「あなたに使命を与えます」
派手なレオタードの衣装を身に着けた女性――ミス・バタフライが配下の螺旋忍軍に指令を与える。
「この街には迷い猫探し専門の私立探偵がいます。その者と接触し、その仕事内容を確認、可能ならば習得後に殺害しなさい。グラビティ・チェインは略奪してもしなくても構わないわ」
ミス・バタフライの足元にひざまずいているのは、だぶだぶの道化師の衣装を身に着けた小太りの男。
「了解しました、ミス・バタフライ。何の意味があるのか拙者にはさっぱりわかりませぬが、この事件が巡り巡って地球の支配権を大きく揺るがすことになるのでしょうな」
あたかも、蝶の羽ばたきが巨大な気象現象を引き起こすように。
「ですが、拙者には少々荷が重い仕事ですな。こいつを連れて行っても構いませんかね。――おい、テイマー」
道化師の男は、後方に控えて平伏している相棒に声をかけた。
「いいでしょう、あなたたち二人でおやりなさい」
「ははー」
道化師とテイマーはミス・バタフライに深々と頭を下げ、退室した。
●
「大変っす。ミス・バタフライっていう螺旋忍軍が動き出したんすよ」
黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)はケルベロス達に説明する。
「奴らのやることって一見大したことないように見えるんすけど、後で巡り巡って大きな影響がでるかもしれないんすよ。自分、嫌な予感がするっす!」
ミス・バタフライは何をしようというのか。
「狙われてるのは鯨井一郎っていう私立探偵っす。探偵って言っても迷子の猫探し専門なんすけどね。螺旋忍軍はこの人のところに弟子入りしに来るっす。そんで仕事の情報を得て、最悪の場合自分が習得した後に殺そうとまでするんすよ」
風が吹けば桶屋が儲かるというように、この事件を阻止しなければやがてケルベロスに不利な状況が発生する可能性が高い。
「まあ、そうでなくても一般人がデウスエクスに殺される事件は見過ごせないっすよね。ケルベロスの皆さんには鯨井探偵の保護と螺旋忍軍の撃破をお願いするっす」
「敵との接触方法なんすけど、二通り考えられるっすね。一つは被害者を警護して、襲ってきた螺旋忍軍を迎え撃つ方法。もう一つは、事前に被害者に接触して猫探しの極意を教えてもらうんす。習得すれば、螺旋忍軍の狙いは皆さんに移るかもしれないっす」
被害者の代わりに囮になるには、最低でも見習い程度の実力を身に着ける必要があるだろう。センスにもよるが、かなり努力も必要だ。
「襲撃は三日後っす。大丈夫、皆さんなら楽勝っすよ!」
ダンテはケルベロス達を信頼しきった目で見ながら言い切った。
猫探偵鯨井一郎プロフィール。
性別男。年齢70歳。
老後の趣味として猫ウォッチングを始めたところ、天性の才能が開花して猫探し探偵になる。数年前妻に先立たれ、一軒家に一人暮らし。人が来るとすぐ受け入れて泊まって行けという好々爺だ。
「猫探しの極意は実践あるのみじゃのう」
弟子入りすると、三日以内におかかという名前の猫を探して確保するというミッションが与えられ、これが修行となる。鯨井は求められれば適当にアドバイスするが、基本は弟子の適正に任せるタイプの師匠だ。
ケルベロスの身体能力ならば、普通の猫ぐらい見つけさえすれば強引に捕まえることは容易いだろう。だが猫をビックリさせ過ぎたり怖がらせたりしてしまうのはプロ失格だ。
おかかは3歳のオスの黒猫。性格はビビりで好物は鰹節とのことだ。
「敵は二体、道化師とテイマーっす。道化師の方は前衛で暴れるのが得意、テイマーは中衛で小細工が得意っす。二人で協力してくるとけっこう厄介なんすが、皆さんが囮になればうまく言いくるめて分断できるかもしれないっすね」
向こうは弟子入りを希望してくるぐらいだから、師匠の言うことならよほどの無茶でなければ素直に聞くだろう。
