赤薔薇のディーヴァ

作者:柚烏

 月の光すら惑う夜の森――さわさわと秋風に揺れる木々の音に混じって、明るくも魅惑的な歌が響いていた。
 ちょっぴり背伸びをしたい少女のときめきや、甘酸っぱい片思い。大好きな誰かへのメッセージを散りばめたその歌は、男性や同年代の少女の心を掴むばかりか――そのすべてを虜にしてしまうような、妖しい響きすら滲ませている。
「――ようこそ、今夜のステージへ」
 と、其処で夢遊病者のような足取りで、ふらふらと森に分け入って来た少女の姿を認め、歌声の主がうっとりとした囁きを零した。薔薇をモチーフにした衣装――否、薔薇そのものが咲き誇るスカートを揺らして、微かな月明かりに浮かび上がるのは青ざめた肌だ。
 茨を纏うその姿は、誘われた少女と同じくらいか。しかし『それ』は人間などではない――デウスエクス・ユグドラシル、攻性植物であることは明らかだった。
 くすり、と愛らしい唇が笑みを形作ると同時、その攻性植物は哀れな少女を優しく抱きしめる。すると、少女の身体は見る間に茨に取り込まれていき――咲き誇る赤薔薇に寄生された彼女は攻性植物の仲間となり、虚ろな瞳を動かしてゆっくりと立ち上がった。
 ――確かな足取りで向かうのは、近隣の街。存在する為に必要な力、グラビティ・チェインをひとびとから奪う為に、薔薇は狂おしく花弁を震わせる。

「皆の力を借して欲しいんだ。……茨城県の市街地に、攻性植物が現れるみたいなんだよ」
 難しい顔をして現れたエリオット・ワーズワース(白翠のヘリオライダー・en0051)は、資料を手にヘリオンで導きだした予知を伝え始めた。
「この攻性植物は、近隣の森からグラビティ・チェインを求めて降りてきて、ひとびとを襲撃しようとしているんだ。皆には、攻性植物が市街地に入る前に撃退して欲しいんだけど……」
 ――と、状況を説明していくエリオットだが、その表情が其処で不意に曇る。
「この事件を起こす攻性植物は、中にひとが囚われていてね。何者かの配下となっているみたいで、説得での救出は……残念ながら無理なんだ」
 囚われた人間は、この付近で数日中に行方不明になっている人物――高校生くらいの少女と特徴が一致しているようだ。運悪く一人で森に入ったところを、攻性植物に捕らえられたのだとは思うけれど、少し気になるねとエリオットは翡翠の瞳を瞬かせた。
「さっきも伝えた通り、皆にはこの攻性植物が市街地に入る前に迎撃して欲しいんだ。場所は、郊外にある森を抜けた先の広場で、配下は無く1体になるよ」
 攻性植物は艶やかな深紅の薔薇で、芳香で惑わせてくる他に、茨を張り巡らせての呪縛も得意とする。周囲は夜間と言うこともありひと気は無く、月の光が戦場を照らしてくれるだろう。
「……今回は、攻性植物に寄生されてしまったひとを救うことは出来なくて。それは、多くのひと達を救ってきた皆にとっても、苦しい戦いになると思うけれど」
 もしかしたらこれは、被害者を攻性植物にした何者かの影響なのかもしれないとエリオットは言うが――原因となる敵の手がかりを、この戦いの最中に得ることは叶わないだろう。
「でも……! 警戒活動を続ければ、敵の足取りを掴むことが出来るかもしれない。その為にも先ずは、目の前に迫った脅威に対処して欲しいんだ」
 ひとに寄生し、異形の花を咲かせる深紅の薔薇。その花弁が血に塗れ、更なる紅に染まらない為にも――。


参加者
絶花・頼犬(心殺し・e00301)
シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)
ニーナ・トゥリナーツァチ(追憶の死神・e01156)
鷹嶺・征(模倣の盾・e03639)
フィー・フリューア(赤い救急箱・e05301)
高辻・玲(狂咲・e13363)
ランジ・シャト(舞い爆ぜる瞬炎・e15793)
トープ・ナイトウォーカー(影操る戦乙女・e24652)

