阿修羅クワガタさんの挑戦~奴の名はG

作者:baron

「我が名はG」
 町に漆黒のローカストがやって来た。
 黒っぽいカナブンや、メスのカブトムシに似てはいるが、似て非なるアレに属しているようだ。
 直立不動でおびえる人々に力強く語った。
「我は餓えし同胞の腹を満たす為、この町を襲う者なり。
 だがローカストの戦士たる我は、漢たちが我が前に立ち塞がることを祈って居る。
 住民たちよ、我は全力で奪うつもりだが、そなたらの戦士が相応しき漢ならば勝負がつくまで町には手を出すまい」
 恐ろしげに、気味悪るげに遠ざかる住民たちを見て、漆黒のローカストは気にもしなかった。
 そういう事もあろう、仕方あるまいと言った風情だ。
 いや、ローカストは侵略者、端から嫌われることは覚悟しているのかもしれない。
「漢たちよ、我を止めて見せよ。我は強き戦士であるそなたらとの戦いを望んでいる。
 祈れ住人たちよ、漢たちが現われることを。我もそれを望んでいる」
 漆黒のローカストはそう言うと、住民たちを巻き込まない位置まで下がった。


「広島での戦い、お疲れ様でした。この戦いで、広島市民の被害はゼロに抑える事ができ、イェフーダーをはじめ、ストリックラー・キラーのローカストを全滅させる事が出来ました」
 ユエ・シャンティエが二帖の巻き物を手に説明を始めた。
 1つ目は、この間の広島の件が記載された物だ。
「特殊部隊であるストリックラー・キラーが全滅した事で、ローカスト軍の動きはほぼ封じられたといって間違いないでしょうなあ。グラビティ・チェインの枯渇状況も末期となっているはずなんで、太陽神アポロンとの決着も間近やもしれませぬ」
 ユエが2つ目の巻き物を広げると、そこには以前の戦いで見られたロ-カストの組織図が簡単に記されていた。
 他にも部隊のようなものは幾つかあるが、組織立ってグラビティを略奪する計画を立てそうな者達はあまりない。
「ですが、ローカストの苦境を見て、立ち上がった者達がいます。それは、ダモクレスの移動拠点『グランネロス』を襲撃した、阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達です。彼らは、奪ったグラビティ・チェインを困窮するローカスト達に全て施した後、更なるグラビティ・チェイン獲得の活動に入りましたが……」
 ユエはそこで言葉を切った。
 グランネロスのような、大量のグラビティ・チェインを持つデウスエクスの部隊が簡単に見つかるわけがない。
 つまりは人間を襲うほか無く、そうなればケルベロスも対抗するしかない。
 邪悪な連中はまだしも、性格の良さそうな相手と戦うのは気が引けるのだろう。
「その結果……、彼らはやむなく人間のグラビティ・チェインを奪う決断をしたようですえ。ただ、彼らはケルベロスに対して宣戦布告をし、迎撃に来たケルベロスを正々堂々と撃破した後に、強敵との戦闘に勝利した報酬として人間からグラビティ・チェインを略奪しようとしているのです」
 わざわざ正々堂々と戦う為にケルベロスに宣戦布告をするという行動は、意味は無い。
 しかし、この意味の無い行動こそ、ローカストの窮状を救いつつ、自分たちの矜持を守る為の苦渋の決断なのかもしれない。
「阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達は、その性質から悪では無いと思います。ですが、彼らが、困窮するローカストの為に、人間のグラビティ・チェインを奪おうとするならば、ケルベロスにとって、倒すべき相手でしょう」
 ユエはそう言って全員が理解するのを待つと、最後の一言を一息に告げた。
「戦いは避けられないでしょうが、彼らの宣戦布告に応え、可能ならば、正々堂々とした戦いで撃破してあげてください」
 他に結論は無い。
 他に懸念事項は無い、ならば闘って倒す以外に道はあるまい。
 少しだけ悲しそうな顔で、ユエは頭を下げた。

