阿修羅クワガタさんの挑戦~誰が為の正義

作者:刑部

 富山県氷見市。
 寒ブリなどで有名なこの市の駅前。ドーン! という大きな音が響く。
「うおっ、なんだなんだ!?」
 天から何か降って来た様なその音に、人々が家屋から飛び出してくる。
 砂煙の中から立ち上がる人影……ならぬ虫影。
「ロ、ローカストッ!」
「いや、待たれい。何も直ぐに襲おうと言うのではない」
 それがローカストである事に気づき、パニックになる住人を静めたのは、他ならぬそのローカストであった。
「拙者はローカストの戦士キルカルデュア。枯渇したグラビティ・チェインを満たさんが為、この町を襲撃せざる得ない状況となってしまった。
 やむを得ぬ状況下とは言え、貴殿らには誠に申し訳なく思っておる」
 そのローカスト『キルカルデュア』はそう言って、じりじりと後退する町の人達に頭を下げる。
「だが、やむを得ない事とは言え、戦う術を持たぬ者を襲うは拙者の本位に非ず。故に拙者は貴殿らにケルベロスを呼ぶ事を依頼したい」
「ケルベロスを呼べだって?」
 続くキルカルデュアの言葉に、驚きとざわめきが広がる。
「然り。貴殿らを守る為に現れたケルベロスを撃破し、しかる後にその成果としてグラビティ・チェインを頂こう。さぁ、貴殿らは己の身を守る為、早々にケルベロスを呼び出すのだ」
 腕を組んだまま大きく頷いたキルカルデュアは、そう言って赤いマフラーを風に棚引かせたのだった。

「広島の下水道での戦い、ご苦労さんやったな。みんな頑張ってくれたから成果は上々や。広島市の被害はゼロに抑えたし、イェフーダーをはじめ、ストリックラー・キラーのローカストも全滅できたわ」
 杠・千尋(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0044) が、近くに居たケルベロスの肩を嬉しそうにバンバンと叩く。
「特殊部隊のストリックラー・キラーが全滅したし、ローカストの動きはほぼ封じたと思ってえぇやろ。グラビティ・チェインの枯渇状況も極まっとるやろし、太陽神アポロンとケリつける時も近い筈や」
 千尋の説明に頷くケルベロス達。
「せやけど、このローカストの苦境を見て、立ち上がった者がおる。
 ダモクレスの移動拠点『グランネロス』を襲撃した、阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達や。
 奪ったグラビティ・チェインを困窮する同胞達に全て施した奴さんらは、更なるグラビティ・チェイン獲得の活動に入りよった。……せやけどグランネロスみたいな、大量のグラビティ・チェインを持つデウスエクスの部隊が簡単に見つかる訳あれへんわな」
 ケルベロス達の瞳を見ながら、千尋は説明を続ける。
「で、奴さんらはやむなく人間のグラビティ・チェインを奪う決断をしたみたいや。奴さんらは、自分らケルベロスに対して宣戦布告をし、迎撃に来たケルベロスを正々堂々と撃破した後、戦闘に勝利した報酬として人間からグラビティ・チェインを略奪しようとしとる」
 ローカストからの宣戦布告と言う言葉に、微かなざわめきが広がる。
「わざわざ正々堂々と戦う為に宣戦布告をするっちゅーのは、デウスエクスとしては、まぁ意味の無い……むしろマイナスにしかなれへん事やわな。
 せやけど、この意味の無い行動こそ、奴さんらの同胞窮状を救い、自分らの矜持を守る。その苦渋の決断なんやろう。
 阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達は、性質から言うたら悪やあれへんと思う。せやけど……奴さんらが困窮する同胞の為に、人間のグラビティ・チェインを奪おうとするなら……」
 千尋の顔がより一層真剣なものになる。
「ケルベロスにとって、許されざる敵っちゅー事になるわな。
 戦いは避けらへんやろうし、奴さんらの宣戦布告に応え、出来るんやったら正々堂々とした戦いで撃破してやって欲しいんや」
 と千尋が一旦言葉を切る。

