阿修羅クワガタさんの挑戦~ヒートヘイズ・ヴェインズ

作者:鹿崎シーカー

「挑ゥゥゥ戦ンンン状オオオオオオオッ!」
 北海道札幌市に横たわる大通り公園。そこに設置されたステージの上で仁王立ちし、マキモノを手に叫ぶ者あり。トンボめいた長い尾と四枚の羽根。腰には二振りの刀を下げ、小さな頭には『戦な』のハチマキ。赤いウスバカゲロウのローカストは、大きな声を張り上げる。
「ケルベロスの者共よ、よぉく聞けッ! 我々には、もはやグラビティ・チェインは無し! 手に入れるようなアテも無し! よって、我ら種族をつなぐため、この街の人々からグラビティ・チェインを頂く運びとなってしまった。しかァし!」
 マキモノがさらに開かれる。
「我々とて、一方的な虐殺は、誠に本意ではない! 故に私は、正々堂々と貴殿らケルベロスを打ち破った上でグラビティ・チェインを戦利品として頂くこととする! 地球人には申し訳ないが、我々とて滅ぶわけにはいかないのだッ! 我が名はヒートヘイズ。誇り高きローカストの騎士! 逃げも隠れもせんがゆえ、いつでもかかってくるがいいッ!」
 ヒートヘイズはマキモノを投げ捨て、その場でアグラをかいて座禅する。小さな複眼は、まだ見ぬ敵を見据え光輝いていた。

「これぞ敵ながらアッパレ、ってやつなんだろうなー……」
 複雑そうな顔でつぶやき、跳鹿・穫は気を取り直してせき払いした。
 先日の広島で、イェフーダー率いる特殊部隊『ストリックラー・キラー』は全滅したことによりローカスト側に新たな動きが広がった。
 度重なる作戦失敗により、グラビティ・チェインは枯渇寸前。そんな状況で、かのダモクレスの移動拠点『グランネロス』を強襲した『阿修羅クワガタさん』とその仲間たちが、意を決して立ち上がったのだ。
 グランネロスから奪った分では焼け石に水と断じた彼らは、さらなるグラビティ・チェイン獲得のためやむなく地球人を殺戮するを決意した。しかし、そのままでは彼ら自身の矜持にもとるため、各位がケルベロスに対して宣戦布告。ケルベロスを真っ向から打ち破った上でグラビティ・チェインを奪うというのだ。
 彼らは性格上、決して悪ではないようだが、地球人を虐殺するなら見過ごすことはどうしてもできない。
 皆には彼らの宣戦布告に応じ、正々堂々と戦ってほしいのだ。
 敵は北海道札幌市にある大通り公園で、一般人を遠ざけた上で待ち構えている。大通公園はいくつかの区画に分かれた縦長の形をしており、ヒートヘイズがいるのは端にステージがある石ダタミの区。正々堂々戦うという言に従ってか、障害物は一切ないので安心して戦ってほしい。
  今回担当してもらうのは、ウスバカゲロウのローカスト『ヒートヘイズ』。鉄をも切り裂く炎の二刀流を操る手練れで、フェアな戦いを好む熱血漢だ。困窮し苦しむ仲間たちのため、不退の覚悟を決めた剣技はすさまじいものとなっている。心して戦いに臨んでもらいたい。
「向こうも必死なんだろうけど、だからって殺させるわけには行かないんだ。みんな、頑張ってきて」


参加者
シフィル・アンダルシア(アンダーテイカー・e00351)
鉄・八郎太(時雨に佇む・e00805)
レオガルフ・ウィルフィッド(スカーレッドヴォルフ・e03144)
エリシエル・モノファイユ(銀閃華・e03672)
不破野・翼(参番・e04393)
アトリ・カシュタール(空忘れの旅鳥・e11587)
アシュレイ・クラウディ(白翼の騎士・e12781)
クー・ルルカ(ショタ妖精・e15523)

■リプレイ


 真紅の影が、静かに足を組んでいた。
 公園にあるステージで、二刀を持つヒートヘイズは叫んだっきり、彫像めいて動かず遠巻きの人々を見返していた。人の影はまばらだが、親の足にしがみつく子供も見える。
