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ある町の、時計塔広場にて。
甲冑騎士を思わせる精悍な体躯のローカストが、町を見渡す。
その身を包むのは、紅玉のごとき赤のオウガメタル。
一般人たちが慌てて広場から逃げ行くのを見やり、口をひらく。
「私の名は『蠍火(さそりび)のバルドラ』! 同胞を救う刃たらんと決起した、ローカストの戦士である。我らはこれより、枯渇したグラビティ・チェインを満たすため、この町の人間を襲撃する。……やむをえぬ事情とはいえ、卑劣な真似を犯さねばならぬこと、謝罪せねばなるまい」
ローカストは懺悔するように、しばし頭を垂れて。
ひと呼吸おき時計塔を仰ぐと、ふたたび声を張りあげる。
「戦うすべのない、無防備な人間を一方的に虐げるは我らの本意ではない。――ゆえに聞け! 意志あるケルベロスたちよ!」
手にした槍のような武器でトンと地を打ち、叫ぶ。
「私と戦い、人間を守ってみせよ! 私はローカストの矜持にかけて、最後まで正々堂々と戦うことを約束する。そして強者たるケルベロスを制した暁には、戦利としてグラビティ・チェインを強奪させていただく!」
時計塔の針が定刻を指ししめし、荘厳な鐘の音が青空に響く。
それは、まるで決闘のはじまりを告げるかのように、町中に鳴り渡った。
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「まずは広島での戦い、おつかれさまでした」
ヘリポートに集まったケルベロスたちを見やり、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が深く頭をさげる。
戦いの結果、広島市民の被害はゼロ。
イェフーダーやストリックラー・キラーも全滅したため、ローカスト軍の動きはほぼ封じたといって間違いない。
グラビティ・チェインの枯渇状況も末期となっており、太陽神アポロンとの決着もそう遠くはないはずだ。
――しかし。
ローカストの苦境を前に、立ちあがった者たちがいる。
それが、ダモクレスの移動拠点『グランネロス』を襲撃した、『阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達』だ。
「彼らは困窮するローカストたちにグラビティ・チェインを施した後、さらなる重力を得るための活動に移りました」
しかし、グランネロスのような大量のグラビティ・チェインを持つデウスエクス部隊が、そう簡単に見つかるはずもない。
結果、彼らはやむなく、人間のグラビティ・チェインを奪うことに決めた。
「その際はケルベロスに対して宣戦布告し、迎撃に来た相手を撃破。勝利報酬としてグラビティ・チェインを略奪するつもりのようです」
彼らの目的からすれば、宣戦布告を行うなど全く意味のないことだ。
だがこれが、種の危機と自分たちの矜持の双方を満たす、唯一の回答だったのだろう。
「阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達は、その性質から『悪』ではないと思われます。しかし、彼らが人間のグラビティ・チェインを奪うというのであれば、この戦いを避けることはできません」
戦場となるのは、ある町の時計塔広場だ。
高低差のないレンガ造りの一角で、十分な広さがあり、戦闘の支障となるものは存在しない。
そこでケルベロスを待つのは、『蠍火のバルドラ』。
阿修羅クワガタさんの考えに賛同する、仲間想いで、実直・誠実な性格のローカストだ。
戦闘となれば、『オウガメタル』や『稲妻突き』に似たグラビティを使用。
敵であっても不必要に痛めつけることを好まず、いかに少ない手数で相手を制するかを目指してきた。
それゆえに、バルドラの強靭な肉体からはなたれる一撃は驚異的な威力をもち、ヒールできないダメージが蓄積しやすい。
常に沈着冷静。戦況にあわせて動く臨機応変さにも、注意が必要となるだろう。
