ディレクショナル・ガール

作者:弓月可染

●ディレクショナル・ガール
 ふらり、ふらり。少女は唯一人、森の中を行く。
 年の頃は十五そこそこだろうか。頭上の月にも雲がかかった光のない夜。住宅地から遠くはないと言えども、ここは決して制服姿で歩くのに相応しい場所ではない。
 だが、彼女は力なく、けれど迷うそぶりも見せずに歩くのだ。ふらり、ふらりと。
 やがて。
 虚ろな目をした少女の前に、それよりも幾分か幼い雰囲気の少年が姿を現した。
「集めてくるんだ。グラビティ・チェインを」
 突如。
 少年の背後から、幾本もの蔦が飛び出し、少女を絡めとる。まるで、新たなる宿主を見つけたと言わんばかりに。
「……これが、オレの決意だ」
 雲の切れ目より漸く顔を見せた月。
 その光が、少年の胸に銀の狼を浮かび上がらせた。

●ヘリオライダー
 岐阜県大垣市。そこが、新たに攻性植物の出現が予見された場所なのだとアリス・オブライエン(シャドウエルフのヘリオライダー・en0109)は告げる。
「もちろん、狙いはグラビティ・チェインなのだと思います。人気のない森から市街地に現れて、住民の皆さんを襲う。これまでにも、そういう事件はありましたから」
 故に、ケルベロス達への依頼は、市街地に至るまでに攻性植物を撃退すること。――だが、彼女の表情は、単に事件の説明をするというには曇っていて。
「この攻性植物は、人に取りついているんです」
 しかも、他の誰かの支配下に置かれており、捕らわれた人を説得したところで、上位者の呪縛を打ち破るのは難しいだろう。そして、その上位者が何者か、何処に居るのかは未だ判ってはいない、と。
 そう説明を続ける彼女は、決定的な言葉を避けている。――最早、被害者ごと殺すしか手がないのだ、ということを。
「……、被害者は近くに住む中学生の女の子で、数日前に行方不明の届が出ていたそうです。運が悪かったのだと思いますけれど……」
 そもそも、そんな年代の少女が一人で森に入るのか、という疑問もある。はっきりとはまだ何も判っておらず、少し気になる、という程度のひっかかり。それを振り払い、アリスは説明を続けた。
「――ひとまず、これ以上の被害は防がなければいけません」
 現れる攻性植物は、生身の少女に蔦が巻きついたような外見をしている。蔦を敵に絡みつけて動きを妨げたり、地に潜らせて一帯を呑み込もうとしたり。果ては、光を集める花を咲かせて光線を撃ち込んだりと、その能力は多彩だ。
「今後、警戒を続ければ、黒幕の足取りを掴むことが出来るかもしれません。でも今は、現れる敵を倒すのが第一ですから」
 よろしくお願いします、と一礼するアリス。それを受ける幾人かは、とうとう彼女が被害者の少女の名前すら告げなかったことに気付いていた。


参加者
ラハティエル・マッケンゼン(黄金炎の天使・e01199)
葉室井・扨(湖畔・e06989)
月霜・いづな(まっしぐら・e10015)
ムジカ・レヴリス(花舞・e12997)
ノーグ・ルーシェ(二つ牙の狼剣士・e17068)
ジェミ・ニア(星喰・e23256)
セリア・ディヴィニティ(揺らぐ蒼炎・e24288)
水無月・香織(地球人の鹵獲術士・e30250)

