月喰島奇譚~闇夜の襲撃

作者:犬塚ひなこ

●駐在と異形
「――集合! 件の侵入者がまだいるぞ!!」
 蓮にとって聞き覚えのある声が響き渡り、市街地の一角に反響する。
 市街地の探索と調査中のケルベロス達の背後に現れたのは駐在の格好をした敵。そして、彼が連れている十数体の異形の敵達だった。
「やっぱりアイツか! 皆、あれが……」
 以前の調査中に自分達を襲った駐在だ、と蓮が告げる前に空に向けて撃たれた銃声が言葉を掻き消す。しかし、仲間達は蓮が言わんとしたことを理解していた。
 即座に布陣を整えたケルベロス達は迎撃の姿勢を取る。
 普通ならば戦うか逃げるかという選択になるだろう。だが、市街地に降下した者達はこの島の敵を排除するために訪れている。それゆえに敵に背を向ける選択肢はなかった。
「市民共、今度こそ侵入者を抹殺しろ! 全てはドラゴン様の為に!!」
 駐在型の敵が配下達をけしかけようとする最中、フェクトは口をへの字に曲げながら不服そうな声を落とす。
「ドラゴン様ドラゴン様って、私を崇めた方が絶対いいと思うけどなあ」
 だって私は神様だから、と杖を構えたフェクトは片目を瞑った。不敵にウインクをした少女に続き、ホワイトハートと一緒に踏み出したカティアも敵を強く見据える。
「負けない。ボクは悪いものを倒しに来たんだから」
「抹殺なんてされません! あたし達は皆揃ってこの島から帰るんです。おやつも良いですが、都会のファミレスでパフェ食べるんです!!」
 エピが心からの思いを言葉にすると、チャンネルもしゅしゅっと拳を振るって戦う気概をみせた。リディは仲間達の気持ちを頼もしく感じ、自らも強く構える。
「そうだよ、私達はみんなの幸せを守るために……わっ!」
 だが、その瞬間に後衛に向けて駐在の銃弾が放たれた。驚いて身を引いたリディだったが、その一撃が届く前にフローネがリディを庇うようにして割って入る。
 寸での所で銃弾は紫水晶のように輝くシールドで受け止められた。 
「く……! 全員、無事に帰りますよ!」
 身を以て一閃を受けたフローネは、駐在が秘めた力の強さを知る。
 相手は今まで戦ってきたような弱い存在ではない。おそらく相手との戦いは熾烈を極めるだろう。セレナも同様の考えを抱き、仲間達を守る為に立ち塞がる。
「この身は盾となり! この剣で、邪なるものを打ち倒してみせます!」
「皆で生きて帰るのが最優先。支え合って、この戦いに勝つよ」
 儚はセレナの勇敢な言葉を聞きながらも、窘めるように落ち着いた言葉を紡いだ。
 自分達の目的は調査と救援。
 それはどちらが欠けてもいけない。自分達が倒れれば今までの調査結果はすべて無駄になるだろう。だが、だからと言って誰かを犠牲にして逃げることなど出来ない。
 儚の声を聞いた蓮は深く頷き、仲間達に呼び掛けた。
「ああ、もちろん誰の犠牲も出さない。皆! 撃破目標は奴、指示を出す駐在だ!」
 蓮は確信していた。駐在の周囲には計十三体の敵がいるが、上位者からの指示が無ければ異形の敵達は組織だった行動は行わなくなり危険度も低くなるはず。
「敵の数は多いが、あの駐在さえ倒せば何とかなる!」
 蓮は指先を駐在にしっかりと差し向け、行くぞ、と鬨の声をあげた。おー、とフェクトとリディが答え、エピもぐっと掌を握り締める。
 儚とカティアは異形達の様子を窺い、フローネとセレナは駐在の次の動きに注視した。
 駐在が手にした銃口はケルベロス達を屠る為に向けられ続けている。敵の攻撃方法も動きも不明のままだが、怖気付く暇すら今はなかった。
 この戦いには決して負けられない。仲間達は全員で一緒に本土に帰るという決意を抱き、頷きを交わしあった。
 そして――異形の敵達との激しい戦いが幕あける。


