阿修羅クワガタさんの挑戦~キリギリスは彼に憧れた

作者:青葉桂都

●気のいい仲間の挑戦
 とある地方の大都市には、中心部に広い公園があった。市民の憩いの場であり観光名所でもある。
 多数の人が集まる公園の入り口に、突然1体のローカストが飛び込んできた。
 キリギリスを人型にした姿のローカストがゆっくりと周囲を見渡す。
 1匹の犬が、果敢にもローカストへと吠えかけた。飼い主を守ろうというのだろう。
 ローカストは恐怖にへたりこむ飼い主の少女と犬に近づき、巨体をかがめる。
「勇敢だな、お前。だが、悪いが、ちょいと静かにしててくれ。今はまだご主人様には手を出さねえから」
 犬を優しく撫でてやり、彼は少女の背を押して逃げるようにうながした。
 少女と犬を見送って、ローカストは立ち上がる。
「俺の名はギリキン! けど、俺のことは菩薩キリギリスと呼んでくれ。阿修羅クワガタさんは怠けていた俺に男の生き様を教えてくれた。俺はあの人に近づくためにそう名乗ることにしたんだ」
 恐怖にすくんで動けない者や、隠れている者にギリキンは呼びかける。
「阿修羅クワガタさんと俺たちは、人間を襲うことにした。だが、仲間の窮状を救うためとはいえただ弱い者を殺すことはしたくねえ」
 キリギリスは息を吸い込んだ。
「だから、俺たちはケルベロスに戦いを挑む! ケルベロスを倒した上でグラビティ・チェインを奪わせてもらう!」
 大音声でギリキンは人間たちに告げる。
「この広い公園なら奴らも心おきなく戦えるだろう。俺は逃げも隠れもしない。ケルベロスにそう伝えろッ!」
 高々と跳躍し、ローカストは広い草地のど真ん中に降り立った。

●ヘリオライダーの依頼
 広島での戦いは勝利に終わった。だが、ケルベロスに休む時間は与えられなかった。
 集まったケルベロスたちをねぎらいながらも、石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)は新たな事件について説明を始めた。
「イェフーダーと『ストリックラー・キラー』は全滅し、ローカストにはもう動かせる戦力は残っていません」
 もはやグラビティ・チェインも枯渇して状況は末期に近く、太陽神アポロンと決着をつける日も近いと見ていい。
 だが、同族の窮地を見過ごせぬ者たちがまだ残っていた。
「アポロンの惨状を見かねてか、阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達が動きを見せています」
 先日ダモクレスの要塞グランネロスを襲撃して奪取したグラビティ・チェインを快くすべて提供し、彼らは新たな獲物を探していたらしい。
 だが、そうそう都合よく大量のグラビティ・チェインをため込んだデウスエクスが見つかるはずもなく、仕方なく阿修羅クワガタさんは人間を襲うことを決めたのだ。
 彼らはケルベロスに宣戦布告し、正々堂々撃ち破った上で人間からグラビティ・チェインを奪うつもりだという。
「宣戦布告に裏はなさそうです。単純に、自分たちの矜持と仲間の窮状に折り合いをつけるための手段と判断していいでしょう」
 冷静に芹架は告げた。
 彼らはイェフーダーのような外道ではないのだろうが、敵であることに変わりはない。
「彼らの理屈につき合う義理はありませんが、わざわざ倒す機会をくれるのを逃す理由もありません」
 宣戦布告に応じ、撃破してきて欲しいと芹架は頭を下げた。
 ローカストはとある都市の広い公園の一角に陣取っている。
 四角い草地の四隅には花壇があるが、他に障害物はない。奇襲するのは残念ながら難しいだろう。
「敵はキリギリスのローカストで、ギリキンと名乗っているようです」
 阿修羅クワガタさんの気のいい仲間達はいずれも強者ぞろい。ギリキンも強力なローカストだと考えていいだろう。
 攻撃手段は3つある。まずはローカストブルースカイキック。防具を破壊する強力な飛び蹴りだ。体力の低い者やサーヴァントならば一撃で倒される可能性すらある。
 ただし、強力な分命中率では劣る。実力差もあるので当てにできるほどの確率ではないかもしれないが、運が良ければかわせることもある。
 また、翅をこすりあわせて音楽を奏でることができる。
 生命のはかなさを表現した曲で範囲攻撃して武器を持つ手を鈍らせたり、男の生き様を表現した調べで傷を癒すとともに状態を回復できるようだ。
「周囲の一般人はおおむね避難していますが、ケルベロスを応援するために危険を冒して残っている人もいるようです」
 ギリキンの言葉を信じるなら、ケルベロスを無視して一般人に攻撃するようなことはないだろうが……。
「仲間のためにケルベロスと戦おうとする彼らの気持ちは、理解できなくもありません」
 説明を終えた芹架が最後に言った。
「ですが、正々堂々と戦おうと、卑怯なやり口だろうと、人々の命が失われることに変わりはありません。それを防げるのはケルベロスだけなのです」
 どうぞよろしくお願いしますと、彼女は頭を下げた。


