レイニー・ドール

作者:小鳥遊彩羽

 それは、雨が降る夜のこと。
 街外れにある、廃墟となって久しい洋館に、一人の少女が足を踏み入れた。
「今日こそ見つけ出してみせるわ、クリスティーナ……!」
 スマホのライトで中を照らしながら、少女は意気込む。
「赤いドレスを着たお人形さんだっていう話だけど、子供部屋とかあるのかしら。……そもそも、持ち主はどんな人だったんだろ」
 少女は一旦足を止めるとスマホを操作してメモ帳のアプリを呼び出し、『クリスティーナについて』と書かれたタイトルをタップする。
 ――街外れの廃墟(旧アッカーソン邸)の二階で目撃情報がある、赤いドレスを着た洋風のお人形さんのような姿の幽霊、クリスティーナ。
 雨の晩に、窓に人影が浮かび上がることから、この人影こそが幽霊(クリスティーナ)ではないかと言われているが、真偽は不明。
「……なお、アッカーソン邸の所有者についての記録は残されておらず、クリスティーナと呼ばれる人形が実在したかも不明……か」
 そこまで読み上げて、少女は小さく息をつく。
「やっぱり、逢えないのかなあ。……でも、何としても見つけてみせるって言ってきちゃったから、全部の部屋を調べるくらいはやらないとね……」
 そして、歩き出した少女の目の前に、不意に人影が現れた。
「えっ……?」
 黒ずくめの人影――第五の魔女・アウゲイアスは、口元に微かな笑みを浮かべながら手にした鍵で少女の心臓を貫く。
「……私のモザイクは晴れないけれど。あなたの『興味』にとても興味があります」
 魔女が鍵を引き抜くと同時、少女は意識を失った。
 その傍らに、赤いフリルのドレスを纏う、洋風の人形めいた姿のドリームイーターが誕生したのだった。

●レイニー・ドール
 その幽霊の少女は、雨の晩に現れる――。そんな噂を元にしたドリームイーターが実際に現れるのだと、トキサ・ツキシロ(蒼昊のヘリオライダー・en0055)は説明を始めた。
「雨が降る夜なら……何かに惑わされる人もいるかもしれないと思って」
 セリア・ディヴィニティ(揺らぐ蒼炎・e24288)が危惧した通り、一つの事件の予兆に行き着いたというわけである。
 不思議な物事や出来事に対する強い『興味』が奪われ、ドリームイーターとなる事件。『興味』を奪われてしまった少女を助けるためにこのドリームイーターを撃破して欲しいというのが、今回の依頼だ。
 なお、ドリームイーターは廃墟となった屋敷の中を徘徊しているため、こちらから探しに行くよりも向こうから出て来てもらったほうが戦いやすい。
 このドリームイーターは、自分のことを信じていたり、自分にまつわる噂話などをしている人の所に引き寄せられるという性質を持っているので、これを利用して誘き出すのがいいだろうとトキサは続けた。
 ちょうど、屋敷には十分な広さを持つ中庭があるという。そして、ドリームイーターを誘き寄せるための噂話については、
「……彼女――クリスティーナ自身のこととか、幽霊が雨の日に出る理由とか。あるいは、彼女の持ち主についての想像とか、そもそもお屋敷にはどんな人が住んでいたんだろう、とか……色々考えてみるのも楽しいんじゃないかなって思うんだけど、どうだろう?」
 兎にも角にもなんやかんやそれっぽい話をして、クリスティーナを誘き出せれば成功だ。出現を確認次第、すぐに攻撃を仕掛けて戦いを始めるのがいいだろう。
 どのような理由があるにせよ、人の心から生まれた純粋な興味をドリームイーターなどに奪われるわけにはいかない。
「……悪夢を見ているのなら、現実へ覚まさせてあげるべきだわ」
 セリアはそう呟いて、行きましょう、と同胞達へ声を掛けた。


参加者
スウ・ティー(爆弾魔・e01099)
マール・モア(ダダ・e14040)
コンソラータ・ヴェーラ(泪月カンディード・e15409)
ミア・エーデルシュタイン(グラオクロイツ・e22401)
コルト・ツィクルス(星穹図書館の案内人・e23763)
セリア・ディヴィニティ(揺らぐ蒼炎・e24288)
ルシェル・オルテンシア(朽ちぬ花・e29166)
水琉・夏維(星想う水ノ竜・e30173)

