阿修羅クワガタさんの挑戦~髭戦士

作者:藤宮忍

●Warning
「我輩はローカストの戦士、ヒゲナガシマシマグリーンクワガタじゃ。略してヒゲと呼んでくれたまえ。我輩はこの町の人間を襲撃し、グラビティ・チェインを略奪する仕儀である」
 長い髭をゆらゆらと揺らしながら、ローカストの戦士は背筋を伸ばした。
 岡山県倉敷市の海に近い町で、阿修羅クワガタさんの考えに同調した仲間達のひとりが、ケルベロスに宣戦布告する。
「やむを得ぬ事とはいえ、誠に申し訳ないのう。我輩は、戦うすべの無い人間を襲撃するのは本意ではないのじゃ。と、いうことでじゃな……」
 ヒゲナガシマシマグリーンクワガタと名乗ったローカストの老戦士は、長い髭を撫でて周囲を見渡した。
「我輩は、ケルベロスに呼びかけることにしたのじゃ」
 撫でていた髭がくりんくりんと巻きヒゲになった。
「ケルベロスよ。我輩と戦って人間を守るのじゃ。我輩は正々堂々と戦って、ケルベロスを髭力で撃退してみせようぞ。そして戦果としてグラビティ・チェインを強奪するのじゃ」
 これならば正々堂々、と胸を張って言い切るローカストの戦士。
「ふぉふぉふぉふぉ……橋の入り口で待っておるぞ!」
 
●『予知』
「ケルベロス様。広島市民を守る戦い、お疲れさまでした」
 凌霄・イサク(花篝のヘリオライダー・en0186)はまず労いの言葉をかけてから、すぐに現状の報告へと移る。
「先日の戦いのお陰で、広島市民の被害は完全に抑えることができました。イェフーダーをはじめ、ストリックラー・キラーのローカストを全滅させることが出来ました」
 皆様ありがとうございました。とイサクが一礼する。
 特殊部隊であるストリックラー・キラーが全滅したことによって、ローカストの動きは粗封じられたと見て間違いないだろう。
 グラビティ・チェインの枯渇状況も末期となっている筈なので、太陽神アポロンとの決着も迫っている。
 しかし。
「ローカストの苦境を見て、立ち上がった者達が居ます」
 それが、今回の撃破すべき相手であると、イサクは告げる。
「ダモクレスの移動拠点『グランネロス』を襲撃した、阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達です。彼等は、奪ったグラビティ・チェインを困窮するローカスト達に全て施した後、更なるグラビティ・チェイン獲得に向かって動き始めました」
 けれど、グランネロスのような大量のグラビティ・チェインを持つデウスエクスの部隊が簡単に見つかる筈も無い。
「結果的に彼らは、やむなく人間のグラビティ・チェインを奪う決断をしたようです」
 ケルベロスに対して宣戦布告し、迎撃に来たケルベロスを正々堂々と撃破した後で、勝利の報酬として人間からグラビティ・チェインの略奪を行おうとしているのだ。
 わざわざ正々堂々と戦うために、ケルベロスに宣戦布告する行動は意味のないものだ。
 だがこの意味の無い行動こそ、ローカストの窮状を救い、且つ、自分達の矜持を守る為の苦渋の決断なのかもしれなかった。
「阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達の性質は、悪そのものでは無い、と考えられます」
 だがしかし、彼らが困窮するローカストの為に人間のグラビティ・チェインを奪おうとするのならば、ケルベロスにとって許されざる敵となるだろう。
 戦いは避けられない。
「彼らの宣戦布告に応じ、可能ならば正々堂々とした戦いで撃破してきて下さいませ。……というのが今回の依頼となります」

 概要を告げたイサクは、続けて敵の情報を説明する。
「ヒゲナガシマシマグリーンクワガタさんと名乗る、髭の長いローカストの戦士です。口調からしておそらく老齢の戦士かと思われますが、見た目で判断できません」
 そして動きは老戦士とは思えない俊敏かつ豪快で、正々堂々戦う気骨も充分の敵だ。
「彼らは正々堂々とした戦いを望んでいる為、戦場は広くて平らで戦いやすい場所となっています。皆様に向かって頂く場所は、瀬戸大橋に向かう途中のパーキングエリアです。一時的に通行止め、進入禁止にしておりますので、戦闘中に車が通過することはありません」
 ヒゲナガシマシマグリーンクワガタと言うだけあって、基本的にはクワガタに似た姿のローカストであるこの老戦士。
 名前からのイメージ通り、グリーンの縞々模様なので、一目見ればすぐに判るらしい。
「体長は2メートル程々ですが、かなりがっしりとした身体で、特徴的なのはやはり、ヒゲ……でしょうか。ヒゲは武器にも盾にもなるようです」
 ヒゲを鎌のように攻撃したり、ヒゲを身体に巻き付けて修復したり……するようだ。
 どのようなヒゲなのかは実際に戦ってみれば判るだろう。
 彼らは窮地のローカストの為、剣となり、正々堂々と戦ってくるだろう。
 しかし、ケルベロスも、一般人を守る盾として、負けることは許されない。
「真っ向勝負、ということになりますが、敵も卑怯な作戦は一切使わずに正面から挑んでくるということです。純粋な戦う力をぶつけ合うこの戦い……全力で挑み、勝ち取ってきて下さいませ」
 イサクは一礼すると、貴方達をヘリポートへと導く。
「――それでは、ご案内致しましょう」


