岡山県倉敷市。秋の行楽シーズンを迎えた美観地区は、川沿いに立ち並ぶ白壁の屋敷を散策する多くの観光客で賑わっている。
その中心部に位置する美術館の前にも沢山の人がいたが、その視線は今、ギリシャ神殿風の建物の屋上に突如として現われた、銀色のカマキリのローカストに釘付けとなっていた。
「拙者はカマジロウ、ローカストの戦士なり! ひとつ伝えたいことがあり、此処に参った次第。今此処で各々方には危害を加えるつもりはないゆえ、案ずるなかれ!」
不安と驚きでざわつく人々を見下ろしながら、なおも彼は喋り続ける。
「拙者どもは、枯渇したグラビティ・チェインを満たす為、この町の人間を襲撃し、グラビティ・チェインを略奪する仕儀と相成った。やむを得ない事とはいえ、真に申し訳なく存知まする」
だが、とカマジロウは右腕を振り上げる。
「戦う術のない人間を襲撃するのは、それがしの本意では無い。ゆえに、強者たるケルベロスたちに呼びかける!」
固唾を飲みながら見つめる人々をぐるりと見渡し、ひとつ息を吸うと、カマジロウはゆっくりと言葉を紡いだ。
「ケルベロスよ。拙者は、汝らとの決闘を所望する!
ここより北東の野球場にて、拙者と戦い、人間を守るのだ。
拙者は正々堂々と戦い、強者たるケルベロスを撃退し、その戦いの結果として、人々よりグラビティ・チェインを強奪せん!」
高らかに宣言する、そのカマジロウの銀色の体が、太陽の光をきらりと反射し輝いた。
「みんな、広島での戦い、ほんとうにお疲れさま!」
集まったケルベロスの面々に、レナ・グルーバー(ドワーフのヘリオライダー・en0209)は笑顔を向ける。
先の広島の戦いで、ケルベロスたちは、広島市民の被害をゼロに抑えた上で、イェフーダーをはじめ、ストリックラー・キラーのローカストを全滅させる、という完全勝利を収めることができた。
「特殊部隊のストリックラー・キラーが全滅した事で、ローカスト軍の動きはほぼ封じられたといって間違いないわ。グラビティ・チェインの枯渇状況も限界にきていると思われるし、いよいよ太陽神アポロンとの決着も見えてきた、という感じね」
でもね、とレナは表情を引き締める。
「ローカストの苦境を見て、立ち上がった者達がいるの。――ダモクレスの移動拠点『グランネロス』を襲撃した、阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達よ」
レナによると、彼らは、奪ったグラビティ・チェインを困窮するローカスト達に全て施した後、更なるグラビティ・チェイン獲得の活動に入ったという。
しかし、グランネロスのような、大量のグラビティ・チェインを持つデウスエクスの部隊が簡単に見つかるはずもなく、その結果、彼らはやむなく人間のグラビティ・チェインを奪う決断をした、ということのようだ。
「彼らは、ケルベロスに対して宣戦布告をし、迎撃に来たケルベロスを正々堂々と撃破した後に、強敵との戦闘に勝利した報酬として人間からグラビティ・チェインを略奪しようとしているわ」
わざわざ正々堂々と戦う為にケルベロスに宣戦布告をするという行動は、意味の無いものである。だが、この意味の無い行動こそ、ローカストの窮状を救いつつ、自分たちの矜持を守る為の苦渋の決断なのかもね、とレナは呟く。
「阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達は、その性質から『悪』では無いと思うわ。でも……彼らが、困窮するローカストの為に、人間のグラビティ・チェインを奪おうとするならば、それはケルベロスにとって『許されざる行為』、よね」
少し苦い表情を浮かべながら、レナはケルベロスたちを見渡す。
「戦いは避けられないと思うけれども、彼らの宣戦布告に応え、可能ならば、正々堂々とした戦いで撃破してあげてほしいの。お願い、できるかしら?」
ケルベロスたちは深く頷く。その様子を確認すると、レナは手元のタブレットに目を向ける。
「今回、みんなに担当してもらうのは、岡山県倉敷市に出現したローカスト『カマジロウ』よ。見た目は、大きな銀色のカマキリで、武士口調なのが特徴ね」
体が銀色なのは、アルミニウム生命体で自らの身体を包んでいるからのようだ。さらに画面に目を走らせつつ、レナは説明を続ける。
「カマジロウの使用するグラビティは3つ。
1つ目は、体内のアルミニウム生命体を解放し、生体金属の鎧で自らの身体を包んで強化と回復を行う『アルミニウム鎧化』。
2つ目は、両腕の大きな鎌で敵を斬り裂く『アルミニウムシックル』。
