不機嫌な怖さ

作者:幾夜緋琉

●不機嫌な怖さ
「はぁ、はぁ、はぁ……」
 汗だくで、とある公園の蛇口を開き、頭から冷水を浴びている男。
 夏も終わり、肌寒くなりつつある中に浴びる水は、とても冷たい……でも、浴びずには居られない。
「はぁ、はぁ……う、ううう……あんなおぞましい光景、ゆ、夢に出そうだ……うう」
 肩をぶふぶると震わせ、恐怖に戦いている彼。
 ……ただ、何となしに入った廃工場。
 暗闇の中、歩いていたら、かさっ、と音が為たかと思うと……次の瞬間、数十匹ものGが、一気に湧き出し、追いかけてきたのである。
「……あああ、わ、忘れたい、忘れたいいっ!!」
 と叫ぶと、そんな彼の後ろに、一つの影。
 そのまま、その影は、彼の心臓を背中側から貫く……そして、彼はそのまま、其の場に崩れ墜ちる。
 そして。
「あはは、私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『嫌悪』する気持ち、分らなくもないね」
 と言うと、次の瞬間……Gが巨大化した姿が、彼女の横に現れる。
 そして……そのモノは、寄声を上げて、カサカサと駆け始めるのであった。
 
「ケルベロスの皆さん、集まって貰えた様ッスね! それじゃ早速ッスけど、説明を始めさせて貰うッスよ!」
 と、黒瀬・ダンテは、集まったケルベロスに元気よく挨拶しながら、早速説明を始める。
「まずはケルベロスの皆さん、苦手なモノ、あるッスか? たぶん、Gは苦手ッスよね??」
「この苦手なものへの『嫌悪』を奪い、事件を起こすドリームイーターが居る様なんッスよ」
「この『嫌悪』を奪ったドリームイーターは、既に姿を消してるッスけど、その奪われた『嫌悪』を元にして、現実かした怪物型ドリームイーターにより、事件を起こそうとしている様ッス」
「ケルベロスの皆さんには、この怪物型ドリームイーターによる被害が出る前に、撃破してきて欲しいッスよ。このドリームイーターを倒す事が出来れば『嫌悪』を奪われてしまった被害者も目を覚ますと思うッスからね!」
 そして、更にダンテは。
「このG型ドリームイーターは、町中を徘徊し、取りあえず見つけた人に襲いかかる性質を持っている様ッス。幸い深夜の丑三つ時の頃だから、余り周りに人は居ない頃合いなのが幸いッスけど……」
「基本的に四足歩行で、地面を這うように動くので、攻撃が当るのは背中側の様ッス。でも、背中側の方は装甲のようなものに覆われていて、防御力が高い様ッス」
「又、足元を掬う様な攻撃をメインに仕掛けてくるッスから、この辺りの攻撃にも注意が必要ッス。足元救われ、何度も何度も転倒させられかねないッスからね!」
 そして、最後にダンテは。
「こういう生理的に嫌なものって、誰にでもあると思うッス。でもそれを奪ってドリームイーターに仕立て上げるのは、更に許せない事ッス。皆にとっても気持ち悪い敵ッスけど……何とかやっつけてきて欲しいッス。宜しく頼むっすよ!!」
 と、手を合わせて頭を下げるのであった。


参加者
鳴神・猛(バーニングブレイカー・e01245)
モモ・ライジング(鎧竜騎兵・e01721)
リルカ・リルカ(ストレイドッグ・e14497)
黒須・レイン(海賊船長見習い・e15710)
アニマリア・スノーフレーク(疑惑の十一歳児・e16108)
錆滑・躯繰(カリカチュア・e24265)
神藤・聖奈(彷徨う術士・e27704)
クロエ・フォルバッハ(ヴァンデラー・e29053)

