増した悲しみは先に立たず

作者:幾夜緋琉

●増した悲しみは先に立たず
「……」
 雨の降る、街角。
 千葉県、船橋市の、少し繁華街から離れた町の一角のとある店。
 店の暖簾は、ボロボロ……そして、店内には灯もついておらず、座り込んでいる男、一人。
「……はぁぁぁ……」
 海よりも深い溜息を吐き、うなだれる彼。
 そんな彼がぼんやりと思うのは、過去。
「こんなの売れる訳ねーじゃん」
「ほーら、やっぱりねー。今時、超大盛りなだけのラーメン屋なんて流行らないのよ!」
 そんな言葉が脳裏をよぎり、去っていく。
 野菜マシマシに代表されるラーメン屋さん、だったのだろう。
 いつもの名文句が書かれているメニューは、ラーメンの大と小の二つだけ。
 そして……彼は、その店主。
 閉店し、うなだれる彼に……そっと、背後から近づいてきたのは、何処か妖艶な感じの女性。
 声を発すること無く、その手に持った鍵で、彼の心臓を……一思いに貫いてしまう。
 突然の事に驚く彼。そして彼女は……。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたのその『後悔』を奪わせて貰いましょう」
 微笑み、そして……其の場に崩れ墜ちる彼。
 そして、次の瞬間……彼の横には、彼と似た風貌の男の、モザイクを纏った男が立ち上がるのであった。
 
「皆さん、お集まり戴けた様ですね? それでは、早速ですが説明を始めさせて戴きますね」
 とセリカ・リュミエールが、集まったケルベロスらに一礼すると共に、早速説明を始める。
「みなさん、自分の店を持つ、という事を考えたことがありますか?」
 と問いかけ、見渡すセリカ。
「自分の店を持つ、というのは、夢だと思います。しかし、その夢を叶えた店主が、自分の店を潰してしまい後悔してしまう、という事件が起きています」
「そして彼らがドリームイーターに襲われ、その『後悔』を奪われてしまう事件が起きてしまっている様なのです」
「この『後悔』を奪ったドリームイーターは、既に姿を消してしまっていますが……奪われた『後悔』を元にして、現実化したドリームイーターが、事件を起こそうとしているのです」
「そこで皆さんには、この現れたドリームイーターが被害を及ぼす前に、撃破してきて戴きたいのです。このドリームイーターを倒す事が出来れば、『後悔』を奪われてしまった被害者もきっと、目を覚ましてくれる筈ですから」
 そして、更にセリカは続ける。
「今回相手となるドリームイーターは、店主の姿をしたドリームイーター一体のみで、その配下などが居る、という訳ではありません」
「又、戦闘場所は潰れてしまった店の中で、調理器具などのある、狭い店舗となります。幸いドリームイーターの力はまだ一般人の方達には被害を及ぼしておらず、一般人が店にいる事はありません」
「ドリームイーターは、店主として店に呼び込みを行う様ですので、その誘いに乗ってラーメンを食べさせられるかもしれません。所謂超大盛りの店なので……マシマシにすると、とっても喜んで戦闘力が下がるらしいです。逆に食べ残すと、怒ってその人を集中攻撃する様ですが……」
「又、店主さん型のドリームイーターを満足させてから倒す事が出来れば、意識を取り戻した後の被害者も、また頑張ろうという気持ちになる様です。なので、出来れば満足させてから倒すようにしていただくと、後々の為にも良いかと思います」
 と、そこまで言うと、最後にセリカはケルベロス達を見渡してから。
「後悔を奪われてしまった被害者……彼の為にも、ドリームイータを倒して、事件を解決していただきたいと思います。どうか、宜しくお願い致します」
 と、深々と頭を下げるのであった。


参加者
清水・光(地球人のブレイズキャリバー・e01264)
ロベリア・エカルラート(花言葉は悪意・e01329)
板餅・えにか(萌え群れの頭目・e07179)
イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)
ヒマラヤン・サイアミーゼス(カオスウィザード・e16046)
ブラック・パール(豪腕一刀・e20680)
アレイシア・アルフヘイム(ザブトンマスター・e26995)
アリアンナ・アヴィータ(日陰のハミングバード・e32950)

