死してなお自由はなく……

作者:なちゅい

●復活させられてなお……
 北海道、釧路湿原。
 その奥地に、狼を思わせるフードを被り、同様のマントを羽織った人影が立っていた。
 フードから出る長い白髪。アイヌ風の衣装を纏ったその女性は、怪魚型の死神を従えている。
 彼女の名は、テイネコロカムイ。「湿地の魔神」と呼ばれることがある。
「そろそろ頃合ね、あなたに働いてもらうわ。市街地に向かい、暴れてきなさい」
 そして、テイネコロカムイはその人影へと声をかける。
 それは、女性の姿をしたヴァルキュリア。やや背は低めではあるが、身の丈よりも大きなゲシュタルトグレイブを操る彼女はうつろな瞳をしていた。
「はい……承りました」
 そのヴァルキュリアは一切の感情を持たず、死神の言いなりになっていたのだった。
 ――その数刻後。
 ヴァルキュリアは怪魚型の死神と共に、南にある釧路の街目指して疾走していく。
「死神だ……!」
「後ろにいるのは……ヴァルキュリア!?」
 釧路の人々は敵の接近に恐怖し、逃げ惑う。
 しかし、ヴァルキュリアは人々の行く手を遮り、大きな槍を回転させて薙ぎ払ってくる。
 どれほど人々が倒れようとも、そのヴァルキュリアは槍を操る手を止めず、虐殺を繰り返すのだった……。
 
 ケルベロスがヘリポートへとやってくると、すでに他のケルベロス達が集まってきていた。
 そして、その前には、神妙な表情をしたリーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)の姿がある。
「釧路湿原近くで起こっている死神による事件、皆は知っているかな?」
 集まるケルベロスは、知っている者もいれば、知らぬ者もいる。リーゼリットはそれならと、事情説明を始めた。
「死神にサルベージされたデウスエクス……ヴァルキュリアが事件を起こすようだよ」
 その死神は、第二次侵略期以前に死亡したデウスエクスをサルベージするという。今回は眠りについていたヴァルキュリアが狙われたようだ。
 見た目は愛らしい姿をした女性だ。凛々しい姿は生きていた時そのままであるのだろうが……、悲しいかな、生あるときはエインヘリアルに、今は死神の言いなりになって変異強化されている。その際、感情をほぼ失ってしまったようだ。
「サルベージされたヴァルキュリアは、釧路湿原で死亡したものでは無いようだね。何らかの意図によって、釧路湿原に運ばれたのかもしれないよ」
 そうして、この地へと連れられてきたヴァルキュリアは、怪魚型の死神3体と共に湿原を南下しているという。
「敵の狙いは市街地の襲撃。……となれば、狙うのは釧路の街、だね」
 敵は北から攻めてくる。釧路の街の北、東西へと走っている釧路外環状道路で待ち構えると良いだろう。
 周囲に車や一般人が行き来することはほぼない為、戦闘に集中することができる。
 ただ、広すぎるがゆえに、敵を早期発見は急務だろう。できるだけ広い範囲に展開しつつ索敵したい。見通しはいい為、警戒さえ怠らなければ発見できるはずだ。
「現れるのは、ヴァルキュリアと怪魚型死神3体だね。残念ながら、ヴァルキュリアをサルベージした死神の姿はないようだよ」
 この場は、釧路の街の防衛に全力で当たるべきだろう。
 ヴァルキュリアは身の丈よりも大きなゲシュタルトグレイブを操る。高速の回転斬撃、分裂させて降らす槍の雨、自らを「光の粒子」に変えての突撃を繰り出すこともある。
「残念だけれど……、ヴァルキュリアは感情をなくしているのか、ほぼ会話ができないようだよ」
 相手はクラッシャーとして全力で襲ってくる。こちらも全力で応戦せねば、あっさりと倒されてしまいかねない。
「ヴァルキュリアに合わせて、怪魚型死神3体も戦いに介入してするよ」
 ディフェンダーとして位置取り、噛み付いてくる。さほど強い相手ではないが、こちらはこちらで厄介な相手なので、手早く始末してしまいたい。
 一通り説明を終えたリーゼリットは最後に、こうケルベロス達へと告げる。
「生ある時も、死してなお、自由になることができないヴァルキュリア……。さぞ無念なことだとボクは思うんだ」
 釧路の人々を守るのはもちろんのこと、自由になることができないこの戦乙女に今度こそ安らぎを与えてほしい。リーゼリットはそうケルベロス達へと願うのだった。


