●正々堂々と名乗りを上げて……
山口県萩市。
そいつは突然、街中へと現れた。全身が昆虫のようなフォルム。一見すれば、ミツバチという印象をした人型のデウスエクス。ローカストに違いない。
「ろ、ローカストだ!」
「逃げろ、殺されるぞぉっ!」
中国地方を襲うローカストの情報はこの地の人々の耳にも届いている。次は自分達なのだと、慌ててローカストから逃げ始める。
しかしながら、そいつは一般人に手を出そうとはせず、大声を上げて周囲へと呼びかけを始めた。
「俺は幻惑のハニカムというローカストの戦士だ」
ローカストの態度を珍しいと思う人々だが、それだけで足を止める者は少ない。
それでも、ハニカムは呼びかけを続ける。
「枯渇したグラビティ・チェインを満たす為、この町の人間を襲撃し、グラビティ・チェインを略奪する運びとなった。止むを得ない事とはいえ、……本当にすまん」
ローカストの口から出た『すまん』という言葉に萩の人々は驚きを隠せず、周囲の人々と顔を見合わせてしまう。
「戦う術を持たぬ人間の襲撃など、俺のプライドが許さん。……そこでだ」
人々の足が止まり始める。ローカストの訴えを遠巻きにでも聞こうという者が増えてきていたのだ。
「ケルベロスよ。俺と戦ってこの地の人間を守って見せろ」
倒されるならば、已む無し。だが、ハニカムが勝ったのであれば……。
「そのときは、勝者の権利として、グラビティ・チェインを強奪させてもらう」
これには、萩の市民とて無関係ではいられない。人々は慌てて、誰か知り合いにケルベロスはいないかと騒ぎ立て始めるのだった。
ローカストの新たな作戦を聞きつけたケルベロス達。
ヘリオライダーに事情を聞くべく、彼らはヘリポートへと向かう。
「皆、来てくれてありがとう。広島での戦いに参戦した人はお疲れ様」
そこにいたリーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)は、笑顔でケルベロスを出迎えた。
その戦いの結果、広島市民の被害はゼロに抑える事ができ、イェフーダーを始め、ストリックラー・キラーのローカストを全滅させる事が出来た。特殊部隊であるストリックラー・キラーが全滅した事で、ローカスト軍の動きはほぼ封じられたといって間違いないだろう。
グラビティ・チェインの枯渇状況も末期となっているはずなので、太陽神アポロンとの決着も間近に迫っている。
――しかし。
「そんなローカストの苦境に、立ち上がった者達がいるようだよ」
それは、ダモクレスの移動拠点『グランネロス』を襲撃した、阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達だ。
彼らは奪ったグラビティ・チェインを困窮するローカスト達に全て施した後、更なるグラビティ・チェイン獲得の活動に入った。だが、グランネロスのような、大量のグラビティ・チェインを持つデウスエクスの部隊が簡単に見つかるはずもない。
「だから、彼らはやむなく人間のグラビティ・チェインを奪う決断をしたみたいなんだよ……」
彼らはケルベロスに対して宣戦布告をし、迎撃に来たケルベロスを正々堂々と撃破した後に、強敵との戦闘に勝利した報酬として人間からグラビティ・チェインを略奪しようとしている。
わざわざ正々堂々と戦う為にケルベロスに宣戦布告をするという行動は、意味の無いものにも思える。
「でも、その意味のない行動こそ、ローカストを窮地から救った上で、自分達のプライドを守る為の苦渋の決断なのかもしれないね……」
阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達は、その性質から悪では無いはずだ。
ただ、困窮するローカストの為に、彼らが人間のグラビティ・チェインを奪おうとするならば、ケルベロスにとって許されざる敵となるだろう。
「戦いは避けられないだろうけれど、彼らの宣戦布告に応えてほしい」
できれば、正々堂々と撃破してあげてほしいとリーゼリットは語る。
今回、相手となるローカストは、ミツバチのローカスト。『幻惑のハニカム』と名乗っている。