参加者
クーリン・レンフォード(紫苑一輪・e01408)
ミチェーリ・ノルシュテイン(青氷壁の盾・e02708)
キソラ・ライゼ(空の破片・e02771)
ゼフト・ルーヴェンス(影に遊ぶ勝負師・e04499)
天宮・陽斗(天陽の葬爪・e09873)
クリスティーネ・コルネリウス(偉大な祖母の名を継ぐ者・e13416)
関・白竜(やる気のないおせっかい・e23008)
中納・鈴子(能無し雀は舌を出す・e23813)

■リプレイ

●壱
 海に掛かる橋への高速道路、その途中にあるパーキングエリアは、少し小高い丘になっていて、美しい景色を臨める。
 売店や食堂などの建物があり、普段なら高速を走る車が休憩に立ち寄る場所だが、今は見渡す限り空っぽの駐車場となっていた。
 ヘリオンでこの地を訪れたケルベロス達は、駐車場の真ん中にどっしりと佇む大柄なローカストのシルエットをすぐに見つけた。
 関・白竜(やる気のないおせっかい・e23008)は曲がったネクタイを直して裾を払い、身なりを整える。
 逃げも隠れもしない。奇襲や策を弄することもない。
 真っ向勝負を挑むつもりの敵へと、ケルベロス達もまた真っ向から立ち向かっていく。
 ゼフト・ルーヴェンス(影に遊ぶ勝負師・e04499)が念のための殺界形成を放つ。
「戦うしかないのですね……」
 クリスティーネ・コルネリウス(偉大な祖母の名を継ぐ者・e13416)が小さく呟くと、天宮・陽斗(天陽の葬爪・e09873)が頷いた。
「戦果としてグラビティ・チェインを奪取すると言うならば、守るさ」
「待たせたな、ヒゲじーさん」
 キソラ・ライゼ(空の破片・e02771)が呼びかける。
「おぉ、よう来た。待っておったぞケルベロス!」
 グリーンの縞々ローカストは、頭部の大顎をかっちんかっちん鳴らした。威嚇しているようにも歓迎しているようにも見える。
「弱き者を守った上で、こんな不利な状況下でも正々堂々と振る舞う……そういう筋の通ったヤツ、嫌いじゃねぇぜ」
 陽斗の言葉に、髭戦士はふぉっふぉっと笑う。
「それはそれは重畳」
「戦うことで……それで気が済むと言うのであれば……」
 何も言いません、とクリスティーネは口を噤む。
「正々堂々勝負を挑んでくるとは、敵ながら天晴としか言いようがありません」
 白竜は心境を率直に伝える。
「しかしながら人類のためにも、1対多数でも必ずや撃破しなければなりませんね」
「ふぉふぉふぉ。大義名分が立つじゃろう?」
 一定の距離を保ったまま、対話が続く。突然襲いかかってくる事も無い。
「素敵なお髭の方や。貴方達のその性格、嫌いじゃないよ。寧ろ、とっても好き。――なので、私達、ケルベロスが全力でお相手致しますね」
 クーリン・レンフォード(紫苑一輪・e01408)が言うと、髭戦士はふぉっふぉ、と髭を揺らして笑った。
「正々堂々というその姿勢は嫌いではありませんね。我々もケルベロスらしく、連携をもって真正面から打ち破ってみせましょう」
 ミチェーリ・ノルシュテイン(青氷壁の盾・e02708)はクールに涼やかに告げる。
 髭戦士は大顎をかっちんと鳴らして答えた。
「善き哉、善き哉」
「真っ向勝負、嫌いじゃねぇケドね。それよりなにより……髭が気になる」
 キソラがじっと見ていると、髭は揺れているばかりでなく動いているように見えた。
「美しい髭じゃろう!」
 髭戦士は自信満々に胸を張った。
「あ……ああ……」
 キソラはちょっと返答に詰まった。
 髭は確かに立派ではある。
「ヒゲさんの誠実さに凄く感動したの!! すずも悪戯心を封印して正々堂々と戦うのだよ!! よろしくお願いしますのだっ!!!」
 中納・鈴子(能無し雀は舌を出す・e23813)の挨拶に髭戦士は上機嫌になった。
「おぉ、流石はケルベロス。それでは我輩と正々堂々戦おうではないか!」
 かっちん!と大顎を鳴らしてローカストは身構えた。
「そして誠実さだけでなく、美髭にも凄く感動すると良いぞ。ふぉっふぉ」
「俺なりに敬意を持ってお相手させて貰うとしよう」
 陽斗はそう言って楽しげに笑った。
 ケルベロス達も髭戦士も、戦闘態勢に入る。

