虹の下には宝物が眠っている

作者:白鳥美鳥

●虹の下には宝物が眠っている
「ここかあ。確かに、綺麗な虹が架かっているなあ……」
 麻耶は滝の中に現れる何重にも重なる虹を見ていた。
「空に架かる大きな虹じゃないけど……これだけ沢山の虹があれば……どこかに足元があっても可笑しく無い筈……」
 麻耶は滝から落ちる輝く水を見ながら、小さな虹を一つ一つ見ていく。
「……虹の足元、かあ。宝物……何が埋まっているんだろう? 別に凄いものを期待している訳じゃないんだけど……綺麗なものだったら良いよね」
 何重にも架かる虹を一つ一つ見ていく。
「うう~ん。これは足元を探すのにも一苦労しそう、かも……」
 そんな勇人の前に第五の魔女・アウゲイアスが現れた。彼女は手に持った鍵を麻耶の心臓に目掛けて一突きにする。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 崩れ落ちる麻耶から、銀のティアラの様なドリームイーターが現れたのだった。

●ヘリオライダーより
「虹って綺麗だよね」
 そう言ってから、デュアル・サーペント(陽だまり猫のヘリオライダー・en0190)は、事件の概要を放し始めた。
「不思議な物事に強い『興味』を持って、実際に自分で調査を行おうとしている人がドリームイーターに襲われて、その『興味』を奪われてしまう事件が起きてしまったみたいなんだ。この『興味』を奪ったドリームイーターは既に姿を消してしまっているみたいなんだけど、奪われた『興味』を元にして現実化した怪物型のドリームイーターが事件を起こそうとしているみたいなんだよ。だから、みんなには被害が出る前にドリームイーターを倒して欲しいんだ。それから、このドリームイーターを倒す事が出来たら、『興味』を奪われてしまった被害者の人も目を覚ましてくれるから、心配しなくても大丈夫だよ」
 デュアルは続ける。
「場所は虹がよく架かる滝の傍みたいだね。虹自体はそう大きく無いみたいなんだけど、何重にも架かっているみたい。結構、綺麗な場所だと思うよ。で、この怪物型のドリームイーターなんだけど、銀のティアラの形をしているみたいなんだ。ちょっと変わっているよね。で、このドリームイーターなんだけど、『自分が何者か?』って聞いて来るらしい。それで正しく対応出来なかったら、殺してしまうみたいなんだ。でも、このドリームイーターって自分の事を信じていたり、噂をしている人がいると、その人の方に引き寄せられる性質があるみたいだから、上手く誘いだしたら有利に戦えるんじゃないかな?」
 最後にデュアルはケルベロス達に激励を送る。
「銀のティアラのドリームイーターってちょっと変わっているよね。でも、綺麗で素敵なものだと思うんだ。そんな綺麗なものがドリームイーターになっちゃうなんて哀しいよね。だから、みんなの力を貸して欲しいんだ。応援しているから、頑張ってね!」


参加者
稲垣・晴香(伝説の後継者・e00734)
芥川・辰乃(終われない物語・e00816)
霖道・悠(黒猫狂詩曲・e03089)
ヴェルセア・エイムハーツ(無法使い・e03134)
ジエロ・アクアリオ(贖罪のクロ・e03190)
遠之城・鞠緒(死線上のアリア・e06166)
ファニー・ジャックリング(のこり火・e14511)
エドワウ・ユールルウェン(夢路の此方・e22765)

