●計画進行
エクスガンナー計画はその進行を止めてはいなかった。
ケルベロスたちとの戦いにおいて、思わずという体で撤退したエクスガンナー・イオータ。彼は手元に残る配下のエクスガンナー・ゼータ3体を伴なって工場を襲撃、機械部品の運び出しを行なっていた。
『お前たちは部品の運搬に当たれ。俺も後から行く』
3体のゼータにそう命じると、イオータは周囲の気配に神経を集中させる。
『……猟犬ども。今回は俺が撲滅してやろう』
●イオータを撃破せよ
「エクスガンナー・イオータの消息が掴めたよ。例によってまた、工場を襲撃して機械部品を略奪してる。本当に何なんだろうか、エクスガンナー計画って」
ヘリオライダーの安齋・光弦が報告書を片手に説明を始めた。
グランネロス襲撃の後、残っていたエクスガンナーシリーズは行方を眩ましていたが、それぞれ別の場所の工場を襲撃するのをケルベロス側で捕捉、追撃をかけた。
「前回は惜しくもイオータを取り逃がしたけど、ゼータ3体は完全に破壊したから今イオータの元に残っているのは3体。戦力としては随分疲弊したとは思うけど、まだ侮れない敵ではあるよ。イオータ自身も前の戦闘のダメージは蓄積された様子がない。でもここでエクスガンナー計画を潰すチャンスだ。エクスガンナーを撃破してきて欲しい」
イオータは工場を襲撃後、3体の配下に部品の運搬を担当させ、自身が単独で警戒に当たるつもりらしい。
「周辺の避難は完了しているから、あとはこちらから仕掛けるタイミングが重要になってくる。部品の運搬が始まってから襲撃を仕掛けるなら、きみたちはイオータ1体を取り囲むことが出来る。イオータは部品運搬の時間を稼ぐため、10分間、君たちと戦うだろう。その10分の間にイオータを単独で撃破できれば、それはそれで作戦は成功だ。機械部品を運搬させてしまえば、その分エクスガンナー計画は進行してしまうかも知れないけどね」
機械部品の運搬が始まる前に仕掛けるなら、相手はゼータ3体とイオータ、という布陣になるだろう。
「可能なら全滅を狙って欲しいところだけど、すこしでもエクスガンナー計画の進行を食い止めることが出来ればこの作戦は成功と言える。くれぐれも無茶はしないで欲しい。頼んだよケルベロス」
参加者 | |
---|---|
武田・克己(雷凰・e02613) |
螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343) |
鈴木・犬太郎(超人・e05685) |
狐村・楓(闊達自在な螺旋演舞・e07283) |
羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339) |
小柳・玲央(剣扇・e26293) |
上里・藤(レッドデータ・e27726) |
ウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591) |
●決意を刻む
「8分。そこで俺が合図を出しましょう」
ウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591)がそう言うと、集まったケルベロスたちはそれぞれ静かに頷いた。
「3体を見送るんだから……まずは確実に彼を斃したい。斃さなくては」
万が一ウルトレスが倒れたときのためにと同じくタイマーを持参した小柳・玲央(剣扇・e26293)も、表情を引き締めてそう呟いた。先の戦いで玲央はイオータに撤退を許す苦汁を舐めている。今度こそ、そうはさせない。倒すためなら、何でもする。その心意気はすこしも揺るいでいなかった。
「……敵はイオータ1体……大丈夫ッス……」
同じくタイマー係補佐の上里・藤(レッドデータ・e27726)も時間を合わせる。藤はまだ戦いに慣れたとは言い切れない己をよくわかっていた。仲間と共に、確実に敵を倒す。ひたすらに自分で自分にそう言い聞かせて戦場に立つ。
