●夕刻の工場
埼玉県の、とある工場地帯。夕暮れの色が、工場内に差し込んでいる。目を細めて陽光を見るのは、エクスガンナー・ニュー。彼女の背後では、配下のガンドロイド3体が黙々と機械部品を運んでいる。
2体のガンドロイドと警戒にあたるニューは、せわしなく室内を歩き回る。前回の襲撃時には12体いたガンドロイドも、ケルベロスたちに撃破されて半数以下となっていた。
より警戒心を強めているニューは、些細な物音にも反応する。積まれていた箱が崩れた音であっても安堵はせず、ニューは苛立ちまぎれに積まれた箱を蹴飛ばした。箱は粉々に砕ける。
「これ以上は、やらせないわ……」
人間だったならば血が滲みそうなほど拳を握りしめ、ニューは呟いたのだった。
●ヘリポートにて
「ダモクレスの移動拠点グランネロスの撃破後、姿をくらましていたダモクレス『エクスガンナー』たちが活動している」
ウィズ・ホライズン(レプリカントのヘリオライダー・en0158)が手元のタブレット端末を操作する手を止めて、ケルベロスたちを見渡す。
エクスガンナーたちは、グランネロス撃破により中断された「エクスガンナー計画」を再始動するために必要な機械部品を略奪しようとしているという。そして工場襲撃後、配下の半数を機械部品の運搬に、残り半数とエクスガンナー本人が周辺の警戒にあたるようだ。
「エクスガンナーさえ撃破すれば、敵の計画をつぶせる。君たちには、エクスガンナーの撃破をお願いしたい」
また、襲撃される工場からは一般人は避難済み。エクスガンナーたちが襲撃した後、半数の量産型ダモクレスが機械部品を運び出し始めた後に攻撃を仕掛けて欲しいと、ウィズが説明する。
「この状況で戦闘を仕掛ければ、敵戦力の半分を戦闘から除外できる」
エクスガンナーと残りのダモクレスは、機械部品を運搬する連中が無事に撤退するために時間を稼ごうとする。10分の間戦闘を行い、その後は撤退しようとするようだ。
「君たちに撃破を依頼したいのは、エクスガンナー・ニューだ。都合、ケルベロスとは3度目の戦闘となる」
ニューは、能力こそ高いものの、それ以上に感情表現の豊かさと交渉能力に重点を置かれている機体。攻撃方法はグランネロス襲撃時、そして工場襲撃時と同じ。腕に装備された銃で接射するグラビティ、頭上にエネルギー球体を発生させてレーザーを発射するグラビティ、腰部から生えたスタビライザーに冷気を纏わせて回転しながら斬りつけるグラビティだ。
「今まで後方から攻撃を仕掛けていたニューも、今度は前に立って積極的に戦う姿勢を見せるようだな。また、配下として銃器の扱いに長けたダモクレス『ガンドロイド』が5体。こちらは全員がバスターライフルのグラビティを使用する」
襲撃タイミングについてだが、と、ウィズはタブレット端末の画面を切り替えた。
いわく、襲撃タイミングを早めた場合は機械部品の運搬は始まっていないため、敵の全戦力が迎撃に回る。
襲撃のタイミングを遅くした場合は、足止めを行う時間が少なく済む。結果、敵の撤退までの時間が少なくなる。
また、運搬するダモクレスを攻撃した場合、運搬を阻止できる。しかし敵の全戦力と戦うことになる。
「説明は、以上だ。……さて、今回は配下の数も激減している。エクスガンナー・ニューの撃破、期待しているぞ」
ウィズが、力強くうなずいた。
参加者 | |
---|---|
鳥羽・雅貴(ノラ・e01795) |
星野・光(放浪のガンスリンガー・e01805) |
小山内・真奈(おばちゃんドワーフ・e02080) |
ステイン・カツオ(御乱心アラフォードワーフ・e04948) |
タクティ・ハーロット(重力喰水晶・e06699) |
四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129) |
天音・迅(無銘の拳士・e11143) |
白嶺・雪兎(斬竜焔閃・e14308) |
●三度目の邂逅
「そろそろしとめたいとこやな」
工場の入り口に立ち、小山内・真奈(おばちゃんドワーフ・e02080)が呟く。
「前回は部品の運搬阻止で手一杯だったけどよ、今回でケリつけるぜ。恨みはねえけど、手強いし、見逃せば仲間も困るしな」
うなずくのは、天音・迅(無銘の拳士・e11143)。利害が対立しなければ争うこともなかったかもしれない、という思考を振り払い、歩みを進める。
