銀の囀り

作者:鉄風ライカ


「あなた達に使命を与えます」
 緩やかに波打つ豊かなブロンドの女が微笑む。
 赤い仮面に隠された双眸で配下らしい螺旋忍軍二人が跪くのを見下ろし、女――ミス・バタフライは冷酷な笑みを深めた。
「この町に工房を構える銀細工師に接触し、その仕事内容を確認……可能ならば習得したのち、殺害なさい」
 グラビティ・チェインは略奪してもしなくても構わないと付け加える辺り、目的が他のデウスエクスとは異なるものであることが窺える。命令を言い渡された螺旋忍軍も特に疑問を投げるでもなく素直に従うようだった。
「畏まりました、ミス・バタフライ」
「了解です! 意味ないように見えても、じきに重要な意味を持つのがバタフライ様の作戦だもんね!」
 口々に了承の意を唱えた螺旋忍軍達はミス・バタフライの元を素早く離れる。
 作戦遂行に意気揚々と赴く道化師じみた格好の二人組を、女は満足げに見送った。


 首を左右に何度も傾げながらメモ帳に目を落とす蛍川・誠司(虹蛍石のヘリオライダー・en0149)に、ローデッド・クレメインス(灰は灰に・e27083)が訝しげな様子で声を掛けると、誠司は傾げた首もそのままに眉根を寄せて苦笑した。
「んー……不思議なデウスエクスっすよねー」
 ふ、とメモ帳を覗き込めば『螺旋忍軍ミス・バタフライ』の文字。
「あァ、ミス・バタフライっつーと、最近良く見る名前だな」
「風が吹くと桶屋が儲かるの術、みてーな作戦で珍しいお仕事の一般人を狙うんだってさ」
 原理はよくわからないが、事件を阻止しなければ巡り巡ってケルベロスに不利な状況が生じる可能性が高いことだけはわかっている。
「なんにしても被害に遭うひとを放っておくことはできないし。一般人の保護と、ミス・バタフライの配下の撃破をお願いしたいっす」
 ヘリオライダーの少年が机上に広げた地図、赤く印の付けられた部分には『銀細工工房』とプリントされている。狙われるのが銀細工職人であることを説明し、誠司は襲来する敵への接触法の提案を始めた。
 ただ単純に被害者となる職人を事前避難させてしまうと、敵が標的を他の珍しい職業へと移しかねない。そうなれば当然、どこかで起こるだろう別の事件を防げなくなる。
「だからさ、こんな方法はどうっすかね?」
 曰く、今回予知した事件の発生は三日後。今から件の工房に赴いて銀細工仕事を教えてもらうことができれば、『銀細工職人を狙う』螺旋忍軍の襲撃対象をケルベロス達に変えさせられるかもしれない。
「ある程度、それなりに見えるくらいの実力が必要になっちゃうから、頑張って修行する必要はあるかもだけど。職業体験ってのも楽しいんじゃないかな」
 気楽にへらっと笑い、誠司は工房のホームページを携帯電話の画面に表示してみせた。
 並ぶ作品画像にはアクセサリーを中心に、石の嵌め込まれたものや個性的な彫りを施したものなどが輝いている。中でも一際売りにしているらしい工芸品は、鳥の形をした鈴のようだ。
 つぶらな瞳に小さな嘴、ふっくらとした頬の、美しくも愛嬌ある姿。
 柔らかい音でころころ鳴り、鳥が囁き囀るように歌う。――画像の下に、そう説明書きがなされていた。
 続けて話は敵戦力についての解説に移行する。
「敵は螺旋忍軍二体。男女のペアで、目の周りに星のペイントがしてある男のほうが、比べれば強いみたいっすね」
 道化師然とした風貌の二人組が繰り出すトリッキーな連携攻撃は厄介だが、もし職人を装ったケルベロス達の囮作戦が成功すれば有利な戦況を作り出すことも可能だろう。
「まぁ相手も一般人よりケルベロスの皆が強いことくらいはわかるっすけどね、技術のある職人なら普通のひとより強いのかなーみたいに思ってくれるんで大丈夫っす」
 特に怪しまずに接触してくるようなので、そこを上手く突ければ。
 バタフライエフェクト――いずれ大きな災害を生み出す蝶の羽ばたきを止めるため。
「皆の力を貸してほしいんす。よろしくお願いっすよん」
 余った袖を揺らし、少年はひらひら手を振った。