参加者
ポート・セイダーオン(異形の双腕・e00298)
巫・縁(魂の亡失者・e01047)
ジド・ケルン(レプリカントの鎧装騎兵・e03409)
屋川・標(声を聴くもの・e05796)
神白・煉(死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023)
箱島・キサラ(チェイサー・e15354)
黍乃津・桃太郎(白き桜華・e17781)

■リプレイ

●ローカストの挑戦
 公園にある草原の真ん中で、キリギリスは腕を組んで待ち構えていた。
 近づいてくるケルベロスたちを見ても、性急に襲いかかってくるようなことはない。
「……来たな」
「貴様らにどのような事情や思惑があろうと、我らケルベロスの敵だ。地球に害をなそうというのなら、相応の覚悟はあるのだろうな?」
 真正面からジド・ケルン(レプリカントの鎧装騎兵・e03409)はギリキンを見据える。
「もちろんだ」
 ギリキンは改めて名乗りを上げる。
(「こうして正々堂々の戦いを望むあたり、他のデウスエクスどもよりはマシなのだろうが、それでも敵は敵だ。慈悲や容赦は持ち合わせておらぬ」)
 ジドは敵を救おうとは思わない。
 ただ、ケルベロスの中には違う考えの者もいた。
 ノーザンライト・ゴーストセイン(のら魔女・e05320)はギリキンの前に進み出た。
「決闘を受けてもいいけど、条件を付けさせて」
「守るべき連中を守るチャンスが得られるってことだけじゃ、不満かい?」
 とんがり帽子の魔女が告げた言葉に、ギリキンは意外そうな声を出した。
「内容によっちゃ聞くが……。受けられないなら戦わないってんなら、悪いがこっちの不戦勝だと思わせてもらうぜ?」
 ケルベロスからすれば、正々堂々挑んでこようと、問答無用で襲撃をかけようと、どちらにせよヘリオライダーが予知するので同じだと感じるかもしれない。
 ただ、ローカストは予知能力があることなど知るよしもない。
 自分たちの矜持のためにあえて益のない決闘を挑んでいるところに、さらに条件を付けられるとは考えていなかったようだ。
 話を聞くつもりはあるらしく、彼は言葉を待っている。
「勝ったら、クワガタと同じく生き方を示させて。死ぬ前にギブアップしろ」
「そいつは無理だろ」
 返答に迷いはなかった。
「……そっちが同じこと言われたら、応じるかい? 負けそうになったら、後ろで見守ってる連中を見捨てて降伏しろってさ」
 すると答えられるケルベロスはいなかった。
「俺の後ろにも守らなきゃならねえ仲間がいる。指一本でも動く限りギブアップはできねえ。阿修羅クワガタさんも同じことを言うだろうぜ」
 言葉が静かだからこそ、譲る気はないとはっきりわかる。
(「仲間のためなんだよね。大事なものだったり仲間だったり、そのために戦うって言うのはすごく共感出来る」)
 屋川・標(声を聴くもの・e05796)は漆黒の瞳を閉じて、息を吐いた。
