モンスタードーナツ!

作者:天木一

「あれ? ここどこ?」
 少女が周囲を見渡すと、明るい照明に清潔な部屋。そして棚が並びそこには多種多様なドーナツな並んでいた。そこは少女がよく食べにいくドーナツ屋の店内だった。
「わ~ドーナッツだ!」
 不可思議な状況も忘れて少女は笑顔を浮かべ、甘い香りのするドーナツの並ぶ棚に近づく。
「チョコレートもおいしいしーふわふわしたのもおいしいよね~。でもでも、クリームの入ったのが一番好きかなー」
 うーんと背伸びして、少女は高い位置のドーナツを手に取る。それはふんわりとした生地にホイップクリームの入ったドーナツだった。
「えへへ、だれもいないし、いいよね……いただきまーす!」
 少女が大きく口を開けて齧りつく。溢れたクリームが口元を汚すが、気にせずに少女はドーナツをもぐもぐと味わう。
 そんな時だった、照明に光を遮り少女の体を影が覆う。
「んえ?」
 少女が何かの気配に振り返る。するとそこには……。
『ドーナッツ!』
 少女よりも遥かに大きなドーナツの姿があった。それは少女が食べているドーナツに似ている。だが違うのはドーナツにまるで人の顔のように目と口がデコレーションされている事だった。その口が大きく開くと少女を丸呑みしようと迫る。
「きゃぁーー!」
 少女が叫び暗闇が世界を覆う。
「ドーナッツが! え? ………ゆめ?」
 ベッドから飛び起きた少女は見慣れた自分の部屋で目覚めた。
「はぁ、そっかーゆめかー。ゆめなら大きなドーナッツを食べたかったなー」
 安心した少女がはにかむ。その瞬間、胸に何かが突き出た。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
 少女の背後にはいつの間にか第三の魔女・ケリュネイアが鍵を持って立っていた。その鍵は少女の心臓を貫き、傷一つ無く引き抜かれる。
 目を閉じた少女がまた眠りにつく。その横には4mにもなる巨大なドーナツの姿が現われていた。
 
「ドーナツのお化けが出るにゃ!」
 灰色子猫獣人の姿をしたケーシィ・リガルジィ(黒の造形絵師・e15521)が元気に叫ぶ。
「どうやらビックリする夢を見た少女がドリームイーターに襲われ、『驚き』を奪われる事件が起きているようです」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が説明を引き継ぎ、ケルベロス達に説明を始めた。
「『驚き』を奪ったドリームイーターは既に居ませんが、奪われた『驚き』を元にドリームイーターを生み出し、事件を起こそうとしているようです。皆さんにはそのドリームイーターが被害を出す前に倒して欲しいのです」
 このドリームイーターを倒さなくては、『驚き』を奪われた少女も目を覚まさない。少女を救う為にも早急に撃破する必要があるだろう。
「敵は巨大なドーナツの姿をしたドリームイーターです」
 到着時には既に少女の家を窓から飛び出て、周辺を彷徨っている。
「ドリームイーターは誰かを驚かせたいという衝動を持っているようです。ですので家の近くを調べれば遭遇出来るはずです」
 その周辺には外に出ないように到着前に警報を出しておくので、一般人が先に出会う確率は低いだろう。
「子供の夢を勝手に奪い利用するなど許しては置けません。ドリームイーターを撃破し、眠り続ける少女を目覚めさせてあげてください」
 頭を下げるセリカに、ケルベロス達は任せろと返事をする。
「でっかいドーナツがどんなのか楽しみだにゃ! だけど悪さをするなら倒してしまわなくてはならないにゃ! 残念だけど仕方ないにゃー」
 ハイテンションのケーシィがちょっと残念そうにする。
「でもドーナツ好きの子供を助けるためにゃ! がんばるにゃー!」
 最後に気合を入れ、可愛い猫の顔をキリッとさせたつもりで拳を挙げ、他のケルベロス達も少女を助けようと、ドーナツ退治の作戦を練り始めた。