「で、富山県の氷見市に現れて宣戦布告してきた阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達は、タガメ型のローカスト……名前はキルカルデュアっちゅーそうや。
 氷見の駅前に現れて町の人らに呼び掛けた後、近くにある『ふれあいの森』の駐車場で、腕を組んで赤いマフラーを揺らして、自分らが来るのを待っとるわ」
 地図を広げて説明を続ける千尋。
「一応避難勧告は済んどるけど、キルカルデュアがケルベロスを打ち破るまで手を出せへん的な事を言うたから、自分らを応援しようとして来る人が居るかもしれへんから、ちょっとだけ気にしといて。
 駐車場には止まっとる車も遮蔽物も無い。そんで相手は正々堂々と戦う事を望んどる。それやったら正々堂々打ち破ったるだけやろ?」
 千尋の口元に八重歯が覗く。
「困窮した同胞の為にその身をなげうつ奴さんらは正義や。ただしそれはローカストの正義であって、自分らケルベロスや一般人の正義とは相反するものや。
 こっちの正義の為に、奴さんの正義を貫かせる訳にはいかんわな。みんな、宜しく頼んだで!」
 そう言って千尋は、ケルベロス達の肩を一人一人叩いたのだった。


参加者
福富・ユタカ(殉花・e00109)
リーファリナ・フラッグス(拳で語るお姉さん・e00877)
パトリック・グッドフェロー(胡蝶の夢・e01239)
星野・優輝(戦場は提督の喫茶店マスター・e02256)
大首・領(秘密結社オリュンポスの大首領・e05082)
アカネ・ローズクォーツ(幸せ宅急便・e13026)
一津橋・茜(紅蒼ブラストヘイム・e13537)
マティアス・エルンスト(レプリフォース第二代団長・e18301)

■リプレイ


「来たかケルベロス供、待ちわびたぞ!」
 赤いマフラーを揺らしたローカストの戦士キルカルデュアは、得物を手に近づいて来る者達を見て声を上げる。
「フハハハ……待たせた様だな。我が名は、世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスが大首領! よくぞ我が地元……っと、縦深に巡らせた我が策に掛った様だな!」
「なにっ!」
 危うく神秘のヴェールに包まれている筈の個人情報を漏らしそうになり、『ミミック』に蹴りを入れられ取り繕った大首・領(秘密結社オリュンポスの大首領・e05082)の言に僅かに眉……ないな……の辺りを吊り上げるキルカルデュアだったが、
「言ってみただけだぜ。オレは、パトリック・グッドフェロー!! ボクスドラゴンのティターニア共々いざ!」
 あっさりとブラフである事を告げたパトリック・グッドフェロー(胡蝶の夢・e01239)が抜いた刃が煌き、ボクスドラゴンの『ティターニア』も、黒いリボンの付いた尻尾を立て強く羽ばたき舞い上がると、
「喫茶店【高雄】団長、又は銀狐師団所属、星野優輝。キルカルデュアさんに一つ提案が、正々堂々全力で戦う為に少し時間をもらいたい」
 着帽で敬礼する星野・優輝(戦場は提督の喫茶店マスター・e02256)に敬礼を返したキルカルデュアは、構わぬという様に僅かに頷く。
「キルカルデュア殿、ご配慮に感謝でござる」
 その武士道に似た生き様に、嫌いではないなと感じつつ、福富・ユタカ(殉花・e00109)が礼を返して頭を垂れる。
「では、お待たせするのもあれだから、急いで貼るよぉー」
 垂れた耳を揺らしたアカネ・ローズクォーツ(幸せ宅急便・e13026)が、優輝と共に駐車場の周囲にキープアウトテープを貼り、ちらほらと見える見物者に退去を促してゆく。
「この作業が罠であるとは考えなかったのか?」
「わざわざ来るを待ってまでした相手に、更に嘘を重ねて罠に嵌めて勝って喜ぶ者が居るなら、それを見るのもまた一興と思ったまで」
 マティアス・エルンスト(レプリフォース第二代団長・e18301)の言葉にそう言葉を返すキルカルデュア。
「あ~か~い~マフラ~も~♪ その志も~♪ 格好良いですねー♪ では正々堂々と行きますか! 飛んで火にいる焼肉会場! 勇往邁進、わたし参上! ですよ!」
「ほんと赤いマフラーたなびかせて、とはなかなかにカッコいいじゃないか! さて、いざ尋常に勝負、だな」
 大きく頷いて組んでいた腕を解き、鍔鳴を起こして日本刀を鞘から抜いた一津橋・茜(紅蒼ブラストヘイム・e13537)が腰を落とし、リーファリナ・フラッグス(拳で語るお姉さん・e00877)もガントレットを打ち鳴らして腰を落とすと、テープを貼って戻って来たアカネと優輝も得物を構える。
「拙者の正義が貴殿らの正義と相容れぬ以上、後は刃を以て語らん! さぁ参れケルベロス供。拙者、全力を以ってお相手致そう」
 赤いマフラーを風に揺らし、鎌状の腕を大きく広げ瞬時越冬で防御力を高めるキルカルデュア。
 日本では最大の水生昆虫であるタガメ型のローカストに、ケルベロス達は地面を蹴って一斉に躍り掛かる。