■リプレイ

●虹の下には宝物が眠っている
 その場所は不思議な場所だった。大きな滝の中に何重にも重なる虹。誰でも心を奪われる光景ではないだろうか。
 最初は念のために、ヴェルセア・エイムハーツ(無法使い・e03134)が殺界形成を使い、芥川・辰乃(終われない物語・e00816)は念のために自ら人がいないかどうか確認をする。どうやら人はいないようだ。これなら、安心して戦うことが出来るだろう。
「おー。凄ェ、綺麗。こんな場所、在るンだ。虹の下には、宝物。ね、その人によって。宝物、て。違ェンだろーケド、夢。が、有る、ね」
 滝に架かる虹を見ながら、霖道・悠(黒猫狂詩曲・e03089)は、そう零す。
「あんなに美しい虹ですもの、きっとその足元には夢のような宝を隠しているのでしょうね」
 ロングケープ姿の遠之城・鞠緒(死線上のアリア・e06166)も景色に心を奪われた。
「いいわね、虹の袂の宝を求める夢。まぁ、私の『プロレスで宇宙一になる』夢には少し及ばないけどね?」
 稲垣・晴香(伝説の後継者・e00734)は、自信を持った顔でそう言った。そう、彼女の夢は叶えるもので、求めるものではないのだから。その証拠なのか、彼女は愛用の真っ赤なリングコスチュームを身に纏っている。
(「『お宝』って言葉には確かにロマンを感じるガ……俺が欲しいのはカタチのある黄金ダ。さすがに夢物語を頭っから信じられるほどロマンチストじゃねぇんだヨ」)
 ヴェルセアの考えはとても現実的だ。彼が怪盗スナークを名乗る泥棒だからこそ、形のあるものの方こそ価値がある。
 それぞれの想いはあるけれど、今回はドリームイーター退治である。
 エドワウ・ユールルウェン(夢路の此方・e22765)から、噂話の口を切った。
「虹の絵本をよみました。 虹のしたにはとてもすてきなたからものがあるって、かいてありました。ほんとうに、あるのかな?」
 可愛らしくのんびり話すエドワウに、ファニー・ジャックリング(のこり火・e14511)が相槌を打つ。
「へー、面白えなそれ。もっと詳しく聞かしてくんね」
 ファニーの意図は、今、興味を持った、そんな風に演出するため。
 それに合わせてジエロ・アクアリオ(贖罪のクロ・e03190)が続けた。
「虹のたもとには何があるのかな。虹色の橋の下、となると少しわくわくしてしまうよね。ねえ、悠?」
 ジエロに話を振られ、悠はこくりと頷く。
「虹が綺麗なのは宝を守っているからなんですね。憧れの王妃の肖像画に描かれたようなティアラや首飾り……。ふふ、大好きな作家の稀覯本なんかもわたしにとっては宝物かもしれません」
 鞠緒はうっとりと、そう語る。
 彼女の言うとおり、虹の下の宝物は、実際の所、どういうものかは分からない。それは、所謂、金銀財宝なのかもしれないし、見つけたその人にとって、とても価値があるものなのかもしれない。その尺度は分からないけれど。でも、素晴らしいものなのだろう。
 そこに現れるのは、煌めく銀のティアラ。ティアラはケルベロス達に話しかける。
「私が何者か、あなた方には分かりますでしょうか?」
 ティアラらしく、上品な問いかけにケルベロス達は答える。
(「それにしても自分が何者か、か。自分は自分でしかないと言うのに、ね」)
 ジエロはそう思うが、敢えて答えない。仲間たちにその答えを委ねるために。
「銀のティアラ、たからもの。プリンセスになりたいって、夢……かな?」
 エドワウは、首をかしげてそう答える。
「……」
 逆に、悠はその問いに上手く答えることが出来ない。まるで自分の事を見つめ返す、そんな嫌な行為へとなってしまいそうだから。
「自らが何者か? それはきっと、私も抱えている悩みで。ただ、貴方が虹の根元に関する興味から生まれたものならば、おそらくきっと『夢』なのではと。少女たちがかつて、そして今も虹の根元に抱いている夢のカタチ。ティアラという宝物そのものか、ティアラをつけるお姫様を意味しているのかまでは判りかねますが」
 辰乃の言葉は、ドリームイーターへの問いかけに近い。その問いかけにティアラの方も少し困っているようだ。恐らく、それは正解に近く、正解とも判断が出来ない。このドリームイーターの求めているものに近く、また遠いような気がしたからなのかもしれない。
 そんな、戸惑うドリームイーターに晴香が宣言する。
「貴方にとっての貴方自身? それは私は知らないわ。私にとっての貴方なら……『夢に迷った夢追い人』と言ってあげましょうか?」
 そう言うと、晴香はドリームイーターへと走り出した。

