月喰島奇譚~深怨の禍津巫女

作者:雷紋寺音弥

●禍人の社
「さて……それじゃ、実際にどこからどうやって攻めるか、今までの情報から考えてみるか」
 神社の間取りを描いた即席の地図を広げ、黒鳥・氷雨(何でも屋・e00942)は仲間達の顔を見回すようにして言った。
 昼夜を問わずに警戒と調査を続けた結果、境内の構造は完璧に把握できている。正面の他、脇にも小さな鳥居があり、そこが神社の裏口だ。正面の鳥居を抜けて参道を真っ直ぐ進めば、左手には客分の神を祀るための小さな末社が、右手には武芸や舞を演じるための神楽殿が控えている。
 それらを抜けて奥へと進むと、やがて拝殿へと辿り着く。拝殿の右手には神木と思しき木が生えており、その奥には本殿の神と縁の深い神を祀る摂社がある。
 一方、左手には宝物殿と社務所が設けられており、社務所からは渡り廊下で拝殿へと行けるようだ。拝殿の奥には本殿があり、敵の一部は建物の中にも潜んでいることだろう。
「正面突破……は、さすがに危険過ぎるね。かといって、誰かを囮にするのも気が引けるけど……」
 仲間の誰かを犠牲にするような作戦に、アルレイナス・ビリーフニガル(ジャスティス力使い・e03764)は難色を示して言った。だが、無策で社を攻めたところで、こちらも無事では済まないのも事実。地の利が敵の方にある以上、どうしても何らかの策を講じなければならない。
「囮、か……。そこまで危険を冒さなくても、ちょっとした陽動をかけてやれば、撹乱はできると思うんだけどなぁ……」
 思案する立花・恵(カゼの如く・e01060)。要するに、敵の戦力を分断し、指揮官を孤立させられればよいのだ。そのためには陽動が不可欠だが、しかし確固撃破される危険を冒してまで、いちいち敵の前に姿を晒す必要もないわけで。
「ならば、まずは森の茂みに紛れて社に近づき、摂社の辺りに攻撃を仕掛けるというのはどうだ? 同時に、宝物殿にも一発食らわせれば、泡を食って拝殿や本殿から敵が出てくる可能性もある」
「なるほど、様々な個所から攻撃を仕掛け、どこから攻撃されているか分からなくするというのじゃな。これは面白いことになりそうじゃのぅ」
 皇・絶華(影月・e04491)の提案に、ルティアーナ・アキツモリ(秋津守之神薙・e05342)が悪戯っぽい笑みを浮かべた。
 少し離れた距離からグラビティの一発でも撃ち込んでやれば、それに気づいた敵の一部がやって来ることだろう。無論、そこで無理に戦闘はせずに、そっと後退してから本殿の後ろに回る。その一方で、正面からも仕掛ければ、残る敵は参道に殺到するに違いない。後は、これを現れた順に、確固撃破して突き進めばよい。
「二段構えの陽動作戦ってわけか。これで、上手く相手が引っ掛かってくれるといいんだけど……」
 未だ不安を拭い切れない様子で新条・あかり(点灯夫・e04291)が呟いたが、現状で考えられるのは、これが最良の方法だった。
「まあ、そこは時間との勝負でしょうね。敵も、いつまでも陽動に引っ掛かってはくれないでしょうから、正面から仕掛ける役割の人達には迅速な敵の撃破が求められます」
 それができなければ、得体の知れない屍人のような敵に囲まれ、敢え無くゲームオーバーだ。そんなバッドエンドはホラー映画の中だけで十分だと言って、八王子・東西南北(ヒキコモゴミニート・e00658)眼鏡の位置を軽く直した。
「あの化け物と、女の人が、どんなてきなのか、わからない……。けど……ぼくたちは、ぜったいに勝たなくちゃ、いけないんだよね……」
 全員で生きて帰る。そのために、今一度皆で力を合わせよう。そう締め括った伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)の言葉に、他の者達も無言のまま一斉に頷いた。