数度にわたりケルベロスと渡り合った、エクスガンナー・ニュー。配下の数も半分以下となったいま、ケルベロスたちは彼女の撃破も視野に入れていた。
しかし、何よりも優先したいのは資材の運搬阻止。
「エクスガンナー計画がどんなものかは知らんが、略奪行為は見逃せないんだぜ。ここで計画を止めるためにも、全力を尽くさせてもらうんだぜ……!」
相棒のミミックと視線を交わし、タクティ・ハーロット(重力喰水晶・e06699)は拳を握りしめた。
「さあ、いこうぜ。今回で幕引きと行こう」
迅が工場の扉を開く。今ならまだ、運搬前だ。このタイミングでの襲撃は、全員で決めたことだった。
ほの暗い工場内に、夕暮れの光が差し込んでいる。そこから見えるのは、工場の機械、製造を終えた部品、そして——長く伸びる、数人のシルエット。
素早く振り返る少女の顔が、橙色に照らされる。
「また会ったね……紛い物のお人形さん……」
物憂げな顔で、四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)が告げる。
ニューはすぐさま手を掲げ、部下を自分の後方に展開した。
「これ以上は、やらせないわ……」
腕の銃に触れながら、ニューがケルベロスたちを睨む。鳥羽・雅貴(ノラ・e01795)は数歩進み出て、刀を抜いた。
「それはこっちの台詞だ。次こそは決着を――っつってた知人の意志継いで、果たしに来たぜ。鼬ごっこもテメーらの計画も、今日こそ此処で終わらせてやる。さァ年貢の納め時だ、覚悟しな」
「ついにこの時間がやってきました。まとめてスクラップしてポイする時間でございます。覚悟OK? どの道ぶっ潰させていただきますが」
ステイン・カツオ(御乱心アラフォードワーフ・e04948)も刀を抜き、ニューへと切っ先を向ける。
不機嫌な少女は数秒の沈黙ののち、ケルベロスたちを睨みつけた。
「覚悟するのは、そっちの方よ」
ニューの腕についた銃が、ステインに向けられる。押しつけられる銃口を払いのけ、ステインは銃弾を斬り伏せた。
直後、ニューの後方に展開していたガンドロイドたちが光線を放つ。交差するビームは、相応の熱を持ってケルベロスたちを襲う。
千里が星十字剣で守護星座を描くと、真奈がエクスカリバールから釘を生やした。
「きばっていくで」
ガンドロイドめがけてのフルスイングは、真奈の腕に確かな衝撃を伝える。身じろぎするガンドロイドへ、今度はステインが日本刀の一閃を喰らわせた。
まずはガンドロイドの撃破を。ケルベロスたちの集中攻撃は、見る見る間にガンドロイド1体をスクラップ寸前の姿に変えてゆく。
「とはいえ、放っておくのも、な。……そんな顰めっ面してたら可愛い顔が台無しだぜ――なんてな」
と、雅貴がニューの眼前に迫り、ゲシュタルトグレイブでニューの肩口を貫く。ニューは不機嫌顔のまま槍を抜き、距離を取った。
その背後でガンドロイドに迫るのは、星野・光(放浪のガンスリンガー・e01805)だ。
「さぁ、戦いの開幕だ! この一発にビビッてくれてもいいんだよ?」
声を張り上げ、強烈な一撃を叩き込んだ。ガンドロイドの胴体が砕け、全身が砕け散ってゆく。光はそれを確認し、仲間の元へと戻る。
「見事です、星野様。——さて、今回は因縁のある方がいるようなので支援に回りましょうかね」
ケルベロスたちを煩わせてきたエクスガンナー撃破の機会。白嶺・雪兎(斬竜焔閃・e14308)は、いっそう強くゾディアックソードを握った。
●焦燥と怒り
ガンドロイドへの集中攻撃は、見事に功を奏していた。
次々と破壊される部下を見て、ニューは頭上に光球を出現させる。人間だったならば、青筋のひとつも浮かんでいただろうか。
「こン、のおおッ!」
照射されるレーザーは、雅貴の足を貫いた。だが、すぐに千里が傷を塞ぎにかかる。
その間に真奈がニューの横を抜け、ガンドロイドの懐に入り込んだ。
「刃の錆は刃より出でて刃を腐らす」
少し前にガンドロイドから喰らったグラビティを炎に変えて、叩きつける。あまりの熱量に、ガンドロイドの装甲はぼろぼろと崩れる。そこから全身に及ぶ亀裂が、ガンドロイドを戦闘不能に至らしめた。
「これで3体目や!」
「どうよ、そろそろ投降する気はない? 何度やったって何度でも止めるよ」
光がニューを見遣り、問いかける。
(「ニューは確か交渉に長けてる奴……だっけか? まあ、それこそ交渉の余地なし、なのかもしれないけど」)
