阿修羅クワガタさんの挑戦~我儘な略奪者

作者:雪見進


 ここはとある大きな町。その町の一番大きい建物の屋上に立派な黄金の角のカブトムシ型ローカストが現れた。
「拙者の名はガルルガァ! ローカストの勇敢な戦士だ!」
 現れたカブトムシ型ローカストは大きな咆哮を上げる。同時に背負った旗を大きく揺らす。その旗には『威風堂々』の4文字。
「拙者らローカスト軍は誠に遺憾ながらグラビティチェインが不足している」
 そんなガルルガァが語る言葉はローカストたちが置かれている不利な境遇。無論、それはケルベロスたちにも分かっている事。しかし、それを敢えて語る意味は何だろうか?
「なので、不本意であるがこの街の人間を襲い略奪する事になった! 真に申し訳ない」
 続く言葉は堂々とした略奪宣言。『貰う』でも『捧げる』でもなく『略奪』と宣言するのはガルルガァの性格故だろうか。
「不本意とはいえ、止むを得ない事だ」
 不本意なら止めて欲しいところだが、そうもいかないのだろう。
「故に拙者は呼びかける。ケルベロスよ来て、拙者と戦い人間を守るのだ!」
 腰から剣を抜き、空へ掲げる。
「拙者は正々堂々と戦い、強者たるケルベロス達を撃退し、その報酬としてグラビティチェインを略奪しよう!」
 それが正々堂々なのか、正直分からないが少なくとも力なき人を襲いグラビティチェインを略奪するのだけはしない。それがガルルガァが自分に決めたルールなのだろう。
「さあ、拙者はあそこにて待つ!」
 抜いた剣で指し示すのは、近くにある広場。そこで戦おうというのだろう。そして剣を鞘に戻してゆっくり移動するガルルガァであった。


「広島での戦い、お疲れさまでした」
 まずは無事に守る事が出来た広島のことに感謝するのはチヒロ・スプリンフィールド(ヴァルキュリアのヘリオライダー・en0177)。
「皆さんのおかげで広島市の被害はありませんでしたし、イェフーダーも含めてストリックラー・キラーのローカストも全滅させる事が出来ました」
 特殊部隊であるストリックラー・キラーがいなくなった事で、ローカスト軍の動きはほぼ封じられたと言える。さらに、グラビティ・チェインもほとんど残っていないので、太陽神アポロンとの決着も間近だろう。
「ですが、そんな状態だからこそ、立ち上がった者達がいます」
 少し寂しそうな顔で説明を続けるチヒロ。その者達はダモクレスの移動拠点『グランネロス』を襲撃した、『阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達』だ。
「彼らは、奪ったグラビティ・チェインを困窮するローカスト達に全て施した後、更なるグラビティ・チェイン獲得の活動に入ったのです」
 しかし、グランネロスのような、大量のグラビティ・チェインを持つデウスエクスの部隊が簡単に見つかるわけが無い。その結果、彼らはやむなく人間のグラビティ・チェインを奪う決断をしたようなのだ。
「彼らは宣戦布告をして、皆さんに勝利した後に、その勝利の報酬としてグラビティ・チェインを略奪しようとしているのです」
 そんな行動を取る彼らに対して、うまく気持ちが表現出来ない様子のチヒロ。正直、そんな行動を取る意味がよく分かっていない様子だった。
「『阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達』は、その性質から悪では無いのかもしれません」
 言葉を選びながら説明を続けるチヒロ。
「ですが、人間を虐殺してグラビティ・チェインを奪おうとする彼らを許す訳にはいきません。戦いは避けられません。ですが、せめて正々堂々とした戦いで撃破してあげていただけませんでしょうか?」
 そうお願いしてから、敵の戦力についての説明に移るのだった。
「ガルルガァさんはこの町の外れにある広場で皆さんを待っています」
 地図を広げて説明をするチヒロ。周囲は特に障害になるような物のない、戦いに向いた場所。もちろん町の人には避難をしてもらっていますが、ケルベロスを応援するために危険を顧みずやってくる人もいるようです。
「そして剣をメインに使用して戦います」
 剣を持っているのだが、これは他のローカスト同様にオウガメタルを剣の形状にしている。それを巧みに操り変幻自在な攻撃を仕掛けてくる。
「しかし、何らかの弱点がある様子です」
 色々と調べてくれたようなのだが完全には分からなかった様子。分かっている範囲でまとめて説明をする。
「彼らは決して引く事無く、正々堂々と戦ってきます。しかし、負ける訳にはいきません。危険を承知で応援に駆けつけてくれた人もいます。その人たちの為にも、頑張って下さい」
 そう言って後を託すのだった。


