『F』の消失

作者:宮内ゆう

●鶏に衣をつけて揚げたもの
 少年の目の前に置かれた袋から、一羽の鶏が現われた。
 それだけで驚きにたる話である。なぜなら鶏は香ばしい香りを放っていたからである。
 だが、驚き以上に喜びが大きい。
 鶏からのきつね色の塊が吐き出されてもその気持ちは変わらない。
 だってそれは彼の大好物、唐揚げだったからだ。
 誘惑に耐えきれず、少年はその塊に手を伸ばし、そっと頬張った。

「ってザンギじゃないかーッ!?」
 びっくりした少年は目を覚まして跳び起きた。もはや夢であると気付いている。
「なかなか新鮮な『驚き』ね。とても素敵よ」
「へ?」
 聞きなれない女性の声がして振り向こうとしたが、それよりも早く鍵のようなものが少年の胸を穿った。
「私のモザイクは晴れないけれども、ね」
 その言葉を聴きながら、少年は今まで眠っていたようにベッドに倒れこんだ。そして、現れるのは1体のドリームイーター――。
 
●北の大地より
 ドリームイーターに『驚き』を奪われ、新たなドリームイーターが生み出されるという事件、今回の説明を受けたシャウラ・メシエ(誰が為の聖歌・e24495)は、自分の予想通りの事態が起こったにもかかわらず困惑していた。
「え、と。なんだか同じような話をみたような……」
 それ以上はいけない。ウイングキャットのオライオンさんがそっと制止してきた。
「日本の南端から一気に北端へ……えっと、ザンギって、何でしょう?」
 日本での暮らしの浅い彼女にとってはわからないことが多すぎる。ザンギと言われてもピンと来ないのも致し方ない。
「狭そうに見えて、すごく広い国なのかも……」
 多種多様な文化という意味で。
 とはいえ感慨にふけっている暇はなく、ヘリオライダーである茶太の話は続いている。
「というわけでこのドリームイーターを倒してほしいのです。そうすれば、夢を奪われた子供も目を覚ますことでしょう」
 とにかく、現れたドリームイーターを倒せばいいのだ。
「ドリームイーターが現れるのは、被害者の少年のご近所、現れたらすぐ行動を開始するようです」
 つまり、住宅街で深夜。人通りはないので、周囲の心配をする必要はない。
「他に人がいないということは、皆さんが遭遇したら、襲ってきます、間違いなく」
 このドリームイーターの目的は、出会った人を驚かせて『驚き』を奪うこと。驚きを奪えるまで執拗に狙ってくることだろう。遭遇も逃走も心配することはない。
「敵の形状や能力は夢がもとになっているみたいですね……つまり鶏が動き回ってザンギ? いや夜中に鶏が動き回ってる時点でビックリなんだけど」
 夢では食べていたようだが、実体化したドリームイーターが放ってくるのはザンギのような弾であろう。食べ物ではなく攻撃だ。
 ともあれ、子供の無邪気な夢を奪い、あまつさえドリームイーターを作り出して事件を起こすなど看過できはしない。
「ちなみに、ザンギは唐揚げのようなものですが、どう違うのかと言われると難しいですね」
 諸説ある……というよりは曖昧なのだろう。北海道では魚介類を使ったものもザンギと言うそうで。
「とりあえず今回は、醤油、生姜、にんにくなどで下味をつけたもの、としておきましょうか!」
 方針が決まったところで、ケルベロスたちは出発した。


参加者
ラトゥーニ・ベルフロー(至福の夢・e00214)
エルトベーレ・スプリンガー(朽ちた鍵束・e01207)
リリウム・オルトレイン(星見る仔犬・e01775)
風音・和奈(固定制圧砲台・e13744)
ドミニク・ジェナー(激情サウダージ・e14679)
颯・ちはる(悪徳・e18841)
ジェミ・フロート(紅蓮風姫・e20983)
ユーロ・シャルラッハロート(スカーレットデストラクション・e21365)