「ローカストの種族で、その、……属する科目はアレです。別に邪神の類では無いので、名前を触れてはならない訳ではないのですが……。地方によって太郎ちゃんとかGとか言われるアレになります」
 ユエはそこで少しだけ嫌そうな顔をした。
 いわゆるコックローチとか言うやつである。女性たちはどうして忌み嫌うのかと首を傾げる者も居るが、男の中にもそういう人はいるので気にしてはいけない。
「形状上、とても逃走・潜伏に向いているのですが、正々堂々とした勝負を望んでいるため、周囲の中で平たく戦い易い……スーパーの駐車場で待ち構えています」
 周囲の一般人達は避難しているのですが、一部にケルベロスを応援する為に危険を承知でやって来ている観客は居るようだ。
 だが、正々堂々とした戦いをケルベロスがする限り、ローカストの方も特に手を出さないし、巻き込まないようにするらしい。
「そうそう、1つだけ朗報というか、敵の戦い方が爽やかです。どうやら触れるのを嫌がる敵と正々堂々と戦う為に、グラビティで風を身にまとって攻撃を防ぎ、拳や手刀を繰り出してくるようですね」
 そういえば、コックローチは風に巻かれて良く飛ばされたり、逆に急接近して来る。
 そう言えばそんな気もするが、意外に律義な奴なのかもしれない。
「彼らは、滅亡の窮地に陥ったローカストの剣。決して引く事無く、ケルベロスが理性を持って正々堂々と戦う限り、彼らも戦ってきます。しかし、ケルベロスも無力な一般人を守る盾であり明日への架け橋。皆さんの勝利を信じていますえ」
 ユエはそう言うと、敵の情報や周囲の簡略図を描いた和紙を置いて、出発の準備を始めた。


参加者
天満・十夜(天秤宮の野干・e00151)
オルガ・ディアドロス(盾を持つ者・e00699)
アイン・オルキス(半人半機・e00841)
鏃・琥珀(ブラックホール胃袋・e01730)
ディクロ・リガルジィ(静寂の魔銃士・e01872)
柊・乙女(黄泉路・e03350)
ミゼット・ラグテイル(夕鈴・e13284)
ヒューリー・トリッパー(笑みを浮かべ何を成す・e17972)

■リプレイ


「賑やかですね……。死んだらそれまでなのに」
 打ち鳴らされるシャモジと、赤い法被のウェーブ。
 ミゼット・ラグテイル(夕鈴・e13284)は避けられる危険なのに、あえて見守る広島市民達の気分が上手く理解できなかった。
 これまで幾つかあった、逃げ出したら連鎖して恐慌が起きると言う状況でも無いのに。
「……ああ。地元の野球球団が、奴と同じGと言う常勝軍団と戦うらしい」
 こんなところにも呪術はしぶとく生き残って居る。
 柊・乙女(黄泉路・e03350)は薄く笑った後、仲間に浴びせぬよう注意して紫煙を吐いてから、煙草をもみ消した。
 視界の端で、ナニカが煙に揺られて陽炎のようにちらつくのが見える。
「だから、応援する事で我々が勝てば、野球選手を応援する時にも力が宿ると期待しているのさ」
「痛いの痛いの飛んで行けと同じ、ただの、気休めですけどね」
 表に出せる呪術があると言うのは妙な気分だし、消えていくだけの技術かと思っていたのに、こんなにも他愛なく存在する。
 そして、気休めの為に貴重な生命を代償にする市民たちを見て、不本意ながら殺戮者に対して正面から闘う覚悟を決めた。
 戦士たる者の気分は判らぬが、呪術師たる二人なりの覚悟である。

 彼女達がそう思った頃、他の仲間が観客達に声をかける。
「流れ弾がそっち行かないとは限らないから、頭低くしてぜーったい近寄らないでね」
 ディクロ・リガルジィ(静寂の魔銃士・e01872)はボリボリと頭をかいた。
 ケルベロスとデウスエクスとの戦いを見学するなど、危険極まりない。
 せっかくの応援を止める気はないが、声だけは賭けておこう。
「貴様ら。残るのは勝手だが今が非常事態である事、忘れるなよ。ディクロの言う通り、流れ弾までは保証できん」
「それと。これは本物の殺し合いだからね、乱入やフラッシュ撮影は禁止、いつでも逃げれる準備はしておいて」
 対象的にアイン・オルキス(半人半機・e00841)はキツイ言葉を掛ける。
 ディクロは続けて年の為の諸注意を与え……、ケルベロス達は硬軟使い分けながら、ひとまず戦場を整えて行った。

