阿修羅クワガタさんの挑戦~高潔なる蒼き羽

作者:雷紋寺音弥

●舞い降りし羽
 兵庫県三田市。大阪や神戸の衛星都市として急激な発展を遂げた、二つの顔を併せ持つ田園都市。
 その日、駅前にある広場へと舞い降りたのは、美しく輝く蒼い羽を持ったローカストだった。
「私は、蒼輝のヘレナ、ローカストの戦士でございます。枯渇したグラビティ・チェインを満たす為、この町に住まう方々を襲撃し、グラビティ・チェインを略奪する仕儀に立ち至った次第です。止むを得ない事情とはいえ、私としても、真に遺憾の極みでございます……」
 やけに丁寧な物言いで、ローカストは呆気に取られている人々に告げた。だが、その手に握られているのは、紛れもない刃。昆虫の甲殻を削って作ったと思しき、切れ味鋭い刀だった。
 それでも、今直ぐにここで殺戮を行うつもりはない。そう言って、ヘレナと名乗ったローカストは、高々と刃を掲げて宣言する。
「勿論、戦う術を持たぬ者を狩るという行いは、私の本意ではございません。故に、私は呼びかけさせていただきます。ケルベロス……心に刃を抱き、弱き者の盾となるべく私と戦いなさい!」
 戦うからには、こちらも正々堂々と勝負する。その上で、強者たるケルベロスを撃退し、その戦いの結果としてグラビティ・チェインを強奪しようと。
 蒼輝のヘレナ。気高く美しいローカストの戦士の挑戦が、ケルベロス達に叩き付けられた瞬間だった。

●高貴なる挑戦
「広島での戦い、お疲れ様だったな。市民の被害もなく、イェフーダーを始めとしたストリックラー・キラーの連中も全滅させる事が出来た。さすがは、ケルベロスといったところだが……」
 そんなローカストの苦境を見て、新たなる者達が立ち上がった。そう結んで、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)はケルベロス達に、新たなる人々の危機について語り出した。
「ダモクレスの移動拠点『グランネロス』を襲撃した、阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達は知っているか? 連中は奪ったグラビティ・チェインを困窮するローカスト達に全て施した後、更なるグラビティ・チェイン獲得の活動に入ったようだ」
 もっとも、グランネロスのような大量のグラビティ・チェインを持つデウスエクスの部隊が、そう簡単に見つかるはずもない。その結果、彼らはやむなく人間のグラビティ・チェインを奪う決断をしたようだ。
「連中はケルベロスに対して宣戦布告をし、迎撃に来たケルベロスを正々堂々と撃破した後に、強敵との戦闘に勝利した報酬として人間からグラビティ・チェインを略奪しようとしているらしい。正々堂々と戦うための宣戦布告など、大して意味のない行動のはずなんだが……」
 そこまで言って、クロートはしばし言葉を切る。この意味の無い行動こそ、ローカストの窮状を救いつつも彼ら自身の矜持を守る為の、苦渋の決断なのかもしれないと。
「今回、向かってもらいたい場所は、兵庫県三田市にある駅前の広場だ。周囲には戦いの邪魔になるような物もなく、一般人も基本的に退避しているとは思うが……ケルベロスを応援するために、危険を顧みず観戦しに来ている者がいないとも限らないな」
 そのような場合は、彼らへの対処も必要になるだろう。その上で、ケルベロスへ宣戦布告した、ローカストとの戦闘にも気が抜けない。
「こちらに宣戦布告したローカストは、蒼輝のヘレナと名乗る蝶女だ。モルフォ蝶という種類の蝶は知っているか? あれが、そのまま昆虫人間になったものだと思えば話は早い」
 モルフォ蝶。南米原産の美しい大型の蝶であり、見掛けによらず素早い動きを誇る。敵のローカスト、蒼輝のヘレナも同様であり、時に慣性の法則を無視したような、凄まじい機動力を活かした戦い方を得意とする。
 ちなみに、彼女が愛用する武器は、昆虫の甲殻を削って作られたと思しき一振りの刀。その他にも、超加速からのキック攻撃を繰り出してくるなど、接近戦を主体とした戦い方を好むようだ。
「阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達は、一概に悪であると断ぜられないところもある。だが、連中が困窮するローカストの為に人間を襲うというなら、黙って見過ごせる事体でもない」
 戦いは避けられずとも、せめて彼らの宣戦布告に応え、正々堂々と撃破すること。それが、なによりの手向けになると告げ、クロートはケルベロス達に依頼した。