参加者
桐山・憩(暴撃・e00836)
ウォーグ・レイヘリオス(山吹の竜騎を継ぐもの・e01045)
クローチェ・ドール(愛迷スコルピオーネ・e01590)
水沢・アンク(クリスティ流神拳術求道者・e02683)
夜刀神・罪剱(悠遠と刹那の夜・e02878)
レイ・ジョーカー(魔弾魔狼・e05510)
ミハイル・アストルフォーン(えきぞちっくウェアルーラー・e17485)
シエラ・ヒース(シャドウエルフの降魔拳士・e28490)

■リプレイ

●傀儡として蘇りし戦乙女
 現場に向かうヘリオン内。
 ケルベロス達は到着を待つ間、歓談を行う。
「夜兎神、一緒の依頼は初めてだねぇ。よろしく!」
「――ああ」
 ミハイル・アストルフォーン(えきぞちっくウェアルーラー・e17485)が見知った顔を見つけて声をかけると、夜刀神・罪剱(悠遠と刹那の夜・e02878)はアンニュイな声で応える。
「それにしても――死してなお、自由の無きヴァルキュリアか」
「死を運ぶ者が逆にその死を利用されるなんて、皮肉な話だね」
 罪剱はヴァルキュリアについて何かを考え込むと、その名を聞いたミハイルは八重歯を煌かせて笑う。
「ずっと誰かに利用され続けて生きるのは、辛かったでしょうね……」
 水沢・アンク(クリスティ流神拳術求道者・e02683)が物憂げに語ったのに、ウォーグ・レイヘリオス(山吹の竜騎を継ぐもの・e01045)は唸りながらもそれに同意する。
「……やはり、死者の魂を蘇らせるというやり方には、胸が痛みますね」
 例え、かつての敵であっても。ウォーグは死神に静かな怒りを燃やす。
「祖霊を宿しているのかしら。霊を好き勝手弄りまわして『使う』のは好きじゃないわ」
 常日頃からシャーマニズムを信仰しているシエラ・ヒース(シャドウエルフの降魔拳士・e28490)にとっても、それは見過ごせない行為のようだ。
 程なく、ヘリオンは北海道の道東に差し掛かる。メンバー達はアナウンスを受け、降下の準備を整えるのである。

