●阿修羅クワガタさんの挑戦~鋏の凶器~
千葉県富津市。
東京湾を望む、東京湾に突き出た富津公園の、飛び込み台が集合したかのような姿をした展望塔の上。
「ねーねー、あれなーにー?」
と、子供や母親らが、その展望塔の上に立つもの……ハサミクワガタが巨大化したかの様なローカストを見て騒ぐ。
しかしそのローカストは、子供達、母親らの言葉に耳を貸さず、威風堂々と。
「我は、ハサミノエクズ、ローカストの戦士である。枯渇したグラビティ・チェインを満たす為、この町の人間を襲撃し、グラビティ・チェインを略奪させて貰う仕儀となった!」
その言葉に、殺される、と理解した一般市民達は、悲鳴を上げる。
しかし、彼はそのまま。
「止むを得ない事とは言え、真に申し訳無い。しかし戦う術の無い人間を襲撃するのは、我が本意では無い!!」
えっ、と戸惑う市民達を尻目に。
「故に我は呼びかけている。ケルベロスよ、来い! 来たりて我と戦い、人間を護ってみせるのだ! 我は正々堂々と戦い、強者たるケルベロスを撃退し、その戦いの結果として、グラビティ・チェインを強奪しようではないか!!」
……その言葉に、市民達は戸惑い、そして、ケルベロス達に救いを求めるのであった。
「皆さん、広島での戦い、ご苦労様でした」
と、集まったケルベロス達へ、セリカ・リュミエールはまずは一礼。
そして、微笑みを浮かべながら。
「この戦いで、広島市民の被害はゼロに抑える事が出来ました。イェフーダーを始め、ストリックラー・キラーのローカストも全滅させる事が出来ました。特殊部隊であるストリックラー・キラーが全滅した事により、ローカスト軍の動きはほぼ封じられたと言って間違い無いでしょう。グラビティ・チェインの枯渇状況も末期状態となっているはず……太陽神アポロンとの決着も、間近に迫っていると思われます」
と、そこまでは微笑んでいたセリカだが……一気に引き締まった表情となって。
「しかし……ローカストの苦境を見て、立ち上がった者達がいるのです。それはダモクレスの移動拠点『グランネロス』を襲撃した、阿修羅クワガタさんと気の良い仲間達の集団です」
「彼らは、奪ったグラビティ・チェインを困窮するローカスト達へ全て施した後、更なるグラビティ・チェイン獲得の活動へと入りました。しかし、グランネロスのような、大量のグラビティ・チェインを持つデウスエクスの部隊が簡単に見つかる訳はありません」
「結果として……彼らはやむなく人間のグラビティ・チェインを奪う決断をした様なのです。彼らは、ケルベロスに対して宣戦布告を行い、迎撃に来たケルベロスを正々堂々と撃破した後、強敵との戦闘へ勝利した報酬として、人間達からグラビティ・チェインを略奪しようとしています」
「わざわざ正々堂々と戦う為、ケルベロスに宣戦布告するのは、意味がありません。しかし、この意味の無い行動こそが、ローカストの窮状を救いつつ、自分達の矜持を護る、その苦渋の決断なのかもしれません」
「阿修羅クワガタさんと気の良い仲間達は、その性質から悪、ではないと思います。ですが、彼らが困窮するローカストの為に、人間のグラビティ・チェインを奪おうとするならば、ケルベロスにとっては、許されざる敵となります」
「戦いは避けられないでしょう……彼らの宣戦布告に応え、可能ならば、正々堂々と戦いで撃破してきてあげて下さい」
そして、セリカは。
「今回、皆様が相手にするのは、ハサミクワガタ型のローカストとなります。頭部のハサミ状になった一対の角は、挟めば動きを拘束し、そのままでいれば、強い挟み込みの力で切断も可能です」
「ともかく、このハサミクワガタは力が強く、強力な相手です。又、体力も高い為、しぶとく、頑丈な相手、という事になります」
「又、彼が居るのは千葉県の公園です。広くて、平らで、戦いやすい場所を選んでいる様なので、力の限り戦う事になると思います」
「周りの一般人ですが、殆どは安全な所に避難しています。少数ですが、ケルベロスの皆さんを応援する為に、危険を顧みずに其の場に残っている人達はいる様ですが……皆さんを倒す前に、そちらへ攻撃に行くという事は無いと思います」
そして最後に。
「彼らは、窮地に陥ったローカスト達の剣となり、決して退く事無く、正々堂々と戦ってきます」