そして3つ目は、高々とジャンプして必殺のキック攻撃を放つ『ローカストキック』ね」
説明しながらレナはタブレットを操作し、スクリーンに地図を表示させた。
「カマジロウが決闘の場所に指定してきたのは、『倉敷マスカットスタジアム』よ。周辺の人々には避難をお願いしているけど、危険を顧みずに、ケルベロスのみんなを応援する為にやってくる観客はいるみたい」
カマジロウが望んでいるのは『ケルベロスとの正々堂々とした戦い』のため、ケルベロスとの戦闘中は一般人を攻撃するようなことはしないだろう。ただ、万一ケルベロスが敗れた時には――その意味をケルベロスたちは噛み締める。
「カマジロウは、ローカストの窮地を救うべく、決して引くことなく命をかけて勝負に挑んでくるわ。でも、あたしたちも負けるわけにはいかない。――みんななら勝てる、そう信じているからね」
言うと、レナは笑顔を浮かべた。
参加者 | |
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望月・巌(今宵の月のように・e00281) |
日向・邦宏(復活の老兵・e01650) |
熊谷・まりる(地獄の墓守・e04843) |
黒斑・物九郎(ナインライヴス・e04856) |
八神・楓(月夜に舞う淡き雪狼・e10139) |
テトラ・カルテット(碧いあめだま・e17772) |
オルファリア・ゲシュペンスト(ウェアライダーの巫術士・e23492) |
羽崎・翔(林檎と自由・e28218) |
●相まみえる戦士たち
『客席のお客様、ファウルボールならぬファウルグラビティには十分にご注意くださーい、繰り返します――』
熊谷・まりる(地獄の墓守・e04843)の声がスピーカーから響く午後のスタジアムでは、日向・邦宏(復活の老兵・e01650)とスタッフの誘導で、よりグラウンドから遠く、万一の場合に避難しやすい外野側の席に観客が集められていた。
空は清々しく晴れ空気は澄んでいたが、今やスタジアムは、急ごしらえの応援カードや手書きの垂れ幕を手にした多くの観客たちの異様な熱気に包まれている。
その熱気の中心のピッチャーマウンドには、カマキリ形のローカスト・カマジロウがどっかとあぐらをかいていた。瞑想しているのか、じっと目をつぶるその身体は、遮るもののない球場のフィールドにまぶしく輝いている。
と、一段と観客の声援が大きくなった。
『――来たか』
カマジロウはすっくと立ち上がり、目を細めて空を見やる。ヘリオンから飛び降りた小さな点たちは徐々に大きくなり、そのうち2つが二塁ベースの近くに着地する。望月・巌(今宵の月のように・e00281)と八神・楓(月夜に舞う淡き雪狼・e10139)だ。
「正々堂々としたその意気や良し、ならば、こちらもそれに全力で応えよう。俺の名前は望月巌、お前さんの申し出に敬意を払い、その決闘しかと承った!」
観客を背に言い放った巌に、カマジロウもニヤリと口の端を上げる。『敵だが骨太な奴がいて嬉しい』という気持ちは、2人とも同じなのかもしれない。
ふと、巌の後ろに佇む楓が、巌が後ろ手に組んだ右手を、楓にだけ見えるように人差し指と中指をクロスさせたことに気付く。
その意味は――「グッドラック」。帽子をつかみながら巌に肩を並べ、軽くウインクで返した楓は、改めて目の前のカマキリに向き合う。
「カマジロウさん、だったかな? まぁよろしく頼むよ」
頷くカマジロウ。その時、ライト側の外野席がにわかに騒がしくなる。見ると、観客の波をテトラ・カルテット(碧いあめだま・e17772)が飛び越えたところで、外野を駆け抜けて程なく2人のケルベロスたちの横に並んだ。
「エルフ界の稀代の美少女にして、今この瞬間は民の希望! テトラ・カルテットちゃんのエントリーだ! 可愛いからって甘く見ないでよね?」 キラッ☆ とポーズを決めるテトラ。
「クワガタさんのお友達もなるほど納得の男前! その決闘、一秒一瞬、最後まで美少女がお相手するよん☆」
見惚れちゃってもいいのじゃよん、とウインクを飛ばすテトラは実は61歳なのだが、どうみても少女だ。そのハイテンションぶりに、心なしかカマジロウもやや動揺しているように見える。
(「スタジアムで決闘……バット持って来ればよかったかな? ま、決闘ってからには名乗りを上げないとねー」)
つかつか、と一塁側のブルペンから歩み出たのはまりるだ。
「やぁやぁ、遠からんものは音に聞け、近くば寄って目にも見よー。
阿修羅クワガタさん達の心意気は買うが、そうは問屋が卸さぬ!