●弐
「我輩から参るぞ。この美しい髭をとくと見よ」
 大顎を鳴らすと、敵の長い髭がぐにぐにと動いて伸びる。髭はローカストの身体を包み込んで巻き付き、鎧を補強していく。縞々の髭が、まるで繭のように包む。それでいて動きに不自由は無さそうだ。
「ふぉふぉ……さあ、掛かってくるが良い。ケルベロスよ」
「我が一族、獣の誇りを賭していざ参らん……ってな!」
 陽斗はハウリングフィストを撃ち込む。
 音速を超える拳を、髭の鎧を纏う敵に叩き付ける。
 手応えは確かにあった。
「成程……これは殴り甲斐があるな」
 繭のようにしなやかでありながらごわごわとした質感……陽斗の拳は髭の感触を得た。
「すごい髭だね……。さあ、私達も最初っから飛ばしていくよ」
 クーリンは髭戦士の至近距離でコヨーテを呼び出す。
「Destruction on my summons―!」
 破獣召喚。現れたカジュラはどこまでも追いかけて食らい付く。コヨーテの牙は髭鎧にがっつりと噛みついた。
 ミチェーリは可変式ガントレットの掌底部に強制冷却機構を展開する。
「その髭! 我が凍気にて鈍らせる!」
 対象から熱を奪い尽くして瞬間的に凍結させる。мерзлота(ミェルズロータ)――射程が極端に短い為、相手に掌で直接触れなければならないが、その一撃は凍えすら感じさせず、敵の自由を奪う。
「震えることすら許さない……! 露式強攻鎧兵術、“凍土”!」
 カジュラを振り解こうと大きく払った髭が、瞬時に凍結する。
「ふぉふぉ……なかなかやるのう」
「心意気は嫌いじゃねえが、だからって負ける訳にゃいかねえ」
 キソラはドラゴニックハンマーを砲撃形態に変える。放たれるのは竜砲弾、破壊の力が凍り付いた髭を撃ち抜き、砕く。
「奪うというならぶっ潰す、それだけだ」
 ぱらぱらと鎧化していた髭の破片が落ちる。髭戦士の口元には伸びて元の長さに戻った髭が蓄えられている。
「……髭が」
「ふぉっふぉ……髭じゃわい」
 鎧化する髭が無限に伸びるなら、戦いが長引くのは想像に易い。
 クリスティーネは相棒のオルトロス『オっさん』と共に立ち向かう。
(「オっさんと仲間が居ればなんとか立ち向かえます。非力なわたくしですが……」)
 己の羽を一枚毟り取って、理力を込める。
「ただ一枚の羽ですが、これで貴方を止めてみせます!」
 ERF(Eine Reinheit Feder)(アイン ラインハルト フェダー)――敵の急所へと投擲する。クリスティーネの羽はまっすぐに放たれ、髭戦士のもっさりとした髭のなかに突き刺さった!
「むっ!」
 その間にゼフトが攻性植物に黄金の果実を宿す。果実の光は前列の仲間を包み込む。
 白竜が後列にライトニングウォールを展開して耐性を高める雷の壁を構築した。
 鈴子はグラビティチェインと地獄の炎を口内で練り合わせ、ストローから黒い炎を内包したシャボン玉を大量に吹き放った。シャボン玉はゆらゆらと漂い、軽い衝撃ではじけ飛ぶ。
「あっわあわのいったずら!! 鬼火軍団しゅつげきーーっ!!!」
 弾けたシャボン玉が炎を生み落とす。割れ終わる頃には、辺り一面が火の海と化す――水獄の灯火(シャボノランタン)。
「おおぉお?!」
 ……髭が、燃えていく。