参加者
上野・零(シルクハットの死焔魔術師・e05125)
ククロイ・ファー(鋼鉄の襲撃者・e06955)
飯倉・味見(ストライカー・e09391)
リュコス・リルネフ(銀牙迸り駆ける・e11009)
白銀・ミリア(やさしいお布団・e11509)
皇・ラセン(地を抱く太陽の腕・e13390)
レイン・プラング(解析屋・e23893)
鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)

■リプレイ


「来たかケルベロス!」
 待っていたガルルガァは現れたケルベロスたちを歓迎の声で迎える。しかし、そのガルルガァの周囲には、結構距離があるとはいえ、多数の一般市民が集まっていた。
「で、これはなんだ?」
 その様子に少し困惑気味なガルルガァ。戦う力も無い一般市民がこれだけ集まっている現状に疑問を抱く。
「彼らは私たちを応援する為に集まってくれたのです」
 答えたのはレイン・プラング(解析屋・e23893)。同時に応援に集まってくれた人に軽く手を上げ答える。
「万が一にも乱入者が出るのは、お互い望まないでしょう?」
「無論」
「それでは、準備します。異論は……無いですよね?」
「異論無し」
 少し居心地悪そうな雰囲気ながらも、そんなレインと鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)の行動を止めるつもりは毛頭無い様だ。
「ここは、これから戦場になります。危ないので下がってください」
 市民に声をかけると、綺麗に整列して指示に従ってくれる。
「せめて、応援だけさせてください」
「俺の命、預けたからさ……後は任せる」
「頑張ってね」
 キープアウトテープで万が一にも入ってこない様にする奏過とレインに声援を送る市民。そんな中には足が震えながらも声援を送る人もいる。
 怖くても、ケルベロスの勝利を信じているから、応援に来たのだろう。
「……」
 そんな様子を敏感に感じたククロイ・ファー(鋼鉄の襲撃者・e06955)は一歩踏み出し、そして大きな声と同時にマントを翻す。
「病は気から、だ。応援すんなら揺るがず、最後まで宜しく頼むぜェ!」
 翻したマントが黄金に輝くと同時に背中に浮かび上がる『心』の一文字。
「自分もやるっす」
 ククロイがアルティメットモードを発動させたのに合わせ飯倉・味見(ストライカー・e09391)も同様に変身する。
 その姿は魔人のような恐怖を感じる外見。しかし、その魔人も味方であれば頼もしい存在。そのまま静かに闘気を燃やす味見。
 そんな二人の変身に湧き上がり声援を送る市民たち。
「人数的に多勢に無勢だが許してくれや」
 応援する人達を鼓舞したククロイはそのままガルルガァに言葉を投げる。
「問題無し。拙者と主らは八人で同等!」
 その言葉を受け止め、投げ返すガルルガァ。自分よりも弱い相手を倒して誇るような相手ではない。
「同じローカストでもイェフーダー達とは随分違うんだね」
「拙者の方がローカストの中でも異質だがな」
 リュコス・リルネフ(銀牙迸り駆ける・e11009)の言葉に軽く笑って答える。
「敵ながら真っ直ぐな姿勢は好きだよ」
「……そうか。そう言われるのも悪くない」
 そんなリュコスの言葉に視線を逸らしながら自虐の言葉を飲み込む。飲み込んだ言葉は、無抵抗の一般市民を虐殺する事だろうか。
「そっちが勝てばグラビティチェインを貰う……」
 皇・ラセン(地を抱く太陽の腕・e13390)はその言葉と同時に応援に来てくれた市民に視線を向ける。声が聞こえて居たのだのだろう、一番大柄な男性が自分の胸を叩く。
「OK、いいよ」
 その男性の覚悟を見て、ラセンは答える。応援に来た人は覚悟を決めている。もっとも、誰もケルベロスの勝利を疑っている様子は無い。ただ、自分の覚悟が何かの役に立てばと思っているだけだ。
「だけど、こっちも要求させてもらう……そうだねぇ……アポロンどもに義理立てする必要、ないんじゃない?」
 そんなラセンの言葉に少し困った雰囲気を漂わせるガルルガァ。
「……僕らが勝ったらこっち側に来てくれるとか……」
 上野・零(シルクハットの死焔魔術師・e05125)の言葉に静かに首を横に振る。
「それとも何らかの情報……というのはいかがでしょう?」
 ラセンと零の言葉を引き継ぎレインが交渉の言葉を続ける。しかし、やはりより困った顔をするだけだ。
「チップは平等だ。不本意でもそう脅してくるってんなら、こっちは情報を聞き出させてもらうぜ」
 さらに白銀・ミリア(やさしいお布団・e11509)が押す。
「……残念じゃが拙者が出せる情報は無い。例え拷問されても殺されても仲間は売らぬ。主らもそうではないか?」
 それは想定出来た言葉だった。
「拙者に出せる札は自分の命だけだ」
 そう答えるガルルガァ。同時にオウガメタルを展開、武器を構える。
「……嫌なら戦わなくていいんですよ」
 オウガメタルに反応したのは奏過。自身のオウガメタル『鬼瓦』が同族との戦い方を躊躇しているように感じたのだ。しかし、その言葉に反応したのか、それとも気遣う優しさに反応したのか分からないが、奏過と思いを同じくするように身体を覆う。
「……」
 そんな奏過とオウガメタルの様子に何か言おうとするも、その言葉を飲み込み覚悟を決める。
「拙者の命とグラビティチェイン。釣り合うとは言わぬ。拙者の我儘だ!」
 その覚悟を決めた様子は、もはやどんな言葉であっても覆らぬ覚悟を感じさせる。
「いいねぇその心意気……敵だけど嫌いじゃないよ」
「かっけーじゃねーか」
 交渉を我儘で押し通す。それだけの覚悟を見せたガルルガァ。
「一応訊いておくけど定命化を受け入れる気は無いのかな?」
「すまぬが、その『定命化』というのは理解出来ぬ」
 そのリュコスの言葉に首を横に振るガルルガァ。『理解』というのが何を意味するのか分からない。
「……全力でいかせてもらおう……ッ!」
 その返答でケルベロスたちも覚悟を決める。
「さあ、来い!」
 そしてガルルガァの雄叫びのような声で戦いが始まった!