我等ケルベロス、地球の人間を護る為、貴殿を正面から返り討ちさせて頂く所存、いざ尋常に勝負!」
言うと、まりるは刀でもバットでもなく、スマートフォンをビシ、と相手に向ける。
カマジロウは腕を組み、じっとケルベロスたちを見据える。そんな彼に対し、邦宏も名乗りを上げた。
「窮地に立たされてなお、自らの信念を曲げずに正々堂々と来るその精神……。誠に見事なり!お主のような猛者に会えたことをうれしく思うぞ。
名乗らせてもらおう。ケルベロスが一、日向邦宏。押して参る!」
邦宏とカマジロウの視線が交錯する。ふと、邦宏は口元を緩める。
(「婆が見たら喜ぶじゃろうなぁ。儂も久々に楽しみじゃ」)
「相手も正々堂々と来てるんです、こっちも真っ正面からいきましょうか」
「じゃの」
羽崎・翔(林檎と自由・e28218)の言葉にオルファリア・ゲシュペンスト(ウェアライダーの巫術士・e23492)が頷き、グラウンドのケルベロスたちの列に加わる。そして、最後に入場した黒斑・物九郎(ナインライヴス・e04856)が見栄を切る。
「ケルベロス、黒斑物九郎たァ俺めのことですでよ!」
そして、おもむろに2つの巻物を取り出すと、まず左手の方をぶわっと広げる。
そこにしたためられたのは、『鎌二郎』の文字。つい先ほど書かれたのか、その黒はまだどこか艶がある。
あっけに取られるカマジロウに物九郎は喋りかける。
「おたく、日本語の漢字は出来ますかよ? その名前をこの国の言葉に直すとこんなカンジっスね」
言うと、続いて右手の巻物の紐を解く。そこにあるのは『物九郎』。
「ンでこれが俺めの名前ー。ニャんだか語感似てねっスか? ニャはは」
『……奇妙な奴よのう』
どこか笑いを含んだその口調に、物九郎もニヤっと笑う。
「いいカンジに親近感覚えましたトコで、ささ、楽しい喧嘩にしましょうわ!」
『――望むところじゃ』
グラウンドに整列した8人のケルベロスと、1体のローカスト。その決闘の開始を告げるサイレンの音が、球場中に響き渡った。
●仕合開始
最初に動いたのはカマジロウだった。
ふんぬっ! と気合の入ったかけ声と共に、銀色の液体が身体を覆っていく。
「こっちも正面から行くまでですわな」
物九郎はこき、と首を鳴らすと、ハンマーを振り上げ『上方修正0.2』をブッ放つ。そのやや後方では、テトラが自らに魔法の木の葉を纏わせた。
「漢同士のぶつかり合いに、小細工は一切無用! 拳でぶつかり合いだ!」
とは言いつつ実は巌はガンナーなので構えるのは銃であるが、気持ちは拳だ。そして、彼の背中には、危険を顧みずに残ってくれた住人たちと、愛する人がいる。
(「頼りにしてるよ、ガンさん」)
戦いの前に楓にかけられた一言が頭の中で蘇る。
「……今日の俺はひと味違うぞ。好きな奴の前でかっこ悪ぃトコ、見せられねぇからなあ!」
パン! と乾いた音を立てて銃弾が発射される。それは頭部を撃ち抜いたはずだが、カマジロウは微かに身じろぎしたのみだ。
「いやー、生体金属でコーティングってエゲツないわー」
半分呆れたような口調で呟きつつも、まりるは獣化した手に力を込めると、一気に重い一撃を放つ。
「さて……それじゃ雪ちゃんズ、晴れの舞台だから一緒に頑張ろうな」
観客席のすぐ側で、楓は『リトルスノウ・ガーディアンズ』を展開する。まるで敵からの攻撃から警護するように前衛のメンバーの周りを飛び回る数多の雪だるまの精霊に、観客に流れ弾が飛ばないよう彼は指示を飛ばす。
古代語を詠唱し、翔が魔法の光線を放った、やや前方。
「幾多の剣閃、貴様に躱せるか! 奥義が一、虚空刃!」
刃に纏わせた霊気を斬撃と共に飛ばす邦宏の奥義・虚空刃がカマジロウの動きを鈍らせる。オルファリアが禁縄禁縛呪で敵を鷲掴みにした、次の瞬間だった。
『拙者が蹴り、受けてみよ!』
オルファリアに反撃すべく襲い掛からんとするカマジロウの予備動作を察知した邦宏が、敵との間に割り込む。
「ふんぬ!」