参加者
寺本・蓮(眼鏡が本体疑惑・e00154)
玖々乱・儚(参罪封じ・e00265)
フェクト・シュローダー(レッツゴッド・e00357)
エピ・バラード(安全第一・e01793)
セレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)
リディ・ミスト(幸せ求める笑顔の少女・e03612)
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)
カティア・エイルノート(ヴァルキュリアのミュージックファイター・e25831)

■リプレイ

●決心
 其処は深い闇の中。
 周囲と様子と状況、皆の心境のどれもがまるで暗い夜の中に飲み込まれそうだった。既に始まりを迎えている戦いの中、ケルベロス達は迫り来る敵を睨み付ける。
「奴らを一人ずつ殺せ!」
 駐在が叫んだ声に従い、異形の敵達は此方を狙って腕を振りあげた。玖々乱・儚(参罪封じ・e00265)は多くの敵にも怯まず、傍らのテレビウムに呼び掛ける。
「いくよ、てれ。数は多いけど倒さないと帰れないよ」
 こんな匂いの場所でゆっくりなんてしたくないしね、と呟いた儚は敵からの攻撃を受け止め、反撃として大鎌を振るった。
 合わせてフローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)とリディ・ミスト(幸せ求める笑顔の少女・e03612)も攻勢に移っていく。それに続いて寺本・蓮(眼鏡が本体疑惑・e00154)が銃とナイフを一体化させたガンナイフを召喚し、ひといきに振るった。
「はてさて、こいつらは何時頃からこの状態なんだろうね?」
 敵を穿ちながら、蓮は駐在を見遣る。彼を守るように布陣する敵を倒さない限り、駐在に攻撃が届くことはないだろう。
 チャンネル、とエピ・バラード(安全第一・e01793)が相棒を呼べば、異形達に向けて凶器攻撃が振るわれた。
「敵を倒して、必ず皆で帰りましょうっ! 大丈夫ですよ、あたしがついてますから!」
 力強い言葉で仲間を鼓舞したエピは眩い黄金の力を解放する。戦場に広がった光は何処か懐かしく、包まれた者の幸せな記憶を蘇らせてゆく。
 幸せな場所に戻る為にも、無事に帰還する。
 強くそう感じたフェクト・シュローダー(レッツゴッド・e00357)は杖を握り締め、配下を蹴散らしながら駐在に呼び掛けた。
「一体君は、島の人達に何をしたの? 答え次第では私が――神様が、君を許さないから」
 緑の瞳が敵を映す。だが、駐在からの答えはなかった。
 するとカティア・エイルノート(ヴァルキュリアのミュージックファイター・e25831)がふるふると首を横に振ってフェクトに告げる。
「たぶん、あの駐在も誰かに何かされた方」
「あ、そっか!」
 異形の敵がこの島に住んでいた住民の成れの果てなのだとしたら、あの駐在もかつては島を守る人間だったはずだ。カティアは双眸を薄く、何処か悲しげに細める。
 皆、全員で生きて帰る。自分はそのために盾となって歌うだけだと己を律し、カティアは道化師の詩を紡いでいった。
 セレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)は仲間の援護によって漲る力を感じ、襲い来る敵に剣を向ける。
「我が名はセレナ・アデュラリア! 騎士の名に掛けて、貴殿を倒します!」
 騎士としての言葉を差し向け、セレナは達人めいた一撃で異形の敵を斬り伏せていった。敵からは相変わらず異臭が漂っていたが、リディはぐっと堪える。
「家族同士だったり、恋人同士だったのかもしれない。でも、貴方達が例え何者だったとしても……みんなで無事に帰るために、負けてあげられない!」
 思いを言葉に変えたリディはオラトリオの力の一端を開放し、敵の周囲の空間の時を止めた。それは一瞬の力だったが、一体の敵に確かな痺れを与える。
 敵の数は多く、駐在の指揮下にある為に統率が取れていた。
「なかなか手強いみたいですね!」
「そうだね、油断は絶対にできない」
 エピは先程まで相手してきた敵とは一味違うと感じ、儚も深く頷く。フローネは唇を噛み締め、全てに全力を賭すことを決意した。そして、フローネはバスターライフルにアメジスト・シールド発生装置を連結する。
「全てをアメジストの結晶に……クリスタライザー、発射!!」
 勢いを込めた声と共に鋭い一閃が敵を包み込み、紫水晶のように結晶化させた。それまで仲間達が与えていたダメージもあり、一気に二体の敵が倒れる。
 蓮は皆の力を改めて頼もしく感じながら、ブリッジに指先をあてて眼鏡を掛け直した。
「やってやろうじゃないか。ここでゲームオーバーなんて勘弁だからな!」
 全員の力が合わさればクリアにも手が届く。
 きっと――否、絶対に。そう信じた蓮は手にした刃を握る掌に力を込めた。