 そしてスーパーの駐車場という戦場に、一人の漢が待つ。
「さぁ、正面から来たぞ。望みどおりにな。貴様が望むまで……いや、貴様が力尽きるまで相手をしよう」
『それこそ我の望む処よ!』
 駐車場入りしたアインの視線の先に、直立不動で待ち構える黒き漢が居た!
 腕を組み目を閉じていたが、触角が楽しそうに揺れ始める。
「さて、せっかくの大舞台、名乗りでも上げますか!」
 ここでヒューリー・トリッパー(笑みを浮かべ何を成す・e17972)は、手を鳴らして注目を煽った。
「正々堂々と闘うのでしょう? だったら上げましょう、なぁに『挨拶』みたいなものです、挨拶……コレ大事ですよ」
 ヒューリーは愉快気に、チッチッチと指を揺らした。
 殺気立った気配が瞬時に無散するが、一同の緊張はそんなことで緩みはしない。


『改めて名乗ろう、我が銘はG! 漢たちよ、我らは種族の為に奪いに来たが、強き壁が立ち塞がることを望んで居たぞ!』
 生命と種族の存亡を賭け漢は名乗った。
 この挑戦に対して仲間達も奮起する。いまさら姑息に立ちまわる者や、初手暴走と言う愉快犯など、ケルベロスに居ようはずも無い!
 気持ち良く相対し、あるいは不承不承ながら血戦を挑む!
「ケルベロス、青烏師団所属、鏃琥珀……思う事はありますが」
 ただのローカストならいざ知らず、奴らは種族の危機に仕方なく、初めて非道な振る舞いを覚悟した。
 だがそれでも無力な相手に力を振るいきれぬという敵に、鏃・琥珀(ブラックホール胃袋・e01730)は一定の理解を示する。
「今はただ、全力でお相手いたします」
 しかし、それらこちらとて同じこと。決して認める訳にはいかぬと、琥珀は正面から思いを受け止める覚悟を決めた。
「静寂の魔銃士、ディクロ・リガルジィが、君を黙らせるよ。ところで……君は名乗らないのかい?」
「え、自分ですか? ヒューリー。ヒューリー・トリッパー、二つ名は……そうだな、ヒ・ミ・ツ。ということで」
 ディクロの突っ込みに、ヒューリーはボケ倒した。
 締めがこれでいいのか? と首を傾げた処で、周囲に大爆発が起きる。
「全員揃って地獄の番犬ケルベロス、ここに見参! なんちゃってな。景気付けはもういいだろ、さっさと闘うとしようぜ」
 天満・十夜(天秤宮の野干・e00151)は自らの名乗りをあげたあと、名乗る気のある全員が終わった処で、後方に色とりどりの花火を打ち上げた。
 戦隊物のノリみたいで恰好よく、観客達からは、シャモジを叩く音と赤いウェーブが起こる。
 気の良いケルベロス達は、何人かが顔を見合わせてポーズを決めてあげた。

 かくして名乗り終われば遠慮は不要!
 錯綜する思いと、交錯する技と技。
「……少し止まっててくださいねっ! 避けられ……なーんちゃって」
「もう一人、居るんだなこれが」
 ヒューリーの飛び蹴りをGはしゃがんで回避した。
 だがすれ違いざまに、もう一人。彼の影に隠れた、ディクロの飛び蹴りが敵を彼方に吹っ飛ばす。
 そう、二人は戦隊ポーズを決めた振りして、ツープラトン攻撃の打ちあわせをしていたのである。

 そしてこのまま吹っ飛ぶのかと思われた時!
 敵は喰らいざまに踏み留まり、ダメージでは無く、後退によりケルベロスが前に出る手間を惜しんだのだ。
『まだまだ、その力貰った!』
「(敵ながら天晴れな奴。だが俺は仲間を守る……人々を守る盾だ、この程度を攻撃防いで何にも成らぬと知れ!)」
 オルガ・ディアドロス(盾を持つ者・e00699)は静かな答えを出した。
 言葉では無く、体で語る肉体言語!
 盾を構えて突進し、仲間への攻撃を引き受けるとともに、反撃を食らわせたつもりだった。
 だが、見事にかわされ、手刀が彼の装甲をアッサリと貫くのが判っただけだ。
 ただ……不思議と高揚する自分に気が付き、戦いを愉しむようではまだまだ未熟と、笑みを浮かべそうになる口元を固く閉ざす。
 激しい戦いが待つだろう、それでも引けぬ戦いが、ケルベロス達を待ち受ける!