 刃を鋭く研ぐように、戦意をじっくり尖らせる。静寂の中、ヒートヘイズの聴覚は、空を駆ける異音を捉えた。見上げた先には一台のヘリ。座禅を崩すヒートヘイズの真上で扉が開いた。
「おーおー、案外人が集まってますねェ。しかし態々こンな場所にまで覗きに来るたァ、人気者は辛ェです」
「それじゃあ予定通りにやるとしようか」
 滞空するヘリから飛び降り、鉄・八郎太(時雨に佇む・e00805)とシフィル・アンダルシア(アンダーテイカー・e00351)は殺気を放った。遅れて、レオガルフ・ウィルフィッド(スカーレッドヴォルフ・e03144)は後ろ髪をかき呼びかける。
「あー……万一の際の覚悟は出来てるンでしょうがね、あンま気持ちの良いモンをお見せできる自信は無ェンで……出来りゃあ、帰って貰えませンかね? 応援なら、その気持ちだけで十全ですンで」
 人々が、潮を引くように去っていく。遠く小さくなる背を眺め、ヒートヘイズは地面に降り立つ。
「逃がしたか」
「あァ、待たせてすみませんねェ。……互いに、面倒は無ェ方が良いかと思って。エリシエルさん?」
 レオガルフの声を受け、エリシエル・モノファイユ(銀閃華・e03672)は一歩踏み出す。距離は約十メートル。ヘリオンが去るのを待ち、エリシエルは収めた刀を石ダタミに突き立てた。旋風のように広がる殺気!
「……我が名は、エリシエル・モノファイユ! この北の地にて生を受けしケルベロス! まずは徒に被害を出さぬ貴殿の振る舞いに感謝する! ローカストの騎士ヒートヘイズよ、貴公の申し出は当方としても願ってもない!」
 そばの仲間も、相手も動かぬ。物悲しげにさざめく木の葉。
「なれど暫く! 無粋は重々承知なれど今一度問う! 貴公がごとき益荒男、徒に散らせるは余りに惜しい! 我らと共に歩むつもりはないか!」
 仁王立ちしたヒートヘイズは赤い複眼を光らせる。ケルベロスたちに対し、ヒートヘイズは頭を下げた。
「誠実なる返礼に感謝する。また、意思表明のためとはいえ大衆の前で怒鳴った無様、どうか許していただきたい」
 流れるように面を上げる。
「なれど、誘いは辞退させて頂こう」
「……っ」
 クー・ルルカ(ショタ妖精・e15523)の表情がわずかに歪んだ。
「我は、飢えた同胞達のためにここへ来た。それに何より……共に行くと決めた男が我らに頭を下げたのだ。うなづいた以上、もはや戦う以外の選択は無し。……盟友達に、恥をかかせるわけにはいかんのだ!」
 柄を握り、二刀を引き抜く。銀の刃は赤熱し、バーナーめいた炎をまとった!
「……なれば是非もなし! この後は刃にて語るのみ! いざ、尋常なる仕合を所望する!」
 刀を引くエリシエルと入れ替わりに不破野・翼(参番・e04393)が前に出る。黒鉄の籠手に巻き付く鎖が解けた。
「ローカストの武人よ。俺のあざなは不破野、名は翼。貴方との対峙を誇りに思う。だからこそ、絶対に此処で負けませんッ!」
 叫ぶと同時、翼の鎖が宙を舞う! 魔法陣を描く先端めがけ、ヒートヘイズは地面を蹴った! アトリ・カシュタール(空忘れの旅鳥・e11587)の口笛を合図に、クーとシフィルも疾駆する! 鎖の魔法陣が守護の光をその身に宿した。
「あなたの燃える心と刀は凄いと思う。でも、ボクの想いと凍てつく剣で、必ず乗り越えてみせる!」
「受けて立つ」
 一層燃え上がる炎を従えるヒートヘイズ! クーは二本のサーベルを抜き、大きく息を吸い込んだ!
「ボクの使命はっ! この剣で、世界を護ることっ!」
 渾身の叫びが吹雪と化した! 赤い体が氷に包まれ、敵の全身を侵食していく。だが炎の剣士は一切怯まず刀を振るう! 交叉する刀とサーベル。跳躍したシフィルは光輝くつま先を突き落とす!
