阿修羅クワガタさんの挑戦~バッタマンエモン見参!

作者:質種剰


 埼玉県さいたま市。
「某は、バッタマンエモン、ローカストの戦士でござる!」
 人通りも少なくない市街地のど真ん中、巨体を誇るかの如く仁王立ちしたローカストが、昼の街に大音声を響かせている。
「枯渇したグラビティ・チェインを満たす為、この町の人間を襲撃しグラビティ・チェインを略奪する仕儀と相なり申した。止むを得ない事とは雖も、真に申し訳ない次第にて候」
 妙に古風な言い回しのこのバッタマンエモン、丁度トノサマバッタを巨大化して無理やり後ろ脚で二足歩行させたような姿をしている。
「無論、戦う術のない人間を襲撃するのは、某も本意と致す所ではござらん。ゆえに某は呼びかけようぞ」
 そう宣戦布告するバッタマンエモンの声に、嘘は感じられない。
「ケルベロスとやら、ここへ来て、某と相見えるが良い。戦って人間を守るのだ」
 それもそのはず、このマンエモンは、阿修羅クワガタさんの『気のいい仲間達』の1人なのだ。
「なれば某も、正々堂々と戦い、強者たるケルベロスを撃退し、その戦いの結果として、グラビティ・チェインを強奪致す所存にてござる!」
 だからこそ、彼も阿修羅クワガタさん同様に、決して弱いもの虐めをせず仲間も見捨てる事のない善良な性格かつ、敵とは正々堂々戦う事を望む武人然とした心根を持っているのだろう。

「皆さん、広島での戦い、お疲れ様でした!」
 集まったケルベロス達へ向かって、小檻・かけら(貝作るヘリオライダー・en0031)は、まずぴしっと敬礼してみせた。
「この戦いで、広島市民の被害はゼロに抑えられましたし、イェフーダーをはじめとしたストリックラー・キラーのローカストを見事全滅させたでありますよ」
 特殊部隊であるストリックラー・キラーが全滅した事で、ローカスト軍の動きはほぼ封じられたといって間違いない。
「グラビティ・チェインの枯渇状況も末期の筈でありますから、太陽神アポロンとの決着も間近に迫っているでありましょう」
 しかし、そんなローカストの苦境を見て、立ち上がった者達がいた。
「それが、以前ダモクレスの移動拠点『グランネロス』を襲撃した、阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達であります!」
 彼らは、奪ったグラビティ・チェインを困窮するローカスト達に全て施した後、更なるグラビティ・チェインを獲得すべく活動を始めた。
 とはいえ、グランネロスのような、大量のグラビティ・チェインを持つデウスエクスの部隊が簡単に見つかるわけもなく。
「結果的に……彼らはやむなく人間のグラビティ・チェインを奪う決断をしたようであります」
 彼らはケルベロスに対して宣戦布告を行い、それを受けたケルベロスを正々堂々と撃破した後で、強敵との戦闘に勝利した報酬として人間からグラビティ・チェインを略奪しようと息巻いている。
「わざわざ正々堂々と戦う為にケルベロスに宣戦布告をするという行動は、彼らにとって何の得にもならないであります。ですが、この意味の無い行動こそ、ローカストの窮状を救いつつ、自分たちの矜持を守る為の苦渋の決断なのかもしれません」
 そう推測してかけらは続ける。
「阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達は、その性質から悪では無いと思うであります。ですが、彼らが困窮するローカストの為に人間のグラビティ・チェインを奪おうとするならば、ケルベロスにとって許されざる敵でありましょう」
 戦いは避けられぬでありましょうが、彼らの宣戦布告に応え、可能ならば、正々堂々とした戦いで撃破してあげてください。
「どうか、宜しくお願い致します……」
 と、頭を下げるかけら。
