雨の降りしきる夜の街を一人歩く少女がいた。
雨音は激しく、傘をさしていてもさしたる意味はなく、少女の髪は雨に濡れ、その額に張り付いている。
しかし少女の顔には暗い感情は一切読み取れず、その瞳はむしろ何かに期待するかの用に爛々と輝いている。
「噂が本当にしろ嘘にしろ、あの人が死んだ夜と同じシチュエーションって言うのは、なんだかテンションが上がるな……」
少女の呟きは雨音にかき消され、どこへとなく消える。
肩にかけた長い布袋をぎゅっと握り締め、少女は尚歩く。
彼女が足を止めたのは、長い石橋の手前に立つ石碑の前。傘をたたみ、布袋に手をかけた少女は、振り向き様にその中身の木刀を振りぬいていた。
少女が期待して振り返った先、しかしそこにいたのは彼女の待ち人ではない。
闇に溶ける黒衣を纏い、手にした鍵で木刀を受け止める、魔女の姿がそこにあった。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの興味にとても興味があります」
背筋の凍るようなその声に身の危険を感じた少女が木刀を振りかぶるより早く、魔女の手にした鍵が少女の胸元を貫いていた。
「人は古来より強き者に惹かれ、憧れるもの。皆さんもケルベロスとして、尊敬する人や目標とする人なんか、いたりするんじゃないですか?」
ニア・シャッテン(サキュバスのヘリオライダー・en0089)の言葉に、集まったケルベロス達はそれぞれ違った反応を見せる。
「とある地方にもそんな兵の伝承が残っていましてね」
得意げに語り始めたニアの話を要約すれば、かつて非常に腕の立つ剣客がその地にいたのだという。
しかしその剣客は女性ということでその実力を公には認められなかった。
それを不満に思ったその剣客は自らの実力を知らしめるために夜な夜な、橋を渡ろうとする剣客に勝負を挑んでは勝ち続け。最後には雨の降りしきる夜、大勢の役人を相手に大立ち回りを演じ、往生したのだという。
「そんな剣客がですね、雨の降る夜になると、悲願を成就するために橋の袂に立つという噂がありましてね、その剣客に心酔する少女の興味が今回ドリームイーターに奪われてしまったんですね」
前置きが長くなってしまいましたが、とニアは軽く頭を下げる。
「今回皆さんに倒していただきたいのはこの少女の興味から生まれたドリームイーターですね。先ほど説明した伝承を元に形を取ったドリームイーターは橋の袂で兵を待っています。近づく者に声をかけ、その目に適えば、勝負を仕掛けてきます」
奇襲を仕掛けてこないだけ礼儀正しいと思うべきですかね? などと言いながらニアは続ける。
「番傘に着物、伝承の通りの姿で攻撃手段もまた刀を使った戦闘スタイルをとるようです。ただ。武器に拘りはないのか、鈍らになった刀は次々に変えていくようですね」
この手の話ではある種ちょっと珍しい気がしますね、と軽く感想を述べたあと、ニアはケルベロス達のほうを向いて、もう一度口を開く。
「現代に蘇り尚、自らの腕を知らしめようとする剣客。その志は尊くありますが、もはやそのような時代はありませんからね。皆さんの力を示し、眠りに返してあげるのが優しさというものでしょう」
参加者 | |
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春日・いぶき(遊具箱・e00678) |
天坂・新九郎(医殺一如・e11888) |
王生・雪(天花・e15842) |
御船・瑠架(紫雨・e16186) |
ヒューリー・トリッパー(笑みを浮かべ何を成す・e17972) |
九十九折・かだん(ヨトゥンヘイム・e18614) |
セレティル・ルミエール(閉ざす閃光・e25502) |
