エクスガンナー・カッパ～支援機としての覚悟

■リプレイ

●お互いの目的
「カッパとも……グランネロス戦以来暫くぶりの顔合わせになりますかしら……」
　工場内の物陰に隠れ、ミルフィ・ホワイトラヴィット（ナイトオブホワイトラビット・e01584）が呟く。
「ようやくカッパの居所が掴めたわね。……そうとは言え、今回はまだ前哨戦。……確実に事前に決めた戦果を挙げるわ」
　イリア・アプルプシオ（機械仕掛けの旋律・e11990）も、静かに闘志を燃やしていた。
　ミルフィとイリアは、グランネロス強襲の際にカッパと拳を交えている。
　油断していい相手でないことは、分かっていた。
「支援特化のダモクレスとは言え強敵、気を引き締めて行きましょうか」
　今回のチーム唯一の男性である、リン・グレーム（銃鬼・e09131）は、仲間に、そして自分に言い聞かせる様に言う。
（「とりあえずは次に繋ぐための戦い。……欲をかいて深追い、戦死者……なんてことにならない様にしませんとね」）
　今回は自分は、皆を守る盾である。
　リンからすれば、負傷者を出してしまう事態も避けたい。
「カッパ退治と行きたい者が居るのも分かるが、今は資材強奪の阻止と手下退治じゃな」
　ガナッシュ・ランカース（マスター番長・e02563）が落ち着いた口調で仲間達に確認する。
　ヘリオン内でのブリーフィング。
　カッパ撃破を視野に入れるかは、当然論議の対象になった。
　だが、ケルベロス達が今回の作戦において、目標として決めたのは『配下のガンドロイドの確実な殲滅』である。
　カッパを撃破をする為に、次のチームがカッパを確実に討てる様にと、ケルベロス達はその目標で合意していた。
「……それにしても、とにかく１０分経ったら、物資を持って逃げるのをどう阻止するかじゃが……。うーむ、いっその事……」
　ガナッシュがぶつぶつ言っていると、斎藤・斎（修羅・e04127）が口元に一刺し指を当て、仲間達に視線で合図を送る。
（「来ましたね、カッパ。資材については、取り返しがききます。加えて彼女達のの企みを妨害することが最善です」）
　表情は平静に、声音は平穏に……けれど、斎の心はカッパへの怒りで燃えていた。
　カッパ達の企みは、多くの人々の犠牲の上で、成り立つものなのだから。
　斎の視線の先のカッパは、素早く工場内に侵入するとガンドロイド達に指示を出して行く。
「ガンドロイド６３１から６３３は、機械部品の運搬に従事！　６３４から６３６は、ワタシと共に敵襲警戒アル！　ケルベロスや他のデウスエクスの警戒を怠らず、１０分で作業を完了させるアル！　エクス……」
「アナタは、ワタシの獲物よ」
　指示を出すカッパのすぐ背後に音も無く、ジン・シュオ（暗箭小娘・e03287）は、闇に紛れて現れると、一言呟きナイフの刃先をカッパの首元に当てる。
「クッ！　ケルベロスアルか！」
　カッパは反射的にジンを払いのける様に手を横に振るが、ジンはそれを予測していた様に、床を蹴り宙をを舞うと華麗に着地する。
「暗箭小娘……推して参る」
　言葉と共にジンが放った、魔法の木の葉が開戦の狼煙となった。