●葬送
 異形の敵と駐在からの攻撃は激しく、狙い澄まされた一撃が此方を襲う。
 先程の駐在が命じた通り、向こうが狙う標的は一人。現在はフェクトにだけ向けられているようだ。しかし、護り手達が簡単に攻撃を通すはずがない。
「ボクが守ってみせるよ」
 カティアとホワイトハートは異形達の攻撃を一身に受け、更に駐在からの銃撃はチャンネルがしっかりと庇った。
「チャンネルが皆様をお守りしますっ!」
 エピは相棒の果敢な姿を瞳に映しながら、癒しの力を広げる。優しく眩い黄金が再び戦場に巡って行く中、フェクトも守られてばかりではないと踏み出した。
 黒幕の姿はまだ未知だが、この胸の中には憤りが満ちている。
「神様を怒らせたらどうなるか、思い知らせてあげるよ」
 そして、フェクトが思いきり放ったのは光を纏う天雷の力。擬似的な雷雲が稲妻を生み出し、異形に向けて迸った。
 その一撃によって敵が傾いだことに気付き、リディが地を蹴る。
「早いところ倒しちゃおうっ♪」
 仲間達に笑みを向けたリディは努めて明るく振る舞った。それは今までと同じ、皆を元気付けたいが為。その蹴撃は敵を倒し、リディは良い調子だと片目を瞑った。
 しかし、敵はまだまだ多い。
 統率が取れている以上に、駐在が従えているのは力もやや強い個体らしい。セレナは狙われる仲間を気にかけながら、剣を新たな標的に向けた。
「流石にこれは、少し厳しい状況ですね」
 だが、どんな逆境でも乗り越えるのが騎士の務め。帰りを待ってくれている友人達に会う為、そしてこの地の異変を止める為この剣を振るい続けるのみ。
 セレナの一閃が敵を切り裂く中、駐在が次の指示を配下達に出す。
「次は奴だ。お前達、かかれ!」
 そういって駐在はフローネに銃口を向けた。他の異形達も命じられた通りに標的を変え、次々と襲い来る。されど、儚がそうはさせなかった。
 ――我は盾、刃を守り。敵に届けるもの。
 護り手としてのおまじないを心の中で唱え、儚はてれと共に立ち塞がる。
「荒ぶる雷よ、来い。その力をまとって、激情に身をゆだねよ」
 手痛い攻撃が来ると察した儚は活力を与える雷を自身の周囲に降り注がせた。てれも必死に仲間を守ろうとするが、何体かはフローネを襲いに向かってしまう。
「くっ、これほど厚い前衛の壁を越えてくるとは……! ですが、妨害役の体力が低いなどと思わないことです!」
 フローネは痛みに耐えながら、バスターライフルを構え直して気力を漲らせた。更に彼女が放った反撃の炎弾は異形達を燃やして迸ってゆく。
 敵の数は徐々に減っていったが、相手の攻撃も激しくなっていた。
 蓮はフェアリンに回復にまわるように告げ、配下に狙いを定める。その際に蓮は駐在に問い掛けてみた。
「その力、ドラゴン様とやらに貰ったのかい? 冥土の土産に教えてくれる?」
 死ぬ気はないけどね、と敵に聞こえないよう呟いた蓮は伍式の弾丸を解き放つ。セレナも凛とした眼差しを向けた。
「あなた達は、何の目的でこの島に居るのですか」
「お前達に教える事などない!」
 全てはドラゴン様の為、と駐在は盲信的な言葉を繰り返す。セレナ達は彼から得られる情報はないと判断し、戦いに集中すべきだと感じた。
 殴打や銃撃、グラビティが飛び交う中で仲間達は戦い続ける。
 カティアは迫る敵を見つめながら、一度だけ目を伏せた。きっと彼らも元は人であったはずだ。しかし、カティアは開いた瞳に決意を映す。
「敵が何であれボクは歌うだけ。それが少しでも皆の力になれば――」
 倒れるまで、歌い続ける。
 皆を癒す歌声に心を込め、カティアは戦線を支え続けた。フェクトは歌に後押しされるような感覚を覚え、更なる一撃を最後の異形に向けて放つ。
「すごく痛いの、いくよっ!」
 ごめんね、と小さく謝ったフェクトは雷杖で異形を殴りつけ、莫大な電流を流した。その渾身の一閃が次の敵を倒したことを確認し、エピは駐在を指差す。
「皆様、道が開きました! 今ですっ!」
 何体かの敵が倒れたことによって、強固な守りが僅かに綻んだ。エピの呼び掛けを聞いたフローネはリディを呼び、駐在に向かって駆ける。
「もう良いようにはさせません」
「駐在さん、悪いけど次はあなたの番だよ!」
 フローネが放ったエネルギー光弾が駐在を貫き、其処に続いたリディが具現化された光の剣を振り下ろした。配下はまだ残っているが、守る盾がなくなったことで駐在にも確実に攻撃が届くようになった。
 蓮は先に奴を倒すべきだと皆に告げ、攻撃を見舞いに向かう。
「操られてるだけのお前と意思を持つ俺達、どっちが強いかなんて考えるまでもない!」
 な、とフェアリンに目を向けた蓮は達人の一閃で敵を穿った。
 そして――攻防は激しく巡る。
 回復に専念するエピが戦線を支え、儚やてれ、カティア達が攻撃を防いでいく。今の目標は主格たる駐在のみ。儚は敵を見据え、チェーンソー剣を振り下ろした。
「今更、負ける気は少しもないよ」
「守るのが騎士の務め……ですが、攻撃こそ最大の防御という言葉もあります!」
 強く言い放ったセレナは破鎧の衝撃を打ち込み、敵を揺らがせる。続けてリディが超鋼拳で殴り抜き、儚やフェクトも全力を揮い続ける。
 そして、駐在がよろめく。フローネは一瞬の隙をつき、紫水晶の盾を構えた。
「結晶として地に還りなさい! これで……終わりです!!」
 冷気の奔流が敵を結晶化させた刹那、遠くの空から差し込んだ朝陽が煌めく。
 まるでそれが終わりの合図だったかのように、敵はゆっくりと地面に伏した。

