●ゾウムシさん見参!
ずん。
奈良駅前の行基像前に黒ぐろとした立派なローカストが仁王立ちになる。
「遠からんものは音に聞け、近くば寄って目にも見よ! 俺の名前はプロヴォック! ローカストの戦士だ!! この度! ローカストのグラビティ・チェインがあまりにも足りない故! 仲間に命をつないでもらうべく、致し方なくも! 俺はお前たちのグラビティ・チェインを収奪することと相成った!!」
ビィンと響くほどの大音声で、プロヴォックというゾウムシらしきローカストは、ここに宣戦布告する。
おののく一般市民を前に、プロヴォックは続けた。
「しかぁあし! 抵抗もできない弱き者を、一方的に殴りつける! そんな外道なことは、俺にはできないッ!! だが、グラビティ・チェインは必要だ! 故にぃいっ!」
いちいち鼓膜が破れそうなくらいうるさいし、一言一句が熱い。
人間たちはただプロヴォックの口上を聞き続ける。
「皆、ケルベロスを呼ぶのだ! 俺と対等に戦える地球側の者――それがケルベロスだ! 俺は正々堂々、勝負をケルベロスに申し込むっ! そしてケルベロスを打ち倒し! その結果として、グラビティ・チェインをローカストの仲間たちに届けることとするっ!」
プロヴォックはがなった。
「我こそはというケルベロスは、俺と相棒から地球を守ってみろ!! 以上ッッ!!」
相棒と彼が称する体内のアルミニウム生命体を鎌のように腕に発現させ、プロヴォックはポーズをきめて、口上を終わらせた。
●ゾウムシさん挑発!
「皆、広島での一件、ホンマおつかれやったなー」
香久山・いかる(天降り付くヘリオライダー・en0042)は、広島でのイェフーダー戦の成功を喜び、ケルベロスの健闘をたたえた。
ケルベロスがもたらした戦果は、広島市民の犠牲はゼロ、ストリックラー・キラーのローカストは全滅という目覚ましいものであった。
「ストリックラー・キラーが全滅したさかい、もうローカスト軍は身動きできひん状態といってええはずや。ローカスト側のグラビティ・チェインもカラッカラやし、決着も間近やな」
いかるの言葉に、ケルベロスは顔をほころばせた。デウスエクスの脅威がひとつ潰えようとしているのだ。嬉しくない訳がない。
しかし。
「せやけども」
いかるが、不穏な接続詞を言うので、ケルベロスは顔を引き締めた。また何か起こるようだ。
「ローカストの大ピンチに立ち上がった奴らがおる。皆、忘れてへんよな。『阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達』や」
ああ! とケルベロスらは互いにうなずきあった。彼らなら仲間のピンチに立ち上がるのも無理はない。彼らは以前、ダモクレスの移動拠点『グランネロス』を襲撃して、グラビティ・チェインを奪っていったはずだ。
「グランネロスで奪った分のグラビティ・チェインを配りきってしもた阿修羅クワガタさんたちは、また他のデウスエクスを襲おうとしたんやけど……。グランネロス級にたっぷりグラビティ・チェインを蓄えてる奴らなんてそうそう見つからんもんらしくてな」
背に腹は代えられない。と、阿修羅クワガタさんたちは、人間を襲うことにしたという。
「でもな、そこは阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達や。正々堂々ケルベロスに宣戦布告してきた。ケルベロスと決闘して勝ったら、人間のグラビティ・チェインをいただく、というこっちゃ」
宣戦布告など、意味のない行動である。
だが戦うすべのない人間を襲うということは、彼らにとって卑怯であり、プライドが許さないことだった。ローカストの窮状を救うという大義名分との天秤に苦しんだ苦渋の決断が、宣戦布告という形になったのであろう。
「……悪いやつらやないんやろうけどなぁ……。せやけど、人間殺してグラビティ・チェインを奪うことには変わりないわけやし、いくらええやつやからって、グラビティチェインを奪われていくのを、ケルベロスが見て見ぬ振りなんて絶対したらあかんやろ」
いかるは複雑そうに、しかし確固たる意志を持ってケルベロスに依頼する。