参加者
リーフ・グランバニア(サザンクロスドラグーン・e00610)
白波瀬・雅(サンライザー・e02440)
神無月・玲那(執行者・e02624)
水沢・アンク(クリスティ流神拳術求道者・e02683)
瑞澤・うずまき(ぐるぐるフールフール・e20031)
リー・ペア(ペインクリニック・e20474)
葉桐・雪乃(スノードロップ・e28093)

■リプレイ

●決闘
 駅前の広場に辿り着くと、そこはいつもの喧騒が嘘のように静まり返っていた。
「お待ちしておりましたわ、ケルベロスの皆様。この度は、私の挑戦を受けていただき、真に感謝致します」
 広場の中央にいた、蒼い翅の昆虫人間が一礼して言った。
 蒼輝のヘレナ。ローカストでありながら、その身に宿した騎士道精神は、紛うことなき本物なのだろう。
(「戦わなくても良いのが一番だけど……彼女は絶対に退かない。そんな気がする」)
 穏やかな物腰の裏に抱いた確かな決意を感じ、白波瀬・雅(サンライザー・e02440)はどこか共感のようなものを感じていた。
 もし、自分が同じ立場であれば、どうするか。きっと、同じように退くという選択肢を選ばないに違いない。誰かを守るための力になりたいという想いの前に、種族の違いなど些細なことに過ぎないと知っていたから。
「私は葉桐雪乃と申します。本日はよろしくお願いします」
 葉桐・雪乃(スノードロップ・e28093)が、ヘレナの言葉に答えて名乗る。その上で、彼女は改めてヘレナに尋ねた。本当に、これしか道はないのか。人々を襲わずにグラビティ・チェインを得る方法を共に探せないのかと。
「なるほど、『共存』というわけですね。確かに、力無き者を一方的に狩るというのは、私の本意ではありません。ですが……」
 そこまで言って、ヘレナはしばし言葉を切り、そして改めてケルベロス達に告げた。
 他のデウスエクスを倒して得られるグラビティ・チェインでは、困窮する同胞達を賄うには少な過ぎる。この地球を愛し、定命の理を受け入れるにしても、そもそも種族としてのローカストにとって、過剰なグラビティ・チェインに晒されることは、精神に支障を来たす諸刃の剣。
「過分な糧を得れば己を見失い、さりとて不足すれば飢餓感にて同じく己を見失う定め……。私どもが応分の糧を得るためには、これ以外に道は見当たりません故に……」
 どこか影を纏ったような口調で、ヘレナは静かに刃を抜く。蟲の甲殻より削り出されし刀の切っ先が、日の光を浴びて青白く輝く。
「あっぱれな性格のローカストもいるものね。でも、やる事が略奪である以上、見過ごすなんて出来ないわ」
「貴公のような勇士とは、もっと語り合いたいが……退く気は、無いのだろう……?」
 ローゼンシア・エストファーネ(吸血姫・e03662)の言葉に続け、リーフ・グランバニア(サザンクロスドラグーン・e00610)もまたヘレナに問う。その問い掛けに、ヘレナは無言で頷き答えた。
「問答無用で襲えば効率的なものを……非合理的、ですね。ただ……そこまで己の矜持とココロに殉じられるというのは、少し羨ましい気もします」
 見守るリー・ペア(ペインクリニック・e20474)。種族全体の飢餓である以上、やはり戦いは避けられない。この戦いは、恨みや憎しみに根差したものではなく、純粋なる生存競争に他ならないのだ。
「貴女とは正々堂々戦うつもりですが……その前に」
「隠れている人々を退避させたい、と仰るのでしょう? どうぞ、お気の済むまで御準備下さいませ」
「……!?」
 水沢・アンク(クリスティ流神拳術求道者・e02683)の制止に合わせ、ヘレナは刃の切っ先を降ろして告げた。
 まともに考えれば、隙だらけの彼女が先制を受けないという保証はない。しかし、それでも敢えてケルベロス達に合わせたのは、やはり彼女の高潔なる魂が成せる業か。
 神無月・玲那(執行者・e02624)が殺気を放って人々を遠ざけ、瑞澤・うずまき(ぐるぐるフールフール・e20031)が周囲に立入禁止のテープを張る間、ヘレナは何も仕掛けることなく、ひたすらに待ち続ける姿勢を崩さなかった。
「天魔ながらその意気や良し! 名乗ろう」
「お待たせしました。それでは改めて……」
 歩み出るリーフとアンクの二人。対するヘレナも再び刀の切っ先を上げて、己の背後に先端を隠すような構えを取り。
「グランバニアの白鳥の騎士(ローエングリン)、リーフ・グランバニア……参る!」
「クリスティ流神拳術、参ります……!」
 リーフが同じく二振りの刃を抜き放ち、アンクの袖口が地獄の業火で燃え上がる。白昼の駅前広場にて、種族の誇りと存続を掛けた、壮絶なる死闘が幕を開けた。

