月喰島奇譚~波に揺れるは虚ろなる者共

作者:久澄零太

 月光降り注ぐ夜の海。波間に揺れるのは何艘かの漁船。その中で一番大きな漁船には四体の異形と……人型のシルエットが見えた。漁業用の照明に照らされて、詳しくは見えないがそいつが指示を飛ばしている様子から、リーダー格であることは見て取れる。
「やっぱり警戒されてるねぇ……アイツを直接叩くのには苦労しそうだ」
 森の木々の陰に隠れて、紗神・炯介(白き獣・e09948) が苦笑しながらため息をつく傍ら、ジン・フォレスト(魅猿為我猿機械猿・e01603) は辺りをきょろきょろ。
「しかし、相手が海上とあっては真っ向から挑むほかなさそうだな! とはいえどうする? 私が丸太でいかだを作ってもいいが……それでは辿り着く前に狙い撃ちにされるだろう?」
「船を手に入れるにしても、先の交戦ではそれなりの数を命の連鎖に還しましたからマシですが、漁村にいる他の屍を全滅させてから海に出るのは厳しいでしょうね……」
 シルク・アディエスト(巡る命・e00636)もまた、思案顔で村と海を見比べる。彼女の矜持としてはその全てを命の円環に還したい。けれど、そんなことをしていては自分のグラビティチェインが枯れ果ててしまうのも察しが付く。戦う相手を絞り、不要な交戦を避ける戦術が必要そうだ。
「つーことは、だ。漁村の方をどうにか片付けて、それに気づいて上陸する連中に絞って迎え撃つ感じになるか? 船の上じゃあっちが有利なのは目に見えてるから、仮に船に乗れても海に出たくねぇしな」
 滝川・左文字(食材・e07099) は海上から漁村へ目を滑らせて、接岸しやすそうな地点はある程度の狭さがあり、全ての船が一度に揃い、敵に取り囲まれて袋叩き、という悲劇は回避できそうであることを確認する。
「でもそれじゃ、こっちに来なかった奴は逃がしちゃうことにならない?」
「しかたないでござるよ。拙者もまた最強ではあれど、無敵ではないのでござる。全部相手にしていたら、こちらが潰れてしまうのでござる。ある程度は撤退させても、結果は十分に上々と言えるのではござらんか?」
 シルヴィア・アストレイア(祝福の歌姫・e24410) は敵を仕留め損ねる事に多少の不安を覚えたようだが、童子切・いずな(最強にかっこいい最強な拙者・e12222) の示す妥協点に首を縦に。しかしどこか腑に落ちない彼女の様子に、ユイ・オルテンシア(紫陽花の歌姫・e08163) が微笑む。
「大丈夫ですよ。この島から離れるのならそれだけで月喰島の安全は保たれますし、他のチームと合流してから残りを相手にすることもできますよ」
 だからどこかの海に現れる前に止められますよ。そんな言葉を言外に込めて。一度声を重ねた彼女には分かる。シルヴィアは戦いたいのではなく、屍を逃がすことで誰かを傷つけてしまわないかが心配なのだと。
「さて、為すべきことはまとまったかの?」
 同様にそんな心のありようを察し、柔らかく笑った端境・括(鎮守の二挺拳銃・e07288)が手を打つ。
「さぁ、そろそろ動くのじゃ。先の一戦では合流と同時に攻め込まれてしもうたが、今度はこちらから仕掛けるのじゃ!」


参加者
シルク・アディエスト(巡る命・e00636)
ジン・フォレスト(魅猿為我猿機械猿・e01603)
滝川・左文字(恒久贖罪・e07099)
端境・括(鎮守の二挺拳銃・e07288)
ユイ・オルテンシア(紫陽花の歌姫・e08163)
紗神・炯介(白き獣・e09948)
童子切・いずな(最強にかっこいい最強な拙者・e12222)
シルヴィア・アストレイア(祝福の歌姫・e24410)

