月喰島奇譚~どちらが狩人、どちらが獲物?

作者:天枷由良


「ちょっと、不味いことになってるわよ」
 休息を取っていたケルベロスたちの元に、イリス・ローゼンベルグ(白薔薇の黒い棘・e15555)が暗視スコープを外しながら駆け込んで言った。
「あっちからもこっちからも化物が来てるわ。このままじゃ、間違いなくこの灯台は包囲されるわね」
「そんな……どうやって嗅ぎつけたんだろう」
 急ぎはしたが、灯台まで馬鹿正直に進んできたわけでもない。
 何処でやらかしたか……と、佐々川・美幸(忍べてない・e00495)は首を捻る。
「このままじゃ、ということは、包囲はまだ完成していないんだよね?」
 トゥーリ・アルシエル(蒼范のアリア・e00215)の問いに、イリスは頷いて返した。
「今すぐここを出れば、さっきまで居た森には逃げ込めそうだったわ」
「……じゃあ、灯台はこんな有様だし、森の中に潜んでいた方が――」
「いや、むしろこのまま、此処に留まった方がいいんじゃないか」
 豊田・姶玖亜(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e29077)が、トゥーリを制して言う。
「出入口、なんて大層な状態じゃないけれど、侵入出来る箇所も限られている。此処で敵を迎え撃てば、多少は有利に戦えると思うよ」
「確かに一理あるが……」
 伽羅楽・信倖(巌鷲の蒼鬼・e19015)は顎に手を当て、唸った。
「結局、敵の正体も総数も分かっていないのが気がかりだな」
 いつか終わると仮定して籠城を図り、そのままいつまでも終わらず、敵の物量に呑み込まれてしまうかもしれない。
「……なら、あの自衛官を探して、やっつけるの」
 意外や豪快な提案をしたのは、カリーナ・ブラック(黒豚カリー・e07985)。
「指示を出してるのは自衛官に間違いないの。あれをやっつけたら、残りの化物たちはどうにかなると思うの」
「包囲される前に打って出る、か。……だが、敵を上手く迂回することが出来ても、自衛官の居所が分からないのでは――」
 カリーナを見やりながら再び唸って、暫しの沈黙を経たあと、信倖は槍を手にして言う。
「灯台での防衛戦が続けば、少なくとも異形たちは此処に釘付けにしておけるのではないだろうか。その間に奴を、自衛官を探し出して……討ち取る」
「また、みんな離れ離れになるってこと?」
 シエラ・シルヴェッティ(春潤す雨・e01924)が、信倖を見上げた。
 一人ずつバラバラに散った探索班とは状況が違うが、やっとの思いで合流した仲間とまた別れることには、一抹の不安を感じてしまう。
「でも、それが最善なら、仕方ないのかな……」
 シエラの呟きを最後に、静寂の訪れる灯台跡地。
「……どれも、ベストと言い切れるものではないわ」
 改めてイリスが口を開く。
「もう一度、現状を整理するわよ」
 ケルベロスたちの現在地は、防衛戦に臨める最低限の修復を施した灯台跡地。
 迫る異形の包囲はまだ不完全で、すぐに灯台を発てば森に逃げ込むことも出来るだろう。
 しかし敵の正体、拠点や総数。その他、正確な情報は掴めていないまま。
 指揮官と思わしき迷彩服――自衛官風の男も、森での遭遇戦以降、消息不明だ。
「そういえば一応、本土と連絡が取れないか試したのですけれど……」
 スピカが通信機を見せつけて、首を振る。
 島の電波状況は相変わらず悪く、援軍は望めないだろう。
「でも、傷の手当もしてもらったし、温かいものとか……缶詰も食べたし、私も十分に戦うだけの力は取り戻せたよ」
 そう仲間に告げたシエラを始め、8人のケルベロスたちは前回の戦闘から心身ともに回復するだけの休息を取ることが出来ている。
 これを踏まえて――。
「時間はないけど、みんなでしっかり話し合って決めるの」
 カリーナが、かまぼこを抱え上げて言った。


