●蜘蛛の挑戦
秋の風を受けながら、人々が行き交う駅前は、ランチタイムと言う事もあり、人でごった返していた。
そんな時、駅の出入り口の屋根に突如、1体のローカストが現れた。
突然の事に、人々は恐怖を感じ口々に叫びを上げるが、その叫びを止めたのは、他ならぬそのローカストだった。
「鎮まりなさい! 私は、今すぐにあなた達に危害を加える気はありません!」
蜘蛛を人型にした様な女性のローカストは、凛々しい声でハッキリとそう言う。
「私は、ローカストの戦士、迦楼羅グモ! 私達ローカストは、レギオンレイドに還る事も出来ず、この地球で死を待つ身。グラビティ・チェインも枯渇しつつあります。その為、この場にいる者達を殺し、グラビティ・チェインを奪う運びとなりました」
迦楼羅グモと名乗ったローカストは、人々に危害を加えないと言ったその口で、この場にいる人々を殺すと言う。
「ですが、戦えもしない者から一方的にグラビティ・チェインを奪うのは私の流儀に反します。ですから、私はここでケルベロスが来るのを待ち、戦い勝利した上で対価としてグラビティ・チェインを頂戴します。ケルベロス、私の言葉が届いたのなら、ここに来て私と正々堂々と勝負なさい。正々堂々とした勝負でならば、勝った者が利益を得るのは当然の事。私は、対価として私の命を差し出します。ケルベロスとの勝負が終わるまでは、一般の者に手を出さないことも約束します。強き者同士の戦いで、この街の未来を決めましょう」
そう言うと、迦楼羅グモは屋根に座り、ゆっくりと瞳を閉じた。
●それぞれの矜持
「みんな、広島防衛、ありがとうな。ストリックラー・キラーも隊長のイェフーダーも含めて全滅させる事が出来た。大勝利と言っていいと思う」
大淀・雄大(太陽の花のヘリオライダー・en0056)は、ケルベロス達に頭を下げると、話を続ける。
「特殊部隊、ストリックラー・キラーが全滅した事で、ローカスト達の動きは、ほぼ封じられたと言っていい。グラビティ・チェインの枯渇状況も末期の筈だから、太陽神アポロンとの決戦も近いと思うんだけど、アポロンとは別に自分達の意思で動いているローカスト達が居る。ダモクレスの移動拠点『グランネロス』を襲撃した、阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達だ」
阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達は、弱者から一方的にグラビティ・チェインを奪う事を良しとせず、強者であるデウスエクス『ダモクレス』を襲撃し、奪ったグラビティ・チェインを困窮するローカスト達に全て施し、更にグラビティ・チェインを得る為に、更にデウスエクスの拠点を襲撃しようと考えていた様だ。
「だけど、デウスエクスの拠点なんて、そんなポンポン見つかるものじゃない。だから、彼等はやむを得ず、人間のグラビティ・チェインを奪う事に決めたんだけど、略奪はまだ始まっていない。彼等は個々で人々のいる街に現れ、ケルベロスに正々堂々とした戦いを挑んで来た。強い者同士、お互い真剣な勝負の上でなら、勝者が利益を得てもいいと考えているみたいで、ケルベロスとのフェアな戦闘を望んでいる」
手段を選ばないアポロンとは、明らかに考え方が違う。
「わざわざ正々堂々と戦う為に、ケルベロスに宣戦布告をすると言うのは彼等の立場から言えば、意味の無いことだ。ローカストにもう余裕は無い訳だし、アポロンの略奪の方が自然と言えるだろう。だけど、この意味の無い行動こそ、ローカストの窮状を救いつつ、自分達の矜持を守ると言う事なんだろうな。阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達は、奪い奪われる関係で無ければ、ローカストの為に正しい意味で尽力していると言ってもいい。だけど、彼等が今、狙っているのは人々のグラビティ・チェインだ。それは、何としても防がなくちゃいけない。みんなには、ケルベロスとして、敵である彼等を撃破して欲しい。戦いは避けられない……だけど彼等が正々堂々とした戦いを挑んで来るなら、みんなにも正々堂々と戦って欲しいと思う。そして、勝って来てくれ」
地球の人々を守るのがケルベロスの役目である様に、彼等は彼等の仲間の為に戦おうとしている。
