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とある地方都市の昼過ぎの駅前の広場。
この場所は街の中心部であり。今も多くの行き交う人々で賑わっていた。
「おい!? アレは」
通行人の1人が何かに気付き空を指差す。
その様子に足を止めた周囲の人々が指差した方へ顔を向け、皆が驚きに目を見開く。
彼らの視線の先。
広場の上空に大きな槍を持った蜂のようなローカストの姿があった。
平和な日常に突如出現したデウスエクス。
瞬く間にパニック状態に陥り、我先へと逃げる人々の間に悲鳴と喧騒が広がっていく。
と、その時であった。
「鎮まれぃ! 我が名はゲッシュ、ローカストの戦士である。今この瞬間、お前たち人間を襲う事はしないと種族の誇りとこの槍に誓い約束しよう」
広場全体に轟くローカストの一喝。我に返った人々がその動きを止める。
もしもパニック状態が続いていれば、逃げる最中で怪我人が出ていた事だろう。
さらにローカストは広場の人々に向かい言葉を続ける。
「ケルベロスに伝えよ! 弱者を虐げる事は我が本意ではない。しかし、同胞を救う為、この町の人間たちのグラビティ・チェインを強奪する事と相成った。人間たちを救いたければこの私と戦うのだ! 私は正々堂々と強者であるケルベロスと戦い、その結果としてグラビティ・チェインを強奪する事を望む!」
それは窮地に立たされたローカスト戦士のケルベロスに対する宣戦布告であった。
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「広島での戦いはご苦労様であった。貴殿らケルベロスの活躍により、イェフーダーとストッリック・キラーのローカストは全滅。ローカストたちのグラビティ・チェインの枯渇も深刻なものとなってきた。太陽神アポロンとの決戦も近いかもしれんな」
ケルベロスたちの活躍を語る山田・ゴロウ(ドワーフのヘリオライダー・en0072)の顔に誇らしげな笑みが浮かぶ。
「しかし、ローカストの窮状に立ち上がるものたちが現れた」
一転、表情を引き締めるゴロウ。
「ダモクレスの移動拠点『グランネロス』を襲撃した、阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達だ。彼らは奪ったグラビティ・チェイン全てを困窮するローカスト達に施した後、グラビティ・チェイン獲得の活動に入った」
敵ながらその行動には感銘するものもあるのだろう。ゴロウの顔に複雑な表情が見える。
「しかし、そんな都合よく大量のグラビティ・チェインを持つデウスエクスが見つかるはずもない。結果、やむなく人間からグラビティ・チェインを奪う決断をした。
彼らは、ケルベロスに対して宣戦布告をし、迎撃に来たケルベロスを正々堂々と撃破した後に、強敵との戦闘に勝利した報酬として人間からグラビティ・チェインを略奪しようとしている」
一呼吸おいて言葉を続ける。
「この宣戦布告は戦略的には無意味なものだ。しかし、この無意味な行動こそ、ローカストの窮状を救いつつ、自分たちの矜持を守る為の苦渋の決断なのだろう。彼らの心意気はどうあれ戦いは避けられない。どうか彼らを撃破し、人々を守って貰いたい」
「貴殿らに向かって貰いたいのはとある地方都市の駅前の広場。すでに人々の避難は完了しているが、そこにゲッシュと名乗る蜂型のローカストが待ち受けている」
人払いなどは必要無い。ローカストとの戦闘に専念して欲しいとゴロウはいう。
「ゲッシュは大槍を振るうローカストの戦士で、阿修羅クワガタさんの気のいい仲間たちの中では古参になる。かつての戦いで仲間を庇って大きな怪我を負ってしまい第一線から退いていたようだ」
仲間たちの窮地に再び戦う決意をしたのだろうとゴロウ。
「ゲッシュの槍の腕は鈍ってはいないが、以前の怪我による古傷は弱点となっている。その弱点を突けば戦いを有利に進められるだろう。