「皆さんがケルベロスだってことは言わなければ向こうにはバレないっす。一般人より強くても、一芸に秀でた一般人ならこれくらいできるだろうと思って怪しまないっすよ」
ダンテは腕を組んで考え込む。
「蝶の羽ばたきってそんなに凄いもんなんすかねえ。自分はよくわからないっすけど、ケルベロスの皆さんのことは信じてるっすよ!」
参加者 | |
---|---|
周防・碧生(ハーミット・e02227) |
彼方・悠乃(永遠のひとかけら・e07456) |
風魔・遊鬼(風鎖・e08021) |
姫宮・楓(異形抱えし裏表の少女・e14089) |
星森・天晴(ホロケウカムイ・e14292) |
ヨルヘン・シューゲイズ(ぐしゃぐしゃ・e20542) |
時雨・乱舞(笑顔が苦手なサイボーグな忍者・e21095) |
枝折・優雨(チェインロック・e26087) |
●
「猫探しの技術を奪った所で何になるんだ、と思うけど。……学んでみればわかるか?」
ヨルヘン・シューゲイズ(ぐしゃぐしゃ・e20542)がガシガシとくせっ毛を掻きながら言うと、姫宮・楓(異形抱えし裏表の少女・e14089)がこくりと頷いた。
「猫探しが巡り巡って何になるか分からないけど……デウスエクスが絡む以上……放っておくわけにはいかない……」
バタフライエフェクト――カオス理論によれば、蝶の羽ばたきが嵐を起こすこともあるという。これを嵐の前の静けさとしないために。
風魔・遊鬼(風鎖・e08021)が打ち合わせの確認をする。
「これでいいか」
「ああ」
「わかりました」
ヨルヘンが頷き、周防・碧生(ハーミット・e02227)も同意を示す。
「同じ螺旋忍者として、探偵さんを守ってみせます! ……そして戦いも楽しみですねえ……」
戦闘好きな時雨・乱舞(笑顔が苦手なサイボーグな忍者・e21095)には同族との闘いというお楽しみも待っている。
枝折・優雨(チェインロック・e26087)が紫のジャケットのポケットに突っ込んでいた右手を出すと、巻き付けたケルベロスチェインがしゃらんと鳴った。
「猫探し、か。ビハインドにも適応できるといいんだけど」
横目でちらりと、ビハインドの相棒を見る。
山猫頭のニヤニヤ顔がくいくいと手招きしてくるので、優雨はその手をガッと掴み、背負い投げを見舞う。二人の日常的なコミュニケーションだ。
相棒のカッツェはいつもこんな調子で主をオラオラと引っ張り回したりからかったりしては、裏拳やら背負い投げやらを食らうのだが、こんな主のことをツンデレだと思っているらしい。
「こういう普通の猫ならいいんだけどね」
優雨は写真に写った気弱そうな黒猫を見る。
彼が今回のターゲットだ。
●
ケルベロス達は猫探偵・鯨井一郎宅を訪れていた。
応接間に通され、猫探偵は事前情報通りケルベロス達を屈託なく歓待してくれた。
「ほう、猫探しのコツ教えてほしいと」
「是非、お願いします」
普段は寡黙な遊鬼だが、ここは積極的に頼みこむ。
「待つのは得意な方で、無口故に低い声も上げないが如何せん図体が大きい為、そこをカバーできるようなアドバイスが貰いたい」
星森・天晴(ホロケウカムイ・e14292)が謙虚に尋ねると、鯨井は目を細めた。
「何事もまずは己を知ることじゃ。御仁はその点、すでにできておられるな」
「……不器用だけど、強引にやらずに頑張ります……」
ソファの隅っこで楓がおどおどとしていると、老人はニコニコと孫を見守るような眼で彼女を見やる。
「おかかくんの特徴や習性はどうなんでしょうか。あと、行方不明になった時の状況なども。聞き込みに役に立ちそうな人脈などもありましたら」
「良い目の付け所ですな、お嬢さん。それは……」
彼方・悠乃(永遠のひとかけら・e07456)は熱心に鯨井の説明を聞き、メモを取る。
「人に飼われてた臆病な猫なら、まず凶暴で縄張り意識のある野良猫の集まるような路地には隠れてないだろう。民家の近くにいるか? 人に飼われてる可能性だってある……なあ鯨井探偵、俺の見込、合ってるか?」
