阿修羅クワガタさんの挑戦~光琳のイルミラス

作者:秋月諒

●光琳のイルミラス
 山間から吹き抜ける風が、今日ばかりは止んでいた。漣のように揺れる木々も淡い影だけを落とす。天気の良い日だ。駅から程近い公園広場には多くの人々が集まっているーー筈だった。淡い、薔薇の色を羽に持つ『彼』がこの地に姿を現わすまでは。
「我が名は光琳のイルミラス。ローカストの戦士が一柱」
 広場の中央、その空間の中央に花カマキリのローカストは立っていた。
 ただ一人、部下を連れず。逃げる人々を追うこともなく声だけを響かせる。
「枯渇したグラビティ・チェインを満たす為、この町の人間を襲撃しグラビティ・チェインを略奪する」
 だが、とイルミラスは言う。
 戦う術を持たぬ人間を、戦士ではないものを力によって襲撃するのは本意ではない、と。
「故に我は告げよう。この身はここにあると。ケルベロスよ、この地に来るがいい」
 守護者たる其方たちの力を此処に示せ。
 そう言って、イルミラスはふ、と笑った。
「我が得難き強者達よ。正々堂々と戦い、強者たる其方たちに勝利しーーその結果として、グラビティ・チェインを強奪しよう」
 ピン、と張り詰めた空気の中、遠く聞こえる悲鳴に表情ひとつ動かさぬままイルミラスは告げた。これは宣戦布告である、と。
「これは真実我が矜持であり、其方たちから見れば勝手であろう。だが、我が身は戦士でな」
 拳を握る。あげた顔につく傷を晒し、それを誉れとして来た戦士は高らかに告げた。
「この身、この誇りにおいて勝敗決すまで彼らには手を出さん」
 故に、来い。