「周辺の一般人は、ほとんど避難しています。ただ、バルドラの宣戦布告に反発し、ケルベロスの勝利を信じる少年少女が数名、近くで様子を見守っています」
彼らが戦場に踏みいることはないが、戦闘の一部始終が、侵略者を憎む幼い瞳に映ることになる。
彼らにとってはケルベロスが『正義』で、ローカストが『悪』なのだろうが――。
「種の窮地を救うため、バルドラは決して退くことなく、その身を賭して正々堂々と挑んできます。しかし、みなさんもまた、無力な一般人を守る盾です」
避けられない戦いに対して、どのように応えるか。
どうぞ思うまま、ローカストや少年少女に示してくださいと告げ、セリカは一同をヘリオンへ招いた。
参加者 | |
---|---|
ディディエ・ジケル(緋の誓約・e00121) |
三和・悠仁(憎悪の種・e00349) |
五継・うつぎ(ブランクガール・e00485) |
カルディア・スタウロス(炎鎖の天蠍・e01084) |
リコリス・ラジアータ(錆びた真鍮歯車・e02164) |
天津・総一郎(クリップラー・e03243) |
二藤・樹(不動の仕事人・e03613) |
レンカ・ブライトナー(黒き森のウェネーフィカ・e09465) |
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時計塔の針が定刻を指し、荘厳な鐘の音が一帯に響きわたる。
残響の余韻がのこるなか、真っ先に来訪者に気づいたのは物陰に隠れ様子を見守っていたこどもたちだった。
「みて、ケルベロスよ!」
「わるものをやっつけにきてくれたんだ!」
純粋無垢な瞳と声援を受け、あははと微苦笑を浮かべたのはカルディア・スタウロス(炎鎖の天蠍・e01084)。
「改めて子どもたちから期待の視線を送られると、なんだかむず痒くなってしまいますね」
テレビ番組のヒーローのような正義を示すとは、言えない。
けれど『人々を守る盾であり、矛である』ことは完遂しようと、決意を新たにして。
「ちょっと待ってほしいんだけど」
ふいに声をあげた二藤・樹(不動の仕事人・e03613)にローカストの戦士が頷き、了承の意思を示す。
樹は少年少女たちの前にしゃがみこみ、目線をあわせた。
「……あー。これから俺たちはあのローカストと戦うんだけど、それは単純に『悪者』と『正義の味方』だから、ってわけじゃないんだよね」
「でもあいつ、みんなをころすって言ってたよ!」
「ケルベロスは負けないでしょう?」
矢継ぎ早に続く問いかけに頷き、慎重に言葉を選ぶ。
「やり方はともかく、お互いに大切な、失くしたくないものがあって……。それを守るために戦おうとしてるってことだけは、わかってくれるかな?」
リコリス・ラジアータ(錆びた真鍮歯車・e02164)も、「あなた方のことは守りきります」と、安心させるべく言葉を重ねる。
「わかったら、もっと遠くへいっとけ。見世物じゃねーんだぞ」
「危険ですから、近づき過ぎないようにしてください」
レンカ・ブライトナー(黒き森のウェネーフィカ・e09465)と三和・悠仁(憎悪の種・e00349)はそれだけを告げ、様子を見守るローカストと対峙する。
(「これは戦争だ。善も悪も、ありはしない」)
胸中でそう続ければ、右眼が地獄の炎を激しく揺らす。
少年少女たちは声援をおくりながらも、ケルベロスたちの言葉にしたがい、距離をとった。
――仲間のために、自分のために戦うという点においては、ケルベロスもローカストも、なんの違いもない。
「……バルドラはもちろん、彼らにも恥じぬ戦いをせねばなるまいな」
少年少女たちの素直な姿を見やり、ディディエ・ジケル(緋の誓約・e00121)が呟く。
「謝罪を受ける気も、あなたが行う必要もありません。ただ、待って頂けたことに礼は必要でしょうか?」
改めて周囲の安全を確認し、リコリスが「お待たせしました」とローカストに向き直る。
「不利になるとわかっていながら、自らの誇りに恥じないよう振舞う。与えられた命令をただ遂行しようとしていた私と違い、貴方は立派です。しかし――」
五継・うつぎ(ブランクガール・e00485)が、バルドラと子どもたちの間に割って入るように、立ちふさがる。
