輝く月に夢を馳せ

作者:白鳥美鳥

●輝く月に夢を馳せ
 真夜中の廃駅。誰もいない夜の戸張。懐中電灯を片手に彼方は、その見るからに恐ろしげなその場所に、彼は一つも恐れている様子はなかった。
「……今日は綺麗な満月だな」
 月を見上げた彼方は頷くと、廃駅の中に入っていく。
 寂れたホームに荒れた線路。普通の人なら恐怖を抱くかもしれないその場所で、彼方は用意してきた防寒具とある程度の食料を置いてホームに座り込んだ。
 ほんのりと月明かりが彼を照らす。
「ここから列車が出る……」
 そして月を見上げた。
「……そう、ここから月に向かう列車が出るんだ」
 ぼんやりと月を眺めている彼方の前に、第五の魔女・アウゲイアスが現れると、そのまま躊躇いもなく彼の心臓を大きな鍵で突き刺した。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 彼方はそのまま崩れ落ちる。そして、彼の傍には浮かび上がる汽車が現れたのだった。

●ヘリオライダーより
「月とか星空とか……不思議な魅力があるし……それに凄く綺麗だよね」
 デュアル・サーペント(陽だまり猫のヘリオライダー・en0190)は、そう言ってケルベロス達に事件の概要を話し始める。
「実はファニー・ジャックリング(のこり火・e14511)の予知した事件が起こってしまったようなんだ。『興味』を持って調査している人が襲われるって事件で……この『興味』を奪ったドリームイーターは既に姿を消しているみたいなんだけど……汽車の形をしたドリームイーターが現れてしまって事件を起こそうとしているみたいで。だから、この事件をみんなに解決して欲しいんだ。お願いするよ。後、無事にドリームイーターを倒せたら被害者の人も目を覚ましてくれるから安心してね」
 デュアルは状況の説明を続ける。
「場所は夜中の廃駅。ホームも線路も酷い状態みたいなんだけど、月明かりが見えると幻想的な感じみたいだね。ドリームイーターは汽車の形をしている。車体は大きいけど、汽車だけに動きは早いみたいだよ。それで、このドリームイーターは『自分が何者か?』って聞いてくるんだ。で、正しく対応できなければ殺してしまう。だけどね、このドリームイーターなんだけど……自分の事を信じていたり、噂をしている人が居ると、その人の方に引き寄せられる性質があるみたいなんだ。それを上手く利用すれば有利に戦えるんじゃないかな?」
 デュアルは、ちょっと微笑む。
「なんか、このドリームイーターってちょっと幻想的だよね。いかにも夢っていうか……ロマンがあるっていうか。だから、それが穢されるのはやっぱりいけない事だと思うよ」
 デュアルの言葉に、ミーミア・リーン(笑顔のお菓子伝道師・en0094)がコクコクと頷く。
「何だか凄く不思議なドリームイーターなの。だからこそ、彼方ちゃんを救ってあげないといけないの! ミーミアもお手伝いするから、みんな、頑張るの!」


参加者
四之宮・柚木(無知故の幸福・e00389)
エンリ・ヴァージュラ(スカイアイズ・e00571)
エイト・エンデ(驪鱗の杪・e10075)
ディグ・マイヤー(炎狼・e11248)
クレーエ・スクラーヴェ(白く穢れる宵闇の・e11631)
鉄・冬真(薄氷・e23499)
玄乃・こころ(夢喰狩人・e28168)
フェルナ・トワイライト(黄昏の禁魔術士・e29888)