●戦士の矜持
「皆様、広島での戦いありがとうございました」
 レイリ・フォルティカロ(天藍のヘリオライダー・en0114)はそう言って、真っ直ぐにケルベロスたちを見た。
「勝利です。広島市民の被害も出ておりません。イェフーダーをはじめ、ストリックラー・キラーのローカストを全滅させる事が出来ました」
 特殊部隊であるストリックラー・キラーが全滅した事で、ローカスト軍の動きはほぼ封じられたといって間違いないだろう。
「ローカスト軍のグラビティ・チェインの枯渇状況も末期となっているかと思います。太陽神アポロンとの決着も間近に迫っていると見ていいでしょう」
 ですが、とレイリは顔を上げた。
「ひとつ、動きがありました」
 ローカストの現状ーーこの苦境を見て立ちあがった者たちがいるのだ。
「ダモクレスの移動拠点『グランネロス』を襲撃した、阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達です」
 あの一件で奪ったグラビティ・チェインを困窮するローカスト達に全て施した後、更なるグラビティ・チェイン獲得の活動に入っていたのだ。
「ですが……グランネロスほどの大量のグラビティ・チェインを持つデウスエクスの部隊が簡単に見つかるわけもありません」
 その結果、訪れるのはグラビティ・チェインの枯渇だ。
 ローカストはもう、その域に達してしまっている。
「こちらで掴んだ動きはその『彼ら』が、人間のグラビティ・チェインを奪うというものです」
 彼らの今までの行動パターンから考えればそれはやむなく下した決断とも言えるだろう。
「勿論それが、人間のグラビティ・チェインを奪うというものである以上許すわけにはいきません」
 それに、とレイリは言った。
「こちらで、動きが早々に掴めたのは、あちらから宣戦布告があったからなんです」
 ケルベロスに対する宣戦布告だ。
 自らは此処にいると告げ、迎撃に来たケルベロスを正々堂々撃破した後に強敵との戦いに勝利した報酬として人間からグラビティ・チェインを略奪する、というものだ。
「わざわざ正々堂々と戦うために、ケルベロスに宣戦布告するという行動は、略奪を目的とするのであれば意味は無いものでしょう」
 言うなれば、自らを戦士と告げたローカストの意地か。
「ローカストの窮状を救いながら、自分たちの矜持を守る為の苦渋の決断、とも言えるかもしれません」
 宣戦布告を、こちらから見れば勝手だろうとローカストは告げていたという。
「恐らく、阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達は、その性質から悪では無いと言えるでしょう。……ですが、困窮するローカストの為に、この略奪を行うのであれば敵となります」
 グラビティ・チェインを奪おうとする以上、相容れない。彼らもまたそれを分かっているからこその宣戦布告だろう。
「戦いは避けられ無いでしょう。彼らの宣戦布告に応えましょう。そして可能であれば、正々堂々とした戦いにて撃破を」
 奪うことを告げ、戦いを望んだ戦士に武をもって応えるために。
 敵は花カマキリのローカスト一体だ。薄い薔薇色を残した羽を持ち、長い腕にある刃を斧のように振るうのだ。
「戦場となるのは、駅前の公園広場です。広く、平らで戦いやすい場所と言えます」