■リプレイ

●紅月夜
 月の明るい夜だった。しかし街外れの森は黒々と、御伽噺に出てくる魔女の住処のような妖しい気配に満ちていた。
 ――あながちそれも間違っていないかも、とフィー・フリューア(赤い救急箱・e05301)は思う。森から現れるのは、魔性の赤薔薇――ひとに寄生した攻性植物なのだから。
「……月が明るい」
「うん、月明かりは闇を照らしてくれているけど、照明が多いに越したことはないかな」
 穏やかな表情の中に微かな陰を滲ませて、絶花・頼犬(心殺し・e00301)がそっと呟きを零す傍らで――蛍光色の鮮やかな黄緑の瞳を巡らせるフィーは、静かに周囲の視界を確認する。そうして魔力式の照明灯を地面に置くと、彼女の燃えるような赤毛と深紅のケープが、闇夜の中艶やかに浮かび上がった。
「敵の気配は……嗚呼、この香りは」
 其々が準備してきた照明で光源を確保していく中、辺りを警戒していた高辻・玲(狂咲・e13363)は、むせ返るような薔薇の香りを感じて身構える。――やがてゆらゆらと、幽鬼のような足取りで彼らの前に姿を現わしたのは、赤薔薇を咲かせた攻性植物。茨を纏い、少女の面影を宿したその傷ましい姿に、玲の双眸が微かに細められた。
(「敵の本体――自身と同じ花、か」)
 己の髪を彩る深紅の薔薇、其の花と同じものが少女に寄生している。その現実に、玲は忌々しさと複雑な思いを募らせるが――月下に深紅の花弁が舞う幻想的な光景に、彼らは一瞬目を奪われていたのかもしれない。
「赤い薔薇が、血みたいだ」
 頼犬の声が夜に吸い込まれていく中、攻性植物はゆっくりと此方に近づいて来る。その囚われた少女の、虚ろな面差しを見て取ったランジ・シャト(舞い爆ぜる瞬炎・e15793)は、自分とそう変わらない年頃だと気づいて顔を曇らせた。
(「アタシやフィーさんと同い年くらいか……。アタシもケルベロスに覚醒出来なかったらきっと、みんなからこんな風に……?」)
 地獄化した翼――かつてそれを奪われ、恐怖の余り暴走してしまった己の過去を重ねるランジに、大丈夫だと言うように頷いたのはフィー。やはり彼女に隠し事をしても無駄だとランジは苦笑し、直ぐにかぶりを振って気持ちを切り替えた。
「うん、やめときましょ。アタシはアタシ、この子はこの子なんだから……!」
 そうして覚悟を決めたランジと同じように、トープ・ナイトウォーカー(影操る戦乙女・e24652)も此処で攻性植物を止めると誓ったようだ。影から滲むように姿を現わした彼女は、軍服の襟を正しながら凛と告げる。
「取り込まれたのは不憫には思う……が、これ以上被害を広げることは許されん」
「今までの攻性植物とはまた違う感じ……? 助けられないのはつらいけど、でも」
 一方のシル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)は、智慧の煌めきを宿した青の瞳を瞬かせ、敵の様子をじっと観察していた。予知が示した所によると、何らかの影響によって、寄生された存在を救うことが出来ないとのことだが――。
「このままにしておくのはできないから……だから、ごめん、討たせてもらうよ」
 ――あなたを助けることは出来ない。その覚悟を背負って、鷹嶺・征(模倣の盾・e03639)も此処に立っている。笑っていろと教えられた、大切な『彼』の教えを守りながら――征は切なそうな笑顔を浮かべつつも、きっぱりと己の意思を口にした。
「だからせめて、あなたの手が血に染まらぬように、あなたを止めましょう」
 最早救えない命、と何処か達観した様子で呟くのはニーナ・トゥリナーツァチ(追憶の死神・e01156)。漆黒のローブで覆い隠した儚げな相貌の陰で、非力を嘆く素振りなど見せぬと誓って。死神めいた鎌を手に佇むニーナは、私は私の仕事をしないとと言って優雅に一礼をした。
「……その魂、ちゃんと冥府へ送り届けてあげましょう」
 ――行く手を阻む彼らを排除しようと、異形の薔薇は不気味に蠢く。禍々しい茨が、此方を捕えようと蛇のように鎌首をもたげる中、刀を手にした玲は確りとした足取りで標的と向き合った。
「街の為にも、本来の彼女自身の為にも、此処は通せない……通さない」
 御免ねと言う呟きと同時、翳した刀身は月光を反射して冴え冴えとした輝きを放つ。常ならば斬り合いを偏愛する彼であるが――今宵は悲劇と呪縛を断つ為に、その刃は振るわれるのだろう。故に。
「血の花も、血濡れの花も、咲かせはしない」