「せめて、宣戦布告に応えて、正々堂々と倒してやってくれるか」
奈良市に現れた『気のいい仲間』は、クロカタゾウムシのプロヴォックというローカストだった。
「戦場は奈良公園。鹿は避難済みやから、邪魔は入らへん。広くて平らで決闘にはうってつけやね。……あ、でも、皆を応援しようとやってきてくれた人はいるみたいや。危険を顧みずに応援してくれるなんて泣かせるよなあ」
くうっといかるは目頭を押さえた。
プロヴォックは、オウガメタル――アルミニウム生命体を活かした戦闘が得意なようだ。
「鎌にしたり、鎧にしたり、牙にしたり、って感じやね。あと、クロカタゾウムシはものすごく硬い体が自慢やねん。並大抵のことで倒れへんのは予想できるわ」
防御力を誇るプロヴォックは『最後まで立っていた者が勝ち』戦法で来るだろう。耐久戦になるに違いない。
「プロヴォックは言うなれば、窮地に陥ったローカストを守る盾や。決して退かず、正々堂々と挑んでくるやろう。せやけど、ケルベロスも無辜の民を守る剣や。たとえ意地の張り合いになろうが、泥臭くなろうが、絶対に負けられへんよな。……頑張ってや」
いかるは真剣な顔で一同を見回すのだった。
参加者 | |
---|---|
ロイ・リーィング(勁草之節・e00970) |
イグナス・エクエス(怒れる獄炎・e01025) |
アニエス・ジケル(銀青仙花・e01341) |
サイファ・クロード(零・e06460) |
輝島・華(夢見花・e11960) |
チューマ・ウチョマージ(荒野の鉄火・e11970) |
宵華・季由(華猫協奏曲・e20803) |
デンドロビウム・トート(黒骸メランコリー・e26676) |
●コインで始める
「……いる」
奈良公園の芝生を踏み、ケルベロスは指定された場所にたどり着く。
「おおっ、来たぞ! ケルベロスだ!」
「頑張れよーッ!」
観衆が人類の味方の到着に沸いた。
大歓声に、わわっと慌てたアニエス・ジケル(銀青仙花・e01341)は、
「アニエスたち、がんばりますからね。声援、よろしくおねがいしますっ!」
と声援に手を降って応えるも、
「あぶないから離れていてください!」
と注意も忘れない。
「わかってるさ! 頼んだぜー!」
という元気な返事に、輝島・華(夢見花・e11960)も精一杯声を張り上げる。
「大丈夫です、安心して私達の戦いを見ていて下さい!」
観衆にひとしきり応えたケルベロスは、目の前の黒光りするローカストを真っ直ぐに捉える。
挑戦状を叩きつけてきた阿修羅クワガタさんの気のいい仲間たち、その一であるプロヴォックは、仁王立ちでケルベロスが歩み寄ってくるのを待っていた。
「来たか!! さすがだ、俺が見込んだだけはある! 尻尾を巻いて逃げなかったことを、素直に褒めてやろうっ!」
うるせぇよっ、と彼の大音声に笑顔でつっこみつつ、サイファ・クロード(零・e06460)は返す。
「結構ギリギリの状態だろうに。そっちこそ、オレたちが来るのを待っててくれてありがとう。でもグラビティ・チェインはあげられないよ」
だが、ずんと一歩前に出たシャドウエルフはもっと大音声で名乗り返した。
「私の名はデンドロビウム・トート! 我が相棒はチェネレントラ! グラビティチェインが欲しければ、私たちを倒し奪うがいい! ……そう簡単には奪わせないがな!」
デンドロビウム・トート(黒骸メランコリー・e26676)の隣で、真っ白なボクスドラゴンが、ぱーっと威嚇と景気づけを兼ねてブレスを吐いた。
キィンと耳が痛くなったサイファがデンドロビウムの方を見やると、彼女は大真面目に言う。
「名乗りは必要だろう。正々堂々なのだからな」
華も、もっともだと頷いて、負けじと声をあげた。
「私はケルベロスの輝島華と申します! 宣戦布告に応じこの勝負、受けて立ちましょう!」
「どんなに硬かろうが粉砕するだけだ! 俺は人々を守るケルベロスが一人、イグナスだ! 行くぜ、プロヴォック!」
ぐっと燃え盛るように見える地獄化した右手を握り込んで突き出し、イグナス・エクエス(怒れる獄炎・e01025)が怒鳴る。