●対カッパ再び
「全く、そんなに計画とやらが大事なのですかね～。この世のものは全て……いえ、何でもないですよぉ」
　甘く緩く呟くと、白石・明日香（愛に飢え愛に狂い愛を貪る・e19516）は、魔導書の一節を詠唱する事で、斎の脳細胞に直接魔力を送り込む。
「ガンドロイド警戒班！　ケルベロスを迎撃アル！　運搬班はそのまま作業に従事アル！」
　指示を出しながら、カッパは両の腕をケルベロス達に向けると、夥しい量の弾丸を発射する。
　だがすぐに、イリアとリンが防御姿勢でカッパと仲間達の射線を塞ぐ。
「……小娘。人の物を盗んじゃいけねってのと、人を殴っちゃいけねって、法律に書いてあるの知らないんでス？」
「笑止アルね。人より優れている私達が、何故人間の法とやらに従わなければいけないアルね」
　千里・雉華（絶望齎す狂犬・e21087）の言葉に、カッパは馬鹿馬鹿しいとばかりに、そう答える。
　雉華は、目を細めるとその手に収めた爆破スイッチのボタンを押す。
　カラフルな爆発が起こる中、雉華は、努めて冷静に言葉を発する。
「だったら、アタシが人間の法ってやつを教えてあげまスよ」
「必要無いアルよ！　ガンドロイド、早く始末するアルよ！」
　カッパが言えば、ガンドロイドのリボルバー銃から銃弾が放たれるが、ガナッシュはそれを受けても、駆ける足を止めず、二本のバールに雷を宿し、十字にガンドロイドを打ちのめす。
「ガンガンいかせてもらうからのう！」
「暫くぶりですわね、カッパ――貴女方のエクスガンナー計画が如何なるものであれ……都度、わたくし達ケルベロスが立ちはだかると思いなさいな……！」
　ミルフィはカッパにそう宣告すると、天空より無数の刀剣を呼び出し、カッパの前に立ち塞がるガンドロイド達に刀剣の雨を降らせる。
「あなたは許せませんけど、先に兵隊を落とさせてもらいます」
　達人の如き足運びで、ガンドロイドにグラビティの一撃を与えようとした斎だったが、その攻撃は狙ったガンドロイドでは無く、素早く間に入ったガンドロイドにヒットする。
「あっちがディフェンダーってことだね。それでも、クラッシャー狙いは変わらないけどね」
　呟くと、リンは流星の軌跡を描きながら、クラッシャーに華麗な蹴りを決める。
「星の聖域よ私の前に……」
　イリアが両手を天に掲げれば、星が降る様にケルベロス達に護りの力を与える。　
「アナタの相手、ワタシがじっくりしてあげるよ」
　ジンは自らの分身を幾つも作りだすと、カッパの前に立ち塞がる。
「お前達に時間をかけるつもりは無いアルね……」
　そう言うと自身の銃口と銃口を合わせて、己の感覚を増幅していく。
「そうは、いきまセん」
　すかさず、雉華がありったけのグラビティを拳のオウガメタルに込めて殴りかかり、カッパの集中を阻害する。
「邪魔をするなアル！」
　雉華の攻撃を受けたものの、カッパは軽く後方にジャンプする。
「回復は私がするから、存分に戦って大丈夫よ」
　黒鎖の陣を敷き、黒耀の光を発しながら、明日香が柔らかく言う。
「なら存分に暴れさせてもらおうかのう！」
　叫びと共に、クラッシャーの足元からガナッシュのフォースが爆発した。