参加者
リナリア・リーヴィス(クラウンウィッチ・e01958)
葉月・静夏(戦うことを楽しもう・e04116)
村雨・柚月(無量無限の幻符魔術師・e09239)
滝・仁志(みそら・e11759)
黒木・市邨(蔓に歯俥・e13181)
ケーシィ・リガルジィ(黒の造形絵師・e15521)
フェイト・テトラ(くくく騙されましたか僕は美少・e17946)
シトラス・エイルノート(ヴァルキュリアの降魔拳士・e25869)

■リプレイ

●夜道のドーナツ
 既に人が眠り始めるような遅い時間帯。静かな道にケルベロス達が集まっていた。
「でっかいドーナツ楽しみにゃ~。写メ撮ったりかじったりいろいろしてみたいにゃ……。土星の輪よりもでっかい夢なのにゃ……」
 意気揚々と猫のような姿をしたケーシィ・リガルジィ(黒の造形絵師・e15521)は、巨大ドーナツとの出会いを楽しみに夜道を歩く。
「ドーナツは好きですよ! いちごチョコがけのとか、クリーム挟んだのとか、美味しいのです!」
 フェイト・テトラ(くくく騙されましたか僕は美少・e17946)は好物のドーナツを想像して力説する。
「ドーナツ型の敵ですか……。生け捕りにして持って帰ったら姉さんが喜びそうですね。……冗談ですよ?」
 にこやかにシトラス・エイルノート(ヴァルキュリアの降魔拳士・e25869)がそんな怖い冗談を飛ばす。
「『驚き』なんて、なんだか変わったものを狙うデウスエクスもいるんだねー。でも、どうして驚きでドーナツなのかな?」
 そんな疑問に葉月・静夏(戦うことを楽しもう・e04116)は首を傾げ、お化け型提灯で辺りを照らした。
「巨大なドーナツのお化けとは、成る程、浪漫があるね。とはいえ、被害が出るとあれば浪漫では済まない処。まあ、頑張りますか」
 敵を見逃さぬように黒木・市邨(蔓に歯俥・e13181)は暗い周囲を注意深く索敵する。
「ドーナツの夢だなんて、可愛らしいよね。俺も可愛いようじょと一緒にドーナツを……」
 滝・仁志(みそら・e11759)がそんな妄想をしていると、テレビウムのカポがポコリと頭を叩いた。
「いてっ、カポ殴んないで! ちょっと想像しただけじゃないかー」」
 慌てて手で頭を抱えた仁志が言い訳をする。
「まさかドーナツと戦う日が来るとは、ドリームイーターという話だが、ドーナツだと食べられる側では……」
 ドーナツに襲われるイメージが湧かないと、村雨・柚月(無量無限の幻符魔術師・e09239)は想像してるとお腹が空いてくると腹を撫でた。
 そうして夜道を探索している時、ぬぅっと影が差す。ケルベロス達は何かと電灯を遮るものを見上げる。そこには電柱に乗る巨大な輪があった。
『ドーナッツ!』
 ぼよんと跳ねるように落下してくる。それは巨大なドーナツだった。ふんわり生地に張り付いた顔のデコレーションが悪戯っぽい表情を作っていた。
『ドーナツドーン!』
 その口が大きく開いて、頭から丸齧りしてやるぞと脅かしてくる。
「大きすぎるでしょ!? バカじゃないの!?」
 ミミックの椅子を盾にして、リナリア・リーヴィス(クラウンウィッチ・e01958)が大袈裟に叫ぶ。
「きゃっ」
「ふええええええん!」
 それに驚いたように静夏が提灯を落として尻餅をつき、フェイトも分かっていたのに素で驚いていた。
「おおっと……これはこれは」
「でっかいドーナツにゃー!!」
 出来るだけわざとらしくならぬようにシトラスも驚いてみせる。ケーシィも驚いた振りをしながらもその姿を写真に収めた。
「うおっ! びっくりしたぁ……」
「ふお、巨大ドーナツ」
 驚いて柚月は足を止め、市邨も目を瞬かせた。
「うわっ、なにこれでかい。こりゃ言われなくても驚くよ」
 わざと驚くつもりが、素で驚いた仁志が口を開ける。その隣のカポも驚いたが我慢して平静を装った。その様子に仁志がえらいと内心で喝采を送った。