左文字・小夜(小夜の白刃・e29186) |
●
激しく雨の降りしきる夜。
車すら走ることのない雨音に沈む街を、ゆっくりと歩いていく一団があった。
ある者は和傘をさし、また別の者は編み笠を被り、ビニール傘やレインコートといった思い思いの雨具を使い、皆同様に防ぎきれない雨に濡れている。
腰に下げられた明かりが雨粒に反射し、闇の中彼等の歩む道を照らす。
雨に煙る視界の先、この土砂降りの雨の中、番傘をさし誰かを待つように橋の欄干に身を預ける人影が一つ。
その人影はやってくる一団に気づくと、視線だけをそちらに向けた。
「おや、こんな雨の夜に大所帯で」
楽しそうに弾むその声は女性のもの。彼女はどこか眠たげな目を細め、一団をじっくりと眺める。
「さてさて、自分たちは、お目に適いますかな?」
ビニール傘をくるりと回し、ヒューリー・トリッパー(笑みを浮かべ何を成す・e17972)はぼさぼさの髪の下から、女性と視線を合わせた。
すると女性は驚いたようにほうと頷き、口を開く。
「後世の世に名が伝わるだけ上等と思っていたが……主ら私と刀を交えたいと申すか」
カラカラと笑う彼女に対し王生・雪(天花・e15842)は、真剣な表情で傘をたたみ一歩前に進み出る。
「私は王生雪……これでも貴方と同じ、剣の道を志す者に御座います。未熟なれど、身命賭して挑む所存――真剣勝負を、願えますか」
笑い声を止めた女性は、傘を持たぬ手を唇に当て、ニヤリと笑みを形作る。
「そう畏まるな、語るよりも刃を重ねる方が伝わることもある」
雪だけでなく腰に刀を提げる天坂・新九郎(医殺一如・e11888)や、御船・瑠架(紫雨・e16186)、春日・いぶき(遊具箱・e00678)にも視線を投げ、彼女は同意を求めるかのように、カクンと首を傾げる。
「同意見です、どうにも噂を聞いたときから貴方のことを他人のように思えない」
和傘を傾け、逆の手を鞘に置きつつ瑠架が柔らかい笑みを向けると、女性の方は小馬鹿にするような笑みをつくり、鼻を鳴らす。
「かっこいい女性だな……」
そんな二人のやり取り、というよりも、瑠架の方に目を奪われていた左文字・小夜(小夜の白刃・e29186)の呟きは雨音にかき消され、誰一人彼女の勘違いには気づかない。
「君達も……で間違いないかな?」
女性が、刀を持たない九十九折・かだん(ヨトゥンヘイム・e18614)とセレティル・ルミエール(閉ざす閃光・e25502)の方へと視線を投げ問いかける。
セレティルが周囲の刀を持つケルベロス達の手元に視線をやりつつ、どこか気まずそうに視線をさげ多野に対し、かだんは対照的に女性と目をあわして睨み返す。
「不満か?」
「いや」
「だろうな」
短いやり取り、だが女性はそれでかだんに興味を惹かれたのか、笑いつつ傘をたたみ欄干にたてかける。
「主は物の怪の類か?」
「似たようなもんだとしたら」
「私の技が人意外に効くのかどうか、少なからず興味はあるぞ」
楽しそうな女性と裏腹にかだんのほうは呆れたような溜息を吐いて、両の脚に力を込める。
火勢を弱めていた地獄が燃え上がり、雨粒は触れた先から白く闇の中へと立ち上る。
「愉快、痛快、あの夜を思い出すようだ」
よどみのない動作で女性は剣を抜き、鞘を捨てる。はじめからこの刀が帰る場所などないとでも言うかのように。
「感謝せねばならんな、再びこのような場へと私を導いてくれた少女には」
剣客の女性は刀を脇に構える。ケルベロス達もまた傘を置き雨にうたれながら、各々の得物を手にした。
●
「遠慮はいらぬぞ」
女性の視線をうけ、セレティルは一瞬その身をびくりとはねさせつつ、一度深く呼吸をし、瞬き一つをはさみ普段どおりに構えを取る。