■リプレイ


「では、参ろうぞ!」
 端境・括(鎮守の二挺拳銃・e07288)の号令にシルク・アディエスト(巡る命・e00636)とジン・フォレスト(魅猿為我猿機械猿・e01603)が続く。
「とはいえ、どうしたものかな?」
 ジンは怪しまれないように、調査団のような体をとるが。
「……あの、あちら側は思いっきりこっち狙ってきてますけど」
 シルクが示したのは侵入者を見つけるなり猛烈な勢いで走ってくる屍達。
「好都合じゃないか、芝居なしに仕事ができるのは分かりやすくて助かる!」
「うむ、わしらはあくまでも囮、程ほどに目立って退くのじゃ!」
 屍の一団を引き連れて、囮部隊が森へ撤退。三人が一斉に木々の中に飛び込んだのに追随した屍達がずっこける。
「悪いがさっさとケリをつけさせてもらう……!」
 屍達の足を絡めて転がし、首めがけて三日月の如く煌めく刃を振り下ろすは滝川・左文字(恒久贖罪・e07099)。澱んだ血を噴き出させつつも頭を落とすことは叶わず。
「やっぱり、結構丈夫ですね……」
 ユイ・オルテンシア(紫陽花の歌姫・e08163)が息を吸う。吐き出すそれは鼓舞の歌。静かだが、行進曲に似た旋律は味方の士気を高めて早期決着を手繰り寄せる。
「たまにはロックに、どーん!!」
 ライブの演出のようにギターを派手に叩きつけるシルヴィア・アストレイア(祝福の歌姫・e24410)。ギターの代わり屍の体が花火のように爆ぜた。
「ずいぶんと派手なアイドルだねぇ」
 苦笑しつつ、紗神・炯介(白き獣・e09948)がステッキを投げて屍の頭と胴体を分離させ、最後の一体へ童子切・いずな(最強にかっこいい最強な拙者・e12222)が得物を手の中で反転、峰で頭蓋を叩き割った。
「掃討完了でござるか?」
 亡骸の残骸を振り落してから納刀。いずながきょろきょろ、近くに敵影はない。
「うむ、程よく誘導できたようだ。この調子で殲滅していくぞ!」
 気合を入れ直すジンに対して、シルクは唸る。思い返してほんの少し、不安がよぎった。
「さっきの様子からして動きは単純ですが、隠れる場所の少ないここで同時に複数の集団に発見されたら……」
「なに、その時は最強な仲間が最強に見守ってると最強の船に乗ったつもりで任せるでござる!」
 どん、と胸を叩きスッと存在感が薄れるいずな。
「だねぇ。最悪の場合ばかり気にして動かないんじゃ仕方ない。いざという時のために囮班と隠密班に分かれたんだしね」
 炯介もまたフッと影が薄くなり、軽く微笑んだ。
「うむ、まずは作戦通りに進めるのじゃ。囲まれたらそれはそれ、その時対応すればよかろうて!」
 括の先導に、再び囮班は村の中へと踏み込んでいく……。


「ん……?」
 順調に敵を撃破しつつも屍が連携するように姿を見せたため、一同が廃屋に身を潜めた時だった。ジンが何かを見つける。
「これは……?」
 大型の漁船に、漁師たちの集合写真。そしてその船長の写真がズラリと並び、列伝が残されていた。
「なんだいこれ? ……この村の英雄たちかな?」
 炯介も首を傾げた時だ、いずなが一番右端……最後の船長を示す。
「こやつ、拙者を海で襲った奴でござる!」
「てことは、俺達が今まで倒して来たのは……」
 やっぱり元人間か。その言葉は、飲み込んだ。左文字は長い吐息を残して外を見る。
「で、どうする? やたら『敵』が集まって来てるぞ?」
 屍、という単語を避けた彼の言葉にシルクは外の様子を覗う。
「……此方の数倍はいそうですが、どうしましょう?」
「ここは……一旦離れましょうか? さすがにあの数は……」
 オロオロし始めるユイに炯介は不敵な笑みを浮かべた。
「いや、打って出よう」
「正気!? あの数だよ!?」
 シルヴィアが示す間にも屍は数を増やし、周辺に集まりつつある。けれど彼は笑みを崩さない。
「情報をまとめるよ? 敵は囮作戦が成功するくらいには周囲の変化に注意を払うほどの思考能力はない」
「確かに。結構な数を撃破したんだ。個々にまともな頭があるなら、ここまで上手くはいかなかっただろう」
 ジンが頷くと炯介はいずなを示す。
「恐らく、敵の頭はいずなさんを襲った個体。そこの記録を見るにゴンゾウさんとかいう漁師の屍だろう」
「十中八九間違いないでござる。そこの船は最初に近づいた時に見た物と同じ名前でござるからな」
「なるほど、言われて見ると一致してる点も多い……」
 いずなが頷き、左文字が写真を見直して記憶と照らし合わせた。炯介が口角を上げて立てた親指で外を示す。
「その上で、突然屍達が明確な集団意識の下行動を共にしている。つまり、分かるね?」
「あ……そのごんぞーさん? の船が来ているかもしれないのですね?」
 両手を重ねて答え合わせをするユイに炯介が頷き、括は銃の弾倉をチェック。
「であれば決戦を仕掛けることもできるが……いかんせん、この数じゃ。まともに相手にしては疲れ果ててしまうじゃろ?」
「なに、文字通り相手にしなければいいのさ」
 何か策がありそうな笑みを浮かべる炯介。
「この数の差を逆手にとり、敵をバリケードにして一気に通過する」