「……かなり離れたな。もう戻りはしないだろう。頃合いだ」
工場から機械部品を持ち出したイオータ配下のゼータは3体。その3体が歩み去っていくのを双眼鏡で確認し、螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343)が仲間に告げた。
「行くぞ」
未だ声は低めたまま、物陰からイオータの前へ全員で一斉に飛び出し、囲む。
1体のみで工場の前に残っていたイオータは、現れたケルベロスたちの顔を見回し、相変わらずの無表情のまま言った。
『猟犬……何故俺の部下を見逃した?』
「見逃したわけじゃない。お前の企みを確実に潰すための作戦さ」
明瞭な声で答えたのは鈴木・犬太郎(超人・e05685)。
「俺たちを猟犬と呼ぶ時点で、テメェは狩られる側になっちまったんだよ」
守りの要として、勝利への道筋をつける強い言葉を犬太郎は発する。その隣で、からりと笑って狐村・楓(闊達自在な螺旋演舞・e07283)も『楓さん流の完璧な敬語』で言い足した。
「楓さんとしては多数対多数の方が面白そーだったっすけど、確実に倒すのも大事っすからね! 楓さんが速攻で切り刻んでやるっすよ!」
ケルベロスたちは自分たちの力を全てイオータのみに注ぎ、確実にイオータを仕留める作戦をとったのである。
『そうか。お前達には、エクスガンナー計画のなんたるかがわかっていないようだな』
イオータの言葉には抑揚がない。それだけに、その言葉がどこまで真実なのか、またはケルベロスたちの動揺を誘うための強がりなのかもわからない。だが武田・克己(雷凰・e02613)は全く怯むことなく切り返す。
「ああそうだ。わからないから、まずはお前をぶっ潰す!」
闘争への本能的欲求が、克己を支配しつつあった。口元には薄い笑みが浮かび、ぐっとイオータに近い位置に踏み込んだ。それを合図にしたように、ケルベロスたちはザッと地を踏み配置についた。
「そもそも、エクスガンナーとは、何だ?」
セイヤの率直な問いかけに、イオータは軽く眉を寄せる。グランネロス攻略からこちら何かと縁の深いエクスガンナーだが、その正体や目的は明らかでない。
「……あんたと俺、何が違うんだろうな」
ウルトレスがその様子を見つめ、やはり思うところを口にする。イオータに、というよりは己に向かって問いかけているようだった。
「あんたを倒せばあるいは、答えが見付かるだろうか」
人の姿、思考、そして感情。イオータと自分の持っているものに、さしたる違いはないように思えた。
『お前達には、随分と疑問が多いようだな。答えが欲しければ、戦うことだ』
「なるほど、話す余地はなさそうです」
状況を冷静に見つめていた羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)がスッパリとそう判断を下した。彼女の座右の銘は『まずは実行、それから熟考』である。
「制限時間がある以上、私にできることを思い切りやるのみです」
紺の言葉に、迷いはない。
「撲滅へのカウントダウン、開始」
ウルトレスの言葉と同時に、玲央と藤もタイマーを押した。
時は動き出す。
●戦闘
「全速でぶつけるのみ!!」
愛用の直刀・覇龍を構えた克己が、一見無謀とすら取れる大胆さで一瞬にして間合いを詰めた。刃はイオータの左肩を捕らえ、纏うものごと斬り裂いた。
(「外見からは、前と何も変わったようには見えない……、工場から機械を盗むくらいだ、果たしてどの程度まで修復出来ているのか」)
玲央はイオータの動きや外見を注視する。ダモクレス側の現状を考えれば、強化してくる余裕はないはずだと思った。畏れるわけではないが、慎重ではいたかった。重さと威力を重視した武装は普段とは違う分リズムも異なるが、勝利への音階は見えている。
「君を、斃すよ!」