たとえ弱点を攻められたとしてもゲッシュの性格からすると、それも戦の常であると相手を責めるような事はしない。むしろ、古傷を抱えたまま決死の覚悟で戦いに臨んでいる事が脅威といえよう」
油断は禁物だとゴロウは注意を促す。
「……弱点を攻めず真っ向勝負を挑んでも勝てない相手では無い。どうするかは貴殿らの判断に任せる。どうかよろしく頼む」
参加者 | |
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鉋原・ヒノト(駆炎陣・e00023) |
鏑城・鋼也(悪機討つべし・e00999) |
カナネ・カナタ(やりたい砲台の固定放題・e01955) |
一条・雄太(一条ノックダウン・e02180) |
シルディ・ガード(平和への祈り・e05020) |
森光・緋織(薄明の星・e05336) |
志場・空(シュリケンオオカミ・e13991) |
天変・地異(リア充許さないドラゴニアン・e30226) |
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「俺の名は鉋原ヒノト。こっちは相棒のアカだ」
「オレは森光緋織。オレたち8人全員を倒して初めてアンタの勝利だからね」
ローカストの戦士ゲッシュが最後に名乗りを上げた鉋原・ヒノト(駆炎陣・e00023)と森光・緋織(薄明の星・e05336)の顔をまじまじと見て、静かに頷く。
「お前たちのような誇りある戦士がやって来るとは僥倖の限り。我が名はゲッシュ、いざ尋常に勝負!」
そして改めて目の前のケルベロスたちへと名乗りを上げる。
ケルベロスたちは各々が正々堂々と名乗りを上げ正面からの戦いを挑んで来た。それはローカストの戦士を感動させ、ケルベロスへの敬意を抱かせるのに十分な行為だった。
(「まぁ、植物とかアホ鳥とか色豚と戦うより真っ向勝負なのが気楽でいいけどさ……」)
勇み喜ぶゲッシュに白狼の螺旋忍者、志場・空(シュリケンオオカミ・e13991)がため息交じりの苦笑を漏らす。
そしてゲッシュの身体に大きく刻まれた痛々しい古傷にチラリと目をやる
仲間たちがそうであるように空もゲッシュに悪い印象は持っていない。そして彼の戦う事情も分かっているからこそ、この戦いを『気楽』とうそぶかずにはいられないのであった。
「あっ、ちょっと待って待って」
と、カナネ・カナタ(やりたい砲台の固定放題・e01955)が戦いにはやるゲッシュを制止し、悪戯っぽい目を向ける。
「あなたの勝利の報酬がグラビティチェインっていうなら、私たちにも何か報酬が欲しいところね。アポロンが指示する限り死ぬまで戦うっていうなら彼の居場所、なんてどう?」
「一介の戦士に過ぎない私の一存で迂闊な約束は出来ない……済まないな」
バツの悪そうなゲッシュに「気にしないで、言ってみただけ」とカナネは肩をすくめる。
(「考えてみれば私が逆の立場でも同じ受け答えになるわよね。ちょっとイジワルしちゃったかしら?」)
もしも逆に他のケルベロスの居場所やケルベロスの組織について敵に聞かれたら?
個人の一存で取引材料には出来ないだろう。だからカナネもこれ以上の追及は避ける。
「じゃあさ、人間の命が奪われない形でグラビティ・チェインを君たちに提供する手段とか知ってたら教えてっ!」
意を決したようにシルディ・ガード(平和への祈り・e05020)が口を開く。
ゲッシュはこの少女のようなドワーフの戦士の言葉に困惑の表情を浮かべる。
「? 何故そんな事が知りたいのだ」
「ボクはキミたちローカストと仲良く暮らしたいんだっ! もしもキミたちが人間の命を奪わずに生存できるなら、きっと友達同士になれるはずだよ」
シルディの真っ直ぐな瞳。一瞬、呆気にとられ言葉を失うゲッシュであったがシルディの真剣な顔に堰を切ったように豪快な笑い声を上げる。
「ガハハハッ、私と仲間たち程の変わり者は居るまいと自負していたが、お前は私たち以上の変わり者に違いない! まさか私たちが共存などとは……これは一本取られたぞっ!」
心底愉快そうに天に向かい大笑いをする。
