残響

作者:ふじもりみきや

「この体が、地球でもっとも我々に近いものなのか。高い生存能力と適応性は、確かに我々に近いであろう。我らローカストは、生存に必要なグラビティ・チェインは非常に少ない。故に、収奪するグラビティ・チェインは一人分で十分である。我々に捧げるグラビティ・チェインを一人選べ、そうすれば、残りのものは逃がしてやろう」
 この中から誰かひとり死ぬべき人間を選べ、と言われた時、砂子はああ、自分になるんだろうなとぼんやりと考え、そして当然のごとく手を挙げた。
「……私が。瀬尾、みんなを連れて外に出て。この人の気が変わらないうちに、急いでください」
「部長……」
 副部長は何とも言えない顔で砂子を見ていたが、そうすると思っていたのだろう。彼は頷いて部員を取りまとめて出ていった。砂子は只その昆虫人間を見つめて動かなかった。
 何人かが、承知できない、というような顔をしていたが、誰も何も言うものはなかった。……当然である。だったら代わりに自分を殺せ、などと唯の高校生に言えるはずもない。……もちろん、戦うことも。

 砂子は関西のほうにある、古い高校の演劇部部長であった。
 周囲は彼女を物静かで優しく、しっかりしていて、困った時には頼りになる。とても素敵な人だと言った。
 彼女もまた、そのように振る舞った。本当の自分はそうじゃないと無駄に抵抗をして周囲に波風を立てる必要もない。面倒なことだって断るよりやって片付けた方が早い。
 だから、部室でゴキブリが出て、気丈夫な部員の一人が新聞紙でぶん殴った際、わけのわからぬ昆虫人間ローカストとやらがが現れて部員たちを集め先ほどのように言った時も、砂子は存外に知的な喋り方をすると驚きはしたものの、只静かにそれを受け入れていた。
 貧乏籤を引く人間を、一人選ぶなら私だ。楽しく高校生活を過ごした仲間たちの間で揉めて、押し付け合って、醜く争い合う様など見たくない。……だが。
 誰もいなくなってしんとした部室に残り、彼女は初めてかすかに震えた。徐々に胸の奥から後悔が押し寄せてきたからだ。
 争うのは、嫌いだ。
 けれども砂子は、死にたくなんてなかったのだ。


「デウスエクス、ローカストが事件を起こすようです」
 ヘリオライダーのセリカ・リュミエールはそういって首を傾げた。さらりと長い髪が揺れる。
「ローカストは、第一次侵略期には確認されていないデウスエクスです。昆虫型のデウスエクスなので、理性などは低い傾向にある筈ですが、送り込まれてくるローカストはかなり理知的に行動するようですね。おそらくは地球の情報を得る為、調査を目的として現れた……この作戦のために選りすぐられた精鋭なのだろうという予想がされております」
 そうして彼女は手元の資料へと目を落とした。今回彼らが向かうのはとある高校、その部室である。
 時間は夕刻。演劇部の部員たちは、文化祭に備えて残っていたのだけれど、ほかの生徒たちはほとんどが下校済みなので彼らの安全の確保は考慮に入れなくてもよい。
 作戦は残された一人以外の人間が建物から外に出されたところから開始するので、その人たちから内部の情報を聞き出すことができれば、有利に作戦を進めることができるかもしれない。
 また、作戦の目的はローカストの撃破なので、残された人の生死は問わない。そこまで言って、
「……出来れば、助けてあげてほしいとは思います」
 セリカは微笑んだ。『そしてもし助けることができたなら、もう少しわがままに生きてもいいのだと気づかせてあげることができたらいいのですが』と言った。話を戻す。
 舞台は学校の教室の一つだ。一階、南棟の一番角部屋。といっても空き教室なので、椅子や机はない。代わりに演劇部の大道具などがあるが、戦闘に支障はないだろう。
 廊下側に面したドアもしくは窓を破って突入するのがいいと思われる。廊下側の硝子はすりガラスになっていて、内部の状況が見えにくい代わりに中からも外の状況を伺いにくい。グラウンドに面した側の窓も使えなくはないが、こちらは普通の硝子なので中からも外からも丸見えである。
 また、ローカストは、その堅固な肉体による白兵戦用のグラビティや、体内で飼育している『アルミニウム生命体』を利用するグラビティを得意とする。特に今回の個体は、
 アルミの牙を伸ばし、敵を食い破る。
 敵に棘を突き刺し、そこから『アルミ化液』を注入する。
 腕からカマキリの刃のような鎌を展開し、敵を斬り裂く。
 以上のような行動をとることが多いらしい。
「油断のならない相手だな……。だが、負けるわけにはいかない」
 セリカの話を聞いていたセルベリアが呟く。ぽつん、という風にそう言って、確かに頷いた。
「私も共に行こう。……ただ何の罪もなく、生活を送っていた人たちが、突然その生活を奪われるなんて、あってはならないことだと思う」
 だから、どうか一緒に頑張ろうと、セルベリアもそういってぎゅっと手を握り締めるのであった。