■リプレイ

●閉ざされし
 船橋市の繁華街から少し離れた、とある店。
 所謂超大盛り系の店の一つ。
 ……しかしながら、店主の実力不足か、運が悪かったのかは分らないものの……潰れてしまったお店。
 そんな店主の後悔を利用したドリームイーター。
 それを倒すが為、ケルベロス達は急ぎ、ドリームイーターの退治の為に、船橋市へと向かう。
 そんな店の、寂れた看板が見える所までやってきたケルベロス達……潰れたはずの店の前には、その後悔のドリームイーターが捻り鉢巻きを巻いて、客引きを始めている。
 ……でも、客はそれを敬遠するかの如く、遠くを歩くわけで……客引きの虚しい叫び声が、辺りに響き渡るばかり。
 そんな光景を見ながら。
「しかし、ラーメン屋店主さんの後悔か……」
「大盛りとか景気の良い看板だけど、ずいぶん湿気た店構えじゃねーっすか! こんなんでほんとに盛ってくれるんかい!!」
 と、清水・光(地球人のブレイズキャリバー・e01264)に板餅・えにか(萌え群れの頭目・e07179)が笑うと、目をキラキラさせたイリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)とヒマラヤン・サイアミーゼス(カオスウィザード・e16046)も。
「大盛りマシマシのラーメン……考えただけでお腹が空きます……! そんなお店がドリームイーターに乗っ取られるなんて、あってはなりませんね!」
「そうですね。ドリームイーターが作るラーメンがどんな味がするか、ちょっとだけ興味はあるのですよ」
 と頷き合う。
 ……でも、そんな大盛りの店。
 少し、嫌悪感的なものを覚えているのは、アレイシア・アルフヘイム(ザブトンマスター・e26995)とブラック・パール(豪腕一刀・e20680)。
「ラーメン屋ですか……ラーメンって美味しいですよね……でも、大盛り……ハーフサイズとかってないんでしょうか……?」
「そうね。大食いか……あまり好きな食べ方じゃないわ。量よりも味に飽きるのが問題なのよ。ケルベロスとしてやることはやるし、食べても食べなくても厄介なら……まだ楽な方を取るわ。はぁ……仕方ないわね。野菜だけ追加してみましょうか」
 そんな仲間達の言葉に、ロベリア・エカルラート(花言葉は悪意・e01329)が。
「そうだね。ほんとう、いい加減大元を断ちたい所なんだけどね……見過ごすのも目覚めが悪いし、サクッと倒して終わらせようかな」
 と言うと、アリアンナ・アヴィータ(日陰のハミングバード・e32950)が。
「そう……ですね……大盛りは、不安……ですけれど……頑張り、ます」
 こくり、と頷き、そして光が。
「そやそや。苦しい事も、楽しい事も自分のもんや。後悔しても前に進んで行く事ならば、それはきっと意味があったという事やしな。さぁこの道を、修羅道と知り、推して参る」
 と、拳を突き合わせて……そしてケルベロス達は、店内へと向かうのであった。