●参
「やるのぅ……それでこそケルベロス」
 髭戦士は火の海から飛び出して駆け寄る。
 生き物の如くにょろりと伸びた髭ははさみのような刃に変形していく。さながらクワガタの大顎が二つになったようなシルエット。
「ちぇすとー!」
 髭の刃がクーリンを狙って突進してゆく。
「おっと、長屋の誇る美人達には易々と触れさせはしないぜ?」
 髭の刃を受け止めたのは、旅団仲間でもある陽斗。敵の刃は陽斗の鍛え上げられた体軀をも斬り裂く。
「……重い一撃だな、それでこそ倒し甲斐がある!」
 ローカストを旋刃脚の俊敏な蹴りで押し離れると、陽斗は楽しげに口角を上げた。
「ご老人にも、素敵な技をお見せしましょーか」
「さぁオっさん、クーリンさんに合わせますよ~!」
 まずはクーリンが最大火力のドラゴニックミラージュを放つ。かざした掌から竜の幻影が生み出され、ローカストを炎で包み込んだ。
「今までにないくらい、燃え上がれ!」
 連携してクリスティーネも同じ技を放つ。
「わたくしに出来る精一杯で、いっぱい、いっぱい燃やしちゃいます!」
 もうひとつの竜の幻影が重なり、炎が大きく膨らんで敵を焼く。
「ぐふぉ……」
 流石の髭鎧も炎に包まれてよろめいている。
 ミチェーリが流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを炸裂させ、更に機動力を奪う。
 そして髭が突如爆破される。キソラのサイコフォースだ。
 炎の渦から這い出る髭戦士の自慢の髭は、こんがりチリチリに焦げている。
「芸術的な髭は、遠距離攻撃と見た。近距離では見切られやすいからな。そして、武器封じか捕縛の特性を持つだろう。防御を固める戦法のお前がいかにも好みそうなやつだ。どうだ? 俺の推理は?」
 ゼフトは髭戦士に話しかける。しかしこれは相手の隙を作るのが目的で、正解かどうかは関係ない。問いながらブラックスライムを捕食モードに変形し、死角からレゾナンスグリードを放つ。
「我輩の髭に興味があるのかね。ふぉっふぉ」
 ブラックスライムは髭を傷つけるも、捕縛には至らない。
 白竜がウィッチオペレーションで陽斗の傷を癒やした。
「……爆ぜるのだ!!」
 鈴子のサイコフォースが発動し、髭戦士の至近距離で爆破が起こる。
 焦げた髭が飛び散る。爆風の中佇む髭戦士は口元にもっさりと髭を蓄えている。

●死
 戦いは長引く。それは想定通りだった。
 ケルベロス達は、髭戦士の重い一撃を守り手で受け止め、癒し手が癒すことで、ダメージを抑えながら髭を徐々に削っていった。
「……こんな出会いじゃなかったら、仲良くなれたかもしれないね」
 ぽつりと呟くクーリンの声に、髭戦士がふぉっふぉと笑う。
「お嬢さんにも髭が生えておればのう……」
「……はい?」
 思案げに髭を撫でた髭戦士は、ふぅむとケルベロス達を見渡して白竜に視線を止めた。
「……髭ですか」
「そうじゃ。髭の美しさを芸術の域まで高めた時……どうなると思うかね?」
 髭戦士の髭はわさわさと伸びて、幾つもに分かれ、そして髭玉となって周囲を旋回する。
「おおおぉぉぉお?!!」
 鈴子が大きな目を瞬きして騒ぐ中、一同は髭の新たなる動きに注視する。
(「芸術的な……髭」)
 ケルベロス達が固唾を飲んで見守る。髭玉はぐるんぐるん旋回しながら飛び掛かった!
「かの有名な芸術家はこう言ったものじゃ……芸術は……」
 勢い良く回る髭玉が宙で跳ね、爆発した!
 ドゥゥン、と派手な音と緑の爆炎が、爆風と共に後列へ広がる。
「爆発じゃ!!」
「爆発したああぁぁあ!! ……痛くない!全っ然、痛くないのだぁぁ……っ!!」
 じたばたしながら強がる鈴子。
「芸術的?!」
 思わず疑問符を浮かべるキソラ。
「ふわ……っ、……オっさんっ」
 爆風の中、相棒のオルトロスを呼ぶクリスティーネ。
「回復します、お待ちを……」
 白竜はすぐにヒールグラビティ動作に入った。