参加者
メイア・ヤレアッハ(空色・e00218)
生明・穣(鏡匣守人・e00256)
望月・巌(巌アンド穣の無精ヒゲの方・e00281)
蛇神・優希(永久ノ泡沫・e01162)
ガル・フェンリル(螺旋授かりし真紅の狼・e03157)
天蓼・テオドシウス(勇なき獅子・e04004)
有坂・成章(酔いどれガンナー・e05483)
クァン・カスパール(ヤギ・e05854)

■リプレイ


 部室を出された彼等はグラウンドの外れの方に集まっていた。ここからはギリギリ、中を確認することは出来ないが部室の教室を見ることが出来た。
 何をすることも出来ない。けれども逃げることも出来ない。……だから、
「大丈夫かい? 皆怖かったんだろうに。もう、安心して良いよ」
 助けに来たのだと彼等が現れて、最初に生明・穣(鏡匣守人・e00256)が微笑んだとき、本当に大げさだけれども救われたような気になったのだ。泣き出す子もいてそんな彼等を優しく穣は抱きしめた。
「皆も落ち付いた行動で対応出来たのは誇って良い。泣きたければ泣けばいい。それから、今後どうするか考えよう。ね?」
 穣の相方、望月・巌(巌アンド穣の無精ヒゲの方・e00281)はそれをつかず離れずの位置で見ている。泣いている子供をあやすのは柄じゃない。
「うぅ、部長が、部長が」
「安心してください。アナタ達の部長さんは必ず連れて戻ってきます。だから、詳しい教室の様子を教えてください」
 蛇神・優希(永久ノ泡沫・e01162)が微笑んだ。彼女もまた芝居を演じる者だ。見過ごすことは出来ない。
 その笑顔に女子は一瞬、言葉に詰まる。けれども軽く首を横に振った。男の人だと思っていたが女の人だった、みたいな反応は、優希にとっては慣れたものであった。
「部長を、助けてくれるんですか?」
「勿論! わたくしたちに、まかせて! みんなも怖かったけど、もう大丈夫! わたくしたちが、ぜーんぶ解決してしまうのだから」
 メイア・ヤレアッハ(空色・e00218)がウィンクする。ぐっ。と親指立てた。言葉は明るく茶目っ気に溢れていたが何処か無表情であった。だが周囲から歓声が上がる。
「お前ら落ち着け。おい日野。部室の見取り図描け」
 副部長の瀬尾がてきぱきと美術担当の生徒を指名した。
「覚えている範囲で良いのですが、大道具は……」
 地図を見て、天蓼・テオドシウス(勇なき獅子・e04004)が尋ねた。内向的な彼の精一杯の質問であったが、帰ってきたのは沢山の子供達の期待に満ちた瞳で、思わずお家に帰りたくなったのは秘密である。
「大道具は教室の後ろの方に固めてたからよね」
「道具なんてどうでも良い。また直せばいいから……!」
 そんな彼等に、ガル・フェンリル(螺旋授かりし真紅の狼・e03157)はてし、と右手を挙げた。
「まかせて! みんなはここで見ててね。無事に終わったら、窓から手を振るから」
 絶対大丈夫! と彼女が言って、仲間達も力強く頷く。ありがとう御座います、と一斉に頭を下げる彼等に、クァン・カスパール(ヤギ・e05854)はひらひらと手を振って、
「なあにお礼は、綺麗な女の子達が俺と一緒に岩塩……」
「そろそろ時間じゃ。参ろうか」
 ナンパしかけたのを 有坂・成章(酔いどれガンナー・e05483)が止めた。彼等の要請により、照明が徐々に落ち始めたからだ。セルベリア・ブランシュ(シャドウエルフの鎧装騎兵・en0017)も小さく頷く。絶対、助けようと言った。気持ちは、他の皆と同じであった。