 正々堂々とした戦いを望んでいるからだろう。
 そこに花カマキリのローカスト・光琳のイルミラスはいる。
「ルーンアックスを用いた戦い方に近い動きをしてくるようです。その見た目に対し、防御力も高く、正面からの戦い、特に近距離戦を好むようです」
 戦場となる公園広場周辺の一般人は基本避難をしている。ですが、とレイリは眉を寄せた。
「あの宣戦布告を聞いた人々の中で、ケルベロスを応援する為に危険を顧みずやってくる人々はいるようです」
 さながら観客のように。
 イルミラスが直接手を出すことは、勝敗が決するまでは無いだろうがあまり戦場に近づいても危険だろう。
「念のため、注意をしていてください」
 そこまで話すと、レイリは真っ直ぐにケルベロス達を見た。
「宣戦布告を受けました。彼らは窮地に陥ったローカストの剣となり、決して退くことは無く正々堂々と戦ってくるでしょう」
 彼らは戦士であり、そう決めている。
「その覚悟に、刃に、応えましょう」
 ケルベロスもまた、剣となり、守る為にこの地にある。それぞれに多くの理由と、覚悟と、守りたいものを手に。
「負けることは許されません。ーーどうか、勝利を」
 そしてちゃんと帰ってきてください。
 告げた無茶は自覚しているのか、けれど瞳に信を添えてレイリはケルベロス達を見た。
「行きましょう。皆様に幸運を」


参加者
犬江・親之丞(仁一文字・e00095)
スヴァリン・ハーミット(隠者は盾となりて・e16394)
深宮司・蒼(綿津見降ろし・e16730)
霧城・ちさ(夢見るお嬢様・e18388)
ラズリア・クレイン(蒼晶のラケシス・e19050)
ザフィリア・ランヴォイア(慄然たる蒼玉・e24400)
朝霞・結(紡ぎ結び続く縁・e25547)
鴻野・紗更(よもすがら・e28270)

■リプレイ

●光琳のイルミナス
 常緑樹に覆われた道を抜ければ、青空の下、太陽の光が駅前公園に降り注いでいた。公園に人気は無い。その広大な空間の中央——広く、平らな空間に「彼」の姿はあった。
「深宮司蒼だぜ。勝負は受ける」
 けど、と深宮司・蒼(綿津見降ろし・e16730)はひとつ言葉を切る。
「勝負に邪魔が入らねぇように、一般人を遠ざけるまで待ってくれねぇか?」
「ちゃんと勝つまで一般人には手を出さないって宣言した、誇り高い戦士である貴方がその言葉を反故にするとは思ってないよ」
 でも、と犬江・親之丞(仁一文字・e00095)は顔をあげる。
「お互いに目の前の戦いに集中する為に、一般人の皆はある程度遠ざけておきたいんだ」
 お願いします。と親之丞はぺこり、と頭を下げた。朝霞・結(紡ぎ結び続く縁・e25547)は続けて言った。
「戦うのにあの人達をそのままにしとけないよ。万が一の事があって、彼らに被害が出ちゃったらあなたの矜持も穢されちゃうでしょ?」
 こちらの話を聞いていたイルミナスの羽が僅かに動く。
「だから、少しだけ待ってて貰ってもいい?」
 その小さな変化を視界に、結は言った。
「貴方も水を差されたくないでしょう?」
 静かにラズリア・クレイン(蒼晶のラケシス・e19050)がそう言えば、ふ、と二度目の声が耳に届く。低く聞こえた声はやがて、笑いへと変わった。
「あぁ、我はこの場で待とう」
 其方達はこの地に来た。我が布告を受け取った。
「その上で、其方達の矜持を疑う理由などあるまい」