「皆さんに戦って頂きたいのは、さいたま市に出現したバッタマンエモンてあります」
 バッタマンエモンは、その頑健に優れた脚力を活かして、高々と跳躍してのキックを放ってくる。
 このローカストキックは近接した単体の相手へのみ命中する斬撃で、強化を打ち消す効果も有している。
 また、前脚からカマキリの刃みたいな鎌を生成し、敏捷性に長けた動きで近くの敵を斬り裂き、体力を奪う事もある。
 その上で、時にはアルミニウム鎧化を用いて、自らの体力を回復させるようだ。
「正々堂々とした戦いを望んでいる為か、バッタマンエモンは『広くて平らで戦いやすい場所』で、皆さんを待ち受けてるであります」
 戦場周辺の一般人は殆ど避難しているが、ケルベロスを応援する為に危険を顧みず残っている観客もいるそうな。
「バッタマンエモンは、窮地に陥ったローカストの剣となり、決して引く事無く、正々堂々と戦ってきます。しかし、ケルベロスである皆さんもまた、無力な一般人を守る盾でありますから、負けることは許されぬでありましょう。かけらは皆さんの勝利を信じてるでありますよ!」
 いつものように説明を終えたかけらは、ケルベロス達を彼女なりに激励するのだった。


参加者
織神・帝(レイヴンドマーセナリー・e00634)
凪沢・悠李(想いと共に消えた泡沫の夢・e01425)
藤・小梢丸(カレーの人・e02656)
トウコ・スカイ(宵星の詩巫女・e03149)
ミルディア・ディスティン(猪突猛進暴走娘・e04328)
月夜・夕(昼行灯の人狼探偵・e07867)
左潟・十郎(風落ちパーシモン・e25634)
マルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)

■リプレイ


 さいたま市の路上。
「ケルベロスよ、人間達を守りたければ、某と剣を交えてみよ! 某は正々堂々とした戦いをしとうござる!」
 バッタマンエモンは威風堂々たる佇まいで、その巨躯に相応しい低音を響き渡らせている。
 ——スタッ!
 その目の前へ華麗に着地したのは、マルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)。
「名乗りに応じてケルベロス参上。だけど、戦うのは少し待ってほしい」
 念には念を入れて一般人の野次馬を避難させたい、と訴えるマルレーネは、銀のおかっぱ髪と赤い瞳がクールな印象を与えるサキュバスの少女。
 かつての奴隷生活によって感情を失い、普段無表情なマルレーネだが、エアライドを用いて格好良い登場をしてみせただけ、バッタマンエモンの武士道精神に心動かされる処があったのだろう。
「正々堂々、というのであれば、お互い、配慮なしに闘える場所を設けようではないか」
「心置きなくお互いまみえる為にも、ちょっとお時間頂きたいんですのよ?」
 織神・帝(レイヴンドマーセナリー・e00634)やトウコ・スカイ(宵星の詩巫女・e03149)も同調して、マンエモンへ交渉する。
 普段は和装を愛し、露出度の高い奇抜な巫女服で歌舞いているという帝。
 精悍な体つきや意思の強そうな瞳に違わず、彼女も一武人としてマンエモンに相対すると決めたそうな。
 そんな一本気な性格が纏う空気に爽やかさを加えている、歴戦の鎧装騎兵である。
「うんうん、一般人を巻き添えにしないよう、キープアウトテープは張らせて貰おう。待っててくれるよね?」
 と、立入禁止テープを貼って回る準備万端なのは、藤・小梢丸(カレーの人・e02656)だ。
 きっとテープホルダーは、常々愛用しているカレールー型なのだろう。
「ふむ……貴殿らが、他の人間を気にして本来の実力を出せぬとあらば、某も望むところではござらん。承知した。遠ざけるも何も好きにするが宜しかろう!」
 バッタマンエモンは、ケルベロス達の交渉へ快く応じた。