■リプレイ


「――征こう、甲斐姫」
 意外にもしっかりとした足取りの少女が、闇の向こうから姿を現す。無言のままに出迎えるケルベロス達、その張りつめた沈黙を破ったのは、葉室井・扨(湖畔・e06989)が漏らしたテノールの囁きだった。
 天上に輝く月、足元を照らす幻想の灯。二つの月光が照らし出す少女の名を、彼はまだ知らない。
 ただ、知らないという事を知っていた。
「ボクらは、先に進まなくてはならない」
 そう口にして、扨は大きく踏み込んだ。鞘走る愛刀、溢れ出でるは刃の輝きと――穏やかな雰囲気を覆す殺気。
「……君の為にも」
 斬撃。身体を這う蔦が弾け飛ぶ。その時、更に一撃を加えんとする扨の身体を、背後から眩い光が包んだ。
(「悲しいね、どうにもならないって事は」)
 進み出でるはジェミ・ニア(星喰・e23256)。夜に陰る翡翠の瞳は、しかし昏き憂いを湛えていて。
「その子に罪はないだろうに」
 嘆息する様に呟いた。そしてもう一歩、二歩、前に出る。彼を知る者は、その姿に違和感を覚えるかもしれない。ヒット・アンド・アウェイの支援寄り遊撃――それこそが、ジェミの得意とする立ち位置のはずだから。
 けれど。
「駄目だよ。人を傷つけちゃ駄目」
 あえて、その身を曝す理由を彼は抱いていたから。
「ケルベロスとしてやるべき事は一つ、敵を討ち滅ぼすのみ」
 その背を目で追うラハティエル・マッケンゼン(黄金炎の天使・e01199)は、何時もの様にそう嘯いた。
 守護者たる誇り。この身に燃やす炎。その全てが、魔を滅せよと彼を駆り立てる。
「だが、戦う理由はそれぞれか。フッ……」
 なれど、騎士は自らの内にそれぞれの主を抱いているという事も彼は知っていた。だから、彼もまた胸を焦がし、高らかに名乗りを上げるのだ。
「我らその名をケルベロス、この星の守護者なり! ――いざ、我らに星々の聖なる加護を!」
 天の星座が地に顕現し、守護の結界を展開する。光に包まれる空間。その中を、炎を身に纏った少女が駆けていく。
「こんな時間に一人でなんて、危ないわネ」
 いや、それはムジカ・レヴリス(花舞・e12997)の燃えるような緋の髪だ。よく眺めていた夜空の星には目もくれず、彼女はまっすぐに蔦の少女へと迫って。
「ここで、止めなくちゃ」
 踊る様に蹴り上げた。意識せずとも動く身体。身体を宙に浮き上げるモーメント。淡い光を纏ったしなやかな脚が、少女を――蔦と茨とを打ち据える。
「――アタシは、自分だけは失くさなかったから」
 変革を強いられた自覚はある。だから、自分の身体が未だ踊る動きを忘れていない事を、彼女は皮肉にも感じていた。

 大して差がある訳ではない。だが、水無月・香織(地球人の鹵獲術士・e30250)にとって、少女は余りにも幼すぎた。
「十五歳の時、私は何してたっけ……」
 けれど、それが感傷である事くらい、彼女は知っている。だから、助けられなくてごめんね、という言葉は心の中に留め置いた。
「その手は汚させないよ。私達がここで止めるから」
 高く舞い上がり、遥か空中より蹴り下ろす。その足先に宿るは星々の力、万物を縫い止める不可視の枷。全ての感傷を呑み込んで、香織は足止めに徹する。
「事情がどうあれ、手は抜かないわ。――恨みたければ、恨めば良い」
 一方、その援護を受けて仕掛けるセリア・ディヴィニティ(揺らぐ蒼炎・e24288)の言葉は厳しかった。身に纏った流体金属から光り輝く粒子を放つ彼女は、蒼き炎を揺るがせもしない。
 だが、それも私達の役割よ、と続けた声には、また違う感情が載せられていた。攻性植物に操られ、望まぬ戦いに身を投じる少女の姿は、まるで。
(「慰めにもならないでしょう、けれど」)
 まるで、翼なき戦天使の様で。
「きこえますか、むすめさま」
 早くも荒れ狂う鋼鉄と魔力の奔流の中、月霜・いづな(まっしぐら・e10015)は懸命に呼びかける。その声は、嵐に紛れて何とか細き事か。力なきものか。
(「……たとえ、とどかぬとわかっていても」)
 そう知ったとて、彼女が諦める事はない。叩き起こされた和箪笥のつづらが、主と仲間を護る忠犬の様に音を立ててまろび出る。
「だいじょうぶです、すぐにそこから出してさしあげますから……!」
 いづなの背に立つ朧げなる存在が腕を伸べる。ちり、と肌を灼く魔力の渦。そして、具現化した火球が一直線に少女へと飛び、蔦を焼いた。
「攻性植物――蔦と茨、か」
 炎に怯んだ彼女を襲う、ノーグ・ルーシェ(二つ牙の狼剣士・e17068)の二刀。背の鞘から抜き放たれ、瞬時に月の如く弧を描いた斬撃は、太い蔦とぶつかり合って絡め捕られたが。
(「……まさか、お前もじゃないよな、ネリム」)
 彼の脳裏に浮かぶのは、同じく行方不明になった級友の姿。植物を体に巻き付けていた、という不確定の噂。
 ならば、退くという道はない。手掛かりを求め、彼は逆に得物へと力を籠める。
「ネリムって奴を知らないか。アンタより少し年下だ」
「……さあね」
 その問いかけに、少女は胡乱な微笑を浮かべた。


