遍く螺旋の黒

作者:犬塚ひなこ

●湿地の魔神
 釧路湿原の奥地にて、黒き影が蠢く。
 其れが背に負う色は漆黒。渦巻きめいた捩れを持つ角は雄々しく天を示す。
 彼の名はブラックバックの獣。第二次侵略期に神造デウスエクスとして暴れていたという偶蹄類のウェアライダーだ。
 黒の毛並みを揺らし、二本の脚で立った獣は目の前の主に跪く。
「そろそろ頃合ね、あなたに働いてもらうわ。市街地に向かって暴れてきなさい」
「テイネコロカムイ様の命じるままに」
 主の名を呼んだウェアライダーは恭しく礼をした。だが、その虚ろな瞳に生気はない。ただ死神の駒として操られているに過ぎないのだろう。
 立ち上がったブラックバックの獣は数匹の深海魚型死神を連れ、テイネコロカムイが指示した街へと向かった。
 その先に待つのは悲鳴と混乱。そして――血が煙る惨劇の光景のみ。
 
●天に伸びる螺旋
 近頃、釧路湿原近くで死神にサルベージされた第二次侵略期以前に死亡したデウスエクスが暴れ出す事件が多く起こっている。
「ブラックバックのウェアライダーがサルベージされたらしい」
 ヘリオライダーから伝え聞いた情報を端的に告げ、レスター・ヴェルナッザ(凪の狂閃・e11206)は仲間達に事件解決の協力を願った。
 ブラックバック。特徴的な螺子めいた角を持つそれはウシ科アンテロープ属に分類される偶蹄類の獣だ。雄の背の毛並みが黒いことからそう呼ばれているのではなく、黒い背が跳ね上がるという意味が名の由来だと語り、レスターは肝心の敵について語ってゆく。
「ブラックバックはケモノ型に近い獣人の姿をしているようだ。それは死神の力で変異強化されていて、周囲に数体の深海魚型の死神を引き連れている」
 彼らの目的は市街地の襲撃。
 しかし、幸いにも予知によって侵攻経路が判明しているので湿原の入り口あたりで待っていれば敵を迎撃することが可能だ。時刻も真夜中ということで周囲に一般人はおらず、戦闘だけに集中できる状況といえるだろう。
「周辺に危険はないが敵は侮れない。心して掛からなければな」
 敵は一度戦いになればどちらかが倒れるまで逃げ出すことはない。だが、それは気を抜けば此方が倒されてしまう可能性もあるということだ。
 予知されたような血の煙が舞う街の光景を現実にさせてはいけない。胸の裡に秘めた思いは口に出さぬまま、レスターは僅かに伏せていた顔をあげる。そのとき、彼の右腕に宿る炎が幽かに揺れた。
「デウスエクスとはいえ一度は死した者だ。再び眠らせてやろう」
 おれ達の手で、と拳を静かに握ったレスターは遠くを見つめる。鋭く映し返す銀の瞳が何を視ているのかは知れなかったが、ただひとつだけ分かることがあった。
 それは――彼が戦いに向ける意志は固く、強い物だという揺るぎない事実だ。


参加者
アイン・オルキス(半人半機・e00841)
真柴・隼(アッパーチューン・e01296)
タルパ・カルディア(土竜・e01991)
イルヴァ・セリアン(あけいろの葬雪花・e04389)
レスター・ヴェルナッザ(凪の狂閃・e11206)
星屑・チホ(星に願いを・e19511)
ヴァルカン・ソル(龍侠・e22558)

