曳山祭の凶刃

作者:天木一

 残暑も終わりが近づき、過ごしやすい温かな陽射しが降り注ぐ中、陽気に太鼓の音が鳴り響き、普段なら車や人が通る道路を、派手に飾り付けられ人が乗り込んだ山車が町内を練り廻る。
「うわーすげーー!」
「オレも乗ってみたいなーっ」
 そんな山車を眺める人々が歓声を上げ、手を振って子供達はそれを追いかけた。
 大勢の法被を着た男達が曳き綱を引いて重々しい山車を動かしていく。だがその歩みが止まった。
「あぶねーぞ!」
「道あけろ!」
 荒々しい男達の声。それを浴びせられたのは、道の真ん中で立ち塞がっている浴衣姿の女。その女は着ぐるみのようにマグロのお頭を被っていた。
『楽しそうだね、私も乗せてもらおうかな……』
 女は笑い浴衣の袖からナイフを引き抜いた。
『そこちょっと空けてもらえるかな……』
 大きな跳躍で綱を曳く男たちを飛び越えると、山車の上で太鼓を叩いていた男達の首を刈り取っていく。
「うわぁああ!?」
「人殺しだぁ!」
 人々が叫び逃げ出す。その様子を血で染まった山車から女は満足そうに見下ろす。
「ん、良い眺め、じゃあ次はグラビティ・チェインを集めようかな……」
 獲物を見やり、女はナイフを逆手に持って人々を追い始めた。
 
「またもや祭りにマグロガールが現われるようなのじゃ! 全くもって迷惑なことじゃ!」
 集まったケルベロスに向けて服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)がそう呼びかけた。
「エインヘリアルに従う妖精8種族の一つ、マグロの被り物をしたシャイターンが秋祭りの現場を襲い、グラビティ・チェインを奪おうとしているようです」
 隣に立ったセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が説明を続ける。
「見た目から名づけられた『マグロガール』を倒し、被害が出る前に撃破してください」
 敵が現われる前に現場に到着できる。待ち伏せれば人の被害が出る前に接触できるだろう。
「場所は埼玉県の小さな町で行われている山車で町内を練り歩く祭りです。多くの人が外に出て山車を見物しているようです。ですが、敵は人の多い場所を狙っているので、敵の出現前に人々を避難させる訳にはいきません」
 だが現われればすぐに避難警報を出して、一般人の避難を開始させる事ができる。
「マグロガールはナイフを武器にしているようです。そして邪魔する者を先に片付けてから、グラビティ・チェインを集めようとするようなので、皆さんが注意を引きつければその分被害が出難くなるでしょう」
 ケルベロスが戦いを始めれば、一般人から注意を逸らす事ができる。
「お祭りの楽しい日が血で染まったものにならないよう、皆さんの力を貸してください。よろしくお願いします」
 セリカが頭を下げ、ヘリオンの準備へ向かう。
「祭りを邪魔するとは無粋な奴なのじゃ! 祭りの楽しみ方というものを、その身に教え込んでやるのじゃー!」
 許せんと無明丸が拳を挙げると、他のケルベロス達も気勢を揚げた。
「終わったら祭りを楽しんでもいいじゃろう。山車を曳かせてもらったりできんかのう」
 その為にも被害を出さずに終わらせようと、皆は戦う準備を始めた。


参加者
リラ・シュテルン(星屑の囁き・e01169)
平坂・サヤ(こととい・e01301)
燈家・陽葉(光響凍て・e02459)
東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771)
神宮時・あお(散リ逝ク桜・e04014)
小鞠・景(凩鎗・e15332)
篁・鷹兵(大空羽ばたく紅の翼・e22045)
服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)