ヨルヘンが見立てを伸べると、鯨井は頷いた。
「皆さんよく学んでおられるな。まずは己を知り相手を知ること。あとは実践あるのみじゃ」
●
猫の喜ぶような品、マタタビやら鳥の玩具などを手提げにいれて、優雨はおかかの写真を片手に聞き込みを開始する。
「カッツェも手伝って。一応ネコ科でしょ」
聞いているのかいないのか、カッツェは優雨の後を面白そうについていくだけ。優雨は思わずため息をつく。
「……ま、期待できないか」
碧生も聞き込みに回る。
「こんな猫を知りませんか? 見つけた場所や、知ってそうな人でもいいのですが」
「さあ……あ、このへんに猫探しが得意な爺さんがいるよ」
鯨井の噂は方々で耳にした。
悠乃がおかかの飼い主という体で聞き込みを進めると、親身になってくれる人が多かった。
(「人々への聞き込みで情報を得る……これは非常に難しいことです。相手の方にも都合はあるでしょうから不快感を与えないことが大切。また、こちらの説明不足があれば誤解で答えるかもしれない。さらに記憶違いやイタズラの誤情報もありえます」)
だがそれは情報収集の重要な手段で、他の事件にも応用できる。
やがて手分けしていたケルベロス達は集合し、各々調べてきた情報を持ち寄る。
悠乃は情報を時系列表と地図に記入し、捜索範囲を絞り込んだ。
「情報を総合すると、失踪箇所はこの辺りみたいですね」
「じゃあこの辺りを重点的に聞き込みしてみよう。探して貰えるだけありがたいんだ、さっさと出て来ればいいのにな」
ヨルヘンは眉間に皺を寄せる。偏屈に見えて、彼は猫探しには人一倍熱心だった。
猫変身した碧生が狭い建物の隙間を歩く。
猫の視点になれば、物陰や暗がりも人間の時とは違って見える。猫の通り道らしきところには鰹節を設置した。
リアンも塀の上に飛び乗り、庭木をのぞき込む。
遊鬼は道端で七輪に鍋を乗せて仰いでいた。鍋の中ではぐつぐつと鰹節が煮え、いい出汁が出ている。おいしそうな香りに猫が何匹か寄せられてくるが、その中におかかはいなかった。
おかかは家猫で近所にもほとんど土地勘がなく、猫スポットなどには他の猫が怖くて近づけないかもしれない。
「に、にゃー」
楓は見つけた野良猫にそっと手を伸ばすと、きしゃーと引掻かれた。
「うぅ……、引っかかれた……痛い……」
猫に追い掛け回されたり、不器用な楓はなかなかうまくいかないが、彼女なりに頑張っていた。
「いたぞ」
公園の植込みの陰で震えていたおかかを見つけたのは、ヨルヘンだった。
ヨルヘンは自分とおかかの間の距離の真ん中ぐらいに鰹節を置く。
「よしよし、逃げるなよ……」
そうしている間、スマホで仲間に連絡を取る。
合流した碧生はヨルヘンの横に並び、猫じゃらしを振って見せる。害意は無いと伝わるように。
「マタタビはどうかな」
優雨がマタタビの枝を鰹節の横に並べた。
天晴は自分の大きな体で驚かせないように、そっとおかかに近づいた。
おかかは大きな目で天晴をじっと見ると、立ち上がり、ゆっくり近寄ってくる。
やがて、おかかはすっぽりと天晴の大きな腕の中に収まり、安心したように目を細めた。
「……どうでしょうか?」
顛末を報告し、悠乃が鯨井に尋ねると、鯨井は満足げにうなずいた。
「お前さん達はもう一人前の猫探偵じゃ。これからはそれぞれの道に精進なさい」
●
それから三日後。弟子入りを志願して、螺旋忍軍の二人組がケルベロス達のもとにやってきた。
「すみませ~ん、僕のペットを探してもらいたいんですけど~」
乱舞は飼い主役の青年として、怪しげな二人組に頭を下げる。
まだ残暑の厳しいこの時期に乱舞はロングコートを着込み、マスクをして頼りなさそうな青年に変装している。
探偵キットでこちらも変装している碧生は、師匠役として螺旋忍軍の二人に告げる。
「とりあえずは実践です。君達は二手に分かれてもらいます」