「一人ずつ首を貰う!」
 最初に動いたのはガルルガァ。オウガメタルの剣を正眼に構え、真っ向から味見の眉間を突く。
「……!」
 そこへカバーに飛び出したのはミミックのミミ助。身を挺してかばうも、そのまま貫かれてしまう。
「相手の一撃は強力です。お気をつけて!」
 その一撃を見た奏過が声を上げ、同時に掌に儚げに揺れる炎を作り出す。
「死人彷徨う夜の中闇に惑う者よ手を伸ばせ」
 掌の炎を自分の胸に宿し心に火を灯す。その心の炎が周囲の仲間をも暖め、戦いに勝利する為の熱となる。
「キミの剣も思いも全て受け切ってやる!」
 リュコスの気迫と同時にその背中にカラフルな爆煙が上がりケルベロスたちを鼓舞する。
「受けて立つさ!」
 覚悟を決めた以上は受けて立つだけ。流星の力を込めた蹴りでガルルガァの胸部を蹴る。
「あたしらだって負けられないんだ!!」
 ラセンの蹴りに合わせ、ミリアも流星の力を込め、同じ場所を蹴る。
「いい蹴りだ」
 ラセンとミリアの連続蹴りを受けるも微動だにせずに耐えるガルルガァ。
「その勇猛さ、ここで切除するッ!!」
 攻撃を受けても揺るがぬガルルガァの死角に回り込むククロイ。
「機敏だな」
 死角からの攻撃であっても冷静に反応するガルルガァ。そのまま味見から視線をそらさず耐える姿勢。
「斬り裂けろや!!」
 腕を高速回転させ、腹部を貫く。
「グッ……!」
 一瞬だけ揺れるも、すぐに体勢を立て直す。
「……そこか」
 そこへ踏み込む零。ブラックスライムを槍化させ、ククロイの反対側から甲殻の隙間を巧みに狙い突き刺す。
 さらにレインが反対側から流星の力を込めた蹴りでを繰り出す。
「こっちを見るっす!」
「主が倒れるまで刹那も視線を逸らさぬ!」
 連携攻撃の中で距離を詰めた味見。拳を握り一見デタラメにも見える連打。しかし、その一撃は重く、型が無い故に読みにくい。
「……グッ!」
 その攻撃を真正面から受けるも、そのまま真正面から反撃する。正眼に構えた剣を真っ直ぐ振り上げ、そのまま唐竹に振り下ろす。味見とは真反対な教本通りの斬撃だった。


