●キラキラ光る
「わぁ~! 綺麗な宝石!」
カヨコは、キラキラと煌めく宝石の山の目の前にいた。そっと拾い上げたのは真っ赤な宝石。不思議な空間で、不思議な光を受けて宝石はキラキラ、キラキラと光る。次の瞬間だった。ばちん! と音を立てて、目の前にあるカヨコの背を越すほどの宝石が弾けながらカヨコに迫ったのだ。
「きゃあぁ!」
破片をまき散らしながら、カヨコを押しつぶそうとする宝石。
「きゃー! やだよう!」
酷く喉が渇いて、目が覚めた。
「はぁ、……は……夢かぁ」
カヨコは水を飲みたくなってもそりと起き上る。その時だった。ぐさり、とカヨコの胸を背後から巨大な鍵が貫く。そのまま力が抜けて、カヨコはベッドの上に再度倒れ込んでしまった。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
佇んでいたのは、第三の魔女・ケリュネイアだ。その傍らには、カヨコの夢に出てきた中でも一番大きな、モザイクを内包した赤い赤い宝石がでんと鎮座している。さあ、行きなさい。ケリュネイアの声に反応するように、赤い宝石ににょきりと足が生えた。
●
「僕、キラキラした宝石ってすごく好きなんだよね~……今回、そんな夢を見た子の『驚き』が奪われちゃったわけなんだけど……」
秦・祈里(ウェアライダーのヘリオライダー・en0082)は、自分の胸に煌めくネックレスを触りながら眉を寄せる。
「驚きを奪ったドリームイーターはもういなくなってるみたいだけれど、この驚きを元に生み出されたドリームイーターが事件を起こそうとしてるんだよ。真っ赤な宝石に、ごつごつした足がついた奇妙な奴だよ。こいつを倒せば、被害者のカヨコちゃんも目を覚ましてくれる」
祈里はネックレスから手を放すと、説明を続けた。
「ドリームイーターは一体。夜の市街地で、カヨコちゃんのおうちのすぐそばに現れるよ。誰かを驚かせたくて仕方ないみたいだから、近くを歩いているだけで向こうから来てくれるだろうね」
祈里はあ、と思い出したように付け足す。
「このドリームイーターは、驚かない相手を優先的に狙うんだ。何か作戦に使えそうかい……?」
ナズナ・ベルグリン(シャドウエルフのガンスリンガー・en0006)が一度だけ頷いた。
「そうですね。こちらに有利に戦闘を運べるかもしれないですね」
頼んだよ、と祈里はケルベロス達の顔を見遣り、頭を下げる。ナズナはスッと立ち上がり、凛とした声で告げた。
「小さな子が見た夢を奪い、悪用するなど許せません。必ず、倒してカヨコさんを目覚めさせましょう」
参加者 | |
---|---|
源・那岐(疾風の舞剣士・e01215) |
姫百合・ロビネッタ(自給自足型トラブルメーカー・e01974) |
シヲン・コナー(清月蓮・e02018) |
奏真・一十(あくがれ百景・e03433) |
ルリカ・ラディウス(破嬢・e11150) |
セルジュ・マルティネス(グラキエス・e11601) |
レティシア・アークライト(月燈・e22396) |
小花衣・雅(星謐・e22451) |
●
住宅地に舞い降りたケルベロス達は街灯を頼りに、敵を探す。
「アステル、相手の注意を引き付けるために、私達は驚かないでいましょうね」
小花衣・雅(星謐・e22451)は傍らのウイングキャットに言って聞かせる。わかった、と告げるかのように、アステルはゆらりと尾を揺らした。
「私は驚いた顔をする予定だけれど、ルーチェ、あなたは今回盾役だから……」
レティシア・アークライト(月燈・e22396)が言いかけたところで、レティシアの相棒であるウイングキャットは皆まで言わずともわかるとばかりに静かに頷いた。
「ええ、大丈夫ですね」