(「大丈夫、バッタマンエモンなら避難まで待ってくれるはず」)
 それはマルレーネが信じていた通りで、安心して一般人の野次馬へ意識を向ける8人。
「とてもとてもお強い相手様ですの、ですからどうぞお逃げ下さいますように……」
 トウコは僅かに残っていた野次馬1人1人へ直接話しかけ、丁寧に避難を促している。
 此方とて、皆さんを庇って戦う余裕を持てる相手ではない故に、場合によっては命の危険すらあるから——と。
「気持ちは有り難いが、流れ弾が飛んでくる可能性もある」
 彼女と同様に真っ直ぐな言葉を尽くすのは左潟・十郎(風落ちパーシモン・e25634)。
「俺達は人間を守る為に戦うつもりだ。悪いけれど観客がいては敵に集中できず、お互い危険に晒される可能性が高まるってことを解って貰いたい」
 充分に誠意の篭った説得からは、十郎の優しい心根が看て取れた。
 まるで少年のような小柄な体格と整った童顔、愛用のぶかぶか白衣も相俟って、とても若々しい外見をしたレッサーパンダのウェアライダーである。
「これからお客さんの相手をしなけりゃならなくてね」
 一方の月夜・夕(昼行灯の人狼探偵・e07867)は、いざとなれば多少の『荒っぽいお話し合い』すら辞さない覚悟で、一般人の避難誘導に当たっている。
 よれよれのスーツに無精ひげ、やる気なさそうな顔で煙草を咥えた様が相変わらずの風情だ。
「素直に従ってね……命の保証はできないからさ♪」
 凪沢・悠李(想いと共に消えた泡沫の夢・e01425)も、逃げるのを渋る野次馬相手に可愛らしい物言いで脅しながら、剣気解放で周辺の一般人達の気力を吹き飛ばした。
 無気力にするのは野次馬の意欲を失わせるという意味で、確かに避難指示へ従わせ易くなり効果的だろう。
 絹のような漆黒の髪やどことなく憂いを帯びた赤い瞳が、中性的な容姿の悠李を大人しそうな美少年に見せている。
 他方。
(「戦えない人を襲うようなことしないって言ってるし、距離さえ置いてもらって戦場に入れなくしていれば問題無いみたいだから」)
 ミルディア・ディスティン(猪突猛進暴走娘・e04328)は、野次馬達の避難誘導を潔く仲間達へ任せて、自分はマンエモンとの戦闘へ向けて精神を集中させている。
「女子どもだからって油断しちゃダメだからね!」
 そうビシッと挑発するのも、ミルディア独自の思惑あってこそ。
(「こういう武人風の人って、女性だったり子どもだったりすると本気出さないことが多いんだよね」)
 マンエモンを武人と認めればこそ、その性質から攻撃を手加減すまいかと危惧したらしい。
(「だからこそ、初手から全力で行って気を引き締めさせないと!」)
 自ら全力攻撃する事で、マンエモンにも本気を出させたい。
 真っ直ぐぶつかれそうな相手だと見定めたミルディアの目に、熱い闘志が灯る。
「杞憂でござる。某はケルベロス相手に手を抜いたりなど致さん。命を懸けた決闘、全身全霊で挑まずして何とするか」
 彼女の思いを看て取ったのか、バッタマンエモンも素直に胸の内を吐露したようだ。


 程なくして、現場に残っていた一般人は野次馬を含めて全員遠ざける事ができた。
 二車線道路の要所要所に張り巡らせた立入禁止テープが、広々とした空間を作る。
「理由はともあれアンタらみたいなバカは嫌いじゃない」
 夕は口元に笑みを浮かべ、さも友人に話しかけるような気易さでマンエモンへ声を投げた。
「これ以上語るも無粋か。さて……始めようか?」
 それと同時に、軽い身のこなしでマンエモンの懐へ飛び込む。
 ——トスッ!
 指一本の突きを喰らわせてその気脈を断ち、石化にも似た硬直を奴の全身へ齎した。
 傍らでは、銀も尻尾の輪を飛ばしてマンエモンへ攻撃している。
「うむ……いざ、尋常に勝負!!」
 言うなり、バッタマンエモンは跳躍力を活かして飛びかかってきた。
 バシバシッ!