■リプレイ

●嫌悪は潜む
 秋の初め、軽く肌寒さを感じる頃。
 そんな秋の初めに現れた、多くのドリームイーター達……その一つ、嫌悪の悪夢を奪うドリームイーター、ステュムパロス。
 彼女が奪う悪夢により生み出されたのが……超巨大な体躯を持つ、嫌悪感の塊ともいえる……G。
「でかいGか……等身大の奴が人を襲うっていうホラーがあったっけ?」
「そうだね。ただでさえ気持ちが悪いのに、このサイズまで巨大化とかありえない……」
「ええ……流石にこうも大きいと迫力がありますよね……苦手な方もいるようですし、手早く片付けてしまいませんと」
 と鳴神・猛(バーニングブレイカー・e01245)、クロエ・フォルバッハ(ヴァンデラー・e29053)、神藤・聖奈(彷徨う術士・e27704)らの会話。
 それにモモ・ライジング(鎧竜騎兵・e01721)、リルカ・リルカ(ストレイドッグ・e14497)、錆滑・躯繰(カリカチュア・e24265)らも。
「まさか『嫌悪』のドリームイーターを追って、巨大なGと戦うハメになるとは……凄い嫌だけどね」
「G……ああ、ゴキブリだよね。生理的嫌悪感があるからシンプルにわかりやすいよね。でも、どっちかというとローカストっぽいよね。ドリームイーター向けじゃない、うん。まぁ嫌がらせとしては最高だよね。もっとも、あたしはあんまり褒められた環境で育ってないから、害虫や害獣の類いは慣れたものなので、そこまで怖くは無いけれど……」
「ゴキ……黒光りするGとでも呼称しておくか。奴も哀れなものよ……菌の媒介者でさえ有らねばカブトムシ系の昆虫の一種として子供に人気になれたやも知れぬものを……いや、無理か」
「ん。ともあれさっさと駆除してしまおうね。嫌悪が出るなら手当たり次第ってかんじ……本当に節操のないドリームイーターだこと」
 そんな仲間達の言葉に、アニマリア・スノーフレーク(疑惑の十一歳児・e16108)が。
「まぁ正直油虫の怖さって、保菌してるからだと思うんですよ。病魔程度には怖いのかなーくらいです。カブトムシもゴキも大差なく両方蟲じゃないか派ですよ」
 と肩を竦める。とは言え。
「まぁ……ケルベロス8人で相手しないといけないって事だと、中々強敵なんだろうね。まぁみんな女の子……皆? まぁいいや。庇い甲斐があるし、頑張ろっと」
 と嬉しげにアニマリアが言うと、それにクロエが。
(「本当なら、このまま逃げ出したい位、だけど……仕事は仕事だし、ね」)
 と、頷き、そして。
「『嫌悪』を奪うか……夢を奪うよりかはマシかもしれぬが……だが、何であろうと人の気持ちを奪ってはいけない! 被害が出るのならなおさら! 海賊船長が成敗してやろう!!」
 と威勢良く言う黒須・レイン(海賊船長見習い・e15710)だが……その服装は、びっちりと厚着に覆われており、秋とは言えかなり暑そう。
「あれあれー、レインさんどーしたの?」
 ニコニコと微笑みつつ、アニマリアが背後から抱きついてくる。
「にょわー!? な、なんだよー!!」
「ぬふふ、かーわいい♪ だって、そんなに厚着して、あつくないのかなー?」
「あ、あついけど! で、でもGはちょっと気持ち悪くて触りたくな……にょわわー!!」
 そんな二人を見つつ、ケルベロス達はいざGの場所へと急ぐのであった。