道化師らしき恰幅の良い男は不安げな顔をした。怪しんでいるというより、動物に懐かれない自分に自信がないらしい。
「先に何も教えてくれないんですかい?」
「それぞれに教師役をつけましょう。わからないことは彼らに聞きなさい」
道化師には碧生と悠乃、テイマーにはヨルヘンと乱舞と犬変身した天晴がつくことになった。
事前の打ち合わせ通りに事は進む。
「私も見習いだから、よろしくね」
優雨が二人に手を振った。
「私も一緒に猫を探す手伝いをします……よろしく……」
楓がおずおずと言う。
(「別行動で探すふりをして先回りして……」)
ぼんやりしているようで、楓の脳裏にはすでに戦闘プランが走っていた。この近くの空き地にテイマーを誘導して先に撃破、その後に全員合流して道化師を叩く。
「それじゃ、私達はこっちを探すわ」
そう言って、優雨、楓、遊鬼は連れ立って待ち伏せ場所に向かう。
犬好きのテイマーの視線は動物変身した天晴に引き寄せられていた。
白銀色のサラサラの毛並みに変身した天晴は、普通の犬にしては風格がある。
「変わった犬ですね」
天晴の変身した姿は正確には狼なので鋭い指摘だが、天晴は動揺せず、後ろ足で首の後ろを掻く。
「かわいいなあ~。お手!」
メロメロになった乱舞が手を差し出すと、てしっと前足を乗せる。その仕草はどう見ても犬。
「おい、よそ見をするな」
ヨルヘンがテイマーを叱りつける。
「お前は猫への愛が足りない。そうゆうオーラがある。まずは猫探偵に必須の猫愛から試させて貰う」
ヨルヘンがテイマーを鯨井仕込みの猫知識で質問攻めにする間、
「僕達は少し遠くから回ってみるよ。君達は近場から頼む」
碧生がそう言って先に歩き出すと、道化師は異議を差し挟む間もなく、相棒から離れてついてきた。
●
テイマーを連れた一行が近くの空き地にやってくると、先に行ったはずの遊鬼達が待っていた。
遊鬼は無言で得物を抜く。
そこで、テイマーはようやく事態に気づく。
「あっ……お前らは!」
テイマーは瞬時に変装をかなぐり捨てると、螺旋手裏剣を放った。
無数に分裂した手裏剣の嵐がケルベロス達を襲う。
遊鬼は手裏剣の雨をかいくぐり、無言のままかまわず螺旋氷縛波を見舞う。
「ヒャハハハハ!! ドーモ、同業者です!」
乱舞の目つきが変わり、気弱な青年の演技とロングコートを脱ぎ捨て、日本刀を握った鋼鉄の右腕を晒す。刃が弧を描き、急所を狙う。
降り注ぐ刃に全身に傷を負いながら、楓は祈る。
戦うのが怖い。そんな臆病な自分を、今だけは抑えて。
「私の中の脅威……異形の魂……お願い……! 異形の忍を倒す為に……私に力を貸して……!」
自身の内に宿るデウスエクスの力の一端を開放。灰色の髪は金に、茫洋としていた黒瞳は高慢な赤に変わる。
――『カエデ』が目覚める。
「同じ忍を名乗る割には忍びらしくないの、まあ……わらわも同じじゃがな」
カエデは不遜な笑みを浮かべ、黒き金属・異形外装を纏う。
ヨルヘンの足元で守護星座が光り、仲間に加護を与え、初撃の傷を消失させる。
優雨が極限まで集中した漆黒の瞳で睨むと、武器を持ったテイマーの腕が爆発した。
物陰に隠れていたカッツェがニヤニヤ笑いで出てきて優雨に歩み寄ると、続いて金縛りを仕掛ける。
天晴が変身を解いて片手を差し上げると、近くの木で待機していたシマフクロウのコロが飛んできて腕に止まり、ファミリアロッドに変化する。味方の支援に徹し、合流まで味方の体力をもたせるために尽力するつもりだ。
テイマーが何かを感じ取り毒手裏剣で天晴を狙うと、タイヤを鳴らしてシラヌイが庇いに入った。
その間、天晴のサークリットチェイン――鎖が描く魔法陣が前衛に加護をもたらし、癒す。
その後もテイマーはしつこくメディックの天晴を狙ってくる。BSを得意とするテイマーにとって、彼はいかにも邪魔な存在だった。
だがディフェンダー陣の守りは厚く、巨大な手裏剣は後衛に届く前にことごとく阻止される。
ほどなくして、テイマーは倒れた。連携の勝利だった。