■リプレイ

●北における命題のひとつ
 夜の住宅地をケルベロスたちが往く。
「へぇ、へーザンギってから揚げのようなものか」
「ようなもの、って辺りがなんともいえないよねー」
 先頭を歩くのがジェミ・フロート(紅蓮風姫・e20983)と颯・ちはる(悪徳・e18841)のふたり。周囲を警戒しながら進んでいた。
「鶏肉、高タンパク……つまり腹筋!」
「あー、うん。鶏肉とも限らないらしいよ?」
「なん……だと……!」
 困惑するジェミをよそに、ちふゆさんにまたがったままのちはるは後方に目を見やった。
「……なんか最近にも……デジャヴって言うんだっけ? こういうの……」
 意味深な呟きは後ろの誰にも聞こえなかった様子である。
「私はいつまでも失敗してばかりではありません、ちゃんと学ぶんです」
 なぜか顔を掌で半分ほど覆いつつ、エルトベーレ・スプリンガー(朽ちた鍵束・e01207)は自信ありげに言い、そして手を前に突き出した。
「さあ、ファミリアさんたち、ごーです!」
 しかし何も起こらなかった。
「あ、あれ……?」
「……あっち」
 ラトゥーニ・ベルフロー(至福の夢・e00214)に示された方を見ると、から揚げ箱と化したミミックのリリさんいっぱいに詰まったファミリアたちが、野性に目覚めたかのような狂った勢いでから揚げを取り合ってた。
「あら、なんかりっちゃん普段と違いません?」
 疑問に思い、から揚げ咥えた子を持ち上げた。どう見てもコウモリだった。
「それ、うちの子よ」
 さらりとユーロ・シャルラッハロート(スカーレットデストラクション・e21365)が答える。同時にエルトベーレの頭上に小鳥のリヒトさんが現われる。
「あっあっ、ごめんなさいっ、間違えてごめんなさいーっ!」
 脳天に怒りの乱れ突きが炸裂。キツツキもびっくりの速度、痛い。
「……唐揚げ食いてェ……めっちゃ食いてェ……」
 頭をつつかれながらどこかに走り去っていくキャバリア犬を見送り、ドミニク・ジェナー(激情サウダージ・e14679)は呟いた。もはやなんでもいいからから揚げ食いたい。
「ザンギーとかよくわからない、からコンビニで買ってきた」
「アレか……」
 ラトゥーニは勧めてくれるが、から揚げ箱だったリリさんは、すでにカラスに荒らされたゴミ箱のような惨状になっており、ちょっと手を出しづらい。
「ちゅーか、ザンギってなんじゃ。どこぞのプロレスラーみてェな名前じゃのォ」
「それ以上はいけない」
 即止められた。
「あー、んん。しっかしザンギとかから揚げとか、どう違うンかのォ」
「いちおう調べてはみたけど」
 首を捻るドミニクに風音・和奈(固定制圧砲台・e13744)が答えるが、やはりこちらも首を捻っている。
「調べれば調べるほど、ザンギと唐揚げの境界が曖昧になってきたよ」
「そんなンどないせェと」
 どうにもならない証明問題の袋小路に迷い込むドミニクに希望の光を与えるのはユーロ。
「そういえば、犠牲になった少年は、唐揚げとザンギをどうやって区別したのかしら」
 夢の中とはいえ、彼のしたこと。それは食べることだけだった。
「食べて分かるというなら……味つけも同じことを踏まえると素材が違うというのが有力……」
 そこまで呟いて和奈がハッと顔を上げた。
「つまり、このドリームイーターのザンギは魚介類なのよ!」
「な、なんだってー」
 これにはユーロもびっくり。まさか鶏の姿をした魚とは。
「ふふん、わたしは違いがわかるおんななのでしってます」
 今までの話をまるで聞いていなかったのか、リリウム・オルトレイン(星見る仔犬・e01775)がドヤ顔でやってきた。
「ザンギとからあげは、サーターアンダギーとどーなつぐらいちがいますっ」
「カタカナとひらがなくらい?」
「なんという天才……!」
 和奈の切り返しにリリウムが戦慄する。で、気を取り直して。
「つまり、ザンギは似ててもわっかではありません!」
「からあげもわっかじゃないけど」
「はッ……わ、わたしはどうすれば……」
 しらんがな、って顔してボクスドラゴンのばるどぅーるさんがから揚げ食べてた。
 それらを眺めてた先頭のふたりが顔を見合わせる。
「……まぁ、いろいろ味わえてラッキー? うん、そういう感じで!」
「なんか良くわかんないけどわかったわ!」
 正面に向き直って、改めてちはるとジェミが意を決した。
「今回は人身御供……違う、セティちゃんたちいないからちふゆちゃんもジェミちゃんもいっぱい食べてきてね!」
「まかせて! この腹筋にかけて!」
「うん、腹筋! 腹筋?」
 いろいろと疑問を抱えつつ、一行はドリームイーターに遭遇した。

