深夜――煌々と月影照らす山道を往く1つの影。
まだ年端もいかぬ少年だった。そのあどけない面は茫として、まるで夢見心地のように、ふらりふらりと山中へ足を踏み入れる。
程なく、少年の行く手に現れる人影――所在なさげに大木に背を預けていた『彼女』は、下草踏む足音にゆるりと首を巡らせる。
腰を過ぎる豊かな銀髪が月影を艶やかに弾く。白皙の肌、華奢に反して健やかに育った胸元やすんなりと伸びた脚を、フリル愛らしいノースリーブとミニスカートという装いが際立たせる。
美しい少女だ。その見た目は。だが、涼やかな碧眼に感情は無く、華奢に緑の太蔓が禍々しく絡み、細腕を紅蔦が彩る。
時に身体の太蔓が、蛇が身体を這うように蠢く異様。何より、深夜の山中に軽装の少女という不自然さ――しかし、夢見心地の少年は、恐怖の色もなく、不思議そうに小首を傾げる。
「お姉ちゃんが、僕を呼んだの?」
少女の唇が歪んだ。或いは笑おうとしたのかもしれない。静かに繊手が少年へ伸ばされるや、のたくる太蔓が一斉に襲い掛かる!
ゴキリ、ゴキュリ――。
全身の骨を砕かん勢いで、巻きつき呑み込み――忽ち出来上ったのは、こんもりとした蔓の檻。太蔓の縛めに全身を囚われ、少年の面から精気が抜け落ちる。
「これで、あなたはワタクシの『仲間』」
抑揚をつけ、謳うように囁き、紅蔦絡む手が蔓檻を優しく撫でる。
「……うん、『仲間』はもっと欲しいよね」
対照的に棒読みの応えと共に、蔓檻はゆっくりと動き出す。
新たなる獲物を――グラビティ・チェインを、『仲間』を捕えるべく。
「……定刻となりました。依頼の説明を始めましょう」
集まったケルベロス達を見回し、都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)は静かに口を開く。
「広島県の山間の町に、攻性植物が現れます」
折りしも、その町では毎年恒例の町内運動会が催されるという。人が集まる機会を利用する算段でいるようだ。
「攻性植物は、運動会が催される公園広場近隣の雑木林から、グラビティ・チェインを求めて襲撃しようとしています。皆さんには、攻性植物が公園広場に現れる前に、撃退して戴きたいと思います」
事件を起こそうとしている攻性植物は『移動する太蔓の檻』のような形状で、その中に少年が1人囚われている。
「どうやら、何者かの配下となっているようで、説得での救出は不可能です」
囚われの少年は、付近で数日前から行方不明の子供と特徴が一致しているようだ。
「運悪く、1人でいた所を攻性植物に捕らえられたのでしょうか……些か、気になる案件ではあります」
ふと考え込む素振りを見せる創だが、すぐタブレットの情報に目を落とす。目下は攻性植物の撃退が最優先だ。
「攻性植物は単体で行動し、配下はいません」
単体ながら、公園広場近くの雑木林に潜み、町内運動会襲撃の機会を窺っているようだ。
「これまでならば、白昼の町中でも構わず暴れようとしたでしょうが……今回の攻性植物は、身を隠して『効率』を図るくらいの知恵が回るようですね」
だが、見た目の異様はこれまでと同様だ。ケルベロスも森に入って捜索すれば、襲撃前の発見も可能だろう。雑木林での戦いとなるが、武器の取り回しに馴れたケルベロスならば、然したる障害とはならない筈だ。
「攻性植物は、檻を形作る太い蔓で攻撃します」
四方八方に太蔓を伸ばして敵群を捕え、毒棘を生やして鞭のように叩き付ける。又は蔓を捩り合わせた槍状で貫き、精気を啜る事も出来るようだ。
「見た目に違わずタフですので、お気を付け下さい」
今回、攻性植物に寄生されてしまった少年は、救う事が出来ない。その心苦しさからか、創の眉間に皺が寄っている。