■リプレイ

●遍きの邂逅
 夜は深く、闇の色は淀んで見える。
 昏く煙った道の先からは重く地面を踏み締める蹄の音が聞こえた。宙を泳ぐ魚を従え、其の獣は来たる。先ず見えたのは天を衝くかのような螺旋の角。
 死ぬまで折れることのなかった角からして生前は余程の猛者だったのだろう。
 レスター・ヴェルナッザ(凪の狂閃・e11206)が敵の姿を見据れば、相手の鋭い眼光がケルベロス達を貫くように差し向けられた。
 双方に緊張が走る。だが、真柴・隼(アッパーチューン・e01296)は喜々として目を輝かせた。臨戦態勢を取りながらも、隼は笑顔で傍らのテレビウムに語り掛ける。
「見ろよ地デジ、あの角! 超クール! カッコいいねぇお兄さん」
 視線は相棒から敵に移り、言葉通りの感情が向けられた。ヴァルカン・ソル(龍侠・e22558)は神妙に敵の様子を見遣り、彼を蘇らせた黒幕を思う。
「テイネコロカムイとやら、特定の地域で事件を起こし何を狙っている……?」
 何かよからぬ企みが進んでいる気がしてならなかった。だが、今は目の前の敵を討つのが先決だと己を律したヴァルカンは刀を構える。
「予知のお蔭で被害が広がりやがる前でよかったのよ」
 星屑・チホ(星に願いを・e19511)も今にも襲い掛かって来そうな敵を注視しながら、自分もいつでも動ける準備を整えた。
 同じウェアライダーだからこそ、ここで同胞の粗相は食い止める。
 チホの決意が密かに巡った刹那、獣が先手を取って地を蹴った。されどその動きは予測済み。タルパ・カルディア(土竜・e01991)はチホを狙った敵の前に立ち塞がり、獣撃をその身を以て受け止めた。
 それは一度死んで黄泉返った魂といえど、ケルベロスを優に超す強さだった。
「土に還り損ねたお前と俺、どちらが屠られるか試そうじゃないか」
 痺れるほどの衝撃を抑え込みながらタルパは思う。自分と相手、きっと根はおなじものなんだろう、と。そして、タルパは反撃として地を揺るがすような竜の雄叫びを放つ。
 咆哮が戦場に響き渡る最中、ガイスト・リントヴルム(宵藍・e00822)は空中を泳ぎ回る怪魚達に視線を巡らせた。
「死神は好かぬ」
 短く呟いたガイストは爪先を差し向け、敵の動きを止める一閃を放つ。
 眠りの淵から呼び覚まし、魂を、肉体を、蹂躙する存在。ただの配下魚だとしてもそれらも歴とした死神だ。ガイストの一閃が敵を穿っていく様に続き、アイン・オルキス(半人半機・e00841)とイルヴァ・セリアン(あけいろの葬雪花・e04389)は補助に移る。
「オルキスの名の元に、貴様の二度目の生を始末する」
「暗殺を司るシャドウエルフの名に於いて、あなたのその偽りの命を、あまねく天地に還します。どうか、お覚悟を」
 アインの声に合わせ、イルヴァが凛とした思いを紡いだ。更にオルキス・ファミリアが展開されていき、イルヴァが放った黄金の果実の聖なる光が仲間達を包み込む。
 更にヴァルカンが煉った氣を炎の息吹と共に解き放った。
「炎による守護、其の精髄を見よ――!」
 紅蓮の壁は仲間を守る盾となり、戦場に熱く広がってゆく。
 チホも敵陣に斬り込み、隼と地デジも深海魚死神へ攻撃を仕掛けに向かった。その際、ちらりと見たのはブラックバックの獣の姿。
「……テイネコロカムイ様の命じるままに」
 感情のない声で獣が呟き、虚ろな瞳のままケルベロス達の攻撃を受け止める。
「強そうだからこそ、死んだ魚の様なその目は戴けないね」
「死神の駒として終わるのは勿体ねえ。せめてその身体、灰燼に還してやる」
 隼が竜槌を振るった隙を突き、レスターも攻勢に入った。振るう竜の尾の矛先は怪魚へ。しかし、口にした言葉は黒の獣に向けていた。
 夜が深くなる前に此処に在るべきではない者を還す。始まりを迎えた戦いには真剣な思いと切実たる思いが入り混じっていた。