■リプレイ

●輝く月に夢を馳せ
 真夜中の廃駅。そこは月明りで照らされて、不気味というよりは不思議な気持ちにさせられる、そんな場所。
 闇の中、ケルベロス達はそれぞれカンテラやハンズフリーのライト等を持ち込んで、足場を照らす灯りにした。
「綺麗なやつ見付けたンだぜ、へへ」
 ディグ・マイヤー(炎狼・e11248)は、自らが持ってきたランプを見せる。
「確かに綺麗だ。この場所には、とても合う」
 エイト・エンデ(驪鱗の杪・e10075)は、ディグのランプを見て頷いた。
「本当? 見たいの!」
 下の方から声が聞こえる。ミーミア・リーン(笑顔のお菓子伝道師・en0094)だ。ディグはランプをミーミアの目の前へと見せてあげる。
「わあ、とっても綺麗なの!」
「本当……綺麗……」
 フェルナ・トワイライト(黄昏の禁魔術士・e29888)も、顔を出してランプを眺める。喜ぶ二人ににディグは微笑んだ。
「ミーミア殿」
 呼ばれてミーミアは声がした方を見上げる。そこには凛々しい顔立ちをしている四之宮・柚木(無知故の幸福・e00389)が居た。
「ミーミア殿には回復に専念してもらうが、手が足りない場合は遠慮なく声をかけてほしい。皆で出来得る限り支援する」
「ありがとう、柚木ちゃん! ミーミア、頑張るの!」
 柚木の言葉にミーミアはにっこりと笑い、彼女のウィングキャットのシフォンが「にゃあ」と返事をした。
 足場の灯りかつ邪魔にならない程度に離して、噂を始める。
「ここから月に向かう列車が見られるらしいよ。それは一体どこからやってきているんだろうね?」
 鉄・冬真(薄氷・e23499)の言葉に、クレーエ・スクラーヴェ(白く穢れる宵闇の・e11631)が続ける。
「月に向かう汽車って着いた先には何があるんだろうね?」
「乗車券は何かな? まさか、命、なんて言わないよね。だって折角、星々の間を巡って月まで旅立つなら、帰ってきてやっぱりみんなに自慢したいもんね」
 そう話すのは、エンリ・ヴァージュラ(スカイアイズ・e00571)。
「よく月の見える場所だ。こう雰囲気があると、そんな逸話があるのも頷ける」
 エイトは月を見上げるように、夜空を仰ぐ。それにつられるように、他のケルベロス達も夜空を仰いだ。
「今日みたいな日に月まで行けンなら、道中、めっちゃ綺麗なもン見られンだろうなァ」
 ディグの言葉を待っていたかのように、夜空の中からぼんやりとした光を放つ汽車が廃駅の線路に到着する。
「私が何者だと分かるだろうか?」
 低く、重たい声。重低音が汽車らしい声とも言えた。
「何者か、なんて人の事を断言できる人なんているのかな?」
 クレーエのその言葉に、汽笛が小さく悲しく鳴った気がした。