「戦いでは、花粉での催眠が一番怖いね。後、8の字ダンスでこちらの足を止めたり、急に飛びかかってきたりしてくるよ」
立ち回りはジャマー。気持ち程度に蜜で自身を強化することがあるが、異常攻撃も多い敵の為、十分に対策を練って相手をしたい。
「戦場となるのは、山口県萩市。相手は比較的戦いやすい市内の中央公園を戦場として指定しているよ」
戦場付近の一般人は基本的に避難してはいるが、ケルベロスの応援の為にと、危険を省みずに公園の敷地外で戦いを見守る観客もいるようだ。
一通り説明を終えたリーゼリットは、最後にこう話す。
「彼らもローカストの未来を背負っている。自らのプライドを掛けた上で正々堂々と戦ってくるよ」
言うなれば、彼らはローカストの剣だ。しかしながら、ケルベロスは民を守る盾。ローカストに屈する事があってはならない。
「色々と思うことはあると思うけれど……。ともあれ、皆がこの戦いに臨んで、そして勝利することを、ボクは願っているよ」
リーゼリットはそうして、満面の笑みでケルベロスを送り出すのだった。
参加者 | |
---|---|
椏古鵺・笙月(黄昏ト蒼ノ銀晶麗龍・e00768) |
内阿・とてぷ(占いは気の向くまま・e00953) |
柊城・結衣(常盤色の癒し手・e01681) |
葉月・静夏(戦うことを楽しもう・e04116) |
深緋・ルティエ(紅月を継ぎし銀狼・e10812) |
ソフィア・フィアリス(傲慢なる紅き翼・e16957) |
卯真・紫御(扉を開けたら黒板消しポフ・e21351) |
エルザート・ロッソ(ファントムソード・e24318) |
●この戦いにおける交換条件
山口県萩市。
たくさんの人が敷地を囲む中央公園。その広場の中央に、ミツバチのような外見の人影のローカストが1人で立っていた。
「ケルベロス呼び出して正々堂々というのは……また新しいパターンですね」
とはいえ、負ける気はないと、深緋・ルティエ(紅月を継ぎし銀狼・e10812)は視界に入る敵の姿に気合を入れる。
「地球に適応しきれない状態では、理性を保つことも困難のはず」
卯真・紫御(扉を開けたら黒板消しポフ・e21351)は、相手するローカスト……幻惑のハニカムを慮る。公園を囲む人垣に手を出すことなく、彼はケルベロスを待ってくれている。
「まずは、その覚悟と意志に、私達も真正面から答えなければいけませんね」
紫御の言葉に頷くメンバー達は集まる人々をかき分け、ゆっくりと公園内に入っていく。
「人質を取っていると言えど、真っ向正面から挑んで来る心意気、あっぱれ!」
「正々堂々と戦いを挑む所が私は好きですよ!」
椏古鵺・笙月(黄昏ト蒼ノ銀晶麗龍・e00768)、内阿・とてぷ(占いは気の向くまま・e00953)がローカストの姿勢を称賛した。
目の前にいる幻惑のハニカムの属する、阿修羅クワガタさん一行の対応に「プロレスみたいな感じかな!」と、とてぷは好感を持っている。
「……けど、こっちもグラビティ・チェインを渡すわけにはいかないから、全力で行きますよ!」
彼女は相手に対する感情を割り切って、ハニカムとの戦いに臨む。
「意思を持って生きている地球の人々を、戦利品程度にしか見ていない連中など、私にとっては悪だよ」
そいつが例え正々堂々とした態度を取っていても。葉月・静夏(戦うことを楽しもう・e04116)だけは、ローカストに対していい印象どころか、害悪とすら感じている。
「だからいつものように、楽しく真剣に戦って倒すのみだよ」
「私達は立場上、一般人を守らねばならんざんしな……。致し方あるまい」
このローカスト達のコギトエルゴスム化を望むケルベロスがいることも、笙月は知っている。まさか、自分だけ助かろうなどと考える相手ではないとは思うが……。
「いや? 知らんざんしがね」
整った中性的な顔の笙月は、微笑を浮かべる。
「そちらが勝者の条件を付けるのなら……、こちらも条件をつける」
相手に声をかけるルティエ。すでに、ハニカムは自らの勝利時に、この街の人々を手にかけてグラビティ・チェインとすることを宣言している。