「プロヴォックさん、初めまして、ロイというよ。……この戦い、俺も、負けるわけにはいかないんだ」
一転して、ロイ・リーィング(勁草之節・e00970)はとても静かに丁寧に腰を折る。
「俺は季由、こっちはミコト。お前に守りたい存在がいるように俺にも守りたい人達がいるから、俺たちも盾でありたいと思ってる。正々堂々戦えるなら、騎士としても本望だ。全力で相手をしよう」
ふとっちょのウイングキャットを肩に乗せ、宵華・季由(華猫協奏曲・e20803)は、プロヴォックを誘うように手を伸ばした。
「ア、アニエス……です! こちらは、テレビウムのポチです。あなたの生きるためにたたかうきもちに、応えたいです。……だから、正々堂々、たたかいます。よろしくおねがいいたします!」
アニエスはたどたどしくも、一生懸命に名乗った。
周りが皆名乗るので、サイファも苦笑交じりに名乗る。
「そうだね、挨拶が先だった。オレはサイファ。サイファ・クロードだ」
「貴殿の挑戦、以上の我々八人が受けた!」
最後に、赤茶色の髪と付け髭が愛らしいドワーフが名乗る。愛らしい容貌だが、彼はこれでも四十四歳、不惑を超えた男である。
「俺はチューマ。ガンスリンガーのチューマ・ウチョマージだ! クラッシャーとしてお相手する!」
「お前の名を教えてもらおうか」
デンドロビウムの促しに、プロヴォックは頷く。
「俺はプロヴォック。同胞に活路を開くべく、お前たちに挑戦する! 勝てばここの人間たちのグラビティ・チェインを頂戴するぞ!」
「よし、じゃあ始めよう。合図はコレでどうだ?」
チューマ・ウチョマージ(荒野の鉄火・e11970)は一枚のコインをプロヴォックに突き出した。
「ん?」
「コレを弾き、地面についた瞬間に開始だ。どうだ?」
「……それがそちらの流儀であれば、合わせてやろう。俺が挑戦者なのだからな!」
チューマは頷いた。
「なら、行くぞ。そらっ」
キィーンと澄んだ音がして、青空に金貨が舞い上がる。
「ミコト、気張れよ」
それを見上げ、季由は肩のウイングキャットに囁く。
くるくると回転しながら落ちていったコインは軽い音と共に芝生に落ち――瞬間、プロヴォっくは全身にアルミニウム生命体をまとい、季由の爆破スイッチは虹色の煙を立ち上げ、ミコトの清浄の翼が舞い散る。
「興行なら、いい舞台演出だな」
イグナスは、フッと笑うとドラゴニックハンマーでプロヴォックめがけて竜砲弾を打ち込んだ。
●命定める意味
ガチィィィーーンンン。
硬い外骨格に竜砲弾が当たって、硬い音が響いた。
「さすがだな」
イグナスが頷き、プロヴォックが笑う。
「ハッ、この程度か?!」
当たりはしたが、彼にダメージといえるほどの損害を与えることはできていない。
ロイが振った斬霊刀は刃すら通ってくれなかった。
むしろ硬さにビィンと刃が震え、ロイの手を痺れさせる。
一撃を少しでも軽くせんと、華のケルベロスチェインが前衛を囲み、守護魔法陣を形成した。
「えいっ……!」
アニエスがプロヴォックの体節の間めがけてバトルオーラを差し込むも、蚊が刺すより効いていない様子である。
「ふむ? 何かしたか?」
ポチの傘もプロヴォックで音を出すためのバチにしかなっていない。
空中からの飛び蹴りを当てたサイファは、プロヴォックを踏み台にして芝生に着地しながら、言ってみる。
「ぶっちゃけアンタを殺したくない」
「はぁ?」
プロヴォックは、何を言い出すのか、と言わんばかりの顔でサイファを見た。
「無茶ぶりは自覚してるけど……定命化を考えてみない? そーしたらオレたちが戦う理由がなくなるし、定命化仲間が増えるのは嬉しいし、アンタらは死なないし」
サイファは指折り、彼が考える定命化のメリットを説明する。
「何言ってるんだお前、定命化したら確実に死ぬじゃねーか」
プロヴォックは到底理解できないという顔をする。確かに寿命が定まれば、いつかは死んでしまう。定命するということは、未来永劫ローカスト全員がゆるやかに死んでいく事なのだから。