「残念ながら、本件の元凶となる敵の発見は不可能のようです。警戒活動を続ければ、敵の足取りを掴めるかもしれませんが……まずは、攻性植物の襲撃阻止を。皆さんの武運をお祈りします」
参加者 | |
---|---|
鬼屋敷・ハクア(雪やこんこ・e00632) |
ウィセン・ジィゲルト(不死降ろし・e00635) |
ネロ・ダハーカ(マグメルの柩・e00662) |
ベルンハルト・オクト(鋼の金獅子・e00806) |
三石・いさな(ちいさなくじら・e16839) |
火鳴木・地外(酷い理由で定命化した奴の一人・e20297) |
ツェツィーリア・リングヴィ(アイスメイデン・e23770) |
シマツ・ロクドウ(ナイトバード・e24895) |
●秋晴れ狩り日和
運動会日和の秋晴れだった。
広島県の山間の町は、朝から賑やか。町内運動会の準備で、早朝から会場の公園広場に人々が集まる。
「……これって」
時折、マイクテストのアナウンスが聞こえる中、雑木林に潜む攻性植物を狩り出す為、準備を進めるケルベロス達。
「殺界形成の効果範囲、半径300m以内だっけ?」
周辺地図を眺めて顔を顰める三石・いさな(ちいさなくじら・e16839)に、怪訝そうに頷く鬼屋敷・ハクア(雪やこんこ・e00632)。
「展開の場所、考えないと公園広場に被るよ?」
「確かに……」
地図に仮書きされた半径300m相当の円の大きさに、ウィセン・ジィゲルト(不死降ろし・e00635)もボクスドラゴンのズィフェルスと並んで目を瞠る。
「運動会、中断させるのは拙いでしょうか」
静かに微笑んだまま、シマツ・ロクドウ(ナイトバード・e24895)は首を傾げる。
殺界の影響は人々の無意識に働く。パニックが起こる心配は無いが、運動会を中断して人々がいなくなれば、それを狙って雑木林に潜む攻性植物がどう動くか。
あっさり見限って他の人が集まる所を狙い直すか、或いは……襲撃が早まれば、犠牲者が増えかねない。
種族特徴や防具特徴は便利だが、効果や範囲に融通は利かない。悪影響を及ぼさぬよう、注意も必要だろう。
「となると、公園広場を避けて……ハクアの殺界形成の展開場所がここなら、A班は『A-1』、B班は反対側の『I-9』から捜索開始、だな」
テキパキと、地図上にポイントを打つネロ・ダハーカ(マグメルの柩・e00662)。
二手に分かれての捜索なら、地図も2枚用意。それぞれ罫線を引き、雑木林のエリアを細かに判別出来るようにした。
「さぁ、狩りの時間と参りましょう」
獲物とて身を潜めし程度の知恵は有りしど、狼が追跡からは逃れる事能わず――不敵に呟き、ツェツィーリア・リングヴィ(アイスメイデン・e23770)は軽やかに緑生す方へ足を向ける。
「わたしは殺界の展開ポイントに急ぐね」
凛と頷くハクアだが、大切な相棒の青い眼差しに表情を和らげる。
「ドラゴンくん、今日もお仕事よろしくね?」
(「……少し後味悪くなっちゃうかもだけど」)
チクリとした心痛は胸の奥に仕舞い込み、ボクスドラゴンの頭を撫でる。
(「皆を守りぬく、先ずはそこからだ」)
肩越しに振り返れば、遠目に公園広場に集う町の人々。守るべきものを実感し、我知らず両拳に力を入れるベルンハルト・オクト(鋼の金獅子・e00806)。
(「俺の直感が正しければ……この事件には、何か裏で知能有る存在が居る筈だ」)
一方、火鳴木・地外(酷い理由で定命化した奴の一人・e20297)は、実にシリアスな表情だ。
(「そしてそいつは恐らく……胸が特盛だ。この手に収めなくちゃな……」)