「こちらが勝った時は……、大人しくコギトエルゴスムになってもらう……異論は?」
「時空の調停者として、貴方の誇りに応えられるよう相手してあげるわ」
だから、互いに要求を呑むよう、ソフィア・フィアリス(傲慢なる紅き翼・e16957)は相手の自尊心を傷つけぬよう言葉を選びながら、返答を促す。
それは、ローカストを気遣っての行動だが、こちらを注目する観客へのアピールでもある。
人々にローカストへの好意的な感情が生まれたら、彼らは地球の重力に魂を引かれやすくなる。ソフィアは密かにそんな打算も抱いていた。
「潔く負けを認めた際は、ケルベロスに命を預けなさい。貴方は将来必要となる人材なのよ」
「それは、俺に土がついた場合の話だ」
ハニカムは腰を低くして、構えを取る。
「お前達に守りたいものがあるように、私達にも護らなければならないものが沢山ある……。だから、手を引けっ」
「戦いの後であっても良い。手を取り合うことはできないのでしょうか」
「悪いが、俺達には時間がないのだ」
ルティエ、紫御はなんとか、共に生きる道を模索しようとするが。……それは叶わない。
「こういう相手は嫌いではないんですが……、人の命がかかっていますから決して負けるわけにはいきません」
「ええ、この地の人達は私達が護る」
意を決した柊城・結衣(常盤色の癒し手・e01681)に同意し、ルティエは覇気を放って敵を威嚇する。
話が済んだタイミングで、静夏は仲間の前へと進み出た。
「私は葉月静夏。望み通り、あなたを倒すよ。楽しませてね」
敵に敬意を払って挨拶を交わした彼女は、ハニカムが戦闘態勢に入ったのを見計らい、前へと飛び出していくのだった。
●真っ向から真剣勝負……!
真っ先に飛び出た静夏。
「いくよ、デストロイブレイド!」
彼女は楽しそうな表情で、大剣を振り回す。
その一撃を叩きつけられたハニカムは、怒りを覚えた彼女を強襲する。静夏に飛びかかるハニカムは殴打を与えた上で、鋭い尾で裂こうとしてきた。
「いい攻撃だけど、踏み込みが足りないね」
しかし、傷を受けてなお、静夏は微笑む。彼女にとってもそれは望むところ。相手はジャマーだ。なんとしてもこちらの回復役をしっかりと守り、できるならば戦線を離脱する者はないように戦いたいと、彼女は考えている。
「さぁ、始めよう」
ルティエは自らの拳を狼のそれへと変え、重力を集中させてから殴りかかる。重量感のある一撃は、ハニカムにプレッシャーを与えた。
「やはり、地球側につく気は無いのか」
傍で、ボクスドラゴンの紅蓮が属性インストールを前線メンバーにかけるのを視界に入れながら、ルティエはハニカムに尋ねる。
「ぁ、ルティエ! 無茶は駄目ざんしヨ!? 後で、私が怒れるざんしな?」
率先して前に行く友人ルティエに、笙月は声をかける。普段、冗談交じりに叫ぶ仲ではあるのだが、彼女は敵との交戦に集中していたようだ。
それならと、彼は同じクラッシャーとして暴れることにする。
「妖刀『滅』よ、全てを滅する汝が破壊の波動よ、……解き放て!!」
笙月が握るは、妖刀と呼ばれし『滅羽』。それが全ての力を解き放ち、見えない衝撃波を発してハニカムの精神の『負』の部分だけを破壊する。
「ソフィアさん、頼りにしているざんしな!」
後ろを振り向いた笙月は、ソフィアにも呼びかけた。
そのソフィアは紙兵をバラ撒き、前に立つ仲間達を援護する。
(「ゲートがない今、ローカストの魂が地球の重力に引かれるのも時間の問題ね」)
そうなってローカストが地球に適応せざるを得なくなった場合、他種族を思いやることの出来る気のいい人材は1人でも多くいた方が、ローカストにとっても、地球人らにとっても都合がいいし、その橋渡しができるとソフィアは考えている。
「私は楽する為の努力は惜しまない。だから、誇りを賭けて戦ってあげる」
ソフィアは目の前のローカストを単なる侵略者としてではなく、同胞の為に戦う1人の戦士として扱おうとしていた。
同列には、エルザート・ロッソ(ファントムソード・e24318)の姿もある。エルザートは失われた面影を悼む歌を口ずさみ、魂を呼び寄せることで前に立つ仲間達へと敵の強化を砕く力を与える。