参加者
霧島・奏多(鍛銀屋・e00122)
ナディア・ノヴァ(わすれなぐさ・e00787)
サイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394)
黒江・カルナ(黒猫輪舞・e04859)
鋼・柳司(雷華戴天・e19340)
ヴィルベル・ルイーネ(綴りて候・e21840)
君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)
ローデッド・クレメインス(灰は灰に・e27083)

■リプレイ


 足を踏み入れた工房には特有の熱気は勿論、職人達の覇気で溢れていた。決して妥協せず良いものを生み出していこうと銀に向かう様は、成程確かに、敵が奪うに値する『何か』を感じさせる。
 しかし、こうして真摯に作品を作る彼らの技術は、ひとつひとつ積み重ねて培われてきたもの。どこか幼い瞳を感心するように瞬かせ、ヴィルベル・ルイーネ(綴りて候・e21840)は興味深げに作業場を見渡した。職人の魂ともいえる技術も、ましてや彼らの命も、奪わせるわけにはいかない。
 ケルベロス達の来訪に気付いた職人の一人が頭に巻いた手拭いを外しながら近寄ってくるのに対し丁寧に一礼した黒江・カルナ(黒猫輪舞・e04859)に続き、君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)とナディア・ノヴァ(わすれなぐさ・e00787)は自分達がケルベロスであることを始め、ここに赴いた理由と教えを請いたい旨を説明する。
「誠心誠意、修練と守護に努めよウ」
「修行させて頂く上に作業場を少々荒らしてしまう事、どうかお許し頂きたい」
 驚きの様相を浮かべる職人へそう告げれば、何事かと作業の手を止めて注目していた他の職人達も協力を快諾してくれた。自身の命や工房の無事よりも、守るためにわざわざケルベロスが来てくれたことが嬉しいような態度だった。
「こんな小さな町の工房に……ありがとうございます」
 年若い見習いらしき青年が不器用に頭を下げる。朴訥な彼の仕草に飄々と笑って、あんま気にすんな、とサイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394)は指先をひらつかせた。
 襲撃までの期限は三日間。迫り来る脅威に備えるため、一同は工具を握る。