 戦うことに問題はない。でも、殺し合うのは……どちらかしか生きられないのは嫌だ。
「話が終わりなら、始めるとしようか」
「……あ、もうちょい待って。縁がテープを張り終ってから」
 改めて身構えた敵が、制止されてつんのめる。
 巫・縁(魂の亡失者・e01047)と神白・煉(死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023)が立ち入り禁止のテープを張っていた。
「これから戦闘が始まります、テープ内に侵入せず、流れ弾に気をつけてください。応援等より自分の身を守るのを最優先でお願いします」
 テープの周囲で見守る人々にポート・セイダーオン(異形の双腕・e00298)が大声で呼びかけていた。
「お前がケルベロスと闘いたいのなら、邪魔者が入らないようにするのは当然の措置だろう」
 縁がギリキンに仮面をつけた顔を向けた。
「なるほど。悪いな、手間かけちまって」
「別に礼を言われるようなことではありませんわ」
 箱島・キサラ(チェイサー・e15354)は帽子を斜にかぶって、不敵な表情を見せる。
「ローカストにも高潔な魂を持った者がいるのですわね。こういう敵を相手にしてこそ、わたくしの美しさがより一層光り輝くというもの」
 白い肌と対照的な鮮やかに紅い唇が言葉をつむぐ。
「ギリキン……いいえ、菩薩キリギリス。お望みの通り正々堂々と討ち果たして差し上げますわ」
「楽しみにしてるぜ」
 キリギリスの表情はわからないが、彼も同じような顔をしているのだろう。
「菩薩キリギリス、一般人を狙わない、その意気ごみは大好きですよ。あなたが戦う事に理由があるように、僕達にも理由があります。地球を守らないといけませんから」
 黍乃津・桃太郎(白き桜華・e17781)の言葉は丁寧だが、まっすぐだった。
「だからせめて、あの統合王ジューダスと同じように。ケルベロスの手で花々しく散ってください」
 仲間たちがテープを張り終え、戻ってきた。
「時間のようです。尋常に勝負ですね」
 愛用する斬霊刀の鯉口を切り、抜き放つ。
「お待たせしてしまいましたね、申し訳ないです。しかし民間人に被害を出して戦闘するのもアレですので、ご勘弁ください」
 ポートは軽く頭を下げ、地獄化した異形の両拳を握る。
「僕の名前は屋川標。君に伝えたい言葉がある。でも、それは勝ってからのことだ。まずは、正々堂々……勝負だ!」
 標が名乗りを上げて両手に武器を構える。
 他のケルベロスたちもそれぞれに武器を構えた。
「ケルベロスに宣戦布告たぁ、敵ながら味な真似をするじゃねぇか。嫌いじゃねぇぜ、その心意気はよ。同じ戦士として俺も名乗っておく……」
 煉が静かに息を吸う。
「魔を喰らう蒼き狼、神白蒼真が一子、神白煉! 一子相伝の降魔の奥義で相手になる。きやがれっ!」
 父親から受け継いだ武技の構えを取り、少年は力強く名乗った。
「始めましょう。落ちたら戦闘開始」
 ノーザンライトがコインを弾く。回転しながら上昇し、落下していく。