■リプレイ

 ぽつり、ぽつりと、空から落ちる雨の音が鼓膜を揺らす。
 闇の中でも目立つ白のレインコート。そのフードを被る頭を軽く押さえながら、コルト・ツィクルス(星穹図書館の案内人・e23763)は傍らの翼猫を呼んだ。
「――猫。……星は見えそうにないね」
 その声に応えるかのように、白猫がにゃあと鳴く。
 降り続く雨は、そう遠くない内に止みそうな気配を見せていた。

 今はもう廃墟となって久しい館の中庭に、ケルベロス達は静かに足を踏み入れる。
「……まるで涙雨の様ですね」
 少女の純粋な興味を利用するなと空が悲しんでいるようにも思えて、水琉・夏維(星想う水ノ竜・e30173)は声を落とした。
「きっと元は風情があるお屋敷だったんでしょうけれど……」
 夜に見るとただただ怖いと、ルシェル・オルテンシア(朽ちぬ花・e29166)はふるりと身体を震わせる。
(「でも、そんなこと言っていられないもの」)
 館のどこかで醒めぬ眠りに落ちている少女を思い、きゅっと唇を引き結ぶルシェル。
「女の子のためにも、ルシェ、精一杯がんばるわ! がんばる……うう」
 けれども恐怖心はそう簡単には拭えない。怖いと口にすると余計に怖さが込み上げくる。
「しぃ。大きな声、出しちゃだめだよ」
 人差し指を唇に添えながら、コンソラータ・ヴェーラ(泪月カンディード・e15409)が怖くないよ、と囁いた。
「そ、そう、……そうよね、ルシェ、こ、怖く……怖くないわ」
 囁く様なか細い声で、何度も怖くないと自分に言い聞かせるルシェル。
「……皆が居るから大丈夫、だよ」
 そんな彼女に、コンソラータは優しく声を掛けた。少しでも彼女が落ち着けるように、真っ直ぐに前を見られるように。
 ルシェルも頷き、ゆっくりと深呼吸を繰り返す。すると、胸をざわつかせていた怖さが少しずつ薄らいでいくような、そんな気がした。
「雨の夜に現れる亡霊……果たして彼女に、この館に。どんな物語が在ったのかしら……」
 蔦が生い茂る館を、その先に広がる暗い空を、雨露に濡れることも厭わずに見上げながら、セリア・ディヴィニティ(揺らぐ蒼炎・e24288)はぽつりと零す。
 かつての所有者も全て不明の館。けれどもその館は実際にここにあり、実在していたのかも定かではない『彼女』が噂され、今回の事件に結びついた。
 それはとても興味深いことだと、セリアは思う。
「雨に誘われ姿を現すのか、……いや、あるいは彼女こそが雨を望む何かが在るのかもね」
 そこにふと差し込まれる、スウ・ティー(爆弾魔・e01099)の呟き。それに頷いて、セリアはさらに思考を巡らせる。
「雨の夜に現れるのは、彼女にとって思い入れのある時……だからなのかしら」
 もうどこにもいない主人を求めてなのか、あるいは、館に居た人々を――その憧憬を想ってのことなのか。
(「彼女が抱えているのは悲しみなのか、それとも……もっと別の気持ちなのか」)
 それを拾うことが出来るかどうかは、わからないけれど。