●獣の闘志
 ――殺せ、屠れ、全て燃やせ。
 呪詛めいたその言葉は獣が語ったのか、それとも自分の脳裏に過ぎったのか。敵と自分が似ていると感じていたタルパは頭を振り、鋭い眼光を差し向けた。
「散れッ!」
 タルパが怪魚達に雄叫びを放つ中、ボクスドラゴンのソルは自らの属性を仲間に宿す。
 敵を引き付けたタルパに続き、ヴァルカンも獣に向けて刃を振りあげ、重厚無比の一撃を叩き付けた。二人が宿した怒りによってウェアライダーが吼え、空気が震える。
 耳を劈くような咆哮に片目を瞑り、ガイストは敵陣へと斬り込んだ。
「我は拳を振るいただ屠るのみ。……其方に再びの眠りを」
 宣言めいた言葉を口にしたガイストは怪魚を狙い、雷刃の突きを解き放つ。鋭い剣閃が死神を切り裂き、鱗を散らしていく。
 更にチホがナイフを掲げて敵を斬り刻みに駆けていった。
「あまり気分のいい戦闘でやがらねぇーです」
 仕掛けた一撃で敵の身を削ったチホは大きなため息を零す。アインもその隙に光の戦輪を具現化して狙いを定めた。
「さぁ、覚悟しろ」
 微塵も容赦はしないと告げたアインの放つ一閃は宙に舞い、泳ぎ回る怪魚を切り刻む。されど死神達もゆらりと揺れて怨霊弾を放ち返した。
 三体の怪魚から次々と放たれる毒の力はタルパとはじめとした前衛、そしてチホとアインの中衛を襲ってゆく。痛みと毒が齎される最中、イルヴァは氷唄を紡ぐ。
「――癒やしみちびくは輩をこそ。奏でるは慰撫のうた。雪原撫でる氷精のこえ」
 死は厳かなもの、静かなもの、不可逆のもの。
 なによりも、死は、あらたな命のめぐりへと繋がるもの。イルヴァが放った波紋めいた淡く青い光は癒しとなり、仲間達の毒を取り払っていく。
 しかし、次はブラックバックが魔力を籠めた咆哮を解き放った。
 力強い咆哮に肌が粟立ち心は震え、隼はぐっと足元を踏み締める。敵の強さはたった数度の攻防だけで充分に分かった。
「でも、気持ちで負ける訳にはいかない。な、地デジ」
 隼が相棒の名を呼べば、凶器を振り回したテレビウムが同意するように大きく跳んだ。その動きに合わせて隼も跳躍し、ひといきに怪魚の頭上まで近付く。
 後は重力に乗せて蹴りを放つだけ。流星めいた一閃がウェアライダーを穿ち、隼は衝撃の勢いを使って宙返りをしながら後方に舞い戻る。
 それと入れ替わりにレスターが駆け、地獄を宿す刃を荒波の如く打ち寄せた。
「一片残らず消してやる」
 銀炎は飛沫と為し、砕け舞う。その猛き連撃は一体目の怪魚を地に落とし、戦局を有利に進めた。死神との因縁を思い、静かに意気込んだレスターは新たな死神に視線を向けて得物を構え直す。
 今だ、とレスターが瞳で好機を訴えかけるとヴァルカンとタルパ、ガイストが行動で以て応えた。最初にヴァルカンが絶空の斬撃で二体目の標的に刃の切先を差し立てる。
「早々に討たせて貰おうか」
 陽光の如き金色の瞳が敵を捉えた一瞬後、目にも止まらぬ速さの一撃が見舞われた。タルパも槍を握り、騒ぎ出す首裏の炎に目を眇める。
 冷めやらぬ熱を払うには燃え尽きるまで血を振り絞るまで。タルパは敵からの攻撃を察知し、地面に魔鎖で陣を描いた。ソルも彼を支える為に更なる癒しを行い、構える。
「誰も倒れさせやしない。この誇りが胸にある限り俺は決して膝をつかない」
 思いを言葉に変えたタルパの頼もしさを感じ、ガイストは陣笠を深く被り直した。そして、ガイストは左腕に光を宿す。
「強き者が死神に眠りを暴かれるのは残念でならぬ」
 ゆらゆらと宙を彷徨う敵を睨み、ガイストは聖なる力と漆黒の闇の連撃を叩き込んだ。
 竜族達による怒涛の連携は見事なものだった。その証拠に二体目の死神怪魚が地に落ち、戦う力を失っている。
 隼は良いものを見たと笑みを浮かべ、自分達も行こうと地デジを呼ぶ。
「カッコよすぎてずるい! 俺達も入れてくれない?」
「勿論だ、答えるまでもない」
 隼が戯れにレスターに声をかければ、快い頷きが返って来た。口の端を緩めた隼は精神を集中させ、三体目の敵に狙いを向ける。其処へ地デジが放つ眩い光が放たれ、更なる連携となって迸った。
 チホも敵に銃口を向け、奥歯を噛み締める。
「まさか同胞を攻撃しやがらねぇーといけないとは……本当、胸糞わりぃのよ……」
 文句ばかりが口から飛び出すが、戦いとなれば同族も何も関係ない。今や死神の手先となった存在に容赦する義理など欠片もなかった。
「全て殺して喰らうのみ……」
 攻防は巡り、ブラックバックの獣の攻勢も激しくなってくる。しかし、護り手達が奮闘することで被害は抑えられ、やがてチホの一撃によって三体目の怪魚が倒された。
 これで後は獣を倒すのみ。
 イルヴァは呼吸を整え、傷付いた仲間へと気力を巡らせていく。
 生まれ落ちた命はやがて天地へ還り、まためぐって生まれゆく。それが世界を紡いでゆく大切なことわりであり、命をつないでゆく大きな流れ。その中に還ったはずの命を逆巻きにして弄ぶだなんて――。
「死神たちの所業は、許すわけにはいきません」
 イルヴァが思いをあらたにすると、アインも同意の姿勢をみせた。そしてアインは腕部に内蔵しているコンソールから再び支援無人機を召喚する。
「支援を行う。行け。後は畳み掛けるだけだ」
 見据えた先の獣は唸りをあげ、此方を屠る勢いで迫って来た。
 されど、未だ誰も怯みも怖気付きもしていない。アインとイルヴァは最後まで皆で戦い続けると心に決め、更に激しくなる戦いへの思いを強めた。