●刃を交えし語るのは
「大丈夫でございますよ。どうぞ、わたくし達にお任せくださいますよう」
 心配で応援に来たのだと言う女性に鴻野・紗更(よもすがら・e28270)はそう言った。
「はい。こっちだよ」
 木に登ろうとした青年にスヴァリン・ハーミット(隠者は盾となりて・e16394)はひとつ視線を合わせる。凛とした風に、誘われた青年が木から降りる。
「……えぇ。では、駅舎に」
 観戦するならそこから出ないように、ザフィリア・ランヴォイア(慄然たる蒼玉・e24400)は一般人に言い含めた。誘導もスムーズに行ったところで、結が出入り口に外からキープアウトテープを張れば間違っても戦場にまで応援に来る人はいない。
「じゃ、戻りだな」
 は、と息吐き、蒼は顔をあげる。あぁ、とケルベロス達は頷いた。イルミナスの待つ、あの広場へと目をやれば晴天の空に雲が見えてきていた。
 影が、落ちる。
 常緑の影を飛び越え、帰り着いたその場所で待ち続けていた戦士の顔にもまた影が落ちていた。
「戻ったか」
 低く響いた声に霧城・ちさ(夢見るお嬢様・e18388)は視線を返し、言った。
「霧城ちさですわ」
「さあ、正々堂々と勝負致しましょう。誇りには誇りを、武力には武力を」
 ラズリアが告げ、紗更は静かに言った。
「わたくしは鴻野紗更と申す者。いざ、お相手つかまつりましょう」
 腰の刃に手を添えた少年は言う。
「――犬江親之丞、此処にあり!」
 これより始まる戦いの為の言葉を。
「いざ、尋常に勝負!」
 宣言に、薔薇色の羽が震える。斧を掲げローカストの戦士は告げた。
「我が名は光琳のイルミナス」
 瞳が、金色の色彩を帯びる。
「我が布告の受け取りに感謝を。これより先は戦いを以って示そうぞ!」
 そう言って、イルミナスは腰を低めーー地を蹴った。顔をあげた先、見たのはーー前衛か。
「吼えよ我が光琳!」
 咆哮と共に、イルミナスは腕の斧を素早く前衛陣を薙ぎ払った。
「——」
 衝撃が、体を襲う。だがその中で、ラズリアは顔をあげた。紅の滴り落ちる白い手で握るは愛用のレイピア。
「花はいつか枯れるもの。どちらが先に散るのか……いいえ、私は、散るつもりはございません」
 散る訳にはゆかぬのです。
 宣言と共に、時空を凍結する弾丸が放たれた。一撃が、イルミナスの胴を撃ち抜けば、スヴァリンは戦場にカラフルな爆発を発生させた。溢れる光は前衛の士気を高め、力を紡ぐ。
「イージス」
 ボクスドラゴンのイージスが親之丞へと耐性を届ける。
「此処でカッコ良く決めてこそ、紳士だよね……頼りにしてるよ、犬江くん!」
「うん! しんしてき? に頑張ろ!」
 光の中を親之丞は行く。た、と蹴る音は小さく、腕は一瞬にして黒く染まる。
「我が剣は狼の牙、強者をも穿ち貫く!」
 放つは黒い液体より生まれし槍。穿つ一撃が、イルミナスの腕に届いた。
「そう来る……!」
「えぇ。そう来ますわ」
 影が、落ちた。雲の作り出した影ではない、ちさの跳躍により生まれた影だ。見上げ、口の端をあげた戦士へとちさは流星の煌めきと、重力を宿した蹴りを叩き込む。
 ガウン、と重い音がした。
 衝撃に、イルミナスは僅かに蹈鞴を踏んだ。構える腕が僅かに下がったそこで、結は戦場に爆発を生む。上がる爆風が前衛へと力を注いだ。
「支援か」
 落ちた声と共に、イルミナスのこちらへと向いた。その声に、言の葉を返す代わりに結は真っ直ぐに視線を向ける。かち合えば、交わすは覚悟。
「ハコ!」
 結の言葉に、水竜は空を駆けた。タックルひとつ決まれば、打撃にイルミナスの視線がぶれる。その隙に踏み込み行くのは紗更だ。
(「うわさに聞く阿修羅クワガタさまとそのお仲間がたでございますか。実に素晴らしき心意気、実に気持ちのよいお方々であるものです」)
 彼らに恥じぬ、悔やませぬ戦いとなるよう、わたくし達も努めねばなりませんね。
 接近に気がついた相手を真正面に、ぽつり、ぽたりと落ちるのはほのかに光る青い雨粒。
「雨? いや、これは……!」
「わたくしの持つ、魔術のひとつでございますれば」
 それは、身に宿したグラビティ・チェインを不可避を宿す魔術へと変換する紗更の技。青の雨粒となった魔術を身に纏いーー紗更は狙い澄ました一撃を、放った。
「——ク」
 衝撃を、受け止めるようにイルミナスは腕を前に出す。だが、薔薇の羽が、体が衝撃に裂けた。

