中国地方の1つ、岡山県。
その南部に位置する倉敷市の駅前に、異形の存在が佇んでいる。
この場所は道路の車線が少ない割に交通量が多く、渋滞とは言わないまでもそれなりに道路が混み合うのが日常だ。
そうした交通を阻害する異形の存在は、多数のクランクションなどどこ吹く風とばかりに意に介す様子はない。
「俺はレギオンレイドを故郷とするローカストの戦士! 名をシアン!」
拡声器も用いず大音量での名乗りを上げるその存在は、デウスエクスの一種であるローカスト。その異形をアトラクションか何かだと思い込んでいた人々は、その意味を飲み込むにつれて悲鳴を上げ我先にと逃げ出した。
混雑した道路は思うように動くなど叶うはずもなく、車を捨てて逃げ出す者が頻出する。そのために余計に混雑に拍車が掛かる。自然、避難できない者も多い。
しかし、名乗りを上げたローカストの戦士はそうした逃げ遅れた者に対して一切の手出しをする気配もない。
「故有って、俺はこの街の人間を襲う。だが、それは俺の本意ではない!」
この場でローカストの戦士が何を言っているのかを理解できる者は、ほぼいない。だが、このローカストの戦士が一般に知られるデウスエクスのような虐殺行為に及ぶことを躊躇っているのだという事だけは分かる。
「だからこそ、俺はケルベロスとの戦いを求める! ケルベロスよ、この街の人々を守ろうと志すならば、俺と戦え!」
ケルベロスへの挑戦。それが、このローカストの戦士の求めであった。
「俺は正々堂々と強者であるケルベロスと戦い、そして勝つ! その暁には、この街の人々を悉く蹂躙しグラビティ・チェインを奪う!」
言葉の前半は確固たる決意によって、後半は耐え難い窮状を乗り切ろうとする苦渋を飲んで、ローカストの戦士は宣言した。
「広島での活躍、まさにケルベロスの面目躍如であった。見事という他ない」
先のローカストによる広島市下水道での戦いの功績を手放しに称えるのは、ヘリオライダーがすっかりと板に付いたザイフリート王子であった。
「この勝利によって、ローカストはこれまでのような活動はほぼ不可能なまでに追い詰められたことだろう」
ローカストに残されたグラビティ・チェインは僅かと目され、必然として太陽神アポロンとの決戦も近づいていると予感させられる。
「だが、この状況にあって奮起した者達がいるのだ」
ザイフリート王子は、どこか敬意すら感じられる口ぶりで語る。
「かつて同胞の窮状を救う為にダモクレスの移動拠点『グランネロス』を襲撃した、阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達だ」
ローカストの中でも異端の存在である、阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達。彼等はローカストの窮地を脱するべくグラビティ・チェインの獲得活動を行っているが、グランネロスから奪ったグラビティ・チェインを全て苦しむ同胞に分け与えた後は目ぼしい獲得先を得られずにいた。
遂には阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達すらも活動の限界が近づき、決断を迫られる。
「一般人を襲い、グラビティ・チェインを奪うという手段だ」
これまでは決して良しとしなかった、弱者からの搾取。しかしそれ以外に彼等がこの地球で生き延びる手段は残されていない。
「それでもなお、彼等は己の矜持を曲げようとはしなかったのだ。何と、正々堂々たる決闘を申し込んで来た」
ザイフリート王子の言う通り、阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達は、それぞれが単独でケルベロスへと戦いを挑んで来た。
ケルベロスと戦い、勝利した際にのみ一般人を襲うというのだ。
本来ならば、そんな行為には何の意味もない。そればかりか、ただ不利になるだけだ。
ケルベロスとの戦闘によって負傷、あるいは戦死するリスク。さらには、多くの人々の耳目に触れ常命化する危険性すらあるというのに。
「何という誇り高き生き様か。彼等こそ、まさしく武人の鑑であろう」
ザイフリート王子の彼等への賞賛はさて置くとしても、こうした行動は絶大な自信に裏打ちされているのだとも取れる。