●諦めない夢を
『さー、いらっしゃーいいらっしゃーい! 大盛りラーメン、よってっってー!』
 と、客を呼び込むドリームイーターの男。
 柏手を鳴らし、顧客を呼び込む彼に対し、ヒマラヤンが。
「この先、通りがかった人が巻き込まれると危ないのです。アレイシアちゃん、アレ、使っておいて下さいなのです」
「はい、分りました」
 と、ヒマラヤンにこくりと頷き、アレイシアは店を範囲に含むよう、殺界形成を展開。
 そして上手く殺界形成が展開出来たところで、続き光を先頭に、ケルベロス達が店主の元へと向かう。
『ほら、そこの可愛い女の子ー! おいしいよー、おいしいよー! おいしくってお腹いっぱい、ラーメンを食べてみてよー!』
 と言うと。
「ん……ちゃんと朝ご飯はしてきたんやけど、それでも美味しく食べられるん?」
『大丈夫大丈夫♪ さーさー、何人ー?』
「8人や」
 と……ケルベロス達を招待していく。
 そして……店内に入ると、本当8人でほぼ満席と言った位の狭さ。
 ボクスドラゴンとかも含めると、ほぼぎゅうぎゅうの状態。
 ……目の前のカウンター越しに、店主が作るラーメン……と、そこに。
『さて、ニンニク入れますか?』
 決まり文句を聞いてくる店主に。
「んじゃうちは、ヤサイマシマシニンニクカラメで頼むんよ」
 と……初っ端から中々重いオーダーをする光。
 それに続くように、えにか、イリス、ヒマラヤンにブラック、アリアンナが。
「それじゃー、ラーメン大! 野菜マシで!!」
「私は野菜マシマシで!!」
「私は野菜は多めで、後はそのままでいいのです。あと、熱いのがちょっと苦手なので小皿を下さいなのです」
「ん……それでは、私は野菜マシで」
「小野菜マシで」
 と、次々とカスタマイズオーダーをしていく。
 ……そして、一通り皆のオーダーを取った後、店主はグツグツと湯が沸騰している鍋に、太麺を次々と投入。
 一通り投入し、湯から上げて器に麺を入れ……野菜、ニク等々を次々と盛り付けていく。
 そしてスープを投入、更にカラメのスープを更に入れていき……完成。
『ほい、お待たせーっ!』
 と、元気よく、ラーメンをそれぞれの前に並べていく。
 ……一通り並んだ所で、ソレを見て。
「こ、これは……た、食べきれるでしょうか……こ、今夜の体重計が怖いです……」
 と、アレイシアが戦慄。ともあれ。
「さ、皆食べるでー。そやそや。麺と野菜をひっくり返してから食べるんやで! カラメやと、余計に汁った麺はおいしないからな」
 と光は皆にアドバイスをし、麺と野菜を絡ませて食べる……それに頷きながらえにかが。
「野菜食べるんじゃー! 野菜ならいくらでも入るんじゃー!」
 とえにかは野菜を黙々と食べ始める。でも、更に。
「野菜のたれはあるか! 塩胡椒でもいいぞ! キャベツだー! キャベツをよこせー!! カロリーがなんぼのもんじゃい!!」
 と、更に大量の野菜をオーダーし、食べ始めるえにか。
 ……そしてロベリア、イリス、アリアンナ、光がもくもくと食べ始める。
「でも……これは多いかな? この位なら問題ないけど……」
「……! 美味しいです! こんな美味しいラーメンなのに人気が出ないなんて、もったいないです!」
「そうですね。野菜いっぱいなら、きっと食べられます……満足してもらえるように、遺さないように、がんばります、ね……」
 と……そんな仲間達に光が。
「少しだけ肉をかじるんがええんよな?」
 と肉をかじって、味を変えてみる。
 ……ともあれ、それぞれの前に並べられたラーメンを、それぞれの工夫で食べ始める。
 しかし……流石に大盛りのラーメン……食べきれたのは、光、ロベリア、えにかにヒマラヤン位。
 アレイシアは、傍らにいた食いしん坊の双頭のボクスドラゴンの右首の子が、残りを食べきってくれるものの……それ以外のメンバーは、精一杯食べるものの……全部は、さすがに食べきることは出来ずして。
「あふ……流石に、多かったですかね……?」
 と、イリスが苦しそうに言うと、アリアンナも。
「ご、ごちそうさま、でした。おいしかった、です……!」
 と……そんな、食べ残した者達へ。
『ほら、まだ残ってるやんかー!! 食べ残しは許さないでー!!』
 と、怒りの表情。
 それに対し、ヒマラヤンが。
「うーん……そうやって強制的に食べさせようとするのは、余り頂けないのですよ」
 と。なにぃぃ、と言う彼へ更に。
「量が多いだけが特徴、それがお客さんが来なかった原因かもしれないのです。なら、他に売りになる点があれば、もっとお客さんが来るようになると思うのですよ。ただ、あんまり奇をてらいすぎると、最初の内は物珍しさで人が来るのですが、リピーターが増えないので、かえって逆効果になったりするのですよ?」
 と、半ば説得の言葉を投げかける。そしてイリスも。
「そうですね……たしかに美味しいラーメンですが、作っているのが……ドリームイーターとなれば話は変ってきます! 銀天剣、イリス・フルーリア……参ります!」
 と、宣戦布告、それに併せて光が空にしたどんぶりを、店主の頭に投げつけて。
「ごちそうさまや。さぁ、腹ごなしの運動や!」
 と、こちらも宣戦布告する。
 そんなケルベロス達の宣戦布告に、元々遺されて怒りモードの店主は、烈火の如く立ち上がる。
『許さんでー!!』
 と言いながら、鍋でグツグツに煮られている太麺を掬い上げ、ひょいっ、と投げつけてくる。
 とっても熱々の麺、その一撃を、前に出てくる形で受け止めるえにか。
「ご馳走様だ! そして食後の運動つきたーサービスいい店じゃの!」
 と言いつつも、当たった所が赤くなる。
 それを早々に、アリアンナが『調香・柑』を投げ、良い匂いを弾けさせてキュアを行う。
 そして、更にえにかは至近距離からのクイックドロウ。
 更に光、ブラックが。
「食べたばっかりやし、力はありあまってんよ」
「……そうね……食べ過ぎてあんまり気分が良くないの。早い事片付けてしまいたいわね……」
 と言いながら、スターゲイザー、達人の一撃。
 連打をくらわせながら、カウンターの中へと突入し……そして、周りを見回し、気絶している店主を見つけ出す。
「こっちや」
 と光の声に従い、アレイシアとロベリアが店主の元へ駆けつけ、一端其の場から避難……というか運び出す。
 そして運び出した後に続き、イリスがスターサンクチュアリで前衛陣を強化すると、ヒマラヤンがペトリフィケイション、ヴィーくんが清浄の翼で前衛にBS耐性を付与し、強化。
 更にアレイシアのボクスドラゴンのジェミニ、ロベリアのビハインド、イリスも後衛陣の前に立ちふさがるようにして、攻撃をカバーリングしていく。
 行動が一巡し、次のターン。
 至近距離のえにかは。
「ほらほら、うちらケルベロスがこの湿気た店模様替えしてやるって言ってんだ! ありがたく受け取れや大将!」
 と言いつつ、更に『捕食者の大口』にて、大口で喰らい掛かると、連続し、イリスが。
「光よ、彼の敵を縛り断ち斬る刃と為せ! 銀天剣・零の斬!!」
 と、『銀天剣・零の斬』で叩ききると、ヴィーくんがキャットリングで武器封じ、更にヒマラヤンがファミリアシュートで、バッドステータスをジグザグで倍加させていく。
 ……ジグザグ効果で、一気に動きが鈍り始めるドリームイーター。
 しかし、カラメのタレを噴出して目つぶし攻撃を負けじと行う。
 そんな食材、調味料を様々と使ってくるドリームイーター。
 ……段々と、距離を周りから狭めていき、動ける範囲を制限していき……そして、戦闘開始から、約10分。
『ぐぅぅ……!!』
 と、片膝から崩れ墜ちるドリームイーター。
 ダメージの蓄積はかなり多く、立ち上がれない。
 そんなドリームイーターに、イリスは
「でも、美味しかったですよ、ラーメン! また来てみたいです!!」
 と、彼を満足刺せる言葉を掛けながら、絶空斬で斬り付ける。
 そして……。
「……さて、これで終わりにしましょうか。余り店内を傷付けたくはないですしね」
 と宣告したブラックが、日本刀を構え、闘気を漲らせて。
「さぁ…花を咲かせましょう…!」
 と穿つ、『紅桜』の一閃。
 その一閃は、ドリームイーターを崩壊させていくのであった。