「とはいえ、ケルベロスもまた、無力な一般人を護る盾……つまり、負ける事は 許されません。皆さんの勝利、信じています」
と、まっすぐにケルベロス達を見つめるのであった。
参加者 | |
---|---|
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612) |
白銀・風音(お昼寝大好きうさぎ・e01669) |
セシル・ソルシオン(修羅秘めし陽光の剣士・e01673) |
ラリー・グリッター(古霊アルビオンの騎士・e05288) |
緋色・結衣(運命に背きし虚無の牙・e12652) |
エリオット・アガートラム(若枝の騎士・e22850) |
櫻木・乙女(そのツバサは誰が為に・e27488) |
クリスナシュ・リドアレナ(銀閃・e30101) |
●富を恨む
千葉県富津市の戦端にある、とてもその姿形が印象的な展望塔。
飛び込み台が重ね合わされた様な姿形をしたその場所に、威風堂々たる雰囲気で立ち塞がるのは、ハサミクワガタが巨大化したローカスト。
『ケルベロスよ、来い! 来たりて我と戦い、人間を護ってみせるのだ!! 我は正々堂々と戦い、強者たるケルベロスを撃破し、その戦いの結果としてグラビティ・チェインを強奪しようではないか!!』
と、今迄とは違い、真っ正面から、正々堂々たる宣言でのグラビティ・チェインの回収を求めるローカスト。
……そんなローカストの宣言に、まずは緋色・結衣(運命に背きし虚無の牙・e12652)が。
「正々堂々……ね」
とぽつり。
その言葉にエリオット・アガートラム(若枝の騎士・e22850)と櫻木・乙女(そのツバサは誰が為に・e27488)、セシル・ソルシオン(修羅秘めし陽光の剣士・e01673)らも。
「阿修羅クワガタさんとその仲間たちの正々堂々とした態度……僕には彼らが悪人とは思えません。きっと、彼自身が立てた約束を違える事は無いでしょう。とは言え、人々の命が危険に晒されている事も事実……お互いに守るべき者のために、騎士の名にかけて、その挑戦、受けて立ちましょう」
「そうですね。殺るか殺られるか……私は頭がおかしくなりそうですよ。いや、ケルベロスとして生まれた時点で、とっくに狂ってたのかもしれませんが……誰かの為だろうと、自分の為だろうと……か。思い出してしまいますね……」
「ああ! 久しぶりに強そうな奴が出て来たな! 態度も堂々としてるし、何も気にせず思う存分戦えそうだ!」
最後に拳を握りしめるセシルに、白銀・風音(お昼寝大好きうさぎ・e01669)とラリー・グリッター(古霊アルビオンの騎士・e05288)も。
「そうだねー。こうやって行くまで待っててくれるなら、お昼寝途中に起こされても苛つかないでいけそうだからありがたいなー」
「ええ! お互いに全力を出して戦う事が出来るのは、臆することも無くて全力を出し切ることが出来ますしね! まぁ、可能であれば阿修羅クワガタさんの情報を教えて貰えれば幸いですが!」
「……え? 何か情報を聞き出せないか試したい?」
「ええ!」
セシルがきょとんとすると、それにぽりぽりと頬を掻きながら。
「そうかー……それじゃその邪魔にならないように戦わねぇと……その上でどこまで力を出せるか、だな」
「そうですね!」
力強く頷くラリー、そして結衣とクリスナシュ・リドアレナ(銀閃・e30101)が。
「身勝手な独善と斬って捨てる事は簡単だが、彼の姿勢には敬意を表する。ただ譲れないものがあるのはお互い様なんでね……」
「そうでござるな。互いに引けぬ身……やれる事をするだけでござる」
強い決意の言葉を紡ぎ、そしてシィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)が。
「それじゃみんな、準備OKデスかー! それじゃー覚悟を決めて行くデスよー!」
と元気よく、声を上げて、ケルベロス達は展望塔の上へと昇って行くのであった。
●誇るべきは鋏の刃
そして……展望塔の上に昇るケルベロス達。
すくっと、立ち塞がるハサミクワガタローカスト、ハサミノエクズ。
『……来たか、お前達がケルベロスだな?』
と訊ねると、ラリーが一歩前に出て。
「ええ、呼びかけに応じ、参上しました! 『ローカストの戦士、ハサミノエクズ』よ! わたしはイングランドの古霊アルビオンの騎士、ラリー・グリッター!! これより我らケルベロスがお相手します!! いざ、勝負です!!」