「雷の愛を与えてやる。浮気性なのもご愛敬というやつだ!」
 廃屋を飛び出すなり既に敵陣のど真ん中。ジンのリュックから無数の鉤爪がついたアームが四散し、屍の脚を掴んではリュックで起こされた雷を流し、高圧電流で麻痺させてその場に転がしていく。その背を預かるは刃を地面と水平に構えるいずな。
「大人しくしてもらうでござる!」
 瞼を閉じ、見えざる物を感じ取る……ぼんやり、視えた。
「そこっ!」
 素早い刺突は首を打ち、されど皮膚を貫かず、その衝撃をもって霊体のみを叩き斬る。肉体が魂に従わなくなった屍を足止め用に吹き飛ばす。
「なるほど、これなら相手にする数を減らしつつ、最小の労力で進めます!」
 作戦を目の当たりにして、ユイが言の葉を紡いで歌を奏でる。一体を斬り伏せるうちに背後から襲われたいずなの傷が癒されるのを横目に、炯介がステッキを構えた。
「さ、お客さんがいらしたよ」
 回り込んできた一群の脚めがけて、投げた! ブーメランのような軌道を描いて最前列をその場に転がした得物を受け止めて、炯介は人差し指と中指をこめかみに添える。
「じゃ、あとはよろしく」
「えぇ、お任せください」
 やんわり微笑むシルクの腰で、菫に似た紫の武装の一部が捻じれ、蕾状の砲塔に変わり照準を回り込んできた一団に向けた。
「死者は死者として眠り、自然の糧となるが道理……後ほど『お迎え』にあがりますから、しばしお待ちくださいね?」
 微笑みと共に撃ちこまれた砲弾は途中で鳳仙花のように爆ぜ、散弾銃の如く屍達に風穴を開けて動きを封じてしまう。敵の無力化を確認したシルクが後退、戦況を見ていた括が声を張った。
「煙幕噴射じゃ!」
「任せたまえ!」
 ジンのリュックからノズルが飛び出し、辺り一帯を白煙で包み込んでしまう。一瞬の沈黙。そして……。
「ぎぃやぁあああ!?」
 左文字の悲鳴と共に煙幕を突き破って飛び出したのは、他の番犬達をアームで掴み、二本の太いアームを先へ伸ばしては自身を引き寄せて、一気に敵の頭上を行くジン。
「これもダメなのかい?」
「高い時点でらめなのぉおおおお!!」
 左文字の有様に苦笑する炯介に対して。
「飛んでるでござる! 拙者、飛んでるでござる!!」
 高い所好きないずなはテンションマックス! ついでに何か見ちゃったぞ!!
「ジン殿! 煙幕を!! 狙われてるでござる!!」
「あいわかった!」
 今度は砲塔が生え、漁船手前に撃ちこまれたそれは煙幕弾。敵の周囲を白煙で包み込むが……。
「危ない!」
 シルクが咄嗟に盾を飛ばすのと、白煙を突き抜けてジンの心臓へ銛が迫るのは同時。見事に銛を弾いたから良いものの、相手は煙幕を見透かしている!
「もしかして、朝もやの漁で慣れてて、煙幕の意味ない……?」
 シルヴィアの頬をたらりと冷や汗が滑り、案の定、第二投に備えているのが見えた。
「は、早く降りて! 狙い撃ちされちゃうー!!」
「了解だッ!」
 地面に滑りながら緊急着地するも、降りる途中で銛がジンの肩を掠めていった。
「まだまだ……!」
「ご無理はなさらず……」
 ふと、ユイが深く息を吸って。
「揺れる波に戸惑う心 不安の海に漕ぎ出して オールはすごく重いけど 進むことをやめないで……♪」
 静かに、しかし確かに響く歌声はジンの傷を癒し、さらに番犬達の背中を押すように加護を与えた。
「これを走るのは汗をかきそうだねぇ……やれやれ、早く帰ってシャワー浴びたいよ」
 離れた位置の敵へ炯介が駆ける。軽く指を鳴らして蒼焔を生み、めんどくさそうに宙に線を引いて、視界に引かれたそれをなぞるように地獄の刃が飛び、屍の一体に深い傷を残す。
「長距離戦なら私の出番!」
 走る足を止めて、シルヴィアはギターをかき鳴らした。
「私の歌を……聴けーっ!!」