戦う事でしか、決着を付けられないのなら、正々堂々と戦い、勝つしかない。
対立関係にある以上仕方がないことだ……。
「みんなには、蜘蛛型女性ローカスト『迦楼羅グモ』の撃破に向かってもらいたい」
迦楼羅グモは、ある市街地の駅に現れたが、一切人々を襲う事無く、ケルベロスが来るのを静かに待っているらしい。
「迦楼羅グモの攻撃方法は、四肢とは別に生えた脚での一斉斬撃、蜘蛛の糸での捕縛攻撃、蜘蛛の糸を長大な鞭の様に操り敵を薙ぎ払う広範囲攻撃の3つになる。あくまで正々堂々と仲間に恥じることのない戦いをしようとしてくる。みんなが、それに必ずしも応えなきゃいけない訳じゃないけど、自分達が後悔しない様な戦闘手段を選んでくれ」
戦闘方法に正解は無い。
戦闘を勝利に導く為の奇襲や挟撃も、立派な戦術だ。
だが、今回の相手に対してそれをやってしまえば、彼等の望む正々堂々とした戦いにはならないだろう。
「阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達は、ローカストの為に戦っている。地球の人々の為に戦っているケルベロス、みんなと立場は変わらないのかもしれない……。心情的に戦い辛い相手だと俺も思う。だけど、勝たなきゃ、人々の命は守れない。だから、正々堂々と力をぶつけて、人々の命を守ってくれ。信じてるからな、みんな!」
強い信頼を言葉に乗せると、雄大は、ケルベロス達に背を向けヘリオンへと駆けて行った。
参加者 | |
---|---|
アイリ・ラピスティア(宵桜の刀剣士・e00717) |
西水・祥空(クロームロータス・e01423) |
エスカ・ヴァーチェス(黒鎖の銃弾・e01490) |
北十字・銀河(オリオンと正義を貫く星と共に・e04702) |
リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540) |
ハンナ・カレン(トランスポーター・e16754) |
一羽・歌彼方(黄金の吶喊士・e24556) |
ゼラニウム・シュミット(決意の華・e24975) |
●正々堂々
「……来ましたね、ケルベロス。まず、私の呼びかけに答えて下さった事に感謝します」
遠巻きに人々が見守る中、迦楼羅グモは静かに目を開き、そう言った。
「挑まれたとあれば、致し方ありません。我等ケルベロス、存分にお相手いたしましょう」
迦楼羅グモの言葉を受け、西水・祥空(クロームロータス・e01423)が、静かに決意を込めて答える。
「では、場所を変えましょう。此処では一般の者に被害が及びます。決着を付けず、人々に危害を加えるのは私の意に反しますから」
「お願いがあるの。戦場周辺に一般人が立ち入らない様に『キープアウトテープ』戦う力の無い者が、侵入出来無くなるテープを貼らせて欲しいんだよ」
アイリ・ラピスティア(宵桜の刀剣士・e00717)がそう言えば、一羽・歌彼方(黄金の吶喊士・e24556)が、キープアウトテープを迦楼羅グモに見せる様に差し出す。
「構いません。その方が私も全力を出せると言うものです」
アイリの申し出を、迦楼羅グモは、あっさりと承諾する。
(「誇りある戦士って感じで、いいですね。命を懸けて相対する相手として、上ッ等です!」)
迦楼羅グモの答えに好感を持ったのか、歌彼方は血が騒ぎ思わず笑みが零れる。
迦楼羅グモは、駅の屋根から飛び降りると、決闘の場として相応しい何の小細工も出来ない広場へと、ケルベロス達を案内する。
突然のローカストの襲来に脅えていた人々も、一目ケルベロス達の戦いを見ようと一部の人間が着いて来る。
戦場に着くと、迦楼羅グモは無言でケルベロス達の準備を見守る。
「何が起こるか分かりません。怪我等には十分気を付けて下さい」
キープアウトテープを貼りながら、エスカ・ヴァーチェス(黒鎖の銃弾・e01490)が周囲の人々に注意喚起をする。
「そうです。このテープから中に入っちゃだめですよ? 流れ弾が来るかもしれませんが……それでも残るというのでしたら、気を付けてくださいね」
ゼラニウム・シュミット(決意の華・e24975)も穏やかに、だがしっかりと言葉にする。