 敵勢力圏となっている箇所まではヘリオンでは近づけない。
 メンバー達は釧路の街で降下し、まずは街中でレンタカーを2台手配した。
 それらを使い、釧路外環状道路上にて敵の接近を警戒する。釧路の街の中心を基点として2班に分かれ、その間隔が8キロほどになるように東西へと散っていく。
 B班は3人での行動。クローチェ・ドール(愛迷スコルピオーネ・e01590)、レイ・ジョーカー(魔弾魔狼・e05510)、ミハイルという編成だ、
「死神の狙いは何なんだろうな。釧路に何かあるのか?」
 ミハイルは車の中から、南に広がる街を見る。敵の狙いはこの街なのか。あるいは、北に広がる湿原か……。
 そして、彼は東西に伸びる道路へと視線を移す。
「この広い環状道路のどこから来るのか……」
 最悪、両端に展開していた場合、敵が中央から攻めてきたら間に合わないのではという危惧を抱くミハイル。クローチェは無表情のままで荒々しく車を走らせた。
 それに並走するのは、ライドキャリバー、ファントムに騎乗するレイだ。彼は時に移動をファントムに任せ、自らは高性能スコープで敵の出現を警戒していた。
 一方、こちらはA班。桐山・憩(暴撃・e00836)、ウォーグ、アンク、罪剱、そしてシエラだ。
「……普通に運転できるわよ?」
 少女のような風貌もあって、仲間の視線が気になるシエラは仲間にそう訴え、ハンドルを握っていた。法定速度をしっかりと守りつつ、彼女は車を走らせる。
 その間も、乗車するメンバー達は敵の警戒を怠らない。憩、罪剱、アンクは双眼鏡などを使って索敵を行う。
 ウォーグのみ竜の翼で空を飛び、望遠鏡を併用して敵影を探す。すると……。
「敵……来ます!」
 彼女が目にしたのは、怪魚3体に引き連れられたヴァルキュリアの姿だ。
 敵はどうやら中央、ややA班よりに真っ直ぐ南下してきている。ウォーグは車で行く仲間達へとスマートフォンで他のA班メンバー、アンクとB班のクローチェに連絡を取った後、敵の進行方向の延長上に立ち塞がり、態勢を整える。
 その場へと、先にA班メンバーが到着した。レンタカーを運転していたシエラを始めとして降車してくるが、敵はそれを待たずしてケルベロスの近くへと迫ってくる。
 うろんな瞳で宙を泳ぐ怪魚型の死神。そして、感情を無くしているのか、同じく虚ろな顔で移動してくるヴァルキュリア、クロエ。
「よう、戦天使のお嬢さん。ちょっとツラ貸せや」
「……安心すると良い。今度こそ安らかに眠らせてやるからな」
 憩が声をかけるとそいつらは侵攻を止め、妨げとなるケルベロスと面として向かう。続けて、やや気だるげにそれを見てた罪剱がぼそりと正面の敵へ告げると、クロエはどこからか現した槍を手にした。
「未熟故、こんな方法しか取れず申し訳ないですが……」
 アンクは左腕にオーラを纏う。そして、右腕の袖と手袋を燃やし、白い地獄の炎を展開していく。
「私に出来る弔いは拳のみ……。クリスティ流神拳術、参ります!」
「ケルベロスの名の元に、死神には冥府への旅路を。死者には永久の安らぎを。ノブレス・トレーズが一騎、山吹のウォーグ……参ります」
 続いて、ウォーグもまた名乗りを上げて前へと足を踏み出す。そのすぐ後ろに位置取るシエラは自分達の周囲に殺界を形成していた。
「遠路遥々お疲れさん。……じゃ、死ね」
 そっけなく言い放った憩の言葉で、両者は交錯し始めたのだった。