「揺れる波間に飲まれても 失うことない信念を ただ 一つ抱きしめて……♪」
 シルヴィアの歌声に船が揺れ、乗組員たちが頭を抱えてのたうち始める。その歌声は耳にした者の精神を蝕み、動きを鈍らせる。
「最強な拙者の前で、距離など無関係でござる!」
 抜いた愛刀に黒い不定形を纏わせて、天を突くように刃を伸ばした。横薙ぎに振るわれる漆黒の刃の前に、四人の取巻きは体を瓦解させて風に運ばれ消えていく。しかし、銛を構えた個体は怒りに震えるように、船から飛び降りてきた。
「ナカマ……マモル……」
 小さな呟きと共に、船の照明が辺りを昼間のように照らし出す。
「熱ッ……!?」
 咄嗟に飛び出したジンがリュックから大型のパラソルを展開。大きな影を作ることで味方を守ろうとするが、そのために前に出た彼自身の身を焼き払うような高熱が襲う。
「これは……厳しいですね……!」
 ジン一人ではフォローしきれない部分をシルクが補うも、花に似た盾を展開してなおもジリジリと肌を焼くほどの光。身動きが取れなくなった番犬達へ屍は銛を振りかざし……。
「お主がこの村の守り手である様に、わしもまたこの部隊の守り手なのじゃよ」
 炯介に借りたコートを翻し、括が肩に直撃を受けながらも躍り出て、まだ動く片腕で荒魂の宿る拳銃を構えた。ちなみに、炯介が恥ずかしがるらしいからこの事は秘密だ!!
「わしとて、引くわけにはいかんのじゃ!」
 素早い発砲音。地面から昇る六つの硝煙が括の分身を生み出し、七つの銃口を船に向ける。
「絶対、皆で無事に帰るのじゃ!」
 荒魂による自動装填が重力の弾丸を生み出し、無限に放たれる弾幕が照明をかち割り光を奪う。瞬く間に照明を失い、再び夜の帳が降りる港に、駆ける影が三つ。
「悪いな」
 素早く背後を取った左文字の声に釣られるように、屍を投網が捕えた。抜け出そうともがくその身を、硬質化した繊維が食らいつき、皮膚に細かな傷跡を刻む。
「同情はしない。君が君としてあるように、僕も僕としてあるだけさ」
 先ほどの小さな呟きを耳にした故に、紫炎の大鎌を生む。ここで終止符を打つことが、最大の敬意と信じて。
「終わりにしよう」
 横薙ぎの鎌に焼かれ、もがく屍を更に足元から紫炎が呑み込む。逃げ場のない灼熱が、葬儀代わりにその身を灰に変えていく……。
「介錯、承るでござる」
 穢れを祓う刃の一閃。朝日に煌めきを返す刀の納刀と共に屍の首が落ちた。
「終わり……じゃな」
 傷の痛みと疲労感から、崩れ落ちる括をジンが支えた。
「まだだ。この後、帰り道があるからな」
「そして団体様のご到着だよぉ……」
 もはや動けない番犬達へ、スルーしてきた屍の群れが迫る。指揮系統を失い分散した為、数は少ないが、今のこの部隊には十分な脅威に……。
「それじゃ……ファイナルライブいっちゃうよー!?」
「私もご一緒しますね」
 ならなかった。シルヴィアの隣にユイも並んで、二人で呼吸を合わせる。
「呪いは滅び、哀れなる骸に祝福の光を……! 貴方に捧げる、戦乙女の祝福……っ!」
 ギターの弦が、唸りを上げた。
「長く 長く 彷徨い続け」
「永く 永く 苦しみ続け」
 即興のはずなのに、二人の息はあっていた。抱く想いは、同じなのだから。
「もう 進まなくて いいの」
「もう 立ち止まって いいの」
『あなた達はもう自由 縛るものない 自由の海へ 今 新たな旅路へ……♪』
 二人の奏でる旋律に、『村人』達は穏やかな顔で朽ち果てていった。
「さて、後は回収を待つだけだが……大神は何か言ってたかな?」
 穏やかになった漁村で、左文字が記憶を辿る。ヘリオン降下前。括にガムテを貼られて手を引かれ、降りずにいたら後ろにユキが来てて……。
「うっ、頭が……」
 誰かに蹴り落とされた気がするけど、思い出してはいけない、そんな気がする……。
「お、来たのじゃ」
 バラバラと音を響かせる機体に括が手を振り、逃げようとした左文字を捕まえた。
「ほら、帰るのじゃ」
「オレは泳いで帰る! だから大丈夫だー!」
「大丈夫、高いって分からなければ……いつっ!?」
 肩の傷口が開き、目隠しが滑って左文字の拘束が解けて、逃げようとしたから首にキュッてしてパタってした。
「……まぁ、よかろう」
 白目向いて気絶した左文字を突っ込み、一行は無事ヘリオンに乗り込むのだった……。