こうした不利な状況であってもなお、勝利をもぎ取れるのだと。
「阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達、その1人がオカヤマケンクラシキシという場所の駅前に現れた」
そのローカストは、地球の昆虫に当て嵌めるとゾウムシに酷似している。
「あくまでも外見からの判断だが、非常に頑強な外殻を有しており、相当に打たれ強いと予想される」
また、突き出した口吻はクマムシと同じであれば、高い貫通力を持った武器となるだろう。
攻防共に優れた強敵と考え、こちらも相応の覚悟で挑む必要がある。
「戦いの場はバス停や陸橋などがあるが、ほぼ平らな道路なのでお前達にとっては何の支障もないだろう。周囲には物見高い野次馬もいるが、少なくともお前達が健在である間は手出しされる事は無い」
戦場での地形に有利不利となるような要素はなく、一般人の避難に配慮する必要もない。まさしく、正々堂々の決闘が成されるだろう。
「窮地にも己を曲げず、堂々たる決闘を挑んで来た彼等だ。お前達も、それに恥じることのない戦いで彼等を打ち破ってもらいたい」
阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達。彼等を認めつつも、ケルベロスの勝利を信じ、ザイフリート王子は戦場へとケルベロス達を誘うのだった。
参加者 | |
---|---|
ルーカス・リーバー(道化・e00384) |
相良・鳴海(アンダードッグ・e00465) |
大神・凛(剣客・e01645) |
叢雲・宗嗣(夢謳う比翼・e01722) |
槙野・清登(惰眠ライダー・e03074) |
ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827) |
七種・徹也(玉鋼・e09487) |
レイリア・スカーレット(鮮血の魔女・e24721) |
●相対
ケルベロスに対し挑戦を申し入れたシアンに、8人のケルベロスが応じ、今ここに互いは相対していた。
「己が名を、シアンと発する。強者たるケルベロスよ、貴様等を倒し、同胞の糧を簒奪せしめん」
ゾウムシに酷似した甲虫型ローカストのシアンは、人数で圧倒的に勝るケルベロスに精神的な遅れは一切無い。
「そのような宣言をされては、私達も退くことはできませんね。全力でお相手致しましょう」
やれやれと大仰な仕草で厄介事を抱えてしまったと表現するようなルーカス・リーバー(道化・e00384)は、その挑発的な態度とは裏腹に内心では油断無くシアンの僅かな動きも見逃すまいと緊張と冷静を保っていた。
「貴兄の気概に敬意を表するよ。……けれども、俺は誰の夢も奪わせない」
静かに斬霊刀の鯉口を切る叢雲・宗嗣(夢謳う比翼・e01722)は、単身で挑んで来たシアンを認めつつも、自分達の勝利を微塵も疑っていない強気な発言で応じる。
「正々堂々と勝負だな。こちらも気合いを入れていくぞ」
一対の斬霊刀を構える大神・凛(剣客・e01645)の気合いは手にした刃と同様に鋭く、武器と自身とが合わさり戦場において一角の存在感を放っていた。
「我が名はレイリア・スカーレット。ザイフリート王子の命により、この槍に懸けて貴様を倒す」
勇猛で知られるヴァルキュリアであるレイリア・スカーレット(鮮血の魔女・e24721)は、ゲシュタルトグレイブの先端をシアンに向けて真っ直ぐに突き付ける。
「いい面構えだ。佇まいからだけでも、お前の強さが伝わってくるってもんだ」
シアンを武人として認める七種・徹也(玉鋼・e09487)は、ルーンアックスを誇示して見せた。武器を見せることで通じる、武人同士の戦いの前の挨拶代わりだ。
これまでのローカストの残虐な手口とは対照的なシアンの挑戦に、ケルベロスの大半は敬意にも近い感情を抱いている。しかし、当然ながらそうでない者も居た。
「何眠てぇこと言ってんだ。お上品ぶった所で、目的が人殺しなのは同じだろう」
シアンも仲間達も、冷めた目で見る相良・鳴海(アンダードッグ・e00465)の指摘は、正しく正鵠を射ている。ケルベロスにそれを阻む機会を与えようが、力無き弱者である一般人を殺しグラビティを奪うという行為は、突き詰めてしまえばストリックラー・キラーローカスト等とさしたる違いはないのだから。