●薔薇の花は尚赤く
 獲物の血を啜って、艶やかに咲き誇ろうと言うように――赤薔薇の攻性植物は茨の鞭を振るい、甘美な呪縛を与えようと此方に襲い掛かって来た。そんな妨害に長けた戦法を取る相手に対し、一行は万全の守りで立ち向かおうとしたのだが――。
「すみません……星の守りを、と思ったのですが」
 最初に加護を与えようとした征だったが、自身にその術が無かったことに気付いて歯噛みする。しかし、代わりにランジが星辰の剣を地面に滑らせ、守護星座を描いて皆へ聖域の加護をもたらした。
「オーケー、アタシに任せて。……やるしかないってんなら、やったろうじゃないの!」
 いつかはこういう事件に当たると覚悟はしていたけれど、やはり元凶に対する憎しみは募る。持ち前の性格でランジが迷いを捨て去った一方で、玲は手分けして後衛へと守護星座による耐性を付与――更にフィーが薬瓶から深い藍色の液体を振りまき、地に現れた星座の魔法陣は不調を解く力をニーナに与えていった。
「魂を貪るその侮辱、貴方の魂で償ってもらいましょう」
 或る程度の状態異常への備えを得た彼女は、反撃とばかりに鎌を掲げ、鹵獲した呪詛を解き放つ。指定した座標は攻性植物の魂――因果彎曲の禁呪はまるで、前触れもなく現れた死神の鎌のよう。
「影は揺らぎ、死は踊る……陽炎に揺らぐ死神の舞踏会は如何?」
 内側から食い破られるようにして刻まれた傷を見ても、何が起こったのかさえ相手は分からないだろう。深紅の花弁がはらはらと舞い散る中、靴音も高らかに駆け出したのはシルだった。
「流星の煌めき、受けてみてっ!」
 後方から一気に夜を引き裂き迫るのは、流星の如く鮮やかな、重力を宿した跳び蹴りで。狙い澄ましたシルの一撃は攻性植物の蔓を引きちぎり、その機動力を削いでいく。
(「助けられないのは、悲しいけれど。俺にできることをしようと、分かっているけれど」)
 これ以上、被害を出さない為にもやるしかない――そんなことは勿論、頼犬にだって分かっている。けれどやっぱり、人の生き死には苦手だ。助けられない命が確実なのだと分かっていれば、尚更のこと。
「……まだこれからなのに、助けられないなんて」
 絞り出すように呟いた言葉は、激しい剣戟の音にかき消された。それでも、頼犬の身体に染み付いた剣技は月夜の中冴えわたり――清浄なる刀から放たれた斬圧は破道を駆け、何処までも標的を追い詰めて斬り裂く。
「取り込まれているお前は……自分が何者か分かるか?」
 そんな中、稲妻を帯びた槍を振るうトープは、素早く攻性植物を貫き寄生された少女に声を掛けるが――己に掛けられたその声を、彼女が理解している様子は見られなかった。
「何故そうなってしまったのか、覚えているか?」
 ――無為であるとトープにも分かっていた。それでも口数少ない彼女が振り絞った声が、届かないと知れば悔しさが募る。微かに舌打ちをしてからトープは光翼を広げ、戦乙女としての使命を果たそうと決意を固めた。
「――完全に取り込まれてしまっているか。クソッタレめ。すぐに楽にしてやる……待っていろ」
 その鋭いまなざしの先、ゆっくりと顔を上げた攻性植物の少女は、何処か陶酔したような様子でうっとりと虚空を見つめていて。夢の中を揺蕩いながら、彼女はただ薔薇の花弁を深紅に染め上げたいと願っているのだろうか。
「……赤い薔薇。童話じゃ小鳥が大好きな人の為に、白薔薇を綺麗な深紅に染め上げるんだよ」
 自分自身の血を流してね――と続けるフィーはヒトが好きで、ヒトの生き様が好きで。そして其処にまつわる物語にも触れたいと、知りたいと思っている。そして童話は、彼女が心を得るきっかけになったものだった。
「結局、そうまでした想いは叶わず、命まで亡くしちゃうんだけど」
 常に幸せな結末が待っている訳では無い、暗にそう告げつつもフィーの手は、仲間たちを支えようと治癒の術を的確に紡いでいた。薔薇の棘から滴る甘い毒に蝕まれた征の身体が、賦活の雷によって力を取り戻していき――そのまま彼は敵の守りを打ち崩そうと、変形させた竜槌から竜砲弾を発射する。
「人を食らって咲く薔薇の、どこが美しいものか。……ひと花残らず、散らせてあげましょう」
 ――戦いは、慎重かつ確実に。此方の耐性を高め、相手に異常を積み上げていく戦法は、じわじわと効果を発揮しつつあった。特に攻性植物のもたらす催眠は、早めに浄化していこうと皆が心がけていたものの、それでも完全に封じるとまではいかない。
「――っ」
 回復の支援を行っていた玲へ、薔薇の芳香に惑わされ刃を向けたのはトープだった。彼女の操る揺らぐ影法師が、影の主である玲に叛逆し追い縋る――しかしその身を襲う痛みにも、彼は顔色一つ変えない。
(「――今はそれより、心が痛んでならない。だけど、僕らが惑う訳にはいかないから」)
 苦みも痛みも噛み殺して集中し、玲の生み出す光のヴェールが仲間たちを包み込んでいった。更に状態異常の解除を手伝おうと、ランジの剣が何度目かの守護星座を描く。
「ったく、ヘリオライダーさまさまね!」
 予知で事前に対策を練れたからこそ、彼女たちはこうして強大なデウスエクスとも渡り合えているのだろう。そして大切な存在――翠翼の絆で結ばれた少女から贈られた白銀戦靴を纏うシルは、いつも一緒だと感じながら敵を侵食する影の弾丸を放つ。
「闇よ、我が前の障害を撃ち抜けっ!」
 ――見る間に花弁はどす黒く染まっていき、悲鳴を上げるかのように攻性植物は、苛立たしげに茨の蔓を軋ませた。