●汽車型ドリームイーター
 今度は、はっきりドリームイーターから汽笛の音が聞こえた。強く、そして、どこかに誘う……そんな不思議な音。その音はクレーエの気持ちをかき乱していく。
「まずは、力を与えるよ」
 エンリはエイト達にカラフルな爆発で力を与えていく。その力を受けたエイトはドラゴニックハンマーを砲撃形態に変化させると、ドリームイーターへ向かって撃ち放った。続いてエンリのふわふわ淡い金色の毛並みのボクスドラゴンのクルルが、炎のブレスを吐いて、サポートを努める。
「皆に集中力を……」
 冬真は装備しているオウガメタルからオウガ粒子を与えて鋭い感覚をクレーエ達に贈った。
「月も良いけど星も良いもンだろ?」
 ディグはドリームイーターへと向かって星の煌めきを放つ重たい蹴りを叩き込む。
「今ここに武士(もののふ)集いて戦に挑む。――照覧あれ!」
 もう一度、柚木の戦の神に舞を捧げ、エンリ達に力を与えていった。
 玄乃・こころ(夢喰狩人・e28168)には、ドリームイーターに対して因縁がある。こころの見据える先は汽車のドリームイーター。アンニュイな表情ではあるけれど、その眼には復讐の炎が燈っていた。
「定刻通り参上かしら?」
 こころはドリームイーターへ渦巻く炎を纏わせると放つ。その装備はミミックのガランが創り上げたエアシューズだ。
 こころの動きを見て、フェルナはドリームイーターへと、更に渦巻く炎を放ち燃え上がらせる。
 ミーミアは正常な意識を失いつつあるクレーエを含めて、雷の障壁を創り上げて治療と加護の壁を齎していく。それに続いて、シフォンも加護の風を送り込んだ。
 今回は、ミーミアの応援として木下・昇(永遠のサポート役・e09527)とスヴァルト・アール(エリカの巫女・e05162)が来てくれている。昇はドリームイーターを撃ちぬき、スヴァルトは破壊のルーンをエイトに与えた。
 汽車は線路を動きだし、そこから誰かの声が聞こえる。恐らく、この廃駅のかつての名前を言っているのだろうけれど、それがとても不気味だ。それは、冬真へと雑音の様に襲ってくるが、それをエンリが翼をはためかせて庇った。
「大丈夫? 冬真は大事な役割だから、期待しているからね」
「ああ、その期待に応えられるようにするよ」
 笑顔で言うエンリに、冬真は決意を新たにするように頷く。クルルの方は主人のエンリへと回復を行った。
 エイトはエクスカリバールを構える。そして、ドリームイーターへと投げつけて強烈な一撃を与えた。
「幻想的なだけであれば良いけど、ね」
 クレーエはゾディアックソードを煌めかせてディグ達に星々の加護を与えていく。エンリの期待を受けている冬真は、これから動くミーミアと被らない様にと、フェルナ達へオウガ粒子を放ち、更に命中精度を上げた。
「捕えた」
 ディグのブラックスライム、柚木の御業がドリームイーターを包み込んで、動きを拘束する。
 動きを封じられているドリームイーターに向かって、命中率が更に上がったこころは、星の輝きを持つ重たい蹴りを強力に叩き付けて動きを封じた。ガランもそれに続いて噛みつき攻撃を行う。続いて、フェルナは加える様に輝く蹴りを重ねて動きを止めていった。
 ミーミアはエンリに施術を行って治癒を施す。そして、シフォンは重ねて清らかな風を送り込んだ。昇は弾丸を撃ち込み、スヴァルトはクレーエにルーンの加護を送る。
 汽車のドリームイーターは、本来はもっと素早い筈なのだが、中々それが生かす事が出来ないようだ。
「クルル、一緒に頑張ろう」
 エンリはドリームイーターへと向かって魂を喰らう一撃を放ち、クルルはタックルを叩き込んだ。
 しかし、ドリームイーターは、それでもその機動力を生かして線路を使って襲ってくる。狙いは攻撃力の高いエイト。だが、それをクレーエが庇う。
「もう少しだ、宜しく頼むよ」
「ああ、任せろ」
「俺も期待しているからな」
 クレーエ、それにディグも励ますように言ってくれて、エイトも力強く頷く。そして、ドラゴニックハンマーを砲撃形態に変え銃弾をドリームイーターへと撃ち込んだ。それに合わせてディグの渦巻く炎を放たれる。
「さあ、消える時間だ」
 柚木はマインドリングを剣の形にする。そして、思いっきりドリームイーターを斬りつけた。
「君はもしかしたら月へと帰りたいのかもしれない。けれど本当の家は別にあるんだよ。さあ、彼の心の中へお帰り。帰り道を僕達が示そう」
 冬真は、ナイフの刀身に浮かべた影をドリームイーターへと放つ。
 こころの言葉が響く。
「伽藍開砲、断滅……爆ぜろ」
 ミミックのガランが変形、巨大化。ゴシック調の厳かな大砲と化し、こころの命に従ってエクトプラズムの奔流を放った。
 こころに続いて、フェルナも攻撃に移る。
「龍をも弑する閃光の魔弓よ。黄昏の名のもとに命ずる、我に仇なす者に逃れ得ぬ必中の一矢を放て。其は龍をも穿つ絶死の魔弾なり!」
 高速移動するドラゴン対策に創られた術で弓型の魔法陣から閃光をドリームイーターに向かって放った。
 ミーミアはエイトへと雷の力を用いて攻撃力の底上げを行い、シフォンはリングを飛ばしてドリームイーターを攻撃する。昇の弾丸とスヴァルトは地獄の幻影を使って昏い炎をドリームイーターに纏わせて攻撃を行った。
「さあ、遊んでおいで」
 クレーエは『紫揚羽』の素質を宿す紫の蝶は、飛び立ちドリームイーターを切り裂く。エンリも星の輝きを持つ重い蹴りを叩き込み、クルルも炎のブレスを放った。
「じっとしていろ」
 エイトはドリームイーターへと五指で触れ、生体電流が強く干渉させて高圧電流で焼き焦がす。
 そして、汽車の形のドリームイーターは月の輝きを思わせる光を放って消えていった。