 2本の右脚による飛び蹴りが、十郎を庇った夕の腕を強打する。
「正々堂々ねぇ……その行為自体に意味は無いけど、だからこそ尊い、かな?」
 早速ハイテンションになった悠李も、マンエモンを見据えて魔天狼を抜いた。
「ま、僕は楽しければそれで満足なんだけど……あはっ♪」
 楽しげに繰り出された一閃は緩やかな弧を描いて、マンエモンの後ろ脚を的確に斬り裂く。
「なかなかやるな」
 マンエモンは一瞬ふらついたものの、体液の噴き出す脚の痛みを堪え、しっかり地面を踏みしめていた。
「ミルディア・ディスティン! 推して参る!」
 気合の入った名乗りを上げて、ミルディアはバトルガントレット内蔵のジェットエンジンを使って急加速する。
(「小細工が通じる相手とも思えないし、全力で当たらないと失礼だもんね!」)
 自分に出来るのはともかく殴るだけ——そう思い極めた彼女の高速で放つ重拳撃が、マンエモンの腹を勢いよくぶち抜いた。
「フ……良い拳でござった、娘御よ」
 己の呼吸を整えつつ、マンエモンが笑う。
「今までのローカストと違って正々堂々、清々しくて気持ちいいね。だったらこっちも正々堂々真正面からぶつかろうじゃないか」
 小梢丸は威勢の良い口ぶりと裏腹に、立入禁止テープを貼り終わるや勝手に一息ついて、どこから出したのかカレーをがつがつ貪り食っていた。
「さあ、やろうか。フヂ・コズエマルが相手をつかまつる、いざ!」
 それでもカレーを完食してやる気がみなぎったらしく、無駄のない動きでマンエモンに肉薄。
「破鎧衝で丸裸に剥き剥きしちゃうぜ、覚悟ー!」
 高速演算によって見抜いた構造的弱点を狙い、けしかけたブラックスライム——静かに横たわる雄大なインド洋の淵で僕たちは夜明けのカレーを食す——でトノサマバッタの翅へ痛烈な一撃を与えた。
「ここまで正々堂々とした戦士であれば、いっそ地球を愛してくれればとも思うよ――別の出会いをしてれば、というのはさすがに贅沢かね」
 飾らない率直な思いを口にする帝だが、定命化を簡単に了承すると楽観視もしていない為、どこか割り切った様子に見受けられる。
 何より、マンエモンの強さを求め正道を良しとする矜持は、種族こそ違えど求道者や戦闘者としての根本では自らと同じ——そう共感を覚えているだけに、尚更本気になれるのだろう。
「であれば、最良最善、最大の敬意と力を以て当たるまで!」
 事実、帝が『砲撃形態』に変じたドラゴニックハンマーより撃ち出した竜砲弾の狙いは正確で、奴の後ろ脚や尻を見事に粉砕、その動きを鈍らせた。
 他方。
 アポロンやイェフーダーみたいに卑劣な輩は大嫌いなマルレーネだが、阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達には、敵と雖も敬意を抱いている。
 なればこそ、こんな形で戦う事になったのが残念で堪らず、せめて全力をもって正面から戦って倒したいと、身体から強酸性の桃色の霧を漂わせた。
「あなたみたいな相手、嫌いじゃないよ」
 いつにない渾身の濃霧でマンエモンを包み込むと、ダメージを齎すと同時に強固な守りを崩していく。
「……それは光栄な事だな」
 負傷を重ねても未だ涼しい顔——元よりバッタの表情など読むのは困難だが——に見えるバッタマンエモン。
 だが、戦闘開始から比べると、確かに呼吸は度重なる怪我のせいで乱れ、脚の動きも精彩を欠いている。
「進んでやってるでもなさそうに見えるし、同胞を助ける為なら士道に反することでもやむなし……ってとこか?」
 溜め息を吐きつつも、ギリギリと妖精弓の弓弦を引き絞るのは十郎。
「あんたらみたいなタイプは嫌いじゃないし、こんな状況じゃなきゃできればやり合いたくねぇんだけどな……」
 狙い澄まして射かけた祝福の矢が、妖精の祝福と癒しで夕の傷を塞ぎ、マンエモンの呪的防御を貫通する力も与えた。
「仲間の為ならという姿勢を否定はしませんけれども、はぁ……何か違うアプローチも最早残っていなかったとしても、勿体無い話ですわね」
 トウコは上品な物言いで嘆息する。
「どうせですから正々堂々ばーんとォ! やってしまいましょうですの♪」
 けれども切り替えの早い彼女らしく、意気揚々と印を結んだ。
 即座に蒼き稲妻が鋭い雷鳴を轟かせ、善なる者を護り助けるべく降り注いで。
 ——ピシャァアアン!
 前衛陣の動体視力を研ぎ澄ますと共に体力も回復させた。


 戦闘が長引くにつれ、バッタマンエモンの口数は徐々に減っていった。
 まさにケルベロス達の火力へ圧されている証拠で、その目は血走っているだろうが、残念ながら奴は複眼、充血具合は読み取れない。
「まだでござる……某とて簡単に負けは致さんっ!」
 その複眼が一気にトウコへ迫る。
 ガキィン!