●巨大ドーナツ
『ドドドドッ、ドーナッツ!』
 巨大ドーナツは驚かなかったサーヴァント達を標的に、大きく口を開けて襲い掛かる。
 ビハインドのアデルが前に出て受け止めようとするが、人を呑み込む程大きく開いた口にパクリと食べられる。
「さぁ、あとは仕上げの戦闘だよと」
 仁志はカポをぽむりと撫でて駆け出し、飛び蹴りを浴びせると衝撃に口が半開きになる。
「大きくても食べられないんじゃ意味がないよね」
 眼鏡を掛けて戦闘モードに入ったリナリアは、ローラーダッシュで加速しながら回り込み背中を押すように蹴りつけた。口が大きく開きアデルが吐き出される。
「驚かしてくれたお礼をするからね!」
 静夏は道路標識のような斧に炎を纏わせ、横殴りに叩き込んだ。ドーナツに凹凸ができて甘い香りに焦げた匂いが混じる。
「いけっ! レッドバレット!」
 そこへ柚月は魔法で生み出した赤く輝く弾丸を、まるで野球のように振りかぶって投げつけた。高速で撃ち出された弾はドーナツを撃ち抜き、傷口が燃え始める。
「ここからが本番です!」
 驚いた事は無かったように、フェイトはドラゴンの幻影を生み出し炎のブレスで更にドーナツを炙る。
『ドーナッツ!!』
 フェイトに向かってドーナツが顔を向け、口を開けた。
「ほら、蔓。出番だよ、往っておいで」
 その前に市邨の元から白の勿忘草を咲かせる緑蔓が伸び、敵に絡みつき動きを止めた。
 ケーシィはミミックのぼっくんを放り投げると、ぼっくんはドーナツに喰らいついた。そしてケーシィが続いて獲物を狙う獣のように魔力の籠もった拳を叩き込んだ。
「でっかいドーナツ食べたいにゃ~。ちょこっとかじってもいいかにゃ?」
 そして返事も待たずにケーシィが歯を立て、美味しそうに頬張った。
『ドドッドーナッツゥ!?』
 ドーナツは暴れてケーシィを振り解く。
「これほど大きいとお土産にするのは大変そうですね」
 自然体で間合いを詰めたシトラスが、鋭い回し蹴りを放ってドーナツを押し付けるように電柱に叩きつけた。
『ドーナッツーー!』
 ドーナツが体から甘い香りを漂わせ、近くに居たケルベロス達を誘惑する。目を虚ろにした静夏がふらりと近づくと、ドーナツは口から白いクリームを吹き出して静夏の体を粘々にした。
「見た目はドーナツでも中身はドリームイーターですねぇ。治療しますよ」
 リナリアは体内の気を手に集め、静夏に向かって撃ち込みその体を活性化させて傷を治療する。
「でっかいドーナツだな、何人分あるんだ?」
 電柱を蹴って跳躍した柚月は、頭上から見下ろしたドーナツを、サッカーボールのように蹴り飛ばした。
「うーん、大きなドーナツって美味しいのかな?」
 正気に戻った静夏は大きく振り上げた道路標識を思い切り振り下ろしドーナツの表面を砕く。そして静夏はその欠片を口に含んだ。
「ん~あまーい! ちょっと甘すぎるかも?」
 糖分が多すぎて摂取しすぎが女子として気になる甘さだった。
「ドーナツといえば穴が空いてるものだよね」
 仁志は腕をドリルのように回転させ、ドーナツに突き入れ穴を穿つ。すると中からクリームが溢れ手にべったりと張り付いた。
『ドーナッツッドーナッツッ』
 空いた穴からクリームを仁志に向けて吐き出すと、割り込んだカポが代わりにその身を真っ白に染めた。
 ドーナツがまだクリームを出そうとするところへ、敵の死角から市邨はアームドフォートの主砲を展開し、砲弾を次々と叩き込む。一撃ごとにドーナツはバランスを崩しクリームの放出が止まった。
「はふーん、もっと食べたいにゃ~……あ。も、もちろんきちんとボコるにゃ!」
 至福の表情から我に返ったケーシィは、自らのスライムを仲間達に分け与え、それぞれの武器に纏わせて強化する。
「たとえ美味しいドーナツでも容赦はしないのです!」
 フェイトは風を巻き起こしながら、塀を駆け上がり飛び蹴りを浴びせた。
「焼くと出来立てのような香りがしますね」
 シトラスは火炎の渦を生み出し、ドーナツの全身を焼きつける。
『ドドドッドーーナッツ!』
 ドーナツがお腹を空かせるような甘い香りを漂わせて迫ってくる。
「ここからでも甘い香りが服につきそうだね」
 離れた位置からリナリアはロッドを鳥に変化させると、翼を羽ばたかせ飛翔し敵を爪で切り裂いた。傷口からクリームが溢れる。
「クリームが美味しそうです……でも我慢するのです!」
 フェイトは斧を振り回してドーナツを斬り裂くと、周囲に白いクリームが飛び散った。
「そういえばクリーム部分はどんな味なのかな?」
 静夏は左肘に炎を纏わせ、踏み込みながら肘打ちを叩き込む。花火のような爆発音と共にドーナツの傷口からクリームが溢れ出る。それを指で掬って舐める。
「う、こっちは甘くないっ……両方一緒に食べたら美味しいのかも?」
 濃厚な甘さに顔をしかめていた静夏は、甘い生地と甘くないクリームが合うのではと思いつき両方を口にして満足そうに頷いた。
『ドーナッツ!』
 ドーナツは静夏を呑み込もうと大きな口を開けた。
「さあ第二球だ! 黒焦げにしてやるっ」
 振りかぶった柚月がもう一度赤い弾丸を投げる。それはドーナツの口に入って中を炎上させた。
「よっと、ドーナツが人を食べようとするのはルール違反じゃないかな」
「ドーナツに食べらるなんて、冗談のような話ですね」
 下から突っ込んだ仁志がドーナツの顎らしき場所を蹴り上げ、上からは軽やかに跳躍したシトラスが蹴り下ろして無理矢理口を閉ざさせた。
 そこへ市邨が蔓を伸ばしドーナツに巻き付け、口が開かぬように拘束していく。
『ドンドンッ』
 ドーナツはほんの少し開く口から水鉄砲のようにクリームを飛ばす。それを椅子が受けびちゃりと張り付き自由を奪われた。
「ドーナツは食べるもので、食べられるものじゃないにゃ!」
 ケーシィが猫の形をしたオーラを飛ばし、椅子の傷を癒してゆく。