ヨルヘンはスマホを取り出し、道化師班にメールを打つ。
こちらが片付いた合図に、『猫発見』と。
●
「あの、同行していただいてありがとうございます」
「ふふ、お安い御用です」
寡黙な碧生が珍しく感謝を言葉に表すと、悠乃はふんわりとほほ笑んだ。
道化師は二人の会話を気に留めず、言われたとおりに小まめに路地をのぞき込んだりしている。だが野良猫一匹通りかからない。動物に好かれないというのは本当のようだ。
やがて、碧生のスマホにヨルヘンから連絡が入る。
「あちらは発見したようですよ」
「よかった」
しょんぼりした道化師を連れ、二人は合流地点に向かう。
合流地点にはヨルヘンが仁王立ちでスマホを構えていた。
「すっかり騙されてくれてくれたな、道化!」
「えっ、あ、お前らもしかして……!」
道化師が慌てて変装を解き、日本刀を抜きざま間近の二人を攻撃する。
だが悠乃はとっさの判断で、碧生を抱えて共に刃の届かない空中にいた。
「くっ、拙者としたことがぬかったわ! よくも相棒をやってくれたなあ!」
「ひゃははははっはぁ! 相棒は片付いた。次はお前だ! さあ、我が幻影達よ……踊りなさい!!」
幻影乱舞――乱舞の影分身達が道化師を取り囲み、一斉に斬りかかる。
「猟犬縛鎖!」
優雨の右腕に絡んだケルベロスチェインが伸びて、道化師の太い脚に絡みつく。
ごんっ
空き地に転がっていたブロックがポルターガイストで道化師の後頭部に不意打ちを食らわせる。優雨に並んで、山猫がチェシャ猫のように笑っていた。
「我が敵を、捕らえよ」
碧生の月光にも似た魔力が形をとり、一つの影となる。月に召されし狼は、ただ唯一心に獲物に向かって疾駆し、猛る。
ボクスドラゴンのリアンもボクスブレスで応戦する。
「鬼からは逃げれない」
風魔流斬撃術『追魔』――寡黙な『鬼』は、気づけば死角にいた。遊鬼の斬撃が思わぬ方向から襲い掛かる。
楓の異形外装が『鋼の鬼』と化し、襲い掛かった。黒きオウガメタルが道化師の胸甲を砕くも、分厚い肉体は堪えた様子がない。
「ふむ、なかなかしぶといのう」
一斉攻撃を喰らうも、そのタフネスの高さゆえに道化はなかなか倒れない。
ついには天晴も攻勢に出る。
「第一魔扉・開門……!」
氷柱が地面を走り、道化師を穿ちなおも道と化す。
「可能な限り惨く死ねよ」
ヨルヘンはイライラしながら言ってやった。
苛烈な全否定。それは彼が無意識に抱える地獄である。いかなる他者も真っ向から否定、嫌悪するそのおぞましい感情は、本能的に、最も惨く切裂く術を知っている。
悠乃の夢見るような大きな瞳が、道化師を見つめる。
「見ていました。今、そこにいるあなたを」
それは、一瞬先の未来――白い翼の羽ばたきとともに、銀光が道化を射抜いた。
碧生はファミリアロッドを猫に戻し、道化師に放つ。
「動物好きでも……人の力や命を奪おうとする者は、嫌いです。さようなら」
それが猫好きだった道化への手向けとなり、タフな巨体はついに頽れた。
●
静かになった空き地で、碧生は守れたことにほっとした。
あの猫探偵は、性格に身上、猫好きな所まで知人に似ていたから。
そしてあの時震えていた黒猫は、どこか自分に重なった。
良い経験を有難う御座いましたと、ここにはいない老猫探偵に思う。
(「素敵な探偵業、健やかに、末永く続きます様に――」)
迷える猫達が救われる未来が、これからも続くように。
悠乃はアドバイスを書き留めた手帳を胸に抱きしめ、この叡知が未来の戦いに活かせますようにと願った。
作者:高峰ヨル |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年9月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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