 戦いは激しさを増していく。
「強いっすね……」
 最初から味見に狙いを定めてから、一瞬たりとも視線を逸らさないガルルガァ。さらに、味見を含むケルベロスの攻撃に対して避けたり受けたりという行動を一切しない。むろん、その甲殻で弾かれる事はあるものの、味見はそんな戦い方が楽しい様子。
 そんな味見の身体にはじわじわと呪紋がひろがっていく。
「でも負けないっす!」
 リュコスたちのカバーがあるものの、すぐに追い詰められていく味見。
 しかし、その笑みと共に魔神のような外見から感じるのは恐怖に近い感情。
「我に殺され喰われて尚利用され憎悪溢れ恨み深き、デウスエクスの残滓よ!」
 仲間の必死のサポートも間に合わないと把握した味見は、最後の一手を攻撃に切り替える。
「ならば、その恨みを持って奴を呪え!」
 デウスエクスの恨みを撒き散らす味見の攻撃をガルルガァは真正面から両断し、そのまま味見を貫く。
「……」
 その一撃で倒れる味見。残心の後、すぐに向き直り次に狙うのはククロイ。
「次はお主だ」
「おう、来いや! お前みたいな奴……俺ァ大好きだぜェ! ここからが本格的な術式開始だなァ!!」
 八人を相手に不足なしというのは、間違いではないようだ。
「ボクらの牙も……! 心も……! 折れる事はないよ!!」
 そんなククロイをサポートするように声を上げるリュコス。
「そうだろうな。心は折れぬだろう。しかし……牙は折らせて貰う」
 はっきり言い放ち、剣を上段に構え直すのだった。