■リプレイ

●祭り
 太鼓の音が鳴り響き山車が家の前を進んでいくと、人々の歓声が上がる。
「山車を曳くお祭り、ですか。初めて見ますが……無事にお祭りが出来るよう、出来るだけのことはしましょう」
 物珍しそうに小鞠・景(凩鎗・e15332)が山車が曳かれる姿を眺める。
「楽しいお祭りを邪魔させるわけにはいかないね、絶対に守るよ!」
 気合を入れた燈家・陽葉(光響凍て・e02459)は、山車の周囲を警戒して敵の出現を待つ。
「……賑やかな、お祭りを、悲鳴で、塗り替えるのは、駄目、だと、ボクでも、わかります。……悲劇を、起こさせない、よう、頑張り、ます」
 周囲を見渡した神宮時・あお(散リ逝ク桜・e04014)は、無表情のままぎゅっと強く手を握った。
 突然、山車の足が止まる。見れば進路上に一人の少女が立ち塞がっていた。
『楽しそうだね、私も乗せてもらおうかな……』
 浴衣にマグロの被り物をした少女は、袖からナイフを引き抜く。
「お祭りを、血で染める、など、赦し、ません。往き、ましょう、すべてのひとを、護る、ために」
 人々を護ろうと、リラ・シュテルン(星屑の囁き・e01169)は敵の前に立ちはだかる。
「邪魔なんだけど……」
 マグロガールはそれを無視しようとするが、ウイングキャットのベガも邪魔するように前を塞ぐ。
「たわけたわけたわけーーーっ!!」
 そこへ大きな声で服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)も割って入った。
「またしても何が『楽しそう』じゃ! 祭りを楽しもうというなら作法を守らぬか! 一から十まで叩き込んでくれるわ!」
 捲くし立てると、ビシッと人差し指を向けた。
「さぁ! わしらと勝負せい!!」
「興味ないんだけど、ちょっと退いてもらえるかな……」
 さっさと殺して山車に乗ろうとマグロガールがナイフを手に無明丸に突っ込んでくる。
「楽しいお祭りで被害は出さないようにしないとだねっ。ここはわたし達の出番、しっかりみんなを守るよー」
 飛び出した東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771)は、元気良くマグロガールへ横から飛び蹴りを浴びせた。駆けていたガールは横倒しになる。
「マグロガールさんの邪魔をさせてもらうよっ!」
 着地と同時に指差して苺は宣言する。
「懲りない奴らだ……というかああいう部族なのか?」
 呆れたような視線を向けた篁・鷹兵(大空羽ばたく紅の翼・e22045)は、すぐに行動を開始した。
「ここは我々が引き受ける! 慌てず退避されよ!」
 鷹兵が敵と人々の間に入り、自らを盾として逃げる時間を稼ぐ。
「落ち着いて。僕たちはケルベロスで、あいつはデウスエクスなんだ」
 事情を説明して陽葉が周囲に安心するように名乗る。
「ここにいたら巻き込まれちゃうかもしれないから、離れた場所に移動しよう。そこなら安全だから」
 そして避難指示を出して大きく手を振り先導する。
「落ち着いて移動してくださいねえ、ちゃんとお守りいたします。怪我などしないようごあんぜんに!」
 平坂・サヤ(こととい・e01301)が隣人のように声を掛け、人々を安全な場所へ誘導して周囲から人影が消えていく。