北十字・銀河(オリオンと正義を貫く星と共に・e04702)、リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540)も人々に厳重に注意する様に言って回る。
仲間達のそんな姿を見ながら、ハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)は、煙草の煙を吐き出す。
(「小細工抜きの殴り合いか……ワクワクするねぇ。あんたらの生き方、嫌いじゃあないぜ。背中に背負ったその覚悟、受け止めてやるよ」)
静かに精神を高める様に集中している、迦楼羅グモにそう心の中で呟く、ハンナ。
「皆さん、ご自身の身の安全を第一に行動して頂きますように……」
「それともう一つ。私達と……彼女の戦いを、確りと見届けてね」
祥空の言葉に被せる様に、アイリはその言葉を付け加える。
「さて。じゃ、勝ってきます!」
キープアウトテープを貼り終えると、歌彼方は人々に向かって不敵な笑みを浮かべてそう言う。
観客となった人々は、その言葉に歓声を上げる。
「よろしいですか? ケルベロス」
「……ええ。迦楼羅グモ……迦楼羅って呼ばせて貰って良いかな……?」
「お好きに」
リーナの問いに迦楼羅グモは、静かに答える。
「……不思議だね……。貴方には正々堂々と真っ向から撃ち破りたいと、そう感じるよ……」
リーナには、迦楼羅グモがかつて打ち倒した、誇りある青銀竜の様に感じられていた。
「わたしはリーナ・スノーライト……。貴方の呼び掛け確かに届いたよ……迦楼羅」
霊刀『鳴月』に手をかけ、リーナが言う。
「迦楼羅、俺もその心意気……気に入った」
二本の星剣を握り、銀河が言葉にする。
「オリオンを守護星座に持つ星剣使い、北十字銀河。貴殿の正義の理由しかと聞いた、我らは我らの正義の為。正々堂々とお相手しよう!」
鞘から剣を抜き放ちながら、銀河が雄々しく叫ぶ。
(「……これだけ潔い阿修羅クワガタの一派には定命化してもらいたかったが……彼等がそれを選ばなかったというなら……その全てを受け取り全力で戦おう」)
「戦闘の陣を敷きなさい。私は万全の状態のあなた方を打ち倒します」
(「何処までも、イェフーダー達と違いますね。……その真っ直ぐさ、気にいりましたよ」)
奇襲、暗殺、虐殺、どんな卑怯な策であろうと躊躇しなかった、ストリックラー・キラー達とは、全く違うとゼラニウムは感じていた。
「ゼラニウム・シュミットと申します。長い様でしたら、ゼラで構いませんよ。ケルベロスが一人として、そして呪い蜘蛛『土蜘蛛』の使役者として、迦楼羅グモ……いえ、迦楼羅。貴女を討たせて頂きます」
蜘蛛の形を成したブラックスライムを纏い、ゼラニウムが名乗る。
「地獄の番犬が一人、エスカ・ヴァーチェス。貴方の誇りと信念に敬意を表し、全力でお相手するです」
「私はアイリ。私の技の全てで、あなたを……殺すよ」
(「私も、みんなを守る為に……」)
「ケルベロス、西水 祥空。参ります」
「一羽 歌彼方――いきます、全身全霊で!」
エスカ、アイリ、祥空、歌彼方が次々と名乗って行き、迦楼羅グモの視線がハンナで止まる。
「貴女はよろしくて?」
「別に名乗る必要もないだろう? あんたの名前はアタシが覚えておいてやるさ」
フッと笑い、レザーグローブに拳を通すハンナ。
「分かりました、私もあなた方の名前を魂に刻みましょう。私は正々堂々と同胞の為に戦います。では……ローカストが戦士、迦楼羅グモ参ります!」
言葉と同時に放たれる迦楼羅グモの白糸の鞭、それを遮る様に銀河は星の聖域を作り出す。
迦楼羅グモとケルベロス、それぞれの矜持と誇りを賭けた戦いが始まった。
●負けられぬ戦い
リーナの俊敏さを活かした、流れる様な蹴りが迦楼羅に決まった瞬間、迦楼羅はリーナに囁く様に言う。
「貴女が人々に気付かれない一瞬だけ放った殺気、確かに感じました。私は命を賭けて戦いに臨んでいます。殺すつもりで来て頂いて結構です」
その言葉を聞くと、リーナは瞬時に迦楼羅との距離を取る。
「……あたしは素手でも強いよ」
重く鋭い、鍛え抜かれた拳を迦楼羅に決めながら、ハンナは赤い瞳を細める。
「万物に宿る聖霊よ、戦う者にその力を貸し与えたまへ」
エスカの声が戦場に響くと、万物に宿る聖霊がケルベロス達の攻撃的グラビティの底上げをする。