「待っててね、カヨコちゃんっ」
姫百合・ロビネッタ(自給自足型トラブルメーカー・e01974)は、周囲を見回す。自分と年の近い少女が被害にあっていると聞き、自然と気合も入るというものだ。
「小さい子が見てた夢を酷い事するよね」
ルリカ・ラディウス(破嬢・e11150)の声に、ケルベロス達は首肯する。
「宝石って女の子の憧れだったりするのに、これじゃ逆にトラウマにでもなりそう。助けなくちゃだよね」
「ええ、美しいものを美しいものとして見ることが出来なくなるなんて……悲しすぎますから」
ナズナ・ベルグリン(シャドウエルフのガンスリンガー・en0006)は薄明りの中、目を凝らす。セルジュ・マルティネス(グラキエス・e11601)は光るであろう宝石を探しつつ、呟く。
「宝石とかキラキラしたものやかわいいものは少女の憧れだよな」
「あぁ……宝石に足が付いた姿とはなかなか珍妙な……」
頷いてシヲン・コナー(清月蓮・e02018)は周囲の状況を確認する。住宅街の真ん中という事もあり、いつ住民が騒ぎを聞きつけてやってくるかもわからない。早く片付けてしまいたいところだ、とため息をついた。
「しかし人の感覚を奪うとか、気に入らないったらありゃしねぇ」
セルジュは眉を顰める。
「ま、そのまま放っておく俺達じゃねぇが」
「何が現れるのかわかっているのだし、驚くふりと言ってもなあ……」
上手くできるだろうか、などという奏真・一十(あくがれ百景・e03433)の考えは杞憂に過ぎなかったようだ。
●
――ガサッ、ガサガサ!
件の真っ赤な宝石が、木の陰から突然飛び出してきたのだ。
「うっわびっくりしたっ!」
ぼやいている矢先いきなりのお出ましだ。一十は若干飛び退くほどに驚く。
「何だこいつは……!?」
シヲンの一生懸命の驚きの顔。けれどその言葉はセリフがかっていて若干棒読みだ。まあ、ドリームイーターはそれに気づく様子もないので良しとしたい。それよりも彼の傍らのもふもふしたボクスドラゴンだ。驚くなと主人に念を押されていたため、それを守るため顔色こそ変えないが、主人にだけわかるレベルで体がぷるぷるしている。
「お、おい……大丈夫かポラリス?」
「ぷきゅっ!」
肯定を表す声を返すと、ポラリスは己に属性をインストールする。
「わ! 何この宝石……っぽいの」
ルリカは演技で驚くつもりでいたが、実際に標的を前にして素で驚いている自分がいることに気付いた。
(「まあ、こんな大きい宝石あってもいらないかな……うん」)
なんか宝石っていうより別の物に見えるレベルだし、と視線を逸らす。
「こりゃあ驚いた。こんなドリームイーターもいるもんだなぁ」
セルジュは、自分が『驚いている』という事をドリームイーターに伝えるため声に出す。これで、優先的に彼が狙われることはなくなるだろう。
「きゃあ」
迫真の演技とは言い難いが、ナズナも驚いたふり。
「わぁ~! おっきな宝石!」
ロビネッタは敵ながらキラキラと美しく輝くドリームイーターに対抗するかのようにパーフェクトボディで光り輝いて見せる。
「……って、足ぃ!?」
よくよく見ると宝石にはゴツイ四足がついていて、ちょっとげんなり。
(「なんか……足で台無しになるよね……せめて足もスッと綺麗な感じに……」)
嘆いてもしょうがない。ドリームイーターは一歩、また一歩とこちらに寄ってきているのだ。源・那岐(疾風の舞剣士・e01215)は戦場になるであろうこの場所にキープアウトテープを張り巡らせると、ドリームイーターを視界に入れて驚いた顔を作る。そして、すぐにグッと拳を握りしめ、宣言した。
「綺麗な宝石に憧れる女の子の夢を悪用するなんて許しません!! 私もキラキラしたアクセサリー大好きですし」