「砕けろッ!」
「ふんッ!」
 クーを押しのけ、ヒートヘイズは刀でキックを迎撃。すぐさま逆回転し、放たれる斬り上げを左の剣で打ち払う! がら空きになった胴が突かれるその直前、空から降った銀鎖がシフィルに巻き付き輝く。守護の光は刃を受け止め、肌を焦がすに止まった。アシュレイ・クラウディ(白翼の騎士・e12781)は空中で鎖を操りシフィルを後ろに投げ飛ばす!
「アトリ! シフィルさんを!」
「うんっ! 気をつけてね!」
 片手にオーラをたたえたアトリはすぐさま治療に移る。アシュレイの肩に乗ったシキが身を乗り出して、一声あげる! 目下の敵から火柱が上がるがその声音はあくまで涼しい!
「我に炎で挑むか」
「いいえ、まだ終わりではありません!」
 引き絞った純白の刀が冷たく光る。突き下ろされた一閃は、爆炎ごとヒートヘイズを貫かんとす! それを受け止めた瞬間、彼は止まった。彼を覆う炎自体が、まるで絵画めいて停止したのだ!
「レオガルフさんッ!」
 呼びかけるが早いか、レオガルフが拳を握る! 牙をむき、手が真紅の毛で包まれた。
「生憎と、刀の扱いには慣れて無ェモンでして。拙い技を見せンのも実際失礼。だから……カラテってェので相手してやるァッ!」
 炎ごと凍ったヒートヘイズに、レオガルフは一歩踏み込む。地面が砕け、パンチが胸を撃ち抜いた! 吠えるレオガルフ! 粉々になる炎を、剣の炎が焼き尽くす!
「中々の威力だ、若人よ」
 持ち上がる左の剣!
「だが怒りとは静かに燃やすもの。闇雲に焼いては己を滅ぼす」
「ッチィ!」
 鼻先まで迫る刀をレオガルフは両手で挟む。肉と体毛が焼ける音。歯を食いしばる彼の陰から、エリシエルが飛び出した! 光をまとった回し蹴りがヒートヘイズの膝に食い込む!
「講釈なんてずいぶん余裕があるじゃあないか! はっ!」
 火のついた蹴りが上段の手首を打ち上げる。二人は横薙ぎの剣をすれすれで回避し、片手を挙げる。狼型の赤いオーラと、悪魔めいた姿の子竜が飛び出す! 体勢を崩したその瞬間、八郎太は電光をまとって刀をつかむ!
「充電完了。……さて、僕もお相手願おうか。なに、退屈はさせないさ……電磁抜刀!」
 雷鳴轟く! 抜かれた刀は雷の剣となりて大地を割った!
「リニアエッジ・オーバードライブ!」
 ヒートヘイズはシュタールとオーラを振り払い刀を交叉! 稲妻を真っ向から受け止める。一方八郎太はメスほどになった刀を流れで放り、追撃の手裏剣を投げ放った。裂帛の気勢を上げて雷を弾いた真紅の肩に、巨大手裏剣が突き刺さる!
「ピンピンしてるか。流石、正面切って挑んでくるだけはあるねえ。こちらも負けてられないなあ」
「ならこっちも正面から挑むのみですッ!」
 回転する剣をキャッチし、八郎太は翼と駆けだした。空に広がるオーラの雨雲。アトリは祈りを捧げる巫女めいて、金の翼と花弁のついた杖をかかげる。優しく輝く空色の玉!
「力を……みんなに、大事なものを守る力を!」
 恵みの雨が降りしきる。傷を癒やす仲間の隣を横切る翼。目の前には腕を震わせ、傷つきながらも今だに燃える炎の闘志!
「貴方の想いに、俺は拳で応えます!」
 翼の右手にオーラが集中。重い黒鉄の右フックを、ヒートヘイズは向きを逸らして回避する。
「共に戦う声を聞け。我が戦う理由はそこにある。そして……」
 左手が触れ爆破する。いつの間にか鞘に納められた一刀。アシュレイが鎖を投げ落とす!
「翼! 下がってください!」
 高速抜刀! 赤い軌跡を描き、翼の鎖骨が断ち切れる。剣はそのままシキの刃を跳ね返し、鎖の先を黒く焦がす。割って入る八郎太!