 予想外の爆発をした髭だったが、ケルベロス達は攻めの手を休めること無く、ダメージを回復する。燻る爆発の炎も白竜のメディカルレインが浄化していく。
 陽斗の拳が撃ち込まれ、クーリンの破鎧衝が構造的弱点を破壊する。
 クリスティーネがゼログラビトンのエネルギー光弾を射出すれば、オっさんがタイミングを合わせてソードスラッシュを放つ。
「オっさん、やっぱり可愛いなー」
 戦闘中でもついつい見てしまうクーリン。
 攻撃を終え戻ってきたオっさんは、熱い視線を感じまくって観念したのか、クーリンの傍で観念したようにうつ伏せになる。撫でるなら撫でろ、という態度だが、敵へ警戒は忘れていない。
「あわわ、ごろんってごろんって……! 硬そうだなーでもそれもまたいい!」
「オっさんを見ているクーリンさんがとっても可愛いです~」
 クリスティーネが微笑んだ。
 ミチェーリのмерзлотаが熱を奪い、髭を凍結させる。
「一対八でも卑怯とは言わせません。我々ケルベロスにとっては連携こそが正攻法!」
 ボロリ。鎧化していた部分の髭がはがれて零れ落ちた。
「なぁヒゲじーさん。正々堂々戦って……負けたら、どーすんだよ?」
 キソラはグラビティ・チェインを破壊の力に変え、武器に乗せて叩き付けた。
 受け止めた髭がぼろりと崩れ落ちる。その部分は石化していた。
「その時はその時じゃわい」
 ゼフトは敵へと急接近する。
「さあ、ゲームを始めよう。運命の引き金はどちらを選ぶかな」
 そしてリボルバー銃を相手の眉間に当て、引き金を引く。
 死の遊戯(ロシアンルーレット)――笑みを湛えていた髭戦士の表情が瞬時に凍り付いた。敵の目に何が映っているのかは分からないが、髭戦士は僅かに後退った。
 隙を見逃さず、白竜が気咬弾を撃ち放つ。
「とやぁぁああああッ!!! その髭、斬らせてもらうのだっ!!」
 鈴子のファイナルカリバール。
 両手のエクスカリバールが黄金の雷を宿して、髭をXに斬り裂いた。
 続けてミミック『かごのすけ』がガブリングする。
「フッフッフ、良くやったのだ、かごのすけ!」
「む……むぅ。やりおったな、ケルベロス……」
 髭戦士はずるりと片足引き摺って下がった。縞々鎧には亀裂が入っている。

「まだじゃ……まだ」
 髭戦士は髭で刃を作り出す。髭の修復力は確実に落ちていた。
 髭の刃はゼフトを狙って振り落とされる。けれど重い一撃は、彼を庇うミチェーリのガントレットが確りと受け止めた。
「吾ら育みたる大地よ、豊穣の恵みを授け給え……」
 陽斗の森羅万象功の立ち昇る翠光に包まれながら、ミチェーリは旋刃脚を放つ。
「キィ、出番だよ。やっちゃって!」
 クーリンの杖が豆柴の姿に戻る。そして籠められた魔力ごと敵へと跳躍する。赤いマフラーが風に靡いた。
「わたくしもキィさんにもふもふ~したいです~」
「クリスティーネもキィをもふればいいと思う。可愛いぞ!」
 噛みつかれて動きの鈍った髭を再度鎧化しようと試みる敵に、キソラが光を落とす。
「――墜ちろ」
 天地揺るがす雷鳴。それは暗雲に奔る雷竜の顎に捉るが如く。
 光と力が一点に収束して、麻痺を伴う衝撃となる。周囲は眩い光に包まれる。
「……ほ、ぉ……強いのぅ」
 再起不能な攻撃を受けた髭戦士は、ついに倒れて動かなくなった。
「オレ達の勝ちだ、ヒゲじーさん」
 返事は無い。だがどこか満足そうな顔をしていた。
「今度は戦いのない来世で会いましょう、ご老人」
 クーリンはキィをぎゅっと抱きしめた。
 髭一本動かぬ敵を、クリスティーネが見つめる。
「戦うしか……なかったのでしょうね」
「ああ……間違いなく、誇り高い「武人」だった」
 歩み寄った陽斗が、確りと頷いた。
「今回は心なしか、余り戦うのが怖くなかった気がします」
 クリスティーネは陽斗を見遣って僅かに表情を和らげる。そして、動かぬ姿に視線を戻し、祈った。
「――安らかにお眠りくださいね」
 遠く視線を彼方へ向ければ、移り変わる海と空の色が今日の終わりを告げようとしていた。

作者:藤宮忍 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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