阿修羅クワガタさんの挑戦~強襲! グウェンゴ=ロウ

作者:長針

 大阪・淀川。その名の通り緩やかな流れを湛える水面に突如として水柱が上がる。
 そこから飛び出してきたのは、人に似た、しかし人では持ち得ない楕円形の分厚い甲殻に包まれたシルエットーーデウスエクス・ローカストだ。
 ローカストは空高く飛び上がったあと、河川にかかる鉄橋の頂上に降り立ち、
「あーテステス、人間たちよ聞こえておるか? 我が輩は阿修羅クワガタさんの気のいい仲間にして誇り高きローカストの戦士、グウェンゴ=ロウである。
 現在我が輩たちはグラビティ・チェインが枯渇して、もう大変ヤバい状態なのだ。このままでは皆が飢え死にしてしまうので諸君らからグラビティ・チェインを頂戴することになった。真に申し訳ないと思うが、我が輩たちも無力な人間たちを襲うのは本意ではない。
 よって、我が輩は布告する! ケルベロスよ、人間を守るため、我が輩と雌雄を決するのだ!
 我が輩は尋常に勝負し、強者たる汝らを打ち倒し、栄えある勝利とともにグラビティ・チェインを略奪することをここに宣言する!」
 野太い大音声で高らかに告げた。

 集まった一同を出迎えたのは溢れんばかりの書類を腕に抱えたセリカだった。
「皆さん、本日はお集まりいただきありがとうございます。まずは、先日の広島での戦いの勝利にお祝い申し上げます!」
 セリカは少し興奮した様子で皆を労ってから、書類を抱え直しローカストたちの近況を説明し始める。
「先の戦いでは、皆さんのご活躍により広島市民の被害はゼロに抑えられ、イェフーダーをはじめ、ストリックラー・キラーのローカストを全滅させる事が出来ました。
 これによりローカスト軍の動きはほぼ封じられ、グラビティ・チェインの枯渇状況も末期となっているはずなので、太陽神アポロンとの決着も間近に迫っているとみて間違いないでしょう」
 いったん言葉を切り、セリカが一同を見回す。
「しかし、このローカストの苦境を見て、立ち上がった者達がいます。
 それは、ダモクレスの移動拠点『グランネロス』を襲撃した、阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達です。
 彼らは、奪ったグラビティ・チェインを困窮するローカスト達に全て施した後、更なるグラビティ・チェイン獲得の活動に入りました。
 しかし、グランネロスのような、大量のグラビティ・チェインを持つデウスエクスの部隊が簡単に見つかるわけはありません」
 そこまで言って、セリカの顔がわずかに曇った。
「その結果、彼らはやむなく人間のグラビティ・チェインを奪う決断をしたようなのです。
 彼らはケルベロスに宣戦布告し、正面から戦闘に勝利した報酬として人間からグラビティ・チェインを略奪しようとしています。
 わざわざ正々堂々と戦う為にケルベロスに宣戦布告をするという行動は、意味の無いものでしょう。
 けれど、この意味の無い行動こそ、ローカストの窮状を救いつつ、自分たちの矜持を守る為の苦渋の決断なのかもしれません。
 阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達は、悪い方たちではないと思います。
 ですが、彼らが、困窮するローカストの為に、人間のグラビティ・チェインを奪おうとするならば、ケルベロスにとって、許されざる敵となります。
 戦いは避けられないでしょうが、彼らの宣戦布告に応え、可能ならば、正々堂々とした戦いで撃破してあげてください」
 皆を鼓舞するように告げ、セリカが書類をめくる。
「それでは周辺状況について説明させていただきます。敵はゲンゴロウ型のローカスト一体で、淀川河川敷にて待ちかまえているようです。人々は基本的に避難していますが皆さんを応援するため危険を省みず見守っている方々もいますが、相手も正々堂々とした勝負を望んでいるので人々に手を出すことはまずないと見ていいでしょう」
 書類の束から取り出した地図を机に広げ、セリカが目的地を指さす。
「次に戦闘についてです。攻撃方法はアルミの牙で食い破る、高い跳躍からのキック、腕から出した鎌で切りつける、羽を擦り合わせ破壊音波を放つといった四つのグラビティを使用してきます。能力としては俊敏と頑健が極めて高くダメージを与えるのが難しい相手です。攻め手としては確実に当てつつ状態異常を駆使する戦法が有効でしょう
 また、窮地に陥ると守りを捨てて能力ごと攻撃特化に変化させ猛攻を仕掛けてきます。特に、空に飛び上がり力を溜めた後は活性化しているグラビティ全てを連続で叩きつけてくるので全力で備えなければ総崩れの可能性もあります」
 そこまで言ってからセリカは姿勢を正し、
「仲間のために自らの誇りまで曲げて戦う彼らは確かに敬意を表すべきものでしょう。しかし、私たちも人々を守るという使命を持っています。皆さんなら私たちの誇りを示し、かの敵に打ち勝てると信じています。それではご武運を」
 皆に向かって一礼した。