●在りし日に
 咆哮が響き渡り、獣の一撃がケルベロス達を襲う。
 一体になろうともブラックバックの獣は果敢に戦い続け、皆を圧倒した。だが、その攻撃も与えられた怒りの範囲のみ。
 ヴァルカンとタルパを中心にして攻撃の矛先が向けられていることでイルヴァとソルの癒しが的確かつ効果的に働いている。守りと癒し、攻撃。皆が役割を果たしている今、敵が倒れるのも時間の問題だ。
 しかし、それでも尚ウェアライダーは猛威を振るっていた。
「其方が生きていた時、拳を合わせたかった」
 ガイストは咆哮の衝撃によって外れた陣笠を放り投げ、思いを零す。誰にも操られぬまま其方の意思で立つ彼と存分に死合ってみたかった。
 そう感じているのはヴァルカンや隼も同じ。
「劣勢に立とうが血が噴き出そうが、決して怯まず背を向けない。君の闘い方は俺が世界で一番憧れるひとに似てるよ」
 隼が称賛すると、レスターも真っ直ぐな眼差しを敵に差し遣わす。
 仲間の思いを感じ取り、タルパは攻勢に出た。並ぶ同胞の姿に在りし日の戦いが脳裏に浮かぶ。我を忘れるな、と己を律したタルパは守る為の戦いを意識する。
 ――そうだ、俺は。守りたいものがあるから死ねなかったんだ。
「俺は誇り高き竜の血族だ。最後まで、立ち続ける」
 タルパの一閃が敵を穿ち、ソルのブレスが空気を焦がす。その意気なのよ、と調子よく笑ったチホも最後に向けての攻撃に入って行った。
「繋ぐは架け橋、紡ぐは瞬く星。おいで、Leo」
 空中に獅子座の記号を描いたチホは片目を瞑り、敵へと星座の力を解き放つ。
 アナタの今日の運勢は、終焉。
 迸った光に合わせ、アインもアームドフォートの主砲を一斉発射していった。
「オルキスの矜持はこのような所では終われない。既に一度終わった貴様と違ってな」
「最後までわたしのうたで皆さんを支えますから、どうか思い切り戦って。そして、絶対に勝ってください!」
 アインの放つ弾丸をしかと見つめ、イルヴァは仲間達に呼び掛ける。再び戦場に響き渡った雪撫でる氷唄は皆を鼓舞していった。
 ヴァルカンは流星めいた蹴撃を放ち、近付く終幕を感じ取る。
「雄々しい漆黒の武士よ。叶うならば、傀儡ではない武人として在って欲しかった」
 炎を思わせる紅の鱗は昏い戦場によく生えた。まるで闘志の炎のようだと感じたレスターは再び銀炎を荒波の如く打ち付けた。
「地獄の炎じゃ天には送れねえかも知らん。ならば戦さ場で眠るがいい、強者よ」
 獣は嘗て、この地を縦横無尽に駆けたのだろう。
 そんな存在が死神の傀儡になるなんて不本意極まりないはず。だからこそ贐は盛大に、と隼は双眸を細めた。
「この世は弱肉強食だなんて言うけどさ。人なり信念なり、守る物がある人こそが強者だと俺は思うワケ。だから……背負う物のない空っぽな君に負ける訳にはいかないのよ!」
 君の魂を在るべき場所へ。
 隼の一撃に続けて、ガイストが放つのは冴えた剣閃。
「……終わらせよう。推して参る」
 刹那、太刀風を劈いて生まれ出るは翔龍。
 星影は届かず、吼え聲も無く、全ては闇に眩んで、後に遺るは鉄銹の匂いばかり。そして、夜闇に閃くかの龍は戦いの終わりを彩った。