「不退転とか命がけとかカッコイイかもしれないけど、死んだらそこでおしまいじゃん。生きてなんぼだよ。オレはアンタのこと結構好きだよ? 好きなヒトには生きてて貰いたいんだよ」
サイファの言葉に、プロヴォックはチンプンカンプンだという顔をする。
「いや、だから生きるためにグラビティ・チェインをよこせっていうんだ。生きてほしいってんなら、今ここで! お前が退いて人間を差し出してくれ」
「そ、それは」
サイファはたじろぐ。
それはできない。ここで撤退して、ケルベロスを応援している観衆を見殺しになど、絶対にできない。
「殺したくない? 俺も甘く見られたものだな」
サイファの動揺を見て、プロヴォックは不愉快そうに顔を歪めた。
「そんな心持で戦って、俺を倒せるつもりだったのか? 人間が守れるつもりだったのか? それのどこが正々堂々だ? 俺が望む正々堂々は、命のやり取りだ! ああ、ナメられたものだ! ふざけるなよっ!」
怒るプロヴォックに、サイファは素直に謝る。
「……申し訳ない。余計なことだった。オレの覚悟が決まってなかった。仕切り直しだ。悔いのない戦いをしよう」
「ふん、最初からそう言っていりゃいいんだ」
プロヴォックは鼻息一つで、全て水に流すことにしたらしい。『気のいい仲間』と呼ばれるだけのことはある。
「そうですね、生きるか死ぬかの真剣勝負です」
華は呟いた。サイファの話が通じれば……とは思っていたが、そう簡単に宗旨変えをしてくれる相手だとも思っていなかった。
デンドロビウムの跳弾がプロヴォックに当たるが、カインと弾かれた。
チェネレントラの属性がアニエスにかかる。
芝を断ち割るほどの、強烈な一撃がチューマのアームドフォートから繰り出されるが、首をひねったプロヴォックに掠って消えていった。
「うん? どこを狙っている?」
「なに、ただの試し撃ちさ」
チューマはそう笑ってみせるも、背には冷や汗が垂れる。さすが単体で乗り込んでくるだけある。耐久力も回避力も桁違いだ。
「さあ、今度は俺の番だ! とくと味わえ、相棒と俺の一撃をな!」
プロヴォックの腕に長い鎌が現れ、ザンとロイを引き裂いた。
迸る赤、よろめく体、すかさず季由が妖精弓に祝福をこめた矢をつがえ、ロイを後ろから貫いて傷を癒やす。
「ミコト、華!」
主人に言われるまでもない、とウイングキャットは羽ばたく。
「はい、季由兄様。皆様を倒れさせないのが私の役目です!」
華が旅団仲間の声掛けに応じて、ライトニングロッドからの電気ショックでロイを正常に戻した。
●根性比べ
最初は敵わないと思うほどダメージが通らなかったプロヴォックだが、刃を重ねている間に様子が変わってくる。
メディックが仲間に施していった補助や、ケルベロスがダメージは通らずとも地道に攻撃を当てることで、装甲を破り、足を止めさせた。粘り強い戦いが、泥臭くもじわじわとプロヴォックの鉄壁を崩していったのだ。
「断罪する」
デンドロビウムの手から放たれた気功弾が、プロヴォックに当って爆ぜる。
「ぐあっ?!」
「声を上げた」
デンドロビウムが手応えを感じて、思わず声を上げる。ボクスドラゴンのブレスが傷口を広げる。
「当たって、効くようになったならあと少しだ。最後まで油断はせんがな」
活路が開いた、とチューマは顔を引き締める。
当たりそうもなく、温存していた技も今こそ蔵出しのときだ。
チューマは唱銃GOSPELを輝かせた。
彼の義侠心が文字通り燃え上がる。
「超銃! 合身!!」
天より降臨した超銃ガングリフォンがチューマと重なる。
「超銃器神! ガンッ! グリッ! オォォォォン!!!」
全力で放った銃弾がプロヴォックに激突する。
圧で弾き飛んだプロヴォックは、とっさにアルミニウム生命体を纏うも、ロイは刀でそれを払った。
「なっ!?」
返り血を浴びて戦化粧をしたかのように顔を染めるロイは、何故という顔をしているプロヴォックに教えてやった。
「祝福の力のお陰でね。……これ以上固くなってもらうわけにはいかないんだ」
後ろで破剣の矢を放った体勢からゆっくりと弓を下ろしつつ、季由が微笑みながら頷いた。
「よそ見してる暇はないぜ!」
イグナスが振り上げたドラゴニックハンマーがプロヴォックにぶち当たり、表皮を凍りつかせる。