●使役され続ける魂に救いを
 怪魚の陰になりながらも、攻撃役として攻め入ってくるヴァルキュリア、クロエ。その動きは非常に速い。身の丈ほどある槍を振るってくる彼女。前列メンバーは相手の足止めをするつもりが、こちらの足を止められてしまう。憩はそれに対抗すべく黄金の果実を使い、傷つく自身と仲間に進化を促した。
(「カムイって事はやっぱり……。いや」)
 死者を再起させる死神。罪剱はそこで、亡き妹の存在を頭に過ぎらせる。
 そのヴァルキュリアをサルベージした張本人である死神、テイネコロカムイに罪剱は思うことがあるようだが、この戦いの場にそいつはいない。考える事は後で幾らでも出来ると割り切った彼は高く飛びあがり、宙を泳ぐ怪魚目掛けて流星のごとく蹴りを繰り出す。
 薙ぎ払いを受けたウォーグは、ボクスドラゴンのメルゥガのタックルに合わせ、緩やかな弧を描いて怪魚を切り裂く。
 斬撃で怯む怪魚目掛け、アンクは左の掌底を叩きつける。
「キシャァァァッ」
 その打撃は、身に纏う鱗が吹き飛ぶほどの痛烈な一撃。苦しみにもだえる怪魚目掛け、自らに魔法の木の葉を纏わせたシエラが電光石火の蹴りを繰り出す。
 だが、怪魚もそう簡単にやられはしない。大きく口を開く怪魚らはメルゥガ、ウォーグに食らいつく。
 怪魚に紛れ、ヴァルキュリアは手にする槍を天高く投げ飛ばす。それは分裂し、ケルベロス達に降り注いでくる。
 降ってくる槍の雨。だが、四肢を機械化した憩を破壊するには至らない。
「邪魔だ、貴様らなんぞお呼びじゃねぇ!」
 憩はクロエの足を止める為にその正面に立ち塞がりながらも、傷つく怪魚へと素早く飛び蹴りを叩き込む。それによって、体に穴を穿たれた怪魚は爆ぜとんだ。
 交戦が続く中、戦場へと飛び込んでくる一台の車。B班メンバーが到着したのだ。
 ボクスドラゴンのニオーに仲間の回復を任せるミハイルは、痛々しいヴァルキュリアの姿に顔を顰める。
「哀れだね。エインへリアルに従属し、死んだ後は死神に利用される……。その翼がキミの意思で、羽ばたかせられたことがあったのだろうか」
 ヴァルキュリアを哀れむも、この場は作戦として邪魔する怪魚が先。ミハイルはドラゴニックハンマーを砲撃形態とし、竜砲弾を怪魚に炸裂させた。
「感情を壊されたか……」
 車を止めてすぐに参戦するクローチェも、ヴァルキュリアが気になる様子だ。ナイフで手慰みながら、彼は苦痛を感じるかと呼びかけを行うものの、ヴァルキュリアは言葉を返すどころか反応すら見せない。
 早速槍で薙ぎ払ってくる敵、クロエ。クローチェもまた、敵と同様に痛みに怯むことなく、銀色のオーラの2本のナイフへと纏わせる。こちらも狙いは邪魔する怪魚だ。
「Quando corpus morietur,fac, ut animae donetur paradisi gloria.」
『自身が死す時、その魂は天へと召される』
 そんな言葉と共に、クローチェは猛然と怪魚へと攻め込む。その攻撃は彼にとって、なんら意識することのないごく日常のこと。しかしながら、容赦なく、その刃を彼は抉りこんでいく。
「魔弾魔狼は伊達じゃねぇ……。俺の魔弾から逃げられると思うな!」
 スピンを怪魚へと仕掛けるファントムに続き、レイは『魔狼銃 フェンリル 【The Second】』に素早くオーラを集めて発砲する。頭を貫かれる怪魚は弾丸を中心にして消し飛んだ。
 死者を弄ぶ死神を1体撃破し、鼻で笑うレイだが、それだけで彼の奥底の嫌悪感が拭えるはずもない。レイは残るもう1体の怪魚にも銃弾を飛ばす。
「シャアアァァァ……」
 何を思って宙にたゆたうのか。怪魚は臆する素振りすらなくかぶり付く。またもメルゥガが止めたタイミングで、ウォーグが居合いでそいつを切り伏せた。
 浅いと自身でも感じたウォーグ。ただ、次の瞬間、隣のアンクが飛び出す。
「決めます……! 外式、双牙砕鎚(デュアルファング)!!!」
 アンクは蒼い冷気を纏った左上段足刀で怪魚を切り払うと、間髪入れずに白い炎をともした右拳を振りかぶる。
「壱拾四式……、炎魔轟拳(デモンフレイム)!!」
 強烈な一撃と同時に怪魚は大きく燃え上がり、消し炭に成り果てた。