●天空よりの襲撃
 草の間にコインが転がると同時に敵が跳躍した。名乗りを上げた煉に、雷鳴のごとく襲いかかる。
 主の命令を待つことなく飛び出したのは縁のオルトロス、アマツだ。
 痛烈な蹴りを食らったアマツの身体が草原に叩きつけられ、勢いよく転がる。
「アマツ! 貴様の相手はこの私だ!」
 縁が相棒の名を呼び、重たい鞘をなぎ払う。煉がばら撒いたオウガメタル粒子の援護を受けた一撃が敵をとらえる。
「今回復いたしますわ」
 ふらつきながらも立ち上がるアマツへキサラが輝く盾を作る。
 他のケルベロスたちも、たたみかけるように攻撃をくわえていた。
 ポートが巨大なガントレットで拳を握る。
(「いつもと同じような感じです。勝てばよし、負ければ被害が広がる。つまり勝てば問題ないのです。……まあちょっと心情的に同情しそうですが」)
 だが、同情はあっても手加減はない。
「こちらも張り切らせていただきます。私の拳とあなたの力、どちらが勝るか勝負といきましょう……!」
「おう、来い!」
 ガントレットから炎が漏れる。
 一歩下がった位置から飛び出して、ポートの拳がギリキンを狙った。
「燃え盛れ!」
 豪快に叩きつけた拳を敵が受け止める。だが、拳は止まらない。ガードを押しのけ、あふれた炎がキリギリスを燃やす。
 激しい炎に焼かれながらも敵の動きは鈍らない。
 戦いはまだ始まったばかりなのだ。
 草原の上で、花壇の上で、敵味方が交錯する。
 痛烈な攻撃をしのぎながら、時折回避されつつもケルベロスたちは敵の体力を削る。
「行くよ、相棒!」
 標の持つブリキのハンマーが威力を最大限に引き出されて敵を打つ。
 ジドのガトリングが爆炎の弾丸を放ってさらにギリキンを燃やす。
 攻撃を加え続ける仲間たちの背後でキサラが黄金の果実を輝かせて、縁やジド、他の者たちに蓄積しているダメージを軽減していた。
 前衛と交戦する敵から物悲しい調べが聞こえてきた。
 戦いながら前翅で曲を奏でているのだ。
 桃太郎は愛刀を握る自分の手から力が拔けるのを感じた。
 聞いているだけで気力を根こそぎにされる感覚。
(「僕はあんまりタフじゃないので、やばそうですね」)
 普段は隠している翼を広げて、桃太郎は戦場を縦横に駆け巡る。
 髪に生えた桜が風に揺れる。愛刀を振りかざすと、天に無数の剣が現れた。
「しっかりと攻撃を弱めなくては」
 解き放たれた剣は戦場に降り注ぎ、ギリキンの身体を刺し貫く。
 剣の雨を縫ってオルトロスの犬丸も駆け、くわえた剣で切り裂いた。
「まだだ!」
 桃太郎を狙う敵の蹴りを代わりに食らって、犬丸が倒れる。
 もっともっと敵の攻撃を弱めなければならない。それが桃太郎の役目だ。
(「そして、花々しく散ってもらいましょう」)
 口には出さないが、正々堂々と宣戦布告までしてきた敵を仲間にしようすることに、桃太郎は賛成できなかった。
 倒れた犬丸に一度目をやってから、桃太郎はさらに戦場を駆ける。
 煉が天を翔けるように跳躍し、流星の輝きをともなって蹴りを叩き込む。
 縁は敵の動きが鈍ったところで、『牙龍天誓』に地獄の炎を纏わせる。
「いつもの事だな、合わせるッ! お前も分かっているな!」
 ノーザンライトに声をかけ、アマツとともにギリキンへと向かう。
 鞘を振り下ろして地獄の炎を叩きつけると、オルトロスが持つ神器の瞳もにらみつけて敵を炎上させる。
「魔女ノーザンライトの名において。顕現せよ七色の聖剣……ノーザンライツセイバー」
 アマツとともに離脱したところへ今度はノーザンライトが踏み込んできた。
 左掌から引き抜いた七色の剣が薙ぎ払い、炎の勢いをさらに増やす。
「この炎は消させない。降参しろ」
 いつも通りのぼんやりとした表情のまま……それでも、魔女の声にこもっている気持ちを縁は感じ取る。
(「だが、それでも戦いをやめないなら……悪いが、私は最後まで付き合おう」)
 仮面の下で、縁は決意する。

