●サムライ・アント
古都、奈良。
神社仏閣ずらりと映える街並みを一目見ようと、方々から訪れた異邦人達が市中を闊歩する様子は、ここでは日常の光景に過ぎない。
訪れる者は人種の別無く皆平等に観光客で、放し飼いにされている鹿達にとっても、せんべいを恵んでくれるのならば皆平等にお大尽だ。
……ただし。訪問者がデウスエクスならば、その限りでは無いだろう。
「突然のご無礼をお許しいただきたい。拙者の名はギキ。鬼鋼刃のギキと申す者」
公園の一角に突如として現れたギキと名乗る蟻型ローカストは、観光客を襲う訳でも無く、朗々と演説をし始めた。
「グラビティ・チェインの枯渇著しく、ローカストの窮乏は最早のっぴきならぬ物となった……否。同情される謂れは無い。我らは所詮、侵略者に過ぎぬ」
どこか和風めいた装束に身を包んだローカストは続ける。
「……相済まぬ。しかし、死に向かう同胞の為にこそ、敢えて拙者は此処に宣言する。力無き無辜の者達を殺戮し、略奪し、酸鼻を極め、地獄を作り出すと!」
その宣言を聞いて、姿を見て、逃げ出す者、竦む者、無謀にも石を投げつける者など様々居たが、言動とは裏腹に、蟻は決して力無き者に手を出そうとはしなかった。
「故に来たれ! ケルベロス! 人類の守護者達よ! 我が全身全霊を賭して相手をしよう! そして拙者は貴様達を下し、その報酬として無辜の民達の命を頂く! さぁ! 我らが剣技、我が矜持! 退けられるものなら退けて見せよ!」
●気のいい仲間たちの苦渋
「奪い取るのならば、あらゆる手段を使って問答無用で奪い取って仕舞えばいい。わざわざ宣戦布告する必要など無い筈だ。先に壊滅したストリックラー・キラー達のようにな」
そうしないのは彼らの矜持故だろう、と、ザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)は語る。
ダモクレスの移動拠点『グランネロス』を襲撃した、阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達は、奪ったグラビティ・チェインを困窮するローカスト達に全て施した後、更なるグラビティ・チェイン獲得の活動に入った。
しかし、グランネロスのような大量のグラビティ・チェインを持つデウスエクスの部隊が簡単に見つかる筈もなく。
「……結果として、彼らはやむなく人間のグラビティ・チェインを奪う決断をしたのだろう」
彼らは、ケルベロスに対して宣戦布告をし、迎撃に来たケルベロスを正々堂々と撃破した後に、強敵との戦闘に勝利した報酬として人間からグラビティ・チェインを略奪しようとしている。
「同胞の窮状を救いたいが、弱者から奪い取る真似はしたくない。だからこその『宣戦布告』だ」
矜持と窮状に挟まれたが故の、苦渋の選択、なのだろう。
「本当に、『気のいい仲間たち』なんだろうな。」
だが、彼らが困窮するローカストの為に、人間のグラビティ・チェインを奪おうとするならば、戦闘は避けられない。撃破せねばならない。
「正々堂々と真正面から宣戦布告してきたのだ。無論、可能ならばで構わないが、こちらも正々堂々と真正面からぶつかるのが筋ではあるだろう」
戦場となるのは奈良市郊外の草原地帯。
広くて、平らで、見晴らしも良い。
そこでサムライ蟻型ローカスト――ギキはケルベロス達を待ち構えている。
戦場周辺の一般人は基本的に避難しているが、ケルベロスを応援する為危険を顧みずにやってきている観客はいるようだ。
ギキの性格上ケルベロスに勝利しない限り一般人には手を出さないと思われるが、どう対応するかは実際に戦場に赴くケルベロス達が決めると良い。
「ポジションはクラッシャー。鬼鋼刃――オウガメタルを刀剣に変え振るう。持ち前の筋力と研鑽を重ねた技量……強敵だぞ」
共生するオウガメタルとの関係も良好で、詰まる所、気のいい仲間同士、と言う訳だ。
……ローカスト勢力のグラビティ・チェイン枯渇状況も末期に近い。