●スクリュー投げ
 鶏の羽根が包み込むように身体をしっかりホールド、しかる後飛び上がり、相手の身体を逆さまにして、ともに回転しながら落下していく。
「きゃーーー!」
 真っ先にその技の餌食になったのは何故かリリウムだった。前にいたから仕方ないね。
「って、最早どっからどォ見てもどこぞのレスラーの技じゃねェか!」
 ドミニクの叫びも空しく技が炸裂、地響きとともに轟音が響き渡る。
 まさに一撃必殺というほどの勢い。だが、リリウムは巻き起こる砂埃の中からほんの僅かな擦り傷のみで戻ってきた。
「ふ、ふぅ……」
「ちふゆちゃん、フォロー行ってっ! こっちは……無事みたいだけど」
 ちふゆさんに守らせつつ、リリウムを癒やすちはる。無事で助かって何よりではあるが。
「アホ毛がなかったら即死でした……」
「どういうことなの」
 理解できなかった。
「せつめいしよう。アホ毛のバネを利用、して頭上で螺旋状に高速回転させ、ることにより激突の衝撃をやわらげたのだー」
「まるでわからないんだけど」
 和奈が解説が聞こえた方を向くと、ラトゥーニがうつらうつらと船をこいでいた。
「寝てるし」
 でこぴん。
「なんて強靱なアホ毛……でもあたしもこの腹筋なら!」
「私もこの胸なら!」
 なぜかジェミとユーロが仁王立ち。とにかくすごい自信だ。
 とはいえ一度仕切り直し。ケルベロスとドリームイーター、互いに距離を取り緊張が走る。
「おっきい! おっきい鶏さん!! 唐揚げ焼き鳥お酢煮に照り焼きー!!」
 そして一瞬で崩壊した。
 今日もエルトベーレは絶好調である。ハイルさんがおい黙れという目配せを送ってもお構いなし。
「あーもォ……」
 ため息なのか舌打ちなのか自分でもよくわからないものを吐き出すようにドミニクが言う。
「ベーレが言葉の飯テロしてくる所為でもうアレ、夜食にしか見えンわ! あのサイズなら食べ放題じゃ!」
「食べ放題!」
 なんかエルトベーレが反応してるがそれはおいといて、的確に鶏の足と羽根を撃ち抜く。
「とにかく動きを止めないと、か」
 察した和奈が鶏に距離を詰める。
「――なら1本、まとめてくれてやるよ!」
 至近距離から撃ち込むのかと思いきや、そうではなく身体に巻いたマガジンベルトを外し、鶏に巻き付ける。
 魔力によって麻酔弾が連鎖的に爆発、鶏の動きを鈍らせていく。
「ちょうどいいわね。羽むしって、ブツ切りにして、からっと揚げて、フライドチキンにしてやるわ」
 その隙を逃さず、ユーロが機械的な鎧の一部のように化した腕で鶏の守りを砕きにかかる。服破りが羽根むしりに相当するかどうかは永遠の課題である。
「下準備ねっ! 次は、お肉を柔らかくすればいいかな!」
 見事な連携、手際よく調理が進んでいるかの様子。ちはるが指示を出すと、ちふゆさんが鶏の上に乗り上げ、派手にスピン。
「いっけなーい、タイヤの跡ついちゃうかなっ?」
 ちはるちゃんしっぱーい、とてへぺろ。
「それなら、焼いて消毒すれば良いんじゃない!」
 蹴り上げると同時にジェミのエアシューズから放たれた炎が地面を走り、鶏に直撃して爆ぜた。
 夜の住宅街を明るく照らす鶏。
「ッケェェェェェ!!」
 鳴き声とともに鶏のキズが塞がっていく。身体を覆う炎など気にも留めないその勢いに、強敵の空気を感じたケルベロスたちだった。
「むぅ、いつになくピンチ、かも」
 危機を感じたのか、なんとラトゥーニが立ち上がった。
「あつまれー」
 幻影兵団。動きの同調する分身を作り出す彼女独自の技。
 その結果、ごろ寝するラトゥーニ、座り寝するラトゥーニ、立ち寝するラトゥーニが現われた。