 一同は二手に分かれる。
「急ごう、人命が掛かっているからな」
 グラウンド側から教室に向かう巌達は慎重に歩を進める。隠密気流を使って目立たなくしていた。ガルは螺旋隠れ、成章はイシコロエフェクトなどで各自目立たない工夫をしてる。
「大丈夫、かなー……あっ」
 ガルが窓から中を覗く。丁度敵はガル立ちに背を向けていた。尻尾をフリフリさせてガルは即座に顔を引っ込める。
「今の内だ、ジョー」
「あぁ、助かるぜ。……っと」
 巌が頷く。穣は頷いて滑り込むようにして駆け込んだ。窓の真下に入ってしまえば、中から見つかることはないだろう。
「大丈夫かの?」
「……うん、ありがとう」
 同じように走るセルベリアに成章が声をかける。同じ歳の娘がいるので、つい気にかけてしまうようだ。大丈夫、と頷く彼女を成章は優しい目で見た。一見すると気の良いオッサンである。
「んじゃ……ちーっと派手に行くか」
 通話状態の電話を確認して、巌が言う。向こう側も異論がないようであった。
「りょーかい」
「それでは……」
 ガルと穣も徐に手を挙げる。窓硝子を叩き割り突入するためであった。同時に成章が立ち上がる。爆破スイッチに手をかけた。

「準備は宜しいでしょうか」
 廊下側は、優希達が待機していた。通話状態の電話から状況が流れてくる。砂子は廊下側の方が近いとのころである。
「ふはははは、もう少しだな。『助けてくれてありがとう、私、生まれる前から貴方のこと好きでした。一緒に夕陽の見える丘で岩塩を頂きましょう』とか言われるまでもうちょっとだよな!?」
「え、ええと……助けてくれてありがとう、までは、多分」
 小声でテンション上がっているクァンに、テオドシウスは途方に暮れたような顔をしていた。
「くぅぅ、だよな。それからめくるめく山羊の世界が……」
「ヤギさん、そんな素敵な未来までもうすぐですね! さあ行きましょう!」
 制止しているのか煽っているのか判別つぬメイアに思わずテオドシウスは天を見上げた。そんな彼の視線に優希は微笑んで、
「やる気があるのは……良いことですね?」
 とだけ答えるに留めた。そうしている間にもグラウンド側から戦闘開始の合図が届く。それを聞いた瞬間、彼等の空気が一変した。
「では……行きましょうか。救出劇の幕開けです」
 まるで芝居のように優希はそう呟いて、
 グラウンド側の窓が叩き割られるのと同時に教室の中に突入した。


