阿修羅クワガタさんの挑戦~ダビド推参

作者:雨音瑛

●昼の川越
 埼玉県、川越市。広い芝生のある川越運動公園で、オオハサミムシのようなローカストが1体。誰もが距離を取りながら、ちらちらと彼の方を見ている
「オレはローカストの戦士、ダビド! 枯渇したグラビティ・チェインを満たすため、この街の人間を襲撃してグラビティ・チェインを略奪することになった。止むを得ない事とはいえ、真に申し訳なく思う!」
 人々のざわめきが大きくなる。
「しかし!」
 ダビドが、ひときわ大きな声を張り上げた。
「戦う術のない人間を襲撃するのは、オレたちの本意では無い! ゆえに、オレは呼びかける——ケルベロスよ、来い! オレと戦い、人間を守るのだ!」
 静まりかえった公園に、ダビドの声だけが響く。
「オレは正々堂々と戦う。そして強者であるケルベロスを撃退する。その戦いの結果として、グラビティ・チェインを強奪するのだ!」
 拳を掲げ、ダビドは高らかに宣言し——豪快に笑った。
 
●ヘリポートにて
「広島での戦い、ご苦労だった」
 ウィズ・ホライズン(レプリカントのヘリオライダー・en0158)が帽子を取り、ケルベロスたちに頭を下げる。
 先の戦いで広島市民の被害はゼロ。イェフーダーをはじめ、ストリックラー・キラーのローカストは全滅。
「特殊部隊ストリックラー・キラーが全滅したことで、ローカスト軍の動きはほぼ封じられたといって間違いないだろう。グラビティ・チェインの枯渇状況も末期となっているはずだ、太陽神アポロンとの決着も間近に迫っているといえよう」
 しかし、とウィズは言葉を濁らせた。
「ローカストの苦境を見て、立ち上がった者たちがいる。それはダモクレスの移動拠点『グランネロス』を襲撃した、阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達だ」
 彼らは、困窮しているローカストたちに略奪したグラビティ・チェインを施したあと、更なるグラビティ・チェイン獲得の活動に入った。だが、グランネロスのような大量のグラビティ・チェインを持つデウスエクスの部隊がそう簡単に見つかるはずもなく。
「結果、やむなく人間のグラビティ・チェインを奪う決断をしたようだ。彼らはケルベロスに対して宣戦布告を行い、迎撃に来たケルベロスを正々堂々と撃破した後、強敵との戦闘に勝利した報酬として、人間からグラビティ・チェインを略奪しようとしている」
 この一見意味の無い行動こそ、ローカストの窮状を救いつつ自分たちの矜持を護るための苦渋の決断なのかもしれない。
「阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達は、その性質から『悪』ではないと思われる・だが、彼らが困窮するローカストのために人間のグラビティ・チェインを奪うというなら、ケルベロスにとっては許されざる敵となるのもまた事実」
 戦いは避けられない。しかし、彼らの宣戦布告に答えて、可能ならば正々堂々とした戦いで撃破してあげて欲しい、とウィズは告げた。
「敵は正々堂々とした戦いを望んでいるため『川越運動公園』を戦場とするようだ。周辺の一般人は基本的に避難しているが、ケルベロスを応援するため危険を顧みずにやってきている観客がいるようだな」
 続いて敵についてだが、と、ウィズは掌に立体映像を出した。
「オオハサミムシのような形状をしたローカスト『ダビド』が1体。背丈は2メートルほど。繰り出す攻撃はどれも強力だ、十分に気をつけてくれ」
 予知によると、使用する攻撃は3つ。強力なパンチ、尾で挟んで体力を奪う攻撃、触角をこすり合わせて催眠音波を放つ攻撃とのことだ。
 説明を終えたウィズは、掌の映像を消す。
「いわば窮地に陥ったローカストの剣、それが彼らだ。決して退くことなく、正々堂々と戦うだろう。しかし君たちケルベロスもまた、無力な一般人を護る盾だ。私は君たちの勝利を信じているぞ」
 微笑んでうなずくウィズは、ケルベロスたちをヘリオンへと促した。