「人を手にかける以上、我々は貴方を倒します」
「望むところだ」
ローカストの戦士は間をおかず答え、進みでて。
「そなたら8人が私の相手とみて、相違ないか」
「おうよ」
天津・総一郎(クリップラー・e03243)が飄々と応え、挑戦的な黒の瞳で見据える。
「知ってるか。どんな作戦も、実行するまでは完璧『だった』ってことを」
挑発するように拳を固め身構えれば、一気に場の緊張が高まっていく。
「そう。どのような名目を並べたとて、結果が伴わなければ未来はない」
槍を身構えた瞬間、ローカストの身から殺気がほとばしる。
「いざ」
声とともに手にした刃が空を裂き。
真紅の鎧に身を包んだ侵略者は、地を蹴った。
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向かいくるローカストめがけ、真っ先に掌を構えたのは総一郎。
「ちょいとお前に興味があるからよ、語り合おうぜ。……お互いの『得物』でな!」
体内のグラビティを凝縮し、軌道自在の光弾を撃ちはなつ。
バルドラはすぐさま回避を試みたが、軌道自在の光から逃れられず、失敗。
怒りの表情こそ見せぬものの、快活で不敵な少年へと目線を定める。
相手の意識を繋ぎとめたのを確認し、ディディエも高々と跳びあがった。
「術士がひとり、ディディエ・ジケル……お相手、仕ろう」
名乗りとともにルーンアックスを振りかぶり、敵の頭上めがけ振りおろす。
しかし刃はぶんと空を裂き、広場のレンガを砕くに留まった。
レンカがすぐさま両手に槍を構え、駆ける。
「売られた喧嘩は、買ってやるよ!」
眼にもとまらぬ速さで怒涛の突きを繰りだすも、バルドラは流れるような槍さばきでその一撃を受け流した。
忌々し気に舌打ちするも、こうなることは予想のうちだ。
「うつぎ!」
「参ります」
入れ替わるように間合いへ飛びこみ、手にした槍をくるりと回転。
稲妻を帯びた突きが敵をとらえたかに見えたが、
「甘い」
まばゆい閃光は赤のオウガメタルを照らしこそすれ、間近で回避されてしまう。
次いでバルドラの槍が赤く明滅したことに気づき、悠仁はとっさに地を蹴った。
総一郎への攻撃をかばい受け、すぐさま裂帛の叫びをあげ、手足に残るしびれを振りはらう。
回復手を担うのは、リコリス。
「――地獄を灯せ。群れなす魚群よ。我らの役目を此処に示せ」
力ある言葉に応え、あたりに地獄化した金魚の群れが顕現。
群れは傷口に憑りつき癒し、鱗状装甲による身体機能の強化を行う。
「正々堂々とはいえ、一般人を襲われるわけにはいきませんからね」
戦況を注意深く見守っていたのは、リコリスだけではない。
「イライラするんですよ、上から目線の物言いが」
後衛位置からエアシューズで飛びこんだカルディアが、流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りが炸裂。
動きを止めたバルドラへ向け、樹が極限まで集中させていた意識をときはなつ。
「!?」
とつじょ巻き起こった爆発にあおられ、バルドラの身が地面に叩きつけられた。
「んー。さすがに、爆発の勢いで『鎧』を散らすのは無理か」
マイペースにぼやき壁役より前へ出ぬよう位置取りを整えるも、敵の背後をとろうとはしない。
子どもたちの眼がある手前、できるだけ真摯に向きあいたかったのだ。
「さすがは、我らの同胞をことごとく退けてきたケルベロスだ」
いくらかの攻撃を避けはしたものの、ケルベロスたちの役割分担、連携はこの上なく的確なものだった。
――隙を見せようものなら、勝敗は即座に決する。
その緊張感を肌身に感じたからこそ、ローカストの声音に喜色が浮かぶ。
「それでこそ、この任に就いた甲斐があるというもの……!」
掲げた両手の先に、惑星レギオンレイドを照らす『黒太陽』を具現化。
ケルベロスたちへ向け絶望の黒光を照射するも、
「攻撃を防ぐ盾として、最後まで倒れずに全うする。ソイツが俺の『矜持』だ!」
総一郎、悠仁に続き、身をていしたうつぎが仲間たちに声をかける。