「誰から来てもいいし、同時でもいい」
一歩滑る様に踏み出し女性が呟く。対して瑠架がまず一人踏み出した。
彼の構える刃の色は黒く、その周囲に渦巻く霊魂は周囲に禍々しい気を振りまいている。
「やはり、見えますか」
「好き好んで見たくはないがな」
「手厳しい、貴方と同じく武器に拘りをもたないだけですよ」
「生憎と外法に手を染めるのは剣術の域ではないのでな」
男性を装った剣客と、女性と見紛う美貌をもつ剣鬼。どこか似ている二人は向き合い互いの隙を伺う。
二人は己が剣に自らを映し、雨の中をかける。
なんの衒いもない瑠架の上段からの一撃。
基本であるからこそ互いに誤魔化しの効かない実力が如実に現れる一手。それを女性は構えを崩さぬまま、強く一歩を踏み出し、足元の泥水を跳ね上げ目くらましとしやり過ごす。
彼女からすれば相手は一人ではない、故に一人と全力を持って斬りあうわけにはいかない。
視野を広く保つべく、一歩下がった彼女に対し、今度は新九郎が正面からしかけた。
左手で抜き放つ、横一閃の太刀筋。
それを下から打ち払うように剣客の刀が跳ね上がる。
「……其処がお留守だな?」
口の中で呟くと同時、新九郎は手首を回し、切っ先を敵の無防備な足元へと落としその足首を切り裂こうとする。
しかし、その切っ先を、見当違いな方向へと振られたはずの女性の刀が受け止めていた。
新九郎同様に刀の軌道をかえ、地面に突き立てるようにして彼女はその一撃を防いでいた。
その対応に寡黙な彼の口の端が僅かにつり上がる。二人が交わす一瞬の視線、同じ感情を互いの目に見た二人は視線を外し、同時に飛び退る。
そこに雨を切り裂き、飛来する二筋の剣閃。
ヒューリーの放ったそれを切り上げ二回で弾き、脚を止めた彼女に対し、雪が迫る。
「良い夢を」
呟きともに、雨の中舞うはずのないない胡蝶が踊る。
咄嗟に女性の振るう刀はそれを切り落とす、ありえないモノを、危険と判断し、体が勝手に反応していた。一時とはいえ、それに目を奪われた彼女の目前に雪の振るう白刃が迫る。
引き戻した刀でその斬撃を弾き返すものの、新九朗とヒューリー、さらには雪の攻撃を立て続けに受け止めた刀は、半ばから折れ、その切っ先は地へと突き立つ。
しかし、女性は笑う。楽しくて仕方がないとばかりに、折れて半端になった刀を捨て、後ずさる彼女にいぶきの投射したカプセルが迫る。
それは彼女の間合いへと入った瞬間に、真っ二つになり地に落ちて飛沫を上げる。
女性の手の中には先ほどのものとは違う新たな刀が一振り。真新しい刃が雨に濡れ、機械的な光源の光を受け、怪しく輝く。
「実にいい夜だ、なぁ、そう思うだろう? 次は主か? それともそっちの小娘か?」
雨に濡れた黒髪をかきあげ女性は楽しそうに、かだんを見、次にセレティルへと視線を移す。どちらでもいい、二人同時でもいい、早くかかって来い。そう、いいたげに笑い、刀を構える彼女に対して、セレティルは小さく首を振る。
「まだ、わたし達の出番じゃない……」
「だな」
雨粒が光を乱反射するのとは違う、光り輝く銀の粒子がケルベロス達を包みこみ、その感覚を鋭く、強くする。
「言いたいことがあるなら、ぶつけてこい」
かだんが後押しするように言うと同時、小夜がレインコートを翻し剣客へと切りかかる。
●
緩やかに雨を弾き、弧を描いた切っ先が剣客の脚を浅く凪ぐ。
「お前は夢喰い、伝承の剣客本人じゃない、けど、言わせて貰う」
そのまま背後まで切り抜けた小夜はすぐさま振り返り、剣客を見据えて、口を開く。
「お前は武の正道から外れた、それがわたしには許せない」
刀を振り、納刀した小夜は今度は居合いの体勢をとって、敵の隙を伺う。
そんな小夜に対し、剣客は呆れたように肩に刀の背を乗せこれ見よがしに溜息を吐いてみせる。