「負けていられま、せん!」
ポチの画面が光り、アニエスの爪がプロヴォックを抉る。
「綺麗な花吹雪、楽しんで下さいませ!」
華の魔力が美しい花吹雪となってプロヴォックを絶え間なく打つ。
もはや覚悟を決めたサイファは、仲間の攻撃を更に通すため、装甲をルーンアックスで剥がし続ける。
プロヴォック自慢の外骨格鎧も、サイファ達の攻撃で既にかなりほころびを見せている。アルミニウム生命体でカバーしても、ブレイクされ続ける。
「行くよ、チェネレントラ」
デンドロビウムが黒影を放てば、ボクスドラゴンは影に絡みつくように白いブレスを吐いた。
疾走する黒弾に螺旋に白いブレスが絡むモノクロの合奏は、プロヴォックの弱点に正確に当たった。
「生まれが違えば共に戦う事もあったかもしれん」
チューマはふらつくプロヴォックを見やり、この戦いがそろそろ終結に近づいていることを悟る。
悼むように呟き、そして感傷を振り払うが如く、再び地を割る強大な一撃を放った。
「あぐうっ」
開幕時には掠っただけのグラビティも、今やプロヴォックには大打撃である。
「はは、前のめりにならなきゃいけねえ時間か」
鋭い牙をアルミニウムで生やし、プロヴォックはイグナスめがけて疾風のごとく迫る。
だが、
「アニエスがまもり、ます!」
可憐な少女ドラゴニアンがその強烈な骨身を砕く一咬みを代わりに受けた。
「う……おつよい、ですね……」
サーヴァント使いは、サーヴァントと命を分け合っているようなものだ。普通のケルベロスよりも体力で劣る。
倒れ伏すアニエスに、ポチが画面を光らせて悲痛を示す。
「アニエスさん!」
華が悲鳴めいた叫びを上げる。だがもうヒールで間に合う損傷ではない。
「……誰も倒れさせたくはなかったのですが……」
命をかけて戦いに来た相手だ。誰も欠けずに勝てる相手ではなかったということか。
季由が静かに爆破スイッチを押す。派手な爆煙が破壊の力を前衛に与えた。
「頼んだ」
「ああ、恩は返すぜ」
イグナスは右腕の地獄の火勢を更に増す。
●青空の下の壮絶
レプリカントの炉心が爆発寸前まで出力を上げていく。
「正々堂々ぶつかりに来る根性は嫌いじゃないぜ! だが俺達にも守る物はある。最後はこの技で焼き尽くす!」
イグナスが地を蹴る。
「来やがれ! 耐えてみせらぁ! 俺にだって守るものがある、阿修羅クワガタさんとの約束もある!」
プロヴォックはあえて真正面から受け止めんと腕を交差した。
「これがトドメの一撃だ。ブレイジングエグゼキューション!」
もはや獄炎と呼べる掌底がプロヴォックの腕の交差点に叩きつけられた。
「グアアアッ!!」
魂すら燃やしつくそうとする激しい炎に、プロヴォックは意地でも耐えようとするが、
「ぐおおおお……ち、から、およば、ず……か…………」
イグナスの渾身の攻撃に、とうとう白い炭と化した。
戦いの終結に、旅団仲間の華と季由が倒れたアニエスに駆け寄る。
観衆から、わああっと勝利を祝う大歓声がほとばしった。
「やったな、チェネレントラ」
デンドロビウムは、グラビティ・チェインを、人々を守りきれたことに安堵の息を吐き、ボクスドラゴンの頭を撫でてやる。
立ったままゾウムシの形の灰となったプロヴォックに、ロイは素直に賞賛の言葉を述べた。
「……とても、強い敵だったね……」
「……立ち往生、か。銅像みたいだな。銅像にしたいくらい立派な戦いぶりだった」
自分よりも数倍大きな敵の遺骸を、チューマは眩しそうに見上げる。
一陣の風が吹き、さらさらと灰が秋晴れの空へと消えていく。
「やっぱり、死んでほしくなかったな」
サイファは友人の死を悼むような表情で、プロヴォックを見送った。
作者:あき缶 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年10月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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