●剣戟
「さすがは強者よ」
 イルミナスは吠えた。戦士が次の一歩を踏み込み来るそこに蒼は踏み込む。
「——!」
 とん、と触れる掌に籠められたのは螺旋の力。瞬間、爆ぜるような衝撃が二人の間に生まれた。
「——ック」
 息を詰め、ぐん、とこちらに顔を向ける相手を蒼は見る。
(「勝ったらグラビティ・チェイン持ってくって……それって一般人沢山殺すって事だろ? んな事させないんだぜ。ぜってー負けねぇ!」)
「んで……俺らが勝った時は、あんたは何をくれるんだ?」
 ワクワクとした様子で、蒼は問う。
「正々堂々な勝負ってんなら、お互いに何か賭けるんだよな?」
「——ッハハハ。そうさな。我が賭けるは……我が、命よ!」
 ぶん、と腕を振るう。払うような斧に蒼が身を横に飛ばせば、その隙を逃すことなくザフィリアが踏み込む。高々と飛び上がり、その翼を広げ落ちる勢いさえ利用してザフィリアは斧を振り下ろした。
「死に場所を見付けたつもりですか? 誰しも生存欲求を得る。その本能に従わぬ者は、生きることを自ら諦めたも同じなのですよ」
「さて。我は負けるつもりで、布告をしたわけではないぞ……!」
 快活に笑い、イルミナスは顔をあげた。瞬間、薄い薔薇色の羽が震える。破壊音波が後衛に襲いかかった。
「——ッ回復、するね!」
 人数の少ない後衛の方が、一撃としてはやはり重い。結が回復を告げれば、手伝いとスヴァリンが声をあげる。
「各ドローン同期完了、モード:リペア アクティブ。自陣の損傷、障害を速やかにクリアせよ……回復いっちゃうよー?」
 回復機能を備えたドローンをスヴァリンはザフィリアの頭上に展開する。照射される淡い光が、制約さえ払いきれば重ねて結が後衛を回復するのが見えた。同時に、イルミナスが地を蹴るのも。
「妨害かい?」
「あぁ」
 快活に応じた戦士に、親之丞が応える。
「させません……!」
 回復を止めに行く戦士への斜線へと親之丞は踏み込む。
(「阿修羅クワガタさんに前々から興味はあったけど、やっぱりその仲間も気持ちの良い武人だね」)
 地球の皆も守らなくちゃ。
(「でも、それ以上に今わくわくしてるんだ!」)
 この戦いに、この全力に。
「花開け――犬江流二刀術、深緋繚乱花――!!」
 キン、と素早く太刀は振るわれる。それは『犬江家』が編み出した犬江流二刀術がひとつにグラビティに取り入れたもの。花舞うが如き剣舞に、生まれるは衝撃波。敵の身に咲かすはーー血の、花。
「ッグ、ハ」
 衝撃波が踏み込みイルミナスを切り裂いた。衝撃に身を揺らし、血を流しながらも顔を上げ笑う。
「これこそ守るものがあるに相応しい戦いよ!」
 イルミナスの動きに陰りはない。鈍らせるにはまだ足りない、ということだろう。近接での戦いを好むイルミナスは、踏み込めば笑いと共に受け止め、一撃を返してくる。それ自体は確かに強力ではあったがーーただ一撃、耐えられぬケルベロスではない。
「癒せる……!」
 く、と結は顔をあげた。見据えた戦場に、また火花が散る。一撃の強さに結は瞬く。確かに強い。だが、この『強力』さはーー……。
「クラッシャー……、イルミナスはクラッシャーだよ!」
 ポジションでの優位だ。
「分かった!」
 結の声に答え、なら、と蒼は踏み込む。放つ一撃はーーだが、身を飛ばすイルミナスの方が早い。
「!」
 躱された。その事実にだが、蒼は気がつく。
「理力に強いのか?」
 零れ落ちた言葉に、ふ、とイルミナスは笑う。その笑みこそが答えだと告げるようにーー踏み込む。跳躍と共に振り下ろされた斧はーーだがガウン、という音と共にちさに受け止められた。
「させませんの!」
 衝撃に、腕が痺れる。ぱたぱたと血が落ちる。だがーー一撃は受け止めた。
「回復を」
 結の宣言が、火花零す戦場に放たれる。
「あなたに矜持があるように、私にも矜持はあるの。皆にも」
 駆ける仲間の姿を視界に少女は言った。
「だから、引けないし引かないよ!」
 瞬間、結のグラビティが翡翠色の風へと変わる。
「穢れ祓う翅、風となって、そこに」
 届く癒しは、制約さえ振り払いーー踏み込む足を、体を軽くする。戦い抜き、行く為の力が届く。