●安堵と予感
 敵は全て倒れ、辺りには異形達の残骸が転がるのみ。
 もう暫し調査を続けたいと願う者もいたが、ケルベロス達はかなり疲弊していた。もしこのまま探索を続けて新たな敵に出会いでもしたらかなりの確率で全滅してしまうだろう。
 そんなとき、儚とエピが上空から近付く気配に気が付いた。
「あれは……ヘリオン?」
「やりました! お迎えが来たみたいですっ!」
 おーい、とエピとチャンネル、更にフェクトが両手を振るとヘリオンは開けた場所に着陸する。そして、すぐに中からヘリオライダーのリルリカが顔を出した。
「お待たせしましたです、皆様! お約束通り、急いで駆け付けましたっ!」
 リルリカは傷付いた皆をヘリオンに手招き、すぐに飛び立つ旨を告げる。
 蓮は儚に肩を借り、カティアはセレナに支えられて内部に足を運ぶ。全員が乗った事を確認した後、ヘリオンは出発した。
「ふわぁ……もうすっかり朝だね」
「ふふ。随分と長い間、戦っていた気がします」
 欠伸をしたリディとフローネは顔を見合わせ、ほっとした様子で微笑みを交わす。すると、セレナが窓のを外指差した。
「見て下さい、他の地域に向かった皆さんも帰還しているようです」
「みんな、無事かな」
 セレナの示す先を眺め、カティアはホワイトハートと一緒にあちこちから飛び立ってくるヘリオンを確認する。おそらく他の班も任務を完了したのだろう。
 フェクトも安堵の表情を浮かべ、静かに両手を重ねた。目を瞑り、そっと思いを向けるのは今まで倒してきた敵のこと。
「……神様として、終わりをあげることしか出来なかったけど」
 あの異形達も生きている普通の人だったはずだ。何らかで変容した存在だったとしても、冥福を願わずにはいられなかった。
「大丈夫。この手でちゃんと葬送したつもり、だから……」
「ああ、今の俺達に出来る事をちゃんと成し遂げたはず……っと?」
 儚がフェクトを慰め、蓮も笑顔を浮かべた。だが、二人の表情が急に曇る。
 だが、蓮達だけではなく――この場にいる全員が違和感を覚えていた。