「あなた達は、一般人を殺してグラビティ・チェインを奪うこともできたはずです」
結衣もまた、後から仲間の回復援護を考えるが、初撃は攻撃へと打って出ようと懐から小包を用意する。
「でも、自らの矜持でそれをしなかった。こうして倒してしまうには惜しい相手です」
しかし、動き始めたハニカムはもう止まらない。それを残念がりつつも結衣は小包を投げ飛ばす。それはハニカムに命中すると弾け、甘い香りを漂わせた。
中に入っていたのは、結衣が秘伝を調合を行った薬だ。それはハニカムの脳内へと巡り、思考を奪わんとする。
とてぷは仲間の壁を頼むミミックのマミックに偽者の財宝をばら撒かせながらも、自らはハニカムの反応を窺う。
「強い相手との戦いを望んでいると聞きました。それは、わたくし達でなければダメなのですか?」
グランネロスのグラビティ・チェインを利用していた話もある。相手はケルベロスである必要はないと考えるとてぷだ。
「大量のグラビティ・チェインを強奪する宛などない。しかも、早急にとなればな」
御業から炎弾を放ったとてぷはそれを聞き、黙り込んでしまう。
他勢力は、一気に襲ってなどこない。ならば、手近で多くのグラビティ・チェインを集めるならば、地球人が最も効率が良い。だが、彼らとて、避けたかった手段のはずなのだ。
「貴方達のおかげで、グランネロスの脅威を取り除くことができました。本当に感謝しています」
その流れで、仲間へと分身の術を施す紫御がハニカムへと隣人力を使いつつ、接触テレパスで自身の意思を伝える。
「周囲の人達も、ただの恐怖とは違う、畏敬の念に近いものを貴方に感じているはずです」
――私達は、手を取り合うことはできないのでしょうか?
繰り返しになる紫御の問い。
だが、首を振るハニカムは8の字を描きながら飛び回り、ケルベロスの足を止めつつ攻撃を仕掛けてきたのだった。
●真剣勝負の行方は……
幻惑のハニカムは強い。
そのタフさ、攻撃力もさることながら、彼の本領は『幻惑』の二つ名が示す通り、相手を惑わせることにある。
笙月は後方の仲間達にその耐性張りを任せ、ルティエが音速の拳を叩きつけるのに合わせて一気に攻め入る。
「もっとも、素直に……催眠には掛かってあげないざんしがね!」
手に握るは、阿伊染神楽という名のナイフ。笙月は鉄扇を舞わせるかの如くそれを扱い、ハニカムの身体をジグザグに切り裂いていく。
ハニカムは8の字ダンスで反撃し、ケルベロスの足を鈍らせてくる。
「いくらこちらの攻撃を封じようが、打ち消してあげるわ! そっちとこっちの根比べよ!」
ソフィアはすぐに紙兵を散布し直し、仲間へと耐性を与える。
攻防がしばらく続く。戦況は膠着しているようにも見えたが、ハニカムは徐々にケルベロスを追い込んでいた。
仲間を庇い続けていたミミック、ヒガシバ、マミック。彼らは積極的に仲間の盾となってくれていたが、意図されねば回復は後手に回ることも多かった。
彼らは敵にピンポイントで強襲され、姿を維持することができなくなり、姿を消してしまう。ボクスドラゴン紅蓮が属性付与に当たっていたものの、間に合わずとやや落胆していたようだ。
とてぷは相棒の消失に表情を歪めながらも、ハニカムの飛ばす花粉から仲間を正気に戻そうと、人型に切った紙を取り出す。
「さぁさぁ、お立会い! このヒトガタの紙をこう飛ばせば~……」
その紙には、治癒と幻惑の印が書かれてある。それによって、仲間は正気を取り戻すのと同時に、敵には攻撃の対象となる相手が増えたように見せかけていた。
仲間の盾となる静夏にも限界が近づいていた。盾役のサーヴァントが落とされたことで、庇われることも少なくなり、攻撃は彼女に集中する。負傷は重なり、回復が出来ぬほど深く傷ついてしまう。
「まだ、やられないよ……!」
静夏は自身の左肘へと、炎を纏わせていく。
「儚い守りを打ち破る、花火の音を響かせよ……響夏水月(サウンドサマー)!」
弱ってきていた静夏だが、その一撃まで弱っているわけではない。彼女の肘撃ちはハニカムの胸目掛けて強烈な一撃を与え、公園内外に花火のような爆発音を響かせた。