 唐竹から逆袈裟に変化する変則的な斬撃。斬撃の中に幻影とフェイントを混ぜた攻撃に翻弄されずとも、攻撃を避け切る事は出来なかった。
「とことん付き合ってやるぞコラァッ!」
 叫ぶククロイであったが、手は上がらず足も動かない。倒れず膝も付かないのは本人の強い気迫故。
「待っていろ、残り六人倒したら付き合おう」
 もう戦えぬククロイから視線を逸らし次に狙うのはラセン。
「やっぱり、いいねぇその心意気」
 一人一人真正面から対峙し倒していく。そんな戦い方に、そんな言葉を返すラセン。
「拙者も同じ事。お主ら……我らの仲間に……いや、何でもない」
 言葉を再び飲み込み、攻撃を繰り出す。そのまま他のケルベロスたちの攻撃に耐え、ラセンを攻撃し続ける。
「これで終わりだ!」
 凄まじいガルルガァの攻撃はラセンを捉えた。その一撃で、身体から力が抜け、倒れ伏してしまう。
「ラセン……」
 次々に倒れていく仲間たちに、少なからず恐怖と動揺が走る。
「まだだ……」
 誰が見ても戦闘不能なのにラセンは口を開く。立ち上がる力は無い、腕を動かす事すら出来ない。しかし、口は動く。
「邪魔する感情を蹴り飛ばせ! 絡みつく不安に唾を吐け! 全てを失い全てを掴み取る我らを、壊せはしない! 昨日の恐怖はとうに崩壊した! 暗き泥の底だろうと、我らは生きようともがき続ける!まだ、死ぬには……早すぎるのだからッ!!!」
 最後の力を振り絞り、仲間たちを鼓舞するラセン。
「……」
 その様子をあえて静かに見つめるガルルガァ。
「そうだ。負けられない! あたし達だって、誰よりもそう想っているんだ!!!」
 ラセンの最後の力を振り絞る鼓舞に答えるミリア。地面を踏みしめ大きく両手を開く。
「受け継ぐ力を解き放て!!!」
 さきほど感じた恐怖と動揺を収束させ、それを砲撃のような強烈な一撃として解き放つ。
「グ……ガハァ!!」
 今までに無いほど、大きく身体を揺らすガルルガァ。身体の至る所から体液が溢れてくる。
 今までに必死に隠してきたダメージがミリアの一撃で溢れ出してしまったのだろう。大きく身体を揺らす。
「これなら、その甲殻も役に立たないね!!」
 そこへ攻撃を重ねるリュコス。
「これは神の火。禁忌の火。恩恵と災禍を以て全てを燃やす炎也!!」
 リュコスは懐に入り込み、そっと触れる。その触れた場所を超分子振動を送り込み、そこから発火溶解させる。
「ググガガァァ!」
 甲殻の一部が溶解し発火しているのに、それでもガルルガァは攻撃の手を止めない。起死回生を狙った奇襲攻撃。そこへ飛来したのは小さな礫。
「私達も負けるわけにはいきません」
 奇襲を完全に読みきったレインのカウンターに一度砕け液状に戻るオウガメタル。
「最後の一手、お願いします」
「……そうだね」
 奏過から生命力を賦活するエネルギーを受け取り動く零。
「……アンタが仲間達に与えた傷……」
 倒れた仲間達に一瞬だけ視線を向けてから、ブラックスライムを影のように足元に控えさせる。
「俺が今、ここで返してやるよ……」
 そのまま自身の地獄の炎と影と化したブラックスライムを融合させる。
「……一億倍にしてなぁ……」
 静かな口調ながらも力が溢れる言葉。それと共に地獄と融合し黑焔と化し、感知する事そら困難な一撃を繰り出す。
「……」
 零の一撃を受けたガルルガァは膝を付く。しかし、それでも戦うのを止めようともせずに必死に立ち上がろうともがく。
 しかし、それが不可能なのは誰の目にも明らかだった。戦いはケルベロスの勝利だ……。


「まだ、だ……。まだ……」
 それでも戦おうとするガルルガァ。
「こんな事が本当にやりたかったことなのか? 本当にやりたかった事は何だ?」
 そんなガルルガァの様子に思わずミリアは問いかけてしまう。そんな問いかけに、少し考えてから静かに口を開く。
「仲間達をグラビティチェン不足から救ってやりたかった……」
 手段は望まぬ方法だったが目的は違えていないようだった。
「……」
 しかし、それを叶えさせる訳にはいかない。人間の虐殺以外にグラビティチェインを大量に得られる手段があれば、そもそも起きてない戦いもあっただろう。無いからこそ戦争が起きているのだ。
「……もう一つあるな」
 重い沈黙を破ったのはガルルガァだった。静かにミリアの目を見つめ願いを告げる。
「介錯をしてくれぬか?」
「……!」
 その願いに一瞬、言葉が出ないミリア。そんなミリアの肩にそっと触れるのはラセン。
「そうしたいってんならさ……」
「わかったぜ」
 少ない言葉でも想いは通じる。ミリアは静かにルーンアックスを握る。
「感謝する」
 静かに目を閉じるガルルガァ。そして斧は振り降ろされた……。

「……お前の全て、視ました」
「お前の勇姿、俺のデータに刻んだぜ」
 ガルルガァを丁重に弔うククロイ。その墓の側から離れないオウガメタル。一瞬だけ微かな光を放ち、そのまま墓標のように動くのを止めた。その光は最後の輝きなのか、それとも最後に主人の願いを叶えてくれた感謝の光なのか……。
「……」
 そんな様子に奏過の身体をオウガメタル『鬼瓦』が一瞬脈動する。その意味は残念ながら分からない。
「さようなら……貴方は、貴方達はとても強かったです」
 そんな墓にスキットルの酒をあおり、そして墓にかける。そんな様子に『鬼瓦』が再び脈動するのだった。
 そして埋葬が終わると、周囲から拍手が沸き起こる。それは応援してくれていた市民からだった。
「皆も、応援ありがとうな!」
 そんな拍手に答えるケルベロスたち。最後の戦いも近いだろう。今は声援を胸に最後の戦いへと備えるのだった。

作者:雪見進 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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