参加者
唐繰・沙門(蜘蛛の糸・e03727)
丹羽・秀久(水が如し・e04266)
妻良・賢穂(自称主婦・e04869)
黒住・舞彩(我竜拳士・e04871)
深鷹・夜七(まだまだ新米ケルベロス・e08454)
リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)
四条・玲斗(町の小さな薬剤師さん・e19273)
有枝・弥奈(その手は会えぬ者の朱に塗れて・e20570)

■リプレイ

●矜持
 秋の風が、木々を揺らす。
 公園の芝生で仁王立ちするダビドは、ケルベロスたちを見つけると嬉しそうに歩み寄り始めた。
「来たか、ケルベロス! さあ、戦闘開始だ!」
「悪いけれど、少し待ってもらえるかしら? 避難を促したいの」
 四条・玲斗(町の小さな薬剤師さん・e19273)が、一般人をちらりと見る。
「無論! オレはここで待ってるぞ!」
 あぐらをかいて地べたに座るダビドを背に、有枝・弥奈(その手は会えぬ者の朱に塗れて・e20570)は凛とした所作を一般人に見せた。
「残らんとする同胞に申し上げたいことがある。かの相対する相手は、殊勝にも戦う術を持たぬ者を虐げるのを良しとしないようだ。そして、この戦いにおいて力無き者が無暗に命を散らすのも良しとしないだろう。故にもし、心あらば、迷いあらば、この場を引いて頂けないだろうか!」
 人々は、無言で聞き入っている。
「だがしかし万障覚悟の上で残るのであれば、私はそれを止める事を良しとしない。せめて全力で守らせて頂こう!」
 ちらほらと離脱する者もいるが、残る者はまだまだ多く。妻良・賢穂(自称主婦・e04869)は優しい微笑みを浮かべ、進み出た。
「貴方達の応援は心強いですわ。――しかし、万が一もありえます。くれぐれも近づかぬよう、お願い致しますわ」
「無理に残る必要はない。我々が不利なったら必ず逃げること、約束して欲しい」
 唐繰・沙門(蜘蛛の糸・e03727)の言葉に、残る一般人たちは強くうなずく。
「あくまで彼らも生きるために戦いに臨んでいるわ。その上で——私達ケルベロスは、必ず勝つ」
 玲斗の宣言に、一般人は歓声を上げた。
「皆さん、応援はありがたいですが、絶対に無茶だけはしないでください!」
 騒ぐ一般人に呼びかけるのは、丹羽・秀久(水が如し・e04266)。
「相手が正々堂々と戦ってくれても、周りが無茶をしては被害が広がってしまいます。もし、それで自分自身に何かあったら……」
 隣人力を使用する秀久の胸に去来するのは、自身の出自。身寄りのない孤児で、孤児院で育ったということ。沈黙ののち、秀久は続ける。
「悲しむ人もいる事を思い出してください」
 それでも残る一般人を見て、深鷹・夜七(まだまだ新米ケルベロス・e08454)は戦闘範囲外への移動を促した。そして沙門と二人がかりでキープアウトテープを使用する。これで一応は安全だ。とはいえ、と沙門は釘を刺す。
「ダビド。一般人を狙ってくれるな」
「おう、心配するな! 阿修羅クワガタさんの名にかけて、卑怯なことはせんぞ!」
 胸を叩くダビドに、沙門は礼を述べた。
 いよいよ戦いが始まろうとしている。その気配を察し、一般人たちは声援を送り始めた。
「俺たちは応援しかできないけれど、勝ってくれると信じてるぜ!」
「がんばれ、けるべろすー!」
「応援ありがとう。力になるわ」
 幼い子どもの声を聞いた黒住・舞彩(我竜拳士・e04871)は、振り返って微笑んだ。
「甘い物が食べたいわ。持ってきてくれる?」
 割り込みヴォイスを使い、その子どもにだけ届くように。元気な返事とともに駆けてゆく子どもを確認し、舞彩はダビドに向き直った。そして右腕に仕込んだ長銃をダビドに見せる。彼女なりの「正々堂々」だ。ダビドは、どことなく嬉しそうに立ち上がった。
 テープの向こう側に留まる一般人の応援を背に、弥奈は大きくため息をついた。どうしてこうなったのだろう、と。
「私一人に守れるものはそう多くない。そちらに手を差し伸べる余裕はない。特に君たちの様な輩は……全く、救いようがない! せめて早々に終わらせる、それだけだ……!」
 ドラゴニックハンマーを手に、ダビドを見据える弥奈。その隣で、リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)も不適に微笑んだ。
「誇り高きローカスト戦士と刃を交えられるなんて光栄ね。アタシ達も容赦しないわ……」
「さぁ……お互い、退けない戦いを始めよう!」
 日本刀「不知火」を抜いた夜七は、芝生を踏みしめる。サーヴァントの彼方も神器を咥え、真剣な表情で主の前に立った。
(「……双方、馬鹿ばかり、か。まあ、私が一番……」)
 空を仰いだ弥奈は、一瞬だけ目を閉じた。