参加者
伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)
八王子・東西南北(ヒキコモゴミニート・e00658)
黒鳥・氷雨(何でも屋・e00942)
立花・恵(カゼの如く・e01060)
アルレイナス・ビリーフニガル(ジャスティス力使い・e03764)
新条・あかり(点灯夫・e04291)
皇・絶華(影月・e04491)
ルティアーナ・アキツモリ(秋津守之神薙・e05342)

■リプレイ

●逢魔
 深夜、草木も眠る丑寅の刻。
 空気を切り裂くような炸裂音と共に、宝物殿の瓦が弾け飛ぶ。同時に、摂社には巨大な火の手が上がり、闇に包まれし社の姿を煌々と照らし出す。
「オ……オ……」
「オォォ……」
 炎と明かり、それに宝物殿を襲った衝撃に釣られ、本殿の奥から続々と異形の者達が姿を現した。紫色の布を纏った、屍人のような奇怪な存在。獲物を求めて一点に集まってくる様は、まるで誘虫灯に引き寄せられて集まって来る蛾のようだ。
「ふむ……どうやら、上手くやってくれたようじゃの。ならば……」
 夜空を染め上げる炎の色を満足そうに眺めながら、ルティアーナ・アキツモリ(秋津守之神薙・e05342)は鳥居の正面に立ち、そのまま参道の奥目掛けて無数の刀剣を解き放った。
「鬼さんこちら、とな! ……ほぅれ、きおった」
 参道の石畳が砕け散ったところで、その奥から数体の異形が揺れるような歩みで近づいてきた。頭巾の奥に妖しく光る二つの瞳。それが命ある者達の持つ輝きと違って見えるのは、決して気のせいなどではない。
「奴らは何者なのか……。否、今はそれを詮索している場合でもないか」
「そうだね。何を企んでいるのかは解らないけど、まずは神社にいる少女を倒して、目論見を破壊してやらないと!」
 迫り来る異形を前にして、皇・絶華(影月・e04491)とアルレイナス・ビリーフニガル(ジャスティス力使い・e03764)が鳥居の中へと一歩を踏み出す。互いに頷き、同時に大地を蹴って接敵すると、そのまま強烈な蹴撃で纏めて蹴り伏せた。
「ウ……ァァァ……」
 吹き飛ばされた異形の身体が石灯籠に衝突し、砕け散った石片が白い粉塵となって周囲に舞う。だが、それでも敵は何ら意に介さぬ様子で立ち上がると、再びこちらへ両手を伸ばして向かって来た。
「……ん、がんばる。ちゃんとしらべて、ちゃんと帰る。ぼくのしごと」
 伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)が槍を構え、それを高々と投函する。投げ上げられた一閃は空中で無数の刃と化し、驟雨の如く敵の頭上に降り注ぐ。
「なるほど、数だけは多いのぅ。じゃが……それならば、お主らの数そのものを利用させてもらうだけのことよ」
 早くも混戦の様相を示して来たが、それでもルティアーナは冷静だった。
 敵の正体は不明だが、それでも知能は決して高くない。所詮は有象無象の集団に過ぎないと、魔眼の凝視で真正面から射抜き。
「ウ……ガァァァッ!!」
 途端に錯乱し、同志討ちを始める異形達。猫の手も借りたい状況であるなら、いっそのこと敵の手まで借りてしまえばいい。数の差を反対に利用した、正に逆転の発想だ。
「催眠の掛かっていない者を優先して狙え。元気な奴ほど、放っておくと面倒だ」
 迫り来る異形の攻撃を華麗な足技で捌きつつ、絶華が背後に立つアルレイナスへ告げる。瞬間、跳躍した異形が絶華の頭上から襲い掛かるが、彼は巧みに身体を捻り、燃え盛る蹴りの一撃で吹き飛ばした。
「攻撃をこっちで引き受ける……までもないみたいだね、これは!」
 掴みかかろうと迫って来た異形の手を片手で受け止め、アルレイナスは後ろも向かずに絶華へと答える。あまり時間を掛けられない以上、ここは速攻で決めるしかない。全身全霊の力を込めて、異形の頭を殴り付け。