「私も行きます! ボリューム全開! お腹の底の底から声出して! 歌います。響き渡れ、熱狂の歌――!」
歌彼方の咆哮の様な熱狂の歌は、ケルベロス達の血を滾らせ、闘志を高めていく。
「祥空さん、アイリさん、私が隙を作ります。続いて下さい!」
言葉と共に放たれる、ゼラニウムの時をも凍らせる弾丸は、迦楼羅の足を氷結させる。
「私には戦の作法や戦士の矜持というものは分かりかねます。ですが、負けられないのだけは事実です」
祥空はグラビティ・チェインを高めると、それを檻の形状にしていく。
「これより私の権限において、あなたを投獄します」
祥空の手から離れた過剰なグラビティ・チェインで構成された檻は、迦楼羅を封じると、一気に迦楼羅の内部にグラビティを送り込む。
「困窮してる筈なのに矜持を捨てないあなた達は、敵ながら見事だと思う。だから、私達もそれに報いないといけない。だから手加減はしないよ」
斬霊刀『宵桜』に凍てつく『霊気』を纏わせ、アイリは月の弧を描くと、迦楼羅に袈裟切りで斬撃を与える。
「……流石ですわね、ケルベロス!」
連続攻撃を受けてもなお、迦楼羅は表情を変えず、幾本もの脚でアイリを斬り裂こうとする。
アイリも宵桜で数本の脚を受け止めるが、全てはさばけず、主に左半身に大きな傷を作る。
「貴女がローカストの為に戦うのなら、私達は地球を守るケルベロスとして、それに恥じない戦いをしないと、ね」
傷を負いながらも、アイリは力任せに迦楼羅を撥ねのける。
「支えます、下がらないで! 行ってください! 前へ!」
光輪を盾の形に変え、歌彼方がアイリの傷を癒す。
「ローカストの戦士、舐めてかかるつもりはないぜ」
達人の如き素早さで、迦楼羅との距離を詰めると、銀河は強烈な一撃を与える。
「リーナ、迦楼羅の足を止めるよ」
ゲシュタルトグレイブに雷を降らせ、ハンナは一気に迦楼羅の足を貫く。
「……了解、よ」
リーナは影に紛れて、傷口を広げる。
「『ワイルドハントリーダー・ヘカテー』一斉発射」
祥空のアームドフォートが、強烈な弾丸を放てば、ゼラニウムは御業で炎を構成する。
「熾炎業炎砲! 行きます!」
放たれた炎弾は、勢いを付けて迦楼羅を炎で包む。
「紙兵よ、皆さんに護りの力を」
エスカが放った紙兵は、ケルベロス達の護りとなる。
「……素晴らしいコンビネーションですわ。ですが……」
迦楼羅は呟くとワイヤーのようにしなる蜘蛛の糸を放ち、ゼラニウムに向かって放つ。
だが、一歩早く動いた銀河がゼラニウムを庇う形で蜘蛛の糸に縛りあげられる。
「ぐあぁぁぁ!」
「私もけして負けられませんの」
銀河を十分に縛り上げると、迦楼羅は蜘蛛の糸を断ち切る。
「……っつ! まだまだ! 俺達はそっちが思うよりタフなんだぜ?」
膝を付きながらも闘志を灯した瞳で銀河が言えば、迦楼羅は何故か嬉しそうに笑った。
●分かりあえたのなら……
「地獄の炎よ燃え上がりなさい!」
祥空の地獄が緑色の炎を吹き上げれば、祥空の肩口の傷が徐々に炎で覆われていく。
「鞭が来ます! 皆さん、避けて!」
歌彼方が叫ぶが、アイリ、エスカ、ハンナ、銀河が纏めて白糸の鞭で薙ぎ払われる。
「今回復を! ブチ抜け――!」
生きる事の罪を肯定する、歌彼方のメッセージは、仲間達の傷を癒して行くが、流れる鮮血を完全に塞ぐ事は出来ない。
「……わたしが……動きを止める、よ」
空をも断ずるリーナの刃は、迦楼羅の傷を広げるがすぐに迦楼羅は、半歩下がってグラビティを高めていく。
戦闘開始から10分以上、戦いは一進一退の攻防が続いていた。ケルベロス達の攻撃は確かに、迦楼羅にダメージを与えていたが、迦楼羅も確実に大きなダメージをケルベロス達に与えていた。
そのダメージは、回復手の歌彼方のヒールだけでは凌ぎきれず、ダメージを受けた者がそれぞれ、自らの回復をしなければならない状態になっていた。
回復に手を回せば、当然攻撃の方が手薄になってしまう。
「……まだだよ」
銀河とエスカ二人に庇われながらも、アイリの傷は深く膝を付いている状態だった。
アイリは大きなダメージソースになっていたが、回復手段が無く、それを見破った迦楼羅から狙われる事も多くなっていた。
それでも、アイリは刀を手放す事無く果敢に斬撃を放っている。
同じクラッシャーでもハンナの方がダメージが少ないのは、地獄の炎で迦楼羅のグラビティを喰らっているからだ。