 作品展示スペースに並んだ切り出しのかんざしや大掛かりな工芸品をしげしげ眺め、鋼・柳司(雷華戴天・e19340)は大胆さと繊細さの織り交ざった銀細工の世界に暫し浸る。施された細かな彫刻にも、製作者の心意気がありありと見て取れた。
 この緻密な装飾を施せるようになるまでにはどのくらいの努力が必要になるのだろうか。職人達の鍛錬の月日に思いを馳せ、振り返り見た作業場では、囮役に名乗り出た面々と工房体験に興味を持った者が懸命に教えを受けている。
 まずは工法を良く聞くところから、と、霧島・奏多(鍛銀屋・e00122)は真剣な眼差しで職人の作業に目と耳を傾けた。自身にも銀細工の心得はあるが、あくまで独学ゆえ、直接技術を吸収できる機会とあらば向上心も相当に。
 丹念に繰り返す槌の動きが一段落したのを見計らい、奏多は無意識のうちに額を流れた汗を拭う。職人の集中が自分にも伝わってきていたらしい。
「やはりこの工程は集中が必要……と」
「おう、歪みも味っちゃ味だが、ここで気を抜くと完成したモンも気が抜けちまう」
 苦手ながらも会話を試みようとする奏多の真面目さを感じ取ったのか、壮年の職人は豪快に笑い皺を深めた。
「兄ちゃんは腕に覚えがあるんだろう。一丁、ウチの名物にも挑んでみるかい」
 挑戦的な提案は見所があればこそ。ひとつ確と頷いた奏多が銀と向き合う隣に、職人は満足げな様子で指導に付くのだった。
 自身の技術向上も兼ねて難しい工法にも挑まんとする奏多とは異なり、ローデッド・クレメインス(灰は灰に・e27083)は限られた時間内でも出来そうな、比較的簡単かつ見栄えの良い技の習得を目指す。自分も敵も素人同士、ならばパッと見の出来が大事と、仕上げの磨きに精を出し。
 とはいえ、元よりローデッドも手先の器用さには自信があるのだ。武骨な指先が紡ぐゆるやかな曲線の花弁に、彼の手元を覗き込んだヴィルベルが目を見張る。
「おぉ……意外と手先器用だよねローデッド。もうちょっと荒々しいのが出来ると思ってた」
「あァ? お前ら人を脳筋か何かと思ってんだろ、失礼な」
 荒い口調も愉快げに、ローデッドは、羨ましそうな視線を寄越すナディアにも舐めてくれるなよと言を返す。そのナディアはといえば、
「ナディアのは……独創的って便利な言葉だよね」
 とのヴィルベルの感想に悔しくも言い返せないくらいには、何というか、お察しください。
「ハッ、良いじゃん独創的。それはそれで個性ってもんだろ?」
「そうだろうか」
 思案顔で首を捻って、ローデッドの言う個性に溢れた自分の作品に目を落とすナディア。どことなく歪な個所もそう評されればある意味一期一会、愛着が湧いてくるかもしれない。
 方々を覗いていたヴィルベルも改めて銀細工に着手する。防護越しの肌に感じるバーナーの炎が想像より熱かったり、溶けた銀粒の燃えるような色も、工程を経るごとに少しずつ形を変えていく様も、ものづくりの楽しさを直接彼へ語り掛けてくれるよう。
 こころがあらわれるようだ、と一連の作業に熱中する青年の後方、あちらこちらと興味を目移りさせるサイガも彼なりに工房体験を楽しんでいるようで。ゆるり浮かんだ笑みの形に口元を緩めたまま、作業場を行ったり来たり。
 ふと耳に届いた知人達の声に覗き込めば、先程自身が職人から受けた評と同様に独創的なナディアの作品と、数々の煌めく銀が目に留まる。
「ははっ、ガチで職人なれんじゃね?」
 精密作業に向かない自分の気質はどこへやら、ひとしきり知人達と交わした言葉の果てに、最後には清濁併せて笑い飛ばして。いずれにせよ、サイガにとっては出来の良し悪しよりも創り出すことの楽しさの方が大きいようだ。
 一方、幾分か賑やかさを増した工房の片隅では、眸がひとり黙々と作業に没頭していた。
 誠実に指示を守り、技術の修得に精を出した成果は、決して華やかではないだろう。しかしその緻密さは中堅どころの職人に意欲を沸き立たせたらしい。
「よし、兄ちゃん。俺に教えられることなら好きなだけ教えてやるぜ。どこまでいけるか見せてもらおうじゃねえか」
「宜しく頼ム」
 眸と中堅職人が意気投合するその後ろでは、カルナが職人の指先を瞬きひとつせずに凝視していた。流れるような作業工程のひとつひとつを目に焼き付けるように、その手から生み出される作品に籠められた願いや想い、心をさえも見逃さぬようにと。
「――嬢ちゃん、良い目ェしてんな」
 不意に声を掛けられ、思わず目をぱちぱちさせるカルナに目を向けることさえせず、職人は続ける。
「嬢ちゃんみてぇな素直な目ェしてる奴はな、素直に気持ちを籠めるのが一番いい」
 変に色々考えるよりも、まっすぐに作品へと気持ちを込めてやること。それが作品にも表れるのだと職人は言う。彼の作業を見続けていたカルナには、その言葉もすっと胸に染み込むようで。
「私も優しく歌う鳥を生み出せるよう、努めます」
 心のままに、そう応えた。
 限られた時間でどこまで出来るかはわからないが、それぞれがそれぞれに意気を籠めて。槌と白銀の音が響く工房で、時は過ぎてゆく。