手をワキワキする地外を見上げる、ウイングキャットのおむちーの眼差しが何だか冷ややかだった。
●緑の影を探して
「――了解、ツェツィさん! 発見したら連絡よろしく!」
ツェツィーリアに簡潔に応じたいさなは、通話を切りながら振り返る。
「ハクアさんの殺界形成OKだって!」
「判った。先導するから付いて来て」
ベルンハルトの言葉に続き、シマツも望遠鏡を取り出し控えめに頷く。
A班はいさなとベルンハルト、シマツに地外とおむちーを加えた4人+1体。地図の『A-1』、雑木林の北西から足を踏み入れる。
ベルンハルトとシマツが歩く度、茂みも木もひとりでに曲がり、緑の路を作り出す。防具特徴「隠された森の小路」の効果だ。
(「でも、攻性植物には効かないだろうから。路にならない緑は要注意だな」)
戦いとなれば、正々堂々と――逸る心持ちを抑え、警戒を怠らないベルンハルト。
最初は、光の翼で上空から森全体も見ていたシマツだが、木々の枝に視界を遮られて余り効果が無いと判ると、専ら望遠鏡越しに景色の変化を注視し、直截的に太蔓や少年の影を捜した。地上からも森全体の動きや、大地の揺れの有無にも気を付けている。
「……『A-3』も異常なし、と」
「先は長そうだな」
先導2人に続く地外は、手持ち無沙汰にいさなの手元の地図を覗く。示されたマーカーは、正にいさな自身の現在位置。やはり防具特徴である「スーパーGPS」の賜物だ。B班も同様に現在位置を把握している筈。
(「返してもらうんだから!」)
勝気そうないさなの翠眼が木漏れ陽を弾く。1人の少年を捕えた攻性植物を求め、4人は雑木林の奥へ更に足を踏み入れていく。
B班はハクアの合流を待った為、A班より些か遅れて捜索を開始した。
時間を割いて殺界形成したお陰で、万が一にも雑木林に一般人は近付かないだろう。だが、ハクアの表情は浮かない。
(「助けられないって、わかっているのはつらいね……」)
寄生された少年が救えない事は、最初からヘリオライダーが断言している。けれど、少女の優しく在ろうとする心は、救えない無力さに幾許かの怒りを覚える。
「……そうだね、何かやれる事は、ある筈」
小さく鳴いたドラゴンくんに微笑み、ハクアは尽力を改めて決意する。
「不運であった、と言ってしまえばそれまでだが」
ハクアの呟きに察したか、肩を並べて緑の小路を作るネロは、苦く唇を歪める。
「――最初から救えないと解っているのはどうも、心にざらめくものを遺してしまうな」
自らの胸元を撫でる一方、注意深く首を巡らせる。夜が好きなネロにとって、午前早くはまどろむ時間だろうが、その『ざらめき』が藍の双眸を冴えさせているのかもしれない。
ズィフェルスと物音に気を付け、耳を澄ますウィセンの脳裏に浮かぶのは『アイツ』。
(「今回の事件が『アイツ』が通りえた未来だとしたら、全力で対処させて貰う」)
アイツの名は「植体のディクトデア」――不死を不死から降ろす者として、先日撃破された宿敵への思いも強い。
それぞれの思いを抱え、B班は雑木林を南東から攫って行く。
(「救出が不能とあらば、疾くと引導を渡すがせめてもの慈悲」)
緑陰に在って、いっそお嬢様然とたおやかな物腰の内に凍て付くアザミの如き苛烈を秘め、ツェツィーリアは粛々と地図をチェックする。
「『G-6』異常なし――」
やはりスーパーGPSが示す現在位置のエリアに×印を付けた時、首に着けた骨伝導喉咽インカムが通信を告げる。
「……判りましたわ、すぐ参ります」
すぐ通話を切り、急ぎ仲間に地図を見せるツェツィーリア。
「発見でございます。場所は『D-3』。『小路』で北西方向に直進を!」
●合流に至る攻防
――――!!
