわからん。
 でも、ここからなんかの情報が得られるかもしれへん。頼んだで!」
 絹の言葉を聞き、ケルベロス達はヘリポートに向かって行った。


参加者
祭礼・静葉(サイレン堂店主・e00092)
毒島・漆(治すも壊すも思いのまま・e01815)
アルディマ・アルシャーヴィン(灰鱗より灯る火・e01880)
ヤクト・ヴィント(戦風闇顎・e02449)
エーゼット・セルティエ(勇気の歌を紡ぐもの・e05244)
アトリ・セトリ(緑迅残影のバラージ・e21602)
アーニャ・クロエ(ちいさな輝き・e24974)
リノン・パナケイア(狂気と後悔に苛まれ・e25486)

■リプレイ

●摩耶橋にて
 街灯が一つの細い坂道を照らしている。坂道はしんと静まりかえり、次の通行人を迎えている。
 その街頭の光に毒島・漆(治すも壊すも思いのまま・e01815)が吐き出した青白い煙が反射し、ゆらゆらと揺れる。彼は黙ってその坂道を見上げていた。
 ここは絹の話にあった摩耶橋。大きな橋ではなく、山から流れ出る清流を越えるための物だ。その先に青谷道という細い登山道が続いている。
「……一人、登ってくるな」
 アルディマ・アルシャーヴィン(灰鱗より灯る火・e01880)が、自分達が通ってきた道を振り返り、呟く。
「登山客……だね」
 祭礼・静葉(サイレン堂店主・e00092)も、その方向を確認すると、一人の中年の男性の姿があった。彼女の傍らには、ミミックの『シカクケイ』がガチガチとその蓋を揺らしている。
 その男性は動きやすい姿で、リュックサックを背負い、馬を祭っている神社の前を通ってきていた。しかし、何かを感じたのか、急に踵を返して、また来た道を戻っていく。
「登山を日常としている人もいるようだね」
 ボクスドラゴンの『シンシア』と周りを確認していたエーゼット・セルティエ(勇気の歌を紡ぐもの・e05244)がアトリ・セトリ(緑迅残影のバラージ・e21602)に話しかける。
「うん、この登山道は日常に溶け込んでいる、気軽な所なんだろうね」
「ああ、だが、今は少し遠慮をしてもらおう」
 ウイングキャットの『キヌサヤ』と一緒に歩いていたアトリの言葉に応じたヤクト・ヴィント(戦風闇顎・e02449)が、共に全身から殺気を滲ませる。
 少しの風が吹き、周りの木々が揺れる。
「寒くなって来たのです……」
 アーニャ・クロエ(ちいさな輝き・e24974)が、何を考えるでもなく、ふとそう呟く。他のケルベロスも、確かに一月ほど前からは想像できないくらい、秋が深まりつつあるのを感じていた。だが、アーニャの脳裏はそれとは違う、何かはまだ分からない不確かな寒気を感じ、右腕で左腕をさする。その様子を傍でウイングキャットの『ティナ』が心配そうに見上げていた。
 その風を受けながら、ケルベロス達が青谷道を見上げると、視界に一つの異変を捉えた。
「……来たか」
 リノン・パナケイア(狂気と後悔に苛まれ・e25486)がそう呟き、大鎌を出現させる。
 植物を纏わせた影が、その坂道を下ってくる。その姿は、ゆらゆらとおぼつかないが、一定の速度でケルベロスの元へとやってくる。
 ズル、ズルと自らから垂れ下がる蔦のようなものを引きずり、目の前に現れたそれは、植物に覆われた人の形をしていた。