「……ッ!?」
 スイカの割れるような音がして、木っ端微塵に粉砕される敵の頭。飛散した返り血のような物を軽く拭って見れば、残る異形の者達もまた、勇名とルティアーナの二人によって蹴散らされていた。
「るちあーな、そっち、おねがい……」
「言われるまでもない。纏めて斬り伏せてくれるわ」
 横薙ぎに払われたナイフと刀。それぞれの切っ先が、異形の者達の首筋に容赦なく食らい付く。紫色の布片が宙を舞い、敵の身体が糸の切れた人形のように倒れて動かなくなるが。
「やれやれ……。どうやら、次が来たみたいだ」
 額の汗を拭い、アルレイナスが参道の奥に構える本殿を見やった。参道の左右に置かれた末社と神楽殿。その影から、新たに3体の敵が姿を現していた。

●禍女
 拝殿の扉を開けると、そこは静まり返っていた。
 本殿を挟んだ向こう側からは、未だに激しい戦いの音が聞こえてくる。
(「やだなあ……怖いなあ……。でも、ここで退く訳には……」)
 エクスカリバールを握り締め、八王子・東西南北(ヒキコモゴミニート・e00658)が拝殿の中へと一歩を踏み入れた。その途端、空気を切り裂くような音がして、彼の足元に一本の矢が突き刺さった。
「……っ!?」
「なるほど……。先程の攻撃は、陽動でしたか」
 薄暗い部屋の奥から姿を現したのは、頭巾を被った一人の少女。だが、その衣服は酷く破れており、瞳もまた人間としての光を失っていた。
「待てよ! お前は、この星の人間……地球人なのか?」
 周囲にガスを展開しつつ、立花・恵(カゼの如く・e01060)が慌てて問う。だが、そんな彼の言葉など聞こえていないかのように、少女は再び矢を番え、ケルベロス達に狙いを定めて来た。
「問答無用です。侵入者には、死、あるのみ」
 それだけ言って、少女は何も語らない。知性こそあれど……否、知性があるからこそ、呪縛にも等しい信念に縛られている。
「ちっ……仕方ねぇ」
 これ以上は、会話をするだけの時間もなさそうだ。悪態を吐きつつ、黒鳥・氷雨(何でも屋・e00942)が紅蓮の蹴りから緋色に燃える三日月を飛ばす。その一撃に少女が怯んだ隙を狙って、新条・あかり(点灯夫・e04291)は鎖を伸ばして味方を囲んだ。
「あなたの名前は? 月喰島の人?」
 右腕に残る炎の欠片を振り払っている少女へと、あかりは改めて名前を問う。しかし、そんな彼女の問い掛けにも、少女は何ら興味を示さない。
「名前? ……忘れてしまいましたね、そんなものは」
 間合いを測り、再び弓を番える少女。だが、それでもまだ聞きたいことがあると、東西南北はバールを投げつつも問う。
「では、島の人達をゾンビ化させたのは、あなたなのですか?」
「さあ? 私の使命は、この社を守ること……それだけです」
 少女の鋭い眼光が、東西南北を真正面から射抜いた。一瞬、それに怯んだ彼の胸元目掛け、情け容赦なく矢が放たれる。
「うひぃっ……って、あれ?」
 だが、急所を狙って放たれた矢は、果たして東西南北の胸を貫くようなことはなかった。
「ったく、世話が焼けるぜ。お喋りなら、まずは女を大人しくさせてからにしな」
 肩に突き刺さった矢を抜いて、氷雨が部屋の奥へ放り投げる。恵もまた両手に握った銃を構え、改めて少女と対峙する。
「どうやら、今はやるしかないようだな。下手をすれば、こっちがやられる……」
 相手の狙いは正確無比。陽動に人数を欠いている現状では、少しの油断が命取り。
 人の形こそしているが、まともに話ができる相手ではなさそうだ。拝殿の中に激しい銃声が鳴り響き、それが真なる戦いの狼煙となった。

●呪縛
 夜の帳が落ちた社の敷地は、今や屍人と地獄の番犬が入り乱れる、凄まじい戦場と化していた。