「赤いドレスを着たお人形さん、クリスティーナはどんな姿なのでしょうね」
 穏やかな笑みを浮かべたまま、コルトは人形の少女へ想いを馳せる。
 怖いのだろうか、可愛いのだろうか。それとも――。
「雨の日に見るというお噂。クリスティーナは雨が好きなのでしょうか……」
 小さく頷きながら、ミア・エーデルシュタイン(グラオクロイツ・e22401)が続く
 想像は尽きることなく、様々な姿形を描いて噂を現実へ引き寄せる。
「もしかすると、このお屋敷のご主人が雨の日に居なくなってしまったのかも。……ですから、窓辺で帰ってくるのを待っているのかもしれませんわね」
 言いながら、ミアが見上げる先。窓辺には何も見えないが、不思議とそこに誰かが居るような気持ちになった。
「……ね、どうして、雨の日に。なんだろう」
 何か切欠みたいなものがあるのだろうかと想像を巡らせるコンソラータは、クリスティーナが居ると信じて疑わない、そんな想いを秘めた優しい声を紡ぐ。
「お外で遊べない雨の日にクリスティーナで遊んでいたから、クリスティーナは雨の日に現れるんだったりして、ね」
 ルシェルもまた、想像の翼を羽ばたかせていた。
 雨の日に遊んでいたからこそ、雨が降れば遊びに来てくれるかもしれない――待つことしか出来ない人形は、そんなことを思ったのだろうか。
「あとは……持ち主だった子が、こんな雨の日に亡くなった……とか」
 コンソラータがそう重ねれば、夏維が口を開く。
「例えば……この場所で、過去に忌まわしい出来事があったのかもしれません。クリスティーナさんのドレスが持ち主の紅で染まっても、離れることなく二人は……」
 自分で話していて、寒気がしてきたらしい。皆には内緒にしていたが、実は、夏維はこういったホラー系や怪談が少し苦手だった。肩を震わせる夏維を案じるように、ボクスドラゴンのアルビレオが服の裾をくわえて引く。
「館の主はきっと、何時かの夜に呑まれて消えて仕舞ったのね」
 マール・モア(ダダ・e14040)の声は蕩けるように甘く、そして柔らかなものだった。
 だから、雨粒は流せぬ涙の代わりであり、雨音は届かぬ声の代わりである――と。
「ひとり遺された寂寥を持て余し、……ここに居るのと、報せたいのではないかしら」
 そう囁いたマールの眼差しの先に、ふわりと浮かび上がる影。
 まさしくここに居ると伝えに現れたかのような、赤いドレスを纏った小さな人形――『クリスティーナ』。
「――ああ、君が」
 その姿を確かめ、コルトが目を細める。
「私達は惑わされること無く頑張りましょう」
 雨具を纏うアルビレオの目許へ優しく口付け、夏維はクリスティーナへと向き直る。
「ご機嫌よう、クリスティーナ」
 まるで愛しい人に語り掛けるようにコルトは紡ぎ、星を模ったランプを足元に置いた。
「かわいい可愛いお人形さん、すてきな夜だね? ……いっぱい、あそぼ」
 コンソラータもまた、優しく語り掛ける。
「さぁて始めようか。ついでに俺等の肝も試して頂戴よ」
 帽子に手を当て、もう片方の手でくるりと黒い円柱形の爆破スイッチを遊ばせながら、スウは笑みを深めた。
「小夜雨香る中庭での逢引なんて御誂え向きだこと。……ひとりきりのクリスティーナ、悪い夢は御仕舞いにしましょう」
 ――今宵許りは共に愉しみ。
 今宵限りに深く御休み――。
 マールは迷いなくクリスティーナへ狙いを定め、ガトリングガンの引き金を引いた。
「存分に愉しみましょう」