●異変
「何ですかっ、この嫌な感じ……!」
「フローネちゃん、私……何だか気持ち悪い」
「私もです。それに何かが聞こえるような気がします。まるで怒りに満ちているような」
 エピが胸を押さえ、リディとフローネは肌が粟立つような感覚を抱く。更にセレナがふと地上を見下ろすと、妙な事象が起こっている様が見えた。
「あれは何でしょう。周囲の海が波立っているのでしょうか……」
「島が、震えてる」
 カティアがぽつりと呟いて指先を島に向ける中、フェクトは首を傾げて想像する。
「色んな場所の敵を倒したから島の結界が消えたとか?」
「いや、そんなレベルじゃない!」
 その可能性もあったが、蓮はそれにしては激し過ぎると頭を振った。
 次の瞬間――。
 月喰島が中央部分から崩れ、崩壊し始める。
 一瞬遅れて崩壊の衝撃音が空気に伝わり、ヘリオンが大きく揺れた。何かに掴まって、と儚が呼び掛け、仲間達は体勢を整える。
 そして、島の中央からは巨大な黒いドラゴンが姿を現した。

『なんという事をしてくれたのだ。
 あと少しで、神造デウスエクス……屍隷兵(レブナント)が完成したものを。
 決して、許されるものでは無いぞ!』

 それは冥龍ハーデスと呼ばれるものだった。
 怒りに満ちた声が響き渡った直後、耳を劈くような咆哮が空気を震わせた。同時にヘリオンに向けて攻撃が放たれたが、リルリカの必死の操縦で直撃は避けられたようだ。
「あれが、月喰島の人達をあんな姿にしたドラゴン……!」
 フローネの掌が強く握られ、わなわなと震える。リディとカティアをはじめとした仲間達も動揺を隠せず、ヘリオンの窓辺から黒いドラゴンを見つめることしか出来なかった。
「多分だけど、自らを月喰島に封印して定命化を免れていたのかもしれないな」
 その中で蓮は冷静に分析し、セレナもそうに違いないと頷く。
「神造デウスエクスだなんて……」
「レブナント、か……」
 セレナと儚がその名を呟くと、エピも怒りと戸惑いが入り混じる表情で口をひらいた。
「月喰島の人達はそんな事の為に、あんな姿に!」
「普通の家族や友達同士だったのに……皆、もっと生きていたかったはずなのに!」
 フェクトは思わず泣き出しそうになったが、ぐっと杖を握り締めて何とか堪えた。その間にも冥龍ハーデスからの攻撃が迫り、衝撃がヘリオンを掠めた。
 機体が何度も大きく揺らぐ中、リルリカが呼びかける。
「このままですと危険ですっ! 皆様、急速離脱するのでしっかり掴まっててください!」
 刹那、言葉通りヘリオンは激しく揺れながら凄い勢いで島から遠ざかった。
 一瞬の間に小さくなっていく月喰島の影。
 黒き龍に支配されていた島の残骸を見つめ、仲間達はそれぞれの思いを抱く。
 憂いに不安、焦燥や動揺。怒りと憤り。そして、決意。
 まだ月喰島における戦いは終わっていない。襲い来る強敵への思いは強く、強く――皆の眼差しは諸悪の根源へと差し向けられていた。

作者:犬塚ひなこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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