●ウォールファイア
 そう、世界は残酷なのだ。
 彼女はそれを知っていた。けれども、いや、だからこそ彼女は認められなかった。
 そうでなくては辛いから。余りにも悲しすぎるから。
「何で! ザンギなのに! 食べられないんですかぁ!」
 吐き出されたザンギのような塊を性懲りもなく拾い食いしてぶっ倒れた上、鶏にガチ切れするエルトベーレ。そんな情けない主の姿に、リヒトさんとカイさんは抹茶ドーナツを食べ尽くすと決意した。
「うううぅぅ、ひどい、あんまりです……」
「気合いが足りない、リリならまだ、いける」
 鶏の放つ火炎弾を、ラトゥーニがリリさんでキャッチ。リリさんの中が燃えてる。めっちゃ燃えてる。
 燃えているといえば、鶏も相当燃えている。元気そうに見えるが相当消耗しているはずなのだが。
「おっきいし、活きがいいんだろうねぇ。ザンギ何人分かな?」
「ぶふっ」
 額に手をあてて遠くを眺めるようにちはるが言うと、なぜかドミニクが噴き出した。
 きっと何人分というのをヒゲ胸毛でカウントしたに違いない。
「とにかく焼鳥にしてやらァ!」
「それじゃ、お付き合いするねっ」
 ドミニクが爆炎を撒き散らしたところに、ちふゆさんが炎を纏って飛び込んでいく。鶏に体当たりをかまして延焼させ、離脱したところでちはるがエアシューズから炎を放つ。
 息をつく間もない怒濤の攻撃で、呼吸さえ出来ない勢いで炎が盛る。
「あぶないっ!」
 そんな中でさえ、反撃にとザンギのような弾が撃ち出されるが、素早くジェミがカバー。
「そんな食べられない弾じゃ、おなかの中までは通らないわね!」
 鍛え抜かれた腹筋で弾を弾く。痛みは平気。でも熱い。すごく熱い。
「このまま料理してあげるんだから、大人しく捕まってなさい!」
 お返しにと網状に練った霊力を投網の如く鶏に被せると、ばるどぅーるさんがブレスを放ってきた。タイミングばっちりの主従だ。
 動きもほぼなくなり、ただの的と言わん状態の鶏を前にして、和奈とユーロが背中合わせに立った。
「みんな、鶏をむしるとか焼くとか言ってるけれど……鶏だからってドリームイーターを食べちゃうの?」
「まさか。ドリームイーターは食べられないわよ。だから――」
 和奈のガトリング、ユーロのファミリアロッド、ふたつが同時に文字通り火を噴く。
「Grip & Break down!!」
 今宵の花火が盛大に弾けた。
 だが、爆炎が轟き、火柱が立ち上るなか、それでもまだ鶏は全身を炎に包みながらも未だその姿を維持していた。
 まだ戦うのかと、その異様な姿に驚く面々の前に立つのはリリウム。
「ここはわたしにまかせてください」
 いつになく頼りになる面持ちで前に進む。そして彼女の武器にして必殺技、手にした絵本を開く。
「きょうのえほんはこちら! 秋と言えばキノコだきのこ!」
 そして現われたのは帽子のようなキノコの傘を被った女の子。なんかよわそう。
「ごはんのとちゅうによびだすなんてひどいきのこ! こっちのつごうもかんがえるきのこ!」
 見も心も頭も弱そう。
「とりあえずいまためてるからまつきのこ」
 なんか女の子が後ろに下がり始めた。待ってもらえてるのは敵が瀕死だからだ。
「きのっこぶーっ」
 傘投げた。アイデンティティ投げた。
 しかし真っ直ぐ飛んでくる傘。いくら身動きできない鶏でもガードくらいは出来る。
 がッ。
 ガードした鶏は力尽きて倒れた。
「あ、削りダメージか……? しょぼっ!!」
 ドミニクの言葉に答えるものはなく、派手な戦闘の結末は実に静かなものだった。