太陽神アポロンとの決着も間近に迫っていると見て間違いないだろう。
「問答無用、とは言わないが、例え分かり合える者同士だったしても、主義や主張、立場が違えば刃を交えなければならぬ時もある。相手も全力だ。決して油断はするなよ」
参加者 | |
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ソネット・マディエンティ(蒼き霹靂・e01532) |
瀬戸口・灰(忘れじの・e04992) |
八重波・翅弦(翠玉炎天・e05149) |
平島・時枝(フルメタルサムライハート・e15959) |
ユリア・ベルンシュタイン(奥様は魔女ときどき剣鬼・e22025) |
ヴァルカン・ソル(龍侠・e22558) |
クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545) |
マーシャ・メルクロフ(月落ち烏啼いて霜天に満つ・e26659) |
●一の太刀・上
「……来たか」
注ぐ陽光。そよぐ緑。
神社仏閣彼方に見える広大な草原の中央で、待ち構えていたその男――ギキは、ケルベルロスの到来を認めると、居を崩しゆるりと立ち上がる。
野次を飛ばす観衆達など意に介さず、ギキの双眸は、ケルベロス達だけを見据えていた。
「改めて、我が名は鬼鋼刃のギキ。拙者の我儘に応じてくれた事、感謝いたす。そして詫びねばならぬ。このような戦の場において、先ずは互いに名乗り合うのが正道であろうが……」
ギキの身体に共生するオウガメタルが、彼の右掌に集い刀を形成する。
「先ずは一合、早く一合と我が半身が逸るのだ」
風が止み、野次すら途絶えた間隙の、刹那。
「故にこそ、言の葉を交えるのならば刃と共に!」
図らずもその一言が闘争の火蓋を切る。
……敵が正々堂々を第一とする気質ならば、それを逆手に取って優位に立つ方法など、或いは無数にありえたのかもしれない。
だが、ケルベロス達は決してそうはしなかった。
「良いでしょう。ソネット・マディエンティ、相手になる」
覚悟を持って名乗り出た相手を無下にするのは、ソネット・マディエンティ(蒼き霹靂・e01532)の流儀に反するし、他のケルベロス達もそれは同様だった。
遠慮は無用とソネットが地を駆ける。
そうして放った機闘士の一撃はしかし、ギキの半身、刃と化したオウガメタルが受けて止める。
「奇策奇襲無く真ッ向からの一撃。曇り一つ無きその拳、その闘法、まこと心地よい」
……相殺。
「拙者もそれに応えよう。一切の手は抜かぬ!」
ソネットの足下が爆ぜる。
ギキの全身に浸透するはずだった衝撃が刃を伝い地に流された余波だろう。
地から噴き出した相当量の土砂を掻い潜り、鬼鋼刃が閃く。
最至近に居るソネットの姿を刃が映す。
直後、刃が奏でたとは思えぬ鈍い衝撃音が戦場に響き渡った。
土砂の暗幕が晴れる。
切っ先を阻むは、紅き竜鱗。金色の瞳。
「――硬い。揺るぎなき信念無くば、鍛え上げた肉体と言えどこうはゆかぬ。一角の剣侠とお見受けいたす」
「我が名はヴァルカン、勇者の種族ドラゴニアンの末裔也」
ヴァルカン・ソル(龍侠・e22558)が、ソネットの盾となったのだ。
剣撃を受け止めたヴァルカンは悟る。
敵ながら、この男の矜持と覚悟を。
男が刃に託す思いもまた、同胞の守護であることを。
「望みの通り、力と技と、誇りを賭してお相手しよう……いざ!」
丹田にて煉った氣を、紅蓮の息吹と合し解き放ち、ヴァルカンが創り出すのは炎による守護、其の精髄たる紅之陣。
紅蓮の壁が副次的に生み出した陽炎は、戦場の景色を朧にする。
クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)の展開した数多のドローンが陽炎に揺らめく。
「奈良の皆様の命を護るため。正々堂々、貴方の剣技も矜持も退けるであります!」
「そうはさせぬ。我らが剣技と矜持を持って、罷り通る!」