「答えは、これよ」
ニューはガンドロイドを見て、あごを上げる。ガンドロイドたちは銃口を光に向け、冷凍光線を放った。
「やっぱダメか」
氷の纏わり付く腕をそのままに、光は超加速突撃をガンドロイドたちに喰らわせた。ガンドロイドたちは直撃を受けながらも、体勢を立て直さずに狙いを定める。
一撃を食らったステインは、無理矢理体勢を立て直して右ストレートを繰り出した。
「ぶち抜けろあほんだらぁ!!」
どす黒い悪意を込めた一撃は、鈍い音とともにガンドロイドを吹き飛ばす。そして再び、バスターライフルの光線がステインを狙う。正確な射撃は彼女を背後から貫こうとする。
が、寸前。ミミックが飛び出し、全身に光線を浴びた。
既に何度も味方を庇っていたミミックは、その一撃で消滅してしまう。
「ミミック! くそっ、仇は取るんだぜ……!」
とはいえ、タクティも幾度となく味方を庇っては傷ついている。メディックの癒やしもあるとはいえ、いくつかの状態異常が蓄積されている。ここらで立て直そうと、腕の傷を結晶化した。
「簡易的だけどやらないよりはマシだぜ……!」
青い結晶はすぐさま砕け散り、タクティの氷を消し去る。ふと前衛の仲間を見ると、同じように氷が纏わり付いている者が何人か。雪兎がタクティに視線を送り、進み出る。
「氷が鬱陶しいですが、我等に害をなすものは全て吹き飛ばしましょう——慈悲の名を持つ碧き刃よ、今こそ我が手に来たれ。破壊と癒しを司る荒れ狂う嵐神の力をその刀身に宿し、あらゆる病毒を吹き飛ばせ!」
癒やしの力を持つ短剣を霊力で生成し、振るう雪兎。生じた風が清らかな音を奏で、前衛の状態異常を打ち消してゆく。
「みんな、大丈夫か? あとは任せてくれ!」
続いて迅がまばゆい光を展開し、前衛を包み込む。
癒やしがうまく機能している。雅貴は攻撃に移ろうと小さく息を吐いた。
「――――オヤスミ」
囁くような詠唱に続いて、ガンドロイドの首に深い傷跡が刻まれる。自身の放ったグラビティの結果を確認し、雅貴は懐中時計「Nachtmusik」を取り出した。
「3分経過、か——この調子でいけば、完全撃破も狙えるか?」
●孤立
真奈がエクスカリバールで殴りつければ、ステインが斬りつけ、雅貴が槍を降り注がせる。ガンドロイドは砕け散り、残るはニュー含め2体。
「私の能力で……戦局を変えてあげる……」
他の仲間が攻勢に出る中、千里は重力を操作した。同時に止血も施すことで、効率的に戦闘をサポートする。
突出しないように心がけつつ、光はガンドロイドの顔面に一撃を加える。よろめくガンドロイドの正面に回りこんだタクティは、光の剣を掲げて跳躍した。
「これでガンドロイドは……最後だぜ!」
真っ二つに裂け、小さく爆発するガンドロイド。着地後、タクティはニューに向き直る。他の仲間もニューを見遣っていた。
これで、残るはニューのみだ。
「配下もみんな失って……補充も上手く行ってない……ダモクレス本隊には見限られていそうだね……」
千里が小さく首をかしげ、ニューに問いかける。
(「心を得るか壊れるか……最後まで見届けるとしよう……」)
ニューは返答せず、黙って千里を睨む。
「ケルベロス……風情が……」
呻くような低い声が、ニューから漏れる。ただでさえ不機嫌そうだった顔は、より明確な殺意を帯びている。
「さあ、エクスガンナー計画の完全阻止といきましょうか」
雪兎の描いた守護星座が、ぼんやりと光る。
ニューのみとはいえ、油断はならない。いっそう決意を固め、ケルベロスたちはニューと対峙した。
「はあああああっ!」
一瞬とも思える速度で、ニューは雪兎に弾丸を撃ち込む。
「流石に、強烈ですねえ」
血の流れる脇腹を押さえ、雪兎は下がる。代わりに真奈が前面に出て、詠唱を始める。
「燃やしてくで」
炎でニューが数歩退いた隙に、千里が雪兎にヒールを施した。千里が状況を見極め、的確にヒールを施してきたおかげで、戦線は維持されている。
背に炎の灯ったニューに、ステインが接近した。
「感情表現の豊かさに重点を置かれてるってことは少しは恐怖を味わうフリでもしてくれるんだろうな? それともプログラムされてないことはできねえか? どっちでもいいや」
まくし立て、強烈な一撃をニューに叩きつける。息を詰まらせるニューを、ステインは冷ややかに見る。元より答えは期待していない。