●退けない理由
 戦いは続いた。やがてアマツも力つき、防衛役の縁やジドはすでに満身創痍だった。
 まだ立っているのは、桃太郎が回復されても何度も敵を弱体化させ続け、キサラが慣れないながらも回復に専念し続けていたおかげだろう。
 物悲しい調べが前衛を襲い、煉を縁がかばう。
「手痛い一撃か……だがな! 琥珀の意思よ! 私達に力を!」
 縁が鞘を天に掲げると、琥珀色に輝く粒子が周囲に広がった。
 キサラは攻性植物に黄金の果実を実らせる。
「お二人とも、まだ倒れられては困りますわ」
 果実から広がる光が傷ついた仲間たちを癒やす。敵の攻撃の威力に比べて十分な回復とは言えないが、キサラは強気な調子を崩さなかった。
「感謝する。私もまだ倒れる気はない」
「俺もだ」
 2人が言った。
 この強敵と友好関係を築けるならさぞや頼もしいことだろう。だが、それは難しそうだ。
 交渉が決裂したときは、確りと使命を果たすつもりだった。
「あなたが自分と仲間の為グラビティチェインを必要とするように、わたくし達も地球の民と仲間を死なせる訳にはいかないのですから」
 キサラはギリキンへ告げた。
「我が剣技の神髄ここに有り」
 凄みを感じさせる構えから、桃太郎の抜刀術が敵を断つ。
「崩れる。壊れる。砕ける。消える。無常の理、其の身に受けて……!」
 ポートの異形の両腕が激しく敵を打ち砕く。
 肩で息をしながら放ったギリキンの飛び蹴りが、ついに縁を打ち倒した。
 標は跳躍し、真鍮色の斧を振り上げた。
 蒸気の煙を吹き出しながら振り下ろした斧が頭部の外殻を割る。
 もはや限界が近い。
 振り下ろした姿勢のまま、まっすぐに標はギリキンの顔を見据えた。
「聞いてほしい。僕らは君達を殺したいわけじゃない」
 心を込めて、標は語りかける。
「もし地球で一緒に生きられるならそうしたいって思う。定命化することを受け入れれば、僕たちと一緒に生きることを望んでくれれば君達と僕たちは一緒に生きることができる」
 ギリキンは黙って彼の言葉を聞いくれた。
「お願いだ。僕は君の歌を冬になっても聴きたい。阿修羅クワガタさんとも楽しく話をしてみたい。もう争うのはやめて一緒に生きてくれないか」
「……ああ、別に俺も、お前らを殺したいわけじゃねえ。けどよ、その定命化ってのは、どうやったらできるんだ?」
「それは……地球の重力に魂を引かれたら……」
 だが、魂を引かれるというのは果たしてどういう状態なのか教えろと言われても、答えようがない。そもそも望んでできるような類のものなのだろうか。
「俺たちに必要なのは、たった今なんだ。今すぐに、滅びかけてる仲間を救える方法じゃなきゃ意味がねえ」
 まっすぐ標の目を見返し、ギリキンは告げた。
「でも、もう限界のはず。誇りはあるだろうけど、ローカストとして生き残って」
 ノーザンライトも呼びかける。
「誇りなら捨てられたかもな。けど、仲間は捨てられねえんだよ」
 太い膝を曲げる。再び必殺の飛び蹴りを放つ姿勢だ。
 2人はとっさに距離をとった。後衛の彼らに飛び蹴りは届かない。
 ジドは跳躍した敵を真正面から迎え撃つ。
 この一撃を食らえば、おそらく自分は倒れるだろう。だが、この一撃をしのげば、仲間たちが必ず敵を倒す。
「貴様にどんな思いがあろうと、我らケルベロスはそれを看過しない」
 攻撃を防ごうとしたドローンごと、ギリキンの蹴りがジドをとらえた。
 激しい衝撃がまず胸に、それから背中に感じられた。
 地面が削り取られている。野次馬たちまでは届いていないことを確かめて、ジドは意識を失った。
 煉は右手を青白い闘気で包み込む。
「あのクソ神を助ける……か。ったく、宗教ってのはマジ厄介だな。ほっとけばお前らだけなら生きられたんじゃねぇのかよ」
 烈火の闘気は見る間に蒼き狼となった。
 手抜きはしない。最後まで戦うというならば、全力で倒すのが礼儀というものだ。
「クソ野郎でも仲間は見捨てられねえさ!」
 跳ねるギリキンへ、炎の軌跡を描きながら追う。
「どうしても地球の仲間の命を奪うってんなら……守るのが俺らの使命だ。容赦しねぇ。これが親父から受け継いだ、俺の牙だっ!」
 蒼き炎は追いすがり、そして追いついた。
 魂さえも食らいつくすという炎がギリキンを焼く。
「ここまで……か。すまねえ、阿修羅クワガタさん……」
「名前は忘れねぇぜ、ギリキン。いや……菩薩キリギリス」
「俺も……死んでも覚えておくぜ……。神白……煉」
 ギリキンが膝をついた。
「それに……ノーザンライトに標、だったよな。悪いな、お前らの気持ちに……応えてやれなくて、よ」
 ローカストは荒れた公園に倒れこみ、そのままもう動かなかった。
 ノーザンライトが下を向いて、小さく舌打ちする。かつて救えなかったデウスエクスの姿が魔女の頭の中に浮かんでいた。
「終わりましたね」
「ええ、仕方ありませんわ」
 桃太郎とキサラが言葉をかわす。
 見物していた一般人たちが、ケルベロスの勝利に歓声を上げた。
「戦闘は終了しましたが、まだ騒動が終結したわけではありません。周囲には気をつけて行動してください」
 ポートが騒ぐ人々に呼びかけた。
「気持ちが伝わったのなら……できれば、応えて欲しかった」
 きっと、地球も彼らのことを大事にしてくれたはずだ。
 少なくとも、標はそう信じたかった。

作者:青葉桂都 重傷:ジド・ケルン(レプリカントの鎧装騎兵・e03409) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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