と、こちらも正々堂々と宣言すると、クリスナシュ、結衣、エリオットも。
「今回は正々堂々とした相手でござるな。敵ながら芯の通った相手でござるから、こちらもしっかりと相手をさせて貰うでござるよ。互いに死力を尽くすでござるよ……よろしくでござる」
「そうだな。せめて戦士に相応しい最期を迎えさせてやる。今の内に祈れ」
「僕たちは必ず勝ちます」
と対峙の狼煙を上げて、戦闘態勢へ。
そして……そのままローカストは。
『あい分った! それでは互いに全力で戦うとしようではないか!! ついてこい!』
と、そのままバク転し、飛び降り台から降りるようにして、すたっと地上へ。
ケルベロス達も、それに付いて行く様に、地上へ次々と降り立っていく。
……周りで不安気に見つめる一般人達。
彼らに対し、シィカ、エリオット、風音が。
「はーい、危ないデスから身を乗り出しての観戦はご遠慮願うデスよー!」
「そうですね。ここは危険なので、出来るだけ離れて下さい」
「流れ弾が行かないとも限りませんからね。応援はありがたいけど……それで命を落とすだなんてしちゃ駄目だよ?」
と周囲の一般人達に注意、避難勧告を行う。
……8、9割方の一般人は其の場からひなんしていくが、残る1割程度は……俺はケルベロスを応援するぜ、と離れた所からの応援に興じる。
「仕方無いデスねー……でも危ないと思ったらすぐに変えるデスよー!」
『オオオオーー!!』
拳を振り上げ頷く一般人達。
そして……シィカはくるっとハサミノエクズに振り返ると。
「さーて……ハサミノエクズサン。一つ、こちらも勝った時の報酬を要求したいデス!!」
『む……何だ?』
一応、聞く態度は取るローカスト。シィカは更に。
「簡単デス。こちらの質問に答える事デス。無理なものには答え無くても良いデスよ!」
『ほぅ……面白いじゃないか。いいだろう!! 条件はそれだけだな……ならば、始めようではないか!!』
と頷くと、早速ハサミノエクズは動き始める。
その頭部にある、ハサミクワガタの一番の特徴である、ハサミをカシャカシャと鳴らしながら、ケルベロス達に突撃してくる。
その大きなハサミの一撃……ギリギリの所で躱すエリオット。
「っ……中々、速いですね」
と言いながら、エリオットは同列のラリーとタイミングを合わせ、それぞれスターサンクチュアリ、ヒールドローンを飛ばして、盾アップとBS耐性を付与。
更にジャマーのシィカも、メタリックバーストで前衛陣に狙アップを付与して強化すると、それに併せるように風音もメタリックバースト。
そして、一通りの強化が付与し終えた所で、残るメンバーが一斉に攻撃開始。
まず、結衣が。
「狂った歯車はいずれ世界の全てを狂わせる。もう…同じ過ちは繰り返させない。お前を殺す――俺が選んだ未来に、お前は必要ない」
と、『久遠<届かない明日>』を放ち、ハサミノエクズ周囲の時を止める足止め。
そしてその隙を突く形で、セシルが。
「永遠に沈まぬ陽―――白き闇の焔に抱かれるがいい!!」
と力強く、『白夜』の閃撃を叩きつけると、乙女も時空凍結弾、クリスナシュも。
「一刀正伝……絶影!」
と、『一刀正伝 『絶影』』を叩き込む。
そして共に行動が一巡し、次の行動へ。
先に動くは……やはり、ハサミノエクズ。
今度の一撃、しっかりと狙いすまして、ラリーへと接近。
ハサミがその左右から、がっちりと捕縛すると、物凄い力で、ハサミを締め上げ、捻り始める。
「っ……!!」
と、苦悶の表情を浮かべるラリー。すぐにそのハサミに向けて、シィカがチェーンソー斬り、結衣がサイコフォース。
勿論、ラリー自身も、至近距離からの雷刃突を叩きつけて……少し緩んだ所で、どうにか脱出。
すぐに風音がマインドシールドで体力を回復しつつ、エリオットが入れ替わるように立ち塞がる。
ハサミノエクズは。
『ふ、ふふふ……中々じゃあないか。楽しいぜ』
と笑みを浮かべる。
そんなハサミノエクズに、クリスナシュが。
「拙者も楽しいでござるよ。いや、不謹慎ではござるが、こう強敵と正々堂々勝負出来る機会も少ないでござるからな。しかしお主は『敵』ではござるが『悪』ではござらんな……こんな状況でござらねば、足並み合せる事もあったかもしれないでござるな……」