●夢の欠片に
 そして、どうにかドリームイーターを倒したケルベロス達。
「お疲れ様、でした……ちょっと今迄のお店とは違って、ファンタジーな風になっちゃうかもしれませんけど、直しますね」
 と、アリアンナの言葉に、イリス、ヒマラヤン、えにからが続々と、ヒールグラビティを使い、店舗の回復を始める。
 当然ながら、ヒールグラビティによる修復は、今迄とは違った形の雰囲気になってしまう訳で。
「そうね……お店の修理ぐらいはしておいてあげる。後は自分でなんとかしなさいな」
 とブラックは、倒れている店主に告げる。
 そして一通り回復を為ている中、ロベリアや光、アレイシアは確保しておいた店主の元へ。
 介抱を行い、意識が戻るまで彼を見守る……そして、意識を取りもどした彼に。
「……意識、戻ったようだね」
 とロベリアの言葉に、光、アレイシアが。
「店主、もう大丈夫やで」
「ドリームイーターに襲われて、何が何だか分って無い様ですが……もう、大丈夫ですよ」
 と声を掛け、そして。
「店主、ラーメンの味はよかったと思うんよ。だから、これからも美味しいの作ってや?」
「そうですね。いや、それよりまず大盛りとか以前に清潔感をですね……清潔感のある、ファンシーな雰囲気の大盛り店というのも面白いと思いますよー?」
 と、ケルベロス達が掛ける言葉。
 その言葉を聞きながら、ロベリアは。
「……」
 と無言。
 ……そして、店主介抱して、帰路につく中。
「……ご馳走様、って言うべきなんだろうけどね……でも、無責任にやる気にさせても、ねぇ……」
 とロベリアはぽつり、呟くのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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