「グ……」
しかし、ハニカムは怯みこそしたが、体力は十分に残していた。彼は猛然と静夏に殴打、食らいつきに針と、ラッシュを仕掛けてくる。
静夏はそれらに耐え切れず、まだ戦おうとファイティングポーズをとった状態で、真横に倒れていった。
「……っ」
倒れる仲間に紫御は悲痛の表情を見せたが、気遣うにはまだ早い。立っている仲間まで地に這わせるわけには行かないのだ。
「見た目は怖いかもしれませんが……」
紫御が投げ飛ばす5本の針。彼女の気をのせたそれらは前線の仲間へと突き刺さり、治癒力を一気に活性化して傷を癒す。
ただ、次にハニカムが狙いを定めたのは、立ち回りが甘いと判断したエルザート。攻撃こそ考えて組み立ててはいたが、防御面などの立ち回りを考えていない彼女は、格好の的だったのだ。
ライトニングロッドから迸る雷を撃ち放ったエルザート。しかし、ハニカムは後列メンバーの回りを飛び回り、徐々に体力を奪う。幾度目かの花粉の散布で、エルザートはがっくりと崩れ落ちてしまった。
「か、花粉が……」
結衣は思考が乱されていることに気づき、自分を含めた後衛メンバーに癒しの雨を降り注がせる。全員を癒すことが出来たら良かったが、とてぷはどうやら花粉を振り払えていないらしい。
とてぷは自身の思考が花粉によって奪われかけたのを感じ、裂帛の叫びでそれを振り払う。
一緒にデウスエクスと戦うことができたかもしれない相手。我に返ったてぷはそんなことを思うが。
(「今回は最高の戦いをすることで終わらせたい」)
とてぷはなおも、傷つく仲間の為に癒しの力を行使する。隣りにいた結衣も同じだ。
「相手は正々堂々とした戦いを望んでいるのです……」
すでに、倒れた仲間がおり、最善の結果を出すことは叶わなくとも、結衣は全力で癒しの力を行使し続ける。癒し手として、結衣自身の目指す戦い方の為に。
かなりの被害を受けるケルベロス達だが、その間、火力として攻撃するメンバーが黙っていたわけではない。
笙月とルティエはずっと攻撃の手を止めずにハニカムへと攻め入っていた。
鋼の鬼と化したオウガメタルを纏った笙月は、拳でハニカムの身体を殴打する。その皮膚は破け、敵の全身からは体液が流れ出していた。
続く仲間の攻撃を挟み、ルティエは遠吠えを行い、風にのせて月の力を地上へと降ろす。
「悪しきモノには身を裂く刃、愛しき者には癒しとならん……。紅月牙狼・風桔梗」
力は渦巻く鎌鼬となりて、ハニカムの身体を切り裂いていく。
「ぐ、ぐあああっ!」
羽根は裂かれ、全身から血が噴き出す。ハニカムもついに膝をついて倒れこんだ。
「これで、お前の負け……条件は、覚えてるな?」
「……これで散るなら、本望だ」
ルティエはナイフの刃を振り下ろす。次の瞬間、そこには1つのコギトエルゴスムが転がっていたのだった。
●勝利の後に……
ハニカムを撃破したケルベロス達。
途中、倒れてしまった静夏だったが、無事にローカストを撃破できたとあって、傷ついた身体を押して人々と勝利を喜び合い、純米酒大吟醸で一杯始めていたようだ。
「ローカスト……かなり追い込まれているのですね……」
紫御は考える。アポロンがその直接的な理由ではなさそうだが、彼らに差し迫った状況を改善するには時間がないことが悔やまれる。
ソフィアはこの状況を粛々と受け入れつつ、ハニカムが落とした蜂蜜を回収する。戦闘でほぼ使われなかったその蜜は、どことなく彼の気のいい感じを漂わせているように思えた。
「どうか、安らかに――」
コギトエルゴスムと化したローカストに、結衣は人知れず黙祷を捧げたのだった。
作者:なちゅい |
重傷:葉月・静夏(戦うことを楽しもう・e04116) エルザート・ロッソ(ファントムソード・e24318) 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年10月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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