●拳と剣
「それじゃあいくぞ!」
 ダビドの触角がこすり合わされ、不協和音を奏でる。舞彩に庇われた賢穂は、音が止むと同時に半透明の「御業」を放ち、ダビドを鷲掴みにした。続けて舞彩も同じグラビティを仕掛けるが、ダビドは尾ではじき返してしまう。
「危ねえ危ねえ」
 と、数歩下がるダビドへ、弥奈がバスターライフルを向ける。光弾がダビドに着弾するのを見届けた夜七は、一瞬にして敵の眼前まで飛んだ。
「君らもボクらも、お互いに譲れないものがある……悪いね―――そこはもう、ぼくの間合いだ!」
 鯉口を切る音。白刃の閃き。局所的に大気の密度が変わる。
 白銀の軌跡に、青白い光の粒が舞う。夜七の虚像が、ダビドの眼前で揺らめく。
 ——が。刀はダビドの腕に弾かれ、わずかの差で届かず。
「ふむ、いい線いってたぞ」
 悔しさを覚えつつ、夜七は飛び退いた。それでも、心は高揚したまま。ダビドが正面から戦いを挑んできたことに不思議な喜びを覚え、刀を握り直した。彼方も飛び出し、ダビドの胸元に傷をつける。
 畳みかけるのは沙門。緩やかな弧でダビドを斬り上げると、一般人の様子を確認した。
「この場に残り、我々の応援をしてくれるという者たち——心強いものだな」
 だが、一般人の目にケルベロスはどう映っているのだろうか。たった一人で戦うローカスト、ローカストに多勢で挑むケルベロス。野次があろうものなら甘んじて受けるつもりであったが、そのような声は聞こえない。安堵と同時に、目眩を覚える。ダビドに受けた攻撃によるものだ。
「妖精術式救阿霊印! 邪気を祓え!」
  ふらつく沙門に気付いたリリーが、彼を中心に薬液の雨を降らせた。仲間の傷が癒えてゆくのを見て、リリーは決意を新たにする。
「全力管制回復! 誰一人脱落させない!」
 どんな傷も見落とさないようにと、リリーは仲間を見遣る。また、護るのは仲間だけではない。キープアウトテープの向こう側にいる一般人も、守護の対象だ。
(「一般人をあえて危険にさらすのは許容出来ない……けれど、間に合わないなら、全員守り通すまでよ!」)
 癒やし手として奮戦する彼女へ、玲斗が分身の幻影を纏わせた。秀久の展開したヒールドローンが前衛の仲間を警護すると、ダビドが大きく息を吐く。
「むう、流石に痛いな。でもまだまだオレや倒れんぞ、どんどんかかってこい!」
 真正面からの戦いを挑んでくるダビドには、本来ならば一対一で戦うことが望ましいのだろう。しかし、一人で挑もうものならば敗戦は必至。ならば失望されないように全力を出すまで。
(「……いつか一人でも対等に渡り合えるよう、強くなりたいものだ」)
 沙門はかぶりを振り、ダビドと対峙する。
 正面の強敵。周囲の声援。そばにいる仲間。
 戦場は、熱気を帯び始める。