「それじゃあ一つ、頼んだぞ!」
 突入と同時に成章が爆破スイッチを押した。カラフルな爆風が窓から突入する仲間達を照らし出す。その爆風に押されるようにして、
「さかせないよ! ……わんわんおー!!」
 吼えるような声を上げてガルが突進した。それを追い越すように穣もまたトラウマボールを作り出す。
「メイアさん!」
「はい、まかせてくださいっ!」
 穣の言葉に応えるようにメイアは駆けた。敵は攻撃を受け僅かに混乱しながらも、手元にいた砂子の腕を掴もうとして、
「ヒャッハーッ! 邪魔しちゃうぜぇ! JKはこの世の至宝! それも分からんゴッキーは去ね!」
 叫びながら突撃したクァンがその腕を蹴り飛ばした。
「さぁお姫様! 今の内に!」
 クァンが叫ぶと同時にメイアが砂子の身体を引き寄せる。
「こっちよー、急いで!」
「藍華! ……後はよろしくお願いするよ」
 声に応じて穣のウイングキャットがメイア達の元へ。メイアは砂子の手を引いて、慌てて教室から出て行こうとする。
「く……っ、邪魔をするか……!」
 口惜しげに敵もまた鎌と化した腕を伸ばす。それが振るわれると同時にテオドシウスが走った。敵と逃げる砂子の間を塞ぐようにして、巨体を生かして立ち塞がる。天地揺るがす超重力の十字斬りを叩き込んだ。メイアに向かうはずだった鎌が、割り込んだテオドシウスを切り裂いた。
「!」
 声を上げたのは砂子だった。肩越しに振り返る彼女にテオドシウスは首を横に振る。大丈夫と笑いかける。事前に聞いていた彼女の評判を思い出していた。
「砂子さん……僕の下の妹が、君と少し似ていてね。ちょっとだけ、人のために頑張りすぎちゃうんだよ。けれど周りはそういう人に、もっとわがままを言って欲しいって思ってるもんさ。君も、もう少しわがままを言っても、良いと思うよ!」
 早い口調でそう言った。砂子は目を見開いて促されて歩き出す。我が儘をと言われて、彼女は声を上げた。
「……あのっ、私、誰にも傷付いて欲しくないです……!」
「傷付くのは、私達の仕事です」
 優希は微かに口元をほころばせ、敵の前まで駆け上がる。縛霊手を手に。その蟷螂の刃を捕縛するように振り下ろした。
「それは、仕方のないこと。そして私達の誇りです。……けれども、約束します。必ず皆で無事に、この敵を倒すと」
 霊力と共にしっかりと敵を絡め取る。ボクスドラゴンの咲優も優希を守るように側に立ちながら戦列に加わった。
「邪魔なんて幾らでもしてやらぁ! 俺の本職は自宅警備員(Gun&Joe商会)。だけどそれは世を忍ぶ仮の姿。裏の顔はガンスリンガー、オタクを葬りに来た死神さ!」
 巌が銃を乱射する。銃弾は情け容赦なく、足止めするかのようにローカストとへと降り注ぐ。
「おい、ゴキブリ野郎! 俺の自宅(惑星)に土足で勝手に入った挙げ句、同胞からグラビティ・チェインを搾取するたぁあったま来たぜ! 地球人がいつまでもユルいままだと思うなよ!」
 ぐぅ、とローカストは唸るような声を上げる。そうしている間にも、メイア達は教室の外へと消えていった。
「……良いだろう。ならばまずは貴様らを八つ裂きにしてくれる……!」
 でたらめに腕を振り回す。とっさに成章が飛び込むようにしてセルベリアを庇った。
「あ……!」
「大丈夫じゃ」
 思わず声を上げるセルベリアに、成章は傷付いた腕を上げて平気だと叫ぶ。
「そんなこと、ぜーったいに、させないんだからっ! 行くよ! スパイラル……シュートッ!」
 ローカストの言葉に、ガルが吼えるように叫んだ。

「さ、ここまで来れば大丈夫。わたくしのかわりに、この子達を置いていくね」
 隣の教室まで砂子を連れて行くと、メイアは言った。メイアのボクスドラゴンと穣のウィングキャットである。
「あの……」
「怖い?」
 聞かれて、砂子は首を横に振る。
「助けていただいたのに、そんな……」
 堪えるような彼女の言葉に、メイアはぎゅっと彼女を抱きしめた。
「怖かったね、もう大丈夫だよ。……精一杯頑張ったねっ。大丈夫、みんなああ見えて強いから。あなたが落ち着くまで、わたくしが傍にいるわ。怖さも悲しみも、わたくしに半分くれていいのよ?」
「っ、でも……」
 言葉に詰まる砂子の背を、メイアは優しく叩く。すると自然と涙がこぼれた。手伝いに来ていた奏多が、ここは俺が見ていようと申し出る。
「大丈夫だ。誰も死なない。他の生徒も、アンタも、俺達も。貧乏籤を引いたとしたら、そりゃあ、あのデウスエクスだろうさ」
 二人の言葉に、砂子は頷いた。漸く、助けが来たと実感したのだ……。