「元より人を殺すための武に正も邪もなかろう。それこそ今のお飯事の道のほうが余程本来の道からずれているのではないのか?」
馬鹿にする態度を隠しもせず、彼女は続ける。
「それともなにか、守るため、正義のために振るう自分の武は正しいとでも?」
やれやれと首を振り、肩に乗せた刀を下ろし、その切っ先を小夜に向けて、その剣客は言う。
「お前が何か理由をもって剣を振るうように、お前の前に立つ者もまた己の正義によって剣を振るうことを忘れない事だ」
小夜は納得いかないといった様子で強く彼女を睨みつけるものの、その視線を踏み出した瑠架が塞いでしまう。
「そう、殺しに流儀など必要ない。斬ってしまえばそれでお終いなのですから」
同意し瑠架は笑みを浮かべる。
この場に集った者達にもそれぞれ彼女の言葉に思うことはあるだろう。同じ剣を扱うものでも、新九朗は黙し、雪はただ真っ直ぐに、彼女の挙動をただしっかりと見、ヒューリーは曖昧な笑顔を浮かべる。帯刀しつつもそれを抜くそぶりを見せないいぶきだけは、傘の下から仲間達の表情をみつめている。
「さて、それじゃあこちらからも、いかせて貰おうか」
ゆらりと、彼女の体が雨の中に霞む。
飛沫の立つ音に右を向けば、その体は左に、刃の輝きを辿れば既に背後に、捕らえようのない斬撃がケルベロス達を襲う。
「なるほど、いい技です」
その姿を、目で、耳で追うことを諦めたヒューリーは、紫色の刃を抜く。
右と見れば左、前と見れば後ろ、敵は常に裏をかいてくる。
「ですが、攻撃の邪魔はさせませんよ」
ならば、攻撃の範囲を絞らなければいい。当てもなく彼が前方に振るった刃は砕け散り、無数の礫となっり、四方に散る。それは背後に迫っていた、剣客の体を貫き、その体を蝕む。
足を止めた剣客の体を新九朗の炎を纏う蹴りが襲い、たまらず彼女が退く間に、いぶきの放る薬液が雨に混じり、仲間達の傷を癒す。
●
雨の音、濁流の音、それらに混じり時折響く、剣戟の音。
剣客が刀を振るうたび、血が噴出し、雨に流され消える。その度に、いぶきの治療が傷を癒し、かわるがわるに、ケルベロス達は剣客と雨の中飛沫を上げて踊る。
新九朗の刃が彼女の髪を斬り飛ばし、肩口に刀身を埋め、雪の放った突きが彼女の脇腹を抉る。退こうとした剣客に、小夜の追撃がその腕を薙ぎ、彼女は取り落とした刀の変わりをどこからともなく取り出すと、再び握りなおし、向かい来る剣先を捌き、切り替えし、ただ、笑う。
「延々と切り結ぶのも楽しくはあるが……」
弧を描く太刀筋、身を回し、流れるような横薙ぎの一閃が雨を切り裂き、続けざまに上段からのうちおろし。
「真剣勝負に、それは野暮というものじゃあないかな?」
ケルベロス達の目の前から突如彼女の姿が消える。よどみのない連撃が断絶するように途切れたかと思うと次の瞬間には女性の姿はいぶきの目の前。
脇腹から肩口までを切り上げる一閃を、咄嗟にいぶきは傘を捨て、鞘から僅かに抜いた刀で斬撃を受ける。
「抜くがいいさ何を我慢する? 欲を抑えるなど無駄なことだ」
雨音にかすれそうな甘い、囁き。
至近で見詰め合う二人を引き離すかのように、飛び込むかだんに対し、女性は剣を一振り。
それにあわせてかだんは左腕をあわせ、その刀身を躊躇なく握りこむ。指が飛ばされなかったのは雲よさか、あるいは女性の動揺か。どちらにしてもかだんは気にしない、ただ握りこんだそれを引き寄せ、雨に濡れる冷たい空気を腹いっぱいに吸い込む。
咄嗟に女性は刀を手放し離れようとするが、既に遅い。
「ーーーーウ"ゥルルォ"お"オ"オ"アア"ァ"!!!!!!」
雨音を、濁流の音を飲み込む、獣の咆哮。それは、かだんの腹の奥、地獄からの呼び声。