●焦げドーナツ
『ドゥーナーッツ』
 口が開かないならと、ドーナツはぷんぷんと体に沁みこみそうな甘い香りを放つ。
「そんな甘い香りなんて吹き飛ばしちゃうよ」
 リナリアの後方から風が吹き抜け、仲間の背中を押す追い風となる。その風に乗るようにケルベロス達は動き出した。
「ドーナツの香りを嗅ぐと食べたくなるにゃ……は!? こんな罠に引っかからないにゃ!」
 ふらふらと近づこうとしたケーシィは頭を振って雑念を払い、漆黒のライフルから光線を放ってドーナツを凍りつかせた。
「焼いたらもっと美味しくなるかな? ちょっと焼いてみよー!」
 静夏は押し付けるように炎を纏った標識をぶつける。じゅっと焼ける音と共にドーナツの表面が黒く焦げた。
「食べやすいようにバラしてやろうか!」
 柚月は傷口にナイフを突き立て、引き裂くように斬った。ドーナツはぼよよんと電柱よりも高く跳躍した。
「ドーナツでもドリームイータを食べるのはダメな気がするのです!」
 フェイトは魔法の光線を撃ち、柔らかいドーナツの側面を石化させていく。動きが鈍ったドーナツが落下してくる。
「甘味好きとしては喰らいつきたい位だけど」
 市邨の指先に弾ける雷電が編むように重なり巨大な塊と化す。
「――夢喰いならば、叩き潰すまで」
 放たれた雷塊がドーナツを呑み込み、凄まじい衝撃に吹き飛び塀をぶち抜いて地面に落ちた。
『ドーーーナッツッ!!』
 衝撃で戒めが緩んだのか、口を大きく開け砕けたドーナツが塀の破片を呑み込みながら迫る。
 その前に立ち塞がったぼっくんが、宝箱の中からいつもより多くのドーナツを撒き散らして敵の気を引く。
「クリームだらけになるからあんまり近づきたくないんだけど、仕方ないね」
 仁志が手を回転させてカウンターに貫手を放ち、ドーナツを穴だらけにしていく。その度にびちゃびちゃと散るクリームで全身が白く濡れた。
「そんな姿をしているのですから、食させて頂いてもよろしいんですね。もちろん食べるのは僕ではなくこちらの薔薇になりますが」
 シトラスが真赤な薔薇の攻性植物を這わすと、ドーナツは脅えたように下がる。だがその背後には物言わぬ死神が召喚されていた。手にした大鎌が振り下ろされ、ドーナツの輪が途切れる。
「焼きドーナツにしてあげるね」
 リナリアは炎を纏わせた足で蹴り飛ばし黒い焼き目をつける。その部分に椅子が齧りつき、歯型をつけて噛み切った。
「ちょっと焼きすぎたかもしれませんね……」
 残念そうに静夏は焦げたドーナツを見て、標識を振り下ろして切れ目を入れた。
「特に恨みはないが深夜のドーナツは滅べ!」
 見てるだけでお腹が減ってくるのだと、柚月はグラビティ・チェインの力を込めてナイフを振り抜いた。ドーナツの部位がまた大きく欠け落ちた。
『ドーナツゥッ』
 近づくなとドーナツがクリームを横薙ぎに吐き出す。それをぼっくんとアデルが身を挺して防ぐ。
「たっぷりクリームをご馳走してもらったからね、最後にこっちもたらふくご馳走するよ」
 仁志が色とりどりの重力波を放つ。強力な波が幾度も右へ左へとドーナツを打ち据える。
「流石にここまでぼろぼろだとお土産にも出来ませんね、始末してしまいましょうか」
 追い討ちにシトラスが蹴りつけドーナツはごろごろと転がり電柱にぶつかり、反動でぐるぐると回転して目を回す。
「此れで、終りだよ」
 市邨が蔓を伸ばし、ドーナツの体を締め上げた。強い圧力に傷口からクリームが垂れ落ちる。
「さっさと女の子の夢に帰るのです!」
 フェイトが魔力の刃を放ちドーナツを斬り裂く。すると暖かな白い光が敵を照らして心を解した。ドーナツは憑き物が落ちたように穏やか顔のデコレーションとなり、その存在が薄れ始めた。
「最後にもう一度だけかじってもいいかにゃ?」
 ドーナツが消えてしまう前に、ケーシィは爪で切り裂くようにクリームのついたドーナツの綺麗な部分を抉り採り、パクリと口に放り込む。そして幸せそうににゃーと鳴いた。