●茨姫の見た夢
「敵の狙い、矛先……そうそう予測出来るものではないかもしれないけど」
 事前に攻撃を察知することは叶わなかったが、それでもフィーは回復の中心として、上手くヒールを使い分けて戦線を支えていた。更に玲が支援を、それでも間に合わない場合は征が、治療強化型ヒールドローンを飛ばして近くの仲間の治療に当たる。
(「手が届かないことはいくらでもある。それはわかっています」)
 ――それでも征は、悔しさを抑えることは出来そうになかった。かつて死と隣り合わせの生活を送っていた自分を守り、亡くなった鎧装騎兵の『彼』。その代わりに受け継いだ力で、自分が人々を守ろうと――そう誓った筈なのに。
「……もう少し、頑張ってちょうだいね」
 咲き誇る薔薇を忌々しげに睨みつける征を労いながら、標的の背後より忍び寄るニーナは、死神の大鎌を回転させて投げつけた。死の舞踏を踊る凶刃は獲物を切り刻み、更に蓄積された異常を、仲間たちが傷口ごと斬り広げて増殖させていく。
「――……!!」
 其処で茨の鞭を振るおうとした攻性植物の動きが、不意に硬直し――その隙を見計らったトープは、進化の可能性を奪い凍結させる、超重の一撃を巨大なハンマーから放った。その強烈なインパクトは躱される可能性もあったのだが、蓄積された足止めが功を奏して見事に命中する。
「悪いけど、そろそろ終いよ!」
 そうして攻撃へ転じたランジもまた、地獄の炎を纏わせた剣を振るい、一気に畳みかけようと刃を叩きつけた。一方で、押し切れると判断したシルは精霊魔術を収束させ、四大元素の力が渦を巻いていく。
「間に合わなくて、ごめんね……。せめて、苦しみが少ないようにしてあげるから……」
 高威力の砲撃――精霊収束砲がその手から放たれた後、更に追加術式を発動させることにより、彼女の背には青白い魔力の翼が発現していた。
「エレメンタル・ブラスト、バーストエンドっ!!」
 花弁が茨が、次々に千切れ消滅していく中――それでも虚ろなままの少女の顔を見ていると、頼犬の心に溢れるのは怒りよりも悲しみが深い。
(「ああでも、ダメだ。最後まで看取ってあげないと」)
 月の明るさに目を細め、それでも戦うしかないと決めた彼の表情は堅く、感情さえも凍てついていた。涙こそ流さぬものの、その貌は無表情に近く――頼犬は無言のまま、攻性植物目掛けて音速の拳を叩きつける。
(「ごめんね」)
 ――残り僅かとなった妖花の生命を、その時断ち切ろうと動いたのは玲だった。
「最早醒める術もない茨姫――目覚める事は叶わぬとしても、せめて悪夢は終わりにしよう」
 磨き抜かれた刀剣に、重ねるのは研ぎ澄ませた心。翳りも迷いも薙ぎ祓えとばかりに、全てを籠めた明鏡止水の一太刀は、鋭く涼やかな太刀風を伴って一気に振り下ろされた。
「さぁ、散り時だ。……ゆっくりと、お休み」
 その別れの言葉と同時、狂瀾の薔薇は鮮やかに散っていく。そうして生命を絶たれた攻性植物は見る間に枯れていき、月明かりの下で少女の亡骸と共に――静かに消滅していったのだった。

