商店街にマグロガール!

作者:柊暮葉


 神社の境内にはところ狭しと屋台が出ている。
 たこ焼き、焼きそば、お好み焼きなどの定番からラーメン屋や芋煮、飲み物に冷たいコーラやラムネまでの充実した食べ物の屋台群。
 また、射的や金魚すくい、ヨーヨー釣りなどのゲームの屋台も沢山あり、戦隊ものや魔法少女のお面なども売られている。
 この小さな商店街の秋祭りは、この豊富な屋台で近隣ではちょっぴりだけ有名だった。午後からは青年団の神輿が近所を練り歩き、神社の境内には櫓が建てられ、その上に町内会長がマイクを持ってカラオケを歌っている。夕刻からは時季外れだが盆踊りが踊られ、夜九時過ぎに花火が打ち上げられる。そんなどこにでもあるような秋祭り。地元の住民はそれでも笑顔で楽しんでいる。
「楽しそうね……こうしてやるっ!」
 そこに突如現れたのはマグロを被った浴衣の女。惨殺ナイフを振りかざすと、マグロガールは屋台に群がる客達に突っ込んで行った。血しぶきが上がる。


 セリカ・リュミエールが集めたケルベロス達に説明を開始した。
「エインヘリアルに従う妖精8種族の一つ、シャイターンが行動を開始したようです。動き出したのは、マグロの被り物をしたシャイターンの部隊で、日本各地の祭り会場を襲撃し、一般人を殺害してグラビティ・チェインを得ようとしているようです。祭り会場を狙っている理由は不明ですが、お祭りという場を利用して、効率よくグラビティ・チェインを収奪する作戦である可能性が高い模様。シャイターン……その外見から、仮に『マグロガール』が現れる祭り会場に先回りして、事件を未然に防いでほしいのです」


「マグロガールの数は?」
 ケルベロスの一人の質問に対して、セリカは頷いた。
「一体のみで、配下はいません。生命の糧食という回復技を持ち、後は惨殺ナイフで戦う模様です」
 セリカは資料を広げた。
「襲撃されるのは埼玉県の田舎町にある神社のお祭りです。近くに活気のある商店街があり、そのためか屋台がとても豊富なようです。神社の境内の脇の方に使われていない畑と空き地があるようですね……」
 ケルベロス達はセリカの説明に聞き入っている。
「祭り会場の人を避難させてしまうと、マグロガールが別の場所を襲ってしまうため、事前の避難は行えません。しかし、マグロガールはケルベロスが現れれば、先に邪魔者を排除しようとするので、挑発しつつ、人の少ない場所に移動するなどして戦闘すれば、周囲の被害は抑えられるでしょう」


 最後にセリカはこう締めくくった。
「マグロガールの戦闘力は、あまり高くないのですが、阻止に失敗すれば祭り会場が惨劇の場になってしまうので、敗北は許されないでしょう」


参加者
星黎殿・ユル(聖絶パラディオン・e00347)
相良・美月(オラトリオの巫術士・e05292)
ヒナタ・イクスェス(世界一シリアスが似合わない漢・e08816)
海東・雫(疫病神に憑かれた人形の復讐者・e10591)
立花・吹雪(玲瓏たる鍔鳴り・e13677)
鳴門・潮流(渦潮忍者・e15900)
マルガレーテ・ビーネンベルク(天蓋の守護者・e26485)
心意・括(孤児達の母親代わり・e32452)