 ちりん、と鈴の音が響いて入り口のドアが開く。一般人としては少々奇異な装いの男女二人組。間違いなく、件の螺旋忍軍であろう。
 本物の職人には客に扮したケルベロスが既に張り付いている。さすがに会話中のところに割り込むつもりはないのだろう、道化師二人が声を掛けあぐねているのを見て取り、ナディアとサイガが互いにそれとなく目配せをする。
「おう、お客さんだ。悪いが頼む」
 合図代わりの一声を聞いた奏多が道化師達へと寄り、
「ご用向きは」
 声を掛ければ女は随分と賑やかに、男は大分堅苦しく、銀細工を教えてもらいに来たと返す。予定通りの流れに奏多が暫し悩んでみせたところへローデッドが近付いて、
「一人一人技量に差があるからな」
 二人同時には難しいと理屈をつけて反応を窺えば、相手も「それもそうか」と案外素直に聞く様子。
 奥で練習の体を取っているヴィルベルにも声を掛け、そちらもローデッドの言葉に頷きつつ「作業もキリが良いし別々に教えようか」と、それぞれの準備を始めていく。
 その間にカルナをはじめとした客役のケルベロス達は静かに本物の職人達を順次外へと誘導し、気を逸らせる意味も含め、柳司が道化師へと問い掛けた。
「此処の作品はどれも素晴らしいな。無論、それを作る職人も」
 そう思わないか、と問えば、返ってくる答えは当然、
「そうだね、この鳥の鈴とかいいよねー!」
 やはり敵の狙いはそこか。やがて道化師が男女それぞれに席を宛がわれると、男道化師が何故こんなに離れるのかと聞く。
「銀細工は集中こそ肝要。ヒトとは離れて作業した方が善いのだ」
 職人然とした眸がそのように言うのであればそうなのだろうと、男道化師は理解を示す。いずれ殺すつもりだからなのだろうか、真意を知っている立場からすれば、その姿は技術さえ盗めればそれでいいと言わんばかりに映る。
 工具も材料も揃う頃、店内には道化師とケルベロスだけになっていた。いざ作業に、というその時、サイガが軽い調子で声音を弾ませた。
「なぁなぁ、もっと楽しいコトしねえ?」
 それは、準備が成ったことの知らせ。
 不審な表情を浮かべる道化師達に気取られる前に、迅速に。サイガの腕に纏う蒼黒の獄炎が、女道化師を強かに打ち据えた。
「ッ!?」
 突然の先制攻撃に惑う男道化師へ、ナディアもまた鉄塊剣を叩き付ける。事ここに至ってようやく彼らがケルベロスだと気付いた矢先、男の目前に立つ眸もまた自らのビハインドを呼び出していた。
「キリノ、背を託す。皆はワタシが守ル」
 指示を受けたキリノの思念が材料の金属片を飛ばし、女道化師を撃つ。その様子に男道化師が回り込もうとするも、眸の強烈な蹴撃が男道化師の行く手を阻む。
「行かせなイ。貴様の相手はワタシだ」
「おのれ、ケルベロス!」
 怨嗟の声を上げる男道化師をナディアと眸の二人が足止めしている間に、他の面々は女道化師へと集中砲火を浴びせ始めていた。ヴィルベルの放つウイルスに塗れ息苦しそうな女へと、カルナの呼び出した緑の悪夢が侵食する。
 頭よりずっと大きな道化帽を揺すり、女道化師は苛立ちも露わに叫んだ。
「邪魔ばっかり、もう怒ったんだから!!」
 怒りに任せて振り翳したフラフープがローデッドに迫る。両の手にしたバールでがちりと抑えれば、一瞬その視線が絡み合い。
「別にテメェらの目的だとか知った事じゃねェ」
 ローデッドにとって、その先にあるものに興味はない。
 ――ただ、目の前のそいつが小憎たらしい神の一員だというのであれば、
「此処でぶちのめすだけだ」
 フープを抑えていたバールが炎を巻く。押し返す勢いで繰り出した炎撃が、女道化師の身を焦がし。
 この隙を逃す手はないと、鋼色に輝く義手を露わに駆ける柳司。
「俺のものは銀細工に比べると少々凶悪でな」
 鋼は刃金と化し、刃の如き手刀が月の煌めきを見せながら女道化師を切り裂いた。
 折り重なる連撃を浴びて息も絶え絶えの女道化師へと、神経を研ぎ澄ませた奏多が照準を合わせる。銀を媒介とし炸裂した魔術弾は流星となって女道化師を穿ってゆく。
 ぱさりと床に落ちた道化の帽子は、音もなくさらさらと消えていった。