 前脚の先に生えたカマキリの刃が、何度も斬りかかって体力を奪ってくる。
 だが、体力を吸う苦痛に耐えたのは、すんでの所でトウコの前へ身体を滑り込ませた小梢丸だった。
「こいつが無ければ即死だったぜ」
 と、おもむろに懐から取り出したるは、ケルベロス特製万能型強化防弾カレールー(中辛)。
 小梢丸はこれを防具としてずっと懐に忍ばせていたのだ。
「まぁ、守って下さってありがとうございます」
 トウコはにっこり笑って礼を述べるや、
「何だか食欲の唆られる良い匂いがしますけれど……お怪我は大丈夫ですの?」
 すぐに気力溜めで小梢丸の体力を回復させた。
「んー、こういうの、あんまり柄じゃないんだけど……」
 そう言いつつも常に敵味方の位置取りを意識し、軽業師みたいな機敏さで動き回ってマンエモンへ攻撃し易い距離を保つのは悠李。
「手向けの刃を君に送ろう、一片の悔いも残さずに――その命を散らしてあげる」
 非物質化した神気狼で流れるようにマンエモンを斬りつけ、霊体のみ汚染破壊する斬撃を浴びせた。
(「1対多数ってのは卑怯だと思うけど、敵さんがいいって言うならいいんだよね?」)
 ミルディアは自分へ言い聞かせてから、勢いをつけて助走する。
「固いんなら、とりあえずぶつかってみるっ!」
 フェイントも何もない真っ直ぐな突撃が、マンエモンの腹部へ凄まじい衝撃を見舞う——それは奴の脊椎をも砕くかと思わせる破壊力であった。
「いっぱい動くとお腹が減るんだぜ、ああ、カレーが食べたい……」
 小梢丸の絶えぬ思いが結集、具現化を果たして一つの形をとる時、ナイスインドなムキムキマッチョが顕現する。
「今こそ現れよ、華麗魔神召喚!」
 マッスルな華麗魔神は、ホットな拳をマンエモンへ叩きつけ、全身をバラバラに粉砕するかの如き苦痛を与えた。
「これが拙者の切り札でござるよ」
 後ろ脚を折り曲げ、まるで膝を着くかのように前傾するマンエモンを見て、ニヤリと笑う小梢丸だ。
「さて、そろそろ威力を重視する頃合いであるか?」
 帝は、充分にマンエモンの回避率を下げたと見極めて戦術を変更。
 稲妻帯びしゲシュタルトグレイブによる超高速の突きを繰り出し、マンエモンの胸を貫くのみならず、その神経回路をも痺れさせた。
「そうね、一気に叩くわよ……油断していい相手じゃない」
 マルレーネも頷いて、身体を覆うブラックスライムを変形。
 するすると鋭く伸ばした黒い槍でバッタマンエモンを刺し貫き、深く抉った傷口から体内を汚染していく。
「こっちも手抜きは失礼ってもんだよな」
 十郎は一言呟くや、月の如く淡い光を放つ隼をけしかける。
 高く鳴いて旋回したのち、眩い光芒となった隼がバッタマンエモンを貫いて、見事に巨体の自由を奪った。
「アンタの誇りと俺の拳、どっちが硬いか……さぁ勝負と行こう」
 夕は拳にグラビディを集中、獣化させた状態でマンエモンへぶちかます。
 赤々とした連打は光を奪う月食が如く、奴の命を削った。
「これでお終い、其の魂に安らぎと安寧を……ってね」
 不気味な程に澄んだ真紅の魔力で刀身を覆わせるのは悠李。
 マンエモンの身体を魂ごと斬り裂いて、その目に『何処までも広がる三千世界と、咲き誇る彼岸花の花畑』を幻視させた。
 致命傷を与えた瞬間、強まっていた真紅の光が刃からも失せて、
「もはや、これまで……」
 ついにバッタマンエモンが、地面へ倒れ伏した。
「……アンタはこの戦いで満足できたかい?」
 夕が見下ろして問うのへは、
「悔いの無い……戦いで、ご——」
 切れ切れに応えて、息を引き取った。
「じゃあないい男。いずれまた、どこかの地獄で会おうや」
 静かに別れを惜しみ、煙草へ火をつける夕。
「自分に嘘をつかず、矜持に殉じる、か……羨ましいな」
 悠李はぽつんと呟く。
「いつかバッタさんと1対1で相手できるようになりたいなぁ」
 ミルディアは幾分しんみりとした調子だ。
「バッタマンエモン、名前、覚えておくよ」
 マルレーネも遺体を前に、穏やかな口調で語りかける。
「できれば別の形で戦いたかったわね」
 その声にはやるせない思いが滲んでいた。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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