●満月の下で
 壊れているホームの中で、彼方を見つける。彼が羽織っていた防寒着を着せたままヒールをかけて回復をさせた。
 ケルベロス達から事の顛末を聞いた彼方は残念そうな顔をしたが、それでも、灯りを消して、この駅を照らす月の光には満足している様だった。
「みんな、お疲れ様なのー!」
 ミーミアが、温かいココアとクッキーやカップケーキ等を持ってきて配る。
 クレーエは月明りの景色を写真に収めていた。本当は見上げていたいけれど、彼の大事な彼女は狂月病の持ち主であり、それが心配なので帰るから。
「ごめん、用事があるから」
 クレーエは、そう告げると軽食を差し入れる。
「じゃあ、お土産にどうぞなの!」
「ありがとう」
 ミーミアから貰ったお菓子を貰ってクレーエは、大切な人の元へと帰って行った。
 エンリは月明りの中、クルルと一緒に線路を辿っていく。危ない所は翼で飛んでみたり……月の方へと飛んでみたり。そして、カバンに詰めてきた紙に愛用の羽ペンで新しい夜空の地図を楽しそうに描いていた。
「お月見……綺麗……だね」
「うんうん、すっごく綺麗なの! こんな風景……滅多に見ないの!」
「月に向かう列車……か、ちょっと乗ってみたい……かも」
 フェルナの言葉にミーミアは頷く。
「あれはドリームイーターだったけど……本当にあったら素敵なの」
 月を見上げながら、ココアとお菓子を食べながら夜空を楽しむ。
「柚木ちゃんも、こころちゃんも一緒にお月見するの!」
「ああ、そうだな」
「うん」
 柚木とこころも加わって、女の子4人で空を仰いだ。綺麗な月が優しく照らしている。
 とても綺麗で幻想的な世界。とても不思議な世界に誘ってくれる。
「こういう時間も良いな」
「ええ、心が安らかになる……」
 柚木とこころはゆったりとした気持ちで月を眺めて。
「このお菓子も美味しいのよ? フェルナちゃんも食べて欲しいの!」
「うん……頂くね?」
 歳の近いミーミアとフェルナも楽しそうに過ごしていた。
 一方、複雑な気持ちで満月を見上げるのはディグ。
(「俺がこうやって満月が綺麗だと思えンのもラッキーな事なンかねェ。ウェアライダーは色々あるし、な」)
 ディグを含め、ウェアライダーの中には狂月病というものがある。それを患っているものは、こうやって満月を楽しむ事は出来ないだろう。
「ディグ殿、どうされた?」
「ああ、いや、何でもねェよ。それより、彼方の方はどうだ?」
 エイトの言葉に、ディグは彼方へと視線を移す。
「……襲われたとはいえ、ちょっと汽車、見たかったです」
「確かに幻想的な光景だったな。見せてやれんのが惜しい程には」
 そんな言葉に、エイトは答える。こればかりは見せてあげる訳にはいかない。
「……でも、ここの景色だけでも……綺麗ですね」
 微笑む彼方に、エイトとディグも心が軽くなるのを感じていた。
 昇は月明りに照らされる廃駅の写真を撮り、スヴァルトは持参した缶コーヒーを飲みながら月光浴を楽しんでいる。
 月下の世界の中、眠るような空気を泳いで廃駅や線路を歩くのは冬真。共に泳げたら楽しいだろうかと汽車へと思いを馳せる。……敵なのに憎めない。
 冬真は月を見上げて呟く。
「おやすみ」
 ……月への汽車が夢へと消えていく、この月明りの中で――。

作者:白鳥美鳥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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