●銀のティアラ型ドリームイーター
「私は、宇宙一のプロレスラーになる女、稲垣晴香! 貴方の夢を、導いてあげるわ!」
 晴香はドリームイーターへと魅せる降魔のキックを放つ。
「夢見がちなバカの尻拭いをさせられル鬱憤、テメェで晴らさせてもらおうカ」
 ヴェルセアは鋭いナイフに依り、激しい返り血を浴びるほどの一撃を与えていった。
「興味とは、人を人たらしめる行動力の源です。返してもらいますよ、命ごと」
 辰乃はボクスドラゴンの棗とアイコンタクトをとる。それに棗は頷いた。それを確認すると、渦巻く炎をドリームイーターへと放つ。棗は鞠緒の護りの力を高めていった。
「銀のティアラは夢溢れる物だと言うのに。こう人に害及ばす物になると悲しいね。ほら、悠。一緒に頑張ろう」
 ジエロの言葉に、悠は不機嫌な視線を返す。それにジエロは微笑んだ。
「ふふ、子供扱いはしていないよ」
 そう言うと、ジエロは大きく息を吸ってからドリームイーターへと炎のブレスを放つ。彼のボクスドラゴン、クリュスタルスはドリームイーターへの攻撃に備えて動きを見つめた。
「ノア、行くヨ」
 悠の言葉に、黒きボクスドラゴンのノアールは頷く。悠の作り出す雷の障壁はヴェルセア達を包み込む。それに続きノアールはファニーへと闇の力を送って護りを固めた。
 銀のティアラのドリームイーターは美しい輝きを放つ。吸い込まれるような美しい輝きは悠の目を奪おうとする。それをクリュスタルスが庇った。
「クリュ、助かった、よ」
 悠がお礼を言うと、その姿をジエロは微笑んで見ていている。
「うっし、気合入れてこーぜ」
 ファニーは銃を構えると、晴香達に空の銃倉へと闘気を込めて力を奮い立たせるように撃ち放った。エドワウは、その力を受けながらドリームイーターへと突っ込む。彼のボクスドラゴンのメルは、回復役の悠の元へと飛び、彼へと加護の力を送りこんだ。
 鞠緒は羽織っていたケープを取り去る。その姿はティアラを頭に載せれば完成といった雰囲気の青いドレス姿。その傍にはウイングキャットのヴェクサシオンが控えていた。虹色の翼を広げながら彼女は歌う。そして魚の形のブラックスライムを使ってドリームイーターを捕えようとするが、ティアラは軽く身を翻した。
「……これは、命中率が悪いようですね」
 動きが素早いとの事だったが、確かにかわすのは上手そうだ。ヴェクサシオンの方は辰乃達へと加護の力を送りこんでいく。
「出来る限り足止めしないといけないわね」
「そしテ、速攻だナ」
 晴香とヴェルセアが構える。ドロップキックを思わせる晴香の輝く蹴りとヴェルセアの漆黒の闇がドリームイーターを貫いた。
「とにかく、動きを封じなくてはいけませんね。棗、補佐をお願いします」
 そう言うと、辰乃は煌めきを伴う蹴りをドリームイーターへと放ち、棗はブレスを吐く。
 ドリームイーターは回転を始める。周囲の虹の光を伴って不思議な世界を醸し出していた。それは虹の翼をもつ鞠緒へと向かっていく。
「危ないです……!」
 攻撃を受けようとしている彼女をエドワウとメルが共に盾になって庇った。
「ありがとうございます」
 鈴の鳴る様な声で鞠緒はエドワウにお礼を言うと、ドリームイーターを見据えた。
「これは、あなたの歌。懐い、覚えよ……」
 鞠緒はドリームイーターに向かって手を伸ばす。そこから生まれた本から本当に求めていた筈のものを歌い聞かせ想いを馳せさせ、動きを鈍くさせていった。
「ン、ちゃんと、守る、から」
 悠はエドワウ達へと雷の障壁を創り上げて身体を清めていく。更にノアールが闇の力を用いてエドワウの護りを高めた。
「悠も頑張っているね。私も負けないようにしないと」
 ジエロは白黒の蛇と水瓶の杖を小動物へと変えるとドリームイーターへと向けると放つ。続き、ファニーがガトリングガンを使って大量の弾丸を連射して燃え上がらせた。
 流石に疲れてきたのか、ドリームイーターは銀色の光に包まれていく。
「今頃回復したって無駄よ!」
 晴香が鋭く突く。それが、ドリームイーターの動きを止めた。
(「回復されたって事は、大振りになる攻撃は駄目だナ。となるト……」)
 ヴェルセアは動きが一旦止まったドリームイーターの死角を突き、バンカーの徴収を仕掛ける。それは、不条理な高利貸の技。
「力を……封じます。皆さんの為に」
 辰乃は精神を集中させる。そしてドリームイーターを爆破した。
「さあ、次はあんた達の番だぜ」
 ファニーの闘気を込めた銃弾が辰乃達へと向かって打ち放ち、その攻撃力を高める。
「ノア、回復、任せる、よ」
 ノアールに回復を任せた悠は、動きの素早いドリームイーターへの足止めにかかる。ノアールは、その言葉に従って再度、エドワウの回復へと向かった。
「にゃあ、お」
 ちりんと鈴が鳴き、幾重もの陰、黒が百猫夜行の様を成す。そして、彼らはドリームイーターを踏み潰していった。それに続いて、ジエロの杖から無数の魔法の矢が続けて放たれる。
「鞠緒さん、サポート、おれもしますね」
 まずは、メルがドリームイーターへと向かってブレスを吐く。受けた所をエドワウの放つ漆黒の闇が捕えた。
「皆さん、ありがとうございます」
 サポートを受けた鞠緒は、鈴の音のような声でそう答えると、現時点で最も当たりやすいファミリアを使ってドリームイーターへと撃ち放った。ヴェクサシオンも一緒にドリームイーターを思いっきり引っ掻く。
「さア、終わりの時間だゼ」
 隙を突いてヴェルセアのナイフが容赦なく切り刻み、返り血がヴェルセアを染めていく。
 ドリームイーターは最後の力を振り絞るように、銀に反射する虹で回転しながら晴香に襲い掛かってきた。それをクリュスタルスが庇い、晴香もそれを受け止める。
「どんな巨体でも、非実体でも知ったことじゃないわ! 私の投げから逃げられると思ったら、大間違いよ!」
 ドリームイーターの重心を崩し、左後方から抱え込み背筋で後方へ大きく反り投げ叩き付けた。『プロレスラー』稲垣晴香必殺のフィニッシュホールドだ。
 その攻撃を受けたドリームイーターは、綺麗な銀の吹雪をまき散らして消えていった。