 地を割る様にして噴き出した蔦をステップで避け、幾度目かの接近を試みるムジカ。
「人を苗床にして操るなんて」
 許せない、と吐き捨てて、彼女は随一の武器たる蹴撃を見舞う。蔦だけを狙うのは難しくとも、せめて少女の身体が傷つかなければいい。
 だからこそ、ムジカは手加減しなかった。少しでも早く倒してしまう為に。鋭く敵を捉えた彼女の脚は、黒雲を帯びし荒南風も似て。
「黒幕を探し出して討たなきゃネ。絶対に」
「寄生、操作、もしかしたら呪縛。随分と手の込んだ真似だわ」
 後に続くセリアの指摘は重い。攻性植物がこうも念入りに、あるいは執拗に仕掛けてきた、という事自体が脅威なのだから。
 オーズの種を思い出す。あれは、エインヘリアルが黒幕だったか。
「……早急に手を打つべき、ね」
 半身を覆う金属を恃みに拳を繰り出しながら、セリアは思考を進める。同年代の少女一人すら救えない無力感は、未だ彼女を苛むけれど。
(「同じ事が続けば、心が持たない仲間も出てくるわ」)
 ちら、といづなを見やる。感情に寄り添いすぎる犬耳の少女。禍祓いとして、気を強く張って居る様ではあるが――。
「……およばぬちからの、なんとくちおしいことか」
 視線に気づいたか、そう応えるいづな。軽やかに、大胆に飛び出して袖を捲れば、細い腕は獣の力を宿した凶器へと変わる。
「されど……わたくしたちは、せめて、できることを!」
 夢見がちな少女が声を張る。その凛とした声は、神聖なる誓約であり、果断なる布告であり、そして勇気ある鼓舞であった。
 そして、最年少の仲間が告げた祝詞にも等しい言葉に、セリアもまた懸念を捨てる。その背に広げた輝ける翼が、僅かに光を増した。
(「そう。彼女はもう、助けられない」)
 むしろ、陰を落としているのは香織の方だ。彼女は間違いなく大人で、そしてある意味で『普通』の人間であったから。
 だから、感情を押し殺す事は出来ても、割り切るには程遠くて。
「止めるよ。あなたが罪を犯さないように」
 高速言語による圧縮詠唱。古代の呪文を瞬時に唱え、香織は掌から石化の呪力を帯びた光線を解き放つ。徹底的な動きの阻害を狙った、冷静な動き。
 その陰で、歪まぬ表情に潜む僅かな違和感を彼女が隠し通せてしまった事は、彼女自身にとっては重荷だったかもしれない。