「敵なんだけど、なんかカッコいいなー、種族の存亡とか抜きにして、思いっきりやりあいたかったなー」
 迫ってゆく仲間達の背中越しにキルカルデュアを見つめたアカネが、光輝くオウガ粒子を放出してその背を後押しすると、
「グラビティ・チェインを渇望しながら正々堂々と、……理解しがたいな」
 人の暮らしを始めてまだ一年ほど、戦時は効率を重視する戦闘機械としての思考が色濃く残るマティアスは、キルカルデュアの思考を理解し得ぬまでも、これが罠ではないと確信している自分に些か戸惑いつつ、現した光剣に地獄の炎を纏わせて振るう。
 その一閃が一番槍となるが、刃は鎌状の腕と激しくぶつかり大きな光が揺らめくと、リーファリナと優輝がそれに続き、左右からキルカルデュアを挟撃する。
「最初からクライマックス! 巨王キョムノケモノ――唸れ混沌の咆哮っ!」
 それらを体を回転させて捌くキルカルデュアに、内から解放される巨獣の力を赤きオーラとして現した茜。その三つ編みに纏めた赤い髪を揺らし、咆哮が重力波となって空気を震わせる。
「ぬっ……大気を武器とするか、なかなか……」
 その重力波に撃たれながらも、腕を振るってユタカとマティアスを押し返したキルカルデュアが、地面を蹴りマフラーを靡かせて迫る茜に視線を向ける。その茜を包む紫水晶の守り。
「大丈夫。この子がアナタを護ってくれるよー」
 ちらりと茜が見た視線の先には、同じ名を持つアカネが紫水晶の施された術具を手に、白いくせっ毛を揺らしている。
 その茜より早く、領の放った轟竜砲と共に、ミミックとティターニアを引き連れる形でパトリックが攻勢を仕掛け、押し返されたタイミングで
「隙あり、ですっ!」
 地面を這う様にして、滑り込む様にキルカルデュアの足を鋭く蹴り祓う茜。
「小賢し……」
「させない。俺が皆の盾となる」
 視線を下げたキルカルデュアがその茜目掛けて腕を振るうが、その腕が割って入ったマティアスに押し留められる。

「なかなか……慢心しているつもりはありませんでしたが、少し侮っていた様です」
 独りごちたキルカルデュアが天に向かって鎌状の腕を掲げると、具現化した黒太陽がケルベロス達を黒光に照らす。
「効かぬ効かぬ。白き光ならともかく、黒き光はこの我と悪の秘密結社オリュンポスの面々にとっては、日光浴にしかならんのだ」
 笑っているのだろう。肩を震わせる領だったが、膝がガクガクしており、さり気なくミミックが支えている様からも、やせ我慢しているのは明白であった。
「勝手に秘密結社のメンバーに加えないで欲しいな。さて、認識を改めて頂いたところ恐縮だけど、残念、私達はもう少し上だ。見せてやろう」
 生まれたての小鹿の様に膝を揺らす領にチクリと言ったリーファリナが向き直ると、上体を低く保って一気に距離を詰めに掛る。その頭上をティターニアの吐いたブレスが飛ぶ中、
「言うは易し、行動で示せ」
 そのブレスを裂く様に腕を振り上げ、迎え撃つキルカルデュア。
 ドン! と踏鳴を起こすリーファリナ目掛けて振り下ろされる鎌状の腕。顔を裂くその一閃が、全力で横に飛んだリーファリナのポニーテールをかすめ、銀髪が幾本か風に舞う。
「ゆけぃ、我がしもべ供よ!」
 オリュンポスコートを翻し、轟竜砲を放って掌を向け号令したのは、アカネから回復を受けた領。
 その号令が発せられるより早くリーファリナに続いていたユタカとパトリックが、しもべじゃねー! という言葉を呑み込み、腕を地面に突き立てたキルカルデュアに次々と一撃を見舞う。
「良き連携よ」
 その攻撃を受けながらも嬉しそうに反撃に出るキルカルデュアを、マティアスと茜が押えに掛ると、体を回転させながら腕を振るい後退するキルカルデュア。
 そこに回り込む形で攻撃を仕掛けた優輝を避け、咬み付こうとしたミミックを弾き返したところで、脇腹に走る激痛。
「ぬ!」
「行動で示したぞ。さぁ、譲れぬ正義の為、どちらかが果てるまで殴り合おう」
 顔を向けたキルカルデュアが見たのは、己の脇腹に拳をめり込ませ紫眼で此方を見上げるリーファリナの姿。
 剣戟の響きはまだ収まりそうになく、ふれあいの森の駐車場は汗と血に濡れてゆく。