「エリシエルさん!」
「了解!」
 振り下ろされる炎を回避し、刀が一瞬縮みまた伸びる。反対からふみこんだエリシエルは攻撃を見切り刃で斬りこむ。二人は交叉しヒートヘイズのサイドへ抜けた! 再びレオガルフの咆哮!
「グルァァアアッ!」
 流星のごとき拳をヒートヘイズは屈んでかわす。前で入れ替わる二人にX字に剣を振り下ろしたその瞬間、八郎太は斬り結びエリシエルは踊るようにその場で回った。彼女の剣が縮んで炎をかい潜り、再び伸びた! 入れ替わる直前、持っていた剣をすり替えていたのだ!
「何?」
「初見殺しこそ奇剣使いの面目躍如ってね」
 脇腹をえぐる一撃! しかしヒートヘイズは動揺をねじ伏せ、さらに腕を閃かせる。翼を連れて跳び下がる二人に黒い傷! 直後ヒートヘイズは剣を突き上げ、アシュレイの翼を貫いた。炎の剣が振り抜かれ、白く大きな翼が裂ける!
「アシュレイさん……!」
「まだ、ですっ!」
 アトリの悲鳴を背に受け白銀の鎖を振り回す。竜巻と化した先端は連続で繰り出される刃を逐一弾く。そして高速回転にしがみつき、跳び来るは青い影! 片足に蒼い炎を宿したクーは、勢い余さず飛び蹴りを放った!
「うあああああっ!」
「ぬうッ!」
 足を刀身で受け止める。焼けるクツを軸にして、サーベルの二刀流となったクーが澄んだ光を斬り下ろす! ヒートヘイズは刀を滑らせ足場を奪い、もう片方で二刀をガード! 四つの剣が火花を散らす!
「……守る力か」
 斬撃の応酬を繰り返し、ヒートヘイズはひとりごちる。コマめいて回り背後から急襲するレオガルフに一太刀浴びせ、凍れる剣を防御する。鈍化していく時の中で、自らの炎が空気を熱く焼くのを感じていた。
「思えば彼もそうだった。矜持と仲間のどちらも守る。あれはそういう男であった……」
 さらに飛び込んでくるシフィル。月光を宿す刀と氷水を得た二刀、ふたつを勘でさばいていく。時折合間をぬって飛ぶ手裏剣を斬り飛ばす。斬り合いの奥には唇を噛んで治療に当たるアトリと、スキをうかがう翼とエリシエル。折れぬ闘志と気迫を感じる。いつか見た、真っ直ぐでまぶしいあの光。
 全身に幾筋もの傷が生まれる。血を撒き散らして攻撃をいなし、追撃。飢えと戦いで削れた手で刀を握る。あの男達と鉄の城に飛び込んだ、あの時のように。一層炎をたぎらせながら!
「フンッ!」
 気合いを込め、シフィルとクーを跳ね返す。片や逆らわず後退し、方や空中で制動をかける。両手を不死鳥めいて広げた構えで、ヒートヘイズは言い放つ。
「……見事な剣技だ。だが、まだ甘い。剣士は目に頼っては務まらず、戦いとは娯楽ではない。最後に見せてやろう……」
 周囲に熱い風がうずまく。凄まじいまでの剣気に、辺りが陽炎のように歪んでぼやけた。ヒートヘイズの両手が消える!