(「でも、それも仲間の為なんだよね。敢えて不利を背負ってでも自身の矜持と仲間を守ろうとしている……」)
鳴海の言い分も分かるが、槙野・清登(惰眠ライダー・e03074)にはシアンの行為も否定することが出来ない。敵は筋を通しており、自分達と違うのは立ち位置だけなのだ。
「真っ向勝負とは、黄金不退転部隊同様以来だな。やるべき事は変わり無いが」
シアンを認める者、否定する者。そうした仲間達の感情とはやや異なり、ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)はこの敵にある種の好感を抱きながらも、無駄な危険を冒し仲間を助けられなくなるような不合理性には疑問を抱いていた。
各々がシアンに対しての思惑を抱きながらも、それはこの状況を変えるものではない。ただ、戦って勝つしかないのだ。
ケルベロス達は守るべき者達の視線を受けながら、戦端を開くのだった。
●威風堂々
真っ先に動いたのは、この場のケルベロスの中で最も手練れである徹也だった。
「正々堂々と戦おう。それが、戦士に対する最大限の敬意だ」
ルーンアックスの力ある文字を発動させ、光り輝く呪力と共に振り下ろす。
その一撃はシアンを捉えたが、徹也がたたら吹きと名付けたライドキャリバーの炎を纏った突進は避けられてしまった。
次いで放たれる、ティーシャによる竜砲弾の一撃。盛大な破砕音が轟き、周囲の人々から歓声が上がる。
けれど、土煙りが晴れた後にはさしたる負傷もないシアンの健在な姿が顕わになり、人々の歓声は潮が引くように静まり返った。
「大神凛、参るぞ!」
裂帛の気合と共に敵へと肉薄した凛は、左右の白黒二刀を非物質化し、霊体のみを汚染破壊する斬撃を見舞った。
同時に、凛が使役するライドキャリバーのライトがシアンの足を轢き潰す。
その程度で脚部を破壊されるシアンではないが、それでも足の動きを鈍らせられたのは確かだ。
「薙ぎ祓うぞ、ほのか……。惨禍燎原……!」
宗嗣は自らが抱える地獄を刃に同化させ、刃が炎を纏う。そして、シアンに突進し一閃する。その剣技は余人には目で追うことさえ叶わないが、炎が描いた軌跡が何を成したのか明瞭に物語っている。
しかし、尋常ならざる剣技を受けてなお、シアンには怯んだ素振りなど微塵もない。ここで戦いの形勢を有利に持っていくためには、さらなる攻勢を掛けるのだろうと観客達は固唾を飲んでケルベロス達の行動を注視した。
その予想に反し、ルーカスは道化めいた仕草で手を打ち鳴らす。
「さて、それでは良いショーを」
戦いの中にあって、それはまるで無意味な行為のように映る。だが、その意味を理解しないのは観衆だけだ。後衛に立つケルベロス達は己の攻撃の精度が上がったことを感じ、シアンもまたケルベロス達の攻撃が精確性を帯びたと察した。
(「どうやら、本当に一般人に手出しする気はないようだな。呆れた愚直さだ」)
宣言通り、シアンはケルベロス以外には一切意識を向けていなかった。わざわざ自分の後方には観衆がいられない位置を選んでまで、戦いに巻き込まないよう配慮している。それに気付いたティーシャは、感心すべきか呆れるべきか迷ってしまった程だ。
「なんだか分からんが、俺達が負けるまで一般人に手を出さない。そういう習性の虫だってんなら、ありがたく利用させてもらうさ」
シアンの思惑になど興味が無い鳴海は、地面に味方を守護する魔法陣を鎖で描き、守りを強化する。武士道や騎士道といった概念を知らない訳ではないが、斟酌する理由はない。
「大勢の人が見てるんだ、迷っていられないね。相棒、頼んだよ」
ライドキャリバーの相棒が、真っ直ぐにシアンへと突進する。清登自身は情報検索アプリで戦闘を有利に運ぶための情報を検索し前衛に立つ仲間達の攻撃精度を強化した。
かつては種族の為に犠牲を強いられたローカストを前に迷いを持った清登だが、今回は敵の直向きさに自身も真っ直ぐに向き合うことを強いられた。だが、それだけに苦い想いを抱えてしまうのも事実だった。
「その志、同じ戦士として確かに称賛に値する」
シアンの戦士としての矜持を褒め称えるレイリアだが、同時にお互いが戦場の中でしか己の生き様を示せないのだと分かってもいた。
