天使と悪魔に迫る触手

作者:麻香水娜

 熱気に包まれた狭いライブ会場。
「じゃあ、今夜のラスト!!」
 赤と白基調のフリルの沢山使われた可愛いミニスカ衣装に、天使の羽をつけたモエが明るく右拳を上げると、
「……白と黒……」
 青と黒基調のセクシーなドレスに、悪魔の羽をつけたミユが静かに微笑んだ。
 ラストの曲のイントロが流れ出した時――、
『はいはい、どうも。あなた達の可愛らしさと妖艶さは、わが主の『ドラゴンハーレム』に相応しい。是非、ハーレムで繁殖に励んでいただきたい!』
 突然ステージ下手からスーツ姿のオークが現れて『ギルビエフ・ジューシィ』と書かれた名刺を差し出した。
「きゃあ!」
「何!?」
 その瞬間、ギルビエフの背後から現れた10体のオーク達が2人に触手を伸ばして捕獲する。
「モエちゃんを放せ!」
「きったない触手でミユ様に触れるな!!」
 観客達が一斉にオーク達に挑みかかるが、それは惨劇の幕開けに過ぎなかった――。

「オークというのは全く……」
 祠崎・蒼梧(シャドウエルフのヘリオライダー・en0061)が、うんざりしたように溜め息を吐く。
「ギルビエフ・ジューシィというオークが、各地の地下アイドルを無理矢理スカウトして、ハーレムに連れ帰るという事件が起こります」
 気を取り直してケルベロス達に説明を始めた。
 狙われるのは、『元気で明るい天使』と『妖艶で色っぽい悪魔』をコンセプトに活動している『ラブリーエンジェル☆スイートデビル』という地下アイドルユニット。
 抵抗しなければ、アイドルを攫うだけで去っていくが、抵抗した者は殺されてしまう。
 ライブを中止した場合、別のライブ会場を襲撃してしまい、阻止が難しくなるので、オーク達が現れてから戦闘に持ち込む必要があるでしょう、と続けた。
「それと、オーク達がアイドルを攻撃する事はありませんが、会場にいる他のファンは躊躇なく殺してしまいます」
 会場にいる30人程のファン達は、例えその場にケルベロス達がいようとも、命掛けでアイドルを守ろうとする。
 彼等を避難させるには、『同じアイドルが好きな仲間だと思って貰う』『アイドルに持っている幻想打ち砕く』『いっそ自分のファンにしてしまう』という少し特殊な説得が必要となる。
「現れるオークは10体です。ギルビエフは戦闘になると即座に何処かへ消えてしまいます」
 臆病なオークらしいですね、と続けて説明に戻る。
 触手を主体とする攻撃をし、攻撃力の高い個体、状態異常を得意とする個体、命中力の高い個体がいるとの事だ。
「ファンを説得して避難させるのは大変かもしれません……しかし、皆さんならばファンの方々を説得し、アイドルを救えると信じています。どうぞ、宜しくお願い致します」


参加者
御神・白陽(死ヲ語ル無垢ノ月・e00327)
アップル・ウィナー(キューティーバニー・e04569)
バドル・ディウブ(月下靡刃・e13505)
ジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)
睦月・冬歌(やらしく治療したい・e15558)
ジェニファー・キッド(銃撃の聖乙女・e24304)
アーリィ・レッドローズ(ぽんこつジーニアス・e27913)
黄瀬・星太(火風・e28582)

■リプレイ

●熱気の中
 ステージ上の2人が歌い、踊り、観客達が瞳を輝かせて歓声を上げている。
「この曲が終わったらですね」
「はい。曲の後のMCが終わったら……」
 プラチナチケットを使って周囲にスタッフと思い込ませてステージ近くに待機する黄瀬・星太(火風・e28582)がセットリストを見ながら呟き、スタッフTシャツを着たジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)が頷いた。そして2人がステージ上手に視線を向ける。
(「こっちは任せてデス」)
 ステージ上手でスタッフTシャツを着ているアップル・ウィナー(キューティーバニー・e04569)が、スタッフ仲間の2人に小さく手を振った。

「なんかいろいろ大変なのよね……地下アイドルって」
 会場の隅で静かにステージ上を注視するアーリィ・レッドローズ(ぽんこつジーニアス・e27913)が、テレビで見た地下アイドル裏事情を思い出して呟く。
「そうなのか」
 溢れる音楽と歓声の中、隣で待機するアーリィの呟きを聞き取った御神・白陽(死ヲ語ル無垢ノ月・e00327)が、ステージ上で笑顔を絶やさない2人を改めて見た。
「しかし、この人数を避難……手早くやりたいものだな」
 アーリィと白陽の2人共に観客達を見ながらバドル・ディウブ(月下靡刃・e13505)が、ぐっと拳を握る。
 曲が終わり、一瞬の静けさが訪れた。
「きゃー! モエちゃーん! ミユ様ー!」
 ファン達の歓声と共にジェニファー・キッド(銃撃の聖乙女・e24304)の声も混ざる。同じ『ラブリーエンジェル☆スイートデビル』のファンを装っているのだ。
(「へぇ、なかなかいいわ! モエも可愛いけど、ミユの色気がたまらないわね!」)
 ジェニファーの隣、睦月・冬歌(やらしく治療したい・e15558)も、ファン達と共にステージ上の2人に熱い視線を送りながらも、ステージ袖の注意も怠らない。
 8人のケルベロス達が神経を集中させる中、モエとミユのMCが始まった。