風切り音が幾重も木霊し、太蔓が雪崩打ってA班前衛を襲った。
防具特徴を駆使し、二手に分かれて捜索する――緑生い茂る中での移動と、迅速かつ詳細な場所の特定に関しては、確かに功を奏した。
先刻、いさなが連絡したB班も、急いで向かっているだろう。戦端を開くのは合流後の心算だった。
しかし、合流まで如何に敵に気付かれる事なく監視するか――身を隠して『効率』を図る知恵は回る敵に対して、発見後の無策は迂闊と言わざるを得ない。
結果、B班を待たずして、A班は太蔓の洗礼を浴びる事となる。
「仕方ないなぁっ!」
咄嗟に地外を庇い、唇を尖らせるいさな。12歳に違う少し幼なげな少女ながら、喧嘩も戦いも何のその。こうなれば、頑張って抑えるべくキッと異形を睨む。
こんもりとした緑の塊は、確かに太蔓の檻のよう。中に生気無い少年が全身を蔓に拘束されているのが垣間見える。
「その子から離れてっ!」
大鎌とナイフを構えるいさなの超集中の果て、サイコフォースが爆ぜる。続いて、ベルンハルトのエアシューズが唸りを上げ、炎纏う蹴打を放つ。 地外が掲げる縛霊手より、網状の霊力が放射された。
本来なら、それぞれの得意技だ。おいそれと外す事はあるまい。だが、攻性植物は見た目に違う機敏さで、反撃をかわして回る。
「キャスター、ですか」
淡々と呟き、シマツは丁寧に会釈する。
「どうも、攻性植物さん。シマツです」
微笑みを浮かべて宣告した。
「では、刈り取りますね」
喩え檻に少年が見えようと、一切の躊躇いもなく、全身を「光の粒子」に変えて光速の斬撃を浴びせんと。
ガキィッ!
当たれば重畳だったが、足止めの斬撃を太蔓の鞭の如き一閃が弾く。
「おむちー!」
キャスター相手に捕縛を被ったままでは、更に命中も覚束なくなる。地外の掛け声に、ウイングキャットの羽ばたきが前衛の邪気を掃った。
ブンッ!
再び、太蔓の鞭が振るわれ、打ち据えられようとしたベルンハルトを、今度はおむちーが庇う。
メディックはB班のネロだけだが、まだ到着していない。小さく悲鳴を上げたウイングキャットに、いさなは溜めた気力を注いだ。
「おいお前、もしかしてだけどよ……」
本来ならば、全員で戦ってこそ対等の攻性植物だ。戦力半分の今は、只管耐え忍ばんとシャウトするA班の面々。シマツも専ら狙われる前衛達に気力を注ぐ。
「お前をその姿にしたやつ、特盛じゃなかったか?」
…………。
地外の大真面目なシャウト(?)におむちーは再び呆れた風情だが、当の攻性植物は無反応。
直後、太蔓の槍が地外に向けられたのは偶然だろう、多分。
――――!
だが、緑の穂先が長身に届く前に、白き小柄が遮る。
「遅く、なってごめんなさい」
太蔓の槍をドラゴニックハンマーで押し返すハクアは、小さく肩で息をしていた。その背後よりひょこりと顔を出したドラゴンくんのボクスブレスが、じわりと攻性植物に浸透する。
「撃ち貫くは黒き銃弾、牙砕きし衰弱の魔弾」
息詰まる数分の末、いよいよB班が合流する。ブレードライフル【ハティ】を構え、ゼログラビトンを射出したツェツィーリアが誇らかに謳う。
最後に駆け付けたウィセンの旋刃脚が閃き、ズィフェルスのボクスブレスが続くも、こちらは相次いでかわされた。命中率は眼力で知れる。現状、キャスターの敵にクラッシャーのウィセンが当てるのはかなり厳しいか。
「さて、後ろは任せてくれ給えよ」
黄金の果実を掲げるネロだが……合流後のケルベロス側の前衛は実に5人と3体。列減衰はエフェクトにも影響する。以降、前衛への列回復はその意義も半減か。
ともあれ、これでケルベロスの戦力も揃ったならば。
「少年の苦しみは、疾く断ってやらねばならん……それが彼の命を奪うと同義だとしても」
ネロの言葉に、シマツは静かに笑んだまま。再度、全身を「光の粒子」に変えた。
●太蔓の檻に囚われて
「斬らせていただきました」
シマツの幾度目かの光速の斬撃が、漸く攻性植物を捕えた。
今回の編成にスナイパーはいない。反撃の足掛りは不在だが、足止め・捕縛の技を準備したケルベロスはいる。
(「苦しまずに、どうか」)
ハクアの轟竜砲、地外のスターゲイザーと縛霊撃、シマツのハネキリ――敵がキャスター故に時間が掛かったのは致し方ないが、粘り強く攻撃し続ければ何れ命中する。そして、一度、足止めすれば、すかさず、いさなやボクスドラゴン達のジグザグ技が畳み掛けた。
――――!!