『はは、かもしれないな。だが……こっちも負けられないんだ!』
「承知。こちらも負ける気は毛頭ござらん。行くでござるよ……『絶影』!」
と、鋭く刀を振り放つクリスナシュ、角がその攻撃にかち合う。
更にセシル、乙女が旋刃脚、禁縄禁縛呪と連携し攻撃すると、エリオットも接近し、達人の一撃を叩き込んで行く。
……その後も、幾度となくハサミクワガタの猛攻が襲いかかる。
が、エリオットとラリーが、交代しながらカバーリング。
「僕にだって、譲れない矜持があります。人々の、そして仲間の笑顔と命を守るために、何度でも庇い、癒してみせます!!」
と、強い気合いと共に宣言するエリオット。
……ともあれ、そんなケルベロス達との攻防。
続く事数十ターン……多くのバッドステータスが重なり、ハサミノエクズのハサミの片方が、ボキリと折れると共に、吹き飛ばされて体制を崩してしまう。
『っ……!!』
と唇を噛みしめ、再度立ち上がろうとするハサミノエクズ……だが、片方の刃を失った代償は、身体のバランスを取るのにも苦労する様になってしまう。
……そんなハサミノエクズに。
「さー、ハサミノエクズさん、どうデスか、これがボクたちケルベロスの力デス!!」
と言うと共に、ラリーとシィカが。
「ハサミノエクズさん。仲間の為に立ち上がる気概があるなら、常命化という共存の道もある筈です! わたし達は、手を取り合えないのでしょうか!?」
「そうデス! ボクたちは……手を取り合えると思いますデスか?」
と訊ねるが、ハサミノエクズは。
『それは……出来ぬ!! 我らの矜持が、それは許さぬ!!』
そして再度立ち上がり……片鋏で、どうにか突き上げの突撃で対抗するハサミノエクズ。
その攻撃を、刀で方向を逸らすクリスナシュ……その一撃に、政宗・影打ちが悲鳴を上げて、折れてしまう。
「……強敵でござったからな……持たなかったでござるよ……」
そして、それに連携し、乙女が。
「せめて最期は、貴方の自慢の鋏で、葬って差し上げます」
と言うと共に……ハサミの様な姿をした刃を召喚し。
「あの世で……彼に会ったら伝えて下さい。カイキアスという戦士の名は、この心に確かに刻まれていると。勿論、貴方も……」
と……ハサミノエクズは、それに応えることもなく。
「……カイキアス。彼の事、知っていますか。とても素晴らしい……戦士でした。そして……貴方も、堂々としていて……立派でしたよ」
と告げて……そして『蟹座「インフェルノ・シザース」』の一閃を叩きつける。
その一閃に……ハサミノエクズは、崩れ墜ちて行くのであった。
●鋏は斬れず
そして……ハサミクワガタを倒したケルベロス達。
「……終わった……か……」
と、呟くと、緊張の糸が切れた様に、其の場に崩れ墜ちるセシル。
そして……乙女は、残っていた観客達の方に振り返る。
心配そうな瞳、期待する視線……それらを受けて。
(「我々は何と戦っているのか。この世界は狂っている。でも、だからこそ……私達は、この笑顔を守れたんだ……」)
と、心の中で呟き、そして……拳を振り上げる。
その拳に、大歓声が上がる。
そして……その歓声を受けながら、クリスナシュ、エリオット、ラリーは、骸となったハサミノエクズに。
「いい勝負でござった……」
「出来る事なら、貴方とは違う形で出会いたかった……もし貴方達が、味方の命すら斬りすてるアポロンの悪行に立ち向かう意思を決めたのなら、僕たちは、共に手を取り合う事が出来る……そう、信じたい……」
「ええ……戦士、ハサミノエクズ。貴方の名前は忘れません……!!」
と言葉を紡ぎながら、ハサミノエクズの骸を、丁重に埋葬するケルベロス達。
そして……その魂を、風音は手にして喰らう。
「武人の魂、ドリームイーターやお馬鹿な鳥より、この拳に馴染みそうだ……」
……その言葉と共に、魂は昇華。
そして、歓声を受けながら、ケルベロス達は、帰路へと付くのであった。
作者:幾夜緋琉 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年10月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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