 怪魚を比較的あっさり倒したケルベロスだったが、蘇ったヴァルキュリアはそうもいかない。
 光となって突撃してくるクロエ。憩はそれを受け止め、アームドフォートの砲口を相手に向ける。
「自我も持てねぇつまらん人生、ココでぶっ潰してやる!」
 そのまま、彼女は焼夷弾をばら撒く。
 その煙の中から、ミハイルが迫った。エアシューズを炎で包んだ彼はクロエを蹴り上げながらも、そのスカートを捲ろうと画策する。
 恥じらうような可愛い反応を期待したミハイルだが、残念ながら、感情のないクロエはまるで反応を示さない。些か拍子抜けした彼は改めて、実状を目の当たりにさせられた形だ。
 敵がクロエのみになったことで、ケルベロスの狙いは集中するが、強化変異したその攻撃は脅威だ。特に、頭上から降り注ぐ槍の雨は前線メンバーに深い傷を与えるだけでなく、彼らを混乱に陥れる。
「回復を……頼みます」
 自身でない何かに意識に奪われそうになる感覚。アンクが危険を覚えて仲間へと訴えた。
 その回復にはボクスドラゴン、ニオーが当たるが、その属性インストールだけでは手が足りず、間に合わない。
「【神裏切りし13竜騎(ノブレス・トレーズ)】の御旗の元に、集え我が盟友(とも)達よ!」
 所属する旅団のエンブレムが描かれた旗斧。ウォーグがそれを振りかざして仲間を鼓舞し、戦線を支える。
 シエラも駆けつけてすぐは得意の格闘戦をと立ち回り、降魔の拳を敵に叩きつけていたが、回復の補佐をと、別れと送りの詞を歌に乗せて口ずさむ。
「いつか荒野に還るあなたの詩を、風は遊び歌う。悠久に埋もれたあなたの詞を歌うでしょう」
 仲間へと力ある霊を降ろすことでシエラは力を与え、再びバトルガントレットをはめた拳を叩きつけていく。
「何も感じず死ぬよりは、与えてやれれば……。祈り給え、ヴァルキュリア」
 体内のグラビティを破壊力に変え、クローチェはクロエの身体を刻む。
「敵とはいえシニョリーナ。確実に葬ってやろう」
 平然と刃を振るう彼は気品ある動きで、刃をクロエの肌に食い込ませる。人を屠るよりは救われるだろうとクローチェは信じ、刃を向けていく。
「何か言ってみろよ。お前の言葉を聞かせてみろよ」
 戦いで熱くなっていた憩が呼びかけた。だが、クロエはただ盲目的に攻撃を繰り返し、憩へと光の粒子となって突撃してくる。
 感情を持ったレプリカントの憩から見れば、操られるダモクレスにも重なって見えてしまい、同情の念を抱いてしまう。それを振り払うように、彼女は苛立ちながら大鎌の刃で切りかかっていく。
「……安寧を脅かされる、そんな不条理認めない」
 戦う罪剱は、抜け殻のように、操り人形のように動くヴァルキュリアに憐憫を覚え、苦しまないよう命を奪わんとする。
 それは、罪剱が超越機関に属していた時に身に付けた暗殺術。彼の体内には夜刀神の毒が巡る。唇を噛んでその血を口に含み……。
「――目を閉じろ、怖くはない――今、君へ永遠を与えるから」
 催眠の詠唱と共に、罪剱はクロエに口付けを行う。
「あ……う……」
 何か呻くクロエ。しかしながら、彼女はそれでも槍を大きく振るい、前に立つメンバーの身体を裂いていく。
 それをライドキャリバーに受け止めてもらったレイは、高密度のエネルギーを『冥淵銃 アビス』へと込める。
「これで終わりだ……全てを撃ち抜け! ブリューナクッ……!!」
 発射したエネルギー弾は5つに分裂し、その全てがクロエの身体を同時に撃ち貫いた。
「…………」
 僅かに微笑む彼女は、口から血を流して倒れていった。
 その命が再び費えたことを知ったクローチェはナイフを納め、ただ一言だけ彼女へと送った。
「Addio.」

●今度こそ安らかに……
 倒れるヴァルキュリア、クロエ。
「今度こそ、静かにお眠りください……。おやすみなさいませ……」
 その遺体へ、アンクが言葉と共にコートを掛ける。
 憩はクロエを見送りながらも、舌打ちをする。その生のあり方を許容できなかったのだろう。
「――安らかに眠れよ」
 罪剱もまた倒れしヴァルキュリアに哀悼の意を表し、ウォーグは黙祷をして祈りを捧げた。
「もう一度、安らかに眠りな……。次に目を覚ます時は、地球の一員として生まれ変われる様に……」
 レイもまた一言、眠りにつくヴァルキュリアに呼びかける。
 ――今度こそ自由になれますように。
 そんな願いを込めて、ケルベロス達は再び黄泉路に旅立つ戦乙女を見送るのだった。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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