白鷺を構えると、そのままその銃口からバスターライフルを放つ。命中したエネルギー弾が、ドリームイーターの表面をわずかに砕いた。――硬い。次の瞬間、ルリカのゲシュタルトグレイブが目にもとまらぬ速さで突き出される。稲妻を思わせるその一撃に、またぼろり、とドリームイーターの装甲が剥がれた。一十は後衛の面々に向け、妙薬投与を施す。煙のように、粉薬があたりを舞った。
「大丈夫、じき抜ける」
狙いを定める力を引き上げられ、レティシア、那岐、ナズナは頷き合う。
ドリームイーターは、お前たちは驚かないのか、と守り手たる者達を威嚇するように前進した。ルーチェはオレンジ色の瞳をわずかに細めると、見下すような冷ややかな視線でドリームイーターを一瞥する。悔しげにドリームイーターが振り返った先は雅だ。
「大きな宝石に手足、なんて確かに怪物ね」
どうだ、恐れるが良いと言わんばかりに、彼女へと迫る。が。
「まあ普段から人間とかけ離れた生き物と戦っているんだし、今更驚くことでもないわね」
極めて冷静な声色。驚きを奪うべくやってきたのに、軽くあしらわれたドリームイーターは激昂するかのようにその身を弾けさせる。その破片の前に躍り出たのはポラリス、ルーチェだ。破片を受けながら、雅は自分を含めた守り手全員へサークリットチェインを展開させる。
「さて、やるとするかね」
その力を受け、簒奪者の鎌を振り降ろしたのはセルジュ。
「かわいい少女が奪われたものを取り返しに来たぜ、ドリームイーター、さん」
言葉尻と同時に、鎌の刃がガキン! と音を立ててドリームイーターに亀裂を入れる。背後で、シヲンが後衛に向けブレイブマインを炸裂させた。ロビネッタは構えると狙い澄まして時空凍結弾を撃ち込む。ピキピキ、と霜がドリームイーターを覆うさまを見て、ロビネッタはふふんと胸を反らした。
「まさにレイロウたる宝石ってやつだね! 難しい言葉知ってるでしょ、えへん」
「ええ、確かに美しいです、が」
ナズナは言いながら、クイックドロウを放つ。ルーチェが、清浄の翼で前衛の周りをふわりと飛んだ。あれ? とロビネッタが振り返り、
「……え、レイロウのレイの字って冷じゃないの?」
「冷たいという字ではないですね……」
玲瓏? ん? んん? と首をひねりながら、ロビネッタは一度後ろへ飛び退く。入れ替わるように、駆け付けた村雨・柚月が霧晴夜明を発動した。
(「今回は宝石……鉱物、ってことか。実際のものとはどう違うんだ?」)
見てみても、その内部がモザイクで満たされているという事くらいしかわからない。これが、少女の夢に出てきた悪夢の具現化であるということが如実に伝わってきた。レティシアが前列に黄金の果実の光を浴びせると、その直後。反撃するかのようにドリームイーターの身体が怪しく輝きだした。
「ポラリス!」
催眠への対策を打っておいたポラリスの名をシヲンが叫ぶ。攻撃手を惑わされてはならない。咄嗟に飛び出たルーチェと雅が、その宝石の輝きを浴びて膝をついた。
「サキミ……! 行けるか」
一十に問われ、サキミは水の力を雅へとインストールする。次の攻撃に移ろうとするドリームイーターへと、地獄の炎を得物に纏わせた一十が躍りかかった。
――ガツン! と派手な音を立て、ドリームイーターの一部が砕け散る。次いで、ルリカが武器を振りかざした。
「さあ、もう1度咲く為に。全てを捧げて下さいな」
ビュッ、と風を切る音。衝撃波が、ドリームイーターを襲う。亀裂から飛び出させるように、モザイクを放つドリームイーター。ヒュッとルリカが息をのんだ。瞬間、彼女の目の前に現れたのは、雅の背中。
「雅さんっ……!」
「……っ、私なら大丈夫だから、行くわよ!」