参加者
トゥーリ・アルシエル(蒼范のアリア・e00215)
佐々川・美幸(忍べてない・e00495)
シエラ・シルヴェッティ(春潤す雨・e01924)
カリーナ・ブラック(黒豚カリー・e07985)
早乙女・スピカ(星屑協奏曲・e12638)
イリス・ローゼンベルグ(白薔薇の黒い棘・e15555)
伽羅楽・信倖(巌鷲の蒼鬼・e19015)
豊田・姶玖亜(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e29077)

■リプレイ


 曇天の下、透き通るような祈りの唄が響く。
 トゥーリ・アルシエル(蒼范のアリア・e00215)は瓦礫の一山に腰掛けて、僅かでも灯台のあるべき姿を取り戻そうとしていた。
 仰ぐ空に、忌み嫌う月は陰って見えない。
 しかし迫る異形への恐怖心が薄らいでいる理由は、それだけでもないだろう。
「もう一度、作戦を確認するの」
 頼れる仲間の1人――カリーナ・ブラック(黒豚カリー・e07985)が、見回しながら言葉を継いでいく。
 未知の敵に包囲されかけた危機的状況にあって、ケルベロスたちが選んだ方策は単純な籠城でも突撃でもなく、二分した部隊の一方を灯台に残して囮役とし、もう一方で敵指揮官を探し出して討つというものだった。
「けれども敵は多数で、指揮官の居場所は分からない。……最高の状況ね、楽しくなってきたわ」
 皮肉るように呟いたイリス・ローゼンベルグ(白薔薇の黒い棘・e15555)が、少女の細腕には似合わない大きさの瓦礫を一時的な怪力で担ぎ上げ、灯台の出入口とも呼べないところに積んでいく。
 他の仲間たちも、それぞれ緊急時に連絡手段となりそうなものをかき集めて、戦いに備えていた。
「それにしても」
 身を隠せるほどには直った壁に寄りかかり、豊田・姶玖亜(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e29077)が灯台の外を見やる。
「来たるは顔色の悪い皆さん、行く先々は木々ばかり。参ったね、もうちょっと華やかさが欲しいね」
「十二分に華やかではないのか?」
「……おっと」
 槍と懐中電灯を持った伽羅楽・信倖(巌鷲の蒼鬼・e19015)の言葉で、首をすくめる姶玖亜は、自身も含めて女性ばかりの仲間へ視線を向け直す。
 ちょうど、気合を入れるためにポニーテールを結わえていた早乙女・スピカ(星屑協奏曲・e12638)の、白い首筋が目に飛び込んできた。
「こんなに綺麗なお嬢さん達がいる前で、失言だったね」
 誰ともなしに、くすくすと笑いが零れる。
 それは日常的な朗らかさを含むものだった。
 何故ならケルベロスたちは、誰一人として絶望や諦観を抱えていない。
「さて。では、このモノクロームの世界から……おさらばといこうか」
 リボルバー銃を握った姶玖亜に、頷く佐々川・美幸(忍べてない・e00495)とシエラ・シルヴェッティ(春潤す雨・e01924)。
「状況は思っていたよりも厳しいものだ」
 信倖が語り始めた言葉を、7人の少女たちがじっと聞く。
「しかし此処を抜けなければ、我々の命もだが、仲間へ情報が届かぬだろう。先を繋ぐ為にも今を切り抜ける。……さあ、行くぞ!」
 1つの意思を8人で分かち、こうしてケルベロスたちの生存戦略は始まった。