●マグロ
「お祭りが……。鬱陶しいんだけど……死ぬの?」
 浴衣についた泥を払って起き上がったガールは、苛立たしげにケルベロスを睨み、右へ左へとステップを踏んで飛び掛かってくる。
「マカロンも一緒にみんなを守るよっ」
 苺が縛霊手で動き回るガールのナイフを受け止めると、そこへボクスドラゴンのマカロンがブレスを浴びせた。
「楽しいお祭りが、子供の憧れが踏み躙られるのは、良い事ではありませんからね。ここで倒してしまいましょう」
 景が召しませと一言唱えると、精霊がその身に宿り、瞬間的に高めた身体能力を生かして一歩で間合いを詰め、拳を腹に打ち込んだ。
「げほっ」
「……向こうを、気にする、暇は、与えま、せん」
 よろめいたところへ、あおは手にしたハンマーを砲に変形させ竜砲弾を撃ち出す。巨大な砲弾が足元で爆発し、衝撃波でガールの体が宙に舞った。
「お祭りを再開するためにも、さっさと倒しちゃうよ!」
 和弓を構えた陽葉が空に矢を射る。その一撃は宙に居るガールの心を貫き意識を奪った。
「マグロは大人しく海にでも潜っておればいいのじゃ!」
 続けて無明丸が飛び蹴りを浴びせ、ガールの体は地面に墜落し転がる。
「ベガは、護って、わたしは、回復手として、皆さまを、支えます」
 その間にリラが指示を出すと、ベガが飛び回って風を起こし味方の抵抗力を高めた。
「星達よ、標的を捉える、道筋を、描いて――。」
 リラも鋼の星粒を放出して仲間達の感覚を鋭敏にさせていく。
「浴衣を泥だらけ、許されることじゃない……」
 ギラリと目を輝かせ、ガールは跳ね上がりナイフを閃かせる。その刃は防ごうと前に出た苺の腕を斬り裂く。
「賑やかさに誘われるのは、おまつりを楽しみたいひとだけでよろしーのですよ」
 避難誘導から戻ったサヤが掌を向けると、竜の幻影が現われてブレスを吐き出す。その炎はガールの頭を焦がした。
「さあシャイターン! 我々が相手をするぞ!」
 ここからが本番だと、同じく駆け戻った鷹兵がガントレットの指を向ける。すると弾丸が次々と飛び出しガールの足を傷つけて凍りつかせた。
「ついでだし……。お祭りを楽しむ前に、グラビティ・チェイン集めとこ……」
 ガールは完全に狙いをケルベロス達に定め、跳躍して頭上から鷹兵の首を狙う。
「お祭りはみんなで楽しむものだよー」
 そこへ割り込んだ苺がカウンターの蹴りで腹を抉り、ガールをくの字にさせて吹き飛ばした。だがガールもやられながらも炎を放ち苺を弾き飛ばす。
「大丈夫、わたしが、貴方を、倒れさせ、ませんッ! だから、どうか、前へ」
 勇気付けるようにリラは続けて鋼の星粒を放ち続け、仲間達を護るように覆い包む。
「本物の炎を見せてやる! 焼き尽くせッ! バァァァニングッ! ブラスタァァアァァァッ!!」
 両手を広げた鷹兵の胸元に熱が集まり、眩い光線が放たれた。灼熱の光がガールの体を燃やす。
「熱いし……燃やすのは人間だけでいいし……」
 ガールは炎を突破してナイフを突き出す。
「そのしょうねを叩き直してやるのですよ」
 駆け寄ったサヤは腕に鋼を纏い、ナイフを弾きながら勢いをつけて胸を殴りつけた。ならばとガールはフットワーク軽く円を描くように動き出す。
「動きが速いね、なら追いこむよっ」
「……お手伝い、します」
 陽葉とあおが槍を手に左右から追いかけ、ガールを仲間達の方向へ誘導し、足を止めたところへ背中と脇腹に穂先を突き入れた。雷が槍から伝い体の機能を狂わせる。
「痛いし……人のお祭り見物を邪魔するし……最悪」
「邪魔なのも最悪なのもそちらだと、はっきり言わないと解らないようですね」
 背後から接近した景は大鎌に降魔の力を込めて振り抜いた。避けようとするガールの背中を大きく斬りつける。
「邪魔なんてしてないし……」
 反論しながら振り返ったガールは炎を手に集めて撃ち出そうとする。
「人様に迷惑をかけるような輩は、思いっきりぶん殴ってやるのじゃ!」
 全力で駆け出した無明丸は、大きく振りかぶって拳を叩き込む。全ての力を込めた一撃がガールの頬に当たりぶっ飛ばした。
「ここは、祭りを楽しむ、場所。水を差す真似は、させま、せんッ」
 リラがベガと祈りを重ねると、周囲に浮かぶ小さな星々から一筋の光が流れ、敵の体を撃ち抜いた。
「どーしてマグロなのです? まーなんにしてもマグロなら炎に弱いはずなのですよ」
 敵に反撃させる間は与えないと、サヤがまたもや竜の吐く炎で敵を炎上させる。
「熱いし、マグロが焼けちゃうし……」
「踊って、風雨の中で、永久に!」
 ガールが炎から逃れたところへ、弓を引き陽葉が赤い光の矢を射る。避けようとステップするガールに、矢は弧を描き追いかけて腹を射抜いた。
「マグロガールさんもみんなを狙わなきゃ一緒に遊べるんだけどねー。残念だけど、そうもいかないね」
 苺が縛霊手でガールを殴りつけると、霊力が網のように巻きついて絡みとった。
「私は好きに遊ぶから、放っといて……」
 だがガールは網を斬り抜けて駆け出そうとする。
「いい加減にしてください、そんな我侭は通りませんよ」
 待ち構えた景が押し返すように飛び蹴りで仰け反らせる。
「ええい! ちょろちょろするでないわこの魚類がーーーっ!!」
 無明丸が鎖を伸ばして足に巻きつけ引っ張る。するとガールはつんのめって転倒した。
「……動けない、ように、捕まえ、ます」
 あおの足元から黒い液体が広がると、獣が捕食するように飛び掛かってガールを呑み込んだ。
「お前の命の炎を喰らってやるぞぉおおおッ!」
 そこへ向かって鷹兵が腕を伸ばすと、まるで延長上のように炎が腕となって敵を包み込み、その生命を吸い上げる。