●己がすべき事
「派手に一発、ぶちかましますわよ……！」
　ミルフィがアームドフォートの主砲を一斉発射すれば、クラッシャーは粉々のスクラップへと姿を変える。
「警戒班は全て壊れてしまった様でスよ」
　言いながら雉華は、オウガ粒子を仲間達に放出する。
「クッ！　６３１から６３３！　戦闘行動に移行！　ケルベロスへの攻撃開始アル！」
　カッパの指示が飛べば、機械部品を運搬していたガンドロイドのリボルバー銃の銃口から弾丸が連続してケルベロス達を狙い撃つ。
　リンが３発の弾、全てを受ける形になったが、リンはそれを意に介さず、バスターライフルから冷気のエネルギーを発射する。
「これくらいで、俺達を止められると思ってる訳じゃないよね？」
　表情を変えずに言うリンに、少なからずカッパは驚きの表情を浮かべる。
「……あの男、痛覚が無いアルか？」
　事実として、それは答えとして合っていた。
　リンは、戦闘前にペインキラーを使用し痛覚を遮断していた。
　それでも当然ダメージは残るが、後方を支える明日香の回復がすぐに傷を癒している。
「アナタ、全てを許す、させないね」
　カッパの傷口に惨殺ナイフ『月食』を喰い込ませながら、ジンが囁く。
「ガンドロイド！　盾役の男と黒髪の女を集中的に狙うアルね！　その２人が崩れれば、簡単に落とせるアル！」
　指示を出しながらも、カッパは苛立ちを感じていた。
　ケルベロス達のそれぞれの役割はすでに把握していた。
　攻撃役も回復役も、全て分かっているのに、こちらの手が後手後手になっているのだ。
　だが、疑問も有った。
　カッパ自身を抑える役目だと思われる、雉華とジンの攻撃が積極性に欠けるのだ。
　あくまで、２人で自身を抑えようとしかしていない。
（「……ワタシを、殺す気が無い……？」）
　カッパが思考を巡らせている間にも、ケルベロスとガンドロイドの攻撃の応酬は止まる事無く、斎の『進化の可能性』そのものを破壊するハンマーの一撃がクラッシャーを粉砕していた。
「オウガメタルさん、皆さんの集中力を高めて下さい」
　明日香から放たれるオウガ粒子を浴びると、イリアは黒い髪を靡かせて宙を舞った。
「Agnus Dei, qui tollis peccata mundi, miserere nobis.」
　イリアが歌い上げる福音書の一節は、ディフェンダーを聴覚から破壊していく。
「よそ見してる、良く無いね。―――――――破」
　カッパの視線が、ガンドロイドに行った瞬間、ジンが無数の影で出来た刃を、カッパに撃ち込む。
「私もいますよ」
　体躯より大きな鎌をカッパに投げつけながら雉華が言う。
「１つ、お聞きしたい事が。千里・愛という名のレプリカントか、その初期化のダモクレス、知っていまスか？」
「何を言っているアルか。雑魚のダモクレスの情報など持っていないアルよ」
　苛立ち気味に答えながら、カッパは雉華に刃の鋭さを持った蹴りを放つ。
　鋭い痛みを味わいながらも、雉華は『そうですか』と１人納得する。
（「ケルベロスの動き……時間をかけ過ぎアルね。ワタシを倒そうと言う意志を感じないアル。ワタシの攻撃を受けても、グラビティ・チェインの流れを正すのを優先し、深入りしてこない……なら、狙いは！」）
「ミルフィ！　でかいのをかますんじゃ！」
　ディフェンダーにバールを振るったガナッシュが叫べば、ミルフィの腕の殺戮兵器が展開する。
「貴方を討つには……この腕一本で、事足りますわ……！」
　ミルフィの腕から放たれる、幾つもの砲撃はディフェンダーの硬い装甲すら容易く破壊してしまう。
「お前達、最初からワタシを狙っていなかったアルね！？」
「今更気付いても、もう遅い。お前の部下は殲滅させてもらうよ」
　激昂するカッパに、リンは静かに言うと、リボルバー銃の引鉄を引いてスナイパーを狙い撃つ。
「面倒くさいアルね！　ならワタシがお前等を潰すアル！」
「だから、アタシ達が居るのを忘れないで下サい」
　グラビティの一撃をカッパの腹部に決めようとした雉華だったが、その攻撃はカッパの俊敏な動きでかわされる。
「すみまセん、もう一つ聞きたい事が。物騒な計画も血腥い責務も忘れて、定命化するご意思は？」
「寝言をほざくなアル！」
　余裕たっぷりに雉華がカッパに訊ねれば、カッパは怒りの声を挙げる。
「わかりまシた……。ああ、最後に一つだけ。……死ぬ方がマシな絶望を感じた事はあるかよ？」
　狂犬の獰猛さで雉華が聞くが、カッパは答えない。
　ただ、鋭い目つきでケルベロス達を睨みつける。
「ガンドロイド！　役目を全うするアル！」
　その言葉で、ガンドロイドは鋭角的に弾丸を飛ばすと、その弾丸は明日香に命中する。
「皆さん、私は大丈夫よ。それよりカッパが」
　自身にヒールをかけながら明日香が言えば、カッパは後方に大きくジャンプしている。
「丁度１０分だわ」
　水瓶座の刻印が施された大振りの大剣をスナイパーに振り下ろしながら、イリアが言う。
「このガンドロイド邪魔ですわよ！」
　地面との摩擦により発生した、炎弾を蹴り飛ばしながらミルフィが言う。
「最初の目的を達成させます」
　言うと、斎の強烈なハンマーはスナイパーを粉々にする。
「覚えているアルよ、ケルベロス。エクスガンナー計画が完遂した暁には……」
　運搬班が用意した、機械部品にカッパが手をかけた時だった。
　機械部品の一部が爆発四散した。
「何アルか！？」
「悪いが、おぬし等に取られて悪用されるくらいなら、今ここで破壊した方がマシじゃい」
　生命エネルギーを爆発させたガナッシュがカッパに言い放つ。
「許さないアル！　次は無いアルよ！」
「それは、こちらのセリフです。そこの劣化品と同じように、いずれ貴女も叩き壊して差し上げます」
　カッパの怒りの言葉にも動じず、斎は毅然と言葉を返す。
「他のエクスガンナー機と合流さえすれば……お前達は終わりアルよ！」
　そう言い残すとカッパは、破壊されなかった部品を回収し、猫の様な俊敏さで姿を消した。
「……仕留め損ねた」
　カッパの撃破こそ目標としていなかったが、その言葉はジンの心からの呟きだった。

●エクスガンナー計画
「何とか片付いたのう。じゃが問題は、カッパが次どんな行動をするかじゃな」
　学帽を被り直しながら、ガナッシュが言う。
「カッパの撃破……次こそしないとね……」
　重傷者も出さず、最初の目的も達した。
　だが、ガンドロイドを幾ら倒したところで、カッパ自身を撃破しなければ、脅威が無くならないと分かっているからこそ、イリアはあえて言葉として口にする。
「しかし……エクスガンナー計画とは……一体……？」
　全容の分からないエクスガンナー計画。
　その不気味さをミルフィは感じる。
　カッパに伝えこそしなかったが、既に数体のエクスガンナー計画機が撃破されている。
　その事実を知らずに居るカッパは、他のエクスガンナー機と共にエクスガンナー計画を完遂しようとしている。
　サポート機故に、エクスガンナー計画に拘るのかは分からない。
　だが、カッパは例え１人になったとしても、エクスガンナー計画を進めようとするだろう。
　だからこそ、カッパが地球を離れる前に撃破しなければならない。
　エクスガンナー計画、その詳細こそ分からないが、地球にとって良いもので無いことだけは確かなのだから。
　配下の居なくなったカッパ…………次に対峙する時こそ必ず決着を付けなければならない。
　ケルベロス達は、そう強く胸に誓うのだった……。

作者：陸野蛍	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年10月11日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 2／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 7
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