ケルベロスの前衛が倍増した事で、攻性植物はジャマー2人を狙うようになっていた。太蔓が荒れ狂い、時に鞭、時に槍と化して打ち振るう。
「後ろの人達は、触れさせないよ」
それでも、ディフェンダーが半数を占めるならば、打たれ強い盾が幾度となく庇い続けた。盾が庇えば、メディックたるネロのヒールで足りる。ケルベロスのほとんどが攻撃に集中出来るようになったのは重畳だろう。
とは言え……どんなに強力なバッドステータスも、どんなに高火力の攻撃も、当たらなければ無為になる。
頑丈なキャスター相手に火力不足は否めず、合流後も膠着状態は長く続いた。
「続くは凍て付く光条、零下の煌めきにて咲き誇る氷結の華」
その上で、長期戦には長期戦なりの戦いがある。ツェツィーリアの青白きフロストレーザーは、ケルベロスの攻撃の度に太蔓を凍らせる。
「装甲を破砕します」
シマツのバリケードクラッシュ、ベルンハルトの破鎧衝は、ジワジワと穿ち、削っていく。
そうして――ウィセンのズタズタラッシュが蔓檻を捕らえるに至り、漸くケルベロス達は好機を悟る。
「俺な、野郎は子供でも殴れるんだぜ」
残骸の拳は形状も恐ろしく、思わぬ死角からの一撃は狙い過たず、強かに攻性植物を打ち据える。同時に、ウイングキャットの爪が鋭く引っ掻いた。
「砕け散れ、花よ舞え……ごめん、ね」
ハクアが創り出したのは、鹿を模したサモン。桜花咲き誇る角を振り上げ、駆け抜ける透明の鹿は、攻性植物を捕えるや砕け散る。
キラキラと薄片舞う中、静かに構えるウィセン。
(「敵を見て核を見抜きそこを砕かぬように敵を砕く、これぞ造踊活食の有り方なり」)
錬技・造踊活食――敵の核を見定めて衝撃を叩き込めば、檻自体が慄くように震えが走った。
「撲殺です」
すかさず、シマツがスマッシャーをフルスイングすれば、小さきドラゴン達のボクスブレスが相次いで追随する。
「さようなら。一番大きいの……ぶつけるよ!」
込み上げる悲哀を呑み込み、いさなは持ち得る最大級の魔力と武力を水流に変えて叩き付ける。地を揺らし飛沫を上げ響く轟音は、まるで大鯨の鳴き声のよう。
「……助けてやれんで、すまないね」
この期に及んで、ヒールは不要だろう。纏うバトルオーラが燃え上がり、爆ぜた気咬弾は狙い過たず、緑躯を貫く。ふと、風に乗って聞こえてきたのは運動会お馴染の行進曲。
「君も運動会に出る予定だっただろうか」
(「問うてもきっと、答えは……」)
悼むように瞑目するネロの予想通り、檻の中の少年は無表情のまま。
「これより招くは黄昏の訪れを告げし大いなる冬。氷刃乱舞にて覆いて葬るは白銀の彼方へと。さぁ、来たれ来たれ、冬来たれ」
旋律に合わせてツェツィーリアがブレードライフルの引き金を引けば、吹き荒れるのは破滅のブリザード。刺突は疾風と化し、斬撃は吹雪の如く。無数の銃弾は群狼の様相。
――I Have Control.
これも又、求めて止まない『力』の1つ。己が視界を真っ赤に染め、体温を限界まで上げるベルンハルト。
(「もはや元には戻れないならば、せめて安らかに」)
圧倒的な機動力と強烈な武威を以て、少年の刃は太蔓の檻を囚われの少年諸共に両断した。
ドサリ――。
長期戦の末、蔓の戒めより解放された小柄が地に臥せる。その掌から零れたのは紅の蔦葉。
「もしや……ヤツか?」
太蔓と同じく即霧散した紅を見て取り、ベルンハルトの顔色が変わる。
(「そうだとするならば……今度こそ、倒す」)
何も出来なかったあの時の二の舞になど、させやしない!
「おい、大丈夫か?」
気遣わしげな仲間の声にも答えず、少年は強く唇を噛み締めた。
作者:柊透胡 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
|
種類:
公開:2016年10月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|