●正々堂々と
 ダビドの一撃は、重い。時には回避できることもあるが、喰らった場合は相当の体力が削がれる。その度に回復は施されるが、何度も喰らえば戦闘不能は免れない。
 弥奈を狙ったダビドの拳は、避けるには早すぎた。だが、それより早いものが一匹。オルトロスの彼方が飛び込み、拳を全身で受け止めた。瞬間、吹き飛び、消え去る。夜七は一瞬言葉を失ったが、すぐに不知火の切っ先をダビドへ向けた。
「……強い……!」
「アグリム軍団以来ね……ここまで強敵とは……!」
 リリーも同意し、まだ無事である仲間を見遣る。と、一般人の声援がダビドの非難に変わった。
「小さいのから狙うなんて卑怯だぞ!」
「正々堂々と戦うと言ってこれか!」
「って言ってもなあ……小さいのが出てきて庇ったんだよなあ……」
 困り顔で腕組みをするダビド。彼を正面に見据えたまま、舞彩は声を張り上げた。
「やめなさい。憎しみと拒絶は定命化を遠ざけるから、彼らが地球を愛せるように、好意を持ちましょう?」
 なんてね、と微笑み、舞彩はダビドに戦闘の続行を促す。
「おう、オレは気にしてないぞ。さあ、次は誰の攻撃だ?」
「ダビドさんが求めるのは、本当に正々堂々とした戦いなのですね。ならば、それに応えるまで。——冥土の土産に、主婦の真の奥義をお見せしましょう――」
 賢穂が肉体のリミッターを外す。結婚できない悲哀・理想の夫への渇望が解放されたところで、一周回って冷静になる。研ぎ澄まされた精神は、的確にダビドの急所を狙った。八つ当たり気味の全身全霊の一撃で、ダビドの腹部が大きく陥没する。
「ぐっ……良い拳だ……」
「主婦の拳、よくぞ受け止めました」
 口角を上げた独身アラサーは、続く仲間のためにダビドと距離を取った。陥没した腹部をそのままに、ダビドは次の攻撃に備えている。
「ローカスト自体は好きではないのですが、阿修羅クワガタさん一派は嫌いにはなれませんわね。グラビティ・チェイン等の問題が解決すれば、まだ話の通じる方だとは思うのですが……」
「樹液や野菜、肉など、グラビティ・チェインの代わりになるものはないのかしらね? まあ、外見が虫ではあるけれど、虫と同じものを栄養源にできるとは限らないわよね……」
 玲斗がダビドに駆け寄る。
「下手なデウスエクスより好感は持てるけれど、こちらも負けるわけにはいかないの」
 円弧を描く、玲斗の太刀筋。
「オレとて負けるわけにはいかん。ローカストとして、何より阿修羅クワガタさんの仲間として、な!」
 ダビドは軽く日本刀を掴み、攻撃を逸らした。
 もしダビドが理性を失ったら。飢餓に負けたら。玲斗の心配が無用になるほど、ダビドはケルベロスとの戦闘を楽しんでいるようだった。
「まさに武人ですね。こちらも行きますよ!」
 炎を纏った久秀の蹴りが、ダビドに肉薄する。
「炎か、燃えるなあ! だが……甘い!」
 ダビドが久秀の足を掴む。直後、手の力が緩んだことを察知して久秀は着地し、体勢を立て直した。
 その隙に沙門がナイフの刃を変形させる。抉り、切り裂く刃の閃きがダビドを通過した後、舞彩は仕込み長銃【リストライフル】で狙いをつけた。射線上に一般人がいないのを確認して光弾を放つ。光弾は吹き出す体液を蒸発させ、ダビドの脇腹を抉る。
「ははは、まだまだあ!」
 虚勢とも取れる態度で両手を打ち鳴らすダビドへ、弥奈の放った竜砲弾が撃ち込まれる。巻き起こる土煙の中、夜七は全力で駆け出す。地面を滑りながら繰り出した神速の突きが、ダビドの足を貫通した。
「こっちもまだよ! 螺旋忍法影理明棲! 彼等を守護せよ!」
 賢穂へ分身の幻影をまとわせるリリーの動きは素早く。
 攻め手も、癒やし手も、一瞬たりとも気を抜けない。