「あの動き……まさしくG! 喰らいたくねえし、喰らわせたくもないぜ。でもっ、そうも言ってられないか」
 低い姿勢でカサカサと動きまわる敵を見て、十夜は思わずゾっとしする。
 それはそれとして、嫌悪感があるから闘いたくないと言う訳にもいくまい。
 がんばれ男の子! と自分を叱咤して、全身にグラビティをまとった。
『死霊と氷塊、好きな方で逝っちまいな!』
 呪紋から繰り出される霊気が、死霊と共に、敵の身体を魔界に立つ氷樹の如く凍結させ始めた。
 しかし、それでも、敵の歩みは止まらない。
 ダメージは確りと受けているのに、なんという生命力だろうか!
『なんの! 凍ったのは、薄皮一枚よ!』
「では、こちらも冷気を……、残念。そういえば、こうやって凍らせて殺すタイプの殺虫剤って何処かで見たこと歩きがします」
 琥珀はライフルを構えて凍結波を放つがギリギリ回避されてしまう。
 残念だとは思うものの、それ以上に、敵の姿を見ながら……なんとなくGの生態を思い出してしまうマイペースな琥珀さんなのでした。

 格上のキャスターと戦う絶望感。
 だが、それに恐れなど抱くつもりはない。
「まともに当てられる気がせんな。だが……」
 この恐るべき状況に、アインは不敵に呟いた。
「臆するな! 挑戦して来た時から、この程度は覚悟していたはずだ『駆けろ……オーキスッ!』奴の鼻先に食い付いて見せろ!」
 アインは手綱を宙に踊らせた。
 ビシリと鞭打てば、激しい嘶きと共に、鋼のボディを持つ巨馬が顕れる。
 それに跨り戦場を掛け、回避しようとするGの横腹へ、猛烈な突進を掛けたのだ!!
「ふむ……。当たるも八卦、当たらぬも八卦。具象の八卦ではっけよしと言うやつだな」
 どんな確率であろうとも、成功するか失敗するかの二択。
 ななら成功するのだと、己に言い聞かせれば良いと乙女は居直った。
 どうせ時間制限など無いし、地道にやっていくだけの話である。
「そこまで行ったらシュレイデンガーじゃないですかソレ……まあ、当たらないなら当たるように天秤を弄るまでですから、どっちでも良いですけどね」
 ミゼットは腕を黒く染め上げつつ、フラスコから流体金属を波打たせた。
 投薬開始とばかりに放り投げ、周囲に散布することで風をまとう敵の動きを判り易くする。
 ただの薬ならば直ぐに霧散してしまうが、オウガメタルであれば勝利の天秤に載せるには良い分銅になるだろう。
「ではこちらも行くか……煉獄へ、沈め」
 乙女はまかれた銀を紫煙のイメージと重ねて、火のついて無い煙草をバトンのように振った。
 吐き捨てる息(意気)と共に、ナニカ何処かで見た顔が影から顔を出し、近くにあった亀裂の陰を占拠する。
 こうしてただの亀裂を大穴に見立てて、奈落へと引きずり込む為に襲いかからせたのだ。


『おう、亡者どもか。だがこの程度で、我を止められると思うなよ!』
「……羽虫のくせに生意気な口を効くっ」
 自分の技よりも、何かと重ねて見えたモノを他人に口出しされて、イラっと来る。
 だが乙女の怒りよりも先に、不快感が肌を奔る。
 審判者(さにわ)は巫女が降ろす神の善し悪しを定めると言うが……、そんな者は必要ない!
 束縛し、叩き粒為に、どんな力でも借りてやろうと、荒縄を陰で編み始めた。
「言葉で飾るな。真っ向から来い」
『そうするとしよう!』
 ミゼットは乙女が柔肌を百足どもに明け渡したのを見て、自身も気にしないことにした。
 両手に宿る羞恥心の熱さがサッパリと消える。
 残るのは、名誉のために満足のために、己の命を掛ける身勝手な漢の浪漫に対する怒りだ。
 手を黒く染め上げる文様すら、今は定規に変えるしたたかさで仲間の傷を治療にかかった。

「そっちもこの先生きのこるために必死なんだろうが、それはこっちも同じ! 弱肉強食という自然の理の下に白黒つけてやるぜ!」
 十夜は彼女達の静かな怒りに感化されて、所詮は奴も侵略者であることを思い出した。
 偉そうな口を効くが、生と死の対価に勝負を挑んだだけだ。
 ならばこちらもただ倒すだけと、登場時は飾りだった発破に、今度は力を載せて爆発させる!
「次々行きますよ。決して頭を上げさせません」
 琥珀は両手のライフルで連射しながら、次なる砲撃の為に重砲に弾を込めた。
 後方から展開するロングバレルに、グラビティが仮想の砲弾を創り出す。
 軽い反動を覚えた後、仲間達の攻撃と共に、爆発音が響いた。
「(物によって五割を切るか。だが……これで大台に乗せる)」
 オルガは盾を掲げたまま、ナイフを引き抜いて至近戦を挑んだ。
 現状の己の技の中で、最も当たる可能性のある技だ。自分は盾役とはいえ、それに甘んじるつもりはない。
 食らいつかせたナイフは相手の腱を斬り、仲間達が与えた負荷を増大させる。
 そうなれば、五~七割と言った自分の攻撃も、もっと通るように成るし、他の仲間ならば確実に受けるだろう。