ギッとドリームイーターを見据えて、叫ぶ。彼女が色とりどりの爆発を起こせば、後衛のケルベロス達の士気が更に高まる。雅からドリームイーターを引き離すがごとく、那岐は爆炎の魔力を込めた弾丸をぶちまけた。
「消し飛びなさい……ッ」
●
ぼろり、と宝石のかけらが、地に落ちる。身を削りながら、ドリームイーターは己の破片をまき散らした。催眠を受けながらもその破片を受けに行ったルーチェとポラリスが、力なくその場に倒れる。
「ルーチェ!」
力を失って消えるサーヴァントを気遣う間もなく、ドリームイーターは襲ってくる。こちら目がけて突っ込んでくる赤い宝石目がけ、シヲンは手製の手榴弾を投げつけた。見事に命中し、まばゆい閃光が迸る。続くようにして、ロビネッタが叫んだ。
「よーし、ここにサインを印そう!」
手にしたリボルバー銃で、豪快にドリームイーターを撃ち抜く。弾痕でサインを綴ろうとするが、いかんせん形になっていない。それでも、『当たって』いるし、その連射の威力はなかなかのものだ。
「霧よ、恭しく応えよ。暁を纏いて、彼の者共を癒やし守護せよ」
レティシアが放つ真っ白な霧は、甘く上品な薔薇の香りを纏い傷ついた前衛のケルベロス達を包み込む。ナズナが矢を引きしぼり、ハートクエイクアローを放った。敵の動きが僅かに戸惑いをはらんだものになったその一瞬を狙い、
「さて披露するのは我が戦舞の一つ。躍動の風!!」
那岐が軽やかに舞う。空色の風が舞い起こり、ドリームイーターを撃つ。更に、
「ほら、いっちょ喰らっておけ!」
セルジュの手のひらから生じた葡萄色のエネルギーが、彼の祝詞の力を乗せてドリームイーターに直撃し、炸裂した。
ぱぁん、と砕け散るドリームイーター。キラキラと輝きながらそのかけらは宙を舞い、やがて消えて行った。
●
雅は、天を仰ぎ祈る。そして、戦闘で壊れた箇所をヒールして回ることにした。
「カヨコさん、今度は素敵な夢を見られるといいですね」
レティシアは祈りを込めて、周囲にヒールをかけつつ柔らかく微笑む。
「ええ、そうですね……」
ナズナはそっとカヨコの部屋がある位置を見上げる。
一十は、カヨコの部屋の電気がつくのを確認すると、わざわざ夜分に部屋にあがるのも難だと思いそのまま踵を返した。その胸に、夢見と目覚めの安息を祈りながら――。
「目が覚めたら、ああいう趣味の悪い宝石モドキの事は忘れてるといいな」
ね、とルリカは仲間たちへ微笑みかける。
「そうですね、彼女の中の宝石が、恐ろしいものになっていないと良いのですが」
頷くナズナにルリカは安心させるように笑う。
「というか、忘れてるよね、きっと。……宝石の似合う素敵な女の子に成長するといいね」
その時、那岐が窓から外の様子を窺うカヨコの姿を見つけた。
「あっ」
「……こんばんは」
ふわりとナズナが緊張を解く声色で答える。
「ねえっ、宝石の! 宝石のお化けは!?」
カヨコも覚えているらしい。――ああ、早く忘れると良いのだけれど。
「悪い化け物はやっつけたよ」
那岐が凛とした声で答えた。
「ほんと!?」
大きく、頷く。すると、カヨコはホッとしたように胸を撫で下ろすと小さな手を目いっぱいこちらに向かって振った。
「ありがとう!」
きっと、少ししたらこの夢を忘れることができるだろう。――だって、もうあの化け物はいないのだから。
作者:狐路ユッカ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年10月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
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