●倒れるときは
 どれほどの時間が過ぎただろうか。ダビドとの戦闘は、ただ公園で過ごす数分よりもずっとずっと、長く感じられた。
「よし、これはどうだ!」
 ダビドが空中で回転し、賢穂へと向かう。存外早く到達されたことに賢穂は一瞬とまどった。その一瞬、オオハサミムシのような尾が迫る。覚悟して目を閉じるが、切り裂く音は痛みへと繋がらない。目を開けると、ダビドに背を向けて賢穂を庇う秀久がいた。
「間に合って良かったです」
 背中の痛みに引きつりつつも、秀久が微笑む。
「丹羽さん、ありがとうございます! 攻撃は私に任せてください。さあダビドさん、次はわたくしの番ですわ!」
 秀久の護りから抜け出し、賢穂は念じる。やればできる、と。叩き込もうとした拳は、瀕死のダビドに捕まれる。振りほどき戦列に戻ると、弥奈がダビドの傷跡を狙って攻撃を仕掛けようとしていた。
(「人類は救う。その上でローカストも救う。そんな虫のいい願い、万が一でなら叶うのかも?」)
 しかし、その一手は空を切り。
(「そう思っていた時もあったんだけどね。……現実は、そんなに甘くはない。無理、だよ」)
 不意に見た手が血に濡れていたような気がして、顔を上げては拳を握りしめた。救えなかった者の、血。誰にも聞こえない声で、彼女は呟いたのだった。
 連続で回避された仲間の攻撃に危惧を覚えたリリーは、ほとんど無意識に伝承歌で活性したグラビティ・チェインを螺旋の舞で練り上げた。
「耀星秘伝……確・護・神・令! 輪眼、照星、鉄の門、妖精と耀星の契りに従い、外なる螺旋の力を込めて」
 一撃を、必中に。加護を受けた舞彩は、ゆっくりと進み出た。
「望み通り、正々堂々倒してあげる。全力で、応えてあげましょう——リミッター、外させてもらうわね」
 地獄の炎で具現化した武器を、次々と使い捨ててゆく。加速された鼓動は、普段の数百倍。それが限界を超えた速度を生み出していた。
 最後の武器が、ダビドの胸に突き刺さる。その一瞬は、確かな静寂に満ちていた。
「……オレの負け、だな。楽しかったぜ」
 ダビドの傷口から、大量の体液がこぼれる。そのまま後ろ——ではなく、無理矢理体勢を変え、ダビドは顔面から地面に倒れた。
 夜七が急ぎ駆け寄り、ダビドのそばにしゃがみ込む。
「ありがとう……ってのも、変かな。でも、本当に気持ちのいい戦いができた。君は、まさに“戦士”だった」
 わずかに顔を上げたダビドに、もはや話す気力はない。しかし代わりに、無言で親指を立てた。
「君との戦いに……ううん。君の矜持に、応えられてよかった」
「ダビドさん、貴方の心意気、しかと胸に刻みました」
 ダビドの形が残る芝生。賢穂は、強く強くまぶたを閉じた。
 勝利の余韻に浸る仲間達を尻目に、弥奈は少し離れたところで武器を収めた。
「守れるものは、そう多くないんだ……」
 ダビドの痕跡。公園に残る、傷跡。弥奈にとっては、どこか虚しく感じられる。

 最後は固唾を呑んで見守っていた一般人へ、夜七が戦闘終了を知らせた。とたん、あふれんばかりの感謝やねぎらいの言葉がケルベロスたちに降り注ぐ。
 玲斗は安堵し、一般人を見渡した。
「一般人は全員、無事のようね。……みんな、お疲れさま」
 傷の深い仲間へは玲斗が、傷ついた芝生へはリリーがヒールを施す。きらきらとした光を帯びて修復された大地すら、ケルベロスたちの勝利を喜んでるようだ。
 ひととおり修復されたのを確認し、秀久は「想い出のカメラ」を取り出した。
「そうだ。記念に写真撮影、どうですか?」
 ふと気付けば、公園の賑わいはダビドが現れる前よりも大きく。歓喜する人々の笑顔が、舞彩の瞳に映る。
「いい仲間でしょ?」
 再び上がる、歓声。わずかに残る疲労も、間もなく消えてゆくだろう。

作者:雨音瑛 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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