■リプレイ


 商店街に近い神社で秋祭りが行われている。屋台がたくさん出ているせいか大変な喧噪だ。
「商店街のお祭りでこの規模はすごいのでしょうね」
 海東・雫(疫病神に憑かれた人形の復讐者・e10591)が周囲を眺めながら言うと、地図を広げている星黎殿・ユル(聖絶パラディオン・e00347)が頷いた。神社から真横の空き地への経路を確認しているのだ。
 他のケルベロス達も神社の境内の隅に寄って、雫やユルと共に作戦を立て、経路や武器の確認を進めた。
「家族や恋人とくる人もいるのでしょうね」
 雫はふと、屋台や櫓の周りに群がっている大勢の客を見て呟いた。
(「せっかくの楽しい祭りを邪魔するとは……許せませんね」)
 この祭を滅茶苦茶にしようとしているマグロガールに対して、雫は怒りを覚える。他のケルベロス達も気持ちは同じだ。
「人も祭り会場も傷付けさせる訳には行きません。上手く誘導しなくては」
 立花・吹雪(玲瓏たる鍔鳴り・e13677)は冷静な面持ちで周囲を見回し、地図と場所を確認している。
 作戦を立て終わると、ケルベロス達は目立たないように祭の中に散り、マグロガールを探し始めた。
 ケルベロス達はそれぞれアイズフォンで連絡を取り合いながら、マグロガールを待ち伏せした。
 相良・美月(オラトリオの巫術士・e05292)は神社の境内の屋台群を抜けて、境内下の階段の様子をうかがった。
「あっ……」
 ちょうど人混みの中を特徴のあるマグロの被り物をした浴衣の女が登ってくるところだった。周囲の人間はマグロをお祭りで浮かれたお遊びだとでも思っているのか、マグロガールから少し距離を取りつつ観察しているようである。
「見つけましたっ……マグロです!」
 美月は慌てて早口になりながら携帯で仲間に連絡した。ケルベロス達が一斉に神社の階段へと集まってくる。
 一番最初に到着したのはヒナタ・イクスェス(世界一シリアスが似合わない漢・e08816)だった。
「くぁ、マ~グロマグロまたマグロ~。そういや昨日は夕食にマグロのカマを食べたのオチね~。いや~アレはホントに美味かったのオチよ。……じゅるり」
 などと言いながら、わたわた慌てている美月の横を通り抜け猛ダッシュで階段を駆け下りる。
「ファ~マグロの被り物ダサ過ぎのオチぃ~」
 ヒナタはマグロガールを指差してそう大声で言った。
 マグロの被り物をそれとなく見ていた一般人達からくすくすと笑い声が上がる。
 マグロガールはかっとなって惨殺ナイフを抜いた。一般人が静まりかえる。
「マグロ、ダサ過ぎい、マグロ! マグロ! のオチ!」
 ヒナタはそういう単語を乱発しながらマグロガールの前で尻を叩きつつ空き地へ誘導して走り出した。
「なんなんだ、この野郎!」
 美月はその様子を携帯で伝え、自分も空き地へ向かう。アイズフォンでそれを聞き取ったケルベロス達は、一斉に地図で確認していた空き地へと向かった。
「マ~グロ、マグロ、ダサダサァ~! のオチ!」
 ヒナタは見事に挑発に乗せたマグロガールを神社脇の広い空き地へ連れてきた。
 マグロガールは怒って今にも惨殺ナイフを振り回しそうだ。
 その後を美月、それと雫やユル、吹雪達ケルベロスが続く。
 空き地に入ったところで、鳴門・潮流(渦潮忍者・e15900)が素早く殺界形成を張り、吹雪がキープアウトテープを張り巡らせた。
「!」
 潮流や吹雪の動きでマグロガールはようやく自分がケルベロス達に取り囲まれている事に気がついた。
「お前達……ケルベロスだな! 私の邪魔をするなっ!」
 マグロガールは惨殺ナイフを構えてケルベロス達に向かって怒鳴った。
「折角のお祭りなんだ、何が目的かは知らないけど邪魔はさせないよ……!」
 マルガレーテ・ビーネンベルク(天蓋の守護者・e26485)はマグロガールの勢いに負けずに言い返す。
 それを聞いてマグロガールは惨殺ナイフを振りかざし、ブラッディダンシングでマルガレーテに斬りかかってきた。
 マルガレーテは飛び下がって身をかわそうとしたが、傷を負ってしまう。
 すかさずユルがオリジナルグラビティを使った。
『我が魔力、汝、救国の聖女たる御身に捧げ、其の戦旗を以て、我等が軍へ、勝利の栄光を齎さん!』
 救国の聖女のエネルギーを召喚して、たちまちマルガレーテの傷を癒やし、全員にBS耐性を付与していく。
 それが皮切りとなり、美月が動いた。
 怒っているマグロガールに武神の矢を撃ち放つ。二つ束ねられた妖精弓から放たれた漆黒の巨大な矢は、見事マグロガールに命中し、彼女は体が麻痺して動けなくなった。
 その間に、ヒナタは祝福と癒やしの力を受けた矢を潮流へと撃った。潮流は破剣の力を得る。
 ヒナタの援護を受けた潮流は、自分も惨殺ナイフを構えるとナイフの形をジグザグに変形させ、マグロガールへと斬りかかっていった。
「惨殺ナイフに自信はあるのかっ!?」
 好戦的にそう問いかける。
 マグロガールは顔を真っ赤にしながらナイフをナイフで受け止めている。
(「マグロガールですか……なんとまぁ冗談みたいな相手ですが、やらかすことは冗談でもなんでもなく許してはいけないものですね。さっさとさばいてしまいましょう。しかしこのマグロガール部隊は本当に何なんでしょうか?」)
 潮流は言葉は好戦的だが、頭の中は冷静に状況の事を考えている。
 潮流に続いて吹雪が、日本刀を構えると緩やかな弧を描いてマグロガールの浴衣を切り裂いた。
「祭の客を傷つけさせません……!」
 吹雪は真剣な表情である。
 吹雪の影から心意・括(孤児達の母親代わり・e32452)が轟竜砲を撃ち、麻痺から回復しかけたマグロガールを足止めする。
「お祭りは楽しむものよー? 暴れるものじゃないわねー」
 括はまだまだ余裕のある口ぶりである。
 動けないでいるマグロガール。
 そこに雫がブラッディダンシングで斬りかかっていく。
 マルガレーテも破鎧衝で援護する。
 次々とダメージを負ったマグロガールは惨殺ナイフを持ち直し、雫に向かって血襖斬りで攻撃する。