 一斉に吐き出された弾丸が、鮮やかな爆炎の花を咲かせる。
 闇にも雨にも映える姿を傷付けるのは忍びないけれど――この悪夢は自分達、ケルベロスにしか払えない。
「ナノちゃん、丁寧なお手伝いをお願いね」
 マールの指示に従って傍らのナノナノが可愛らしいハートの光線を放てば、クリスティーナはお返しと言わんばかりに手にした鍵からモザイクの塊を飛ばしてくる。
 動きに合わせてふわりと揺れるドレスは、まるでダンスを踊っているかのよう。
「邪魔するよ。そいつが俺の仕事でね」
 その手を取る代わりに、スウは貼り付けた不可視の爆弾のスイッチを入れた。大きく爆ぜた衝撃に宙を舞う小さな体へ、夏維がマインドリングから具現化させた剣を手に斬り掛かる。
「真相は存じませんが……これ以上、ドリームイーターの思い通りにはさせませんよ」
 光を帯びた斬撃がドレスの裾を斬り裂くと、アルビレオも自らに属性をインストールし、盾として奮戦すべく守りを固めた。
「猫、よろしく頼むね」
 翼猫へそう呼び掛けると同時、コルトは雨雲ごと払うような彩りの風を前衛陣の元へ送った。猫の翼の羽ばたきが生んだ涼風が更なる加護を重ね、次なる攻撃へと繋いでゆく。
「ルシェも頑張るんだから!」
 きっ、とクリスティーナを見据えるルシェルの手から躍り出たブラックスライムが、捕食モードへその姿を変えてクリスティーナを呑み込んだ。黒き残滓が纏わりつくようにドレスを汚した次の瞬間、ミアは極限まで集中させた精神を確かな力に変えて解き放つ。
「可哀想なクリスティーナ。あなたの探している人は、もうどこにもいませんわ」
 まるで人形のように希薄な表情の中、哀れみを込めたミアの瞳が、夢喰いの寄り代となったクリスティーナを捉える。
(「……ああ、お姉様」)
 ミアの脳裏に浮かぶ、過ぎし日の悪夢。違うとはわかっていても、かつての自分と目の前の人形を重ねずにはいられなくて、ミアの心は少しずつ沸き立っていった。
「誰も居なくなった館で、独り彷徨う。……貴女はどんな想いでここに留まるのかしら」
 感覚を研ぎ澄ます銀色の光の加護を仲間達に振り撒きながら、セリアは真っ直ぐにクリスティーナを見つめる。
「貴女は悲しいお人形なのかしら。……それとも。主人思いの健気なお人形?」
 セリアの問う声にクリスティーナは答えることなく、ただ硝子玉のような瞳を煌めかせて微笑むだけ。
「……ごめんね? すこし、熱いよ」
 囁くような謝罪の音が零れ落ちると同時、コンソラータが掲げた掌から幻影の竜が躍り出て、吐き出した炎で人形を包み込んだ。
 ちりり、ちりりと、燃え尽きたモザイクの欠片が空に溶けて消えてゆく。
 星の煌めきにも似たその光を見つめながら、コンソラータは静かに想いを灯らせた。
(「早く、あの子を起こしてあげなきゃ」)
 ――風邪を引いてしまう、その前に。