やがて笑いが収まると、表情を引き締めシルディへと向き直り口を開く。
「これまでそんな事は考えもしなかったのでな。申し訳ないが、知らんものを教える事は出来ない」
その答えにシルディが残念そうな顔を見せる。
「こっちの用件はこれでお終いだ。ヤル気に水を差しちまって悪かったな、そろそろおっ始めようぜ」
一条・雄太(一条ノックダウン・e02180)が一度大きく屈伸をして、準備万端とばかりに両拳を握り締め、構えを取る。
「それじゃ、こいつが地面についた瞬間から戦闘開始って事でどうだ?」
天変・地異(リア充許さないドラゴニアン・e30226)が指の間に挟んだ硬貨をゲッシュへとかざすと、それにゲッシュが頷く。
地異の弾いた硬貨が宙を舞う。
それまで静かに腕を組み仲間とゲッシュのやり取りを見ていた鏑城・鋼也(悪機討つべし・e00999)が腕組みを解く。
「変……身!」
硬貨が地面に落ちると同時。鋼也が鋭い掛け声が聞こえた。
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戦闘開始と同時に鋼也が敵へと飛び出す。
鋼也の全身を包む焔のように赤いバトルスーツ。赤い走甲車と化し鋼也は加速していく。
しかし、眼前に槍の穂先が。それは機先を制したゲッシュの先制の一撃だった。
と、そこにカナネが割り込み、その槍を受け止める。
「ここはおねーさんが引き受けたわよ、鋼也くん」
「助かる! のっけからフルスロットルでいかしてもらう!」
カナネを追い越しゲッシュへと接敵した鋼也が渾身の力で攻撃を叩き込む。
ローカストの外骨格と金属の打ち付け合う鈍い音が響く。
力任せの不器用な一撃であるが、その威力は本物だった。
身体をくの字に曲げたゲッシュの口元から苦悶の吐息が漏れる。
「この痛み……久方ぶりだ。戦いとはこうでなくてはな!」
「これだから男ってのは……まっ、おねーさんはそういうの嫌いじゃないけどね。先生、出番よ――『お願い! 自動砲台先生(セントリーガン)!』」
敵から距離を取るように退いたカナネの足元に自動砲台が出現。敵へと狙いを定めると、間断なく銃口からマズルフラッシュが発せられる。
「卑怯? むしろこれだけやってようやく互角、って称賛よ」
後方へ飛び弾丸を避けたゲッシュがこちらに向ける視線にカナネが笑みを浮かべる。
「あなたの誇りと覚悟、そして実力、全部本物なのは分かっている。だからこっちはそれに加えて連携で、あなたを上回ってみせるわ」
「任せて! 大切な人たちを守る為にボクは戦うよ」
「おうっ! オレたちの正義でお前を打ち砕く!」
カナネの横にシルディと地異と盾役たちが並び立ち大きく頷く。
「まあ、一対一じゃ流石に敵わないけどな?」
「こちらには背中を任せられる仲間がいる」
攻撃を担うのは雄太と鋼也。
そして、空、ヒノト、緋織の援護グラビティが次々と前衛へと飛んでいく。
目の前の強敵に打ち負かすべく一致団結して戦いに挑むケルベロスたち。
「これがケルベロスか……成る程、強いな」
一糸乱れぬチームワークを目の当たりにして、納得したようにゲッシュが小さく呟いた。
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緊張した面持ちの緋織の眼前で、激しい乱戦が繰り広げられていた。
戦いの中心で槍を縦横無尽に振り回すゲッシュ。
それを取り囲むように布陣したケルベロスたちが絶え間なく攻撃を繰り出していく。
次々と被弾する攻撃にダメージは蓄積されていく。そのダメージがゲッシュの身体を蝕んでいるのは確かのはずだ。
しかし、緋織の目にはゲッシュの槍がさらに鋭くなっているように映った。
格上の存在であるはずのデウスエクスが自分たちに死を賭して戦いを挑んできている。
それも仲間の為に。
その姿は緋織に脅威と同時にある種の共感と尊敬の念を抱かせるものだった。
と、繰り出す槍の軌道が突然変化し、緋織へと突き出される。
完全に虚を突かれた形で直撃した一撃に大きく吹き飛んだ緋織が地面を転がる。