ヒールドローン達は炎の壁をフォローして、さらに強固な陣を前衛に築き、クリームヒルトのボクスドラゴン・甲竜タングステンはヴァルカンを癒す。
守り癒す炎と無数のドローンが彩る戦場を、マーシャ・メルクロフ(月落ち烏啼いて霜天に満つ・e26659)は上空より俯瞰する。
しかし、それも僅か一瞬の事。大きく跳躍した彼女は脚部に重力を宿し、ギキ目掛け急降下した。
浅葱色の羽織をはためかせ、太陽を背に放つそれは誠の蹴撃。
「拙者はロシアからのケルベロス、マーシャにござる!」
マーシャはギキを蹴り抜いて、名乗りをあげる。
いささか順番が前後してしまったが、状況によりけりだ。
「ギキ殿、一対多の戦いとなりまするが、何卒ご容赦いただきたいでござる」
「なんの。拙者達も二人で一つなれば、情けは無用。存分に参られよ」
サムライ、と言う概念がローカストにあるのか否か、マーシャには解らないし、それは些細な事のように思えた。
今、こうして刃を交えている異星の剣客が、侍魂を持ち合わせている事実に、マーシャは感嘆する。
●一の太刀・下
八重波・翅弦(翠玉炎天・e05149)も、侍蟻の矜持を貫こうとする姿を嫌いにはなれない。
いっそその振る舞いは清々しく、気持ちの良い感情を抱く。
普段は受けないザイフリート王子の依頼を承諾した理由もそこにある。
「俺の名は八重波・翅弦」
それ故名乗りには名乗りで返し、そして正々堂々と、全力で死線に臨む。
それこそが、ギキに払う最大の敬意だ。
「いざ、参りましょう」
宣言し、その手に初めて携えたはずの螺旋手裏剣が、まるで使い慣れた道具のようによく馴染む。
その感触は、果たして一時の錯覚か。
いずれにせよ、攻撃しないという選択肢はない。
翅弦の放った手裏剣が、通常あり得ぬ螺旋の軌跡を描く。
ギキに命中したそれは、刺さると言うより穿つと形容するに相応しい。
「態々名乗り出て、こっちとの決闘を望むとはな。目的は見過ごせないが、手段は気に入った」
瀬戸口・灰(忘れじの・e04992)の言にギキは頷く。
「拙者も散々悩んだ。だが、背に腹は変えられぬ。我等の剣技が同胞を救く一助になるのならばそれで良し!」
言いながら、この男は決して無法を働かぬ。
やはり、ローカストには武人気質が多いのだろうかと灰は思う。
「なんにせよ、真っ向勝負で来る相手には全力でお相手させてもらう」
搦め手で来るよりは余程やりやすい相手ではあるが、その実力は折り紙付きだ。
灰のマインドシールドと彼のウイングキャット・夜朱、総勢三名と二匹のヒールを合わせてもヴァルカンが初手で受けたダメージは癒しきれず、ギキの技量は、気を抜けばディフェンダーとてあっさりと落とされかねない領域の物だ。
だが、だからこそ灰は不敵に笑う。
そう簡単には、破らせない。
空を仰げば、真昼に輝く流星がもう一つ。
ユリア・ベルンシュタイン(奥様は魔女ときどき剣鬼・e22025)は、その煌きと重力を伴ったまま、ギキの胸部へ着地する。
「その意気や良し、と言うべきかしらね。人間とローカストは敵なのだもの。ここで生きるために弱者を食らっても、何一つ悪いことはない」
ふわり、と身を翻し、ユリアは優雅な身のこなしで地に降り立つ。
「――けれど、それを良しとしない武人の矜持……ええ、とても素敵。とてもとても――斬りがいがある」
「ほう。これは。柔和な顔に似合わず……」
ギキがユリアの本質を見抜く。
「剣士、ユリア・ベルンシュタインよ。お相手するわ。武人として、最期まで」
即ち、強敵との斬り合いを望む、剣鬼としての表情を。
「はっは、ヴェスヴァネット・レイダーと仲間達もなかなか硬派な連中だったけど、輪をかけて憎めない奴らが来たもんだねぇ」
そう言って、平島・時枝(フルメタルサムライハート・e15959)は屈託なく笑うが、臨戦態勢は崩さない。
「否。彼らに比べれば、拙者の矜持などまやかしに過ぎぬのかもしれぬ」
「へぇ。その心は?」
時枝はギキに問う。