 まずはトゥーリが、バイオガスを展開する。
 意図した効果を得られるかは分からない。しかし別働隊の動きを隠すため、使えそうな手段は何でも投じておきたかった。
「引き受けた以上は、何としてでも耐え抜いてみせるわ」
「頼んだよ!」
 螺旋状の気流を纏いながら、美幸がイリスの手を叩く。
 此方も特殊な気流を身に漂わせるシエラに、続くスピカと信倖、姶玖亜が灯台を出る直前。
 イリスが具現化させた黒太陽が、迫る敵に黒光を射った。
 囮であることを悟られぬよう、派手に初撃を放ち終えたイリスに代わって、今度はトゥーリとカリーナが決して絶望しない魂を歌に変えて奏でる。
 2人が一節を歌い上げて息を整えた時には、別働隊の姿は見えなくなっていた。
「……大丈夫だよ、カリーナさん」
 ぽん、と背に手を当てながら、トゥーリが言う。
 それがカリーナの、顔に表れない僅かな恐怖心を汲み取ってのものかは、定かでない。
 しかしそうであっても不思議でないほど、彼女たちは信頼を築いていた。
「ありがと、トゥーリちゃん。カリーナも頑張るの」
「その意気よ。でも、お喋りの時間はお終いね」
 イリスが壁の向こうを指差す。
 黒光の衝撃から立ち直ったもの、歌に怒るような声を上げるもの。
 更に押し寄せる異形の群れ。
 腐臭漂わせる死の波は、灯台に残った3人と2匹を諸共飲み込もうとしている。
「それでは殿下、よろしくお願いしますね」
「かまぼこも、みんなを援護してね」
 主人達の呼びかけに、ボクスドラゴンの殿下は仰々しく、ウイングキャットのかまぼこは小刻みに頷く。
「それじゃ、やるわよ」
 イリスが言って――目の前に来た異形を、降魔の拳で殴り飛ばしながら叫んだ。
「あなたたちみたいなのは趣味じゃないけれど、たっぷり歓迎してあげるわ!」
「月喰島・ケルベロスオンステージの始まりなの」
 カリーナが新たな歌を口ずさむと、そこにトゥーリの澄んだ声が重なる。
「安心してね。1曲2曲で枯れるほど、柔な喉じゃないよ!」
 3人の攻撃が敵を圧すが、戦いにおいて数は何よりの武器。
 力なく倒れたものを踏み越えて、異形たちは瓦礫を積み上げ狭められた、灯台と外界の境目に踏み入ってくる。
 まずは、3人と殿下の前に1体ずつ。
 唾液を引いて開かれた口から、粗い鋸のような歯が見えた。
「踊り子には手を触れるなって……常識よね!」
 掴みかかろうとする異形を蹴飛ばして、吠えるイリス。
 その耳に、小さなうめき声が届く。
「――トゥーリちゃん!」
 カリーナが言うが早いか、殿下が主人に噛み付いていた異形へ体当たりをかまして、外へ押し出した。
 そのまま殿下はトゥーリに力を分け与えて、かまぼこも羽ばたき起こした優しい風で傷を癒やす。
「まだまだ平気……歌うのは止めないよ!」
 噛み跡の痛みが和らいでいくのを感じつつ、トゥーリは再び絶望しない魂の歌を唱えて、敵の注意を引きつける。
 その足元にイリスとカリーナが鎖の魔法陣を敷いて、守りの力を高めていく。
 囮役たちは防御と回復に重点を置いた行動を取ることで、少しでも長い時間を耐え、別働隊が目的を果たすための時間を作り出そうとしていた。