「緋織、大丈夫か!?」
一瞬失いかけた意識が心配そうなヒノトの声で繋ぎ止められる。全身の痺れるような痛みと口の中に広がる血の味。
「大丈夫……こんな所で倒れる訳にはいかないよ」
そうヒノトに答え、ふらつく身体を無理やり抑えつけて立ち上がる。同じ攻撃をもう一度食らえば立っていられる自信はなかったが、歯を食いしばりゲッシュへと向き直る。
(「あなたの覚悟に釣り合うだけの強さが今の僕にあるとは思わないけど……」)
それでも緋織は仲間に、そして目の前の強敵に無様な姿を見せたくはなかった。
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「ガード――『バリスティック・シールド』」
シルディの周囲に出現した盾がゲッシュの槍を受け止める。
その隙に飛びかかる雄太。即座に反転した槍がその頬を掠める。
「これが熟達の戦士。経験の差ってやつかね」
頬に走った一筋の血を拭い、再び距離を取る。
雄太はケルベロスに覚醒する前は戦いとは無縁のごく一般的な家庭で過ごしてきた。実際に戦ってみてゲッシュとの戦士としての年季の差を感じずにはいられなかった。
それでも、その実感が雄太を落胆させる事は無い。
強敵を前に雄太の口元には自然と笑みが浮かんでいた。
「こんだけ攻め込んで崩れないなんてね、大した執念だよ!」
それまで回復に専念し、様子を伺っていた空が敵の足元へと手裏剣を放つ。
しかし手裏剣は狙いを外し地面へと突き刺さる。
「だったらコッチで崩す――爆ぜろ! 『狼の鉄槌(ウルフ・ハンマー)』」
突然、手裏剣が爆発。空の狙いは初めから足元の地面であったのだ。
「……動かないで。『夢現の瞳』」
足場を失い体勢を崩すゲッシュを緋織の左眼が捉え、その瞳に真紅の魔力が宿る。
完全に体勢を崩し無防備になったゲッシュ。
ほんの一瞬の隙ではあるがケルベロスたちがこの機を逃すはずは無かった。
ヒノトが決意を秘めた険しい瞳でゲッシュの古傷へと目を向ける。
勝負はどちらに転ぶか分からない。このまま戦いが長引けば倒れる仲間も出てくるだろう。
「アカっ! いくぜ」
ゴクリと唾を飲み込み、手の中の相棒、ファミリアロッドのアカへと声をかける。
主人の意図を察し、アカが光を放ちネズミへと姿を変えていく。
「ファミリアシュートッ!」
炎を纏ったネズミがクルクルと回転しながら敵へと弾け飛ぶ。その先にはゲッシュの古傷があった。
「その硬い外骨格。内部から砕かしてもらうぜ!」
古傷に炸裂した攻撃に悶え苦しむゲッシュへと雄太が大きく踏み込み接敵する。
そして螺旋のグラビティを掌へと集中。一気に前方へと突き出す。
ドンっと掌を介してグラビティが無防備な胴体へと吸い込まれていく。
次の瞬間。ゲッシュの口から大量の血液が吹き出し、その足元を赤く染めた。
●
槍がコンクリートの地面に落ちる音が響く。
苦しそうに片膝をついたゲッシュの耳に地異の声が聞こえてくる。
「お前も正義だ! オレも、また正義なんだ!」
顔を上げたゲッシュと地異の目が合う。
「オレの正義の前に悪は滅びろ!!」
硬い表情の地異が大声を張り上げる。それは自らに言い聞かせるような強い叫びだ。
「あちらの正義はコッチの悪。コッチの正義はあちらの悪。いやだねぇ、正義と正義、悪と悪の戦いは」
皮肉交じりの笑みを見せた空が、表情を冷たく一転させる。
「コチラの正義のために死んでくれ、悪」
ゲッシュが槍を再び手に取りフラフラと立ち上がる。
その動きは鈍く、ダメージの深さを物語っていた。
「ここで決めるぞ、ヒノト!」
「ヒノト、いくよ!」
雄太と緋織が、先ほどの攻撃から険しい表情のままのヒノトに声をかける。
「鋼也くん、決めちゃってよね」
「任せろ」
カナネと軽く視線を交わし、鋼也が天高く跳躍する。
「猛ろ! 灼灼たる朱き炎! 『フェルカエンテクス』」
「これはおねーさんからの手向け、ありったけ持っていきなさい!」
「あなたを倒し、オレはもっと強くなる!」
ヒノトの炎弾とカナネの自動砲台の全力射撃が敵を捉え、緋織がすれ違い様にナイフを走らせる。