ルーンアックスで蹴りを受け止め、身体を上手く使ってダメージを和らげた邦宏だが、その衝撃に柄を握っていた手が痺れる。
「ふふ……確かに老骨にはちと響くのう。じゃが、動きを予測できれば、どうということはない」
再び武器を構えた邦宏は、周囲の仲間たちに呼びかける。
「皆、正面から攻撃を受けないように注意じゃ!」
頷くケルベロスたち。次に動いたのは物九郎だった。
「じゃ、今度は俺めのガチ喧嘩殺法をお見せしやすよ!」
ぽん、と地面から飛び上がると、電光石火の蹴りで敵の左腕の付け根を貫く。それに続くように巌がオーラの弾丸を放ち、テトラの斬撃が美しい三日月のような弧を描いた。
命中はしているものの、やや攻撃の通りが悪いことを見て取ったまりるは、両手に持ったスマホの角で敵を殴りつける。
「全力で後押しすっから、思う存分戦いな」
前衛にいる仲間たちに声をかけながら、楓はカラフルな爆発を発生させる。その勢いに負けじと、翔はゲシュタルトグレイブを構え、光の翼で一気に敵との距離を縮める。
「この距離なら……届きます!!」
稲妻を帯びた超高速の突きがカマジロウに襲いかかる。その攻撃に、邦宏も気咬弾で追撃し、オルファリアの熾炎業炎砲が敵を包む。
しかし、カマジロウもやられっぱなしではない。両腕の鎌の刃をギラリと光らせると、一番近くにいた物九郎に迫る、が。
「ま、カラダ張って受け止めちゃいますけど」
物九郎には届かず、まりるによって受け流される。
「かたじけないっス」
感謝を示す物九郎に軽く頷き、まりるはカマジロウに向き合った。
「ま、そう簡単には斬らせませんですよー」
『ほう』
感心したような声を出すカマジロウだが、その構えには隙がない。
ケルベロスたちも、気持ちを引き締め陣形を整える。
●揺るがぬ信念
一秒が一分にも、一時間にも感じられる真剣勝負が続いていた。
カマジロウはさすがの強さだったが、前衛6人中5人が彼の攻撃に耐性のある防具を身につけ、手数で攻めているケルベロスたちも負けてはいない。
カマジロウは防御力を高めているものの、ケルベロスたちは地道にダメージとバッドステータスを積み重ねていく。――仕合の優位は、ケルベロスの側に傾きつつあった。
物九郎のハンマーが、竜の力を得て敵を叩き潰す。受け止めたものの、強烈な一撃に苦痛の表情を見てとった巌は、カマジロウに声をかける。
「このままじゃ、また搾取の度に俺たちと戦う事になって、お前達もゆるやかに減っていき……何れ滅びるぞ?」
敵を追撃するビームを放ちながらも、何とか共存の道を探ろうとする。
「不毛な争いはやめて、俺たちを、この星を愛して貰えないだろうか?」
『笑止!』
その一撃を受け止め、ぐぐぐ、と耐えながらしかしカマジロウは言う。
『同胞の命を救うためなら、戦士として散るは本望。そう思うは拙者だけではない!』
その言葉に黙っていられず、テトラも説得を試みる。
「貴方たちが種族を裏切れないのは分かる。でも、弱いものいじめも嫌いだよね? だけど、地球で生きる限り、貴方たちは『弱い』地球の人々を殺す非道を避けて通れない……」
睨み付けるカマジロウに負けじとテトラも視線を返す。
「なら思い切って、貴方もあたしたちみたいに弱くなろう!! そしてか弱い人々を守って生きる、男前な余生してみないっ?」
『拙者に降伏せよ、と申すか? ――痴者が! 汝らがグラビティチェインを渡さぬと判断した時点で、それがしとの交渉の道は既に断たれておる! ……拙者も愚弄されたものだな!』
カキィィン! とカマジロウの左腕の鎌がテトラの妖刀・風来とぶつかり合う。それを何とか受けたテトラは素早い動きで反撃したが、前にも増して鬼気迫る敵のその様子に、巌とテトラももはや説得の望みはないことを思い知ることになった。
(「うん……2人の気持ちは分からなくもないけど……)
その様子をじっと見つめていたまりるは、改めてスマートフォンを握る両手に力を込める。