●嗚咽
「……アア、……アアア」
 その攻性植物は、何かを言おうとしているのか、うめき声を上げながら近づいてくる。全身を覆う蔦からかすかに見える目は、真っ赤に充血し、らんらんとした光を放っていた。
「植物に取り込まれ救出は不可ですか……。なら遠慮は要りませんね。可及的速やかに撃破し解放してあげましょう」
 漆は絹の情報を思い出しながらそう言い、摩耶橋に差し掛かった攻性植物に、ホルスターに収めていたドラゴニックハンマーの『迫撃銃』を素早く抜き、その咆哮のような銃弾を放った。すると、その咆哮が攻性植物の足元を弾き飛ばす。
 いきなりの砲撃に、バランスを失い、よろける攻性植物。
「助けられないのは残念なのです……。リノンさん、お願いします」
 アーニャが弓を引き絞り、リノンに祝福の矢を与える。その横ではティナとキヌサヤが邪気を祓う力の風を、漆、ヤクト、シカクケイ、エーゼット、シンシア、そしてアーニャへと纏わせる。
「助けられない、か。……ま、こういう事もあるよね」
 静葉がシャーマンズカードを指に挟み、振るうと、半透明の御業を出現させ、己を守護させる。
「……助けられないのなら仕方がない。殺すまでだ」
 アーニャの矢の力を得たリノンがウイルスカプセルを投げつける。そのグラビティは、攻性植物の身体の周りを霧のようにまとわり付いていく。
「攻性植物の活性化か……。最近多いな。何か裏で起こっているのだろうか……」
 ヤクトはそう言いながら鞘に納めた日本刀の大太刀『緑淵』を持ち、屈む。
「いや、今はあの女性をせめて苦しまずに送ることだけを考えよう……」
 ヤクトが攻性植物に向かい、物音を立てず滑り込み、刃を抜き放つ。切り口が姿を現したと同時に氷が出現する。
「シンシア、みんなをお願いね」
 エーゼットが自らの攻性植物使い、目の前の攻性植物を絡みつかせる。
「既に手遅れとはね……。心苦しいけれど、まずは市街地を護らないと」
 縛り上げられた攻性植物の足元に向かって踏み込み、アトリが攻性植物の関節部分を刀で切りつけていく。
 そこへアルディマが、アームドフォートから砲撃を打ち放つ。その砲撃はゆらりと動いた攻性植物の頭であろう部分をかすめる。
「ウ……、オノ、レ……」
 ダメージを受けていく攻性植物は、苦しげにうめきながら、身体を震わせその傷を塞ごうとする。
 すると、エーゼットの攻性植物の呪縛が解かれ、アトリの切りつけた関節部分が再生していく。
「回復の力が強い……だが」
 様子を確認していたリノンが、己の放ったウイルスの力はまだ解けていない事が分かった。そしてそのウイルスが、思い通りの回復を邪魔していることも。
「こちらは、その力の上を行かせて貰う」
 リノンが感情を込めない言葉で、しかしはっきりとケルベロス達の意思を表現した。

●復讐の光
 ケルベロス達の攻撃を受けては、回復を行う攻性植物。その回復力は強く、ケルベロス達の攻撃の効果を打ち消していく。
 だが、それを上回る速度で、ケルベロス達の攻撃が効果を発揮していっていた。
「アア……、アノ……オン……ナ」
 聞き取りにくい言葉を発しながら、触手のように動くその先にある毒の種を打ち込もうと蔦を持ち上げ、打ち込む攻性植物。
「ほら、シカクケイ! ちゃんと庇いな!」
 アトリ目掛けて打ち込まれたその蔦を、シカクケイが身を挺して受ける。
「ふふ……そうそう」
 静葉が自らのミミックに語りながら、シャーマンズカードを振るい、癒す。
「おんな……? 女と言いましたか……?」
 その攻性植物の言葉に疑問を持つ漆。迫撃銃の銃身で、殴りつけようとした動きが一瞬止まる。
「何か分からないけど、調べる必要……あるかもだね」
 アトリも様子を見て呟く。カチャリと日本刀の刀身から見える攻性植物の目の部分は、その輝きを失ってはいない。
「元凶を……断つ必要性がありそうだな。だが、まずはこれ以上の被害を出さないためにも、敵はこの場でなんとしてでも倒す」
 アルディマの声に頷くケルベロス達。アルディマがアームドフォートを構え、放つ。意を決したケルベロス達は更に攻撃を加えていく。
 だが、攻性植物の攻撃も、勢いを増してきていた。再び蔦を持ち上げ、渾身の一撃をヤクトへと突き出す。
「させない!」
 エーゼットが身体を投げ出し、その攻撃を受ける。
 ズブリと突き刺さったその蔦が彼の左肩を貫いた。
「……ぐ」
 顔をしかめ、その蔦を抜き去るエーゼット。
「大丈夫か!?」
 ヤクトがそれ以上攻撃を繰り出させないように、攻性植物の幹の部分に肘打ちを食らわせ、更に蹴りつけて吹き飛ばす。
「エーゼットさん!」
 アーニャが駆け寄り、傷を見ると、その傷口が毒により変色し始めているのが分かった。
「すぐに、治します」
 アーニャが光の翼を出現させ、両手に輝くオーラを収束させる。
『支援だよ♪ファイト!』
 その光がエーゼットの肩口に触れ、毒を拭い去る。彼を守護するグラビティの力もあり、致命傷には至っていなかった。
 それを見たリノンが、己から大鎌を持った影を出現させ、集中する。
『……狩る』
 その影が、攻性植物の枝を切り刻んだ。すると、攻性植物の目から紫色の光が浮かび上がり、胸の部分から口のようなものが出現し、大きな声が響き渡った。
「ニクイ……ニクイ……ガアアアア!」