参加者
メラン・ナツバヤシ(ハニカムシンドローム・e00271)
陸野・梅太郎(太陽ハウリング・e04516)
月神・鎌夜(悦楽と享楽に殉ずる者・e11464)
鷹司・灯乃(ウェアライダーのブレイズキャリバー・e13737)
中島・花桜梨(永遠の乙娘の子・e23049)
ルト・ファルーク(千一夜の紡ぎ手・e28924)
佐伯・誠(シルト・e29481)

■リプレイ

●荒天
 淀川河川敷。
「ケルベロスの皆さん、頑張って下さい!」
 風が強まり、嵐の予感を感じさせる荒天の中、そこには多くの人々が集まっていた。
「台風も近づいてるのに、こんなに観客がいるとはなあ。おいおい、府警のヤツもいるぞ……」
 周囲を見回した佐伯・誠(シルト・e29481)が思わず呆れ顔になっていた。
「わたし、みんなのためにがんばるよ~。さてーー」
 慣れた様子で観客に手を振っていた男の娘たる中島・花桜梨(永遠の乙娘の子・e23049)が老獪な顔でグウェンゴの方へと向き直り、左の掌に右の拳を当てる構えを見せた。
「たとえ相手の拳に斃れようとも、相手を恨まず悔いを残さず、天に帰る……その誓いが込められた、この国に古来から伝わる礼節の構えじゃ。僭越ながらこの中島・花桜梨、誇り高き戦士のお相手つかまつる」
「ふむ、どうやらなかなかの強者が集まったようであるな。こちらこそ、尋常に勝負する所存である」
 花桜梨の礼に対して、拳同士をぶつけ合う仕草を見せたローカストこそ、本日の戦いの場を用意したグウェンゴ=ロウであった。
「なら、あなたの強さも見せてもらうわ」
 言葉とともに鞘走りの音が響き、蒼い光を宿した刃が一閃される。
「ふむ、面白い技であるな」
「お見事。強い人は嫌いじゃないの、貴方は?」
 紙一重で刃をかわしたグウェンゴにエディス・ポランスキー(銀鎖・e19178)が微笑みかける。
「もちろん、でなければこのような場を用意しておらぬ!」
 胸を張るグウェンゴ。そんな彼に拳を手のひらで打ち付けて応えたのは陸野・梅太郎(太陽ハウリング・e04516)だ。
「敵ながら天晴れだぜ! 俺はそういうの好きだぜ!」
 犬歯を剥き出す真っ直ぐな笑みを見せる梅太郎。そこへ皮肉げに鼻を鳴らす音が響いた。
「仲間の為に誇りを曲げ、しかし正々堂々と戦いに興じるか。まるで英雄みてぇだな?」
 月神・鎌夜(悦楽と享楽に殉ずる者・e11464)が冷笑と苛立ちを混ぜ合わせたような目を向ける。 
「それは買い被りすぎである。我が輩たちはただ気分良く戦いたいだけの、戦闘バカなだけよ」
「フン、ならいいが……せいぜい楽しませてくれよ」
 口元に享楽的な笑みを浮かべ、鎌夜が挑発するように言った。
「……ねぇ、本当にこれしか方法が無いの?」
 俄に緊張が高まる中、沈黙を保っていたメラン・ナツバヤシ(ハニカムシンドローム・e00271)が口を開く。
「正直アタシはあまりアンタ達とは戦いたく無いのよね。……そりゃ、守んなきゃなんないもんがあるから、こういう場面で引くわけにはいかないけど」
 拗ねた口調でメランが告げる。そんな彼女の隣にルト・ファルーク(千一夜の紡ぎ手・e28924)が肩を並べ、
「ローカストの現状は理解しているし、種族の為に弱者には手を出さないという誇りを曲げてまで戦う覚悟は立派だと思う。でも、オレたちケルベロスにも守るべき人たちがいる! だから、お前たちデウスエクスに負けるつもりはない!」
 グウェンゴにジャンビーアを突きつけながら言い放つ。その言葉に頷きながら肩を竦めたのは鷹司・灯乃(ウェアライダーのブレイズキャリバー・e13737)だった。
「そやな、正々堂々来てもろてもあげられんもんがあんねん。お互いの筋を通す方法がこれっきゃないならしゃーない。ここは俺らの正義を通させてもらうだけや」
 気負いなく告げる灯乃にグウェンゴもまた頷き、
「その通りである、幼き猟犬よ。我々は本質的に捕食者にして略奪者。お主たちがこの星の守護者であることと同様にな。ましてや我が輩たち阿修羅クワガタさんと気のいい仲間たちは、生きるために戦うのではなく、戦いの中に生きることを是とした大バカ者どもである! ならば、やることは一つしかあるまい?」
 太い笑みを見せつけた。
「全部のデウスエクスがこうやって真正面から挑んできてくれたら助かるんだけどね……わかったわ。なら、アタシももう何も言わない。この星の守護者としての務めを果たしてみせる」
 決然と顔を上げるメラン。それを見て取ったグウェンゴは拳を構え、
「その意気や良し! ーー不撓不屈のグウェンゴ、推して参る!」
 一同の元へと駆け出した。