 惨殺ナイフから雫の血を吸い上げて回復しながら攻撃するマグロガール。
 マルガレーテに命じられ、ウイングキャットのルドルフが清浄の翼で雫を回復。
 それを見た潮流は、禁縄禁縛呪を撃ち、半透明の御業でマグロガールを鷲づかみにして身動き取れなくしてしまう。
「くそっ……離せっ!」
 もがくマグロガール。
「そろそろ大物マグロを倒して事件解決したいよね」
 ユルはシャーマンズカードをかざす。召喚された氷の騎士がマグロガールを槍で貫いていく。
 潮流は御業からマグロガールを解放すると、再びジグザグスラッシュで攻撃。
 その潮流の後ろから、吹雪がエアシューズに重力を帯びさせつつ跳び蹴りを入れる。再び足止めを受けるマグロガール。
 括がそこに殺神ウイルスを投射し、マグロガールの回復力を阻害する。
 潮流が間近から戦術超鋼拳。
 ユルは潮流を援護しようと轟竜砲を撃って足止めを行う。
 途切れ目なくケルベロス達はマグロガールを攻撃していく。
「畜生っ……調子に乗るなよーっ!」
 突如、叫んだマグロガールは、一番近くにいた潮流に凄い速さで斬りかかっていった。
 狂った獣のような動きで潮流に血襖斬りを喰らわせた。
 潮流の胸から血しぶきが上がる。
 返り血を浴びてマグロガールは残忍に笑い、さらに潮流を斬りつけようとする。
 潮流は惨殺ナイフを持ち直し、シャウト。
 惨殺ナイフを滅茶苦茶に振り回すマグロガールを止めようと、ユルは禁縄禁縛呪を使おうとした。
 それを悟ったマグロガールが惨殺ナイフの刀身をユルに見せつける。
 そこに浮かぶのはユルの失われた記憶。その中でも最も思い出したくない思い出。
 ユルは叫び声を立ててその場に突っ伏す。惨劇の鏡像をもろに喰らったのだ。
 マグロガールは狂ったように笑いながら潮流にブラッディダンシング。
 血塗れになり、潮流も立っていられなくなり、空き地の地面に膝をつく。
 マグロガールは崩れ落ちた潮流をジャンプして飛び越え、次は吹雪に血襖斬りで飛びかかっていった。
 吹雪は日本刀を構え、絶空斬で返り討ちにしようとするが間に合わない。
 吹雪の肌から鮮血が噴き上がる。しかし吹雪は健気にも絶空斬を当てて、マグロガールにバッドステータスを与える。
 吹雪とマグロガールの技の応酬。
「大丈夫ですか? 今回復しますねっ」
 美月はオーラを溜めて倒れた潮流に放ち、彼を大至急で回復していく。ヒールとキュアが同時に与えられ、潮流は意識を回復して身を起こす。
 そこにユルの【緋炎聖女】(ラ・ピュセル)、括の想色括璃【解】(オモイロククリカイ)のヒールの力が降りかかった。
 マルガレーテのルドルフ、それに括のウイングキャットのソウが次々と羽ばたいて清浄の翼を怪我人達に与える。
 同じくマルガレーテもトラウマを受けて倒れているユルに溜めたオーラを与えて回復していく。正気に返るユル。
「ライド、攻撃より防御を優先しなさい。だれも倒させはしませんよ」
 雫はライドキャリバーをけしかけて、吹雪とマグロガールの間に割り込ませる。惨殺ナイフをその身に受けながらキャリバースピンで跳ね返すライドキャリバー。
 自分は肘から先をドリル回転させながらマグロガールに突っ込んで行き、ダメージを与える。
 潮流を一気に回復させた美月は、前列に対してオーロラのような光を与えて包み込み、さらに大きく癒やしの力を与えた。
「……どうやら相当追い詰められているようだな。窮鼠猫を噛むと言ったところか。いや、お前はネズミじゃなくてマグロだったな」
 立ち上がりながら冷静沈着に潮流が言った。
「そのようね。完全に息が上がっているし、頭に血も上っているんじゃないかしら?」
 括が潮流と同じ意見を述べた。マグロガールは、今にも倒されそうになったため、火事場のくそ力を出したらしい。
 あと一息だ、と察したヒナタはここぞとばかりにオリジナルグラビティを繰り出した。
『くぁ! 全員撃て撃て撃て撃て~~~! のオチ!!』
 どこからともなく現れる1/8スケールの赤いペンギン軍団。小型の赤いペンギンたちは手にした銃火器で一斉にマグロガールを攻撃。集中砲火を受けるマグロガール。しかし本体のヒナタは見てるだけ。
 怒り心頭となったマグロガールは惨殺ナイフでヒナタに向かって行く。
「くぁ♪ 中トロ大トロも良いけれど~」
 マグロガールの首筋をチラ見するヒナタ。
「今日はカマの気分のオチね~♪ 鮪は喰われる運命のオチよ」
 マグロガールが本当に鮪に見えるのか、食欲を見せて煽るヒナタ。
 挑発を繰り返しながら逃げていく。
 ユルは追い回すマグロガールに禁縄禁縛呪を撃って捕縛。マグロガールの動きを御業で止めていく。
「キミの敗因はケルベロスを侮りソロで活動していたことだよ」
 ユルの言葉に対して、マグロガールは歯を噛みながら睨み付けた。
 マルガレーテの破鎧衝がマグロガールを貫く。
 括の轟竜砲。
『来ないでください~』
 美月は目を閉じたままぐるぐるパンチでそんなマグロガールに攻撃。マグロガールは御業で縛られているため、目を閉じた攻撃でも充分当たる。
『A-003。貴方の技、使わせてもらいます!』
 雫は両手に惨殺ナイフを構え、音速を超える連続攻撃を行った。真に迫る真似(リアル・トレース)。相棒の形見の技である。
 血祭りに上げられるマグロガール。
「ナイフでの攻撃とはこうやるのですよ」
 雫は不敵に笑っている。
『雷光一閃……貴方に見切れますか?』
 吹雪は全身に雷の霊力を纏って稲妻のごとくマグロガールに接近、斬魔刀で一刀両断。雷が花の如く散った。吹雪のオリジナルグラビティ、雷華だ。
「この華は貴方へのせめてもの手向けです。潔く散りなさい……」
 吹雪の攻撃の後から潮流が迫る。
『自然の驚異をみせてやろう。渦潮の力を今、我が手に!』
 潮流は、巫術で引き出した自然の力を螺旋忍術として、渦潮を凝縮し、マグロガールに叩きつけた。
 渦巻く自然の力が、ついに、マグロガールを撃破した。