砲撃モードへハンマーを展開し、轟音とともにイオータの足元を狙う。前回のように壁を持たないイオータは狙い易い。土煙の中立っているイオータに苦痛の様子は見えないが、直撃の手応えはあった。その場へイオータを釘付けにしておくべく、セイヤが飛び出した。狙い澄ました渾身の蹴りの軌跡が、戦場の空気をも斬り裂く。
「わはっ、派手っすねー! 楓さんもいくっすよ!」
戦いの高揚感が、楓に満面の笑みを浮かべさせた。状況さえ違ったなら、花のように愛らしい笑顔であるが、その根底には狂気を思わせる熱があった。その熱とは対照的な氷の結晶が集結し、イオータへ降り注ぐ。そこへ。
「あなたを、逃がしません」
紺の魔法光線が更に直撃、という目にもとまらぬ連続攻撃が続く。苛烈なケルベロスたちの猛攻にもイオータは表情を変えないが。
「……」
一瞬、犬太郎は己の目に映るものを錯覚した。赤い目、黒い髪。もしや今対峙するこの敵は、自分に似ているのではないか。勿論、感情を自由奔放に発する己とは正反対なのだが、これがもうひとつの『自分』であった可能性はゼロではない。今をこうして生きる自分をしっかりと感じるためにも、犬太郎は鉄塊剣を強く握る。無骨な剣がイオータの横っ腹めがけて叩き込まれた。
「さて、その涼しい顔、こっちに向けてもらおうか!」
犬太郎の攻撃は命中、だがそのダメージにも関わらずイオータの冷凍光線は真っ直ぐに克己を捕えていた。
「ぐっ……!」
距離を詰めていた分か、ダメージは小さくない。しかしお互いそこまで簡単ではない。戦いでのみ得ることの出来るこの昂揚に、克己は獰猛さを剥き出しにして笑った。
「伊達や酔狂でこいつを持ってるわけじゃない! 風雅流1000年。神名雷鳳。この名を継いだ者に、敗北は許されてないんだよ」
克己が一喝した声に合わせて、ズゥンと低いサウンドが戦場に響く。ウルトレスの指がベースの上を疾走し、やがて彼は咆哮する。
「サイレンナイッ フィーバァァァァッ――!!!」
日頃の淡々とした口調からは想像もつかない、何かを引き裂くようなボイスは、ケルベロスたちの戦意を凶暴に、特に傷を負った克己は一際強く煽られて笑みを深めた。
(「……でも、体は傷ついてる。そこは俺がきっちりやらないとダメだ」)
藤は冷静に、ともすれば飲まれそうになる自分を抑えて戦況を見極め、回復手として務めた。
猛攻、といっていいケルベロスの攻撃だった。
対して、イオータの狙撃は正確無比。完全にかわすことはほぼ不可能に近かった。しかし今回、イオータにはゼータという盾はいない。前衛からの苛烈な攻撃を受けながら、執拗に単体を狙い、確実に数を減らそうとしてくる。
狙われたのは、藤。
イオータは自分から距離を詰めることを決してせず、終始遠距離から狙い撃ってきた。
「ちっ……厄介な奴だ」
出来れば全弾を己が、と犬太郎はかなり強引に軌道上に割り込んでいく。
『邪魔をするな』
「そんなわけにいくかよ!」
もちろん指を咥えて見ているケルベロスではない。克己とセイヤは身を投げるようにイオータに踏み込んで、着実に刃を叩き込んだ。
「強い……それは認めるよ。でもね、私は!」
玲央の見立てでは、イオータの攻撃力は前回と比べても全く落ちてはいない。狙いを集中されれば自分もただでは済まないという緊張感、だがそれを凌駕する執着が彼女にはあった。絶対に、逃がさない。何をしてでも。その想いを、友人である楓と紺が汲み取る。
「ふふん! 油断したらダメーっすよ!」
徐々にその動きを鈍らせていくイオータのボディ、それを見た楓の螺旋の目が嗤う。瘴気が楓の姿を写し取り、イオータの亀裂に入り込んでいく。それを好機と見た紺が、怨嗟の幻影でイオータを絡めとる。
「戦い争う者の宿命です。どこへ行こうと、決してあなたを逃しません……!」
激しい攻撃に晒されるボディを気に止めないのは、或いは機械としては不具合であるとも言えた。イオータは構わず武器を構える。
『……落とす』
「くっ……間に合え!」
レーザーが藤に向けられた瞬間、反射的にウルトレスが手を伸ばす。藤の体が吹き飛び、地に倒れた。間にそのワンクッションがなければ、直撃で最悪の結果もあっただろう。