「燃えろォォォォォォオオオッッ!!!」
最高点まで達した鋼也のバトルスーツが紅い光を放ち、発せられたエネルギーが炎のような揺らめきを見せる。
「Hi-Arts『Scarlet Arcadia』(スカーレットアルカディア)!」
地上のゲッシュをヘルメットバイザーの奥の鋭い目で捉える。
そしてゲッシュ目掛けて炎を吹き出しながら急転直下。強烈な炎の跳び蹴りが炸裂し地面に叩きつけられた身体が反動で宙に舞う。
と、空中のゲッシュの背後に雄太が現れる。雄太は敵の身体を上下逆さに抱え上げ、その頭部を両膝でがっちりと固定する。
「安らかに、眠れ! 『暗闇脳天落とし(ジ・アンダーテイカー)』」
膝を曲げそのまま落下。
プロレス技でいう所のツームストーン・パイルドライバーが炸裂し、ゲッシュの脳天がコンクリートの地面へと叩きつけられる。
雄太が拘束を解くとそのまま力なく地面に横たわるゲッシュ。最早、立ち上がる力すら残ってはいない。
そのゲッシュのぼやける視界に武器を振り上げたシルディの姿が映りこむ。
「本当はキミとも友達になりたかったんだ……」
ポタリと温かい雫が震えるゲッシュの身体に落ちる。
「最期にこのような戦いが出来て……私は幸せだ。そして人間たちの中にお前のような者がいる事が分かった。悔いは無い」
「ゲッシュ、アンタとの戦い……楽しかったぜ。悪は滅びろっ!」
地異の振り下ろした一撃がローカスの戦士の心臓へと叩き込まれた。
●
口を固く引き締めた地異が天を見上げる。
ケルベロスたちは皆が押し黙ったままで、普段ならば人声の絶えない駅前の広場は耳が痛くなるような静寂に包まれていた。
フウと空が溜息を漏らす。
自分たちの行いに後悔など微塵もないが、単純に勝利の余韻に浸れるほど能天気でも無かった。
「はーい、辛気臭いのはここでお終いっ! みんなでご飯でも食べに行きましょ」
カナネがパンパンと手を叩き、仲間たちへと明るい笑顔を見せる。
「それは名案だな。……と、今月はあんま手持ちが無いんだった。高い店は勘弁してくれよ、カナネ」
「あっ、自分も今月は学費の支払いがあるんで安い店が嬉しいっす」
鋼也と雄太が苦笑いを浮かべる。
「鋼也くんはまたバイクにお金つぎ込んじゃったの? 雄太くんは大学生なんだ? 自分で学費を払ってるなんておねーさん感心しちゃうわ♪」
「バイクはバイト先で弄るから金かかっちゃいねーよ」
「いや、まあ……」
会話を始め、表情の明るくなった仲間たち。
ふと緋織がその輪に加わる事なく表情を固くしたままのヒノトに気がつく。
「ヒノト?」
普段のヒノトならばいの一番にこういった輪に加わるはずだ。
心配そうに顔を覗き込むとヒノトのオレンジの瞳と目が合う。
「緋織? 俺、ひょっとして心配させちゃったか?」
心配が顔に出ていたのだろう。慌てて笑顔をつくる。
「その……さっきの戦い気にしてるの? あれはヒノトは悪くないよ」
思い当たる節があるとすればヒノトが敵の弱点を狙ったことだった。
でもそれはヒノトが気に病む事ではないと緋織は思う。
「俺がもっともっと強ければ……良かったんだよな」
「それならオレも同じだよ! ……強くなりたい」
単純に力を求めている訳では無い。でも、後悔しないだけの強さが欲しいと2人は願う。
「ゲッシュ、お前の事は忘れないぜ」
「うん、オレも忘れない」
その決意と共にローカストの戦士の名前は若いケルベロスの心に刻まれていった。
「彼らとの共存の道……ボクは最後まで諦めたりしないから」
シルディが閉じた瞼の裏に、ゲッシュの最期の顔が映りこむ。
そこには満足そうな笑みが浮かんでいた。
作者:さわま |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年10月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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