●夜空に願う
 地に伏した獣は淡い光に包まれ、その体が急速に薄れていく。
 獣は揮える腕で空に手を伸ばした。まるで視えない月を求めるかのように――。そして、彼は最期に何の言葉も残すことなく消えて逝った。
「流石にクタクタでやがります……」
 溜息を吐いたチホはその場に座り込んで休息を取る。
 アインは瞳を閉じ、これで戦いは終わったのだと実感した。レスターは獣が居た場所を見つめ、最後まで天を示していた雄々しき角を思い返した。
 死神にサルベージされた者に感情はないと解っている。だが、それでも考えてしまう。
「……良き戦いだったと、思ってくれてりゃいいんだが」
 死した者の思いは分からないが、そうであれば良いとレスターは願った。
 ヴァルカンは黙祷を捧げ、最期まで折れることなく戦った相手に敬意を払う。
「戦士の眠りが、これ以上妨げられることの無いように」
「眠れ、安らかに」
 拳を合わせた者への手向けとして、ガイストも心からの言葉を落とした。地面に落ちた陣笠を拾い、砂埃を払った彼は普段通りに被り直す。
 イルヴァも仲間達の思いを感じ取り、鎮魂歌を奏でてゆく。
「いつかまた、命が巡り、今度はあなたも、平和に生まれ生きられるよう――」
 優しい歌は夜に満ち、音色となって響き渡った。
 皆の願いや思いが紡がれていく中で、地デジを撫でた隼はこれまでの戦いの激しさを思い出す。あの熱と高揚、命を削るほどの攻防は忘れられるはずがない。どうせ闘うなら生きてる彼と拳を交えたかった、と感じた隼は緩く首を振る。
「――命を巻き戻すなんて、死神にすら出来ない芸当だろうけどね」
 小さく零れた仲間の声を聞き、タルパは地面を見下ろしていた視線を上にあげた。
 其処には漆黒の空が広がっている。かの獣は最後の最期に振り仰いだ空に何を思ったのだろう。伸ばした手は何かを掴んだだろうか。
「今度は空に還れるといいな」
 タルパは昏いままの夜空を見上げたまま、そっと呟く。
 いつの間にか、何も見えなかった暗い夜空の雲は晴れていた。レスターは無言で頷き、仲間に倣って星が瞬く天涯を仰ぐ。
 遍く星々は何も語らず、ちいさな光で地上を淡く照らしていた。

作者:犬塚ひなこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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