●美味しいドーナツ
 巨大ドーナツが完全に消滅すると、人気の無い夜の静けさが戻ってくる。
「今度、牛乳不使用のを買って帰ろうかな」
 うちに居る牛乳がダメな子へのお土産を考えながら、リナリアは壊してしまった建物にヒールを掛けていく。
「口の中がすごく甘い……口直ししないとね」
 くつろぐように静夏が用意しておいた深蒸し緑茶で口を濯いだ。甘いものに渋みがよく合う。
「カポもクリームまみれになっちゃったね」
 仁志が笑うとカポがジャンプしてくっつき、更にクリームがべったりと服についた。
「――今度は大きなドーナツが食べられると良い、ね」
 穏やかに眠れっているだろう少女の家を見上げた市邨がそう呟く。
「夜中に甘いものは結構な誘惑というか、動くとお腹が空くね。コンビニにでも寄って返ろうかな」
 戦い疲れ、しかもずっとドーナツを見ていて甘い物が欲しくなったと、柚月はコンビニの光に吸い込まれるように足を向けた。
「でっかいドーナツもっと食べたかったにゃ……。コンビニドーナツで我慢するにゃ、新作あるかにゃー?」
 巨大ドーナツを丸々食べたかったと惜しそうにしながら、ケーシィもふらふらと誘われるように歩き出す。
「僕もドーナツ食べたいのです!」
「それでは姉さんにお土産を買って帰りましょうかね」
 それに続いてフェイトとシトラスもコンビニへと入っていく。ケルベロス達はドーナツや色々な夜食を買い食いしながら、楽しそうに夜道を歩くのだった。

作者:天木一 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 1
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