●蒼翅、舞う
 戦端が開かれると同時に、一斉に駆け出すケルベロス達。だが、そんな彼らの姿を見ても、敵のローカスト、蒼輝のヘレナは微動だにしなかった。
(「蒼輝のヘレナ。真っ正面から来るその姿勢、嫌いではありません。こういう形で無ければ、付き合えたかもしれませんが……」)
 間合いを詰めつつ、斬霊刀を引き抜く玲那。しかし、次の瞬間、広場の中央にあったヘレナの姿が、突如として蜃気楼の如く掻き消えた。
「……っ!?」
 脇腹に迸る痛みに、思わず顔を顰めて見れば、そこには擦れ違い様に斬り付けて来たヘレナの姿が。
「は、速い……」
「あんな動き……狙って捕捉できるかどうか……」
 常人には視認することさえ困難な機動性に、早くも雅と雪乃が驚愕の表情を浮かべていた。
 圧倒的な瞬発力と速度。そして、慣性の法則さえ無視した変則的な動きに、寸分の無駄もない鋭い攻撃。
 なるほど、単独で複数のケルベロスを相手に、挑戦状を叩き付けるだけのことはある。だが、それでも黙って倒されるわけにはいかないと、うずまきが自らのオウガメタルから光り輝く粒子を放出した。
「アンクさん、思いっきりやって!!」
 最前列で戦う者達の超感覚を覚醒させ、うずまきが叫ぶ。同時に、ウイングキャットのねこさんが放ったリングを避けてヘレナが飛んだが、それもまた作戦の内。
「任せてください、マキさん。期待には応えますよ……!」
 着地した瞬間を冷静に狙い、アンクが左の掌底を叩き込む。甲殻の隙間に叩き込まれた痛烈な一撃。思わず後退するヘレナに、続けて玲那が刃を振るう。
「この一閃を受けてみよ。神無斬!」
 斬霊刀が空を斬り、放たれた衝撃波がヘレナの翅を切り刻む。まともに斬り合っては機動性で不利だ。ならば、遠間から追尾する斬撃で、空間諸共に斬り捨てるしかない。
「どちらが虚無の申し子か、教えてあげるわ。ラヴァ!」
 ローゼンシアの命に軽く頷き、続けてビハインドのラヴァが斬り掛かる。さすがに、これは高々と飛翔して避けたヘレナだったが、その逃走経路は予測済みだ。
「わたしの炎に蹴られて消えろ!」
 紅蓮の蹴撃が生み出す三日月の炎が、真正面からヘレナに直撃する。横薙ぎに鎌で払えば、敵は上に逃げるしかない。それを見越して、ローゼンシアは敵の位置を先読みし、攻撃のタイミングを合わせたのだ。
「まだまだ! 次は私の番!」
 燃え盛る火炎に包まれて落ちるヘレナ目掛け、大地を蹴って飛翔する雅。そのまま空中で飛び蹴りの体勢を取り、流星の如く一直線に向かって行く。
「よし、捉え……っ!?」
 だが、そんな彼女の一撃を、ヘレナは横薙ぎの抜刀で受け止めて見せた。それだけでなく、そのまま強引に刃を降り抜き、蹴りの力を相殺して雅を吹き飛ばした。
「外れ……否、外された!?」
 辛うじて踏み止まり、雅は改めて敵を見据える。あれだけ追い込まれて見えたにも関わらず、相手は未だに余裕な態度を崩していない。
「うふふ……流石は、ケルベロスの皆様です。聞きしに勝る勇猛ぶりですわね」
「貴公に認められるとは光栄だ。ならば……」
 せめて、その期待を裏切らない戦い方をしてみせよう。そう結んで、仕切り直しとばかりにリーフが仕掛ける。互いの翼と翅を広げ、地上すれすれで斬り合う様は、戦場を駆け抜ける疾風の如く。
「夢に見た空中白兵戦……その相手が夢の胡蝶とは! 胸が熱いな!!」
 獅子座の重力を二振りの長剣に宿し、空間を十字に斬り裂くリーフの斬撃。炸裂した凄まじい衝撃はヘレナの甲殻に消えぬ傷痕を刻み込むだけでなく、その周囲の舗装道路にまで激しい爪痕を残して行き。
「フォローはこちらに任せてください。その間に、雪乃姉さんは敵の足を……」
 オウガメタルの力を解放しつつ、リーが雪乃に向けて言った。
 素早い敵を捕捉するには、味方の感覚を研ぎ澄ますのが必須。回復の足りない部分はテレビウムのスー・ペアに任せ、その間に雪乃が多数の魔法陣を出現させて。
「少しだけ本気を見せてあげるわ」
 召喚された無数の鎖が、幾重にもヘレナに絡み付き、その甲殻を貫いた。
「私の足を止める……そういう手で来ましたか。確かに、戦いにおける常套手段ではありましょう。しかし……」
 それでも、己の動きを阻む鎖を物ともせずに、ヘレナは横薙ぎに太刀を振るう。水の流れるような、刃の一閃。それは、全てを押し流す激流さながらに、ケルベロス達の纏っていた力さえも、一刀の下に斬り捨てた。
「勝負に小細工はなしですわ。さあ……死合いましょう、存分に!」
 再び宙を舞う蒼き翅。未だ留まるところを知らない敵の力を前に、ケルベロス達は改めて畏怖にも似た念を抱かされた。