「あたしの拳、いつまで耐えられる」
ハンナの重い一撃は確実に迦楼羅にダメージを与えているが、それでも迦楼羅は、反撃の手を止めない。
「流石ローカスト屈指の戦士……いい戦いが出来て気持ちがいいぜと言いたい所だが、このままじゃジリ貧だぜ……」
言うと銀河は、二本の剣を鞘にしまう。
「原初の星、原初の力、正しき光となりて我が拳に宿り……弾けよ!!」
銀河は拳に眩しく輝く光が集束させると、迦楼羅の身体をぶち抜く程の威力で拳を打ちつけ、グラビティを爆発させる。
「剣だけの攻撃しかできないと思ったか? 甘いな」
拳を引き抜きながら銀河が言う。
「核を破壊できれば……」
破壊と治癒の仕組みは同一。唯一にして決定的な差は、働くベクトルの向きが真逆な事……その為のコアとなる部位を破壊できればと、ゼラニウムは迦楼羅の身体を魔力で探知していく。
「見つけました! これがあなたの『核』……『核破壊』!!」
ゼラニウムの魔力が迦楼羅のコアを直接襲えば、流石の迦楼羅も膝を付く。
(「アポロンのやり方は嫌いです、ですが、ローカストの言には大いに共感してしまう点が在ったのもまた、事実です……」)
光の剣で迦楼羅を斬りつけながら、エスカは迷い……いや、一つの可能性を信じていた。
「……宵桜。もう一太刀いくよ」
アイリは力を振り絞り、鋭い太刀筋で迦楼羅を切り裂く。
「リーナさん、攻撃力を上乗せします!」
歌彼方の歌声は、リーナの身体に力を与えていく。
「私は負けませんよ……」
「いけません」
瀕死ながらも攻撃を繰り出そうとする迦楼羅に、祥空が機動力を活かして素早く、グラビティの檻を放つ。
(「迦楼羅さんの様に、弱きを虐げるを良しとしない方と言葉を重ねてみたいというのも、私の正直な気持ちですが……」)
葛藤と戦いながら、祥空はグラビティの檻で迦楼羅を押さえつける。
「自身の命を差し出すとまで言った相手……。貴方の命に、わたしもわたしの命で応える……! わたしの全てを以て撃ち滅ぼす……!」
リーナの手に周辺の魔力、そしてグラビティ・チェインが集束していき、その力は黒く輝く刃となる。
「集え力……。わたしの全てを以て討ち滅ぼす……! 討ち滅ぼせ……黒滅の刃!!」
振り下ろされる全てを断ずる刃が迦楼羅を飲み込み、世界が黒と白で支配される。
「やったか……!?」
世界に色が戻り、銀河が目にしたのは、死に瀕しながらも大地に足を付け立ちつくす、迦楼羅だった。
静かに……ハンナは、迦楼羅に近づくと、煙草を加えた唇で呟く。
「……あんた、なかなかイイ女だったぜ」
ハンナの拳が迦楼羅に埋まると、遂に迦楼羅は地に伏した。
少しの静寂……そして周囲から湧き起る歓声。
その声を聞きながら、ハンナは冷笑を浮かべると、1人その場を去って行った。
●いつか……
「私達の、勝ちです!」
未だ歓声止まぬ人々に歌彼方は高らかに宣言する。
「アポロンに従わないローカスト、定命化を受け入れ……地球で暮らす事を考えている方達が居るなら教えてもらいたかったです」
物言わぬ躯となった迦楼羅を前にエスカが呟く。
「私との戦いは最期を飾るに足るものでしたか?」
答えの帰って来ない質問を祥空は呟く。
「矜持を胸に最期まで戦ったあなたの事、忘れないよ」
最後まで矜持に生きた、迦楼羅にアイリは静かに声をかける。
「貴方と戦えた事……決して……忘れないよ……」
今度、生まれるならば地球の一員として生まれ変われる様にと……リーナは祈りを込めて言う。
「貴殿の命と心意気、確かに受け取った……次に会う時は共に戦う仲間として会おう……」
銀河の願いもまた、迦楼羅との仲間としての再会だった。
「迦楼羅……貴女の決意、しかと受け取りました。出来るなら……別な形で貴女と会いたかった……」
ゼラニウムが握った迦楼羅の腕は、やがてサラサラと音を発てて崩れ、大地に還って行くように風にさらわれて行った……。
作者:陸野蛍 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年10月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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