 外で戦う者達の戦闘音が、拝殿の中にまで響いてくる。音が徐々に近づいて来ていることからして、本殿の近くまで攻め入って来れたのだろうか。
(「そろそろ、皆も来てくれる頃かな。だけど……」)
 予想外の強さを誇る少女の弓術に、あかりは歯噛みしつつ言葉を飲み込んだ。
 敵は見た目こそ人間の少女と同じだが、しかし個の戦闘力はケルベロスのそれを軽く凌駕する。それこそ、デウスエクスそのものと言っても差支えない程に、強靭な肉体と精神を併せ持っている。
「皆の後ろを守るのが僕の矜持。僕が居る限り、誰も倒れさせはしない」
 それでも、ここで誰かを欠かす訳にはいかないと、あかりは傷を負った氷雨へと、強引なショック療法を施した。
「おいおい……。勢い余って、俺まで殴り殺さないでくれよ」
 苦笑しつつ、部屋の柱を狙って弾を撃つ氷雨。跳弾の生み出す結界で敵の動きを阻んだところで、すかさずライドキャリバーの宵桜が突撃する。炎を纏った突撃を正面から食らい、少女の身体が拝殿の奥まで吹き飛んだ。
「くっ……! やって……くれますね……」
 付着した木片を払い、少女がゆっくりと立ち上がる。しかし、その間にも攻撃の波は収まらない。続けて足元から噴出したマグマが、少女の身体を拝殿の天井まで持ち上げて叩き付けた。
「ひょっとしたら、あなたも元は人間だったのではありませんか? ドラゴンによって、無理矢理変わり果てた姿にさせられたのでは……」
 味方の応援をテレビウムの小金井に任せ、東西南北は改めて少女に問い掛ける。しかし、それでも少女は決して顔色一つ変えることなく、無言のまま立ち上がった弓を番えた。
「くそっ……。生きてるのか死んでるのか、そもそもデウスエクスなのか? 何があったんだ、お前たちに!」
 いい加減、こちらの問いに答えたらどうか。心のままに叫びつつ、リボルバーの引き金を絞る恵。
「星のように……舞えっ!」
 何も語らぬというのならば、せめてその頭巾を破壊してやろう。闘気を込めた銃弾を放ち、刃のような軌道で斬り刻ませるものの、やはり少女の表情に変化はなく。
「侵入者には死を。この社に足を踏み入れた以上、生きて帰れるとは思わないことです」
 放たれた鋭い矢の一撃が、恵の眉間を目掛けて飛来する。命中精度では、向こうが上手。このまま額を貫かれると……そう、彼が覚悟を決めた時だった。
「おっと、そうはさせないよ」
 いつの間にか現れたアルレイナスが、右手で矢の先端を握り締めていた。掌から溢れ出る赤い滴が床を染めていたが、この程度は彼にとって大した傷でもない。見れば、他にも外の異形を打ち倒して来た仲間達が、拝殿へと集結して少女の周囲を囲んでいた。
「貴様らはなんなんだ? ドラグナー、なのか?」
 身に纏った闘気の勢いを殺すことなく、絶華が尋ねた。その問い掛けにも少女は返事をしなかったが、絶華もまた気にせず話を続けた。
「目的は……想像はつく。この場所は……雌伏の場所としては……最適だったろうからな」
 そちらの裏で糸引く者。それを倒すためにも、ここで負けるわけにはいかないと。
「おはなしできない? だったら、たおすしかない」
 どちらにせよ、戦闘は避けられないのだ。勇名のアームドフォートが火を噴いたのを皮切りに、一斉攻撃に入るケルベロス達。
「くっ……この社を守る……。それが、私に課せられた使命……」
 自らの矢を己の身体に突き刺して、少女は自身の力を高め、辛うじて踏み止まっていた。が、それも時間の問題だ。配下の異形達がいない今、数の上では完全に押し負けているのは揺るぎなき事実。
 刃が、脚が、銃弾が、荒らしのように拝殿の中を駆け巡った。飾られていた神鏡が割れ、柱の一部が音を立てて砕け散り、少女の身体が紅蓮の炎に包まれた。
「どうやら、勝負あったようじゃな。仕える主の御名……誇りあれば、最後に唱えてみよ!」