「くっ……!」
 太い蔦の一撃をまともに受け、ジェミが苦しげな息を吐く。レプリカントの身体とて苦痛を感じない訳ではない。限りなく人に近い彼ならば尚更だ。
「――駄目だよ」
 もう一度繰り返す。その言葉は、防がれた少女と庇われたノーグ、その双方に向けられていた。
 攻性植物になった少女が人を傷つける。それは、彼女の尊厳すら否定するのと同じだ。そして、仲間たる狼の剣士。彼の動きは、勇敢というには余りにも自分が傷つく事を恐れなさ過ぎて。
「……すまない」
 庇われる程に突出した自覚はあったか、ノーグは押し殺した声で詫びる。
 友がこの事件に関わっているという確証など、何一つなかった。少女が答えを持っているとも思えなかった。
 それでも。
 この先に友が――ネリムが待っている。その予感が、彼を離さない。その確信が、彼を逃がさない。
 だから。
「ネリムは無事で無関係っていうのが、一番だけど……!」
 真実に辿り着けるならば危険など踏み越えてみせる。居合の如く放った二つ牙の一、悪しきものを斬る霊刀が、少女の身体を抜けて蔦を裂く。
(「事件の手掛かり、か」)
 そして、傷を癒す黄金の光に身を浸しながら、ジェミもまた後で手掛かりを探す事を決意していた。
「君には辛いだろう、その身体は」
 もう一枚の盾たる扨が、隙を逃すまじと側面から斬りかかる。女傑の名を戴いた見事な拵えの霊刀が、月光を受けて煌いた。
 いや。
「――君にも、見えれば好いけれど」
 それは幻想。それは幻惑。煌く光などありはしない。気づいた時にはもう終わっている。月無き朔の夜の如く、刃など目に留まらぬままに。
 着飾った姫君は佇んだまま。ただ、斬った、という結果が残された。
「見事!」
 感に堪えぬラハティエルの声。騎士は強者を知る。ならばこそ、彼がその太刀筋の凄まじさを理解できぬ道理がない。
 滅魔刀と星辰の件、腰の二振りが今こそ振るえと主張する。魔弾の射手を退ける為の名誉の負傷ではあったが、この好機に右肩が痛むのは唯々口惜しかった。
「ヒールドローン、スタンバイ! スクランブル!」
 だが、彼が最後方に控えているからこそ、少女の激しい攻勢にも余裕をもって耐える事が出来るのだ。普段は支えられる立場だけに、ラハティエルはその重要性を理解していた。
「私は私の役割を果たすだけだ。戦略的にな、フッ……」
 だから、自ら斬り込みたい心を抑え、黄金の天使は癒しを振り撒き続ける。


 やがて、戦いの天秤は傾き始める。いかに攻性植物が強靭とは言え、八人と一匹が相手では分が悪い。必然の結果として、少女の体にも目を背けたくなる傷が増えていった。
「……、ねぇ、あなたの名前を教えてよ」
 知れば苦しくなる。そう判っていてなお、香織は呼びかける。あるいは、ヘリオライダーの少女であれば知っているだろうか。
 持ち物の一つだけでも、少女の家族に返す。彼女の優しい決意は、きっと喘ぐ程の胸の痛みを呼ぶけれど。
「だから、もうお休みなさい――」
 突き出した掌から撃ち出される弾丸。風の魔力を秘めたそれは、命中した瞬間に暴風を引き起こし、少女の全身を引き裂いた。
「一体誰なんだ、君をそんな風にしたのは」
 ジェミもまた、答えの得られない問いを放つ。問わずにはいられなかった。口数の少ない、オリジナルの模倣たる彼であっても、決して感情が無いわけではないのだから。
 至近距離で突き付けた砲門。槌に開いた口が、破壊の力を蓄え赤熱する。さながら、ドラゴンのブレスの様に。
「ああ、どうにもならないって、悲しいね」
 轟音と共に放たれる火球。劫火と衝撃波とを撒き散らした爆発に、少女ごと蔦茨が焼き払われる。
 そして、反撃もまた強烈だ。目の眩む様な閃光、視界を塗り潰したそれは、高熱線となってケルベロス達へと降り注いだ。
「大丈夫か! 十秒くれ、緊急回復する……!」
 その苛烈な攻撃に、真っ先に反応したのはラハティエルだった。巻き込まれた者の多さを瞬時に判断し、二振りの得物で地に陣を描く。
「よし! 攻性植物を滅ぼしてやれ!」
 物騒な檄と共に発動した守護結界。抜き放った得物が、突撃の誘惑を囁いて。
「フッ……だが、仲間達を信頼しようではないか。頼んだぞ!」
「ああ、任せてくれ」
 援護を受けたノーグが、手に馴染んだ霊刀に手を掛ける。銘を孤狼丸、旅に出たその日から彼と共に戦っていた相棒が、くん、と鯉口を鳴らして。
「――咎を、焼き尽くす!」
 放たれたのは鋼の斬撃ではなく、白く清浄なる炎。二つ牙抜刀術の奥義とも言えるそれは、邪なる攻性植物を灼いていく。
「せめて安らかにと、祈るくらいしか出来ないけれど」
 一旦、地面を強く蹴って距離を取る。俯瞰すれば少女はもうボロボロで、彼らに戦いの終わりが近いとはっきり教えていた。
 だから、もう一つの不安が再び顔を出す。
「ネリム……、どこにいるんだ?」