「さぁ、死ぬほど俺に痺れていってもらおうか! ンメェェェェェェェェ!!!」
 何かもの凄く格好いいことを言いながらもクァンは長い長い舌で敵を拘束する。
「メェェェェェ!! メェッ! メェェェェェ!! メッ! メッ!」
 でも本当に巻き付くならJKに巻き付きたかった! と内心叫ぶような必殺技であったがそれはともかく身動きがとれなさそうなローカストに、
「こちらですよ?」
 するりと優希はファミリアロッドを翳す。大量の矢を一斉に発射すると、ローカストは刃と化した腕をぶんと振り回した。
「この……!」
「咲優!」
 主を庇うようにして攻撃を受けるボクスドラゴン。優希はぐっとローカストを強い視線で見つめる。
「隙……あり!」
 テオドシウスがローカストの背後に回り込む。脚を上げようとしたとき、察したのか敵も振り向いた。
「!」
 だが、テオドシウスの方が一歩早い。全力で流星の煌めきと重力を宿した跳び蹴りが炸裂する。
「……君は、とても強そうだね。目的以外の被害は出そうともしないし、頭も良いんだろう」
 蹴りは見事炸裂して、身体の何処かが砕けるような音がした。テオドシウスは即座に着地して再び戦闘の態勢を取る。
「だけど今は、僕の後ろに守らねばならない命がある。そしてその子を助けられるのは、僕達だけ……。こういう時の、僕は強いぞ!」
 先程までの頼りなげな様子は何処へやら。テオドシウスはあらん限りの声で叫んだ。遠くで震える砂子にも聞こえるぐらいに叫んだ。守りたい人を守りきる力を得るために。
「皆若いの。良い良い」
 その声を聞いて成章は笑う。伸ばした手にはケルベロスチェインが握られていた。
「真っ直ぐに叫べるのは、若さの所為かのう。ワシにはちぃと、眩しい気もするが……」
 鎖がローカストを締め上げる。それで動きを封じて成章は声をかけた。
「若いのを助けるのもワシらの使命! 嬢ちゃん!」
「……あぁ、私も……!」
 続くと、セルベリアがナパームミサイルをばらまく。その炎の隙間を縫うように巌は動いた。自然と敵を狙いやすい位置を探し、
「……何でかここになるんだよなぁ」
「ん?」
 穣のすぐ近くに収まるのであった。穣は肩を竦めて、
「私も君の隣が最も力になると言うことを、信じているよ」
 信じる心を力に変えて、なんやかんやで出来た魔法の力をローカストに叩きつけた。
 仲間達の総攻撃を受けて、ローカストはぼろぼろであった。それでもしぶとく立ち上がっている彼を、テオドシウスは十文字型に切り裂く。
「悪いけれど……このまま、倒れて貰うよ。君には君の事情があるかも知れない。けれども、僕達も、僕にも、大切なものがあるから!」
 その言葉通りの、強い一撃であった。ローカストは攻撃を受けて蹌踉めく。
「ただいま戻りましたっ。……って、もう終わりそう……?」
 そしてメイアが駆けつけたことで、勝敗はほぼ決した。メイア的に大事なヤギさん必殺技シーンを見逃したことはそれはさておき、即座に彼女は仲間達の傷を癒していく。
「これで……止めだよ!」
 ガルが走る。ローカストはそれを避けようと身体を動かした。しかし、
「ジャマーだけにお邪魔ーなんつって!」
「オタクは大人しく潰されてな! 俺の自宅に害虫はいらねぇってんだ!」
 クァンが蹴り飛ばしながらそれを阻んだ。巌もまた逃走を阻むように足元へと次々に銃弾を注ぎ込む。そして、
「唸れ螺旋! 猛れ餓狼! 我が螺旋の牙は、全てを穿つ!! 必殺・スパイラルウルフピアッシング!!」
 真紅のオーラで構成された全長3mの狼になってガルはローカストに突撃して切り裂いた。断末魔のような悲鳴が届いて……。そして消えていく。
「ほら、さっさと片付けて、あの子に話しに行こうぜ」
 それで戦いは終わった。巌は肩を竦めて言う。そんな風に気を遣っているというのに、「ま、砂子や高校生組の扱いはジョーに任せるが」なんて言うのが、ちょっと彼らしいところなのであった。