 人形の手に握られた鍵の剣。
 無機質な微笑みと共にセリアへと繰り出されたそれが、庇いに入ったマールを貫いた。
「……っ」
 刹那、目の前に現れた『幻影』に、――もうどこにもいない人の面影に、マールは目を瞠り息を呑む。
「貴方――」
 鍵に貫かれた箇所が、抉られたように痛む。
 けれど、直後に響き渡った透き通る歌声がマールを、そして彼女の目の前に現れた幻を包み込んだ。
 コルトが紡ぐのは、大切なものを守るために戦い続けた或る英雄の譜(セイクリッド・エピック)。
「大丈夫、でしたか、マールさん」
 案じるようなコルトの声が背に掛かると同時に、ふわりと掻き消える幻。瞬き一つ、礼を告げるマールの目の前に居るのは夢に囚われた小さな人形で。
「……貴女が見せてくれたのね」
 浮かぶのは、想いの色を映さない、常と変わらぬ微笑。
 伸ばした手の先に踊る黄金色の林檎に、マールは爪を立てる。人形の少女へ齎されたのは、血色に染まった毒の蜜。
 蜜に誘われ羽ばたいた蝶は、まるで戦いの果てにある雨上がりの花園へと少女を導こうとしているかのよう。
「クリスティーナさん、貴女も……悪い夢から醒める時間です」
 願うようにそう告げて、夏維は竜槌を振り抜いた。
 放たれた超重の一撃は、いのちの『可能性』を凍りつかせるもの。
「――キミに救いを」
 雨雫を払うように白い翼を震わせて、コンソラータもまた時を凍らせる弾丸を放った。
「ちぃとは派手にやっちゃいますかぁ。……一度捕ったら、そう逃げられんよ」
 道化のような笑みを浮かべたスウが、軽く舌なめずりしながら水晶形の『見えない機雷』をばら撒いた。機雷は透明なまま空気中を緩やかに移動し、そしてスウの手により炸裂する。
 爆炎と砕けた水晶の破片がクリスティーナへと降り注ぎ、攻防を重ねる中で刻まれていた幾つもの状態異常が一気にその数を増した。
「ルシェのとっておき、クリスティーナちゃんに見せてあげるわ!」
 身軽さを活かし舞うように戦場を駆けていたルシェルが、情熱的な舞とステップを刻み始めた。
 それは名も無き一匹の番犬の生を紡ぎ舞い踊る舞踏魔術――狂詩曲『底なし穴の番犬』(ラプソディー・ドゥ・ケルベロス)。
 流れ流れて番犬は一つの問いに辿り着くだろう。何がために、刃を振るうか。
 ルシェルは最後に四拍、地面を叩くように踏み締め、凛と声を響かせる。
「――流転せよ!」
 次の瞬間には、地獄の番犬を模したような形の黒い影が、人形へと襲い掛かっていた。
 胸の内で燻る炎は、そう簡単に鎮まりそうにない。
 嗜虐的な笑みを口の端に浮かべ、ミアは力ある言葉を紡ぎ出す。
「乙女の抱擁で永遠の悪夢を――」
 すると、聖母を象った鉄製の拷問具がどこからともなく現れて、人形をその内に抱くように閉じ込め無数の針で貫いた。
 ケルベロス達の攻撃により、クリスティーナは少しずつその輪郭を薄れさせていた。
 まるで、夢の時間は終わりだと教えてくれているかのように。
 まるで、『彼女』自身が夢から醒めようとしているかのように。
「貴女の夢は、もうお終い。あの子の夢の中へ……お帰り」
 神槍を手に、光の翼を広げ――セリアはクリスティーナの元へ翔けた。
 繰り出した穂先に宿るのは、氷精の吐息。
 赤いドレスに氷の華が咲いて、仮初の命ごとその時を凍りつかせてゆく。
 砕け散るモザイクの欠片。夢が生み出した小さな人形は、静かに在るべき場所へと還っていった。

 いつしか雨は上がり、雲の隙間から月が顔を覗かせていた。
 これで、夢を奪われた少女も目を醒ますことだろう。外が晴れていることに気づけば、もう今宵はクリスティーナには出逢えないのだとがっかりしながらも、帰途につくはずだ。
「せめて貴女は幸せな夢を見て頂戴ね、クリスティーナ」
 願うように、もうどこにもいない『彼女』に向けてマールは紡ぐ。
「さあ、皆さん、……夢から醒めたあの子がびっくりしてしまう前に、私達は退散するといたしましょう」
 仲間達へとそう呼び掛けるミアの表情は、戦いが始まる前と変わらない、普段通りの彼女のものだった。
 一つの夢の終わりを見届けたケルベロス達は、静かに踵を返す。
 戦いが終われば辺りに戻る静けさにまた怖いと思う気持ちが湧き上がってきてしまったけれど、差し込む月明かりに、ルシェルはほっと安堵の息を吐いて。
(「――まだ、……起きてるかな」)
 コンソラータは手元のランプに無意識に眦を緩ませながら、帰る先に居る皆を想った。
 こんな夢を見てきたのだと、寝物語に語るのもきっと楽しいだろう。
「興味本位も度を過ぎればってさ。皆引き際知らないんだからなぁ」
 そう言って、スウは小さく肩を竦めてみせる。
「夜に出歩くのは危ないですし、今度は素敵な夢を見てほしいですね」
 一度屋敷を振り返り、夏維はそっと微笑んだ。
「さようなら、レイニー・ドール」
 次は、君に優しい星の譜を聞かせてあげたい。コルトはそんな願いを灯しながら優しく猫を抱き締める。
 ――夢は、いつか醒めるもの。
 けれど、醒めた後に『夢の住人』たる彼女達はどこへ向かうのだろう。
 セリアは静かに、胸中で想いを馳せる。
 その答えを確かめることは叶わないけれど、夢を想うことくらいはきっと――許されるだろうから。

作者:小鳥遊彩羽 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 1
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