●矜持
 剣戟と火花を咲かせ、戦場は加速する。駅前公園は戦場の余波を受けて風に震える。
「光よ!」
 イルミナスの超音波が響き渡り、踏み込む足を、向ける腕を割く。だがそれでも、体は動いた。踏み込み行けば、僅かに驚きながらも口の端をあげた戦士が一撃を受け止める。重く。受け止める斧を弾きあげるように、刃を、力をーー叩き込む。
「——ック、ハ」
「多少手荒になりますが―――失礼致します!」
 僅かに、その腕が浮けば紗更が踏み込むにはーー十分だ。どこか、生き生きとした様子で、流れる血さえそのままに紗更は手を伸ばす。ひたり、と触れれば瞬間、螺旋の力が爆発を生んだ。
「ッグ、ァ」
 イルミナスが呻く。返す一撃か、足元払うように動いた斧に紗更が跳躍で上に避けきれば、空いた正面にあったのは魔方陣だ。
「始原の楽園より生まれし剣たちよ」
 ラズリアを中心に展開された魔法陣から生み出されるのは魔力を込めた蒼く輝く剣。その刃はーーただ目標を刺し貫くためにある。
「我が求めるは力なり」
 展開される力の中、ラズリアが告げた。願い瞳を開き、淡く輝く光の中——力を解き放つ。
「蒼き輝きを放つ星となりて敵を討て!」
 まるで流星のように刃は降り注ぐ。避けることは叶わず、貫かれればイルミナスはガ、と息を吐き、血を零す。耐性があるとはいえ全てを防ぎ切ることはできずーー何より、その身の動きが鈍ってきていたのだ。
「さすが、か」
 だが、とイルミナスは吠えた。一気に踏み込み行こうとする戦士に盾役のスヴァリンが動く。盾を担う者の傷は多かった。だが戦いの流れはーー今、ケルベロス達の手にある。
「なら掴むまで、だね」
 剣戟と火花の中、スヴァリンは落ちる一撃を受け止める。跳躍と共に、落ちた斧を受け止めれば傍から動くのは親之丞だ。その動きが見えているからこそ、スヴァリンは至近での砲撃を行う。
「行くよ」
 告げるは敵に、仲間に。
 放つ光にイルミナスが仰け反れば、親之丞の絶空の刃が沈む。
「勝負」
「っハ、良いな、良いな!」
 蹈鞴を踏み、だが一歩、間合いを取り直すだけの相手をザフィリアは見据え告げる。
「善き兵士は決して最後まで生還の可能性を求め続けます。最後の瞬間まで生きるということへ渇望してみせることが出来ない貴方は、戦士として優秀でも、兵士としては失格です」
 視線の強さを真正面から受け止めザフィリアは小さく息を吸いーー続けた。ですが、と。
「戦士として誰もが得ることを望んでやまないもの。名誉と共に散ること、それを私達の手で為して差し上げますよ」
 瞬間、ザフィリアの光の翼が展開される。翼は巨大な光の手へと変形すれば、イルミナスは目を瞠った。
「あれは!」
「光の翼は死を感知するだけではありません。私が使えば直接的に死を齎し能う災厄の腕足り得るのです!」
 鋭く尖った光の手の指先が、一撃をイルミナスへと叩き込んだ。
 穿つ、一撃が強かに戦士を撃つ。背の羽が欠落ち、ぐら、とその身を大きく揺らしーー笑った。
「ッフハハ! ならばその上で我は勝利してみせよう! 其方達に勝利し、グラビティ・チェインを奪う為に我はこの地にあるのだから!」
 響くは戦士の咆哮。
 その声に、ケルベロス達も全力で応えた。踏み込む足で、叩き込む一撃で。地を蹴り行くちさと共にウィングキャットのエクレアが回復を紡ぐ。癒しを受け取りちさが放つは竜砲弾。
「行きますわ」
 ガウン、と重いそれに、合わせて蒼は水気を集めて氷の針を作る。
「凍てつき止まれ薄氷の壱式、氷魔針!」
 放つ一撃は、鋭くイルミナスに突き刺さった。衝撃は無くーーだが踏み込みに戦士は暗殺の秘術を受けたと知る。
「ッ」
 呻く戦士の間合いへとラズリアは行く。手にする刃に星座の重力を乗せーー振り下ろす。
「ッグ、ァア……!」
 重い斬撃がイルミナスの体に届く。受け止める為の斧は、だが瞬間ピシ、と痺れた腕に間に合うことは無く刃はーー戦士を斬った。
「……ック」
 ぐらり、とイルミナスはその身を揺らす。キン、と手の斧が欠けおちる。
「其方達の勝利だ。ケルベロスよ。我の負け、だ。……この地のグラビティ・チェインは奪えまい、な」
 膝をつく。崩れ落ちるその体が、光の粒子を帯びてーー消えた。

「どうか、この誇り高き戦士に安らぎを……」
 再び、静寂の時が公園に戻ってきた。
 ラズリアが静かに祈りを捧げる。
「……どうぞ、おやすみなさいませ」
 言の葉ひとつ、紗更は戦い抜いた戦士へと向けた。遠からず勝利は駅舎にいる彼らの耳にも届くだろう。僅かに聞こえる喝采は勝利の証。この地に住まう人々とーーそして、戦士の矜持に応じ、戦い勝利したその証であった。

作者:秋月諒 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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