「己が全てを剣に捧げた無心の境地というものを!」
 燃え盛る剣が弾けた! 目にもとまらぬ速さで炎剣が閃き、熱が殺意をもって吹き荒ぶ。必死でパリィする二人を焼き尽くさんと嵐はさらに強くなり、揺らめく景色を切り裂いていく。
 加速し広がる剣戟の世界! 八郎太は冷気と稲妻をまとった手で刀を握り、陽炎の領域に足を踏み入れた。コートの端が黒く崩壊。
「これで勝負は決するんだね。……互いに、悔いのない一撃としたいところだ」
「悔いはない。戦いとは常に、誇れるものであるからだ」
「違いない……」
 視界を歪ます陽炎の中を、雷撃が閃く。天へ昇る一刀はヒートヘイズの胸を斬り、ひとつの道を生み出した。間髪入れず翼が飛び込む。たちまち閉じ始める領域を、防御姿勢でひた走る。赤熱する手甲を気で包み、斬撃の海を駆け抜ける。繋がったばかりの肩が血を噴いた。
「聞かせてください、ヒートヘイズ。俺たちは、貴方の好敵手になれましたか」
「百年早い」
 激しい炎と鉄の音が鳴り響く。だが、不思議と静かだ。懐に入った翼は右の拳をたたき込む! 左手、右足、左足。膝を落とすヒートヘイズの視界を縦横に走る銀色の鎖。光の小鳥を従えアシュレイは鎖で斬撃を打つ。剣を覆う炎が揺れた。
「大一番だ。私も気合いを入れないと!」
 エリシエルの刀が黒化し、ワイヤー状に引き伸ばされた。ムチめいてしなる刃は嵐を避けてヒートヘイズの身を削る。レオガルフは眼鏡をむしり拳を構える!
「まだだ……負けやしねェ。ここで退くこた出来ねェンだよ……ッ!」
「幾千、幾万の棘を以てその身に刻む。私の剣を」
 シフィルとレオガルフがかき消えた。交互に閃く左右の剣。背中に乱打が突き刺さり、左の剣が火花を散らす! 素早く身をひねるシフィルはさらに斬りかかる。竜巻めいて旋回しながら衝突し合う剣と剣! 熱風の中、ヒートヘイズは両の剣を振り回す。弾ける光、上がる血煙。いつしか剣士はバラのように血霧を飛ばし、千切れかかった膝をついた。
 視界が赤く、そしてまぶしい。こんなとき、あの男なら笑うのだろう。きっと、最高の喧嘩だった、などと言いながら。
「すまん。我の負けだ」
 つぶやくヒートヘイズの胸をクーの剣が横なぎに断つ。続く縦一文字の一閃は頭を切り裂き地面を砕いた。


「アトリ……?」
 アシュレイが名を呼ぶと、アトリは彼の背に頬をうめてうなづいた。シキ共々無事を確認し、倒れたヒートヘイズに目をやる。
「やはり甘いな……」
「別に、殺したいわけじゃない。……あなたには、こっち側に来てほしいんだ。本当に」
 すすけた頬に触れるエリシエルに、ヒートヘイズの肩が震える。
「そちらに、か……無理だな。矜持を曲げて勇んでおいて、我は結局この様だ。誰一人として救えぬ上に、友まで裏切ったとあれば……それは、生き恥じに他ならぬ」
「何が恥なモンですか」
 レオガルフは顔の横に屈みこむ。複眼をのぞく表情は、真剣だ。
「あんた、立派に戦ったじゃねェですか。こっちだって死に物狂いで、ようやく勝てた。誰も責めやしませんよ」
「そうですよ。仲間のために、矜持だって曲げなかったんだ。純粋に、尊敬します」
 主を慰めるように、翼の頬にすり寄るシュタール。次いで子竜は刀を落とした手を舐めた。
「気休めはいい……我は弱者を手にかけようとして、失敗した。最後の最後まで迷っていたのだ……いつか、フェアじゃないからと言われ、うなづいた時の我が問うのだ。我は、本当に正しいのかと。……答えは出せぬ。我は、どうすればよかったのか……」
 秋空を見上げる彼の目が弱々しく瞬く。
「恥を重ねるようではあるが……頼む。仲間を、見逃してはくれぬだろうか。我らのために、他者が苦しむのだけはあってはならん。無理は承知だ……だが、非力な我にはこれしかできぬ……!」
 子竜の横から、クーは赤い手を両手で包んだ。解けた青い長髪が横顔を隠す。
「ずっと辛かったんだよね……ゆっくり休んでね。誰よりも誇り高い、戦士さん……」
 ヒートヘイズは無言であった。くすみ、黒く濁る複眼の前でシフィルは仮面を外し、胸に押し当てる。静寂の中、八郎太は帽子を目深に被る。
「或いは、違う出会いもあったかも知れないね。何、正直な感想さ……」
 冷たい風が残った熱をさらっていた。

作者:鹿崎シーカー 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 2/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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