 振るうナイフが鎌状の腕とぶつかり、鍔迫り合いとなった優輝は、
「あなた達と共同でデウスエクスと戦う事もあればいいと思ったんだがな」
 と緑縁の眼鏡越しに真直ぐな瞳を向け言葉を掛ける。
「強き者達と戦うならその可能性もあったであろうが、生憎と拙者は困窮する同胞を見捨ててはおけぬでな……」
 そこまで言ったところで優輝の後ろから三色毛を躍らせたユタカがまかり出て、左側から斬り掛る。
「その心意気は流石でござる。拙者も散るまでは咲き誇って見せる所存、いざ!」
 ユタカの繰り出す刃に加え、逆側からリーファリナもタイミングを合わせ挟撃しに掛る。
「然り然り、拙者もまだここで散る気はないぞ」
 声と共に黒太陽が具現化し、広がる黒光に仕寄った者達の視界が奪われる。
 その間に後退し回復しようとするキルカルデュアに領の攻撃が飛び、前衛陣には被害状況を見てアカネが的確に回復を飛ばす。
 その領の攻撃に合わせて踏み込んだのはパトリック。
「タガメは冬眠するんだったよな? これはどうだ。抜けば玉散る氷の刃!」
 冷気を帯びた刀身が冬の嵐を起こし、氷雪がキルカルデュアに叩き付けられた。関節辺りを覆う氷に一瞬顔をしかめたキルカルデュアだったが、再び距離を取ろうとするパトリックに向かって大きく踏み込むと、振り被った腕を振るう!
「ティターニア!」
 その一撃を、パトリックを庇う様にして受けたのはティターニア。
 大きく裂かれたティターニアの翼がパトリックの声に大きく開かれたが、そのまま力無く萎れ地面にうっ伏すと、パトリックが具現化した光の盾がその体を敵から護る様に包む。
 そのティターニアを裂いたキルカルデュアには、マティアスが取り付いて押えており、
「にーらめっこしーましょ!」
 くるっと体を一回転させたユタカが、ゴーグルをずらして黄水晶の如き瞳を晒すと、キルカルデュアは何かに撃たれたかの様に身を震わせて後退するが、
「逃がしません。大罪と制裁の鎌」
 掌に現れた炎と氷をぶつけ、放電と共に現れた鎌を掴んだ優輝が、同じ様に突っ込んだ茜と共に追撃を掛けると、その鎌をギリギリのところでかわしたキルカルデュアの首元、赤いマフラーが斬られて、はらはらと宙を舞って地面に落ちた。