●不屈
「よぉ、グウェンゴ=ロウ! お前の喧嘩、確かに買ったぜ! 俺が居る限り皆を傷つけさせやしねえ! 鎌夜! エディス! 護りは引き受けた! 殴ることだけ考えて、後は任せろ! ーー行くぜ、狩りの時間だ!」
 黄金の毛並みを輝かせ、梅太郎が空へと咆哮を上げる。曇天をうがつかのごとき朗々たる遠吠えは、勇壮な響きそのままに聞く者たちへと浸透する。
「いいぜ、梅太郎! さぁ始めようぜ? 楽しい戦いをなァ! エディス、遅れをとるんじゃねえぞ!」
「アンタこそ前のめりになりすぎるんじゃないわよ、鎌夜!」
 鼓舞の声により感覚を鋭敏化させた鎌夜とエディスが疾走するグウェンゴの姿をその目にしかと捉え、正面から迎撃する。 
「武器も足も叩いて潰してやるよ! まずは……足だ!」
 グウェンゴが振りかざした手からのびた鋭い刃めがけて鎌夜が竜の轟砲を放つ。
「何人たりとも我が輩の歩み阻むことを出来ぬと知るがよい!」
 轟音と煙が巻き上がる中、グウェンゴが姿を現す。そこへエディスが手にした刀を一閃させる。
「そうかしら? アタシ、捕らえるのは得意なのよ」
 月明かりのごとき銀弧の刃が甲虫の脚に食い込む。グウェンゴは転倒しそうになるが、
「ぬう!?」
 即座に翅をはばたかせ飛び上がった。 
「その手はお見通しじゃ! 戦いの年季、お見せしようぞ!」
 老獪な声とともに花桜梨が大量の銃弾をばらまく。
「味な真似を……!」
 グウェンゴは即座に制動をかけて回避。代償として十分な高さを得られないまま蹴り足を突き出す。
「おっと、悪いな。ここは検問中だ」
 真っ正面から立ちはだかった誠が念動力を爆散させ、攻撃を押しとどめる。
「フハハハ、余程我が輩の動きを封じたいらしいな! そう来られると我が輩も応えたくなるではないか!」
 グウェンゴが咄嗟に蜻蛉を切り、後衛めがけて翅を擦り合わせた。
「来るわよ! ルト、灯乃、準備なさい!」
「言われなくても! いつでもいけるぜ!」
 メランの鋭い声にルトが待ってましたと言わんばかりに応じる。年少組二人の様子に灯乃は思わず目を細めた。
「若い子らは元気でええなあ。なら、大人も仕事せにゃあかんな。ほら、出番やでーー祝福を持っておいで、魔女の子ら」
 舌を細かく鳴らし、人差し指を振る、猫を呼ぶ仕草。その呼びかけに応じ、現れた黒猫たちが飛び跳ね、魔法円の軌跡を描く。瞬間、奇跡を宿した光が浮かび上がり、超音波を弾き返した。
「サンキュー、灯乃! 行くぜ、グウェンゴ=ロウ!」
「ぬうん!」 
 攻撃直後を狙ったルトの竜砲をを急降下でかわし、グウェンゴの足がズンと地面に突き刺さる。
「ありがとう、灯乃、ルト!」
 真っ直ぐにグウェンゴを見つめ、メランが分厚い装丁の本を突き出していた。本は独りでにページがめくれ、あるタイトルのところで止まる。
「『雪の女王』よ、歪める魔の鏡を我が手にーーアンタの心の強さ、試してあげる」
 メランの言葉とともに本の扉絵から悪魔が持った鏡が零れ落ち、割れた。氷のような鏡の破片はグウェンゴの身体に突き刺さり、甲殻ごと凍てつかせる。
「ぬ……!」
 幾つもの氷片を受けたグウェンゴの身体が傾ぎ、盛大な飛沫を上げて川の中へと吸い込まれる。同時に外野から歓声が沸き起こった。しかし、
「空にて墜ちず、水にて沈まず、陸にて屈さずーー難攻不落の我が甲殻、簡単に破れると思うでないぞ?」
 なおも壮健な身体を見せつけ、グウェンゴが水面から飛び出した。
 