「ならば、どちらかの命が尽きるまで、刃を交えよう」
それこそが我々の流儀と、シアンの甲殻に守られた身体の構造を見抜き、レイリアの槍が脆い部分を貫いた。
ケルベロス達は後衛陣が戦闘を有利に運ぶ為の補助を行い、前中衛陣は初撃を繰り出した。確かな手応えにはほど遠いものの、それらがシアンの痛手となっているのは疑いない。
「貴様等の覚悟、しかと受け取った。いざ、雌雄を決さん」
シアンの言葉は、まるでここまではケルベロス達が自分と戦うに値するか見定めていたかのようだ。
攻撃への対処を除き不動であったシアンが、遂に動く。重厚な身体に似つかわしくない俊敏さで、シアンは前衛のケルベロス達に突撃した。
あまりにも単純かつ原始的なその攻撃は凄まじい威力で、標的となった全員が看過できない痛手を負ってしまう。
互いに武技を交え、後はどちらかが倒れるまで戦いを続けるのみ。
どちらも、倒れるのは敵だと信じている。
●堅甲利兵
阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達は、ローカストの様々な部族から阿修羅クワガタさんの考えに同調した者達の集まりであるが、いずれもが猛者である。
シアンも例外ではなく、攻防共に優れた勇士だ。
「やあ、これはこれは。想像以上に硬いですねえ。やれやれ、困ったものです」
仲間達がシアンに与えた様々な攻撃効果を、視認困難な影の如き斬撃で急所を掻き斬ることで増幅するルーカスだが、その頑丈さに狙い通りの攻撃を行いながらも芳しくない成果に溜息を漏らしてしまう。
「感佩するぞ、ケルベロス。貴様等が強者足らねば、己が矜持、地に塗れるを免れん」
ケルベロスが強いからこそ、選択の余地の無いシアンは不本意な行為に及ぶも自身の誇りを保つことが出来る。
戦う力の無いローカストを守るために、誇りを守る唯一の方法がケルベロスと戦うことであり、しかしそれ故に目的の達成は困難となる。皮肉な境遇に置かれたシアンの内心は、他者が計り切れない葛藤を抱えているのだろう。
「本当に惜しいな。違う出会い方をしていたなら、友になれただろう……」
「冗談でも笑えないぜ。あれは害虫で、悪で、侵略者だ」
シアンの口吻による苛烈な一撃に何とか耐えながら、徹也はシアンの生真面目な武人としての性格に敬意を抱き、どちらかが滅びるしかない状況を惜しんでいた。
それに対して、鳴海は徹也の傷を癒しながらその思想を真っ向から否定する。
正反対な価値観の2人だが強い信頼関係が築かれており、鳴海は徹也が敵を防いでくれると信じており、徹也も鳴海に背中を任せていた。
「これが単独でなく徒党を組んでいたかと思うと、恐ろしいな」
敵のグラビティを中和し弱体化するエネルギー光線を射出し、ティーシャはシアンの脅威的な攻撃の威力を緩和する。
おそらくシアンは攻撃に優れた戦い方を選んでいるのだろうが、仲間と協力し防御に秀でた立ち位置にいたならば、易々とは崩せない防壁の如き存在になっていただろう。
「慢心で単独なら付け入る隙もあっただろうがな。数の利を活かして打ち倒すとしよう」
シアンが単独だからこそ、ケルベロス達はどうにか互角に戦いを運べていた。
宗嗣の攻撃は威力こそ高いものの、3回に1回は避けられる。だが、仲間の支援によって精度が上がった後はその限りではない。こうした支え合いこそが、ケルベロス達が勝利を掴む鍵となるだろう。
幾度も幾度も攻防を重ね戦いを続ける内に、拮抗していた戦況には僅かずつ綻びが生じていた。
ケルベロスの1人、凛が苦境に立たされていた。
「私の一族に伝わる戦闘術に抗し得るか。大した手練れだな、虫」
防御に秀でた立ち位置で、かつ自身の能力によって守備を高めているからこそ、凛はここまで持ち堪えていた。勿論、仲間達の支援もあればこそだ。
それでも、ただ無策に挑んで勝てる相手ではない。明確な指示も無ければライトもひたすらに攻めることしか出来ず、既に敗れ去っている。
「私が鍛え上げた黒楼丸、白楼丸、貴様がいかに頑強な外殻を誇ろうが、決して劣りはしない!」
「勇将と匹夫の勇は表裏一体。貴様がいずれであったかは、誰に定めることも叶わじ」
渾身の一撃を放った凛だが、致命傷にはまだ遠い。逆に痛烈な反撃を受け、意識を失い倒れ伏してしまった。