一方の迅は、ニューが体勢を立て直すのを待ってから攻撃を仕掛けた。価値観が相容れないとはいえ、何度となくケルベロスと戦ってきたニューへの、迅なりの敬意の表れだ。
「我は無銘なり、我が連撃は型を纏わず、我が乱撃は夢幻なり」
一言目で、相手の動きを奪う。二言目で、自身を強化する。三言目で、幻影を投射する。三つの連撃が、立ち上がったニューを襲った。続けて雅貴がゲシュタルトグレイブで側面から穿つ。万が一逃がすことのないように気をつけながら、立ち位置を調整した。
「エクスガンナー計画か。そろそろ話してみる気はないの?」
光が先手必殺・熾烈の号砲で一撃を加える。
「どんな計画か、こっちは気になって夜も眠れないよ」
戦列に戻り、光はリボルバー銃「FerriSeptentrion」をくるりと回した。腹部を押さえながら立ち上がるニューは、不機嫌顔のままに返答する。
「……言うと、思う?」
「自分の命を賭してまで……エクスガンナー計画がそんなに大事……?」
千里がため息をつく。それでも、問いへの答えはない。確かなのは、ニューは戦闘を続行するつもりがある、ということだ。
5分を経過したことを告げる雅貴の声が、ケルベロスたちの耳に届いた。
●最後の一撃
一人でケルベロスの相手をするニューは、まるで退く気配を見せなかった。いくら傷を負わされようとも、果敢にケルベロスたちに立ち向かう。無論、ケルベロス側も手加減はしない。攻め手と癒やし手が、それぞれの判断でニューの体力を削り、味方を癒やす。
「これは、どうかしらっ!」
追い詰められたニューの一撃が、タクティを床に叩きつけた。
「ぐ……っ、流石にそろそろまずいんだぜ……!」
抉られた肩口を押さえるタクティへ。千里がすぐにヒールを施す。そして、そっとニューを見た。
「焦り……苛立ち……恐怖……全て心のなせる業……貴女の思いの根源はいったい何……?」
何度目かの問いに、ニューはほんの僅かに表情を緩める。それでも、苛立ちが全面に出ている表情ではあるが。
「——私には、わからないわ。色んなものが私の中を巡る。逆に聞いてもいいかしら? ねえ、どれが『感情』なの?」
「知るか。定命の者が数百年受けてきた突然の死の恐怖、味わってみろよ」
ステインが居合い斬りをすると、雅貴も閃影を直撃させる。
「っ、まだ、まだあっ!」
威勢とは裏腹に、ニューを構成するパーツがいくつか外れかかっている。
畳みかけるなら、今。そう判断したタクティが、気力を振り絞って跳躍した。
「一つ言えるとするなら、お前本当についてないんだぜ?」
流星の軌跡を描く一撃を背面に受け、声も出ないニュー。その真正面へ、光が回りこんだ。近すぎず、遠すぎず。ニューの視線を受け止め、達人の一撃を放つ。
「さよなら、だな」
ニューの目の光が消える。次いで、彼女を構成していた部品が吹き飛んだ。金属板、ねじ、スプリング、強化ガラス——。部品がそこかしこに散らばる。
「エクスガンナー・ニュー、撃破完了だな」
光が銃で帽子のつばを軽く押し上げた。
「鉄の拉げる感覚、なかなか趣のあるものでございました」
ステインはスカートの埃を払い、恭しく礼をする。体には、まだ繰り出した攻撃の余韻が残っている。疲労も大きいが、思い切り攻撃を打ち込めたことに充足も感じていた。
「7分と少しで撃破、だな。しかし、感情表現豊かとされつつも終ぞ不機嫌通しか」
懐中時計を仕舞い、落ちた部品に視線を遣る雅貴。そのまま静かに目を閉じ、祈る。せめてニューが安らかに眠れるように、と。
再び目を開けた時には、部品は砂のように崩れ、すべて消え失せた。
真奈が大きく息を吐き、可愛らしい笑顔を浮かべた。
「一件落着、やな。お疲れさん、飴ちゃん食べるか?」
差し出された飴を、迅は笑顔で受け取った。そして仲間を見遣り、大きくうなずく。
「みんな、ありがとさん。また組めるといいな」
「ええ。機会がありましたら、是非」
雪兎も、笑顔で応える。
気がつけば夕日の色は消え、夕闇が迫り始めている。心地よい疲れと共に、ケルベロスたちは勝利の余韻を噛みしめたのだった。
作者:雨音瑛 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年10月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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