●死闘
 観衆は息を呑み、誰も声を発することは出来なくなっていた。
「ハッ、やるじゃねぇかよ? なら失った分はテメェを喰らって補うとしよう」
「なんの! 返礼を受け取るがよい!」
 鎌夜の魂を喰らう拳が身体に突き込まれるや、グウェンゴは前脚の鎌で斬りつけ生命を吸い取る。
 互いを喰らい合う激しい攻防。そこへ空を絶つ斬撃が放たれる。
「そこじゃ!」
「そう来るか……!」
 傷をこじ開ける一撃を筋肉を盛り上げることによりダメージを最小限に抑える。
「お前さんらには邪道な闘い方と感じるかもしれんが、それだけわしらも全力をかけてるのじゃよ!」
 不本意そうな顔をする花桜梨。その言葉にグウェンゴは口角を吊り上げ、
「もとより戦いに邪道も王道もなし! ただ全てを尽くすのみ!」
 叫びながら破壊の音波を放った。
「同感だ! 結局は生き残ったヤツが勝ちだしな! だから、俺は仲間を勝たせてみせる!」
 黄金の毛を逆立てながら梅太郎が紙兵をばらまき、超音波を打ち消す。
「そうね。でも、こんなに血を滾らせてるのに眠らせようだなんて野暮じゃない?」
「その言い分はわからんでもない。だが我が輩、遠間の攻撃はこれしか持ち合わせてらんのでな」
 エディスが差し向けた黒い粘体をグウェンゴは翅を打ち鳴らし、弾き返した。その余波が波及しそうになったところで、無数に飛散したドローンがかき消す。
「やれやれ、みんな熱が入ってるな。だが、もう一押しってところか」
 ドローンを飛ばしながら戦局を静かに見つめていた誠が呟く。彼の言うとおり、攻撃も当たるようになっていた。そこへルトが一歩前に踏み出す。
「俺が行く。メラン、灯乃、援護してくれ!」。
「前に出過ぎよ。アタシたちは後衛なのよ!」
「……アイツ相手には前で戦いたいんだ! 貫き穿つ! お前の体も、その魂も!」
 メランの言葉を押し切り、高らかに叫びを上げ、ルトはジャンビーアの刀身を虚空へと差し込む。そのまま鍵のように回転させた瞬間、漆黒の異空間への扉が開き、その中から迸る雷霆をルトが掴み取った
「やってみるがいい! だが、我が輩も座して待つ気はないぞ!」
「もう、わかったわよ! その変わりキツいのお見舞いしてやりなさいよ! ロキ、手伝ってあげなさい!」
「キュー!!」 
 グウェンゴがむしろ嬉しそうに突撃してくるのを見て、ついにメランは観念し、相棒に進路を防がせる。それが僅かにグウェンゴの脚を遅らせた間、ルトが雷霆を後ろ手に構える。
「頃合いかな? よっし、いったりー」
 灯乃が鼓舞の地雷を発破、ルトの雷霆が光を増す。
「感謝する! 行くぞ、グウェンゴ=ロウ! 開門 ーー焦雷奔りし無間の晦冥ーー(イフタフ・ヤー・ラアド)!」
「ぐおおおおっっっ!」 
 全身全霊をかけて放たれた神の雷光にグウェンゴが初めて苦悶の叫びを上げた。
「まだだ、来るぞ!」
 敵の変化に気づいた誠が鋭い声で注意を喚起する。
「もはや守りは不要! グウェンゴ=ロウ、これより修羅に入る!」
 グウェンゴは翅を広げ、闘志に満ちた目を光らせた。