●跳ぶ魚
「もう怒った……刻んで殺してやる……」
 傷だらけで瞳に暗い殺気を浮かべ、跳躍したガールは鷹兵の顔目掛けてナイフを振り下ろす。その一撃を庇おうとしたベガが受け、地面に薙ぎ倒された。
「荒療治、ですが、我慢、してください、ねッ!」
 リラがすっと宙で手を振る。すると魔力がベガの体に干渉し、傷口を手術するように縫い付けた。
「こちらも引くつもりはありません。ここで必ず倒します」
 景が大鎌の切っ先を突き刺し、降魔の力が相手から生命力を奪い上げる。
「今日はハレの日、これ以上じゃまはさせねーのですよ」
 続けて鋼を纏ったサヤが突っ込み腕を振り抜く。避けようとしたガールの被り物をその指先が引っ掛けてビリッと大きく破いた。
「よくも……!」
 狙いをサヤに変えてガールはナイフを振るう。
「敏捷を活かした攻撃だけだなんて、もう見切ったよ」
 じっと敵の動きを読んでいた陽葉は、狙い澄ました矢を放ちガールの腕を射抜いた。
「よーし、一気に押し切っちゃおー」
 苺がボタンを押すと、爆発と共にカラフルな煙が巻き起こり、仲間の闘争本能を高める。
「どちらが刻まれるのか、わしが教えてやるのじゃ!」
 空を飛んだ無明丸の黒い翼から光が放たれ、逃げ場の無い範囲を無数の光線が撃ち抜き、ガールの体中を傷つけた。
「どうして、お祭りを楽しみに来ただけなのに、こんな目に……?」
 血を流しながら納得できないとガールが首を捻る。
「……お祭りに、参加、したいなら、人を、傷つけては、駄目、です」
 あおが指差すと、背後から現われた竜の幻が大きな顎門から火玉を撃ち込んだ。
 ガールはその炎をナイフで斬り裂き、飛ぶように間合いを詰めてくる。
「そうはさせるかッ! 時空凍結弾! 喰らえぇぇいッ!!」
 鷹兵がガントレットから放つ弾丸がガールを撃ち抜き凍りつかせた。
「お祭りをどう楽しもうが、人の勝手だし……」
 ガールは動きを鈍らせながらも足を止めずにナイフを振り抜く。それを割り込んだマカロンがタックルで弾いた。
「お祭りはみんなで楽しむものです。貴女だけが楽しむものではありません」
 景は精霊の力を降ろし、瞬く間に接近して拳を脇腹にめり込ませた。
「げぇっ」
 息と共に血を吐き出してガールが足を止める。
「祭りに、迷い込んだ、無粋な、魚。さようなら、ここは、貴方の、居場所じゃ、ないの、よ」
 その隙にリラが手を組み祈るように目を閉じると、流れる星の煌きが矢のように胴を貫いた。
「ありえることは、おこること」
 更にサヤが収蔵の一節を口にし、手に現われた大鎌を振るう。その月光のような刃はあらゆる可能性を手繰り、それが決まった運命であるようにガールの胸を貫いた。
「こんなの、ありえないし……」
 ガールは地面を蹴って宙へと逃れる。
「ふんっ、何度も見ればどう動くかなど容易く読めるのじゃ!」
「マグロガールさんには悪いけど、このまま倒させてもらうよー」
 それを追って無明丸と苺が宙に跳び、同時に飛び蹴りを叩き込み、ガールを地面に叩き落した。
「まだ、全然祭りを楽しんでない……」
「これで終わりだよっ」
 ふらりと立ち上がるガールに、狙いを定めた陽葉の放つ赤い矢が飛翔し、胸の傷口を広げるように貫いた。
「……お祭りは、参加する、人々のもの、です。その、自分勝手な、考えごと……滅ぼし、ます」
 あおが口を開き唄を紡ぐ。その声は魔力となって敵を包み、身体を崩壊させていく。
「貴様もまた辛苦の時代を齎す者……消え去れ!」
 鷹兵の胸から放たれる熱線がガールを焼き尽くし、塵と化した。
「わははははっ! この戦い、わしらケルベロスの勝ちじゃ! 鬨を上げい!」
 無明丸が拳を上げて勝利宣言をした。