●地表這いずる
 そして、深夜、丑三つ時を過ぎた町中を歩くケルベロス達。
 幸か不幸か、街角を歩く一般人の姿は殆ど無く、不気味な静けさに包まれている。
 ……一層、不安さを掻き立てられながら、町中を虱潰しに探していく。
「……」
 ごくり、と唾を飲み込む音ですら、大きな音に感じる。
 それ位、レインは強く緊張していた訳で……。
「……大丈夫?」
 と、そんなレインに声を掛けるリルカ。と、それにレインは。
「だ、大丈夫……しかしGはちょっと気持ち悪……!? にょわー!?」
 不意に叫び声を上げるレイン……暗闇に躓いたアニマリアが、転んだ拍子にだきついてきたのだ。
「び、び、び、びっくりするじゃないかぁああ!!」
 と顔を赤らめて怒るレインだが、全く以て気にした風もないレイン。
「いやいやー、ごめんごめんー」
 と、全く悪びれる風もなく立ち上がり、また歩き始める。
 アニマリアを前にして、レインは後ろを歩くことで自己防衛……。
 ……ともあれ、Gを見つけない限りは、作戦は始まりもしない訳で。
 そして更に町中を歩き続け、半刻。
『……シィィ』
 と、低い鳴き声が響いたかと思うと……次の瞬間。
 通りの先の方向から、カサカサっ、と地面を這いずる巨大Gが、ケルベロス達の方へと近寄ってくる。
 そして……少しの距離を取る形で、Gが対峙。
 触覚のようなものをふら、ふらふらと揺らす……威嚇でもしているのだろうか。
 そんなGを見て。
「何でこんなに、生理的嫌悪感を催す見た目なんだろうね……この虫は。殺虫剤耐性も高いらしいし、本当に厄介だよ。同じ命とはいえ、ついつい敵意をもってしまう」
 と、クロエの言葉に、リルカと猛も。
「そう? ……まぁ、普通はそうだよね。あたしはそこまで怖くは無いとはいえ、苦手な人もいるか……」
「まぁ、何にせよさっさと倒さないとね!!」
 拳を握りしめ、そして躯繰、モモ、聖奈も。
「そうだねぇ。足元を狙ってくると聞くし……いっその事座ってれば掬われないのではないかな? 絵面的にはダサイことになるけど」
「座して迎え撃つ、ね……まぁ作戦としては良いかもしれないけど、それじゃ時間が掛かりそうね。地面から掬い上げるように攻撃すればいいのよ」
「ええ……この姿は特に苦手という訳でもないのですが……敵に対して加減はしません」
 そして、クロエ、レインが。
「背中が硬い装甲らしいし、どうにかして突破したい……ね」
「そ、そうだな! よし、皆、行くぞ!!」
 気合いを入れるレインを口火にし、ケルベロス達はGを取り囲むように陣を敷く。
 そして早速、レインがケルベロスバーストを叩きつける……が、その一撃、背中側の装甲に弾かれてしまう。
「っ!?」
「やはり硬い様ね」
 とレインの横で、モモは頷きながらヒールドローンを発動し、仲間達に盾アップを付与すると、アニマリアが前に出て、ブレイズクラッシュ。
 とは言え、地面に張り付くようにしたGは、その腹側に攻撃を当てようとしても、中々難しい。
 更にジャマーのクロエが。
「固まってしまえば、何とかひっくり返せる……かな?」
 と期待と共にペトリフィケイションを撃ち、スナイパーのリルカはグラインドファイア、聖奈がスカルブレイカー。
 ……一応、バッドステータスを蓄積させつつ、その隙を狙う作戦をとる。
 そして、Gの攻撃。
 地面を這う様に素早く動き……足元を狙い澄ました攻撃。
 その攻撃を引き付けるアノマリア。
「足だけでバランス取ってる種族じゃ無いんですよ」
 と、翼をはためかせながら挑発気味に告げるアニマリア。
 そして、続き猛、躯繰のクラッシャーが、攻撃のカウンター気味に。
「タックル潰しは上からがデフォだけど、下からもアりなんだよ!」
 と、少し地面を抉るように足を踏み込み、そして地面下から上へと蹴り上げる。
 その勢いに、身体は反転し、腹部が上に。
「ナイスカウンター、だね。さて、Gは虫だし、火は苦手かな?」
 と躯繰が放つはドラゴニックミラージュ。
 炎が腹部を焼き、甲高い奇声で悲鳴を上げる。
 そしてGは、横にジタバタと動き、何とか再度腹部を下へとむき直す……しかしその間に、更にケルベロス達は、大量のバッドステータスを叩き込み、積み重ねていく。
『シ、シシィィイイイ……』
 と、威嚇の鳴き声。
 だが……蹴り上げるという弱点が暴かれてしまっては、一番の武器である装甲も、もはや余り意味を成さない訳で。
「ほらほら、ドンドン蹴り上げていくよ!!」
 と猛が間髪入れずにGを蹴り上げ、聖奈が達人の一撃で腹部に渾身の一撃を叩き込む。
 そして、躯繰はブラッディダンシングで斬りかかり、モモも。
「気持ち悪いから、さっさと巨龍の足に踏みつぶされなさい!」
 と、スターゲイザーを降り注がせ、レインはゾディアックミラージュ、アニマリアもスカルブレイカー、と、容赦無く猛攻を叩き込んで行く。
 そして。
「鎌が汚れそうだけど……迷ってもいられないよね」
 と、クロエがギロチンフィニッシュで一刀両断、リルカの災厄誘引断も積み重ねていく。
 ……更に数分の転覆攻撃を続けていくケルベロス達。
 その身体から、緑色の液体が噴出し、もはや虫の息となったGに。
「もう、出てこないで……二度と」
 と、クロエが叩きつける『Baskerville』、そしてアニマリアも。
「少し早めの冬です、凍てついて下さいませ」
 と、『天貫く色無しの冬を奉ろう針葉樹』を貫き通し……その一撃を食らったGは、声にならない甲高い叫びと共に、其の場から消え失せて行くのであった。

●恐れを越えて
 そして……どうにか無事に、Gを倒し終えたケルベロス達。
 姿は消え去り、やっと……ほっと、一息つくことが出来る。
「……ふぅ……やっと終わったみたいね」
 と、汗を拭いつつ、やっと笑顔を浮かべるモモ。
 そしてリルカも。
「そうだね……ほんとう、あの黒光りするのが巨大化しただけなんだろうけど、気持ち悪さは数百倍って感じだよね。まぁ……慣れちゃってるけど」
「そっかそっか、慣れちゃったんだー……まぁ、何にしてもおっつかれー♪」
 と、嬉しそうに抱きついてくるアニマリア。
「だああ、くっつくなっ!!」
 と、、抱きついてくる彼女を引き離すようにするリルカ。
 ……ともあれ、無事にGも倒し終わった訳で、ケルベロス達は。
「よーっし、無事に終わったし、帰ろっか!」
「そうだな! シャワーでも浴びてすっきりしたい所だしな!」
 猛、レインの言葉に皆も頷き、そしてケルベロス達は、軽く周囲の修復を行った後、早々に帰路へとつくのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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