「ケルベロスがデウスエクスに死を与える存在ならば、全てを忘れ、己が命一つのみを賭けて、ただ純粋に死合いたい。大義名分を掲げておきながら、そのような不埒な願望があるのもまた事実」
「そっか。じゃあ……」
時枝は片手で日本刀を抜き放ち、片手に銃を握る。
「牙突き合わせて相食むは生ける者の条理、なればこそ仁義礼智を武士(もののふ)の意気や良し」
力傾くは人斬り包丁。魂込めるは鉛の礫。
「平島塵風斎時枝、一身を賭して御相手仕る!」
振るう刃は弧を描き、白昼において月光が瞬いた。
問答有れど相食んで、情け有れど刃は止まず。
血戦が幕引きに欲するのは、ケルベロスとローカスト、いずれかの骸だった。
●二の太刀
ケルベロス達が間断なく蓄積させたダメージがギキの動作を鈍らせるが、それでも男は呵々と笑う。
曰く、戦場において万全の状態など数秒あればそれで御の字と。
ギキは天高く跳躍し、高度から後衛を捉え、空を斬る。
そうして鬼鋼刃が生み出した巨大な魔の剣閃が、威力を以って後衛に落ちる。
翅弦に迫るそれを灰が受け止め、ユリアの身を裂こうとするそれからクリームヒルトは彼女を庇う。
だが……剣閃の勢いは衰えない。
押し寄せる怒濤の如く、二人の精神と体力を抉り取る。
灰は歯を食いしばる。
足は地面に食い込んで、剣閃はこちらの防御を強引に壊そうとする。
頑丈さには自信がある。折れそうな身体を気力を振り絞って支え、それこそは。
「盾としての矜持、あちらに見せてやろうじゃないか」
「了解であります! この一撃、受けきって見せるであります!」
斬撃に限らず、あらゆる属性を刃一本で扱うとは、それも修練のなせる業か。
クリームヒルトの纏う鎧が軋む。
翳す大盾が震え、亀裂が走らんばかりの負荷が掛かり、それでも堪えに堪え、剣閃を受け止め続けたその先、不意に盾が軽くなる。
「今であります!」
怒濤を凌ぎ切ったのだと頭で理解するより早く、クリームヒルトは叫んだ。
「ありがとう。クリームヒルトさん。お陰で、思い切り楽しめるわ?」
ユリアがナイフを携えて、草原に舞う。
陽光を受けてきらりと輝く刃の残影が、遠巻きに眺める観衆達の視線を奪う。
二刀の刃は軽やかに踊り、ステップを一つ刻む毎にギキの全身へ深手を負わせる。
繊麗たる乱舞を眺めながら、クリームヒルトは自身を癒す。
甲竜タングステンのヒールも相まって傷口は塞がるが、敵の能力は未だ高くある。長引けば、押し切られるかもしれない。
「ふむ……グラビティチェインを望むは、あくまでも戦いの結果として、か」
ギキが直下に剣閃を放つ形をとったのは、野次馬たちを慮ってのものだろう。
己が矜持を貫き通すその姿勢、敵とはいえ一本筋の通ったものだとヴァルカンは感心する。
「情けをかけるつもりは毛頭無いが、せめてその覚悟には……」
「尚の事全力で、ですね。俺も同じ気持ちです」
「ならば往くか、翅弦殿。我等が龍の底力、見せてやろう」
翅弦は頷くと、日本刀に気を込めて、それと同時、ヴァルカンの刀は雷を帯びる。
「至れ、気の刃!」
龍の気にて岩となれ。翅弦が放った気刃は龍に変じ、ヴァルカンと共に神速の勢いでギキを追い詰める。
雷刃一閃貫いて、龍気の咢がギキを食らう。
雷と気が霧散した直後、ギキの眼前に現れたのは一振りの刀。
ギキはそれを反射的に受け止める。しかし、刃の主、時枝にとって、その斬撃は牽制に過ぎない。
「さぁさ、踊ろうじゃないかってねぇ!」
本命は至近距離からの早撃ちだ。
足の動きが止まったギキにそれを回避する術は無く、銃弾は眉間にぶち当たり、大きく怯む。
その隙を逃さず、ソネットは人差し指一本で侍蟻の急所、気脈を断ち、石化を促す。
「守りたいものがあるのは俺もお前も同じだ。なら、どっちの思いが強いかは、この拳で証明してみせよう」
「その拳、拙者も乗ったでござる!」
灰とマーシャがその拳に纏うのは、オウガメタル。
かつての、ローカストの隣人。
二人の拳と夜朱のひっかきを全て食らったギキはそれでも膝をつかず、笑む。