●乱入豚とサプライズ
 しっとりとしたイントロ曲が流れ出す。
 ステージ下手からスーツ姿のオーク――ギルビエフ・ジューシィが現れた。
『はいはい、どうも。あなた達の可愛らしさと妖艶さは――』
「アイドルはおさわり禁止デース!」
 ステージ上手からスタッフTシャツをバッと脱いだアップルが、ギルビエフとアイドルの間に割り込む。
 すると、下手からぞくぞくと現れたオーク達の中の1体から触手が伸びてアップルを叩きつけて退かそうと迫った。
 その触手はアップルに届く前に、さっとステージに上がったジュリアスの体を叩き付ける。
「ちゃんと事務所を通しなさい。ジビエ肉・ジューシィ!!」
 ダメージに顔を歪めたジュリアスが、触手を伸ばしてきたオークではなくジビエ肉――もとい、ギルビエフに怒鳴りつけた。
「な、なんだ?」
「モエちゃんをどうするつもりだ豚野郎!」
「ミユ様を守るぞ!!」
 異常な事態に、観客達がステージに押しかける。
「貴方がたは舞台に上がってライブを台無しにするつもりですか! ならばファンの資格はありません! 即刻立ち去りなさい!!」
 押し寄せるファン達にジュリアスが一喝した。
「あたし達ファンが倒れたら誰が二人の応援をするの! ファンで居続けるために逃げて、あの二人と同じ危機を生き延びたことを自慢しようよ!」
 ステージ上のジュリアスと挟み撃ちをするかのように、ファン達の後ろから冬歌が叫ぶ。
「私はモエちゃんとミユ様が好きすぎて翼をつけちゃった程のファンです! 二人のハーモニーは本当に最高です!!」
 冬歌の隣のジェニファーがさっと光の翼を広げた。
「あなた達に何かがあったらもう二度と二人のハーモニーは聞けませんよ! それに、あなた方になにかがあれば二人は歌えなくなってしまうかもしれません!! ……それでもいいんですか!?」
 冬歌とジェニファーの訴えにファン達がどよめきだす。
「俺達はケルベロスだ」
「避難経路はこちらです。皆さんが怪我したら彼女たちが悲しみます。皆さんは避難して下さい」
 騒然としだした会場に凛とした白陽の声が響き、星太が声を張り上げる。
「さぁ、ここはケルベロスの私達におまかせください!」
「僕たちケルベロスがお二人を守りますから」
 拳銃を構えたジェニファーが力強く叫ぶと、ラブフェロモンを使いながら螺旋手裏剣を出した星太が力強く笑った。
「このステージは私達ケルベロスが預かりマース! イッツ、ショウターイム!」
 仲間達のケルベロスだという名乗りに、フェスティバルオーラを使いながらギターをかき鳴らしたアップルが宣言する。すると、バドルとアーリィがさっとステージ上に上がった。
「突然の無礼、お許し願いたい。私は、遠い異国よりやって来た旅の踊り子。御二方の素晴らしい舞台に刺激され、思わず身体が動いてしまった。どうか、私の剣舞も観賞して頂けないだろうか」
 アップルの音楽に合わせて、褐色肌に露出度の高いベリーダンス衣装を翻してしなやかに、そしてキレのある剣舞を舞い始める。
「サプライズの飛び入り参加よ。私達は……えと、剣舞の番犬!」
 アップルのギターに力強さとしなやかせを併せ持った剣舞を舞うバドルをちらりと見たアーリィが、ラブフェロモンを使いながら思いつきのユニット名を口にした。
 フェスティバルオーラで熱狂させて剣舞に夢中にさせ、更にラブフェロモンで自分達に釘付けにする。
「今のうちに貴方達も早く避難をっ」
 3人がファン達を惹き付けている間に、ジュリアスがアイドル2人に避難するよう促すと、2人は頷いてアップルが現れた下手側へ逃げ出した。
「さぁ、避難して頂戴」
 アーリィが自分達に夢中になりだしたファン達に頼む。
「こっちだよ!」
 冬月がラブフェロモンを使いながら出入り口近くから明るく呼んだ。