●山車
「いやーありがとう! みなさんのお陰で無事に祭りを続ける事ができるよ!」
 笑顔で祭りの役員の男が頭を下げ、他の人々もケルベロスに感謝の言葉をかける。
 そして山車曳きが再開され、賑やかな人の声と太鼓の音も戻ってきた。
「ふむ。しかし中々立派なものだな」
 鷹兵は山車を見上げ、近くで見る迫力は違うと感心する。
「わっはっはっはっはっ! 絶景かな、絶景かな。やはり祭りとはこうでなくてはのう」
 その山車に乗った無明丸は楽しそうに見下ろした。
「折角だし、山車を曳くのに混ぜてもらおうかな」
 参加してみようと陽葉も人々に交じり太い綱を持つ。
「やっぱり重いんだね……っ!」
 一生懸命に力を込めて汗を流しながらも、陽葉は楽しそうに綱を曳く。
「力がいるねー、でも楽しいかもっ」
 ふんっと苺も力一杯に綱を曳き、仲間と力を合わせる。
「……山車はサヤでもひけそーです?」
 チャレンジはしてみようとサヤも一緒に綱を持って、非力ながらも協力する。
 多くの力が合わさり山車が動く。
「人力で、あの、大きな、のが、動く、の、です、ね。……みなさん、良いお顔、されて、ます、ね」
 離れた位置からあおがじっと目を離せぬように見学する。
 山車が町を進むと、子供も大人も笑顔にしていく。
「暮れになれば、提灯の灯火、が、暖かく、煌めくの、でしょう、ね」
 リラが瞳を輝かせて楽しげな人々を眺めた。
 神社まで到着すると山車が止まる。そこには多くの人が集まっていた。
「さあさあ、喉が渇いているでしょ、飲み物あるからね~」
 待っていた年配の女性陣がクーラーボックスに詰まれているジュースやビール、それに一升瓶のお酒を紙コップに移して配り始めた。
「ありがたくいただきます」
 景は振る舞い酒を受け取り、ちびりと口をつけた。そして楽しそうな仲間や人々の祭りの様子を見て微笑んだ。
「こっちにはお菓子もあるよー」
「食べたいコはみんな一緒にいこー」
 苺が呼びかけ、未成年のケルベロス達はジュースとお菓子を受け取った。
「さあ、ベガ、お土産を、買って、帰ろう、か」
 リラの胸元にぴょんとベガが跳ねて収まり、何をお土産にしおうかと歩き出す。
 祭囃子に乗って、人々の笑い声が遠く響いた。

作者:天木一 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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