(「むこうさんも命掛けで挑んで来てるんだし、その誇りを尊重したいかなー」)
カマジロウはそうと感じさせないようにしているが、8人の猛攻を受け続けてた身体は既に限界に近いはずだ。ならばせめて、楽に逝かせてやるのが救い、と言わんばかりに、W炎上撃を放つ。
敵が最期まで戦い抜くことを確認した楓は、仲間の最後の猛攻を支えるべく、再びブレイブマインを唱える。
赤、青、黄色。外野を覆う芝の上に次々と発生する鮮やかな爆風は、ケルベロスたちだけでなく観客達の志気も高めた。頑張れ! 負けるな! と皆が声を枯らして叫ぶ。その祈りにも似た叫びは、ケルベロスたちの背中をぐっと押した。
「とっておきをあげますよ!!」
集中力を高めた翔が、その魔力で作った林檎を相手に投げつける。それは翔の強い思いを表すかのように、敵にぶつかり大爆発を起こした。
邦宏も、意を決したように呟く。
「相手も死ぬ気ならこちらも死ぬ気、男気には男気で返す。……それが武人の礼儀じゃ」
放ったのは、達人の一撃。それにオルファリアも螺旋掌で続き、横からはハンマーを上段に構えた物九郎が距離を詰めていた。
「ブチ抜いてやりまさァ! ブチネコだけに!」
重い一撃がカマジロウの脳天に直撃する。思わずふらついたところに、巌が心に抱えた複雑な想いを溶岩に変えて、敵の足元に噴出させる。
『そうだ、それでよい』
カマジロウは、満身創痍になりながらもどこか楽しげすらある。テトラも真っ直ぐに敵を見据える。
「あくまで誇りを抱いて『負け』を選ぶか。ならば、最後に『美』を目に焼き付けて逝くがよかろう。老い無き者に誇りは、果て無き呪いとなろうの……」
そう呟いた、ほんの刹那。大刀が召喚されたかと思うと、滑らかな動きで一気に敵の正面に回ったテトラが斬撃・百鬼回向を放ち、刀を送還する。鬼すら殺すと言われる呪毒を纏ったその一撃に、思わずカマジロウはマウンドにうずくまる。
『もはや、ここまでか……』
命の炎が消え行くのを感じたカマジロウに、まりるは静かに歩み寄る。
「……貴方は確かに、強く、誇り高い戦士だった」
カマジロウが目を閉じる。
「累次せよ、再来せよ。偶然という名の希望よ」
『望的畳句』。まりるの、そして人々の希望が具現化された一撃は敵を貫き、そして……カマジロウは霧散した。
「まったく、鬼の毒(きのどく)にのう」
ぽつり、と零すテトラが空を見上げる。
――静寂に包まれたスタジアムに、仕合終了を告げるサイレンが鳴り響いた。
●空っぽのマウンド
いま、ケルベロスたちは、先ほどまでカマジロウがいたマウンドを囲むように立っていた。
「互いに護るべき者のため道は相容れなかったけど、貴方達の存在は、ケルベロスの間でも長く語り継がれると思うよ」
まりるの声は決して大きくなかったが、しんと静まり返ったスタジアムに柔らかく響いた。
翔は一歩踏み出すと、手にした林檎をそっと置く。続いて、邦宏は花束を手向けた。
「……お主との闘い、誠に楽しかったぞ。先に逝っておれ。また、あの世で死合おう」
できることなら、お主とは酒を酌み交わしたかったのぅ、とつぶやく。
巌と楓も、ふたりで静かにマウンドを見つめる。耳をしゅん、と垂らしたオルファリアの横で、物九郎はわしゃわしゃと乱暴に目元をこする。
すると、外野席で、一人が立ち上がり、拍手をし始めた。またひとり、もうひとり、とさざなみのようにそれは広がり、ついに割れんばかりの拍手がスタジアムを一杯にした。
――それは、ケルベロスたちだけでなく、ひとりのローカストの戦士をも称える気持ちから起こったものに違いなかった。
作者:東雲ゆう |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年10月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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