●終着
「オオオッ!」
 その苛烈な攻撃はまさに修羅のようだった。
 常時翅を展開することにより速度を上げ、縦横無尽の三次元軌道による一同へと容赦のない攻撃が降り注ぎ続けていた。しかし、翅を広げるため後ろの甲殻が開いた状態になっているおかげでダメージも蓄積しているようだった。
「……一気呵成、一撃必殺!」
 グウェンゴが空へと飛び上がり、先程までとは倍する速度で翅を羽ばたかせる。
「くるで、みんな! テレビウム、行こか!」
「PiPi!」
「ロキ、貴方もお願い!」
「キュー!」
 僅かに空いた隙を利 用し灯乃が鎖を張り巡らせ、テレビウムが鼓舞の動画で皆を力づけ、ロキが加護の光を与える。同時、グウェンゴが動き出した。 
「心して受けよ!」
「はなまる、ゴーだ! 絶対に防げ!」 
 初手は破壊の音波。すかさず誠が命じ、はなまるが果敢に立ちはだかる。
「バウ……!」
 波及する音の暴威を一身に受け、被害を最小限に抑える。代償としてはなまるは力なくくずおれた。
「まだまだ!」
「全て、受け止めてやる! かはっ……!」」
 急降下からの超高速の蹴りを受け、梅太郎が苦痛の声を上げる。
「よく耐えた! だが、まだ終わらぬ!」
  着地したグウェンゴは更に鋭い牙で食らいつく。そこへウルフェンが割り込んだ。
「ワオ……!」
 身体を牙で食い破られ、ウルフェンが倒れ伏す。
「これが、最後だ……!」
 命を刈り取る鎌が梅太郎に振り下ろされる、直前。
「……そこだ!」
「む!?」
 グラビティを中和するルトの粒子砲が鎌を直撃する。同時に誠が梅太郎の前へと立つ。 
「さすがに無茶のし過ぎだ……ぐっ!」
 鎌に切り裂かれ、誠も膝を折る。
「あとはわしらにまかせい! ーー明日を掴む為に……駆け抜ける!」
 花桜梨が低い姿勢で疾走。懐に入り込み、短兵のごとく急襲し、刃を閃かせた。
「ぐ……」
 懐の死角から斬りつける一撃にグウェンゴがたたらを踏む。それが嚆矢となった。
「仕込みはこんなモンで良いだろう?」
 鎌夜がにやりと笑みをうかべるやいなや不吉なまでに乾いた風が吹き付ける。
「刀でしか攻撃できないと思ったら大間違いよ。さぁまだまだ、真っ向勝負と行きましょうか!」
 エディスが血でぬめる刀を捨て去り、ペンダントを握りしめると、辺りに青い光が満ち溢れた。
 そして、二人は同時に動き出す。
「ーーさぁ、引き毟って滓も残さずバラ撒いてやるよォ!」
 広莫風のごとく過酷な掌底を一心不乱に打ち込む鎌夜。その過酷な掌底の嵐は空間を歪め、人を喰らう窮奇のごとく執拗に、獰猛に食らいつき、
「ーー第参術色限定解除。蒼に喰われろ」 
 青い光を宿した拳が多重の力ある残像と化し、無数の牙のごとく突き立ち、
「グオオオオオっ!?」
 ついにグウェンゴの甲殻を破砕した。
「今度こそ……!」
 沈黙を守っていた観客が叫ぶ。そんな中、グウェンゴは再び駆け出すが、
「む……ここまでであるか」
 その身体はすでに塵に変わっていた。
「酒って飲める? 良いものよ?」
 エディスが拳を降ろし、微笑みかけながらスキットルを差し出す。
「ありがたく頂戴する」
 震える手でグウェンゴが受け取り、一気にあおる。そこにルトがぽつりと呟いた。
「もしオレたちがケルベロスとデウスエクスって関係じゃなかったら、案外上手くやれてたのかもな」
「かもしれぬな。まあ、そんな相手との戦いも一興だ。今の戦いのようにな」
「それでもわしは祈るよ。次こそはお主のような稀な武人たちが地球の仲間として、生を受けれるようにな」
 老獪な顔でもアイドルの顔でもなく花桜梨が真剣な表情で告げる。グウェンゴは何も言わず酒を飲み続けた。
「……かたじけない。ではーー」
 エディスにスキットルを返し、グウェンゴは口元を拭う。そして、
「素晴らしき戦いに祝杯を! 猛き者どもに祝福あれ!」
 拳を突き上げると同時、グウェンゴは最後まで膝を地に着けることなく天へと還って行った。
 その瞬間、歓声が沸き起こり、喝采が鳴り響いた。

作者:長針 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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