●虹の滝の下で
 折角、美しい場所なのに傷ついてしまった場所を綺麗にヒールで直す。
 そして、直しているときに被害者の麻耶を見つけて、ウィッチドクターの悠とジエロが二人がかりで治療し、無事に回復してくれた。
 虹の綺麗な滝のほとりに鞠緒がピクニックセットを広げる。美味しい紅茶にお菓子、エドワウの持ってきたパンプキンパイが並ぶ。ヴェクサシオンも気持ちよく、丸まっていた。
「こんにちは、プロレスラー……ケルベロスの稲垣晴香よ♪」
「プロレスラーでケルベロスさんなんですか? そういえば、素敵な衣装……リングコスチュームですか?」
「そう『プロレスで宇宙一になる』っていう夢があるの。もしよかったら、貴方の夢を聞かせて貰える?」
 晴香と麻耶は話が弾んでいるようだ。
「もしよろしければ、どうぞ」
 鞠緒は皆に紅茶を勧める。虹色の宝石みたいな金平糖も一緒に。
「紅茶、とても美味しいね。景色もとても綺麗だし」
「そんな、の、分かって、る」
 ジエロの言葉に悠は、ふいっと横を向く。一方のノアールとクリュスタルスは、仲が良さそうに遊んでいた。
 エドワウはパンプキンパイをメルと半分こして、美味しく食べている。メルが急いで食べてエドワウは面倒を見ている姿を、皆が微笑ましく見ていた。
(「『この美しい景観が何よりの宝物』ってやつかァ……? 俺ぁもっと実利的な価値のあるモンが欲しいんだがナ」)
 虹の景色を見ながらヴェルセアは鞠緒に声をかける。
「俺にも一杯、淹れてくレ。言っとくが味にはうるさいゼ?」
「はい、どうぞ」
 鞠緒が淹れてくれた紅茶を受け取り、息をつく。英国出身のヴェルセア。何だかんだ言いつつも、この景色と紅茶を楽しむのも悪くはない。
 辰乃も虹を見上げている。かつて自分が抱いていた夢を思い出す様に。
(「私の夢は、今此処になく。されど、まだ見ぬ虹が伸びた先……いずれどこかで再会できるでしょう」)
「たからものってきっと、想像力――夢見るこころ、じゃないかしら」
 鞠緒はそう思う。みんなの胸に虹がかかるのを幻視する、そんな風に。
 ファニーは、そんな仲間達を眺めて穏やかに笑っている。
(「虹が世界の何処にでも架かるもんなら、どんな場所にだって宝が眠ってるってことだよなー」)
 そんな事を思ってファニーは照れ臭そうに。
 それでも……この虹が幾重にも架かるこの幻想的な場所には……何かがあっても可笑しくないかもしれない。それが宝物ではなくとも――。

作者:白鳥美鳥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 0
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