「止むを得ん、私も出よう」
凛が欠けたことで、レイリアは前衛へと躍り出る。一手を失うが、戦況を鑑みれば悪手ではない。
劣勢を招いたようで、実際には凛が踏み止まり続けたため他のメンバーが動き易かったとも言える。
戦場はケルベロスの敗色に染まってはいない。
●誇りを胸に
この戦いの分水嶺は、果たしてどの時点であったのだろうか。気が付けば、ケルベロス達は数手先の勝利を確信していた。
勝敗を決した要因は、シアンの独力はケルベロス達の連携を破るに至らなかったという点だろう。もし1人でも仲間を連れていれば、結果は覆っていたはずだ。
自身の命運を悟っているであろうシアンに、清登は堪らず思いを告げる。
「地球をどう思うかな?」
「命の輝きに満ちたる綺羅星よ。あまりにも眩しい、な」
地球の豊富なグラビティ・チェインはローカストにとって有害となる。しかし、それでも惹かれずにはいられないのだろう。人が太陽の輝きに魅せられるように。
「ローカストを追い詰めているのはアポロンだよ。彼さえ倒せば新しい道も開けるんじゃないかな?」
ローカストを窮状へと追い遣った元凶であるアポロンを除けば、状況は変わる。清登は心の底からそう信じその可能性を提示した。
「……もういっそ、定命化しちゃえばいいんですよ」
このまま種族ごと滅びるよりは、不死を捨ててでも生き延びるべきだ。ルーカスも、ローカストが生き延びる方法はそれしかないのだと訴える。
「成らぬ。己が欲するは、力無き同胞の未来。この地に己が意で染まることも、叶わぬよ」
阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達は、守るべき同胞のために戦っている。それに必要なのはグラビティ・チェインであり、地球人から奪うしかない。
定命化も、デウスエクスが自らの意思で行えるものではない。
交渉の余地など、最初からありはしなかった。
「……誇り高い貴様達の事だ、仲間を売るような真似はすまい」
可能ならば、アポロンの所在や残存戦力について聞き出したい。だが、シアンは保身のためにそうした情報を差し出しはしないだろう。レイリアはシアンを尊重するが故に、攻勢を緩めず攻め立てた。
「回復など無意味だ。お前の敗北は確定している」
シアンが自己治療を行えば、ティーシャはそれを好機と攻める。
「心が躍る戦いだったな。お前は本物の戦士だった、シアン!」
跳び上がりルーンアックスをシアンの頭部に叩きつける、徹也の容赦ない一撃。
「やれやれ。敵に感情移入してやられてるようじゃ、世話ないぜ」
シアンも徹也を攻撃しており、鳴海の治癒がなければ徹也は倒れていただろう。誰も気づいていなかったが、徹也の行動に対応し鳴海は弾丸を回復用の物に入れ替えていた。
いかに敵が強く、長く苦しい戦いであろうとも、決着は劇的なものになるとは限らない。むしろ、静かにその時を迎えるものなのかも知れない。
「大した気概だった。その誇りを抱いて、逝くがいい」
宗嗣が振るった地獄の炎を纏う漆黒の刀身。それは、遂にシアンの命を絶ち切った。
シアンの身体が崩れ落ち、風に浚われるように少しずつ消えていく。
観衆達は盛大な歓声と惜しみない拍手でケルベロスを祝福するが、当のケルベロス達は手放しに喜べる心境ではなかった。
「誇り高き戦士、シアンよ。貴様の名は、永遠に覚えておこう」
哀悼の意を示すように、消えゆくシアンをレイリアは己の記憶に刻み付ける。
「自分の命と誇りを懸けられる同胞か。私にも、お前のような未来があったのだろうか……」
デウスエクスであった頃の自分とシアンは、重なりはしない。そう思ったティーシャは、答えの無い疑問を口に出していた。
また一歩、太陽神アポロンを追い詰めた。それがこの苦さの残る勝利の慰めだろう。
作者:流水清風 |
重傷:大神・凛(ちねり剣客・e01645) 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年10月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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