●観客以外はお帰り下さい
「送ってやるから八熱巡りでもしてくると良い。良い具合に煩悩も焼けて身軽になれるぞ」
 白陽が素早くステージに上がった瞬間、アップルを叩きつけようとしてジュリアスが攻撃を受けたオークに雷刃突を繰り出す。
『クソ! こいつら!!』
 狙ったアイドルを逃がされたオーク達がいきり立った。
『ウオオオオ!!』
 いち早く触手を伸ばしたジャマーオークの1体が溶解液を冬月に飛ばす。
「危ない!」
 回復の要である冬月を傷付けるわけにはいかないと、ジュリアスが咄嗟に庇った。
「……!」
 スナイパーオークの尖った触手はジェニファーに向かい、その服を切り裂く。
「舞い上がれ 片翼のアルカディア!」
 アップルが力強い音色をかき鳴らして5体のクラッシャーオーク達を圧倒させた。
「虫唾が走るな、貴様達は」
 忌々しそうに吐き捨てたバドルが、白陽から攻撃されたオークに毒手裏剣を投擲する。
『ギャア!!』
 分厚い腹の肉に毒手裏剣を深々と刺されたオークが悲鳴を上げながら倒れて動かなくなった。
 他のジャマーやスナイパーのオーク達も前衛を攻撃する。
「ジュリアスちゃんありがと! 皆頑張って!!」
 冬歌がジュリアスに庇ってくれた礼を言いながら、前衛の仲間達の前に雷の壁を構築して守護をつけながら傷を癒す。
 アップルの歌に圧倒されていた4体のオークが体勢を立て直して前衛の者達にそれぞれ触手を伸ばした。
 アーリィに向かった触手はヴァレイショーが庇う。
「助かったよ」
 ヴァレイショーに声をかけたアーリィが、アイスエイジでクラッシャーオーク4体を氷に閉ざす。
「弾丸の雨を受けなさい!!」
 帽子をピンッ!と弾いたジェニファーは、巫術で自分の分身な式神を上空から呼び寄せ、式神と共に多数の弾丸を放ち、残る4体のクラッシャーオークにジャストやクリティカルの高いダメージを与えて1体を撃破する。
「その絶望、砕いてあげるよ」
 呟いた星太の瞳から一切の温度が消えた。無駄のない動きでトラウマボールを放つと直撃したダメージの大きかった1体のクラッシャーオークが悪夢にうなされながら息絶えた。

●アイドルとファンの為に
 白陽とバドルが残るクラッシャーオークにトドメを刺すと、ジュリアスとヴァレイショーが攻撃を庇う。
 アップルは作戦では最後になるスナイパーオークにはその間ダメージを与えられるように「欺騙のワルツ」を奏でて迷いで蝕んだ。
 冬歌がメディカルレインで前衛の仲間達を癒し、アーリィがドラゴニックミラージュでジャマーオークも沈黙させる。
 ジェニファーが舞うようにリベリオンリボルバーでスナイパーオークに纏めて炎を撃ち込み、星太が残っていたジャマーオークに螺旋竜巻地獄を見舞って仕留めた。
「残り3体です。一気にいきましょう」
 冷酷な眼差しの星太が声を出すと、全員が頷く。
 ジェニファーが予め毒を与えて、その後纏めて攻撃している事もあり、3体とも辛そうな表情を浮べていた。
「死にゆく者は無知であるべきだ。要らぬ煩悶は捨てて逝け」
 白陽が、すっと己の存在を世界に溶かし、スナイパーオークに傷を与えぬままに存在と生命の根源を直接解体する。
『ガ……!?』
 驚いたように大きく目を見開いたまま動きを止めたドサリと前のめりに倒れた。
「生憎、まだ子を産む気は無いのでな……散れ」
 一気に距離を詰めたバドルが掌打で脳震盪を起こさせ、右手に氷の螺旋、左手の焔の螺旋を纏い貫手を放ち、体内で水蒸気爆発を起こさせて粉みじんに粉砕する。
「魂までも焦がし尽くす愛の炎を貴方に」
 アップルは最後に残るスナイパーオークに投げキッスを送ると、爆発的な愛エネルギーがハート型の光線となりその体を貫いた。

「お疲れ様デース!」
 アップルが明るく笑いかけると、一同は肩の力を抜いて息を吐く。
「1体はそんなに強くないのに数が多いから厄介でした」
「皆を庇うジュリアスさん、格好良かったですよ」
 ジュリアスが漏らすと、戦闘中は冷徹な眼差しで一切無駄のない動きをしていた星太が穏やかに笑いかけた。
「さぁ、壊れたものを直してしまいましょう」
 ジェニファーが仲間達に声をかけると、皆が頷いて会場内にヒールを施したり壊れた破片などを掃除し始める。
「ライブが再開可能になる程度まで立て直したいわね」
「えぇ、あのお二人に歌う気概があるのなら、ラストの1曲は歌ってもらいましょう」
 アーリィが呟くと、ジュリアスが笑いかけた。
 ラストの曲が始まって中断されたライブである。きっと避難したファン達も待っている筈だ。
「様子を見てきます」
 ジュリアスがアイドル達の様子を見に行く。
「あたしはファンの様子を見てくるよ! やっぱファンにはファンが声かけた方がいいもんね!」
「じゃあ、私も行きます」
 冬歌が明るく笑って会場の外に向かうと、ジェニファーもその後に続いた。

作者:麻香水娜 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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