「――何もいないよ。このまま進もう」
 シエラが密やかに、仲間たちを手招きする。
 灯台を抜け出した別働隊は敵群を大きく迂回して、森に踏み込んでいた。
 先行するのは気流で気配を消したシエラ。
 彼女の偵察を待ってから、草木を曲げて小路を作ることが出来るスピカが進み、信倖と姶玖亜、美幸が続いていく。
「群れの中には、さすがに居ないかな?」
 美幸が異形の軍団を望遠鏡で観察するが、求める敵は見当たらない。
 闇夜に粒となって浮かぶ異形たちを追っていくと、それは森に近づくに連れて尻すぼみになっていた。
 灯台を包囲するくらいだ。恐らく自衛官が指揮する戦力の、かなりの部分を投入しているのだろう。
「大兵を以って寡兵を討つ、だな」
 わずか8人と2匹の手勢を2つに分けたケルベロスたちとは真逆の戦法に、信倖は口元を歪める。
「取り巻きや灯台の状況を把握するなら、森の中でも一段高いところか……」
「もしかしたら、木の上などに居るかもしれません」
 姶玖亜から言葉を継いだスピカが、鬱蒼と生い茂った木々を見やる。
 敵は迷彩服を着込んだ自衛官。そういった所に待ち伏せていてもおかしくない。
 ましてや、ここは十分な調査も出来ていない深森。地の利は向こうにある。
「……けど、急がないとね」
 自分を助けに来たばかりに、仲間たちを危機へ巻き込んでしまった。
 負い目を感じるシエラは、顔を厳しく引き締めて森の奥へと進んでいく。
 気配を消す力の使えない信倖や姶玖亜も、茂みや木立を利用して、とにかく動きを察知されないように。
 自衛官を探す別働隊だが、なかなかその姿は見えてこない。
 少し開けた所で双眼鏡を覗いてみたり、灯台へ攻め込む異形の動きから高台に目星をつけて進んでいくが、成果が上がらない。
「一度見つけてしまえば、手配書で追えるんだけど」
 歯噛みする姶玖亜。
 探索には、かなりの注意を払っている。此方が見つかっているとは思えない。
 だが、シエラが探索班の者たちと別れて来た時も、いきなり見つかってしまい、追われる羽目になったのだ。
 もしや、もう森に入ったことを自衛官に察知されてしまったのだろうか。
 だとすれば戦力を二分した事も見抜かれている……?
 募る不安と焦りを隠して、捜索を続けるケルベロスたち。
 その先頭を行くシエラの背に、信倖の手が触れた。
 言葉を介さず伝わってくる思念に従って、シエラは視線を動かす。
 彼方に、ほんの少しだけ動くものが見えた。
 スピカと姶玖亜が、暗視スコープ越しにハッキリと確かめたそれこそ、探し続けていた迷彩服。
 移動の最中だろうか。付き従えている異形は、ごく僅かだ。
 それは暫く待っても離れる素振りを見せないが、あの自衛官さえ仕留めれば。
 ……いや、それで現状が打開できるというのも、根拠の薄い憶測。
 けれども、やるしかない。
 ギリギリまで近づいて――敵が此方に気付いた時、ケルベロスたちは一斉に仕掛けた。
「咲き乱れ、歓びうたえ、春の花よ――」
 戦場には不釣り合いなほど軽やかに舞って、シエラの生み出した幻の花嵐がうねり、敵へと迫る。
 しかし自衛官にまでは届かない。立ち塞がる異形の一体を包んで、花びらは消えていく。
「それなら……忍法、影縛りの術!!」
 グラビティで作り上げた無数の手裏剣を、美幸が異形たちの足元へ打ち込む。
 その効果で僅かな一瞬、敵が動きを止めた所に信倖が踏み込んで、大きく息を吸い込んだ。
「邪魔をするな!」
 噴き出された竜の息吹が、障害となる何もかもを焼き払う。
 燃え盛る炎の向こうから自衛官の銃が軽い破裂音を鳴らすが、広く掃射されてきた銃弾に対しては美幸が分身でも作り出したかのように素早い体捌きで立ちはだかって、その全てから仲間たちを守った。
「指揮を執る邪魔な腕を、落とさせていただきますね」
 自分より僅かに小さな忍者娘の陰から飛び出して、スピカは一気に自衛官の懐へ迫ると、二振りの剣で十字を斬る。
 天地揺るがすほどの超重力を湛えた刃。だがそれは、鼻先すら掠めず空を泳いだ。
 当たれば手応え十分だったろうが、さすがに有象無象と同じようにはいかない。
「――出来た! もう逃がさないよ!」
 仲間たちが攻撃している間に作った手配書を、姶玖亜が高々と掲げ、見せつける。
 万が一、自衛官を見失なっても、これで追跡することが出来る。
 しかし囮役たちも、いつまで耐えられるか分からない。
 ここで討ち取る。スピカは剣を構えたまま、敵を睨めつけて唱えた。
「蒼き炎よ、かの者の罪を焼き払え!」
 花びらのような――シエラのそれとはまた違う、蒼い炎。
 自衛官の周囲に舞ったそれは、また寸前で別のものを焼く。
「っ……この大量の敵さんは、どこから出てくるんですかねぇ?」
 死にかけだった異形が、自衛官の腕の一振りで盾となり散っていった。
 まだ湧くのなら厄介だ……と、警戒するケルベロスたちの前に、しかしそれ以上の異形が現れることはない。
 辛うじて残っていた数体を、シエラの鎌が切り捨て、信倖の槍が貫き、姶玖亜の速射から放たれる雷を帯びた銃弾の雨が、自衛官ごと巻き込みながら仕留める。
「あとは貴様だけだ!」
 幾度かの応酬を経て、身を屈めた信倖が自衛官に向かっていく。
 そして穂先を突き出す――その瞬間、自衛官は槍を脇で固めるよう受けて引っ張り、銃床で信倖を殴りつけた。
 急激に反転した世界を何とか正しい位置に戻して、信倖が取り落とした槍を拾い上げた時、代わりに1人で盾役を務めていた美幸がありったけの銃撃を受けて吹き飛ばされ、足元に転がって苦しげにうめき声を漏らす。
 遭遇戦では力量を測り損ねていたが、やはり自衛官は他の異形よりも強い。
 それでも――。
(「……倒せる、必ず!」)
 姶玖亜の御業に囚われ、足を鈍らせ始めた自衛官の首元にシエラの鎌が喰い込む。
 更にスピカの解き放った竜の幻影が、敵を飲み干すように焼く。
「二度は許さん!」
 低い姿勢で突撃する信倖が、今度こそ、槍から刺突の雨を浴びせる。
 ぼろぼろになった迷彩服から、小銃が滑り落ちて音を立てた。