「お怪我はありませんか?」
「オレは問題ない」
「俺もだ。……中々に、血が逸る」
火力を担うレンカとディディエの頼もしい言葉に頷き、
「なら良かったです。戦闘を続行しましょう」
己の傷には構わずに、バルドラを見据えた。
●
複数の壁役と手厚い回復&強化。
着実に重ねられていく枷を振りはらうこともできず、ケルベロスたちの攻撃はしだいにバルドラを捉え、その身に疲労を刻みつけていった。
一方、ケルベロスたちへ向けられる攻撃は、3人の壁役や連携・声掛けによってうまく分散に成功。
(「――役割を果たせない機械に、意味はない」)
己の矜持にかけて仲間たちを倒れさせまいと、リコリスも時に金属魚を従え、時に七色の爆煙を展開し、仲間たちを鼓舞し続ける。
うつぎはかつてデウスエクスであり、定命化した己だからこそと、戦いの合間に呼びかけ続けた。
「無力な人たちを傷つけたくないと言うのであれば、人々を守るために力を振るうという選択肢もあるのでは。不死性は失いますが」
「私にとってなによりも優先すべきは、同胞たちだ」
どんなに過酷な地であろうと、母なる星・レギオンレイドでともに過ごしたローカストたちをおいて、地球を愛することはできない。
「それでも命を懸けるに値すると、私は思います。少なくとも私は、今の私に悔いはありません」
その言葉に、ローカストの戦士は口の端をもたげ、笑った。
「おまえは『心』のままに、進むが良い」
最も注意深くバルドラを観察し、仲間たちへの負担を和らげたのは悠仁だ。
即座に仲間をかばいに行けるよう、逐一立ち位置を変え、防御と回復に手を尽くす。
「戦争とは、すべからく唾棄すべきもの。凄惨で、無情で、この上なく倫理に反す」
「その意見には、私も同意する」
町中で宣戦布告をしておきながら、ローカストの戦士はにべもなく告げた。
「……だからこそ、負けるわけにはいかない」
拳をぶつけあえば、ぶつけあうほど、互いの意志は同じようにまっすぐで。
だからこそ決して交わることがないのだと、わかる。
「お前の崇高そーな矜持も種の窮地も、オレにはどうでもいいんだよ。誰もが自分の『正義』の為に戦ってるんだろ? なら、それに反する奴は『悪』だ」
自らの魔力で猟銃を生み出し、レンカはその銃口をバルドラへと定める。
不敵に唇を歪め、紡ぐ言葉は、
「――Ich sehe nur dich.」
弾丸は言葉どおりにバルドラの肩を撃ち抜いて。
着実に劣勢に立っていることに気づきながら、なおも凛と立つローカストを見やり、カルディアは言葉を荒げた。
「『正義』だろうが『悪』だろうが、ただその心臓をブチ抜いてやる!」
胸部の地獄と双剣が共鳴する。
怨嗟に満ちた蠍座の力が満ち、次の瞬間には、怒涛の連撃がバルドラの肉を、骨を、心臓を斬り抉る。
「懺悔するくらいなら、その体をイタチにでも呉れてやれというのです!!」
その様はまるで、蠍(さそり)が毒を盛らんと、尾を撃ちこむよう。
「……現し世へと至れ、妖精王よ。汝の軌跡を、此処へ」
ディディエも伝承に伝えられた妖精王の物語を諳んじ、魔術的な『音』を操ることで、痛烈な追い撃ちをかける。
「……火力には自信が有るのでな」
たまらず膝をついたローカストを前に、樹へと視線を送る。
「細工は流々、ってね」
敵に気取られぬよう仕込んだ、極小の『見えない爆弾』。
線上に配置されたそれらを起動させるべく業務用爆破スイッチに指をかければ、次々と引火した爆弾がバルドラの身を爆ぜ切っていく。
それぞれが『大切なもの』のために戦う姿を前に、いつしか少年少女たちの声援は聞こえなくなっていた。
幾度目かの槍が総一郎を貫き、踏み耐える。
流れた血が服を染め、激痛がはしる。
しかしそんな中だからこそ、気力に満ちた声で、叫んだ。
「声を出してくれ……! その声があれば、俺たちは勝つ!!」
声援がほしくて戦っているわけではない。
賞賛がほしくて戦っているわけではない。
それでも、背中を押してくれる声があるのなら。
その想いに応えるべく、立ち続けることができる。
満身創痍の己の身体を見やり、ローカストはついにレンガに膝をつき。