「ははは! 素晴らしい。我らと道を違えた先に得た力……こちらも負けてはおれぬな。なぁ、鬼鋼刃!」
……勝敗の行方は、未だ。
●三の太刀
男の底が知れない。
苦境すら楽しむ気質がそれに拍車をかけていた。
だが底無しではない筈だ。
掴むべき勝利への道は、何時だって斬って開くもの。
然れば。
「拙者の存在も忘れてもらっては困りまするぞ!」
「忘れてはおらぬとも。マーシャ殿」
「それは重畳! その身で受けるでござる!」
侍魂の昂ぶるままに、マーシャは愛刀を桜色の鞘から解き放つ。
「道なくば道を知り、欲すれば我が歩を道とする。棋聖活刃流……奥義!」
そのしろがねの奥義こそ、戦場に『道』を作る進撃の一太刀。
「絶巧斬り!」
即ち、勝機への起点。
「これぞ王への一手! 信頼の業なり!」
餡の如き漆黒の刀身が切って開いたその道を、ユリアが楚々と進みゆく。
「うまく受けて頂戴ね? 首が落ちたら、つまらないもの」
敵を好ましく思えども、斬り伏せることに一切の躊躇抵抗なく。
鍛錬不要、流儀は無粋。名剣、名刀すらも蛇足に過ぎず。
ギキと鬼鋼刃の在り方とはまるきり正反対の、なまくら刃になまくら剣法。
しかし剣の天稟のみで振るうそれは、あらゆる道理を斬り伏せ致命に至る。
これこそが、ユリア・ベルンシュタインの剣理(ケンノコトワリ)。
陽の下に花開く血飛沫は、時枝が形成した強力な磁場回廊に囚われる。
リボルバーを仕舞い込み、日本刀を構えた。
「武心持つ相手に矢弾のみで返すのは無粋の極み。こっちの技の粋で返すのが礼儀ってもんさね」
仁機風塵流・修羅剣【印覇駆刀】。
「修羅道を馳せ征きて剣身合一し、邪剣魔槍を折り屠らん!」
強力な磁場回廊はレールガンの砲身だ。時枝が一足磁場回廊に踏み入ると、その体は弾丸の如く加速投射され、超高速の諸手突きが鍔迫る間もなくギキを貫く。
繚乱する三つの絶技を身体に刻みながら、未だ倒れぬこの男、恐らく弱点らしい弱点など存在しないのだ。
だとするならば、己の打つ手は一つ。
クリームヒルトのマインドシールドを受けたソネットは、自らの掌を見遣る。
「相容れることがないのなら、せめてその矜持に殉じなさい。私からできる手向けはそれくらいだわ」
「その構え……! よかろう。今一度往なしてくれよう」
ギキもまた構える。
間違いなく、今の彼が放てる最大最強の一撃を見舞うつもりだろう。
一瞬の静寂の後、両者は駆ける。
ソネットは自分なりの価値観や理念を持って行動する相手に対し、敵味方を問わず敬意を表する。
……そう。敬意だ。
だからこそ全力を以て叩き潰すのが礼儀。
刃が迫る。たった一瞬、たった刹那が、酷く長い。
機を徹し、身をも透す。
己の全霊に、敵に対する敬意すら載せて放った『青鬼』の一撃は……。
ぐらりとよろめいて、ソネットは地に膝を付く。
クリームヒルトの盾一枚。無ければ地に伏していたか。
「鬼鋼刃。我が半身よ。よくぞ今まで拙者に付き合ってくれた」
勝者の如く悠然と、陽光を仰ぐギキは。
「……ああ」
しかしその口元から一筋の血を流し。
「……美事っ!」
それが最期の言葉となった。
出会いが違えば、良き友になっていたかもしれない。
マーシャとヴァルカンはギキの亡骸を手厚く葬り、
灰もまた鮮烈に散っていった強き戦士に敬意を示す。
翅弦は経を唱えて祈り、弔う。
かくして男は敗れ、名も、誇りも、矜持も、歴史の波に飲まれ消え失せるのだろう。
ならばせめて、餞を。
ヴァルカンは一つ、男の墓に言葉を手向ける。
「誇り高きローカストの武士『鬼鋼刃のギキ』……その名と太刀筋、覚えておこう」
作者:長谷部兼光 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年10月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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