「良かった。えぇと……」
 戦闘後、簡単に部屋を片付けて砂子を迎えに行く頃には、テオドシウスはいつもの内向的な感じに戻っていた。なので泣きそうな顔で彼女の顔を見て、ちょっとおろおろする。もう大丈夫だよ、と笑いかけた。
「私、生きてます。皆さんも……」
「あぁ。本当に良かったのぉ。みんな無事で」
 成章はそれ以上言わなかった。砂子の生き方は間違ってはいないので、彼が口出しすべきではないと思っていたのだろう。
「若いうちはいろいろ悩むがええさ。うん」
 と軽く言うに留める。
「砂子さん」
 そんな彼女に優希は語りかける。目線を合わせて、ハスキーな……優しい声で。
「自身の本音を押し殺すのは凄い勇気がいる事だと思います。だけど、その自身の本音を一番理解して掬い取れるのも自分自身なんです。貴女のお蔭で沢山救われた人がいる様に……今度は、砂子さん自身が救われてもいいんじゃないでしょうか。もっと我儘になっていいんですよ」
 その声に砂子は言葉に詰まる。自分の想いを整理しているような間の後で、
「でも、それで喧嘩になったら……。いえ、我が儘になっても……良いのかしら……?」
 テオドシウスの言葉を思い出したのか、彼女が言うと、ガルもうん、と頷いて、
「難しい事とか分かんないけど、もっと主張してもいいと思うよ?」
 続けて何か言葉を言おうとするも、あんまり浮かばない。尻尾を丸く形作って、その方がご飯が美味しいし、と彼女も付け足した。
「お姫様。可愛い子に我儘いわれるとオジサンうれしいもんなんだぜぇ?」
 そんな彼女にクァンが続ける。
「物静かで優しく、しっかりしていて、困った時には頼りになるなーんて女がだよ? 俺に甘えてきたりしたらだ。もう空だって飛んじゃうよ! 俺、ウェアライダーだけど! だから! だから!」
 大丈夫だよってクァンは言いたかったらしい。それはもう精一杯。そうかしら、と彼女は微笑む。……微笑むので、
「愛らしいお姫様。この後俺と一緒に岩塩でもいかがですか?」
 これはいけるとイケヤギに見える角度を保ちながら岩塩を差し出した。
「え……えっと」
 困ったような砂子の声。ぴんと来てメイアが軽く彼女をつついた。
「さすがヤギさん。さぁ、砂子さん」
 なんて小声に、砂子も恐る恐るクァンの頬を両手で包み込んで、
「も、もう……。ばかっ。お断りします。こ、これで良いでしょうか……?」
「いや、違う……。待て。それも美味しいのか……?」
 戸惑うクァンに穣は微笑んだ。巌は宣言通り口を挟む様子はないようだったので、そっと砂子の目を見つめる。
「砂子さん。貴女は素晴らしい。でもまだ守られるべき存在だ。今は言いたい事を私に思う様ぶつければ良いよ。怖くて当然だし生きたくて当然だから」
「……はい」
 頷く砂子に、穣は窓の外を指さした。
「色々と言いたくなったら電話すると良い。色々と聞いてあげるよ。勿論文化祭も……。でもその前に、あそこから手を振って貰えるかな」
 君の大切な仲間が待っていると穣が言うと、砂子は思わず走り出した。そして割れた窓の外、身を乗り出すように遠い仲間達に向かって手を振った……。

作者:ふじもりみきや 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年9月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 8
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