 斬霊刀を突き付けて、部屋の隅に追い込んだ少女へとルティアーナが問う。しかし、完全に勝機を失ってなお、少女は何の反応も示さなかった。
 もう、これ以上は彼女から、何かを聞き出すこともできないだろう。仕方なく、ルティアーナは己の呪力にて顕現せしめた三鈷剣を、少女目掛けて振り下ろす。
「大元帥が御名を借りて、今ここに破邪の劔を顕現せしめん! 汝、人に災いを為すものよ。疾くこの現世より去りて在るべき常世へと赴け!」
 魂まで滅する破霊の剣閃。その一撃は禍津巫女を縛る深怨を、一刀の下に断ち切った。

●冥龍
 社が、赤く燃えていた。
 戦いを終え、改めて境内の調査を行ったケルベロス達ではあったものの、ドラゴン勢力の存在を示唆する証は見つからなかった。
「心煩うことは無い。もう休め、ゆるりとな」
 ならば、せめてもの手向けになればと、ルティアーナは少女の亡骸を神社諸共に荼毘へと伏した。
「結局……ここで何が起きていたんだろうね」
 煙の立ち昇る空を見上げながら、あかりが呟く。島を照らす朝の陽射しが、夜中の死闘が嘘であったかのように、彼女達を優しく祝福している。
「どうやら、お迎えが来たようだね」
 回収に現れたヘリオンの姿を捉え、アルレイナスが言った。疲労から眠ってしまった勇名を背負い、彼らは謎に満ちた月喰島を後にする。
「やれやれ……ようやく、終わったか」
 瞬く間に小さくなって行く大地を横目に、氷雨がヘリオンの中で足を投げ出して呟いた。見れば、そこかしこからも、別のヘリオンが飛び立っている。
 これで、この島ともお別れだ。だが、誰ともなく安堵の溜息を吐いた瞬間、何か異様なものを感じ取ったのだろうか。
「何か聞こえないか? まるで怒りに満ちているような……」
 そう言って恵が立ち上がった瞬間、眼下に広がる月喰島が中央から崩れ、その衝撃にヘリオンが揺れた。
「あれは……」
 島の中央から現れし漆黒の竜。それを見た絶華が思わず息を飲む。
 死神さえも霞む程の禍々しさ。この距離からでも感じられる、恐るべき怒りと憎しみの念。そしてなにより、全身から放たれる醜悪な邪気は、今までにケルベロス達が相対して来たドラゴンの比に非ず。
「なんという事をしてくれたのだ。あと少しで、神造デウスエクス……屍隷兵(レブナント)が完成したものを。決して、許されるものでは無いぞ!」
 冥界の王。その言葉が相応しい竜だった。島を砕き、天地を揺るがす咆哮と共に、竜はケルベロス達へ凄まじい敵意を向けて来た。
「あれが、月喰島の人達を、あんな姿にしたドラゴンなの……」
 強大な悪意の塊を前に、あかりの耳が跳ねるように動いた。神造デウスエクス・屍隷兵。それこそが、恐るべき惨劇により変貌させられた、月喰島に住まう者達の名前だった。あの神社にいた少女も、異形の存在と成り果てた者達も、やはり元は全て人間だったのだ。
「お取込み中のところ悪いが、これ以上は危険だ。緊急離脱するから、しっかり捕まっていてくれ!」
 そう言って、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)がヘリオンを急旋回させた瞬間、その隣を凄まじい威力のブレスが走り抜けた。
「うぎゅっ! ステージ崩壊に、真のラスボス登場とか、こんなところまでホラーゲームと一緒じゃなくても……」
 衝撃で放り出された勇名の下敷きにされて、東西南北が奇妙な方向に身体を曲げながら叫ぶ。
 これは、ほんの始まりに過ぎない。どこかで聞いたことのあるような言葉を心の中で反芻しつつ、ケルベロス達は地図から消えた島を後にした。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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