「信号弾は!? トランシーバーは!?」
「見えないし聞こえないの!」
 何体目かも分からない異形を相手取りながら、トゥーリとカリーナが声を張り上げる。
 どれほど時間が経っただろうか。
 囮班の3人は次第に押し込まれ、一杯一杯の抵抗を続けていた。
「だからって……ドラゴン相手ならともかく、死人に殺されるほどヤワにできてないのよ!」
 真っ赤になった拳を、異形に叩き入れるイリス。
 その時、未だ灯台に向かって進軍を続けていた異形たちが、くるりと反転し始めた。
 咄嗟のことに理解が及ばないまま乱れた息を整える3人は、やがて彼方の森から立ち昇る煙が意味する所を悟って、寄り添いながら倒れ込む。


 倒れた自衛官を調べても、装備の古さから島の消失と同時期の人間であろうかと推測するのがやっとであった。
 指揮官を失って彷徨いだした異形たちは僅かな反撃しかしてこなくなり、灯台へ戻る5人と合流しようとする3人は、それを挟撃する形で苦もなく殲滅する。
 そして太陽の光が島を照らし始めた頃。
 灯台で休むケルベロスたちの元に、迎えがやってきた。
「どれ、私が運んでやろう」
「ごめんね……あいたたた」
 深手を負った美幸を、担ぎ込む信倖。
 まるで我が家のような安心感を味わうケルベロスたちを乗せて、飛び上がったヘリオンは、すぐに8つへ増えた。
「皆……無事だったんだね!」
 シエラが、ゆっくりと間違いないことを確かめる。
 探索班で一緒だった者たちも、全員無事に救出されたようだ。
「良かった良かった。さーて、帰ったら何をしようかな?」
「なんでもいいけれど、私はちょっと寝かせて。……起こしたらヘリオンから落とすわよ」
 そんな事を言って、姶玖亜とイリスが笑う。
「さぁ、殿下。月喰島ともお別れですよー……?」
 ボクスドラゴンを抱えて眼下を眺めたトゥーリは、何か言いようのない寒気を感じて口を噤んだ。
「やっぱり何か、感じます?」
 スピカが、そう尋ねた直後。
「動いてるの!」
 カリーナの元に集まると、見下ろす月喰島が中央から崩壊していく。
 そしてヘリオンにまで伝わる、凄まじい衝撃。
「あれは……ドラゴン!?」
 島の中心に湧き出た黒く巨大なドラゴンは、ヘリオンに向かって咆哮と攻撃を仕掛けながら言う。
『なんという事をしてくれたのだ。
 あと少しで、神造デウスエクス……屍隷兵(レブナント)が完成したものを。
 決して、許されるものでは無いぞ!』
「屍隷兵……? まさか、あの自衛官も、月喰島の人たちも!」
 姶玖亜が、彼らの姿を思い起こして拳を握る、そんな余地もない。
「みんな、何でもいいからしっかり掴まって!」
 ヘリオライダーが切迫した声で指示を出す。
 それすらかき消すように、黒竜は猛り狂い、吼えた。

作者:天枷由良 重傷:佐々川・美幸(忍べてない・e00495) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年10月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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