至近からその音をぶつけられた女性はたまらず両の耳を塞ぎ、跪く。
セレティルの武装が水溜りに落ち、飛沫を上げ、変わりに彼女の体は高く舞う。
体を捻り、力をため、正面から敵に迫るその実直な技は平時であれば避けることは用意であっただろう。しかし、武器を手放し、跪く剣客にその攻撃を避ける術はない。
「――諦めて」
速度に自重、そして遠心力を乗せ、蹴り下ろす一撃が剣客を水溜りへと沈める。
●
「雨の夜の争いは、血が止まらねえからさあ……変に昂ぶって、良くねえな」
だらだらと自らの手から流れる血を眺めつつ、拾い上げた刀をまるでお菓子のようにかだんは噛み砕く。
しかしどうやら味はお気に召さなかったのか、口に含んだ分を咀嚼し飲み込むと、残りは放り投げて、視線をゆっくりと起き上がる剣客のほうへと戻す。
撫で付けるように髪をかきあげる彼女の顔は相変わらずの笑み。邪気一つないその笑みは、それ故に彼女の異常性を引き立てている。
「あぁ……ずっとこの夜が続けばいいのに」
新たな刀を手に立つ彼女の体は気づけば傷だらけで、そこかしこからモザイクが覗いている。
「この名を轟かせることは叶わなかったが、よい夢であった。あの子には礼を頼むよ」
「偽者の癖に」
「そうだな、だが、この感情は私のものだ」
小夜の言葉に、そう返して彼女は刀を構える。
「あなたの名は私が語り引き継いで差し上げます、だからどうか安らかに」
瑠架が同じ様に構えると、剣客は声を出して笑う。
「あんたの刀についてやるのも、面白そうだねぇ」
嘘か真か、へらへらと言いながら、その目を細め。
両者の体がゆらりと揺れた。
雨に霞む視界、揺れる電灯の明かりが互いの刃の軌跡を闇夜に描く。
交差の時は一瞬。翻る軌跡は五つ。
切り抜け、背を向け合う二人。
共に振り返ることはなく、雨の中に剣客の姿は消えていった。
●
止むことのない雨をケルベロス達は橋の下から眺めていた。
大半がすっかりと雨に濡れる中、被害者である少女はそこで気を失っていたお陰か、あまり濡れたようすはない。
「どうぞ」
雪のいれた暖かなお茶をいぶきから受け取った少女は、それをに口をつけほっと息を吐く。
既に事情の説明も終え、戦いの跡も全て片付いている。
疲れからか、泥のように眠る小夜にセレティルが膝を貸し、雨の向こう、迎えが来るのを彼らはいっていた。
お茶を飲み干し、心なし頬を赤くしつつ少女は、布袋を抱きしめ、ケルベロス達の方をゆっくりと見回す。迷惑をかけてしまった、申し訳ない気持ちも彼女にはあった、でもそれよりも彼女の心を大きく占めるものがあった。
立ち上がった彼女は、すぅっと大きく息を吸う。
「いつか私が、あんたら一人一人負かしてやるからな!」
誰一人として予想だにしなかったその言葉を大声で発した彼女の目は本気であった。強くあり、高みを目指し、憧れるものの名を、より確かにするために。
驚くもの、楽しそうに笑みを浮かべるもの、無言でただその顔を見つめ返すもの、様々な反応を見せながらも誰一人として彼女のその言葉を馬鹿にするものはいなかった。
「同じ剣の道を志す者として、いつでもお待ちしています」
雪の言葉に、深く頭を下げた少女は、顔を上げたかと思うと、激しく振り続ける雨の中へと傘も差さずに踏み出していく。
カラカラと楽しそうに笑う声が、雨音に混じり聞こえた気がした。
作者:雨乃香 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年9月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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