「はっ!?」
 他のヘリオンと共に飛び、島から離れ始めた時だ。気絶した左文字が跳ね起き、ドアを開ける。
「飛び降りるのはやめた方がいいですよ!?」
「……来る」
 止めようとして転んだユイを背中に受け止めて、ジッと彼が見据える前で月喰島が、割れた。崩壊し始める島がその衝撃で大気を振るわせて、余波を受けたヘリオンが大きく揺れる。
「おいおい、裏ボスなんていらないよぉ?」
 苦笑する炯介の視線の先、青い人魂に似た炎を飛ばし、宝玉らしい物を前脚で掴んだ黒い竜が姿を見せた。
『なんという事をしてくれたのだ。あと少しで、神造デウスエクス……屍隷兵(レブナント)が完成したものを。決して、許されるものでは無いぞ!』
 その咆哮はビリビリと空を揺らし、ヘリオンにてユイが眉を寄せた。
「あの竜が……村の人達を……!」
「まさか島の中に潜んでいたとは……あえて眠りについて、定命化を逃れていたのか!」
 ジンのリュックからアームが伸び、揺れる機内の仲間達を支えて。
「ユキ殿! 機体を寄せるでござる! 最強な拙者があの悪党の首を叩き斬ってやるでござるよ!」
「無理だよ! 下手に近づいたらヘリオンがもたない!」
「……ヘリオン?」
 ユキの叫びを証明するように、炎が機体を掠めていく。
「飛ばすよ、皆しっかり掴まって!」
「嫌だぁあああ! いっそ俺を囮にしてもいいから降ろしてぇええええ!!」
 さっきまで緊張感でヘリオン内部だと忘れていた左文字の悲鳴を響かせつつ、朝日を背に搬送機は緊急離脱するのだった。

作者:久澄零太 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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