 盾役が攻撃も担うことができる、ソレこそが、誰かを守る騎士の真骨頂。
 迫り来る蹴りで援護の結界を割られようとも、オルガは一歩も引く気が無かった。
『フン!』
「(なんとっ! ここが佳境、やらせはせん)」
 最強の盾であり、最高の矛。
 文字通りの矛盾を支えるのは、使いこなす人あればこそ!
 そして……最強の装備とは、ケルベロスに取って共に闘う仲間の事である!
「……縛って止まってくださいねっ!」
「もらった!」
 ヒューリーも再び左手に持つ紫の刃で負荷を増大させた後、右手に巻きつけた白いマフラーをするすると解いた。
 それが今度こそ敵に絡みついた処で、アインがハンマーに宿らせたグラビティを解き放つ!
 十重二十重に連なる重力の連鎖が、勝利に向けて連なって行くのが、誰の目にも明らかになっていく。


「定命化したものは全力で受け入れる努力をする、コレだけは全力で誓いましょう」
『その道を選んだ者には、頼む。さあ、最後の戦いを始めるとするか!』
 琥珀は命運の決まった戦いに、一応の声を掛けて見た。
 当然の如く、返って来たのは清々しいまでの拒絶!

 一端、恐怖を振りまいた者には、倒されることでしか完結しない物語りもあるのだ。
「では、終わりの物語りを紡ぎましょう」
「重力も罪深いよね。もしかしたら話せたかもしれない相手とも、グラビティ・チェインが絡むとこうし殺し合わなきゃいけないんだから」
 琥珀が難なく凍結光線を直撃させると、最初を覚えていたディクロはナイフを仕舞う。
 そして『先に寝ててくれないかなぁ』と、青白いリボンをまとった銃を放ち、永遠の眠りを演出する事にした。
 Gの体を蝕む痛みを取り払い、せめて愉しい戦いの中で逝けるように。
「もしヤバかったらさ、弟の事を頼もうとしたんだけど……」
「そんなの自分で見たらいいじゃないですか。だいたい、観客を巻き込んで暴走するつもりだったんですか?」
 付き合いきれませんと、ディクロへミゼットはいつもの調子でプンスカ。
 顔面全体に、とっても目にしみる御薬を振りまいて贈り出してやる。
「お、スピード勝負ですか? 良いですね。その前にっと……突貫しますっ!」
 ヒューリーは己の出番が、それほど残って無いことを悟ると、軽快に踊りかかった。
 死と共にタップダンスを踊り、鋭い踏み込みで襲いかかる。
「矜持と共に生きる、それも良かろう。ならば、そのまま矜持に斃れて死んでいけ」
「アグニ! これが最後の一撃だ」
 アインが鋼鉄の馬を召喚すると、十夜は巨大な氷を天空より降らせ、箱竜のアグニと共にコンビネーションを決める。
「全く……その心意気だけは感心しちゃうね。デウスエクス相手に好意的な感情を抱くのは、初めてだよ」
「そうだな。……そうだな」
 ディクロがトドメを刺すのを、オルガは少しだけ残念そうに見つめた。
 できれば自分で倒したいと思いつつ、倒しきれなかった事を、これほど残念に思った事も無い。
 願わくば、次に生まれ変わることがあれば、やはり強敵(とも)であらんことを。
『阿修羅クワガタはドラゴンにも勝る存在。……ならばお前達も、いつか同じ高みに届く、漢であると……信じよう。さらばだ!』
 倒れるはずだったGは、最後の気力で立ちあがると、天空に手刀を掲げて巨大なカマイタチを呼び寄せる。
 彼が自らの死体を消し去ると、戦いはようやく終わりを告げた。
「……最後まで騒々しい奴だったな。お好み焼きでも食べて帰るか」
 乙女は寒くなって来た風に、コートをミゼットに投げ帰還を始めた。
 煙草臭いと返す声に、少しだけ微笑みながら。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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