●朝日
 攻性植物は叫び声と共に、その残った枝を振り回すと、その先端部分を束ね、徐々に大きな砲身の形態へと変化させていく。
「そうは、させん!」
 アルディマがその砲身を狙い、攻撃が討ち放たれるより先に、アームドフォートを一斉発射する。
『咲き誇れ…花弁よ、舞い踊れ…淑女のように。艶花七変化』
 そしてエーゼットが髪にあらん限りのランタナの花を咲かせ、攻性植物に降り注ぐ。
 その集中砲火と花びらが、作られた方針をあらぬ方向へと向ける。
 ドゥン!
 紫色の砲撃が天を討つ。
 そしてその空から、高く飛び上がったアトリが攻性植物の後ろに降り立つと、攻性植物へと伸びた影が幹の部分を切り裂いていく。
 アーニャが月光のオーラを纏ったゲシュタルトグレイブ『Crescent』のを振り回し、リノンが再び大鎌を持った影で切り裂いていくと、残った枝が全て切り落とされ、全身が植物である人の形だけが残った。
 漆が自身の身体を、斥力と引力を用いて跳ねさせ、一気に加速させる。
 その跳ねている漆の影から、ヤクトが一振りの剣を具現化させ、攻性植物に歩み寄る。
『"重撃殲攻"……重弾猟域ッ!!』
『我が道をしめしたまへ…』
 漆の身体が攻性植物の左腕を吹き飛ばし、ヤクトの剣が右腕を切り落とす。
「せめて、一思いに……」
 静葉が祈るように、そして静かに言葉をグラビティへと変換していく。
『命達に呼びかけん、御言立ちて呼びかけん、三言にて命太刀、断て!』
 その言葉を攻性植物へと投げつけると、その幹の部分が二つに引き裂かれた。
 攻性植物はその攻撃を受け、先程の叫び声の様相とは打って変わって、音も立てず消えていったのだった。

 カチリ。
 迫撃銃をホルスターに収め、代わりに白衣の内から煙草を取り出し火を点ける漆。青白い煙が辺りを漂うが、直ぐに風に流されていった。
 ケルベロス達は、その場に残された攻性植物に支配されていた女性のなきがらを、弔い、そして少し調査を開始した。
 攻性植物の部分は消えていたが、人間であった部分は残っていた。
「どうか安らかに……」
 エーゼットが祈り、その目を閉じさせていた。
「……酷い表情をしていたな」
 アルディマがポツリと呟く。
「そういえば、『女』とか『憎い』とか言っていたね」
 アトリが戦闘中の攻性植物の言葉を思い出す。
「この山に、何かあるのか……?」
 ヤクトが、青谷道を視線でたどり、摩耶山を見上げる。
「この山のどこかに、竜宮城に繋がっていると言われている滝があるらしいんだけど、何かいるのかもね」
「……滝、か。調べる価値はあるかもしれん」
 静葉が事前に調べた情報を伝え、リノンが言う。
「……どうした? アーニャ」
 浮かない表情をしていたアーニャの様子を疑問に想ったリノンが尋ねる。
「……分からないのです。分からないのですが、ここに着いた時から、少し寒さとは違う……悪寒というのでしょうか」
 アーニャは、少し身震いし、また腕をさする。
「最近の攻性植物の動きも気になる。調査の必要はありそうです。犠牲者は余り増やしたくはないですしね」
 漆が煙草の火を携帯用灰皿でもみ消す。そして、己も山を見上げた。

 摩耶山を朝日が照らしていく。
 生い茂る木々が風に揺られ、がさがさと音を立てる。
 葉が色を変える時期まで、もう間もない。秋が深まり冬となると、調査は難航するだろう。そんな季節の移ろいを想いながら、ケルベロス達は、この事件の先に何かある、そう感じずには居られなかった。
 不安を纏ったその風に、一片の紫色の花弁が舞い上がっていた。

作者:沙羅衝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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