 戦闘後、ケルベロス達は被害を確認して回り、必要な場所にはヒールを与えた。
 自分達が無事に勝利を手にした事を確認すると、せっかくだということで、商店街の秋祭りを楽しんだ。
「あぅぅ、財布の中身は何とかなるけど両手で持ちきれないよ」
 ユルは両手いっぱいにフランクフルトやチョコバナナを持ち、手首は水風船を下げている。
「わ~い! 美味しそうなものがいっぱいですねっ!  食べたいものがいっぱいです」
 戦闘の時とは打って変わって、美月は満面の笑みだ。
 イカ焼き、焼き鳥、回転焼きなどを買い食いしながら幸せそうである。
「えへへ~美味しいです」
 ヒナタもまた、屋台に飛びついていって次々に食糧確保していく。夜には花火を見る予定だ。
「いいお祭りです。あの方を思いだします……あの方? あの方とはいったい誰のことだったでしょうか?」
 そんな事を呟きながら雫も思い出に耽りつつ、秋祭りを堪能している。
 潮流と吹雪は連れだって屋台を見て回り、金魚すくいのところで立ち止まった。
 吹雪は小さくひらひらしたひれを可愛らしいと思って眺めている。
「金魚が飼えなくなっても、自然に放してはいけませんよ。金魚は1500年も人の管理下で養われていたんです。それはむしろ不自然な行為……」
 潮流は金魚を愛でている吹雪に優しくそう言った。飼うなら最後まで責任を持って欲しいのである。吹雪ならば大丈夫だと思うが。
 少し離れたところでそれを聞いていたマルガレーテはびっくりして近づいてきた。金魚の不思議が知れそうだ。
 括はお祭りの屋台で子供の好きそうなものを探して見て回っている。孤児院のみんなへのお土産だ。
 色々な食べ物を食べ、ゲームで遊んだケルベロス達は、やがて自然と合流し、最後にみんなで花火大会を見たのだった。夜空に咲く満開の花火を見て、今日の勝利と、自分達の守った祭をしみじみと感じた。
 ケルベロス達はやはり、人々の平和と幸せな生活を守るために戦うのである。

作者:柊暮葉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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