それでも、最期までケルベロスと相対すべく、目線だけはしっかりと前を見据えていた。
「貴方はもう十分戦いました。私が保証します」
「そんな保障は……私には、何の意味もなさない。必要なのは、ただひとつ。……同胞を救う、未来だけなのだから」
しかし、彼がその未来をもたらすことができないのは、誰の眼にも明らかで。
うつぎはバルドラの眼前に膝をつき、そっと、その身を抱いた。
オウガメタルの赤とともに抱くのは、両手いっぱいの弾薬で。
「――おやすみなさい」
別れの言葉とともに、火花が弾ける。
耳をつんざくほどの爆音と、閃光。
灼け焦げた匂いと視界をさえぎる煙が、あたりに満ちて。
零距離攻撃の余波を受けたレプリカントの身体もまた、損壊し、倒れる。
心臓に重力の鎖を叩きこまれながらも、バルドラは穏やかに笑っていた。
「願わくば」
残る同胞たちに、さいわいのあらんことを――。
●
バルドラの想いを映すかの如き、赤のコギトエルゴスムが砕け散った後。
ディディエは戦士を称えるべく、静かに口を開く。
「……宣告などせずとも、人を襲うのがデウスエクスと云うものだと思っていたが。……正々堂々とした者であったな」
「はい。彼は立派な戦士でした」
うつぎが同意し、こと切れる前に見せた、穏やかな笑みを想いかえす。
しかし。
「さて、どうでしょう」
返すカルディアの表情は、晴れない。
「私からしてみれば、なにを今更……といったところです。あの戦士も他の蟲と同じ。態度がどうあれ、行いが正当化されるわけでも、その行為に対して納得するわけでもありません」
ローカストという種族がしてきたことを思えば、バルドラの行いを見たところで、その印象を容易に変えることはできない。
「オレも同じく。他より好漢だとは思うが、それだけだな」
続くレンカも、迷いのない口調で己の見解を告げる。
「人間のグラビティチェインを奪おうとしてるのに変わりはねー。覚悟をもってのことなら、なおさらだ」
リコリスにしてみれば、ローカストに対して特に思う所はなかった。
「しかし、一般人を襲うと公言されれば、無視できません」
――互いに、どうしても譲れないものがある。
だからこそ境遇を理解こそすれ、彼らの主張を受け入れることはできなくて。
沈黙していた樹が、仲間たちの言葉を頭のなかで咀嚼しながら、呟く。
「もし残党のトップがアポロンじゃなくて阿修羅クワガタさんだったら、後味悪い『戦争』にはならなかったのかな」
種族のために誇りを捨てたローカストがいた。
自我と平穏を奪われたローカストがいた。
「だから、バルドラが『自分』らしくいてくれたのが、少しだけ、ありがたかったな」
総一郎も一人の戦士として彼を悼もうと、帽子を取り、瞑目する。
「戦闘中はあんな態度だったが、好感の持てる相手だった」
『役目』という名の鎖は、彼の者が心のままに動くことを許さなかったろう。
「こういう形でしか……。会えなかったんだろうな、俺たちは」
戦闘終了を察し、見守っていた少年少女たちが口々に賞賛しながらケルベロスたちのもとに駆け寄って。
その手に引かれ、ひとり、またひとりと仲間たちが広場を後にする。
自分以外の背をすべて見送った後も、悠仁は骸の消えた広場に立ち続けた。
復讐を原動力に、生きて。
すべての敵を殺し、死骸を重ねて。
その果てに訪れる自分の『死』は、いったい、どのようなものになるだろう。
(「まだ染まっていない者に、伝えなければならない。見られるならば、知らしめなくてはならない」)
――『こういう風になってくれるな』、と。
ローカスト種が、この後、どのような道をたどることになるのか。
今はまだ、だれにもわからない。
作者:西東西 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年10月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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