 ナディアの剣閃が雷のような軌跡を描く。分断されたとはいえ、強敵を眸と二人だけで抑えるのは正直骨が折れた。それでも、女道化師を屠った今となれば話は変わってくる。
 眉根を寄せた男道化師は強がりと自信の間を取ったような声で笑った。
「我が奇術、どうぞお楽しみを」
 男の指に挟まれたコインが跳ねる。
 道化師の手元から不意に消えたコインは、ナディアに届く寸前でローデッドに叩き落され。弾丸じみたコインの齎す幾らかの痛みと流血を気にも留めず、青年は左眼にちらつく炎を燻らせる。
「お返しだ」
 浅く血の這う褐色の腕、振るう武器が伝える手応え――道化師に与えた一撃は重い。
 事前に聞いた通り男道化師は女道化師と比べれば強いが、流石にこの状況下では螺旋忍軍の劣勢も否めない。咄嗟に扉に視線を遣った男道化師の思考を読んだように、
「逃げられると思うな」
 低く奏多は告げる。
 逃走は既に警戒されていた。扉側の壁となった奏多が打ち込む一撃が、内から敵の身を苛んでゆく。
 ぐっと呻いて身体を折った道化師の眼前、更に柳司の手には、先程の道化師と同じくコイン。
「どれ、コインマジックの芸なら俺も一つ見せてやろう」
 磁力砲台と化した掌から撃ち放たれたコインが、とてつもない速度で道化の身を掠る。バランスを崩させるには充分、機は此処に在り、と眸が動く。
 リングから生み出された光の剣が腕を裂き、キリノの金縛りが道化師の動きを封じる。動きの鈍くなった相手へと迫るのはサイガ。
「ま、息抜きにゃなったわ」
 降魔の力で振り下ろされる大鎌が道化師に凶悪な衝撃を与えてゆく。後先を考えない力任せな所業を縫うようにして、ヴィルベルの冷ややかな視線が道化師を刺した。
 嫌いな相手に何かを教えるのは虫唾が走る。それを教えてくれた礼にと嘯いて。
「真っ黒な花でも差し上げようか」
 咲き乱れた数多の黒薔薇が道化師を絡み包む。棘に穿たれ身を捩る道化師に向かい、
「君らの心根に比べれば綺麗な色だろう?」
 宣えば、その言葉をカルナが継いだ。
「……この素敵な姿や歌声は、職人様の御心があってこそ成るもの」
 ちりりと涼やかに囀る銀の鳥を手に、もう片手にはガトリングを構え。無情の者に真似られる訳もないとにべもなく言い放つや否や、吐き出された無数の弾丸を叩き込む。
「招かれざる客人には、消えて頂きましょう」
「そうだな」
 カルナに同意するナディアの地獄化した指が、ゆらりと頭上へと掲げられ。鉛の弾丸を引き継いで、燃える星が機関銃の如く降り注ぐ。
「とっとと燃え尽きろ」
 既に半分以上消え落ちた目元の星が、降り落ちる星に焼き消された。
 その身も焦がして灰と化し、道化の姿は微塵も残らない。

 作戦が成功したこともあり、工房そのものの被害は想定よりも少なく済んだようだった。ヒールをかける奏多の目に留まったのは、あの戦いの中で無事に残った銀の鳥。
 果たして自分が手を掛けた鈴は、どんな風に囀るのだろうか。少しばかりの興味から、小さく耳元で揺らしてみる。
 涼やかな音色を微かに耳にしたカルナは、自分の心にも温かい何かが流れ込んでくるような気がしていた。温かな心の元に生まれた鳥達は、その心を囁いているのだろうか。それならば、願わくば。
(「癒しと幸せ運ぶ鳥さん達が、そして職人様が、再び穏やかに過ごせますよう」)
 銀と鋼と炎と心。それらが作り出す優しい鳴声が、秋晴れの空に静かに融けていった。

作者:鉄風ライカ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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