それでも、藤はゆっくりと立ち上がる。戦う力はもはや残っていなくとも、イオータを睨みつけ、闘志を見せる。その姿に、克己が叫び、イオータの懐へ入り込んだ。
「今度は、貴様が飛ぶがいい! 破邪剣聖! 一天!」
上段に構えた刀が深く深くイオータに食い込む。もはや立っているのが不思議なほどのイオータに、セイヤが不敵に歩み寄る。
「おまえ達には俺の仲間も何人か世話になってるのでな……悪いが、ここで仕留めさせて貰う……!」
『悪い? 己の種族の存続のために戦うことの何が悪い』
「お前とは、何も分かり合える気がしないな。もはや、戦える体にも見えない」
セイヤが諦めたような口調でそう告げる。それに対し、イオータは黙って銃口を向けただけだった。セイヤは黒い翼を広げて素早く飛び上がり、その照準から姿を消す。
「打ち貫け!!魔龍の双牙ッッ!!」
黒い龍は猛スピードで落下し、イオータのボディへ食らいついた。その勢いは凄まじく、二足で立っていたはずのボディは地面に穿たれた。
穿たれてなお、イオータの表情は変わらない。立ち上がり、武器を構えようとする。しかしその足元は折れ、やがて全身が崩れ始めた。時がきたのだ、と告げるように玲央のタイマーが鳴った。
●撲滅
『俺が壊れたところで、いくらでも、代わりは、いる。それ、が、本、質』
その言葉だけを残して、イオータの体は完全に崩れ去った。赤い目は一体何かを映していたのか否か。
「待て……!」
思わずそう叫んで玲央が駆け寄ったが、そこには既に塵になったイオータの影すら残ってはいなかった。
「……記憶領域にアクセス出来ればと思ったが……」
悔しげにそう言う玲央の傍らに、紺と楓が駆け寄った。
「情報は取り損ねましたが、勝ちは勝ちです。お疲れ様」
と紺が冷静な中にも友人に対する気安さを見せ、楓もにこにこと笑いつつ、砂煙の舞う彼方を見た。
「大将首をひとつ。あいつの言葉が気にならないとは言わんが、まず奴らの計画は大きく削れただろうさ」
戦いを終えた克己が、普段ののんびり口調を取り戻してそう言った。皆、それを合図に肩の力をホッと抜いたようだった。
「ゼータどもの追撃、いけるっすかね?」
皆の様子を伺う楓が、殊更元気をアピールするように軽いステップを踏んで見せた。
「今から追ってみる価値はあるかも知れないな……」
セイヤが、とどめを刺した拳を無意識に反対側の手で包むようにしつつ、そう応じる。
「ですが、今深追いするのは危険です。無理のない範囲で」
紺が、負傷した藤を気遣いつつそう進言した。
「結局……」
答えは何だったんだろうか。ウルトレスは己の胸に問う。イオータと自分との違い。今は勝者と敗者。ではその先は?
「あいつ、なんか妙な奴だったな!」
犬太郎がウルトレスの心情を知ってか、肩を叩いて明るくそう言った。
「計画のためなら自分は部品でいいなんて、そんな考え方は俺は好きじゃないし、正しいとも思わない。俺たちは、あいつらとは違うよ」
言われた言葉をウルトレスが脳内で反芻する。
「まずは確実にイオータを倒すって作戦は、成功したッスね……」
勝利がまたひとつ、藤を成長させる。これこそが、単なる部品には成し得ない、小さくて大きなひとかけらなのかも知れなかった。
エクスガンナー・イオータは撃破された。ただし今回運搬を許してしまった部品が小さな歯車となり、大きな計画を動かす可能性は決して否めない。そう考えたケルベロスたちは、休む間も惜しんで砂塵の中へ向かっていく。何処へともなく消えていったゼータたちを追って、その場を後にしたのだった。
作者:林雪 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年10月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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