●り
「ウリアッ上ー!」
「ウリアッ上ー!」
 謎の言葉でリリウムとドミニクが意気投合していた。そしてなんか回ってた。
 しきりに遊んだリリウムは、おもむろにリリさん(瀕死)に跨がるとちはるの元へ駆け込んでいく。
「みてくださいー、おそろいですー!」
「リリちゃん……ほろり」
 おもわず同情してしまう。
「リリリリリウムですー!」
「りがいっこ多いよ?」
「リリリウムですー!」
「こんどは少ないよ!」
「りりりり……はっ、まさかおねーさんは工作、撹乱、暗殺でわたしをまどわす裏の組織の者ではっ……」
「どうしてそこだけ流暢になるのかな。なるの……かなぁ?」
 何故かすごい笑顔で殺気が溢れてる。これはヤバイとアホ毛が警告してる。関係ないけどラトゥーニはいつの間にかまたコンビニでから揚げ買って食ってた。
「そんな事よりも、大事な疑問が残っているのよ」
 辺りの片付けが落ち着いたところでユーロが言いだした。
「から揚げとザンギの違いがまだ分かっていないわ。から揚げ食べたい」
「とはいえドリームイーターは、ねぇ?」
 とても食べられるものではないと、和奈が示す。そもそもすでに跡形もないけど。
「なら、チキンで良いじゃない。食べに行きましょ、みんなで!」
 ジェミが胸を張ると、賛成とばかりにばるどぅーるさんが手を挙げた。
「お肉食べたいわ」
「結局から揚げでもザンギでも良いんじゃない」
 これにユーロが同意し、和奈が納得しまとめた。
「そう言うだろうとおもって……」
 どこから持ってきたのか、ちふゆさんの上におおきな包みが置かれていた。
「むむ、これはから揚げ……」
「ザンギだよ」
 ステルスちからをあげ、闇に紛れる暗い色のダンボールで近づいたラトゥーニだがばれた。
 匂いで分かる。おいしそうな揚げ物が包みに入っているのだ。曰く、鶏肉だけでなく白身魚でも作ってみたとか。
「こんな所じゃなんだし、どこか休めるところ探して食べようか」
「寒くなってきたからね。身体を温めるのにもいいかもね」
 ジェミの提案に、和奈が頷く。
 こうして話がまとまったところで、ケルベロスたちはその場を後にした。
 箱を差し出した格好で固まったままのエルトベーレを除いて。
「まァ、なンだ」
 微妙な顔で頬を掻きつつドミニクが言う。
「この流れでドーナツを揚げてきたっちゅうガッツは認める」
「だって! 運動のあとは! 甘いおやつが! いいじゃないですかああああ!!」
 今日はキレ芸がキレッキレのエルトベーレはその場に崩れ落ちた。その場に残されたドーナツの箱からは満腹顔のリヒトさんとカイさん、そしてたったひとつ残された自家製餡子を挟んだ抹茶ドーナツがでてきた。
 もちろんドミニクが食べた。
「……はァ、ベーレのドーナツ、マジうっめェ」
 でも風は冷たかった。

作者:宮内ゆう 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 4/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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