●それぞれの決意
「……この子に誓うわ。この黒幕には必ず、キッチリとツケを支払わせてやるって」
 身なりを整えてあげることも出来ず、ランジは少女が居た場所で静かに黙祷を捧げる。せめて遺族の元へ返せたらと願っていた玲も、何も残らぬ現実に胸を痛めながら、どうか安らかにと祈らずにはいられなかった。
「ああ……哀しみを繰り返さぬ様、一日も早く根源を断とう」
「あの子は、惹き寄せられてしまったのかな。大好きな人達に届けたかったのは、血の花じゃなかっただろうにね」
 命が救えずとも、犠牲者である少女の終わりに救いをと、フィーは願う。征と共に身元が分かるものがないかと確認したが、それらしきものは見つからず――遺族へは宿主にされたことは伏せ、デウスエクスに襲われたとだけ伝えようと決めた。
「早く元凶に辿り着かんとな……この事件の被害を最小限にする為にも」
 黙祷を捧げた後でトープとシルは、何らかの手掛かりが残っていないかと辺りを調べていたようだ。しかし痕跡らしきものは見つからず、事後の調査に尽力する他ないだろう。
「今回は……助けられなくて、ごめんなさいね」
 願わくは、次の貴女の生が幸せで溢れかえることをと悼み、ニーナは淡いピンク色の飴玉をそっと飲み込む。
(「きっと、色んなことをしたかったろう。笑って泣いて、これからもそれが続くと信じていただろう」)
 弔いをする頼犬は分かっていた――もう、戻ることは出来ないのだと。だから自分は。
「助けられなかった命、ひとつ……背負っていくしかない」

作者:柚烏 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 8
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