●胡蝶の夢
 駅前の広場で繰り広げられる死闘。だが、それでも永遠に終わりのない円舞などありえない。互いの死力を尽くした戦いにおいても、それは同様のことだった。
 長引く戦いにより、ケルベロス達の消耗は激しい。しかし、それはヘレナとて同じこと。小細工なしに、純粋な速度の勝負に特化している彼女は、一度でもその身に炎や毒を受けてしまえば、己の力で振り払う術がない。
 長期戦は、お互いにとって不利だった。仲間の盾代わりになり過ぎた結果、ビハインドのラヴァは既にいない。その穴を埋めるようにしてスー・ペアが前に出ていたが、それは結果として瞬間的な回復力を低下させることにも繋がっていた。
「スーは玲那さんをフォロー。リーフさんは、私に任せてください」
 懸命に最前列の戦線維持に努めるリーだったが、いかに彼女が優れた癒し手であっても、蓄積したダメージまでは拭い切れない。悪戯に時間を掛け過ぎれば、冗談抜きでこちらが危ない。
「本当は彼女のように正々堂々と戦いたいけれど……私は彼女のように強い人間ではないから……」
 多少、忍びなさを覚えつつも、雪乃がヘレナの傷口を狙い、空の霊力を帯びた戦斧を叩き付ける。その一撃で、燃え盛る火炎が更に勢いを増し、ヘレナの翅が赤く染まる。
「……貴女の一番得意な技を使ってきてください。私は正面から殴りつけます。それで終わりにしましょう」
 ここまで追い込めば、勝利は近い。ならば、せめて最後は真っ向からの勝負で決着をつけようと告げるアンクだったが、しかしヘレナは首を縦に振ろうとはせず。
「最も得意な技、でございますか? それでは、正々堂々の勝負になりませんわ」
 それだけ言って、猛烈な加速と共に真正面から蹴り込んで来る。仕方なく、アンクも拳を構え、自らの最大奥義で迎え撃つ。
「これが今の私に出来る全力……! クリスティ流神拳術壱拾六式…極焔乱撃(ギガントフレイム)!!」
 重なる脚と拳の雨。衝撃にアンクが後退するが、手数は彼の方が上だ。
「さすがに……お強いですわね……」
 蒼き翅が、舗装道路を砕きながら地に落ちた。それでも強引に立ち上がろうとするヘレナだったが、そこは玲那とうずまきがさせなかった。
「もう誰も、ボクの前では死なせない!」
「斬らせていただきます……その魂ごと!」
 それぞれ、左右に散開し、交差するように斬り付ける。敵の胸元が十字に切り裂かれたところで、ねこさんが追い撃ちの爪攻撃をお見舞いし。
「一気に追い込むわ。ついて来れる?」
「ええ、合わせてみせるわ!」
 互いに頷き、ローゼンシアと雅が大地を蹴った。貫くような鋭い爪先が、打ち砕くような激しい踵が、それぞれにヘレナ目掛けて放たれる。対するヘレナも刃を盾に身を守らんとするが、今度ばかりは振り払えない。
「ここはあなたの居場所じゃない。還れ……黒き太陽の支配する世界に!」
「私の中のヴァルキュリアよ……今だけは力を貸さないで! 今だけは、自分の力で超えてみせる!」
 先程のアンクとの会話から、雅はヘレナの覚悟に気付いていた。
 ローカストである以上、ヘレナもオウガメタルを使役することはできたはずだ。それだけでなく、羽音を使ってこちらを撹乱したり、モルフォ蝶特有の毒を用いた攻撃も使えたかもしれない。
 だが、彼女は敢えてそれらを封じ、正々堂々とした小細工なしの勝負を選んだ。だからこそ、その覚悟を穢さないために、こちらも己の力のみで戦いたい。そんな雅の想いが、力に変わったのだろうか。
 強引に捻り込むような蹴撃に、ヘレナの身体が競り負けて吹き飛んだ。もう、彼女には満足に戦うだけの力も残されてはいないだろう。ならば、最後はせめて、必殺の一撃で葬るのが礼儀。
「餞だ! 我が守護星の一振りにて、常世への案内仕る!!」
 湖の乙女が変じた聖剣を手に、リーフが真正面から斬り掛かる。光輝の刃が描くは十字の軌跡。その傷口から迸る輝きがヘレナを包み、蒼き翅諸共に飲み込んで。
「お見事……でしたわ……」
 どこか満ち足りた様子で言葉を残し、粒子となって消え行くヘレナ。後には斬撃の余波で折れた刀だけが、鈍い輝きを放ちながら転がっていた。