「暫し、暫しっ!」
 掌を向けケルベロス達を制止するキルカルデュア。
 敵の言う事など聞く必要も無いのだが、その物言いに思わず得物を振るう手を止めたケルベロス達。
「おお……おぉ……」
 キルカルデュアは優輝に斬り落とされたマフラーを拾い上げ、慟哭している。
 無論、ケルベロス達も無為に攻撃を止めたのではなく、各自が息を整える間に回復が飛び、キルカルデュアを包囲する様にじりじりと陣を広げている。
「……失礼、お見苦しいところを……少し取り乱してしまいました。では……」
 キルカルデュアは待ってくれたケルベロス達に頭を下げ、再び鎌状の腕を広げる。
「フハハハハ……そのマフラーも貴様と一緒に埋めてやろう。――感じよ、此れがオリュンポスの片鱗だ、其に抱かれ安心してゆくがよい!」
 口火を切ったのは領。ジュデッカの衣を靡かせ一気に距離を詰めると、駐車場が爆発したかの如く凄まじい閃光と轟音が響き、キルカルデュアを撃つ。尤も過剰演出型である為、そこまでの威力は出ていないのだが、その攻撃は絶好の目眩ましとなり、キルカルデュアの足にミミックが喰らい付いた。
「これはティターニアの分だ。利子をつけてお返しするぜ!」
 領の放った雷光を刀身に収束させたパトリックが、迅雷の如き勢いの突きを繰り出すと、キルカルディアの体に亀裂が走る。
「おぉ……この拙者が……」
 亀裂の入る己の体を見て驚きの声を上げたキルカルデュアは、瞬時越冬で回復を図って守りを固めるが、
「ここは押し時だよねー、せーのっ!」
 弓を引き絞ったアカネから漆黒の巨大矢が飛び、キルカルデュアの右太腿を貫いた。
 そこにティターニアがブレスを浴びせると、
「くっ……動かぬ……」
 重ねられた麻痺が、黒太陽を具現化させようとしたキルカルデュアの動きを阻害する。
「攻撃軌道……計算完了。志は立派でだった……と、思うが……相手を見て喧嘩を売る事だ」
「ぶっ潰れろォォォ! ですよ!」
 マティアスの周囲。虚空を裂いて現れた幾多の剣が風を裂いてキルケルデュアに殺到して斬傷を見舞ったところに、咆哮と共に跳躍したアカネが赤いオーラを纏った両腕を組み、ハンマーの如く振り下ろす。
「ぐお……こんな……」
 マティアスの攻撃でいたるところから体液を滴らせ、茜の一撃に肩口をへこまされ、呻きながら蹈鞴を踏むキルカルデュア。
「さぁ、ここが画竜点睛。敵にするには惜しい傑物だったが、互いの正義が異なる以上仕方なしだ。いくぞ、優輝、ユタカ」
 呼び掛けたリーファリナが詠唱を紡ぐと、魔術円より次々と砲門が現れる。
「信条を貫く者は嫌いじゃないよ」
「ここが貴殿の散る場所でござる。拙者、しかと見届けん」
 白い海軍帽の鍔を上げた優輝が加速させたハンマーを振り回し、刃にグラビティ・チェインを乗せたユタカと左右から挟撃する。回避しようとするキルカルデュアだったが、足を貫く漆黒の矢と喰らい付くミミックによって、十分な回避行動が取れそうにない、そこに、
「……轟きをもって我が敵を討ち滅ぼさん」
 詠唱を結んだリーファリナが紫眼を開くと、砲門が一斉に火を噴きキルカルデュアに爆ぜ、撒き上がる黒煙の中ユタカの刃が首元を裂き、優輝の振るう鎚頭が叩きつけられると、キルカルデュアは尻もちを付いた様に地面にへたり込んだ。
「ここまでか……無念なり我が同胞達よ……」
 キルカルデュアはそう呟くと、自分を包囲するケルベロス達を見遣り、
「良き勝負であったぞ、ケルベロス」
「あなたもまた強敵でしたよ、友にはなれませんでしたが」
 紡ぐ言葉に茜が言葉を返すと、キルカルデュアは笑った様に見えた。
「キルカルデュア殿、介錯つかまつるでござる」
 そしてユタカの振るう刃により、ローカストの戦士キルカルデュアはその誇り高き生涯の幕を閉じたのである。

「なんか上手く言えねぇけど、惜しい人を亡くしたっつーか、いや人じゃなくて虫だから……」
 合掌したパトリックが頭を掻くと、
「うむ、惜しいな……我が組織の怪人候補として……あれほどの武人との相対は、嬉しくもあったぞ」
 領も仰々しく頷いて見せ、マティアスもせめて死神にサルベージされない様にと、誰にともなしに願っていた。
 その後、皆は壊れた個所にヒールを掛けて回っていた。
「せっかくだからー、ハロウィンっぽく飾り付けたいよねー」
「ヒール掛けたらファンタジーになるから、出来るんじゃないですか?」
 垂れた白耳を揺らすアカネ。彼女からもらったハンバーガーを頬張りつつ茜が言うと、
「やってみましょー。ハロウィンぽくなれー、ハロウィンぽくなれー、えいっ!」
 念じたアカネがアメジストを飾った術具を振るうと、穴のあいたアスファルトがみるみる修復され、何かが生えて来た。
「……門松……なのか?」
「門松でござろう……」
 優輝とユタカが顔を見合わせた様に、生えて来たのはどう見ても門松だった。
「思い通りにならないってところは女心に似てるな」
 微笑を浮かべたリーファリナが肩を竦める。
 こうしてローカストの戦士、キルカルデュアを倒した一行は、氷見の地を後にしたのであった。

作者:刑部 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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