 怒涛の様に突き刺さる蔦茨。少女の攻勢を必死に躱す扨が、ムジカへと呼びかける。
「このままじゃ危ない。護りを固めるよ」
 愛刀を抜き、足を止めて切り払う。鞘の化粧は剥がれども、縦横に舞う甲斐姫の美しさは損なわれるものではない。
「ムジカ、好きに薙ぎ払ってくれて構わない」
 藤の大木の下で、蓮酒の宴で。肩を並べた戦友だからこそ、合わせてみせる、と請け負った。
「扨ちゃんから言ったのだもの。手加減なしよ」
 そう頷いて、足止めされた少女へと迫るムジカ。刃閃く中を抜けて、摩擦の炎を纏った脚が幾度も叩き込まれる。
 それは、平時には決して見る事のない、二人が織り成す舞踊。決してしくじる事はないという双方の信頼の上に成り立つ抜身の剣舞である。
「生きていくのは楽しい事ばかりじゃない。辛い事、悲しい事がたくさんあるけれど」
 でも、ひとりぼっちで囚われて逝かなければならない理由なんてなかった。伸ばした手が間に合わなかったという、忸怩たる思い。
 それでも。
(「ごめんなさい、は自己満足ね」)
 終わりにする事で伝えるわ、と決めたムジカに寄り添う様に、蓮の花を咲かせた扨が今ひとたび刃を振るった。
「彼女が、何をしたと言うのだろうねぇ」
「運が悪かったのよ」
 そう言い切ったセリアは、実のところ、割り切れない問題を無理に割り切ったに過ぎない。一言で少女の不運を受け流し、代わりに彼女は一つの覚悟を決める。
「同じ事はそう幾つも起こさせないわ――だから、眠れ」
 構えた長剣の先端に、濃密なグラビティ・チェインが集束する。針でつつけば弾けそうな程の張り詰めた力場。次の瞬間、引き絞った腕から放たれた突きが少女に突き刺さると同時に、びしりと音を立てて傷口が凍りついた。
 だが、その時。

「――痛いよぅ」

 何人かが息を呑む。朧にしか意思もないであろう少女が漏らした声。
 それは、ケルベロス達の動きを止めるに十分で。
「……さいごまで、ようたえられましたね」
 けれど、いづなの幼い声が、次いで朗々たる祝詞がつかの間の静寂を破った。

 ――いざや共に参らむ、昼ひなかの天座す霜と呼ばれしや。
 ――月の姫、月の彦、しろがねの爪牙打ち鳴らせ!

 ぱん、ぱぁん、と。
 柏手二つ、現れたるは雌雄の銀狼。不浄なる蔦を獲物と定め、彼らは巫女の神託を待つ。
「ふこうでしたと――あきらめたくなんて」
 そして、銀の風が吹く。
 後には、もはや力を、いのちを失った少女が倒れているだけだった。

作者:弓月可染 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 8/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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