●想い、繋いで
 戦いの終わった広場にて、ケルベロス達は霧散したヘレナへの手向けとして、簡素な墓標を作っていた。
「……墓とは、その人の生きた標しであると聞きます。ならばきっと、この刀こそが……最もふさわしいのではないかと」
 折れた刃を地面に突き立て、リーは仲間達に提案する。その言葉に、異論を唱える者は誰もいない。
「その魂に、改めて敬意を表しましょう」
「貴女は勇敢な戦士でした。安らかに、おやすみください……」
 玲那の言葉に続け、アンクがコートを脱いで墓標にかける。遺体がないのであれば、せめて弔いの意だけでも示したいと。
「全く。互いに侭為らぬな……御然らばだ、強敵よ……」
 そんな中、リーフは残された刀の柄を拾い上げ、改めてヘレナの魂に一礼した。折れた刃を鍛え直せば、彼女の高潔な魂も、受け継ぐことができるだろうか。
「本来ならば彼女と同じように、小細工なしで戦うべきだったわね。でもそう戦うことができなかった。まだ。私は弱いから……早く強くならなければ……」
「決意を見せたんだ。必ずこの蒼い空を守り切ってみせる……必ず」
 蒼穹の空を見上げる雪乃と雅の二人。そんな彼女達の想いもまた、無限の青空の彼方へ静かに吸い込まれて行った。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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